小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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19話 : 退けない一線

 

 

「な、この気配は………!?」

 

「これ、城がある方角だぞ!」

 

「何かが爆発する音も!」

 

唐突に湧きでたというには、あまりにも大きすぎる気配。宿場町に集まっていた手練の忍び達は、動揺を隠せないでいた。

 

そんな中、動く者たちも居た。

 

「あ、キラービー様どちらへ!?」

 

「雷影様の………くそっ、オモイ!」

 

「分かった………嫌な予感がするけど、仕方ないか」

 

即座に動いた者に、追従するもの。

 

 

「白さん、いったい何処に!?」

 

「再不斬さんが居る場所に。長十郎さんはどうしますか」

 

「ぼ、僕は………!」

 

「………待っている暇もないので、すみませんが、お先に失礼します」

 

譲れない場所へと向かう者、迷う者。

 

 

「キリハ、これが例の!?」

 

「十尾………らしいね、シカマル君。これほどとは思わなかった、けど」

 

「あいつは……いや、考えている暇はないか………各自編成を組め! 罠があるかもしれないから分散して城に向かえ! 火影様達の援護に行くぞ!」

 

ケガを押して出てきた者、やるべきことを見据え実行に移す者。

 

 

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………マダオ氏。なんか、城の天井から黒いものが吹き出てるんですけど?」

 

『閉鎖空間で待ち伏せか、戦術としては鉄板だねぇ。でも中に入ったらその時点で詰むよ………どうする? 当初の目論見はものの見事に外れたけど』

 

「うん、豪快に外れたよな。まあよくあることだし、仕方ないか………プランBに変更だぜ、マダオ」

 

『ああ? ねえよんなもん』

 

『『「おい」』』

 

『というのは、冗談として、了解だ。機を見逃さないでね。下手すると五影にたこ殴りにされるかもだけど』

 

「そうなったら骨も残らねえな………分かった」

 

 

―――機を伺う者。

 

世界の行末を決めるに足る者たちが今、動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちてくる天井と十尾を前に。しかし五影達は動じず、脱出をはかった。

 

「シズネ、カカシ!」

 

綱手は自らの怪力で、壁をぶちやぶり。

 

「カンクロウ、バキ!」

 

我愛羅は硬質の砂礫弾で壁を壊し。

 

「再不斬、青!」

 

照美メイは、再不斬に大刀で壁を切り裂かせ。

 

「黒ツチ、赤ツチ!」

 

オオノキは塵遁で壁を微塵に砕き。

 

「シー、ダルイ!」

 

エーは自らの拳で壁を粉砕した。

 

脱出した皆は各々、そのまま外へと逃れようとした。だが出口へと続く道の尽くが、黒い影に阻まれていて脱出することはかなわなかった。幾人かは術を使ってその障害を吹き飛ばそうとしたが、いくら吹き飛ばそうともいずこからか現れ道を塞ぐ黒い泥を見て、強引に突破することを諦めた。先回りされていない方向へと走る。走る。走る。

 

人影のいない廊下を走るうちに、道端に転がる空の鎧を見た。きっと、護衛を語っていた偽侍、黒い人形のものだろう。してやられたと痛感していた一行は、それでも足を止めず出口を求め走っていく。

 

「風影殿!」

 

「………そっちもか、火影殿」

 

道すがらばらばらになっていた者たちはいつしか合流していく。外郭を求め走っているつもりが、黒い化物が居ない方向へと走っていくうちに内へ内へと走っていたようだ。

 

――――誘導されている。

 

全員が気づいていたが、どうしようもないと思っていた。大きな術を使うには足を止める必要があり、だが足を止めれば即座にやられる。壁のあちこちから染み出る黒い泥は最早出来の悪い悪夢のようで、誰も触れたくはなかったのだ。

 

そうして、数分後。いつしか15人、合流した一行は、城の中にある一際大きな広場にて集まることとなった。

 

そして必然的に、終着点には会談にいた16人目が居た。

 

「遅いぞ、またずいぶんとはしゃぎ回っていたな」

 

「ペイン………!」

 

軽口にも付き合わず、綱手は舌打ちした。他も同様で、皆鋭い視線をペインに叩きつけている。

 

だが、動けない。

 

蠢いている十尾もあろう。だが、忍び達は目の前の人物こそを警戒していた。なぜならば、違うのだ。怒りと意志に満ちていたチャクラが、今は別人のように変質していた。

 

それはまるで大海のように。ペインの身体からは、問答無用で引きずり込まれそうな何かが放たれていた。迂闊に飛び込めば、即座に底へと引きずり込まれるだろう。忍者達は間合いを計りつつ、飛びかかる機を伺っていた。

 

「………やる気はあるようだな」

 

「当たり、前だろうが」

 

仕掛けてきたお前が何をぬかす、と再不斬は背負った大刀の柄を握った。だがそれを見てもペインは動じず、じっと黙っていた。集結する錚々たる面々を見定めるように見回し、告げた。

 

「壮観だな………だが、時間もない」

 

手早く済ませるか、と。手を上げた途端。ペイン以外の全員がその場でたたらを踏んだ。とてつもなく分厚い毛布をかけられたかのように。五影と護衛達は、思わずその場で膝をつきそうになった。

 

「これは………何をした!?」

 

「何もしていないさ。強いて言えば、お前達が十尾に嫌われているということが分かっただけだ。まあ、当たりまえだが」

 

「どういう、ことだ?」

 

ゆっくりと、諭すような口調。一も二もなく頷いてしまいそうな迫力だった。我愛羅は、手を震わせながらも問い詰める。

 

「説明しろ………どういうことだ!」

 

「簡単だ。十尾は、十尾に組み込まれている思念達の意志さ。その反応を見れば分かる。思念達は、何よりお前たちが憎いようだ」

 

天井を見上げ、言う。亀裂からは、黒い泥が見え隠れしていた。

 

「これは核より零れ出た思念の粕。十尾の核は、私の身体の内に封じているが―――」

 

自らの胸を指差し、言う。

 

「溢れ出る想念だけは、たとえ私でもどうしようもなくてな。人間の憎悪はかくも凄まじいものだと思い知らされるよ」

 

「………口調、が? お前……本当にペインか」

 

「ああ、全体でいえばペインさ。細かい部分は、少し違うがな」

 

肩をすくめ、言う。

 

「夢にまで憎しと貫いた長門がな。お前たちの顔を見ると、たまらなくなったらしい。感情的になって悪かったな………だが、決して見当はずれでもないだろう?」

 

問いかける。その声は、先程までの怒りのそれではなく。問い詰める、審問するかのような色に変わっていた。

 

「お前は………」

 

「初めましてというべきか、我が係累の最果ての者達よ。我が名は、六道仙人という」

 

「な………!?」

 

全員が、驚きの色を見せる。あるものは目を見開き、あるものは口元に手をあて。

疎み、唾を吐くような仕草を見せている者も居たが。

 

「けれども返ってくるのは、敵意のみか。ある意味諸悪の根源だ、無理はないだろうが………記憶から成る仮初の人格とはいえど、悲しいことだな」

 

「お前が………お前が言うのか!」

 

六道仙人から連なるもの、忍術尾獣に血継限界。それに人生を狂わされたものは、特に敵意をむき出しにしていた。その中でも、恐らくは最たる者だろう。風影、一尾の人柱力である我愛羅は一歩前に出て、六道仙人を名乗るペインに問うた。

 

「尾獣の仕組みについては聞いた。十尾の脅威も、理解した。お前の取った手は、あるいは最善のそれなのかもしれない………だが」

 

――――宿す者に訪れる悲劇について、考えたことはあるのか。

 

まっすぐに睨みつけてくる我愛羅。六道仙人は頷きを返し、やがて徐に口を開く。

 

「十尾は何より強大だった。どこから来たのか、誰が生んだのかは知らないが……化物というにも生ぬるい、規格外の存在だった。今ここに居るような未熟ではなく、完成されたあいつはまるで奈落のようだったよ」

 

触れれば落ちるという意味でいえば正しいのだと、ペインは語り続けた。

 

「………戦争で、人が死にすぎていたということもある、憎しみが世界を覆い尽くしていたのにも原因があろう。だけどそれでも、奴は強かった。強すぎた」

 

六道仙人は語る。

 

「この三狼よりも大きく、その触手から放たれる一撃で百人が飛んだ。術を使っても通じない、遠ざかれば高圧縮されたチャクラの大砲が地平線の向こうまで放たれた。気の弱い奴は見ただけて逝った」

 

「だが、お前は封じこめることに成功したのだろう」

 

綱手が、疑問を差し挟む。六道仙人は、自らの右手を左手で握り締めながら、言った。

 

「らしいが、その部分だけどうしても思い出せないのだ。怖すぎてな。どうやって封じ込めたのか、思い出そうとすると………手が震えてどうしようもなくなる」

 

六道仙人の手は微かに震え、声もわずかに震えていた。

 

「そんな怪物に、特別な肉体を持ち得ないただの人間が、何の武器ももたずにいったいどうやって対抗するというのだ。一度は封じれど、それで滅んだわけではない。次に復活されれば今度こそ人間は滅ぶ。人間の世界を築くために犠牲となった戦士達が守った世界が、彼等が命がけで守った人達が、死んでしまうのだ。それだけは避けなければならなかった」

 

古代の妖魔との戦争。人としての尊厳をかけて戦った者たちが居た。守りたい人達のために、鉄火場に飛び込んでいった戦士達が居た。死んだものは生き延びた人に想いを託した。

 

「あの世にある地獄。私は地獄を直接見たことがないが、“ああいうのが”そうなのだろうな。糞のような戦況の中、戦って、戦って、戦った。絶望的な相手でも、退かなかった。だから人の死を見ない日は無かったよ。きまって、良いやつから順番に死んでいく。いつでも誰かが泣いていた。戦士も力を持たない民も関係なく、夥しい数の人が死んだ………でもそんな戦争でも、綺麗なものは確かに存在したんだ」

 

そして、それを守るのは、残った者の義務だった。託された想いと遺志を守りたいと、ただそれだけを考えていた。

 

「十尾を封印する術、その目処はついた。六道を内包する十尾の存在から知識を吸いだし、封印術"天岩戸"の術は完成した。だが封印に成功はすれど、それだけで収まるような存在だとは思わなかった。世界を回すものが、そう簡単に死ぬはずがないのだ」

 

存在を限定し自由に移動させる、“モノの位置を決める”役割を持つ、天道。最も複雑である、人間の魂に干渉する、あるいは人の記憶を操る役割を持つ、人間道。真偽と陰陽を選り分ける役割を持つ、地獄道。不要な存在を喰らい尽くす、餓鬼道。負のチャクラにより変質した妖魔や、古の技術により生み出された化物を内包する、畜生道。十尾に滅ぼされた人間が使っていた、はるか昔に存在していた道具と知識、技術をを内包する役割を持つ、修羅道。

 

満ちた十より新しい零へ、世界を転生させるのシステムを持つ十尾だ。封印したとて、その発生を防ぐことは無理だということを、六道仙人は理解していた。

 

「滅びを防ぐために。そしていつか来る時のために、備えを残した。規格外には規格外を。同質のものを人間が操ること以外、やつに対向する手段は無かった」

 

「それが、人柱力のシステムか………他に、何かまっとうな方法は無かったのか!」

 

「まっとうな方法は正しいが、弱い。平和な時や、あるいは同じ人間を相手にするならばまっとうな解決方法を選択するのは、正しい。だが、相手が相手だった………死を呼ぶ存在を倒すなど、狂わなければ達成できない」

 

小を犠牲に、大を救う。為政者にとっての最善、軍事の頭領にとっての最良。それを成してきたお前たちならば、分かるはずらと六道仙人は断言した。

 

「悲劇の可能性を………承知しつつ、その方法を選んだというのか」

 

「他に選択肢はなかった。私は神ではない。仙人と謳われようと元々はお前たちと同じ人間だ。明日の朝日をなるべく多くの人に見せるために、誰かに夜を強いなければならなかった………だが、さすがの俺も人柱力があのような仕打ちを受けるとは思わなかったが。対人間用の兵器として運用され、挙句その存在じたいを疎まれるとは――――夜というのにも生ぬるかった」

 

「ふん、その原因を作った者がよくも言えるものじゃぜ。忍術を広めたのはお主ではないのか」

 

「それを言われると、耳が痛いな。だが言っているお前も、口が痛いのではないか?」

 

「だが、お前が大元だというのは真実だろう! よりにもよって…………お前が! 全ての原因は、オレ達にあるというのか!?」

 

「全てではない。根幹となるものを作ったのは私だろう。だがそれに乗っかって悪意をばらまいた挙句、こんなものを作った奴が悪いと………人のせいにするのはどうだろうな?」

 

「………!」

 

「事実、自らの罪を認識して、その罪を償う方法を考えているものもいた。憎しみの絆、それより起こる悲劇と犠牲を、少しでも減らそうと努力している優しく真摯な忍者も居た」

 

「………それは」

 

綱手が、声を震わせる。六道仙人が、頷いた。

 

「お前がよく知っている人物もその中の一人だ。そして初代火影より連なる系譜。自来也の弟子である、四代目もそうだったのだろうな。憎しみの絆、逃れられない縛鎖を解こうと、考えていた」

 

それは、長門の中にある記憶だった。平和への命題、誰も泣かない方法を探す者の言葉

 

「初代火影は小勢力同士を争いを根絶するべく、血縁のみで構成されていた忍びをまとめ、戦争を終わらせることに成功した。が………それも、長くは続かなかったな。いや、逆効果だったのかもしれない。大国と密接な関係を築くことにより、忍者の数が増えた。研究が進み、忍術はより高度なものに変わり、やがて危険な術も増えてきた………」

 

「それは結果論だろう! 人は神じゃない、最善を選び続け失敗せず何も犠牲にしない、などとは夢物語に過ぎない! 先の見えない闇の中、試行錯誤を経て築かれたのが今の平和だ! 誰も泣かない世界など、あるわけがなかろう!」

 

「そして誰かに涙を強いたその結果が、十尾の復活か。どうにも滑稽に過ぎる………いったいどこから、間違えたのか、お前達も、私も」

 

どうしたらよかったのか。呟き、悔いる。今や六道仙人が生み出した希望は、敵対する者にとっては絶望になった。そして身内にとっては汚物と成り果てたのだ。取り扱いに困る劇物。何もかもが悔しくてしかなたい、と六道仙人は言い捨てた。

 

世界は逼迫する原因となった忍術。自分も、忍者も、全てが道化に成り果てのだから。

 

「結果から言えば、私達は間違っていたのかもしれんな。あの日に、既に十尾の復活は成った。鬼の国でな。そして十尾の主な栄養源である負の思念が、世界中に溢れている」

 

「復活………鬼の国だと?」

 

「ああ。かの大源は、あの国の某所にある。そこで復活した。もっとも、本格的に動き出す前に、事態を察知した巫女に封じ込められたがな。そうして、手遅れになる前に十尾を休眠状態にすることはできた、が………肝心の戦力が存在していないのでは意味がない」

六道仙人は綱手と、城の外へ視線を向ける。

 

「失われた伝承にも限界が訪れたという訳だ。何もかもがうまくいくとは思っていなかったが………その要因は別にある。バカ息子共が、何も殺しあうことはなかったろうに」

 

「息子………?」

 

「陰遁の塊、精神エネルギーを操る、その真に迫った眼を受け継いた兄。陽遁の具現である、生命チャクラに満ちあふれた肉体を持つ弟。つまりは千住とうちはだよ、綱手姫。柱間とマダラよろしく、同じように殺しあったらしいがな」

 

石碑にそう書かれていたという言葉に、土影は反論する。

お主が刻んだのではないのか、と。

 

「前半は私だが、後半は娘に託した。あいつは仙術にも熟知していたから造作もないこと。ただ、仲介に、使命に………随分と苦労をかけたようだが」

 

生前より、六道仙人は息子達に、"特別な力があろうと、人間は人間でしかない"六道仙人は解いていた。修行の果てに人から人外へ成った仙人だからこそ、人としての限界を知っていたのだ。求めて手にした力、しかしそれは万能の術ではないと知った後で。

 

だから、兄弟に説いた。よく喧嘩する二人にこんこんと言い聞かせたのだ。それでも、争うことを止めなかった兄弟は、最後には道を誤った。

 

「………妹が止めていたから、そうひどいことにはならなかったのだが………止めきれなかったようだな。争いの果てに、忍宗は二つに別れた。ついていけないと、脱退した者も居たらしい」

 

「その結果が、過去の忍びの姿だと?」

 

「ああ。散らばり、子孫を増やした。かくれ里に住んでいればいいものを………世界中に広げるとはな」

 

人が増えれば種類も増える、野心を持つ者も生まれる。そうして、忍者は勢力を拡大した。明確に、表の存在となっていったのであった。

 

「だけど、絶望に対向する力も生まれました! 術も、そのために使えばいい! 十尾も、五大国が結集すればどうにか………!」

 

「怨みを余計に増やすだけだ。むしろ逆効果と言っていい………見ろ」

 

六道仙人は待機させている十尾を指差し、言う。

 

「五影が相手だからか、酷く活発になっている。憎しみの対象であるお前達では、逆に十尾の存在を強めるだけだ」

 

「馬鹿な………そんな事が」

 

「あるいは、運命のあの日までは、可能だったのかもな。私もこの肉体の持ち主に協力して、少しでも世界を変えようと努力していたのだが………あの事件のせいで猶予がなくなった」

 

だから、巫女に封じ込められ休眠状態にあった未成熟の十尾の核を取り込み、決断を下すしかなかったと六道仙人は言う。

 

「決断、だと?」

 

「ああ。この12年は、本当に長かったよ。各地の負の思念は限界まで溜り、飽和寸前。復活させて倒そうとしても、無理だ。世界に負の思念がある限り、十尾を完全に殺すことはできない。それに、世界にも限界が来ている」

 

「何が、あるというんだ」

 

「今は人間の目には見えないだろうな。だが、世界には、少しづつ綻びが出てきている。じきに、気候がおかしくなるだろう。そうなれば、あとは滅びまで一直線。気候が変わるというのはそれまでにあった生態系が破壊されるということ」

 

「………何故、負の思念とやらで気候が変わる? 関係ないことのように思えるのだが」

「忍術然り、世界は陰陽五行から成る。すなわち、全ては繋がっているのだよ。両義、すなわち陰陽より生まれたさまざまなもの。火・水・風・雷・土、五行や四象より成る八卦八門、人間の身体も同様の構成をしている。世界も、生きているんだよ」

 

だからこそ、悪い細菌に侵されれば、病に伏せる。

輪廻眼を持つ彼は、当たり前だと言った。

 

「内包する生命の活動によって、世界は変えられる。悪玉の細菌を滅ぼすために、厳しい環境へと移行していく。急激な環境の変化は、人間以外を滅ぼしていくだろう」

 

人は抗体のように環境の変化にも適応し、生き延びることができる。だが、他の動物や植物などはそうはいかない。やがてはその数を減らし、連鎖反応で様々な生き物が死滅する。

 

「最終的には、人を残した全てが滅びてしまうだろう。そして最後の時、天岩戸に封印されている古の滅びが降臨する。負の思念だらけになった世界で生まれた、新しい滅びに引っ張られ―――――やがて滅びは混ざり合い、世界は消滅する」

 

「月が………落ちるというのか!?」

 

「既にその兆候はある。お前達が認めようとしないだけでな」

 

前例が無いといえど、時が来れば起こるだろう。自然現象は基本的に問答無用だ。そこに容赦という概念が存在しないことを、六道仙人誰よりも知っていた。

 

「このまま新・十尾が育てば確実にそうなるだろう。だからその前に、新・十尾を月にある核へと送る必要がある。しかし今の私には、昔ほどの力はない。この肉体は生命のチャクラ、陽遁を秘めている肉体なのだが………」

 

六道仙人は黒く染まった自分の髪を触る。

 

「月に封印されている私の仮死対とリンクした時、どうやら古・十尾の欠片を取り込んでしまったようでな。肉体は変質し、妖魔と同じような性質を帯びるようになった………普通の術はともかく、時空間忍術のような精緻極まるチャクラコントロールを実行することは不可能でな。だから膨大なチャクラに加え、さらに余剰分のチャクラを上乗せする必要がある」

 

多くのチャクラが必要なのだ、と六道仙人は言う。

 

「………だから、暁―――鬼鮫の野郎やサソリ、デイダラ達を取り込んだってのか?」

 

「邪魔者にもなりそうだったのでな。さすがにあの面々を相手にしながら五影を相手取るのは難しい」

 

暁の人間は、下手をすれば五影にも勝ると六道仙人は言った。

 

「そしてお前達五影も、それぞれの隠れ里も取り込んでやる。五大国を滅ぼせば、あとの小国はどうとでもなるからな」

 

指を突きつけ、告げる。忍者には昨日までの贖い、そして明日の救済ための糧になってもらうと。納得する者は皆無だった。

 

「違う、他に………他になにか、方法があるはずだ。それを見つければ………!」

 

「不可能だ。現実を見ろ。連綿たる時の中、積み上げてきた過去の負債が形を無して今、言っているのさ」

 

 

――――死ね、と。

 

 

忍者達の胸を指し、六道仙人は告げた。

 

「世界が自らを守るために、悪玉の細菌は滅ぼされる。そして因果に私怨はない。ただ、事実だけがそこに残される。自らの業は、自らに還るだけだ」

 

「………悪玉、自業自得か。否定しきれない所はあるが………それでもまた、私たちには出来ることがあるはずだ。それをせずに、滅ぼされる訳にはいかない」

 

確かに、忍術は発展した。破壊という範疇に収まりきらない術も増えてきている。

だが、その多様性はあらゆる所に活かされるはずだ。

 

あるいは、世界中の忍びが協力すれば、世界を救えるかもしれない。

 

「そうだな………でも、それは賭けだ。そして、世界の人間はお前達を信じられまい。信仰と同じく、信用とは儚く脆いもの。一度失えば取り戻すのに数十倍の労力を要する」

 

「だが………私たちも、守るものがある! 座して滅びるような真似だけはできん!」

 

あくまで膝を折らない忍び達。六道仙人は目の前で生きる意志を見せる彼等に頷きながらも、言った。

 

「生きる意志は立派、諦めない意志も見事。確かに、私達と十尾をまとめて退けるだけの力と意志があればその可能性もあるかもしれん………だが、時は既に遅いかもしれん」

 

それでも、足掻くのかと。忍者たちは六道仙人の問いかけに対し、即答する。

 

「ああ………先代の遺志と里の意志は曲げん。木の葉のため、ここは押し通らせてもらう!」

 

「………勝てるかどうかは、わかりませんが」

 

「大切な仲間の為だ、退けないね………命をかけてあの二人が守ったこの里だ、滅ぼすと言われて黙っている訳にはいかない」

 

木の葉が。

 

 

「仙人、貴方の言いたいことも分かる………だが、俺にはまだ守りたい人が居る、帰りたい場所がある」

 

「弟を守るのは、兄貴の役目じゃん。姉を守るのは、弟の役目じゃん」

 

「里のためだ、ここで引くわけにはいかん!」

 

砂が。

 

 

「霧隠れは血の時代を乗り越え、新たな道を歩もうとしています………」

 

「ここで負けては、なんのために戦ってきたのか分からないのでな」

 

「俺は、俺の守りたいものの為に戦うだけだ。それに、あいつとの約束があるからな」

 

霧が。

 

 

「ふん、耳が痛い話じゃったが………それでも、な」

 

「ジジイだけを戦わせる訳にはいかない、アタシも戦うぜ」

 

「守りたいものは渡せないダニ」

 

土が。

 

 

「力無くば、滅ぼされるのは分かっている………ならば、我々の意志の力を見せてくれよう!」

 

「ボスがやるなら俺だってね」

 

「忍びの世界にはまだ、先がある! 可能性がある限り、滅びを受け入れるわけにはいかない!」

 

雲が。

 

 

「そうか――――分かった」

 

身にまとっていた、暁のマントが放り投げられた。両に宿る螺旋の眼が、黒く染まっていく。黒い髪が、ざわめていた。

 

「………お前達の相手をするのは俺だ。かの仙人はまだ迷っているが………俺は、違う。お前達を絶対に許さないし、滅びた方がいいと思っている」

 

それは、長門の声だった。憎しみに染まる、長門のチャクラだった。十尾のチャクラと呼応して、その勢いはまるで天まで届くよう。

 

長門にも、退けない一線があった。果たすべき目的があった。

 

長門は今の忍びの世界を許さない。弥彦が望んだのは、こんな世界じゃないと思っている。小南と一緒に築こうとしたのは、欺瞞と偽善に道あふれた、偽りの平和じゃないと考えていた。

 

弥彦と小南が死んだのは、こんなもののためじゃないと。

 

 

五大国も同じだった。多くの仲間の犠牲の上に築いてきた自らの故郷を、滅ぼされるわけにはいかない。生者の日々と死者の安眠を永遠とするために、足掻くことをやめない。

 

それこそが、互いに退けない一線。自らの誇りの粉にして退かれた、最終線。

 

 

「………行くぞ!」

 

長門は叫び、構えた。影たちも、完全な戦闘態勢に入る。

 

全員の身体から、チャクラが立ち上る。

 

退けない線を背中に背負った戦士達の、闘気と殺気が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先手は長門。懐から巻物を取り出し、膨大な量の水を口寄せした直後、神速で印を組み出す。数にして二十あまりの印、それをわずか3秒で組み上げた。

 

「水遁・大龍牙の術!」

 

それは、まるで波濤のようだった。大河を思わせる馬鹿げた大きさを持つ水の牙が、長門の頭上に並んでいく。

 

「赤ツチ!」

 

「分かったダニ!」

 

土影は口寄せの時点で赤ツチに命令していた。一言でその意図を察した赤ツチは、即座に自慢の岩人形を作り出す。

 

「まだまだ、大きくなるダニ!」

 

みるみるうちに、岩の人形が大きくなっていく。そして水の大河が発射される直前、岩でできた5対の巨人が、五影達の壁になった。牙と、巨人が衝突し、衝撃が走って水しぶきが当たりにばらまかれる。細かくなった水の粒子が、周囲にうっすらと霧を掛けた。

 

数秒後。視界が晴れた時、五影達は唖然とした。岩でできた巨人が、その下半身を残すだけで、粉々に砕かれていたのだ。

 

「………馬鹿な!?」

 

性質でいえば、土は水に勝る。その補正があれば、ランク差があってもまず打ち負けはしない。しかし今、岩の人形は貫かれはしないが、砕かれた。つまり、補正をも埋めるだけの差があったということだ。

 

――――遠距離では、勝ち目がない。結論が出るまでは早かった。だがその事実を認識してからの行動も、早かった。

 

カカシが、再不斬が、ダルイが、雷影が、走りだす。全員が接近戦を得意戦術とする者で、必死の形相を伴い長門に肉薄した。

 

「術を使う暇など与えない、というところか」

 

長門は接近してくる一団の先頭、足元に散らばった水を大刀に纏わせながら走ってくる再不斬を見ながら、笑った。

 

「あの野郎………!」

 

再不斬の怒りの声に、後ろから声がかかる。

 

「あせるな、あいつは引力と斥力を操るはずだ」

 

「うむ、そして連続しては使えない。一度使ってから再使用まで5秒程度はあるはず」

 

「なら、まとめてかかるよりバラバラに仕掛けた方がいいですね」

 

「その通りだ、攻撃する機を見誤るなよ若造共!」

 

走りながら作戦を立て、即座に実行する。皆一流の忍びで、勝つための方法を知っていた。まず先方となる再不斬は、地面をチャクラで弾き、一気に速度を上げて跳躍し、水の大刀を振り下ろした。

 

長門は輪廻眼の洞察眼を全開にする。そして硬化した自分の腕に大刀が衝突する瞬間を見極め、受け止めながら腕を引いた。そのまま衝撃による力を殺しながら、勢いを横に流し、大刀の峰を掴む。

 

「接近戦でも、同じことだぞ?」

 

―――神羅天征。長門は掴んだ大刀に直接斥力を働かせた。大刀はそのまま、尋常ではない速度で横に弾かれ、その先に居たダルイに襲いかかる。

 

「危っ!?」

 

間一髪、ダルイは弾かれた首切り包丁を自らの大刀で受け止める。しかし大刀の衝撃は強く、予想外のこともあって踏ん張ることができなかったダルイは、そのまま後ろへと弾き飛ばされる。再不斬は首斬り包丁を手放しはしなかったが、腕を大きく後ろへ流され、バランス崩していた。

 

「はっ!」

 

そこに長門の拳が飛んだ。殴り飛ばされ、飛んでいく再不斬。直後、再不斬が居た場所の後ろ、死角となっていた所から、雷光がほとばしった。

 

「雷切!」

 

距離にして3歩、準接近戦からの雷切。その一振りは雷をも切るほどで、まともに受ければ身体に風穴が空き、顔に受ければ脳髄ごと吹き飛ぶだろう。

 

だがそれは、放たれればの話である。

 

「輪廻眼を前に、何処に居ようと!」

 

死角なし、と叫ぶ。長門はチャクラの動きを事前に察知していたため、十分に準備が出来ていた。カカシが一歩踏み出した瞬間、うろたえずに右手を掲げる。

 

「―――見えている!」

 

「な――――ぐあっ!?」

 

カカシは腕を突き出そうとした瞬間、長門に顔面をつかまれていた。長門は万象天引で走りだし前かがみとなっていたカカシの顔を引き寄せ、そのまま掴んだのだ。

 

「終わりだ!」

 

叫び、カカシの後頭部を勢い良く地面へとたたきつける。しかしたたきつけられた瞬間、カカシの身体が煙となって消えた。。

 

「影分身………上か!」

 

囮の影分身を見破っていた長門は、天井を見上げた。そこに、カカシの本体が居た。

その隙を、今度は雷影がついた。

 

「雷虐水平!」

 

「くっ!」

 

雷をまとった雷影から放たれる神速の水平チョップ。長門は身を屈めてそれを躱した。

そこに、追撃の肘が振り下ろされる。

 

「重流暴」

 

「遅い!」

 

長門は屈んだ直後、雷影と同じ雷遁の鎧を身に纏っていた。反射速度が爆発的に上昇する。

 

「何っ!?」

 

「見えているぞ!」

 

速度は互角、力も今や互角。だが長門には輪廻眼があった。雷影は驚きながらも、やることは変わらないと体術による攻撃を仕掛ける。

 

長門も、負けじと応戦した。神速の攻防が繰り広げられ、両者が交差するたびに火花が散った。やがて、二人は広場の中央で足を止めた。

 

「フンッ!」

 

「シッ!」

 

長門、雷影は二人同時に、一つの呼気と共に3連打を放った。それは互いの中央で激突する。ドドドという爆音と共に、衝突の余波が三度、部屋の大気を揺るがした。

 

「フン!」

 

雷影は拳打が防がれた後、足が止まっていた長門に向けて、一歩踏み出す。長門も負けじと、一歩踏み出す。

 

肉同士がぶつかり、鈍い音がした。両者中央で互いに両手を掲げ、腕力による押し合いの状態となっていた。

 

「………っ、腕力もワシ並だというのか!」

 

「言っただろう、妖魔に近い状態になっているとな!」

 

両者一歩も引かず、そのまま微動だにしない。踏ん張っている足元の岩が、びきびきとひび割れていく。

 

「埒が―――」

 

長門は叫ぶと、足元をチャクラで吸着。踏ん張り、押し合って掴んでいる両手を、叫びながら力いっぱい頭上に上げた。雷影の身体が、宙に浮く。

 

「―――開かん!」

 

そのまま振り下ろし、地面へと叩きつけようとする。だが雷影は投げられる瞬間手を離し、そのまま宙へと跳んでいった。

 

「今です!」

 

そこに、後方の忍びと前に展開する忍びの連携を担っていた、シーの合図がかけられた。近距離に再不斬、ダルイ、カカシによる一斉攻撃が放たれた。

 

「そんな術など!」

 

だがそれは、長門の周囲に突如現れた薄い膜のようなものに全て吸い取られた。

 

「術を……喰っただと!?」

 

「くそ、まだまだ引き出しがあるってのか!」

 

カカシとダルイが驚きの声を上げた。やがて後方に控え、術の終わりを見極めた青が、叫ぶ。

 

「それならば、物理攻撃を混ぜて攻撃すればいいだけだ!」

 

そこから先の動きは早かった。青の合図を受けた皆が印を組み、順番に術を発動していく。

 

それは、全てを固める物質だった。

それは、岩の巨人による体当たりだった。

それは、全てを塵に返す砲弾だった。

それは、不可視の風の刃だった。

それは、毒が塗られた巨大な仕込みクナイだった。

それは、鉄をも貫く砂の矛であった。

それは、雷を纏う大刀だった。

それは、幻の世界に誘う雷光だった。

それは、秘伝の毒が塗られた千本だった。

それは、空間を歪めて抉り取る瞳術だった。

それは、馬鹿げている程に巨大な岩の砲弾だった。

それは、水の龍であった。

それは、金剛石をも貫く水の徹甲弾だった。

それは、全てを溶かし尽くす粘液だった。

 

その全てが、一人の人間の元に殺到する。四方八方から放たれた攻撃の数は多く、避けることも不可能なほどに充満していた。

 

やった、と。攻撃を仕掛けた全員が、確信する。タイミングは完全で、これ以上ないというほどのものだった。達する時間までばらばらで、斥力を使っていくらかは弾かれるだろうが、全てを防ぐことは不可能だろう。物理攻撃があるので、先の忍術を吸収する術を使っても完全な防御は無理だ。

 

何発かは、確実に当たる。手傷を負わせれば形勢はこちらに傾くと考え、幾人かは次の攻撃動作に入っていた。

 

事実、雷影はそうしていた。着弾の直後に間合いを詰めて追撃を叩き込もうと、足に膨大な量のチャクラを練り上げている。

 

勝てる、と。誰しもが思った。

 

―――だけど、それは錯覚であることを示すかのように、冷淡な声が鳴り響いた。

 

 

「この程度なのか。ならば………」

 

 

長門の掌から、全てを引き寄せる漆黒の球体が放たれた。

 

 

「これで、終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時同じくして、城の外れ。

 

「十尾が………!」

 

「城が黒く染まって………おい、どうする!?」

 

騒ぐサスケ達。一方、イタチは別の方向を見ていた。

 

「………先の爆発音が決め手になったのだろう。忍者達が宿場町から国境を超えて、城へと向かっている」

 

「本当だ。いや、でもあれは―――罠か?」

 

サスケは写輪眼でイタチが見ている視線の先を遠視した。そこには、菌糸のようなものに覆われ、苦しむ忍者たちの姿があった。

 

「ゼツの術だな。一度だけ見たことがある」

 

「何人かは、回避できたようだけど………」

 

かなりの数が巻き込まれているな、とサスケは渋面を作った。

 

「それだけ必死だったのだろう。それにあれを見せられれば、冷静な判断力も失うさ」

 

これほどまでとは、と言うイタチの額に汗が一滴だけ流れた。

 

「飛段が身にまとっていたのは欠片でしかなかったんですね」

 

「冗談きついよな。さてどうしたものか………」

 

悩む網の面々。

 

―――そんな時だった、城からビシリという音が鳴り響くのは。それは、十里にまで響き渡るだろう甲高く巨大な音だった。聞こえすぎた多由也が、苦痛に顔を歪めて、膝を付くほどに。

 

「うあっ………!?」

 

「っ、大丈夫か……!?」

 

心配するサスケに、大丈夫だと多由也は答えた。

 

「耳鳴はするが、何とか………でもなんだ、この……?」

 

じっと、皆は音の発生源である城を見た。サスケとイタチは、写輪眼で城の細部を見る。その直後。遠視をせずとも分かるほどに、明確で大きな罅が城の表面を走っていく。

 

そして、あるものを感知した香燐が、大声で叫んだ。

 

 

「全員、伏せろぉ!!」

 

 

必死の形相に、叫び声。各々がそれぞれの対応を取った、次の瞬間。

 

 

――――三浪の頂上にそびえ立つ巨大な城は、その全てを爆散させられていた。

 

 

 

 

 






あとがき

西の融合体がナルトなら、東の融合体は長門でござったの巻。
こちらも、記憶と魂の欠片と助長する何かがブレンドされてござる。

あと本作のペインが持つ六道の能力の強度ですが、原作のそれよりも高いです。
六道仙人の影響と能力についての理解も深いので。

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