小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

126 / 141
後日談の2 : とある網の花火職人

 

 

 

○月×日。

 

唐突だが日記を書こうと思う。切欠は単純だ。上の妹であるナズナが曰く、「おにいは自己完結しすぎ。人の話をぜんっぜん聞かないし、思ったことすぐ口に出すし。嘘がつけないのはいいことだけど自分をもっと客観的に見てみたら?」とのこと。

心外だ。柄じゃないが、そこまで言われたら黙っていられん。自己を研究するために日記をつけざるを得ない。これも職人の極みの道へと繋がっていると信じて我慢しよう。きっとお天道様も許してくれるはず。かつての幼少時、俺に字を教えてくれた網の先生に感謝しよう。

 

ナズナが「槍が降るから!」とか言っているが気にしない。君が悪いのだよ。

 

ちなみに下の妹であるトリカは訳が分からないよという顔で首を傾げていた。あまりに邪気のない顔。かわええ。でも背景を思い出し、心が痛んだ。

 

 

○月△日。

 

日記をつけて二日目だが、何故か空がありえないほど黒い黒雲に覆われた。そんな、お天道様は俺の行為を許しちゃくれなかったのか。ナズナは「おにいがそんなもん書くから」と、まあ、うざいうざいドヤ顔をして胸を張っていた。と思ったら、数時間で晴れてしまった。なんかすごい風に吹き飛ばされたかのよう。不思議なこともあるもんだ。

 

ちなみにナズナだが、雲が晴れた直後なんとも言えない顔になっていた。無い胸張るから悪いのだ。ちょっとは下妹の同級生のホタルちゃんを見習いなさい。って言ったらどつかれた。言い過ぎたかもしれない。でも胸は無いことは譲れない。ザンゲツ様早く帰ってこないかなあ。

 

下妹は晴れた突き抜けるように青い空を見てから、かなりはしゃいでいた。黒から青へ、急激に変わったせいかいつもより空が綺麗に思えたからだろう。下妹も感情を取り戻してきているのだ。とてもすげえ嬉しいことだと思う。頭が悪い表現だと思うが、これは俺の率直な感想なのだ。

 

今日の仕事は久しぶりの花火作り。打ち上げ花火でも、一番小さい種類に入るものを作った。なかなかにいいものが出来たと思う。師事したての頃とは雲泥の差。本当に色々なことを教えてもらった。いまだに拳骨が飛んでくることもあるが、その回数はずいぶんと減った。修行は厳しかったが、やりがいのあるものでした。いかんなんか作文みたいになってる。というか師匠の授業というか実践を交えての修行風景を振り返ってみたが、実に無駄がなかった。

土木工事専門の発破職人だったのに、アイデアを聞いただけで。しかも独学でここまでのものに発展させるとは、本当に信じられない。まじですげえもんだ。きっと師匠自身もめちゃくちゃ勉強したんだろう。親方衆の中でも1、2を争う腕なだけはある。怖いけど、怒られる時は自分が悪いと納得できるものが多いし、改めてこの人のように成りたいと俺は思った。

 

暴発に巻き込まれてのアフロヘアーとやらはさすがに勘弁だが。

大親方はあの強面でお茶目にも程があると思う。

 

 

 

○月□日。

 

雲が晴れて一ヶ月。毎日つけると誓った日記もご覧の有様だよ。

 

今日ようやくだが、疲れた顔をしていたザンゲツ様の表情が晴れた。いつもの威厳に溢れた美人顔だ。赤い髪が美しい。そしてその威容もちょっと病みつきになるぐらいで。極めつけは素晴らしいぱいおつ。見るだけで日々の激務による疲労が癒されるってものさ。

 

ナズナの眼は冷たいが。なんだその毛虫を見下ろすような眼差しは。毛虫だって生きているんだぞ。あと日記が日記っぽくないと言われたが、それがどうした。ノリを否定するなよ貧乳。思い出は面白ければいいんだよ。小理屈に縛られてなんになる。細かい慣習に縛られているようじゃあ、面白おかしい大人にはなれないぜ。

 

それはともかくザンゲツ様と一緒に帰ってきたシンの兄貴も、最近になっては明るい顔を見せるようになっていた。サイも、シンの顔を見てため息をつく機会が少なくなった。

それとなくのフォローを繰り返しただけはある。この二人も実は血がつながっていない兄弟らしいが、それも関係ないのだろう。同じ村で育ったと聞いた。つまりは弟であって、戦友であり親友であるのか。男兄弟の居ない俺にとっては、少し羨ましい話だ。一緒に馬鹿をできるのはユウぐらいだが、あいつはちょっと違うし。

 

しかし、やっといつもの兄貴のように戻ったようで安心。

明日は久しぶりに"女の胸の神秘"について語るつもりだ。

 

 

 

○月◇日。

 

アジサイの姐さんにシンの兄貴ともども踏みつけられてから数日。てーかチャクラ使いマジ卑怯。蹴り足が見えないとか一体どういう速さなんですかねえ。きっちり手加減されてたから怪我はしなかったが、蹴られた箇所が妙に痛かった。兄貴は兄貴で念入りに蹴られていたけど。

 

仕事の方は順調である。見習いももうすぐ終了かもしれない。だが、そんな時に事件は起きるものである。火薬の原料採取からの帰り道、森の入り口で行き倒れた子供を見つけた。服はぼろぼろで、どうにも疲労困憊の様子。年の頃は7歳かそこらで、食料も水も持っていない。戦争から逃げてきたのだろうか。でも、ここらで争いが起きたとか聞いてない。

 

近所の学舎に通っているナズナに聞いたが、「知らないし、そんな噂聞いたこない」とのこと。怪しい、危ないかも。妹が言う。俺もそう思う。

 

だが、それはどうでもいい。ここで見捨てるのは、同じような境遇で網に助けられた俺達兄妹にはできないこと。それだけは、お天道様に顔向けできない行為だ。そのことを伝えると、いつもは生意気なナズナも。そしてまた話も分かっていないだろう下妹も頷いた。

取り敢えずこの行き倒れ小僧(仮称:太郎)をかくまうことにした。今は後ろの布団で横になっている。いざとなれば俺が身体を張ろう。それが兄貴たる俺の役目だ。幸いにも明日は休日。じっと見張っていることに決めた。

 

 

 

 

○月◆日。

 

一日開けて、また日が暮れてから太郎が起きた。思っていたより回復が早い。でも寝ぼけているようだ。

 

「なんで子供の身体に、うん!?」とか「チャクラが練れない、うん!?」とかうるさいぐらいに叫んでいる。つーかオレらのような一般人がチャクラとかいう訳わからん摩訶不思議な力が使えるはずなかろうに。

あと、うんうんとウルサイよチミ。食事中だぞこっちは。きばるならあっちでやりなさい。って言うとまた殴られた。“うん”というのはは口癖らしい。変な口癖だが、そういう子も居るのだろうと思った。しかし元気な子供だ。心配していた一つの可能性は消えたか。

 

その後太郎に関して考えてみた。最初は呟く内容にすわ忍者の子供かとも思ったが、忍者の血を引くのならばチャクラを練れないわけないので………ちょっと妄想が激しい子なのだろう、という結論に落ち着いた。

 

"その"心と思考に覚えがある俺に隙はない。少年よ、それは修羅の道だぞ。でも見捨てる訳にはいくまい。首領の意向に習うのは組織人ならば当然の務め。そう、網は全てを受け入れる。故にお前を見捨てたりはしない。

 

太郎にそのことを伝えると、よく分からない顔で頷いていた。生意気にも納得はしていないらしい。びみょー、という顔だ。ナズナが俺限定でだが、よく浮かべる表情だ。しかし太郎のあれな心が心配だ。でもきっと大丈夫。俺と同じく、月日と。そして容赦ない現実という名の日常が、じきに解決してくれることだろう。

 

太郎に幸あれ。

 

 

 

 

 

△月○日。

 

行くあてもない子供の太郎を、我が家で引き受けるようになった。このご時世だ、戦争の頃よりはましになったと聞くが、それでも身寄りのない力の無い子供が外の世界で、しかもたった一人で生きていける訳がない。施設に入るか、ここに残るか、朝食の時に選択を迫った。

 

そして夕食時には、家族は4人になっていた。渋々といった感じだったが。同じような経緯で家族になった両妹も文句は言わない。家系が苦しくなるが、どうということもない。幸い、最近仕事が急激に増えたこともある。死ぬほどしんどいが、実入りもいい。ナズナの件もあるし、長兄として根は上げられない。

 

あと太郎の名前だが、ダイダラというらしい。偽名くさいな、うん。でもきっと事情があるのだろうと思い、深くは聞かなかった。性根の腐った人間には見えない。俺の勘は当たるのだ。が、ナズナに言うと「ないない思い込み思い込み」と手をひらひらされた。おのれ貧乳。

 

しかしチビなのにダイダラとかどういう偽名だろうか。いや、きっと自分を大きく見せたいのだろうな。納得、と頷いていたらまた殴られた。なにゆえ。

 

 

 

△月△日。

 

下妹がホタルちゃんの事を気にしていた。なんでも、最近また元気が無くなったらしい。なので試作品である手持ち用の花火を見せてやった。親方達が本格的に作るような大玉のような爽快感はないが、夜の暗闇の中でやれば十分満足できる程には映える。

 

今日の夜に家に呼んで、近場の広場でやるか。後始末用のバケツも持っていかなくては。

 

 

 

 

 

△月◇日。

 

予想外の事が起きた。昨日の花火のことだ。当初の目論見どおり、ホタルちゃんを花火で励ませられた。それはいい。そこまでは、いいのだ。問題はダイダラが花火に興味津々すぎたこと。特にぱちぱちと放射状に火花を出す提灯花火(仮称)が気に入ったらしい。

 

仕組みに関しては親方達が研究したもので機密だから教えられんと答えたのだが、妙に食い下がってきた。梃子でも動かない感じなので、どうにも困った。どうしようか。明日は実習なので、いっそ親方衆の工房に行ってみようかと思う。

 

 

 

 

□月○日。

 

その時親方衆に電流走る――――ッ!!

 

今日の一幕でした。ダイダラの火薬類の知識に全員が脱帽。火薬の扱いについて討論していた所にダイダラが殴りこみをかけて、なんやかんやのウチに講義みたいになっていた。ダイダラ、なんでそんなに知っているのかという程に火薬、特に爆発物について詳しかった。あるいは大親方に匹敵するかもしれない。

 

てんやわんやの後で、何だか分からないが花火をいっちょ作らせてみよう、とかいうことになった。俺だってまだ一人では作らせてもらえないのに。ダイダラに嫉妬した。でも俺考案の提灯花火を見せると、褒めてもらえた。よっしゃ。

 

あと、デイダラが本当にすごい。ホメると顔を真っ赤にしてわめいていた。照れているのだろう。でも、反応が過敏に過ぎる。褒められるのに慣れていない様子。こんなに良い腕をしているのに、褒められたことが無いのだろうか。

 

 

 

□月×日。

 

ツレのユウが遠征から帰ってきた。こいつは絵を生業とするイケメンの同期で、何かと俺に絡んでくるホモな奴だ。いや「あいたかったよ」じゃねえよイケメンが。女みてーなツラしやがってよ。なんでその面で男が好きなんだよ。まともにやりゃあ、女なんてダース単位で作れそうなのによ。

 

という文句はひとまずおいといて、その後色々と話した。今更だし。会話の内容は、遠征先でのことや、新しく入った仲間の事について。なんでも、新しく入ったうちはサスケとかいうやつが、実働部隊の長に抜擢されたそうだ。木の葉隠れとの交渉役も兼ねているらしい。新しい体制のための布石とか何とか。サムライってやつらも網と同盟を組むらしい。力が大きくなるのか。でも無闇矢鱈には行使しないだろうと思う。組織の中には、力という理不尽に住処を追われた者が多い。それをすれば組織は瓦解するだろう。そのあたりの理屈が分からない首領じゃないし。

 

ちなみにサスケという人物について、ユウに「どんな奴?」と聞いたところ、俺も会ったことのある人だと返された。話を聞いて納得。あの有名なラーメン屋台一行の一員らしい。そう、赤髪の美少女楽師・多由也と一緒にいた黒髪のイケメン剣士だ。思い出し、俺は納得した。あいつなら心配することもないと思える。そういえばトリカの件で、改めてお礼を言いにいくんだった。もうすぐ戻ってくるらしいので、行ってみよう。目の保養にもなるし。

 

あと、鉄の国でちょっとした事件があったらしい。なんでも山が消し飛んだとか。っておい、ちょっと所じゃなくないか。いや、あははじゃねえよ。そうツッコんだが、ユウは笑っているだけだった。

 

なんだかんだで、一時間ぐらいは話した。言葉は相変わらずだが、喋り方は面白いので聞いてしまう。なんという拷問か。

 

と思ったら、小さい子どもが部屋に入ってきた。こいつも子供だがイケメンだ。今日はイケメン祭りかよ。それよりもこいつは男だ。もしかしてショタか。いかん、その先に進ませるわけにはいかない。一応こいつは幼馴染だ。ごく幼い時の一時期だけで、再会したのは網の中だったけど。変わってしまった友を、しかし見捨てることなど出来はしない。俺は友をこれ以上進ませないため、この場に止めるべく決死の説得にあたった。

 

後に誤解だと判明。遠征の帰路の途中、険しい峠の道のど真ん中で行き倒れていた子供らしい。ただ名前も何も話さないので、真之介と名付けたという。どこかで聞いた話だ。

 

と思ったら、ダイダラが乱入してきた。

 

真之介に「ダンナ!?」とか言う。その時俺はたしかに硬直した。すぐに正気に戻れたのは喜ばしいことだろう。

 

「旦那だと。太郎、お前もか!?」と、少年にしてオカマの業を背負おうとするダイダラを止めるべく、必死の説得に当たる。ちなみに一緒に居たナズナはきゃーきゃ言っていた。悪寒が走った。まて、そっちの道は阿修羅の道。俺は修羅になったお前なんて見たくないぞ。お前も一緒に止めてくれ、ユウにも言ったが、奴は面白そうに笑っているだけだった。役立たずめ。というか、何故に笑う。

 

それから、なんやかんやあった。結論から言うと、俺はダイダラと真之介の二人から殴られてしまったのだが。

 

「"アレ"と一緒にするな!!」らしい。二人の必死の、魂の叫びだった。しかし意味がさっぱり分からん。アレとは誰のことだろうか。ユウじゃないみたいだし。ちなみにユウにやっぱり君は君だねと言われた。ナズナとこいつにはよく言われる言葉だ。どういう意味なんだろうか。

 

 

 

□月□日。

 

真之介の本名はサソリというらしい。結構な名前だな。あと、ダイダラの本名はデイダラというらしい。あんま変わらんかった。それ偽名になってないぞ。二人は知り合いらしい。そして元は大人らしい。何故か身体が縮んでしまったとのこと。

 

…………あり得ん(笑)

 

きっと二人とも、強盗か山賊に襲われて怖い思いをしたのだろう。恐怖のあまり、心を病んでしまったのか。でも目の前を見つめなきゃいかん。現実からは逃避できないのだ、と必死に説得。

 

そう、網は誰でも受け入れる。お前達を見捨てることはしない。なのでサソリも此処に残るようにと伝えた。遠征を繰り返すユウについていけるわけもない。ユウはユウで援助金を置いていった。他に使うアテもないから、と言っていたが俺は首を横に振った。しかしあいつも頑固だった。他ならぬ君のためだから、とか何とか言っていたがお友達で勘弁して下さい。やめてよして触らないで尻を見ないで。

 

サソリの方はちょっと時間がかかった。小一時間の説得。最終的には渋々と、明らかに納得がいってない様子だが、何とか首を縦に振らせることに成功した。「身体能力も落ちてるしな」とかなんとか。いかん、この子もダイダラと同じ病気を。

 

ユウはさっきまた遠征に行った。またねと振った手の手首に傷跡があったが、見ないフリをした。変な気を使うのは俺らしくないのだが、それでも本人は隠しているらしいので追求はしない。できないと言った方がいいか。探られたくない過去を持っている奴など、網にはごまんと居る。だから過去を無理に穿り返さないというのは、組織の中では暗黙の了解で、いわゆる不文律となっている。だからあいつが言い出すまで、俺は聞かない。ちょっとは頼りにしてくれてもいいと思うんだが。

 

 

 

 

 

□月◆日。

 

昨日、職人の小屋の一つが半壊した。職人見習いの後輩がやらかしたらしい。本人の処分についてだが、原因が故意ではなく過失であるため処分は重くない。とはいっても不注意な部分もあったので、親方衆にこっぴどく怒られしばかれた。

処分としては軽い方だと思う。小屋の修繕を手伝うだけで済まされたのだから。しかし、二度やれば追放かも。最低限の規律しかないが、その分それを破った者には厳しいからな、網は。半端者は特に好かれない。真面目にやっていればこれ程に居心地のいい場所はないというのに。

 

小屋の修繕をだが、作業の監督は土木方の人達がするので、オレ達職人軍団は半休になった。珍しいことだった。というか半休になるのは初めてなのだ。せっかくなので、いつもはいけない例の店にいった。その店は見た目ボロいが味はヤヴァいという事で有名な店だ。網の古参方がよく利用するので俺達ぺーぺーは夜には入れないが。しかし昼は昼で空いているらしい(というか昼休憩に外に出れるようなヒマな奴はいない)ので、行ってみたという訳だ。

 

見た目は相変わらずのボロ屋だった。俺は苦笑しながら戸を開けた。

 

そこには、女神が居た。

 

まず見えたのは、頭巾の後ろからわずかに零れ外に出ていた鮮やかな黄金の髪。次に白い割烹着からわずかに除く、雪のような白い肌だ。整いすぎるという程に整った顔もまた、あれだ。ていうか言葉で表現できないよちきしょう。言葉は万能でないことを思い知らされた。見てください、としか言いようがないよ。

 

比較で表してみよう。激動の過去から今まで、それなりの数の人間に会ってきたが、アレほどに美人という言葉でしか表せない女性は見たことがない、といったぐらいか。亡国の王女とか、そんなものか。しかしやんごとなきといった雰囲気を醸し出している訳でもない。素性が気になる。あれだけの美貌なら、組織の中で絶対に噂になったはずなのだが。

 

こういう時は困った時のユウ頼み。素性に関してさっき遠征から帰ってきたユウの奴にきいた。が、素性は今のところ不明。年の頃は14、5ぐらいらしい。年下だ。しかし雰囲気がある女性と言える程のものをもっていた。均整の取れた体型も見事だった。胸が腰がの、特別どこかという訳でもない。割烹着では見える体型も限られる。しかしそれでなお、色気を感じさせるのはどういったことか。出てくる感想は綺麗のひとこと。俺はしばらく、というか帰るまでずっと眼を釘つけにされてしまったからなあ。

 

ザンゲツ様と同じく眼帯を付けていたのも印象に残っている。もう片方の目の瞳は赤かった。いつかの日の焼けるような夕陽を思い出させる。どこか物哀しさを連想させられるのは少し気になったけど。

 

しかし眼福だった。眼福すぎる。昼の事を思い出して書いているのだが、あの姿が目に焼き付いて離れない。昼飯を食べながらも、じっと見続けていたからだろうか。こうしてすらすら文が出てくるのは。穴が開くぐらいには、見たからな。胸の動悸が止まらない。胸が動悸でドキドキなんてつまらないギャグまで浮かんでくる。ああ、俺はもうだめかもしれない。

 

そんな事をつぶやいてくると、こちらを刺す槍のような視線。ふと振り返ると、ユウの眼が怖かった。上妹の眼も怖かった。その超弩級美人の売り娘さんの話をしてから、二人の眼から発する空気に物騒なものが混じっていた。

 

明日から、あの店にはヒマがあれば行こうと思う。

 

 

 

 

 

×月○日。

 

美人さんの名前を聞いた。姓なしで、名は九那実。店では昼に修行、かつ夜に出す料理用の仕込みをしているらしい。夜には家に帰るとのこと。何故かと聞いたら、「以前に酔っ払った客と一悶着があったからじゃ」と言う。詳細は聞かなかったが、なんとなく理解した。つーか普通、こんな美少女見かけたら口説くよね。つーか俺も口説こうとしているのだが、きっかけがつかめなかった。

 

料理も旨いし、しばらく通いつめて機を伺おうと思う。

 

 

 

 

 

×月△日。

 

昨日、サソリとデイダラと馬鹿騒ぎをした。頭が痛い。きっかけはユウが土産にと持ってきた酒。すごい銘酒らしくて、一升瓶まるごともらった。当然に飲む俺。ちょろまかす子供二人。しかし流石に子供の身体にはきつかったのか、一杯で酔っていた。その後酔った勢いで「なんで子供になったんだ」ということについて3人で議論した。

 

超チャクラによるうんたらかんたら、きっと神様が、とか。溢れる馬鹿理論。青春期男子特有の思い出いっぱい妄想いっぱいおっぱい大好きのやんちゃ理論ともいうらしい。

一緒にするな?正直すまん。

 

推論に推論を重ねた会議の結果、原因については三つにしぼられた。「自分の爆弾で身体の大半が吹き飛んでいたから」とか「肉の部分がほぼ無かったから」とか「ただの嫌がらせ」とか。いや前二つ、おい。どういう状況だったんだよオマエラ。子供だからかしらんが妄想しすぎ、と笑ったら向こうも笑った。あははとね。うん、きっと三つ目だろうとも。あと発破の試験爆破を見る時のデイダラの暗い顔や、トリカが人形で遊んでいるのサソリの暗い顔について聞いてみたら、二人とも驚いた顔をしていた。

 

その後、顔がふてくされたものに変わり、「見たくもない嫌なもん見せられたからな」とぽつり。ふむ、なんか思い出したくも無いほどに、凄い嫌なものを見せられたらしい。よく分からんが元気だせ。あとサソリにも「やりたい事があったら言ってくれていいぞ」と伝えた。こいつはきっと、言わなきゃ分からない性格をしているだろうから。

 

幸いにも今の"網"はそっち方面の技術開発にも意欲を見せてるからな、と説明すると「そうか」とだけ返事した。

 

 

 

 

×月□日。

 

九那実さんと少し仲良くなった。なんでも、俺が料理の感想を素直に返してのが嬉しいらしい。昼にも客が来るようになったのだが、世辞が多くて嫌になるとのこと。そんなものは必要ないとも。俺は嘘をつけない性質なのだが、それが幸いしたらしい。

 

あと、サソリがぱねえ。昨日に試作用の絡繰人形を貰ったのだが、今日にはもう完全に自分のものにしていた。一度、知人の人形師に見せてもらった時には不恰好でぎこちない動きをしていた人形が、まるで本物の人間のように動いていた。トリカがそれをじっと見ながら、無言で興奮していた。動く人形を眼でおっかけている様はまるで猫のようだ。

サソリもトリカの様子が面白いのか、無表情のまま右へ左へ上へ下へ人形を動かしていた。必死に追うトリカ。そして最終的には眼が渦巻になって倒れてた。無表情ながら倒れたトリカを見下ろし、ニヒルに笑うサソリが面白い。

 

 

 

 

×月◆日。

 

雲ひとつない、快晴な一日。最近忙しいせいでろくに日記をかけていない。しんどい。

でも昼食を取った後に、店の前でいいものが見られた。食べた後、見送ってくれた九那実さんだが、空を見上げていたのだ。何となく振り返った先には、絹のような金色の髪が横に流しながら、空を見上げる金髪の美女。顔を前髪がかくして、瞳が少し隠れて。何も言わずに青い空を見上げるその横顔が、壮絶に美しかった。儚げな表情が、元の美貌を更に際立たせている。土木方のおっさん連中なら押し倒してるんじゃないか、これ。

 

でも本当に悲しそうだった。瞳には何処か悲しい色が含まれていて、何処か話しかけられない雰囲気も漂っていて。じっと観察して気づいたのだが、眼も赤かった。里帰りしたと言っていたが、何かあったのだろうか。悲しいことを思い出したのか。

 

しかしその顔は美しく、ずっと見ていたいという気持ちと。あまりに悲しそうなので、見ていたくないという気持ちが湧いた。でも踏み込めない何かを感じた俺は、そのまま何もできなかった。その場から立ち去ることしかできなかった。

 

 

 

 

◆月○日。

 

九那実さんが屋台を出した。店の名前は「九尾狐」。最近、一部で持ち上げられている神獣だかなんだからしい。それにあやかったのかと聞いてみたら、違うと返された。「あいつが見つけやすいように」、らしい。

 

俺には意味がわからなかったが、隣に居たシンの兄貴は分かっていたらしい。なにやら暗いような、嬉しいような、よくわからない顔をしていた。ていうか待ち人が居るのかよ。どんな奴かは知らないが、よくもまあ九那実さんみたいな人を置いていけるもんだ。そいつはきっと超弩級の馬鹿か、浮気癖のある阿呆だろう。

 

と、そこで九那実さんが笑った。どうやら今の考えを、口に出してしまっていたらしくて、シンが引きつった顔をしていた。どうやら“そいつ”とは、二人の知り合いらしい。ちなみに九那実さんは人物評について、「否定はせん」と笑っていた。

 

そうだ、笑っていた。でも、泣いていたようにも見えた。眼帯を抑え、何かの感情をこらえているかのようだった。信じて、待っているのだろう。その間に、俺は入り込めないと悟る。ずっと、そいつを見ている。こちらには、振り返らない。その結論を、俺は理屈ではない何かで理解した。

 

その日、俺は失恋した。

 

 

 

 

◆月△日。

 

頭が痛い。失恋のやけ酒に、ユウとナズナを付き合わせたのだが、調子にのって飲み過ぎたか。二人も酒の空き瓶が散らかるテーブルの横で昏倒している。今日が休みでよかった。でも二人を付きあわせたのはまずかったか。

 

反省の意味をこめて、ここに書こう。でも、ん?

 

ユウが寝ている。薄着になって。何か違和感を

 

 

 

 

 

○月×日。

 

随分と間が空いてしまった。前の日記は妙な所で途切れている。それだけ、それどころじゃない事が起きていたのだが。色々とあったからな。本当に、色々とあった。そうとしか言えないぐらいに。ユウは、遠征に出たまま帰ってこない。とりあえずは仲直りしたいが、どうすればいいのか。どう接すりゃいいんだ俺は。どの面下げてあいつと会えばいい。

 

 

△月○日。

 

遠征に帰ってきたユウと仲直りした。過去も全て聞いた。泣いているあいつを、俺は抱きしめることしかできなかった。気の利いた言葉の一つもやれない自分が恨めしい。でもそれが良かったのか、徐々に泣く声は小さくなり、最後には笑顔を見せてくれた。

 

「改めて、友達から」

 

過去の全てを俺に告げ、それでも笑ったあいつの顔は成程、女性のものだと思った。魅力的な笑顔だと思う。隠していた事情と、その原因がわかるというもの。犯人は死んだらしいが、聞かされた内容のことを思い出す度、腸が煮えくり返る。

 

もし生きていたら、俺はどうしていたか分からないな。そんな事を考えていると、デイダラとサソリに「似合わない顔をするな阿呆が」と怒られた。見たことのないほど、真剣な表情だった。

 

あと、何故「男が好き」なんて吹聴していたのか、たずねたらユウは顔を真っ赤にしながら遠い目をしていた。俺の鈍感と愚鈍と、ナズナの複雑な心と、それらが混ざり合って更に誤解が振りかけられた末の結果、らしい。

 

って上目遣いはやめてくれませんかユウさん。女ですがな。綺麗ですがな。何かモヤモヤしますがな。

 

 

 

 

□月○日。

 

まとまった金が入ったので、家族とユウを連れて九那実さんのラーメン屋にいった。そこには先客が居た。サスケと、サスケの兄だという人。その二人は先にラーメンを食べていたのだが、デイダラとサソリを見るなり盛大に吹いた。鼻からラーメンの汁が。麺が屋台のテーブルにぶちまけられ、九那実さんは汚いと大激怒。

 

反応が、ちょっとアレだった。もしかしてデイダラとサソリを知っているのか。二人を見ると、あり得ないものを見る眼をしていた。サスケと兄の鼻から出るラーメンも含めて。その後、二人は本部へと連れて行かれた。九那実さんは二人をよく知らないらしく、終始首を傾げていた。

 

連れて行かれた二人は、数分後すぐに戻ってこれた。俺もいろいろと口添えをしたのが効いたのだろうか。二人についてのこと、一部分だけは昔、親方衆が先にザンゲツ様に話していたらしい。が、その詳細は奥の部屋で話していたので、俺は聞いていない。

概要だけは聞いたが、理解ができない。「チャクラの質が違っている」とか、「肉体年齢的に同一人物と証明できない」とか。

 

ビンゴブックとか言っていたが、ビンゴゲームをする時の用紙が束ねられた本の事だろうか。忍者に関係があるらしいが、さっぱり分からん。もしかしてビンゴゲームが好きなのか忍者。サイにそうたずねると、「お前は何を言っているんだ」という顔をされた。相変わらずこの弟は変な所できつい。

 

あと、知り合いっぽいサスケが、デイダラとサソリが此処に居ることを知らないのは何故か。ザンゲツ様に問うと、とある証明と関係各所への根回し、そして特定人物への確認に時間が必要だから、取り敢えず黙っていたらしい。

 

だが問題は解決したとも言っていた。二人は驚いたまま、黙って頷いていた。俺も頷いた。ナズナがラーメン食べにいこうと言った。トリカが笑った。それでいいと思う。語られない過去は聞かない。少なくとも俺達には必要ない。

 

生意気で、口の悪い。でも花火という芸術に関しては誰よりも真摯に、一生懸命で。頼めばある程度のことは聞く。芸術の事を褒めれば、太陽のように快活に笑うデイダラ。

無表情で、面倒くさがり。でも悪態をつきながらやる時はやり、時折はしゃいでいるトリカを見て、口の端だけで笑顔を見せる。職人も真っ青な集中力で、ただ何かを確認するように、人形を繰るサソリ。

 

そんな、二人は二人で。危険もなくなったというし。

俺とナズナ、トリカにとってはそれでいいと思う。

 

 

 

 

□月□日。

 

ユウとデイダラ、サソリと芸術について討論した。俺とデイダラは花火、つまりは一瞬で咲く、つまりは昇華の後に霧散する美を。ユウとサソリは、いつまでも形として残る美を。互いの意見を押して圧してへしあって、気づけば怒鳴り合っていたらしい。

 

ウルサイとナズナに怒鳴られた。トリカが泣いていた。トリカが泣くのは久しぶりだ。どうしていいのか分からない。あのサソリでさえも混乱している。

 

その後、“出来るだけしません”という誓約を結ばされ、俺達4人は反省した。

“二度と”というのは誓約できなかった。また争うことになりそうだから。

 

あと、復旧作業の方はかなり進んでいるらしい。土木方の仕事についている同期が、やっとここまで来れたとぼやいていた。

 

 

 

 

□月×日。

 

家の中、多由也さんを混じえて再度、芸術について討論した。最終的には、「記憶と思い出とそれに付随する感情と感慨」という視点で見れば、絵も花火も絡繰人形も音楽も変わらないじゃないか、ということになった。大切なのは、見る人の感情をどうやって動かせるか。即ち、感動させられるかだと。

 

しかし表現方法が違う。その段階で、また揉めそうになった。トリカの泣きそうな顔を見て全員が正気に戻ったが。

 

ちなみにトリカは多由也の事が大好きらしい。抱きつかれて真っ赤な顔をしている美少女は見物だった。口は悪いがもっぱら優しいと評判の彼女は、その通りじっと困った顔をしながらトリカの頭を撫でていた。きっと良い母親になることだろう。あのサスケが彼氏らしいのだが、羨ましいこって。

 

もげればいいのに。

 

 

 

 

□月◆日。

 

ユウと一緒に、久しぶりに外に出かけた。本部より少し離れた街だ。そんな中、サスケと多由也さんの二人がデートしている所を発見。なんか、こう、熟年の夫婦のような、二人で居るのが当たり前な空気が。その背後では、眼鏡をかけた赤い髪の女がハンカチを噛んで泣いていた。カリントウとかいう人だったか。あと、桃色の髪をした見慣れない女性も一緒だった。彼女は背後に鬼神を携えていた。なにこれ怖い。

 

でも見つめる先は、多由也とサスケの二人。手はつないでいないが、つないでいる以上の“何か”を感じる。あれか、手は繋がなくても心がつながってるとか、そういうのか。

 

くそ、モテモテ野郎め。ちょっとイケメンだからってよう。いや、性格も悪くないと聞いたからそりゃあモテるか。でも何か悔しいので、近場に居たサイ、シンの兄貴と合流し、「末永く爆発しろ」という言葉を投げかけて逃げた。

 

 

 

 

 

×月○日。

 

色々あった。本当に、色々と。辛かったことのほうが多いが、良いこともわずかにあった。そんな中で、とびきりの朗報が。今度の秋祭に使う花火だが、俺も数個だけ作っていいと言われた。卒業試験みたいなものらしい。デイダラも作ると言っていた。

 

何やら土の国だかの大名やら、護衛の偉いさんも見に来ると聞いた後、「絶対に作らしてくれ。むしろ作る、うん」と親方衆に宣言したらしい。頼むのではなく、作ると言い切るのがデイダラらしい、うん。怒られるかと思ったら、「てっぺん目指すならそれぐらいの気概が必要だ」と、大親方は笑っていた。つくづく懐の大きい人だ、うん。最低限の礼儀がなっていないと殴られたが。うん、でも大分マシになったからいいよね。

ってえ、口調が移ってるよ畜生。

 

もう片方、サソリはサソリで、人形を繰る技術だが、とんでもない域に至っていた。糸で動かせる試作の絡繰人形をまた貰って、それをトリカに見せていたのだが、どう考えても人間業じゃない。傍から見ても以上。一人しか居ないのになんで3体も同時に、しかも別々の動作を見せているのか。つーか足で人形操ってしかも違和感ないってどんだけー。

トリカは興味津々⇒おおはしゃぎ⇒昏倒した。両眼にはくるくる、頭からは湯気が。前の経験が活きていないようだ。動きが複雑な分、昏倒具合もすごい。

 

しかし嬉しそうなので止めようとは思わない。出会った頃は無表情で無感情だったあの娘が、ずいぶんといい方向へと変わってくれたものだ。これもあの多由也という奏者のお陰だろう。あれから、少しづつ感情を取り戻してきたのだから。改めてお礼に行くとするか。サソリの奴も、トリカの無邪気な仕草に引っ張られているようだな。最初は人形のような奴だと思ったが、随分と人間臭くなった。

 

人は一人では変われないが、自分ではない誰かと居れば変われるのだろう。

 

 

 

 

 

×月◆日。

 

明日はいよいよ秋祭。万が一の時の消火班も統制が取れているので問題ないとのこと。

結界のスペシャリストも居るらしい。もしかして土木方の同僚が騒いでいた、噂の紫苑姫とその従者か。

 

花火だが、良い物に仕上げられたと思う。デイダラが考案した型の一つであるこれは、宙で爆発すると全方位に等しく散らばるらしい。こうすれば、どの角度から見ても同じ“華”を見せられるのだとか。つまりは、より多くの人達に自分の芸術を見せられるということ。「あのじじい共に目にもの見せてくれるぜ、うん」とはしゃいでる。誰か知り合いが来るのだろうか。誰か知らないが、きっとその人物は驚くだろう。それだけにデイダラの技術は凄い。しかし、俺も負ける気は無いが。

 

サソリは一人、祭場の隅にあるスペースで一人、人形劇をやるらしい。助手はトリカ。サソリに教えてもらったらしい。どんなものになるのか、俺はとデイダラは花火の用意があって、また別の事で時間が重なってしまって観にいけないが、成功するといいな。

 

仕事の後の祭も楽しみだ。ユウとナズナと、久しぶりの3人で祭を回る約束をしている。サソリとデイダラは遠慮した。デイダラはニヤニヤと笑っていたが、なんで笑っていたのだろうか。ユウとナズナが「祭の後で大切な話があるから」と言いながら頬を薄く桃に染めていたが、それと関係あるのだろうか。

 

分からんが、まあいい。俺は俺の気の向くままに生きていこうと思う。難しいことを考えても分からんし。

 

明日の祭の準備がある。朝が早いし、もう寝よう。

 

不安だが、大丈夫だ。ユウも、ナズナも、トリカも。デイダラも、サソリも。

 

 

きっと全てがうまくいくと、そんな予感がしているから。

 

 

 






あとがき

結末はご想像にお任せで。

端的に表すと「めでたしめでたし」。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。