小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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後日談の6 : 日常

 

 

① 新しい結界術

 

「で、話ってなんだよ紫苑。こんな人気のないところに連れだして。そろそろ開店準備にはいらなきゃならんのだが」

 

「すぐに済む。なに、前に話していた新術がようやく完成したのでな」

 

「あー………神楽舞、だったっけ。印の変わりに足運びと手の動きでチャクラをコントロールするっていう」

 

「うむ。複雑な分、効果も大きくなる。代々伝わる仙術にアレンジを加えて、どうにか形にななったのじゃが、私には難しくてな。動きながら使うこの術は、ちと使い辛い」

 

「本末転倒な………涙拭けよ」

 

「な、泣いてない! 泣いておらんもんね!」

 

「蟹座乙」

 

よしよし、とメンマが紫苑のアタマを撫でる。

 

「ふん、一つだけなら使えるのじゃがな………あとは九那実に使ってもらおうかの」

 

「え、キューちゃんが使えんの? 普通の印を組んだ忍術は全部使えないって聞いたけど」

 

「保有チャクラが莫大すぎるからの。そもそも印というのは人間があみ出した、人間専用のチャクラ制御技術じゃぞ。その上、コントロールも拙いとあっては忍術が発動するはずもなかろう」

 

「まあ、純粋なチャクラコントロール技術は人間の方が上だからね………でも、その新しい方法なら?」

 

「使える。まあ、見ておれ………っと」

 

タン、と踏み出す足をスタートに。くるりとその場で周りながら、腕を水のように流れさせ、最後には中央で柏手を打った。

 

「これは………また見事な結界術だな。うわ、固え」

 

自分たちを包みこむ結界の壁をコンコンとたたきながら、メンマは驚いていた。結界の強度は馬鹿みたいに強固で、上忍の忍術をも寄せ付けないだろう強度があったからだ。閉鎖型の結界はただでさえ難しいというのに、メンマの顔が感心の色に染まる。

 

「遮断結界の応用でな。維持可能時間も強度も、以前の3倍はある」

 

「へえ、それはすご………え、3倍?」

 

「うむ!」

 

紫苑が胸を張る。

 

「時間も?」

 

「褒めてくれるな、惚れてもいいぞ?」

 

「いや、えっと………つまり、この結界の効果が切れるのは?」

 

「うむ、十五分後ということに―――――あ」

 

二人が硬直する。

 

「すぐに済む、って言ってなかったっけ………?」

 

これは説教やろなあ、とメンマは手をわきわきさせながら紫苑に近づいていく。

 

「う、うむ。ほら、人間は失敗する生き物じゃからの!」

 

じりじりと後ろに下がる紫苑。だが結界の壁に阻まれ、逃げることはできない。間もなく、紫苑の断末魔―――ではなく、笑い声が響き渡った。

 

「ちょ、そこ、やめ――――あはははは!」

 

「ここか、ここがええのんか!?」

 

容赦なくくすぐり回すメンマ。紫苑はこかされ、寝かされ、片手で完全に拘束されていて反撃もできない。それをいいことにくすぐりの勢いを強めるメンマ。紫苑の笑い声がさらに大きくなり、目には涙まで浮かんでいる。やがて紫苑が笑死寸前になったところでようやく、拘束を解いた。

 

「………っ、……っ」

 

紫苑は笑わされすぎて腹筋が痛く、息を荒くしながらもうつ伏せになったまま動けない。メンマはそれをドヤ顔でみおろし、やりきったと言わんばかりに手をパンパンとはたく。

 

「ったく、結界はすごかったけどお客さんを待たせるのはご法度………?」

 

 

悪寒を感じたメンマが顔を上げる。

 

―――そこには、金色の夜叉が居た。

 

結界のドームの頂上、頭上4mほどの高さで。メンマをしてめちゃくちゃ見覚えのある美女が結界に両手を張り付かせ、じっと中央の二人を見つめている。

 

「怖ッッッ!? ってキューちゃん!?」

 

声に反応し、夜叉―――九那実が、口を開く。だが結界に阻まれているせいで、音が通らない。

 

「げ、これ音も遮断すんのか。空気は通っているようだけど………」

 

なんちゅう不思議術を使うのか。めんまは寝転んでいる紫苑をジト目でみながら、どう説明したものかと、アタマをかく。ちなみに紫苑は横向きに寝転んでいた。笑いすぎて、顔が赤く、息も荒くなっていて。

 

―――途端、九那実から殺気が発せられた。

 

「ちょ、何で―――って」

 

(まて。この状況、傍目で見るとやばくね?)

 

人気のない場所。遮音結界。どう見ても事後です本当にありがとうございました、な様相を呈している紫苑。

 

で、今そっちに眼をやった。つまり、視線を逸らしたことになって。

 

ふ、と逸らしていた視線を元に、頭上に移す。

 

 

―――そこには、恒星のようなチャクラを右拳に籠め、今正に振り下ろそうとしている鬼夜叉の姿が!

 

 

「オッチャワーン 」

 

 

言い訳をする余地も無かった。直後、神の如き一撃が、光になれとの鉄槌が結界を完膚なきまでに破砕。同時に巻きおこった衝撃余波と轟音の濁流に呑まれた二人は吹っ飛ばされ、二人仲良く隣の川まで一直線に飛んでいった。

 

この後二人は仲良く正座させられて、酷く怒られたそうな。

 

「気配も匂いも消えて、本当に心配したのじゃからな!?」と涙目で怒るキューちゃんと菊夜、見事なたんこぶ二つをこさえられましたとさ。

 

 

「………割とよくある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

② とある木の葉の日常風景

 

「う~ん、一体どうすれば勝てるのか………」

 

木の葉の演習場の中、一人の少女が腕を組みながら悩んでいた。少女の名前は日向ハナビ。次期日向当主になろうかという、才媛だ。そんな彼女でも考えなければならないことがある。それはどうしても勝てない相手に勝つ方法を。三度やって三度とも負かされた、犬塚キバにどうやって勝利を収めるかということ。

 

「地の速度が違い過ぎるんですよね………」

 

今や上忍にまでなったキバの四脚の術による移動速度は本当に早く、移動速度で言えばあの体術特化上忍で有名なマイトガイやロック・リー以上と言ってもいい。

 

そんな速度で――――正面からではなく、側面や背面をつかれる戦闘をされたら、今の自分では対応しきれない。柔拳は正面で捉えて、はじめて威力を発揮する体術。背後を取られ、後方から襲われたとして日向の白眼ならば見えてはいるので、攻撃はそう当たらない。

 

だが、完全な対応もしきれないのだ。振り返った後に攻撃と、どうしても2アクションになってしまう。

 

「ネジ兄さんや姉さんなら回天で対応できるんでしょうけど………」

 

攻撃と防御を同時にこなす、日向の奥義"八卦掌回天"。ハナビはいまだ、それを完全な形で使いこなせないでいた。使えれば、どうにかできるだろう。だけど、今は無いものねだりをしている場合ではない。四度目の再戦は明日に控えているのだ。

 

―――その時、演習場にある樹の上からハナビに向け、声がかけられた。

 

「はっはっは、困っているようだねハナビちゃん!」

 

その人物は一言でいうと珍妙だった。白い面をつけながら、マントを風にたなびかせて腕を組んで仁王立ち。美しい金髪が風に揺れているがそんなことはどうでもいい。

 

背後に居る碧の女性が不憫だった。見るからに恥ずかしそうにこそこそと隠れようとしているところから、無理やりに連れてこられたことが分かる。

 

対するハナビの対処は、冷徹につきた。

 

「え、なにしてるんですか火影様………いいから、仕事してきてくださいよ」

 

「相変わらず短刀直入なすっぱりさんだねハナビちゃん! でも仕事はできないのさ、シカマル君が入院中だから!」

 

胸を張りながら駄目なことを断言する、面を外した女性はあらびっくり六代目火影こと波風キリハ。そんなことは関係ねえとばかりに、ハナビは追撃の手を緩めない。

 

「ああそうでした、姉さんから聞きましたよ。シカマルさん、一昨日間違えて火の実食べてしまって、ただでさえ弱っていた胃腸が完膚なきまでに破壊されたんで入院してるんでしたっけ。あと、間違えて入れてしまったのがキリハさんとも」

 

「ちょっ、黙っててって言ったのにヒナタちゃん!?」

 

まさかの親友の裏切りにキリハがおののく。

 

「むごいですよねー。ただでさえ胃腸薬常服してるのに、その原因がトドメさすとか。流石の私でもシカマルさんには励ましのお便りを出さざるを得ませんでした」

 

「う………」

 

ワンブレスで事実を淡々と言い切るハナビに、キリハがたじろいだ。

 

「で、お見舞いには行かないんですか?」

 

「行きたいけど、シカマル君ってば滅茶苦茶怒ってて出入り禁止にされているのさ! ミニトマトと間違えただけなのに!」

 

「何のテロかと思ったでしょうねえ。いや、食事テロですよ、食事テロ」

 

「顔見てくれないし、心配で仕事も手につかないし、もうどうしたらいいのか!」

 

「ぶっちゃければ?」

 

「じっとしてると色々考えちゃうので、フウちゃんと一緒に迷える子羊を救っている途中です!」

 

「"火の影は木の葉を照らす。空から"って連れだされた。眠いのに………」

 

「不憫な………」

 

後ろでため息をついているフウ。ハナビは頭痛がして、手で額を抑えた。そういえば最近、空中遊覧をしている二人が発見されたとかされなかったとか、そんな噂を聞いたことがあるようなハナビは何もかもスルーすることにした。

 

「それより本当に大丈夫ですか木の葉隠れ………まあ、いいです。アドバイス、あるんですよね?」

 

「よくぞ聞いてくれました!」

 

さっ、と瞬身の術でハナビに近寄るキリハ。無駄に早いそれにハナビは呆れながら、耳打ちされる言葉を待つ。

 

「………えっ、ちょっ、それは!?」

 

「おうおう顔赤いねーハナビちゃん。でも、これってばかなり有用なんだよ」

 

「と、いうことは………まさか実際に使ったことあるんですかッ!?」

 

「うん、子供の頃に一度だけ。二度と使うなって拳骨食らったのもいい思い出だけど」

 

「………よそでやってくださいよこのバカップルが。あなたシカマルさんと付き合いはじめてからキャラ違いますよ? アタマのネジがちょっと緩んだりしてませんか?」

 

「やだもう、ハナビちゃんのエッチ」

 

ばしんと叩かれる肩。ハナビは割と威力強めなそれと訳の分からない照れ言葉にイラッとしながらも、最後の確認を取る。

 

「本当に、これで油断を………いや、油断するのは分かりますが………」

 

「ハナビちゃん――――"女なら、やってやれ"だよ!」

 

「はげしく使いどころ間違ってますからっ!」

 

「日に日にキリハだ駄目になって………うう、早く帰ってきてくれシカマル………」

 

 

――――そして、次の日。

 

 

「さってと、始めっか」

 

「………よろしくお願いします」

 

「珍しく元気ねえな、大丈夫か?」

 

「は、はい」

 

「ならいいけどよ………でも、模擬戦もこれで最後だぜ? ったく、何度も挑んできやがってよ」

 

「負けっぱなしじゃ、引き下がれませんから。それに柔拳相手の戦闘は緊張感も高まっていい模擬戦になると聞きましたが?」

 

「お前の場合、ガチで内蔵取りに来るから怖いんだよ………ヒナタやネジはもうちょっと冷静だから助かるけど」

 

「一度も当たっていない人が言うセリフじゃありません。今日こそは、勝ちますよ」

 

気負うハナビに何かを見たのか、キバはゆっくりと距離を取り、構え、二人は対峙する。互いに武器ありで、キバの方は赤丸も伴っていない正真正銘の一対一。始まりの合図はない。間もなく、ハナビの視界からキバの姿が消えた。

 

「くっ!」

 

消えた姿を白眼でとらえていたハナビが、その場から飛び退く。背後から一撃を加えようとしていたキバは、死角からの奇襲の一撃を避けられたことになんの反応もせず勢いのままに駆け抜け、再び距離を取った。反撃に移ろうとしていたハナビの、手の届かぬ位置まで。

 

(く、以前と比べて一段と………やはり捕まえきれませんか)

 

回天ならばいなした上で吹き飛ばせる。体勢を崩した所に、追撃することができよう。だが、回天のないハナビは背後からの一撃がみえていても、それに対処するには"振り返って"、その上に攻撃を繰り出す必要がある。

 

迂闊な肘打ちや裏拳はさして効果もなく、不安定な体勢のままの一撃を避けられればまた反撃の糸口になってしまう。

 

ハナビも、正面から突っ込んで来れば対処する自信があった。だが、キバはもう昔の無鉄砲だったガキではない。

 

(鍛えた、んですよね―――三度目はないと)

 

ハナビも、キバが過去に二度、手痛い敗北を喫しているのは話に聞いていた。その後、必死に鍛えたことも知っている。下忍ならば視認することさえもできないこの速度は、その血反吐の結晶であることも。

 

(でも―――だからって、負けられない! もう背中を見ているのは嫌なんだ!)

 

負けたままでは引き下がれない。なにより、追いつかなければ対等に見てもらえない。だからと、ハナビは今日まで鍛えてきた。誇り高き狼のような姿で戦う、目の前の人物に見てもらうために。

 

(勝つ。そのための策は………えっと、策は?)

 

教わったことは一つ。

 

それは――――

 

 

(『お前が好きだぁ!』と言いながら突っ込む。ならば隙は出来る………っ)

 

色々テンパッたハナビの脳血管がぐるぐるまわる。

 

(正に外道。ううでも言えるかなあ。強いし馬鹿だけど最低限優しいし時々お姉ちゃんの胸に目がいってるときは点穴突きたくなるけどいやでも戦ってる時の表情は格好良いし馬鹿やってる時の顔もなんだかんだ言って好きだし)

 

まわるまわる。

 

(十尾にあの光景を見せられても、修行の量は変わらなかった。本当に強いこの人に、追いつきたい。でもこの機会を逃せばしばらくは会えなくなるだろうしここで切っ掛けをいやでもこれは卑怯っていうかううん忍者は裏の裏を読めってでもこれは違う裏じゃ?)

 

思考がまわる。まわる。あっちの方向へまわる。

 

(好きだって、好きだって、好き、だって………!)

 

やがて、結論が出た。

 

 

「言えるかぁぁぁぁ――――!」

 

 

いろんな意味で言えない。アタマを真っ白にしたハナビの、乙女の咆哮が響く。

 

――――同時に、ハナビの全身のチャクラ穴から密度の高いチャクラ流が溢れ出しだ。

 

「な、回天だと――――!?」

 

奇しくも、同時。拳を突き出していたキバが、回天のチャクラ膜にとらわれる。今の今まで使っていなかったそれに不意を打たれたキバは、ものの見事に吹っ飛ばされた。転がり、樹に激突してようやく止まる。

 

「………え?」

 

意図しないものでも一手返せたハナビが、混乱しながら左右を見回す。

 

「っ、やってくれるじゃねーか。まさかそれ使えるようになってたなんてよ………!」

 

「え、あの、いや」

 

昨日までは使えなかったのに、とハナビは混乱する。

 

「迷っているように見せたのも、策の内だったってことか………俺もまだまだだなぁ!

 

キバが、よろめきながらも歯をくいしばって立ち上がる。地面と樹にたたきつけられた衝撃は、速度のせいもあって、彼の身体にしっかりとダメージを刻み込んでいた。

 

「でも、まだ負けちゃいねえ………! こいよ、ハナビ!」

 

「っ………言われなくても!」

 

キバの正面からの視線を受け止め、ハナビが駆け出す。

 

 

「こうなりゃヤケクソです――――!」

 

 

「いい気迫だ、行くぜ日向ハナビ――――!」

 

 

やがて、戦う者二人は、再度戦いへと没入していった。

 

 

 

―――そして、その光景を樹上で見ている者があった。

 

キリハと、ヒナタである。

 

「ふふ、キリハちゃんもうまいね」

 

「…………まあ、ね」

 

「回天を―――全身からチャクラを発するためには、意識をよどみなく迷いなく一事に集中させることが肝となる。八卦掌回天の基本にして極意なんだけど、よく知ってたね…………って、なんでこっちを見ないの?」

 

つつ、とヒナタから視線をそらすキリハ。その頬には、汗が浮かんでいた。

 

「まさか………本当は考えなしにたまたま上手くいった、ってことじゃないよね? ないよね?」

 

目を伏せながら、ヒナタ。二人の間に地獄のような沈黙が流れる。キリハの額からは、汗がだくだく出ているが。

 

やがてキリハは、顔を逸らしたままでゆっくりと口を開いた。

 

 

「そ、そうに決まっておりますどすがな。いややわあ、ヒナタちゃん」

 

 

何処の人だお前、というツッコミが入る隙もなくヒナタはキリハの腕をがっしと掴んだ。

 

「ちょっと、あっちでお話ししよっか」

 

 

「いやー! っていうかそのセリフはヒナタちゃんって言うよりテンテンさんがアッ――――――!」

 

 

そんなこんなで、下の二人も決着がついていた。息を切らせ、脇腹を抑えながら立っているキバ。膝をついて、立ち上がることが出来ないハナビ。どちらも満身創痍。そんな中、ゆっくりと敗者の口が開かれる。

 

「今日も………負けました」

 

「ああ………でも、今回はマジでやばかった。立てるか?」

 

「いえ、首筋にいいのもらったんで」

 

膝に力が入りませんと、ハナビは悲しそうに笑う。キバはそんなハナビを見ながら、赤丸を呼んだ。

 

「あっちにいのとサクラが居るから、そこまで我慢してくれ、っと」

 

告げるやいなや、キバはハナビを横抱きにしながら、赤丸の上に飛び乗る。

 

「ちょ、キバさん?!」

 

「悪い、揺れるけどちょっとの間だから我慢しててくれ」

 

「そういう事を言ってるわけじゃあ――――!?」

 

「じゃ、頼むぞ赤丸!」

 

「ワン!」

 

 

風となって去っていく二人。

 

その後里じゅうの人に見つかり、色々とひやかされたハナビが顔を真っ赤にしながら爆発したとか、しないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

③ とある網の新人メンバー

 

 

俺の名前はウナギ丸。ご存知イケメンの超絶紳士だ。今日からは俺も、噂の組織"網"の一員。里のおふくろにゃあ、オトコを上げてくると言って飛び出てきた。本当は可愛い女の子がたくさん居るからなんだけど、まあ息子の嘘だおふくろも許してくれるだろう。

 

もう俺も18だ、嫁の一人も欲しいってなもんだ。でも村の女はいけねえ。俺のことをエロガキだなんだと、分かっちゃいねえ。パイタッチなんざ青春期にはままある行為だ。それを田舎娘は、分かっちゃいねーよ。でもそれを言った時のおふくろの顔は怖かった………いや、俺はあんな所で終わらないオトコ!

 

俺はもっとビッグになる。なれるはずだ。幸い俺は、生前は木の葉の抜け忍だったオヤジのおかげか、チャクラを使うことができる。

 

力も強く、自分で言っちゃなんだが容姿もいけてる。おふくろ譲りのイケメンフェイスで、可愛い嫁をゲットするぜ!

 

で、組織の受付で手続き済ませて、待っている時だ。どこからともなく、綺麗な笛の音が聞こえてきやがる。綺麗な笛の音=もしかしたら出会いが、という数式を解いた俺は、すぐさまその音が鳴る場所へと急いだ。

 

広場の外れ。その女性は、ガキ共が集まっているその中心に居た。笛の音で、ガキどもを完全に黙らせてやがる。普通、あれぐらいの年のガキは一つ所にじっとしてるもんじゃねーってのに。それだけじゃねー、顔も綺麗だ。腰まで届く長い髪は、後ろで一つに束ねられている。そして常人にゃあ分からねーだろうが、結構着痩せするタイプと見た。

 

そうこうしている内に演奏は終了。ガキがその女性(ひと)の元に集まる。赤い髪の嫁(予定)は、ガキのアタマを撫でながら照れくさそうに微笑んでいる。どうやら、自分のことを"ウチ"と呼ぶようだ。口調は普通の女とはちょっと違うが、それもまたいいアクセントを醸し出している。

 

「決めたっ!!」

 

ガキが散らばった後、俺は全力で赤髪のお姉さんへと駆け寄って、一言。

 

「へい、彼女!」

 

「あぁ? って、誰だお前。見ない顔だな」

 

「ああ、自己紹介からだね。俺、今日からこの組織に入るウナギ丸ってんだ!」

 

「あ、ああ。って、うなぎまる?」

 

「ああ。で、話があるんだけど………俺と、付き合ってみない?」

 

「――――ハァ?」

 

ぽかんとなる彼女。

 

「俺こう見えてやる奴だぜ? 絶対後悔させないから、付き合ってみない?」

 

「あー…………夏だからなあ」

 

脳までとろけたのか、と彼女は足元にある楽譜を拾い始めた。あれ、予想していた反応と違う?

 

「ちょ、待ってって。俺って真剣だから!」

 

「あー、はいはい。しんけんならもうちょっと段階ふもうなー」

 

まったく聞いちゃいねえ。ちょっとムカっときた俺は、一歩踏み出して肩をつかもうとして――――足元の小石につまづいた。

 

「あぶっ!?」

 

とっさにもう一方の足を出してふんばる俺。その時、付きだした手の先からなにやら柔らかい感触が。

 

「………へ?」

 

「お?」

 

見れば、俺のナイスハンドが赤髪の彼女の胸の丘の上に! ああ、めちゃ柔らけー。

 

「っ、何す――――」

 

途端に感じる怒気。俺は殴られると思って手を離し、平手にそなえて顔をかばった。

 

――――しかし、衝撃は斜め後ろから来た。

 

「ぶもぎゃっ!?」

 

訳のわからないうちに転がされる。後頭部に激しい痛みを感じた俺は、胸は悪かったけどちょっとやり過ぎじゃねえのと立ち上がり、一撃かました奴に文句を言おうとする。

 

――――が、それは出来なかった。

 

「サ、サスケ!?」

 

呼ばれた黒髪の野郎。その面は見えない。その男は目を伏せ、今まさに抜いて斬らんという、抜刀の構えを取っているからだ。

 

 

「さあ、お前の罪を数えろ………!」

 

 

――――そこから先は覚えていない。

 

ただ、必死で止めてくれた赤髪の女性は命の恩人であることをここに書き留めておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、えらい目にあった」

 

彼氏もちだったとは、残念だ。ていうかあの野郎殺気が半端なかったってレベルじゃねえ。まさか視線を合わせただけで死を幻視させられるとは。

 

「ああいうのを視線で殺すっていうのかなあ」

 

きっと網でも上位の実力者だろう。だが、5年後には分かんねーよ俺やっちゃうよ?

 

―――いや、今は嫁探しだ。素敵な網ライフを送るには明確な目的が必要です、って受付のねーちゃんも言ってたし。

 

そんな事を考えていると、女の声が聞こえた。声がした方向に視線をうつすと、俺より4、5歳下っぽい少女の集団が。軽く挨拶がてら話してみると、ここら辺に住んでる構成員の家族らしい。

 

「で、あんたは?」

 

「今日から組織に入ることになったウナギ丸ってもんだけど………へい彼女、何怒ってんの?」

 

「別に、怒ってないわよ」

 

「もう、ナズナさんってばまた小鉄さんのことでユウさんと喧嘩したの?」

 

「あ、あれはユウが悪いのよ!」

 

で、色々と話を聞いてみました。義妹と彼女が一人の男ってーか義兄を取りあっているようです。けっ、爆発しろ。

 

「あー、はは。すみません、ウナギ丸さん」

 

「あれだけど、おねーちゃん良い人だから」

 

「アレ、って随分ときついわねトリカ!?」

 

「ま、まあいーけどよ。って、君は?」

 

「あ、ホタルって言います。よろしくお願いしますね、ウナギ丸さん」

 

おお、ええ娘や。年は12ぐらいだけどよく見ればかなり可愛い顔立ちしてるし、何より胸部の辺りに大器の片鱗を感じさせる。その時、横から声がかかった。ナズナと呼ばれた少女だ。

 

「………あんた、ホタルのどこ凝視してんのよ」

 

「へ?」

 

「ちょっと大きいからって………! それよりあんた18でしょ!? それなのにホタルの胸を………この、変態!」

 

「展開と結論が早え!? ちょ、誤解だっつーの!」

 

「嘘言いなさい! あんたのような奴をロリコンっていうのよ!」

 

「聞けよてめえ!?」

 

それから、唐突に怒りだしたナズナと、ぎゃーぎゃー言い合いを始める。

 

 

――――だから、接近に気付かなかった。

 

 

「………ホタル、なにやってんだ?」

 

「あ、ウタカタさん。えーっと、」

 

「あの男の人は、ロリコンで」

 

「はぁ?」

 

「ホタルちゃんの胸をじーっとみてた」

 

「………分かった、後は任せろ」

 

そんな会話が聞こえたやいなや、俺は肩を掴まれた。

 

「よう、そこの。ちょっと話があるんだが?」

 

事務所に来てもらおーか、というのは幻聴だった。でも、そんな感じの気迫が伝わってくる。

 

(というか、何故か男の背後に巨大なナメクジみたいな白い物体が見えて!?)

 

ここは魔窟かっ、と心の中で叫んだか叫んでいないか、ってうちにその水色の羽織りを着た兄さんに連れてかれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、えらい目にあったパート2」

 

話せば分かってくれる兄さんでよかった。そうでなければ俺は今頃オヤジに会いに行っていたことだろう。ほんと、阿保みたいなチャクラを持ってる化物だった。今ならなんとなく里を抜けたオヤジの気持ちが分かるってもんよ。

 

「それでも、俺は諦めない! だって、彼女持ちは俺の夢だから!」

 

「よくぞ言った!」

 

途端に乱入してくる黒髪の男。さっきのウタカタの旦那もサスケってやつもそーだけど、ここはイケメンの巣窟かっ!

 

「で、俺に何のようなの変な鳥に乗って現れたイケメンのお兄さん。ていうかいつの間にか空の上なんだけど、コレなに」

 

「君に任務を与えよう」

 

「聞いてくださいお願いですから。あと地上に降ろして今日はもうお家帰るから」

 

あまりのイベントの連続に、次第に謙虚になっていく俺の気持ち。テンションはもうダダ下がりだ。

 

「この箱を、あの二人へ」

 

「あれは………」

 

視線の先。そこには、背も低くて童顔ででもごっつツリ目で可愛い女性の姿と、横に歩く金髪のけっこーイケメンな野郎の姿が!

 

「えっと、これを?」

 

「ああ、プレゼントだと言って渡して欲しい。送り主は告げずに」

 

「参考までに聞くけど………開けたら?」

 

「『ボン!』、だ」

 

爆発するかのように勢い良く、仕掛けの人形が出てくるらしい。

 

―――もちろん、断りました。

 

素直に帰してくれた兄さんは、どうやらあの後決行したようだが、その結果は誰もしらない。というか、知りたくもねえよ。

 

 

 

 

 

「うう、甘く見てたぜ………」

 

いろんなことが短時間に起こりすぎてアタマ痛い。そりゃちょっとはきついことや辛いことを覚悟してきたけど、方向性が180度違う。

 

「いや、でも明日からはきっと………」

 

今日はあてがわれた宿舎に帰って休もうかと、顔を上げた時。

 

―――――その先に、女神が居た。

 

美に神が居れば、こんな感じだろう。黄金という名に相応しいバランスを誇っている容姿は、一種の幻想のように思えた。なんとも言えない雰囲気に圧倒された俺は、動くことさえできない。その女神はただでさえ美しいというのに、それを更に際立たせるように流れるような動作で、美しい扇子を手に、舞を舞っていた。

 

俺は学もなく、小難しいことは分からないが、あの踊りが一級だってことは理解できる。だって鳥肌が止まらない。完全に、人間ができるような動きじゃない。余計な力も感じられない、全身の力を意のままに操っているかのよう。

 

それは川が流れのように自然に、風のようによどみなく。

 

全身で一つの形を表現していた。それは風、あるいは川。それは火、あるいは嵐。いろんな要素が混ざっていて、一つの形を示しているかのよう。

 

やがて、舞が終わって。俺は、一直線に女神のもとへと走りだした。

 

さっきまでの色ぼけじみた感情はない。ただ、美しいものを間近で見たいと思った。チャクラで足を強化して、全速力で迫る。振り返った彼女は驚き、焦ったようすで何かを言っている。両手を前に突き出し、押すようなジェスチャー。

 

 

――――そこで、俺は何かの壁に真正面から全力で激突。

 

意識が、黒に包まれた。

 

 

 

 

それから、何分気を失っていたのだろうか。気づけば後頭部に柔らかい感触が。

 

「え、っと………?」

 

「ようやく気づいたか………全く、馬鹿みたいに壁に向かって走りおって」

 

見上がれば女神が。

 

(ほんもの、か………?)

 

間近で見ても信じられない。ならば触って、と手を伸ばす。

 

―――その美しい胸と、桃のようなお尻に。

 

「っ!?」

 

あ、本当に存在した。ていうか天上の手触りなんだけどこれ。見れば美女は何が起こっているのか、思考がおいついていないようで、硬直している。なんかアタマの上に耳がぴこりと生えたり、片方の目が金色になっているが気のせいだろうきっとそうだ。堪能した俺は紳士的にすっと立ち上がり、拳を空に突き出した。

 

「我が生涯に一片の悔いなしッッ!!」

 

心の底から叫ぶ。

 

で、告げる。

 

「そこの赤髪の男! この女神の伴侶かっ!」

 

無言で、男は首肯する。

 

「ならば俺の名前を覚えておけ! 我が名はウナギ丸! 今日より組織“網”に入る新人! おして、お前の手から女神を奪い去っていく男だ!!」

 

拳を、男に向ける。膝立ちだった男は、成人男子の頭部の2倍はあろうかという岩を掴むとまるで綿を扱うかのように、軽く持ち上げる。

 

「新人さん、新人さん♪」

 

その顔は、笑顔だった。男は笑顔で―――――岩を、殺した。

 

「ここに、砕けた岩があるでしょ~?」

 

何やったのかも分からない、片手で岩を“こなみじん”に粉砕した化物が。

鬼は、笑って告げた。

 

 

「――――数秒後の貴様の姿だ」

 

 

 

 

後日、一人の新人が組織の予備戦闘部隊に配属された。その男は、泣いたり笑ったりできないぐらいきつい訓練を受けても、「女神のために!」と愚痴一つ言わずこなしたとか。

有用で、ついには他の里にまで名が知られるようになった。

 

しかし、男はラーメン屋の店主と部隊長のサスケには一生頭が上がらなかったという。

 

 

 


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