小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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18話 : 五影会談

 

―――鉄の国。古の戦士の末裔にて、忍者と同じようにチャクラを扱う兵士達。彼らは頑丈な鎧に身を包み、チャクラで強化した刀を振るい戦うもので、堅固な防御力と状況に左右されない確実な攻撃力を合わせ持っている。鉄の塊である鎧をまとっても十分に走ることが可能で、チャクラの籠められた一刀は岩をも砕く。チャクラを扱えない一般の兵士では、戦いにもならないだろう。正しく、精兵。強者の集まりなのである。

 

だが、それはあくまで忍者という存在を無視した場合の話だ。

 

忍術を使い、木々の間を飛び跳ねることができる忍者ならば、侍はさして脅威になるような存在でもない。人一人の意志で周囲を灰燼に帰すことができる、いわゆる戦略級の忍術も使えない。三忍や一部手練の忍者のように、大型の魔獣を扱えるわけでもない。

 

侍の歴史の中で、時には飛び抜けた才能を持つ者もいたが、その誰もが忍者の前では霞む。一対一の"戦闘"では勝てるかもしれない。限定された舞台での模擬戦ならば、あるいは侍が忍者に勝る所もあろう。それでもあらゆる場所での殺し合いをこなす忍者、戦争のエキスパートとも言える忍び達には、決して及ばない。

 

ましてや、忍者達は大規模な戦争を三度も経験しているのだ。医療忍術その他、戦争におけるノウハウを開発してきた忍者達の軍事力は、一般兵、侍といった他の"戦うもの"の存在から、頭三つ分は抜け出ている。そんな侍達が、何故中立という立場を保てているのか。何故、侵略行為を行わないのか。戦えば勝つという存在に対し、何故戦いを挑み、領土を奪わないのか。

 

それには、ふたつの理由があった。まずひとつとして、古来よりの約束がある。明文化されてはいないが、侍と忍者達との間には、暗黙の了解として、互いを戦争の標的にはしないというものがある。今ではもう文献にも存在していない、慣習やしきたりといった程度のものだが、それでも互いの頭の中で無意識下に残っているのだ。

 

そして、もうひとつ。忍者達は、互いを取り持つ仲介役が必要不可欠だったからだ。戦争の中、相手を徹底的にたたきのめした後、降伏勧告を行った時。または、互いに疲弊し戦争をやめたい時、和平に向けて話を進めさせる時など、様々な状況下において、各国の間を取り持つ存在が居なければ戦争は泥沼の様相を呈してくる。殲滅戦など誰もまっとうな上層部ならば誰も望まないし、また自国を破綻させてまで戦いたい者など何処にもいない。

 

故に、忍者は仲介役を買ってでてくれる侍には手を出さない。戦えば勝てるだろうが、決して手を出さない。また、敵には成り得ないが故に、壊す必然性を見出せない。あっても困らないが、無くなっては困る。その程度の存在だ。三度行われた大戦の中、それぞれの頭に冠する"忍界"という文字が何よりの証拠である。

 

事実、侍は先の大戦において、参戦をしていない。仲介役として最後、各国の関係を取り持っただけだ。だから各国の里は、鉄の国の侍を尊重はする。だが、服従はしない。個人の意志意向では終われない戦争の、止め役であるだけの存在だ。

 

(その程度の認識じゃったが………)

 

今まで幾度か鉄の国を訪れたことのある、老忍。土影でもあり岩隠れの生き字引でもある両天秤のオオノキは、侍に対しての印象を暗唱しながら会談となる城の廊下を歩いていた。前には、自分たちを先導する侍、そして侍の大将であるミフネの姿がある。オオノキはミフネについていきながらも、周囲に意識を向ける。

 

(これは結界………しかもこの城を覆い尽くす程の規模じゃと? ミフネ、いったい何を考えておる)

 

城に入る前は、土影や傍つきの護衛である赤ツチ、黒ツチでも、結界の存在を明確には察知できなかった。そのため、土影は城の入り口では出迎えに来たミフネに結界に対する疑問の言葉を向けず、大人しくついていった。

 

だが、こと此処に至っては違う。会談を行うにしても、まずその会場の護衛を仕切る侍がどうなっているのか、把握できないとまずいのだ。

 

(……探らんといかんものがおおすぎるぜ。どうにも今回の騒動は予想外というものがついてまわる)

 

しかし、こうしていても何も得られないだろう。そう判断した土影は、なんとはなしに、といった風に前を歩くミフネに話しかけた。

 

「のう、ミフネ殿。この城には結界が張られているようじゃが………鉄の国にしては珍しく、誰ぞ外の術者でも雇ったのか?」

 

「さすが、気づきましたか。実は………我が国の侍も、例の正体不明の敵とやらに襲われたのでござる」

 

ミフネは、結界を張った下りや、その理由となったことを説明していく。

 

「相手の姿は見えなかったとのことだが、巨大な黒い影が発見されたとの報告を受け………やむなく、といった所でござる」

 

護衛の侍も少ないでしょう、とミフネは周囲に視線を向けた。

 

「手練であるオキスケ、ウラカクといった者たちもやられて……療養所はけが人で溢れかえっております」

 

「ふん、侍にまで手を出すとはの。ペインという犯罪者、いよいよもって潰さねばならん相手ということか………面倒じゃぜ」

 

四尾の人柱力であった老紫と、五尾の人柱力であったハン。此度の騒動の主は、岩隠れの人柱力として人外の力を持っていた二人を、一度の襲撃で殺したという規格外の相手であることは間違いない。いざ戦うことを想定した土影は、百戦錬磨の自信家である彼にしては珍しく、ため息をついてしまった。それを聞いた護衛の二人は、驚きながらも声をかけた。

 

「土影、様元気だして。暁がいくら強くとも、ワイら全員で戦えば絶対に勝てるダニ」

 

「そうだぜじじい。なんだ、臆病風に吹かれたんなら帰るか」

 

「ええいうるさいワイ、赤ツチ、黒ツチ!」

 

土影は「いらん世話じゃ!」二人に怒鳴りながら、ちらりと眼を横に向けた。その視線の先には、先程ミフネが言っていた侍達の姿がある。土影は一通り様子を観察すると、解せんなと呟いた。オオノキの眼がらも、警備の人数が少なくなったのは分かった、長い生の中で幾度か鉄の国に来たことがある土影だが、その記憶にある風景と比べれば、確かに数が少ない。だが、土影にはひっかかっているものがあった。

 

(なんじゃ、この………侍達を見て覚える、違和感は)

 

少ない侍達に、土影は違和感を覚えていた。皆真面目に、一言も発さずに警備の任にあたっているのに、どこかおかしいように思えたのだ。そんな土影の考えを察したのか、ミフネが説明の口を挟む。

 

「申し訳ありません、皆仲間がやられたもので。なにぶん経験の無いことで、動揺を抑えきれていない者もいまして………まあ、結界を張った術者のこともありますがな」

 

「ふむ、そういうことか。しかし見事な結界忍術じゃが……」

 

「流れの者を登用しました。土影殿も、ここ数年の騒動はご存知かと思われるが」

 

そう言われた土影は、各国のかくれ里―――いわば禁術を扱う者が居る里が、のきなみ誰かに襲われて壊滅したという事件を思い出す。

 

(土蜘蛛の一族や、熊曾の一族、その他いくつかの一族が隠れ住む村が襲われた、あのことかの………禁術を手に入れようとしたどこかの国の暗部が、暗躍していたと思っとったが)

 

いずれも、禁術を保持していた一族だ。壊滅したと聞いていたが、その一族には生き残りがいたらしい。それだけ分かると、土影は口を閉ざした。数々の事件の中、確かに自らの里の暗部が動いたものもあったからだ。これ以上の詮索は、余計な誤解を生みかねず、やぶ蛇になりかねない。それに、土影達の目の前にはもう、"五影会談会場"と書かれた大きな紙が入り口に貼られている、大きな部屋があった。

 

(ふん、聞きたいことはまだまだあるが、時間もないか………仕方ない)

 

視界には、岩隠れを除く4つの隠れ里、その頂上が集っていた。ここにきて、待たせることもできないし、無様もさらせないというもの。

 

(さて、鬼がでるか蛇がでるか………いずれにせよ警戒は怠らんようにせんとな)

 

 

土影は静かに気合をいれると、護衛と共に会談が行われる部屋へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水、風、火、土、そして雷。五影の冠となる文字が書かれた傘が、それぞれの代表の前にある机に置かれている。

 

霧隠れ、女性ながらも二つの血継限界を持ち、恐怖政治を敷いていた先代を倒して自ら影に上り詰めた五代目水影、照美メイ。

 

砂隠れ、一尾の人柱力であり先代風影の息子でもあり、そして最年少で影まで至った青年にして五代目風影、砂瀑の我愛羅。

 

木の葉隠れ、最も偉大な忍びと謳われた初代火影の孫であり、自らもその特殊なチャクラを使い妖艶な外見を保つ、先の大戦では二つ名をもって他国に恐怖をばらまいた"伝説の三忍"の中の一人でもある五代目火影、綱手姫。

 

岩隠れ、長期政権を維持し、小柄な体躯で数々の忍界大戦とその後の騒乱を生き抜けた最高齢の影、うちはマダラが生きていた時代の知識も持ちあわせている三代目土影、両天秤のオオノキ。

 

雲隠れ、戦力増強を徹底する武闘派隠れ里の頂点、八尾の人柱力であるキラービを弟に持ち自らも屈強な体躯を誇り最前線に出ることも厭わない雲のきかん坊、エー。

 

そしてその中央、進行役であり会議を司る鉄の国の大将、ミフネの姿があった。

 

五影達はまず、この会談を進めていく前に、最初にはっきりとしておかなければいけない事があった。ある意味では最重要項目でもある、"各里の襲撃事件を起こしたのは誰か"ということについてである。宣戦布告もないまま、複数の里に襲撃されるという事実を前に、どの里の忍びも動揺を隠せないでいた。

 

皆が本当に疑っている訳でもなかった。見識のある者たちは、それがその里の本意であるなどとは思っていない。もしかしたらという気持ちがあるのも確かだ。戦争は機が命。逃せば、致命的な事態に陥れられかねない。各国の上層部も、少数の過激派が怒鳴り散らしている"これは他里の侵攻だ、宣戦布告だ"という意見に、頷いてしまいたい気持ちが少なからずあった。

 

その気持を払拭し、ある程度下手人として想定している"何者か"についての話をすすめる前に、はっきりとしておかなければいけない事項なのだ。

 

「では、覚えはないと?」

 

「当たり前じゃろうが、何が悲しゅうてそんな馬鹿な真似をせんといかん。しかも他の隠れ里と共同して影を襲うなぞ、馬鹿な話じゃぜ」

 

ミフネの言葉を、土影がバカバカしいと切って捨てた。風影、我愛羅がそれに続く。

 

「オレも土影の意見に同意する。だが襲撃犯は確かに、過去に各国の隠れ里で任務をこなしていた者だった」

 

証拠として、死体は腐らぬように処理している、と我愛羅は横目で他の五影達に視線を送った。その言に各国の代表は、自分たちも同じだと返す。

 

「埒があかんな。複数の里が襲ってきたのは分かっている。襲撃犯の中で、現在こちらが把握しているのはこれだけだが………」

 

綱手は襲撃犯のうち、ある程度顔が売れている者の名前を読みあげていった。皆が皆、自らの里の忍びの名前が読まれていく中で、顔をしかめていた。

 

「その名前は………抜け忍だけではなく、任務途中で行方不明になった者も居ますね」

 

「そういえば火影殿と風影殿は、中忍選抜試験の最中に襲われたと聞きましたが?」

 

水影が尋ねると、火影と風影は共に頷いた。

 

「私は二次試験の会場に行く道中、襲撃を受けた。その襲撃犯の中には、試験をうけていた者の姿もあったが―――同盟国以外の忍びも居た」

 

「こちらも同様だ。加えて言えば、襲撃犯はどこか様子がおかしかった。珍しい術を使ってはいたがどれも単発。そして襲撃犯は皆仮面をつけていたが、その仮面越しでも分かる程に生気が無かった」

 

「………私の場合も同じでした。お陰ですぐに撃退できたのですが」

 

「ふん、ワシらも同じじゃ。だが、死体を操り忍術を行使させるとは、並大抵のことではないぜ」

 

外法に分類されるが、忍術の中では死体を操るものもある。かつてカブトがカカシの前で使った、死魂の術と呼ばれる術である。だが、その術は操った死体に忍術を行使させることはできない。ならば襲撃犯の背後にいる人物が使ったのは、死魂の術の応用か、あるいは更に上位となるそれこそSランク、秘伝・禁術クラスの忍術ということになる。

 

「ふん、そんな術を使える人間が二人とおる筈もないか。ここにいる誰かが差し向けたということはなさそうじゃのう」

 

分かっておったことだが、という土影の言葉に、他の五影は心のなかで頷いた。各国の死体を収集し、操り、襲わせる。発覚すれば間違いなく、世界を敵に回すことになる。

 

「そう、はっきりと断定していいのか?」

 

「………風影殿、考えてからモノを言え! 五大国の地位をもつ者が、テロリストのような方法を用いる必要はないぜ」

 

まっとうな戦略を展開できる国ならばそのような方法を使う必要などない。むしろ不利益になる可能性が高い。土影は我愛羅に嘲笑を浴びせながら、そう言った。

 

それを承知している水影、火影は頷き無言を通した。風影、我愛羅は眼を閉じながら、やがて頷いた。残る一人、雷影は会議が始まってからずっと黙ったままである。土影はエーが雷影となる前、"雲のきかん坊"としての暴れていた頃の性格を知っていたので、その様子を不審に思っていた。

 

だが、土影が雷影に声をかける直前。司会であるミフネの声が、土影の声を遮った。

 

「ふむ、互いに納得したようですな。時間がありません、次の議題へ」

 

ミフネの提案に、皆が同意を示す。なぜならば次の議題は間違いなく、先の襲撃事件に関わる問題だからだ。それは、各国の人柱力が襲われ、誘拐されたという議題。真っ先に被害を受けた土影が自らの里の状況を説明した。

 

なんの予兆もなく、いきなり地震が起きたこと。程なくして、人柱力二人の姿が見えなくなっていたという報告。

 

「現場には、ただ二つの大型のクレーターがあっただけじゃ。相手が何者で、どういった方法を使い二人を倒したのかは全く分からんかった」

 

「目撃者は?」

 

「………黒い波濤を見た、と。口を震わせながら、うわ言のように繰り返すだけじゃ」

 

それ以外は何も分からんかった、と土影は鼻を鳴らしながら言った。

 

「何の前触れもなく襲撃されたという点では、こちらも同じですね。幸い霧隠れでは、人柱力………ウタカタの周囲に、護衛の忍びを付けてましたので攫われはしませんでした」

護衛の者は帰ってきませんでしたが、と水影は顔をわずかに伏せながら言った。

 

「ふん、では人柱力はまだ生きていると。ならばそのウタカタという奴、襲撃犯の姿を見ているはずじゃが?」

 

「ええ、確認しました。ウタカタが言うには、"黒い波濤と、それを操る化物が居た"、と。そしてその襲撃者ですが…………眼が、その………」

 

言葉の途中で言いよどむ水影。そこに、風影が口を挟んだ。

 

「御者の眼は螺旋状の紋様を描いていた、だな?」

 

我愛羅の言葉に、水影と土影がばっと顔を向ける。

 

「こちらも襲撃された。目的は勿論俺だろうな。そして、黒い波濤とは別の話になるが………」

 

襲撃者は、それだけでは無かったと我愛羅は腕を組み、土影と水影の方を見た。

 

「先に砂隠れを襲撃してきたのは黒い化物ではなく、3人の抜け忍だった。砂隠れの抜け忍、赤砂のサソリ。土隠れの抜け忍デイダラと、霧隠れの抜け忍、干柿鬼鮫だ。幸い、通りすがった者の援護を受けられたのでやられはしなかったが――――」

 

と、我愛羅は霧隠れの垂れ幕がかかっている方向を見る。

 

「何より、その後が問題でな」

 

我愛羅はその時の光景を思い出し、眼を閉じて顔をわずかに伏せた。自覚している恐怖の感情が瞳に出ている所を見せないために。

 

その仕草を、別の意味――――嘘を悟られないように――――として捉えた水影と土影が、我愛羅に疑わしき眼を向ける。

 

「しかし………随分と、豪華な顔ぶれですね風影様。全員がSランクの犯罪者ですが、それ以上の脅威があったと?」

 

「ふん、デイダラか。それに加え、霧隠れの怪人に赤砂のサソリ…………何処の誰か知らぬが、よほどの者が"偶然"その場にいて、助かったの?」

 

にわかには信じられない、という水影。居合わせた者の正体をぼかそうとするのは不審だ、という態度を見せる土影。底意はどちらも見せないし、何やら別の意図があるようだと感じた我愛羅は、しかし二人の疑問を無視する。

 

「水影殿、干柿鬼鮫とその襲撃事件に関しては、"よく知っている"はずだが? ―――そして土影殿、ビンゴブックにも顔が乗っているデイダラは"掌に口を持ち起爆粘土という爆殺忍術を当たりに撒き散らす"という迷惑者だったが、それはデイダラではないと?」

 

余計な時間を取らさないで欲しい、と我愛羅は額に青筋を浮かべて言った。

 

つつっ、と視線を逸らす水影。ふん、と鼻を鳴らす土影。

 

 

背後の垂れ幕の影でも、護衛の忍び達が動くのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風隠れの垂れ幕の影では、カンクロウとバキが我愛羅の発言の内容に大して、驚愕していた。

 

「我愛羅、話を止められたせいか、珍しく怒ってるじゃん………でもなんか、人間らしい反応じゃん」

 

「兄であるお前にとっては、あれがいい傾向に思えるかもしらんがな………」

 

風の垂れ幕の影では、引きつりながらも安心した、という発言を見せたカンクロウ。その隣に居るバキは時と場合を考えてくれ頼むから、と頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

水の垂れ幕の影、再不斬は我愛羅と同じように額に青筋を走らせながら、誰にも聞こえないようにぼそりと呟いた。

 

「あのアマ………この俺が逐一詳しく報告したのによ」

 

全部が全部を信じてなかったのか、と再不斬はぎりりと拳を握り締めていた。

 

「仕方ないだろう。報告といっても、お前の主観が入るからな。それに、鬼鮫のこともある」

 

「そりゃあ確かに、昔の俺じゃ鬼鮫の野郎に殺されていただろうが」

 

「確かに実力は上がっているがな。それより再不斬、お前水影様に向かってアマとはなんだ!」

 

「へっ、うるせえよおっさん、禿げるぞジジイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

雷の垂れ幕の影。シーとダルイは、未だ一言も発していない雷影の背中をじっと見ていた。

 

「シー、ボスが黙っているのは理由が?」

 

「ああ。雷影様は、例の奴と交戦した時に何かを言われたようでな。俺達には話さなかったが、他国に関連することを言われたのだと思う」

 

「それが原因だってーのか。でも、何だかボスらしくないぜ」

 

平時の雷影ならば、今頃目の前にある机は剣拳撃で砕けているだろう。上司の人柄をよく知る護衛二人は、そのらしからぬ様子にわずかながらも戸惑を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

土の垂れ幕の影。くノ一の黒土は頭をおさえ、巨体の赤土はじっと土影の背中を見ていた。

 

「ジジイ………風影が若いからってのも分かるが、いくらなんでも突っかかりすぎだろ」

「違うダニ、土影様きっと怒ってるんダニ。岩隠れだけ人柱力が全滅してるし………」

 

「あ、納得した。ようするに何時もの負けず嫌いが発動したんだな」

 

「え、そうダニか?」

 

 

土影を誇る赤土と、土影にさえ軽口を叩く赤土が微妙に噛み合わない会話を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

火の垂れ幕の影では、いつもの通り。あひぃーと言うシズネに、落ち着いた様子を保ったままのカカシだ。

 

「ど、どうしましょうちょっと場が険悪な空気になってしまいましたよ!?」

 

「ま、心配ないですよ。言った方も言われた方も、分かってるでしょうから」

 

このような場で探りを入れない方がおかしいし、皮肉も他国間同士の重鎮が話しあう時は、ままあることだ。カカシにとっては、我愛羅の反応が若さの現れと言えばそうなのだが、それも許容範囲内に収まっていると思えていた。

 

特に悪意も含められていないし、会談をすすめる方向に向かっての発言だから、あまり問題はないだろうと判断していた。

 

「それに、今何を優先すべきなのか――――それが分からない五影じゃないですよ」

 

「ですがカカシ上忍、あちらの霧隠れの方々は何やら険悪な雰囲気に」

 

「あ、砂隠れのバキの方は頭と腹を抑えていますねえ。頭痛か、胃痛か……っと、それよりも」

 

 

会談が動くようですよ、とカカシは垂れ幕の向こうを指さした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐだぐだと、いい加減にしろ!」

 

沈黙を破ったのは、雷影の発言だった。その場にいる全員が、腕を組み鎮座する雷影の方を見た。

 

「影を襲った下手人は暁だ。そして、人柱力を攫っていったのはその首領であるペイン、"あの"輪廻眼を持つ男だ!」

 

目の前の机を叩き、雷影は怒鳴り声を上げた。

 

「ワシは一度あやつと対峙したから分かる! 知っての通り、返り討ちにあったがな」

 

「いや、少し待たんかい。輪廻眼、じゃと? マユツバものの話じゃが………」

 

土影は周囲の面々のを見回すが、誰ひとりとして笑ってはいなかった。

 

「先の話、途中で遮られたがな。オレもサソリ達を退けた後、この眼で見た。地面から一気に吹き出た黒い波濤と、それを操る輪廻眼を持つ男をな」

 

「こちらもだ。木の葉唯一の人柱力である九尾の人柱力は以前行方不明だが―――」

 

綱手は言葉の中にさりげなく嘘を挟み、知られたくない部分をぼかして別の話題に移した。そも、黒い化物が覚醒する発端となったのは、木の葉内部のごたごたのせいだ。知られればまずいと考えている綱手は、より衝撃的な内容を話すことで事実関係を誤魔化した。

「根の構成員と、ダンゾウがやられた時に私も奴と対峙した。最も、戦うことなくその時は逃げられてしまったがな。加えていうと、奴が怪我をおった様子はなかった」

 

「ダンゾウ――――忍の闇と言われる、あの忍びをか。それも木の葉の里の中で暗殺したと」

 

綱手が告げた言葉に、場が整然となる。結界をくぐり、里の影とも言われる暗部の頭領を暗殺する。それはSランクというにも生ぬるい難度であろう。あるいは五影でも不可能と言えるほどの。

 

「私たちが奴の侵入に気づいたのは、ダンゾウが殺された後だ。それまでは全く、予兆すら感じ取れなかった。例の影襲撃事件の時と同じくな」

 

「ふん………そいつが輪廻眼を持っているのならば、おかしくはないのかもしれんな」

 

「その通りだ! そして暁に対して、お前たちに聞きたいことがある」

 

雷影は他の四影を睨みつけた。

 

「木の葉、砂、岩、霧! 大蛇丸、うちはイタチ、赤砂のサソリ、デイダラ、干柿鬼鮫! 分かっているだろうにとぼけるな、暁の構成員についてお前たちは熟知しているはずだ! その関連で、何かしら情報を掴めていないのか!」

 

苛立を隠そうともせずに、雷影は怒鳴りつけた。

 

「知らんな、抜け忍が何を考えるなど、そんなことは知らん。だが、私には情報がある」

「何ィ!?」

 

「落ち着いてくれ雷影殿。輪廻眼を持つ男、ペイン………いや、六道仙人といった所か。あいつの目的………その荒ぶりようを察するに、雷影殿も聞かされたのではないのか」

 

綱手は雷影の怒声に対して一滴のひるみも見せず、聞きたいことを言った。雷影、エーは不機嫌そうになりながらも、綱手の言葉に頷きを返す。

 

「ふん、そうだな。戯けた、というよりも巫山戯たことを謳いおったわ」

 

「ならば、こちらも同じだ。認めることの出来ないことを言われた」

 

そうして、綱手は語る。かつては長門、今はペインという者。六道仙人の代役と遺志を受け継ぐぎ、自ら大役者を名乗るものとしての言葉を。

 

――――忍者を裁く。その言葉を聞かされた面々は、思い当たるふしがありながらも、その言葉を受けきれないでいた。

 

「そもそも、忍術を開発したのは六道仙人なのだろうが。今の時代になって現れて、忍術を根絶しようなどとは笑わせるわい」

 

「そうですね………昔はどうであれ、今の我々は忍術なしでは生きられない。いや、そもそも忍術無しではそもそも存在しなかったでしょうに」

 

忍術ありきとして存在している忍者。それを取り上げようなどとは、いかな理由があれど納得いかない。皆、憤っていた。

 

「ふん、ワシもたたきのめされた後に言われたわ。絶対に頷かなかったがな」

 

雷影は鼻で笑った。その時の事を思い出しているのか、額には青筋が走っている。

 

「血を血で洗う戦争を経て数十年。今に至って漸く、軍事のバランスを保てるようにになってきたのだ。先人達の苦労もあるし、死ねと言われても納得はできないな」

 

「オレも同意しよう。だが、ペインとやらはそう思ってはいないようだな」

 

「ええ。ですが相手の思想がどうであれ、負けられません。しかし強力も極まる規格外の手練を前にどう戦うのか、方針を固めないといけませんね。一人ではまず無理でしょうし」

「………ふん、確かに。一対一、真正面から挑んでもあやつには指一本触れられなんだ」

雷影はペインと対峙した時の事を思い出し、忌々しげに言った。

 

「ワシが知っている範囲では、二つ。あやつは引力と斥力を操っておった。そして輪廻眼というからには、通常の五行の忍術―――果ては、時空間忍術も、また別の特異な術も使いこなすだろう」

 

「と、なれば私達五大国の総力を結集して対処するしかありません。忍界が消滅する、というのはここにいる誰もが望んでいないことです―――異論は、ありませんよね?」

 

「ふん、仕方ないかの。だが、あいつの目的は人柱力、いや尾獣じゃ。我らと真正面から対峙しておらず、尾獣を集めるということは何かしらの策があるということじゃぜ。火影殿はあやつの戦闘技能に関して、何か情報を掴めていないか?」

 

土影の言葉に、火影は頷いた。

 

「奴は尾獣を集め、黒い波濤――――1~8までの尾獣を集めて、古代の怪物である十尾を完全に復活させようと企んでいるらしい。それと、先程の話に出ていたことだが、やつは確かに五行の忍術、しかもSクラス、秘伝忍術レベルの火遁、土遁、風遁、雷遁までを使いこなす。ペインとおもしき者が戦った場所に、そのような痕跡があった」

 

綱手はそう言いながら、初代火影と各国が交わした盟約、そしてペイン経由でメンマから聞かされた情報を開示していく。九尾が死んで十尾が発生する、という部分はぼかし、十尾の目的と性質をその場にいる皆に語った。

 

「十尾、だと………? 尾獣は九尾だけではないのか!?」

 

我愛羅は、自らの持つ尾獣、一尾守鶴のことを考えながら、綱手に質問を投げかけた。

 

「九尾はオリジナルで、他の尾獣はそれを模倣した存在だ。かの六道仙人が作り出したということで、九尾とは遜色ない力を持っているだろうがな」

 

綱手の爆弾とも言える発言に、皆は一様に押し黙った。

 

「ふん………あの化物が狙っているのはそこか」

 

「そうみたいじゃの。残るは風影殿の一尾と、霧隠れが保持している六尾、木の葉が保護している七尾、雷影殿の弟の八尾と、未だ行方不明の九尾の計五体と言うわけか」

 

「ふん、そういえば木の葉の尾獣、九尾の人柱力はどうしたんじゃ? 行方不明だとは聞いたが―――木の葉崩しの際に姿を見せたとも風の噂で聞いておる」

 

「そのとおりだ。俺はあいつと対峙したことがある。もっとも、その後の所在地は知らんがな」

 

我愛羅は事実だけを告げ、土影を真正面から見返した。我愛羅もメンマが今どこにいるのかは分かっていないので、ある意味嘘ではなかった。土影は我愛羅の眼光と口調から、嘘を言っていないと判断し、他の面々を見回す。

 

「霧の六尾、ウタカタは霧隠れで護衛中です。手練の上忍も残してきましたし、やられることは有り得ません」

 

「七尾、滝隠れの人柱力であったフウは、木の葉で保護している。滝隠れの意思もあるのでな」

 

「………八尾、ワシの弟は国境付近の宿場町におる。いくら言ってもいうことを聞かんので、仕方ないから連れてきた」

 

五影達は現状を確認し、互いに視線を交し合う。過ぎると言えるほどに強力な敵、それは忍界を滅ぼすべく動いている。里の保持する貴重な戦力である尾獣を奪い、忍を皆殺しにしようとしている。

 

どうすればよいのか、皆分かっていた。

 

そこに、今まで沈黙していた侍のミフネが、言葉を挟む。

 

 

「ふむ、どうやら結論は出たようでござるな。それでは――――」

 

 

是非もない、と五影は全員頷き。

 

 

 

「――――すべての忍者が自らの腹を切られる、ということでよろしいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

ミフネの唐突な結論に、呆けた声を返したのは綱手だった。

 

「ミフネ!? お主、何を言って………!」

 

土影でさえも驚きを隠せていない。それに対し、ミフネは落ち着きすぎるほどに落ち着いていた。まるで、用意されていた台本を淡々と読むかのごとく。

 

「そうするしかないのでは? ―――五影殿は連合軍を作り、六道仙人と十尾を倒そうとしている。なるほど、あるいは五大国の力が結集すればそれは可能となるのかもしれないですな」

 

ミフネは頷き、だがと言った。

 

「未だ忍界大戦での因縁、各国の溝は修復しきれていないでござろう。五影同士は連合の必然性を認識していてござろうな。だが、末端が全てを理解できるとは、まさか思っていないでござろうな」

 

わずかに、口調が変わる。尊重するものから、侮蔑するものに。

 

「それに、語られていない事実もある―――五代目水影。先代の水影、やぐらを裏から操っていたのが誰か、貴方は知っていると?」

 

「な………!」

 

何故それを知っていると水影が返す前に、ミフネは水影を指差し答えた。

 

「暁だと貴方は認識しているでしょうな。それは事実で、だがそれだけではない。水影を操り、霧を血霧の里と呼ばれるまでに変貌させた張本人は、うちはマダラだ」

 

「な、あ奴は初代火影との戦いで死んだはずじゃぜ………!?」

 

「そう見せかけただけのこと。考えてみれば分かることでござろう、尾獣を宿した人柱力を完全に操ることができる人間など、うちはマダラをおいて他にはない」

 

断言するミフネ。水影の顔と、幕の裏にいる青の顔が険しくなる。

 

「許せないでしょうな。まさか、霧を操っていたのが、木の葉に由来する悪党とは考えもしませんでしたでしょうから。そう、霧隠れは木の葉の手落ちからその性質を変えられた。そして、岩隠れもまた別の意味で木の葉とは因縁がある」

 

ミフネは水影と同じように当事者を指差し、言った。

 

「かの第二次忍界大戦で岩隠れが木の葉へ侵攻しようとした際―――」

 

はっきりと。憤りを載せた言葉を、土影と火影に叩きつける。

 

「人数分の物資が無いからと、岩隠れは抵抗する力を持たない村々を略奪した。対する木の葉は、岩隠れの侵攻を止めるべく、"村々に潜伏し奇襲することで足止めに成功した"―――――その結果がどうなったのか、あなた方がご存知のはずだ。しかも、岩の国と火の国の境である雨隠れと草隠れの里で!」

 

ミフネが激昂する。そして言われた二人は、黙らざるをえなかった。民間人に偽装する。それがどういった事を招くのか、当時の両国は認識していなかったのだから。

 

「挙句の果てには、関係ない民間人まで被害が及んだ! 家々を焼かれ! 自軍の安全性を優先し、疑わしき者は皆同罪ということで! 互いの国の都合だけで、全く無関係の者まで無残に殺されていった!」

 

戦場におけるモラルは低下した。今までにわずかでもあった不文律が、崩壊していた。民間人の家への不法侵入に、強盗殺人。自国でなければ人にあらずとでも言わんばかりのその悪習は、第三次忍界大戦となっても消えなかった。

 

「砂隠れも同じこと。木の葉と砂もまだ禍根は消え去っていないはず。かの木の葉崩しで、いったい何人の忍びが死んでいったのか、それはあなた方のほうが私よりご存知のはずだ。親しい者を殺された者が、まさか頭の言葉だけで全て納得するとは、思っていないでしょう。そして―――」

 

と、ミフネは雷影と火影を指差す。

 

「日向家でのことも。雲隠れとの同盟、日向家ははたして納得しますかな? 誘拐は未遂に終わり死んだのは雲の忍び頭のみといえど、互いに禍根を残したのは疑いようのない事実でござる。岩隠れの里と雲隠れの里もまた同じ。両国は各地に残っている秘伝忍術、血継限界に宿る禁術を求め暗部を奔走させているでござるな。雲隠れは自国の戦力拡大のため、岩隠れは軍事費縮小による軍事力の低下を抑えるため」

 

結果、隠れた一族の所在地は暴かれて暗部同士が衝突しあう。

 

「果てには暗部は暴走し、あおりを受けて滅んだ一族は十に及ぶ。任務こそが至上とほざく愚者の暴走ほど醜いものはないでござるな。誇りも矜持もない。あまつさえ、殺された者が殺した者を憎むでござるか………」

 

それは憎しみの連鎖。戦いの中で育まれる、黒い復讐心で編まれた呪縛の鎖。

 

「理解できたでござろう。現在の平和などまやかし、薄氷の上でなんとか保っているにすぎないことを」

 

「違う! 犠牲はあったが、今世界は平和を保っている! それが薄氷などとは言わせんぞ!」

 

「いや、全ては泡沫の夢、戯言だと言わしてもらうでござる。まあ、前の大戦が消耗戦となったのにも一因がござろうな。殺された者はその事実を忘れず、今となっても各国の国境付近での小競り合いは絶えない。それなのに、連合を作ろうなどとは片腹といわず腹の底から痛いでござるよ。無理な融和は衝突を生む。遺恨が発生すれば、忘れがたき仇も生まれよう――――そして一度亀裂が入れば、薄氷が砕け散るのは必然の理」

 

そして共通する敵が消えた後、憎しみの標的は各国に移る。

 

「そうなれば十尾が復活する――――ならば」

 

ミフネは起こしていた身体を椅子に預け、五影の面々を見回し、宣告した。

 

「忍びは抗うよりも滅ぶことこそが最善。否、それより他はないだろう?」

 

すっと、ミフネの口調が変わった。そしてわずかに、チャクラが漏れ出す。ミフネの矢継ぎ早に並べられた弁論に圧倒された五影達は、皆だれも言い返せない。

 

無関係な民や侍といった立場からの言葉は確かに正論で、今までそれを見ながらも自国の軍事力と平穏のために眼を背けていた事実でもあるのだから。

 

 

加えて皆、今までに知らなかった事実を知らされて動揺していたというのもあった。

水影でいえば、うちはマダラ。火影でいえば、第二次忍界大戦での前線部隊が行ったこと。土影と雷影でいえば、暗部の暴走。一族を滅ぼしてでも、という任務を与えてはいなかった。風影でいえば、それら全て。

 

しかし、そこで違和感を覚える者がいた。

 

 

「―――――ちょっと、待て」

 

 

それは事実なのだろう。だが、ひとつだけ聴きのがせないことがあった。綱手が、ミフネに、訝しげに問いかける。侍のことだ。暗部や大戦の件は、知っているのかもしれない

 

だが。

 

 

「何故――――貴方が、うちはマダラの正体を知っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幕の裏にいる護衛も、皆硬直していた。だが綱手の発言を聞いて、咄嗟に動く者がいた

 

(白眼!)

 

青は自らの白眼でミフネを観察した。

 

(変化の術は使っておらん、では侍大将本人か? だが………なんだこのチャクラは!?)

 

 

同じく、写輪眼でミフネを観察したカカシは、その異様さに気づく。

 

(変化じゃない、変装でもない。いや、違う! これは――――)

 

そこで、カカシは思い出した。写輪眼でも見破れない変化の術と、一度見た術ならば解析可能、理解をすれば同じ術を行使できるという、使い手を。かの雷影の術をも模倣した、あの眼を持つ者のことを。

 

カカシが間違いないと、ミフネの正体に気づいて叫ぼうとする、その寸前。

ミフネは、カカシの視線を受け止めて、返していた。

 

――――輪廻を表す、螺旋が描かれた双眸で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様………!?」

 

その目が全てを語っていた。察した五影と、護衛の忍びが動き出そうとする。その場にいる忍、全員の身体の中で、チャクラが急速に練られていく。

 

「予想通りだな。侍ならば、操られていてもどうにかなると思っていたのか。力持たない者を視しないが故に、ミフネの本当の人格と性格を知ろうともしなかった………お前たち忍びらしいよ。知ったならば、まずあり得ないと疑っただろうに」

 

言葉に挑発された忍び達は、部屋のそこかしこに配置されていて、そして未だ微動だにしない侍を観察しながら、臨戦態勢になる。

 

だがそこで、"ミフネの姿をしている誰か"から声がかけられた。

 

「――――待て」

 

まだ話は終わっていないと、皆をその両眼で睨みつける。

 

「話だと………!? いや、それよりも変化を解け!」

 

「ああ、そうだったな」

 

綱手の怒声に応じ、ボン、と変化が解ける音がする。

 

―――薄煙の先から、黒髪の青年の姿が現れた。服は暁の衣、両眼には輪廻眼があった。

「やはり、ペインか………! おのれ、ミフネをどうした!?」

 

「安全な場所で寝ているよ。ああ、お前達と一緒にするな。殺してはいない。俺が殺したいのはお前達忍びだけだからな」

 

「何だと!?」

 

あちこちから怒声がかかる。しかしペインは怯えることなく、憤怒を持って自分の想いを言葉にして叩きつけた。

 

「殺したいのはお前たちだけだと言ったんだよ。どれだけ愚行を繰り返しても、奪われた者を鑑みないお前たち忍者を!」

 

怒鳴り、拳を地面に叩きつける。

 

チャクラもなにもこめられていないその拳の先から、血が滲み出る。

 

「よくも語ってくれたものだ。殺した者を下に敷いて、無関係な人達の屍を山に何をほざいている。誰も納得してはいない、できるものか。強大な力を前に、黙っているしかなかっただけだ。誰も納得してはいない、小国ならば尚更だ。勝手に殺しておいて、自国の都合で他を蹂躙しておいて―――それを仕方ないだと!?」

 

拳を叩きつける。出血が酷くなったが、関係ないというように。

 

「だが、争いは集結した! まだ摩擦はあれど、各国が協力すればきっといつか、分かり合えるはずだ!」

 

我愛羅が叫ぶ。しかし、ペインは嘲笑をかぶせる。

 

「だからお前たちは馬鹿だと言うんだよ! 犯した過ちの根幹を理解せず、奪われた小国の想いなど見てはいない! 若いお前は知らないだろうが、かつて雨隠れと草隠れ、その他小国がどんな仕打ちを受けたか………!」

 

その言葉に、今度は雷影が反論した。

 

「だが、争いは避けられんものだ! 人類の歴史は争いの歴史、敵対する勢力もあれば守らなければならないものがある! 平和などと、譲歩すればそこをつけこまれる! 忍びが行動と力を尊重して、何がおかしい!」

 

雷影の叫び。だがペインは、それすらも嘲笑って言い返した。

 

「よりにもよって、お前たちが言うことか!? そもそも戦争を正当化しようとするな! そしてそんなに殺し合いたいのであらば、自国でやれ! 何故無関係な者を巻き込む!? なんの関係もない、日々を生きている者から………何故、奪う! 何故、殺す!?」

 

ペインは叫び、自らの血にまみれた拳を忍者全員に向けた。

 

その背後から、黒いチャクラが溢れ出す。

 

「俺は犠牲になった小国の者たち、そして今は語れぬ屍となった者達の代弁者だ! そしてかの山椒魚の半蔵のように、自らと忍里だけを守ろうと保身に走り、守るべき民を放り投げた愚者を裁く者! 傷つけられるという痛みを忘れ、驕る大国に痛みを知らしめる者、世界を蝕む負の思念をばらまく何よりの原因である、お前たち忍びを殺し尽くす者!」

ペインは腕を横に振り抜き、告げる。

 

 

「忍びによって隠された空を、太陽を開放するもの―――“暁”の首領、ペインだ!」

 

 

チャクラが、吹き荒れる。怒りと意志に満ちてあふれた、命の輝きが眼に見えて現れる

 

「だがその事実を知っても、お前たちは到底納得はできないだろうな――――譲れないものがあるなら」

 

だから来いよ、忍者共と。ペインは見回し、告げる。すでに臨戦態勢に入っている、五影を含む十五人。忍び世界でも、屈指の実力を持つだろう全員に向けて、宣戦を布告する

 

今、ここが開戦の場であると。

 

「お前たちの大国のお好きな"力"でもって………お前たちの全てを、否定してやる」

 

ペインの暴力的なチャクラが室内に充満した。皆はその異様に圧倒され、身体が硬直する。だが一人、動ける者がいた。ペインから向かって左にある幕が切り落とされ。

 

「最もだが、"だから滅びろ、死ね"と言われて――――」

 

背負う大刀が、それが誰なのかを告げていた。ペインに飛びかかる再不斬。それを見た水影が何事かを叫ぶが、再不斬はそれを無視して斬りかかった。

 

「はいそうですかと、頷けるかよ!!」

 

待機する場から、ひと跳躍。再不斬は体内門を開かない範囲で身体能力を限界にまで高め、ペインへと首斬り包丁を振り下ろした。

 

だが、大刀はペインには届かず、間に入った侍の脳天へ突き刺さった。そのまま、大刀は胸のあたりまで食い込んだ。

 

「なっ―――何!?」

 

予想外の事態に、一度驚く再不斬。だが次の瞬間、彼は別の意味で驚いた。切り裂いた頭部から血ではなく、黒い塊が漏れ出したからだ。全身を鎧、頭を兜と面で覆い隠された彼等。その中身は見えず、人としての証拠である"肌"の部分が見えない。そして血が出ずに、黒い何かがはみでるということは、答えは一つ。

 

「まさか、こいつら………!?」

 

その中身を察した再不斬は、また驚愕の声をあげた。切り裂かれた侍がそのまま膝を屈せず、身体の中央にまで食い込んだ大刀を腕で抱え込んだからだ。

 

固定された大刀は人外ともいえる力で固定される。大刀を引き抜こうとする再不斬、その両側面から別の侍が刀を抜き放ち、仕掛けた。

 

直後、側面から仕掛けた侍はクナイと巨大針に貫かれ、穴だらけになった。

 

「突っ込み過ぎだ!」

 

「一端下がるじゃん!」

 

再不斬はクナイを放ったのが誰かを、声で察した渋面をつくり、大刀から手を離して――――退かずに、突き刺さった大刀の柄を、両足で思いっきり踏みつけた。

 

「………!」

 

侍らしき者に突き刺さった大刀が、テコの原理によって上に引き抜かれた。再不斬は踏んだ柄を再び両手で握り締めると、背後にいるだろうペインごと切り裂くべく、全力で横薙ぎの一閃を放った。

 

胴から上下に、真っ二つになる侍。見えた向こう側に、ペインの姿は見えなかった。再不斬は逃げられたか、と舌打ちすると、侍の正体を皆に告げた。

 

「こいつら、侍じゃない! 中には十尾の断片が入っている人形だ!」

 

その言葉に、皆動いた。侍を殺すかどうかで迷っていた護衛の忍びが、次々と人形を引き裂いていった。

 

そうして、室内に居た偽侍が全て倒れた。直後、天井から声がかけられる。

 

皆はその方向を向き、叫ぶ。

 

「鉄の国の侍をどうした、ペイン!」

 

「ああ、ミフネと同じだ。偽装を悟らせないため、一部話せる者は瞳術で操って案内させたが………誰も、殺してはいない。操っていた者たちも、会談の最中にすでに外へと逃がしている。それよりも――――」

 

ぱちん、と指が鳴らされた。

 

「自分の心配をしたらどうだ。お前たちはもう、袋の鼠だぞ? 」

 

ペインの合図で、城を覆っていた結界が消失する。だが皆の胸に訪れた感情は、安堵ではなく恐怖だった。

 

「こ、れは…………まさか、貴様!?」

 

 

阻害する結界が消失したその後。部屋の周囲に展開されたのは、結界が消失したという開放感ではなく―――途方も無い程、質量をも伴なうほどの威圧感だったのだ。

 

存在感だけで、人間の身体を縛る。そのような存在を、一部の者たちはすでに見ていた。

 

「け、結界で覆ったのは、外からの観察を妨害するのではなく………!」

 

綱手は威圧感に身体を圧倒されながも、問いかけ、ペインは然りと口を歪めた。

 

 

「この城に展開させていた十尾を隠すためだよ――――1人残さず、潰れるがいい!」

 

 

ペインの纏う、暁のマントが翻る。気づけば天井一面と梁の要所、隅の部分に鉄の筒がばらまかれていた。

 

そして天井の向こう、隠されていた者を直視したカカシと、青が叫ぶ。

 

「な、この上に………!?」

 

「全員、部屋の外へ――――!」

 

 

その二人の言葉を終えぬうちに天井は爆発し、岩塊が散乱し。

 

その隙間から、圧倒的な質量を持つ黒い塊が流れ込んだ。

 

 

 

 


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