それから、俺は仲間と相談しあった。連携のこと。相手の強さ。そして、この修業の意味について。
トドメのきつさについては、ツバキは思ったとおり意図に気づいていたようだが、他の二人は気づいていなかったようだ。そこからは改善点を洗い出した。障害物がある時の刀の振り方や、陣形。
以前は考えなかったことだ。敵が居れば全力で立向えばそれでいいと思っていた。しかし、それで済まない相手が居ること。そして地形や状況次第で、俺たちの力が上下することも分かった。刀という長物。狭い室内で意識したことはあるが、こういった森の中での戦闘についてはあまり考えたことがなかった。あとは、一対一ではとうてい敵わない相手に対し、4人という利点をどうやれば活かせるのか。つまりは、数の力について。最初は数で押し包む方法を考えることについて、3人共嫌がっていたようだが――――
「ハロー………そして、グッドバイ!」
「こんにちは死ね!」
「秘伝体術・千年殺しィィっ!!」
ばらばらに動いたせいで仮面マンを見失い、潜伏された後にそれぞれが死角から奇襲されてボコにされる方法を取られること3日。流石にツバキ達も4人が互いの意思疎通を取った上で連携し、力を合わせなければ無理だと気づいた後は、早かった。
特にリンジは「あの仮面野郎絶対に突き殺す千枚通しで穴だらけに~」と尻をさすりながら意気込んでいる。どうやらあの千年殺しは相当に痛かったそうだ。それと痔の薬をもらった医療忍者があの人だったのが関係しているのだろうか。あこがれの人だって前に聞いたような。
件の赤仮面はリンジが倒れた後、ツバキに変態よばわりされてちょっと凹んでいたようだが。まあ、流石に女相手にはやらんだろう―――ていうかやったら殺すつもりだ。むしろ手はすでに打ってある。まあ、ウナギの馬鹿に勘違いさせたまま口止めしているので、発動はこれから先の結果しだいとなるが。
あと、その日の翌日に何故かラーメン屋の店主のほっぺたに紅葉が張り付いていたがなぜだろうか。普段は超がつくほど仲がいいのに、何かあったのだろうか。
「おいマコト、聞いてるか?」
「ああすまん。それで、作戦についてだが………」
立案されたのは合計で4つ。
まずトクマは全員が蜻蛉の構えで突撃すればいいという。却下した。相手は怖がるだろうが、それで済むタマとも思えない。次はリンジ。追い詰めて突き殺せとマジ顔で言われたが却下。そもそも追い詰めるまでいけないんだから。ツバキはまともだった。でもまともすぎて、今までとそう変わらない方法だ。惜しい所までは行くだろうが、決め手がないのでは最後の線を越えられないだろう。
「じゃあ、マコトはどう考えてるの?」
「ああ、俺は………」
で、俺はこの三日間で煮詰めた作戦を説明する。
「これは………いや、確かにいけるかもな」
「ああ。相手は俺達より格段に強くて、速い………で、こちらも剣速を上げる必要があるんだ。なら、これが一番だろ?」
「確かにな………ある意味で慣れ親しんだものだし、剣速も上がるのも間違いない」
「また、別の作戦も思いついたんだけどな。そっちは卑怯すぎて、勝っても嬉しくないって思ったんだ」
「勝てば全て良し、とは思わなかったんだ」
「まあな。最低限の誇りがないと、やっぱり駄目だと思うんだ。叩きのめすことができれば方法は問わないとか、それオレの剣じゃないから。それと………もう一つ」
念入りに俺は説明をする。これは実戦で。それが故に、視点を変えなければいけないのだと。作戦の方法、そして肝となる部分を伝える。
やがて皆の意識がひとつになったことを感じると、立ち上がった。そして仲間と――戦友と、拳を軽くこづきあわせた。
「これで駄目ならまた別の作戦を考えるだけだ。まずはやってみるだけ………“諦めず揺らぎなく、ひとつ所に剣を傾けるなら、自然と刃は敵を討つ”………だろ?」
「………マコト、おじいちゃんの話、覚えてたんだ」
「忍者殺し、印殺しの英雄の言葉さ。忘れられないことばかりだろ。で、トクマもリンジも?」
「ああ、やってやるさ。とどめが俺っていうのも良いね」
「斬り込み役も俺のポジションにあってるしな。最後に勝てるのなら、問題はないよ」
そうして、決戦の時は来た。対する仮面はいつもどおりにそこに立っている。両手を降ろした、全くの自然体。最初はこちらを舐めているものだと思っていたが、実力を知って、そして考えぬいた末に分かった。
これは、この男の戦闘スタイルの一つなのだと。武器をもつ複数の敵と相対し、それでも回避に徹する場合の構えの一つ。なるべくは受け止めず、足さばきと体捌きで攻撃をしのぎ、当たる場合はクナイで受け止める。
つまりは、これは相手の練習でもあるということ。俺たちにつける修行と同時に、自分の糧ともしているのだ。それは余裕があるということの裏返しだが、今はそれも考えるまい。それぞれに構え、気合をもって敵を睨む。仮面の人は俺達の心構えの変化を察したのか、いつもより腰を落としていた。
(悟られないように打合せたってのにもう看破されたか………なるほど、この人は俺たちのことを舐めていない)
見ているのだ。油断なく、俺たちのことを見据えている。対する俺たちは、自分のことばかりだったことを思い知らされる。相手がどうとか考えず、ただ自分の役割を果たすことを考えた。でもそれは必死じゃなくて、いつもの日常のラインを保ったまま。いつもは話さないから、話さない。そんな調子で多くの時間を無駄にした。今から、その遅れを取り戻せるかは分からないけど―――
(一歩踏み出さなきゃ、変わるものも変わらない)
ましてやこの後に実戦が控えているなら尚更だ。腰を落とし、まずは合図を送った。
(長引けば不利。力量の差が歴然なら、一瞬に全てを注ぎ込むまで!)
「―――散開!」
合図と共に、全員が四方に散らばる。距離を置いて、相手を囲むこむ。以前も、この方法を取ったことがある。四方から囲み、斬りかかった。でもあっさりと避けられ、危うく同士討ちになるところで、焦った俺達は全員がすぐに叩き伏せられた。
(でも、今回は違う!)
考えが足りなかった。実戦形式と言われても、俺たちは考えなかった。そうだ、相手はこの強敵で。何が何でも、勝たなければならない敵なのだ。
ともすれば―――――手段を問う是非は無し!
すっと、右手で合図を送る。
同時、4人は鞘から剣を抜き。そのまま、刃の方を全力で仮面へと投擲した。
「―――なっ!?」
回転し、飛来する白刃。仮面の人は予想外だったのか、焦った様子を見せながら、唯一の回避路である直上へと跳躍する。投げた刀は、ちょうど中央でぶつかりあい、散らばった。2、3度練習しただけだが、うまくいったようだ。
そして俺たちは、宙に――――追い込んだ先に、次の手を打つ。投擲したと同時、俺たちは距離を詰めるべく走り始めていた。そのまま、鞘に隠した小刀を空中にいる仮面の胴体へ向け投擲する。
「くっ!」
空中で方向転換もかなわないだろう。予定どおり、仮面の人は胴体にせまる小刀を両手で打ち払う。
だが、既に次の準備は整っている。まずはトクマが、走る距離を助走に跳躍し。鞘にチャクラを纏わせ、渾身の一撃を振り下ろした。
「っ、チィッ!」
刀よりはるかに軽い。だが脳天に食らえば致命傷であろう、袈裟懸けの一刀―――しかしそれも、すり抜けられた。避けられたのだ。そのまま交差すると同時にトクマは手刀を入れられたようで、身体がぐらついたと思うと、そのまま地面へと落下していく。
(―――まだ予定通り!)
空中で取れる動作。常人ならばひとつ、この人は今までの戦闘を考えるに、3つ程度。
これで、最後だ。
「チェェェィ!」
「そこ!」
俺は袈裟懸け、ツバキは逆袈裟。交差する両刀は―――しかし、その両手のクナイに阻まれた。斬撃の軌道を瞬時に見切られ、瞬時に対応されたのは驚いたが―――それも想定の範囲内。かくして同じ、打ち込んだ鞘は弾かれ、仮面の人はクナイを捨てると俺たちに手刀を放った。首筋に走る衝撃に、意識が遠くなる。
(―――さい、ご、まで!)
意識を失う前に、と。俺とツバキが、打ち合わせ通りに。手刀を打ち込まれる寸前、相手に組みかかっていたのだ。
首筋に衝撃が走り、意識が遠ざかる。だけど、この手に掴んだ。
「っ、捨て身か!」
気絶しながらも、二人で掴みかかり、両手足の自由を奪う。そのまま落下し、着地と同時に、最後の一手が仮面に襲いかかった。
「お、おおぉぉぉぉおぉッッ!」
抱きついた俺とツバキ。身動きのとれない相手。そこにリンジが突進して――――俺とツバキの間に開いている空間に、突きを入れた。
かわそうにも身動きはとれまい。そして突きが、仮面の人の胴体へと決まったのを、俺たちは遠ざかる意識の中で感じた。
「合格! ………ですです。ごほ、ごほ」
「あの、咳に血が混じってますが大丈夫ですか? 医療忍者を呼んだほうが」
「鎖かたびら着込んでたから大丈夫。打撲だけだし、あと4、5分すれば治るから心配ない」
「なにそれ怖い」
そんな重いもの身につけてあの速度とか、ていうかそれでも衝撃徹ってるのに、数分で治るとか何者なのこの人は。
「いや、これ着てなくてクリーンヒットされたらいくらなんでも大怪我するから。皮膚で刀は弾けんから。で、まあ速さを抑えるいい重しになるし、調度いいと思ったんだ」
「はあ………それで、僕達は合格ですか?」
「うん、全員合格。文句なしだね」
「………実際にクリーンヒットを入れたのはリンジ一人ですが、それでも?」
「うん。全員が一丸となって、だからOK。それでこの試験の意味は――――もう分かってるようだから説明は要らないか」
「ええ。色々と分かることが出来ました。例えば………クリーンヒット、という言葉の意味をどう捉えるか、とか」
その言葉を聞いて、全員が思った。“刃を当てなければ意味が無い”と。でも実はそんなことはなくて、ただの鞘にチャクラをこめるだけで、人を倒す十分な武器になる。そこから―――事前情報から、色々と試行錯誤すること、先入観を捨てれば、手はいくらでもあるんだと気づいた。
4人にしてもそうだ。全員が生き残った上で勝つ方法を考えていた。実戦は演習とは違う。前提条件として、力量が完全に上の相手と対峙するというなら、4人全員なんて甘いことを考えていたら全員が無駄死にしてしまう可能性もあると。
「求めるは、相手に見合った――――自分たちの放ちうる最適の一撃を。つまりはこういうことですよね?」
「その通り。あとは――――ミフネ大将曰く、“自分達が手に入れた力を、それがどれほどのものかっていうのを再確認して欲しかった”とさ」
「え?」
「普通の人間は、鞘にチャクラをこめられない。普通の鞘で殴っても、人は殺せない。でもお前ら4人はそれが出来る。自らが鍛えた腕により、それが可能となった」
つまりはそこに転がっているような棒切れが、一本あれば。
そして害意があれば、人を殺せてしまうということだ。
「“自分の持つ力と、そして自分たちが今できることを自覚して欲しい”。それがミフネ大将からの伝言だ」
「………承りました。あとは………マコト?」
「ええ。もう一つ聞きたいんですが………もし、俺たちがルールには言われていない、実戦では有りうると―――助っ人を用意していたらどうでしたか?」
「それでもいい。どんな手を使っても、と言ったしな。それで俺に一撃当てれば合格だと言っていたよ。ウナギ丸がこの修業を受けたなら、まあそうしたかもな………人の手を借りて、壁を超える。それもありっちゃありだし」
あの野郎もヒントみたいな言い方でこぼしてたし、との言葉。俺は疑問に思ったので率直に聞いてみた。それは、間違いではないのかと。
「う~ん………一応は正解。でも、この程度の壁を超えるのに人の手を借りてちゃあね。この先の壁できっとつまずいて、死んでいたかもしれない。あとひとつは、どっちかって言うと忍者向きかな。俺の正体を探り当てて、日中に奇襲に出るのも手だった」
「あ………それもありですか」
「そういう手もある、ってこと。こんなルールにしたのも、事前に“壁”と言っていた意味も分かるだろ?ミフネ大将は“壁の越え方”ってやつも見たかったと思う」
「どんな手を使って壁を超えるか、ですか」
「そうかも。人間、切羽詰まったら性根が出るから。それで、どんな方法で越えてくれるか―――俺の思う限り、最善かつ最良の回答だったと思うよ」
偉大な人物。この世界では、偉大な信念のそばに在り、
「ウナギの言った通りにしてもねえ。結局全部は信じなかったんでしょ?」
「はい。正しいこともありましがた、少し納得いかない部分もありましたから」
「そうだねえ。間違えてるのも多くあったし」
「え、あいつとの会話の内容を知ってるんですか?」
「ま、あいつから聞いたよ。あいつ自身は正しいと思ってるようだけど、根本的に違う部分もあった。例えば、鈴さんの強さの理由についてとか」
「え、姉さんの強さ………才能じゃないんですか?」
「だけじゃない。あの人が天才で、だから短い期間に強くなった、ってことは違う。確かに修行期間の割には強いけどね。だけど、才能が根本にあるものじゃない。ウナギにしても、それを見極められないから悔しくて才能のせいにしてるんだろう」
「はあ………」
「ま、人の言うことでも間違えていることが多々あるってこと。鵜呑みにすればそれでいい、何て考えてたら後々まずいことになるかも。そういう搦手使ってくる奴は多くいるからね」
「自分で考えて突き詰めながら剣を振るえ、ってことですか」
「そう。例えば、自分達の力量と現時点での相手の力量を計って、3人を囮にしたこととか」
「それでも………真っ当な方法で。4人全員が生き残る作戦を考えられなかったのは悔しいです」
「……情報とか、前準備とか大事なんだな。いざ戦場でアンタみたいな化物に出逢っちまったら、って考えたよ。その日が来るとして―――どれだけ、事前に相手の知識を持っているのか。修行して自分を鍛えたのか、が生き死にを分ける」
「今度は、4人全員で生き延びられるようにがんばろう。まだ、遅くはないから」
「ええ………ところで、仮面の人」
「なに?」
「見たところ、貴方は私達とさほど年が離れていないように思えます。それなのに、その力量………一体どれだけの壁を越えてきたのですか?」
「………俺? 俺が乗り越えてきた壁っていうと、まあ――――」
仮面の人は指折り数えていく。
「代表的なものを言えば―――百戦錬磨なのに尻穴狙ってくるキモイ変態壁とか。殴ったはしから自己修復するメガネかけてる壁とか。壁というよりは山だったぽんぽこたぬきさんとか。『いつから俺を壁だと錯覚していた……?』を素でやってきそうなチート忍者(兄の方)とか」
まあこれはもう一人のチート忍者(弟の方)に任せたんだけど、と置いて。
「なんか森の中をうろついてた野良神とか。邪神合体“
むしろ魔王。わなびーいえい、と言いながらぷるぷる震えだす仮面の人。どうやらトラウマを直撃してしまったようだ。
「ほんとさあ……どいつもこいつも油断・即・死だし、馬鹿みたいな攻撃力持ってるし、殺意はハイオク満タンだし…………紙装甲っつーかろくな防御術持ってないこっちの身になれってんだよ畜生。胃が痛えよ忍びねえよクソが」
「そ、そんなに、ですか?」
「うん。ちょーっと瞬きの間をミスっただけでも、『シッショー!』ってなってたね。確実に」
「はあ………」
『シッショー!』なる叫びの意味は分からないが、断末魔っぽいような、情け無い声だからきっとそういう意味なのだろう。
「ともあれ、あんな壁はもう現れないだろうからね。というよ現れたらむしろ全俺が泣く。だから君達は君達の道を生きなさい―――間違ってもこっちに来るんじゃないよ?」
「はあ………でも、これ以上強くなるために必要なことでは?」
「普通にやってたら強くなれるよ。それにそんな天災級のトラブルに会うような奴なんて、多くない」
あっても困る、と一言置いて。
「義理は果たした。あとは4人が後輩達に指導してくれれば、俺もお役御免に―――――っ!?」
そこで仮面の人が固まった。ばっと、後ろを振り向いて止まる。間もなくして、何やらこちらに向けて走ってくる人物を発見した。
「ね、姉さん!?」
「鈴さん! とサスケ隊長――――って鈴さんなんで腰の刀に手を!?」
驚いている暇もない。直後、迫り来る黒髪の美女は鞘をを振りかぶりながら跳躍し、
「いきなり脳天っ!?」
仮面の人向けてふりおろした。仮面の人は瞬時にクナイを取り出し、受け止める。チャクラ強化された鞘と、鉄とがぶつかり合う音がした。
いきなりの凶行に、他の全員が硬直する。
「サ、サスケ! 説明!」
「昨日。お前。千年殺し。ウナギの説明が悪かった。勘違いしたイノシシ娘は聴覚を遮断。以上」
「あの野郎っ………土用の丑の日にしてやるッッ!!」
「その前にあなたの身体に剣の裁きを!!」
「割とおっかねえなこの人!?」
言いつつ仮面の人は刀を横に流す。直後に、流された剣が跳ね上がった。
「ちょいッ!?」
閃光のような一太刀を、バックステップで避ける。しかし追撃の振り下ろしが脳天に振り下ろされる―――その直前、刀は燕のように軌道を変え、仮面の人の右首筋へと迫った
「まっ!?」
しゃがみこみ、その一撃を回避できるのは流石だが、それで終わるはずもない、鈴さんはその場でくるりと回転。周り、正面に向き直るとほぼ同時に袈裟切りを放った。
だがそれを読んでいたのか、剣の軌道を見切り、クナイでしっかと受け止める。ガィン、と音がなり、しかし次の瞬間、
「っ!?」
衝突した剣が、ぽんとまるで鞠のように跳ね上がるのが見えた。わずかに振り上がった剣。それを加速距離として、剣がまた軌道を変え、今度は仮面の人の左脇腹へ鋭く落ちていく。
「すおっ!?」
腰を引き、胴切りを回避する、だが攻撃は終わらず。
「だから―――」
刀は空を切ったが、それも胴の寸前で止まる。切っ先にはみぞおち。
剣がそのまま突き出される、が。
「いい加減にしろっての!」
直前に仮面の人が剣を掴む。間髪入れずに剣を上下に振り、重心を崩すと同時、鈴さんの足を払い飛ばした。鈴さんは宙に浮かされたと同時に剣から手を放し、受け身をとると同時に転がり、仮面の人から距離を取り、脇差へと手をかけた。
「流石は鬼畜の忍者王………ここまで避けられたのはサスケ隊長とミフネおじさんぐらいです」
「それは光栄………で、話は聞いてくれる? あとウナギ丸は蒲焼にしてやる」
「でも、一太刀。後ろの貞操とやらを汚されたツバキちゃんのため、私は一太刀でも貴方に!」
「ってあなた言葉の意味分かってないっぽいんですが!?」
「まあ天然記念物だからなあ。分かってないだろうなあ」
「お、お姉ちゃん………!!」
必死な鈴。叫ぶ仮面の人。遠い目をして諦めるサスケさん。顔を真っ赤にして怒るツバキ。
一方で俺は混乱の極みにあった。後ろって、ちょっ、おま、ウナギ、てめ、勘違いしたまま。焦るが、場は止まってくれなかった。
再度斬り込む鈴さん。仮面の人は捌きながら叫んだ。
「サスケ、幻術を頼む!」
「とっくに試してる。でもまあ、なんつーかここまで自己に没頭されるとなあ。暴走止めようと間近で幻術かけても効きゃしねえ。多由也にはキス迫ってんのかいやなくても顔が近え、って怒られるし」
と、サスケさんはしょんぼり。眼がちょっと虚ろだ。
「ということで、何かショックを与えない限りは無理。なに、美人との斬り合いだ、めったにない経験だろ―――いっそ戦いを楽しむのもありかと」
「ちょ、帰ってきてサスケ君! ここはお前がどうにかするプロセスを希望!?」
「でもお前黒髪ポニテもけっこうタイプだ、ってこの前言ってたじゃん」
「それはそうなんだけど!」
「っ、隙ありぃぃい!」
「いやいや、ここは落ち着いて話を聞くセオリーだから!?」
変な言葉になりながら仮面の人が疾駆する。その速度は上忍以上かもしれない。だけど鈴さんも流石で、あっという間に追いすがった。
「あれ、あいつ動き鈍いな。何かつけてんのか?」
「はい鎖帷子を。それで、あの………サスケ隊長? あの、鈴さんの太刀筋についてですが………」
「ああ、あれね。俺も最初見た時は何かと思ったけど………言っとくが、あれ才能あるからじゃねえぞ?」
「え、ええ!? サスケ隊長も!?」
「まあ確かに剣の才能はあるだろうよ。でも、あいつのあの太刀筋は――――異様な集中力が成せる技だ。その分周りが見えてねえからプラマイ0だけど」
「集中力って……」
「見れば分かるだろう」
サスケさんは切り結ぶ二人を指差した。振られたかと思えばひるがえる。変幻自在の剣の軌道。しかしそれは、後の先を取る動きだ。一瞬の速さで切り捨てるのではなく、状況に応じて即座に剣筋を変える、奇抜にて奇才が故に振るえるもの。
「違う。面が無理なら一文字に。受け止められても、次の剣を。あれは常軌を逸した集中力だけがなせる技だよ」
「隊長でも無理だと?」
「無理だ。わずかな隙を見つけては打ち込み、“だけどそれでは絶対に終わらない”なんてことを前提に剣を振り続ける。馬鹿げた集中力で、どんな臨機に対しても応変する。神経が先にやられちまうよ。最も相手から見りゃ、変幻自在の意味不明な太刀筋に見えるから、有用は有用なんだけど」
「そんな………ことが、可能なんですか?」
「まっとうな人間じゃ無理だな。まあ、あれがあいつの過去の負債から来るものか――――」
サスケさんは皮肉げに笑った。
「これから先の未来を切り開く、資産となるか。そう考えるのも助けるのも、周りの人間次第だ。普通じゃないが、才能なんかじゃない。その理由を知っている者ならなおさら、本当は妬まれる筋合いも本当は無いはずなんだけどな」
「それは………」
「これ以上はどうも言わねえさ。でも、養子になった―――いや、なる前と、その経緯をしっているお前にはわかって欲しいもんだ。あと、頼むから暴走を止めるの手伝ってくれ。俺一人じゃ胃薬がもたんから」
「………はい。あの、隊長?」
「今の隊であいつを嫌ってるやつなんていないよ。何にしても一生懸命で一所懸命だ。侍らしいってあいつは笑ってたけど―――っと」
サスケさんがちらりと後ろを見る。
「今日は俺が止める。あっちから、怖いのが二人近づいているみたいだしな」
告げると、サスケさんは静かに鈴さんの背後に回りこむ。
―――しかし、ちょっとタイミングが悪かったようだった。
(埒があかんし―――紙一重で回避、交差で踏み込んで、腹に当身を入れて気絶させる!)
鎖帷子を外す間もない、とメンマは決断する。ちょうど振り下ろされる唐竹、正面からの面打ちをメンマはわずかに首を引くことで交わし―――
(ここ!)
踏み込む。面は地面を穿つだけ。しかし、切っ先は面へと確かに当たっていた。
ぴしりと線が入り、メンマの面が縦に割れる。
「なっ!?」
予想だにしなかった、面の下から現れた素顔に、鈴が驚き止まる。
そこに、援護をしようとしたサスケが飛び込み―――
「ちょ、いきなり止ま?!」
急に立ち止まった鈴の背中を押してしまう。
ドン、と押されて前のめりになる鈴。
メンマは面が割れてしまい、驚き硬直し。
――――そして、二人の唇が合わさった。
「!?!?!?」
「?!?!?!」
声ならぬ悲鳴。かたや、やっちまったと。かたや、初めての口づけに驚愕を。
すぐさま、ばっと離れる二人。たがいに唇を抑えたまま、顔を真っ赤にさせている。周囲の4人はといえば、面の下から現れた素顔に驚き、動けない。
サスケは、やっちまったと頭をかいている。しかし紫苑に言霊で誓言の術を使ってもらえればいいかと、そこまで思いつき――――
「えっ」
たった今。近くに、修羅が生まれたことを知る。
「な、なにこの殺気は………!?」
「ば、ばけものが………!?」
「し、死にたくない、死にたくない、こんな、斬れないって………!」
「こ、これはラーメン屋で感じた気と同じ………!」
4人はその“2つの殺気”にのまれ、動けない。
「バカヤロウ、早くここから逃げるぞお前ら!」
サスケが怒声を上げる。鈴とツバキ達4人が頷いた。
残されたメンマは、といえば―――――空を見上げていた。
「あの、その、小池の店主さん!?」
鈴が叫ぶ。だが、メンマは背中を向けたまま、サムズアップを返すだけ。
「―――ナイスキス。それに関しちゃ正直ソーリー申し上げる。でもここは任せろ‥……後から、必ず追いつくから」
むしろ歴代火影から説教うけそうになるけど、と心の中で呟く。
「で、でもこんな巨大なチャクラを、一人では………!」
「なに、足止めだけなら十分さ。あとは………別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「それ死亡フラグって言うんじゃねえのか? つーかお前にあの二人は殴れんだろ絶対
「へへっ、ちくしょう、眼が霞んできやがった………」
「おまえ戦う前から既に………あ、足が小鹿のように震えてる」
「世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだよ………」
「って、背中に手を回して歯を食いしばるなよ。覚悟が早えよ」
「いいから、先に行けぇ!」
叫ぶメンマ。あまりに必死な声に、従う全員。
最後に聞こえたのは、メンマの男らしき、そして誇らしき声であった。
「正直、役得でした――――!」
数秒して、サスケが呟く。
「メンマのチャクラが消えた………?」
「あ、『シッショー!』って声が」
許されなかったらしい。
―――後日、北の戦場にて。
「ええ、大丈夫ですよ。あの殺気に比べたらね。今目の前に展開してる妖魔なんて屁みたいなもんです、っと!」
「ちゃんと立ち向かえば、斬れる敵がいる。それって素晴らしいことなんだなあ………ふはは、分かたれよ怪生!」
「ああ、突いて突いて突きまくる! それが俺さ! え、噂の仮面の正体はって? 言えませんよまだひき肉にはなりたくありませんから」
「なにやら最近姉が家に帰ってこない。まる。早く終えて会いに行きたいので、申し訳ないですが死んでください」
見事に心をひとつに、そして油断もなにも一切無くなった若干16歳の侍部隊があったという。
彼らの活躍は素晴らしく、北の征伐ではちょっとした話題になったとか。
そして本拠地ではミノムシのように縛られ吊るされたラーメン屋の店主と、調子もいいが口も軽い見習い忍者の姿があったとか。