小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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17話 : 集結と予兆

 

雨隠れの某所。数十の鳥も囀る明朝、ペインはゼツと共に動きはじめた。

 

「……そろそろ、頃合か。あとは手はず通りに頼むぞ、ゼツ」

 

「うん、まかしといて~」

 

「アア、イサイショウチシタ。シカシ………」

 

ペインの言葉に、頷きながらも問いかけを残す黒い方のゼツ。なにかあるのか、とペインはどもるゼツに次の言葉を促した。

 

「アア………ナンダ。アンタ、オレラヲコロサナクテイイノカ?」

 

問いかける声。それに対し、ペインは振り返らずに答えた。

 

「歯向かうのなら容赦はしない」

 

見るものを震え上がらせるようなチャクラで、ペインは断言した。

 

「忍術を誰かに教えようとするなら、殺す。忘れるな。それを実行するなら、俺は必ず殺しに来るぞ。地の果てに逃げても追い詰め殺し尽くす」

 

何の感情もこめられていない声。事務的に、当たり前のことだという風なペインの口調に、ゼツは恐怖を覚えた。やがて沈黙の風が流れるが、数秒もするとペインのチャクラが弱まった。

 

「わざわざ試すように言うな……この好奇心馬鹿が。お前のことだ、実際はそうならないと思うがな」

 

そしてペインは歩き始める。

 

時間が、来たのだ。鐘を、鳴らす時が。

 

「……長かったな。あれから、もう何年経ったのか。あっという間だった気もするが」

 

そうして、ペインは暁のマントを羽織る。それは夜明けを夢見た親友にして家族。彼が望む空を示すもの。

 

「ようやくだ、弥彦、小南。待っていてくれよな」

 

 

ペインは背後、3つの石碑がある隠れ家を。

 

3人で使っていたアジトに振り返らず、告げた。

 

 

 

「行ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある隠れ家では。

 

「………用意はいい?」

 

「ああ。でも………この、キリハに頼んでいた衣装とやらだが………このデザインは正直、悪趣味じゃないか?」

 

メンマは身につけた黒いマントを見ながらマダオをジト目で見る。マダオは仕方ないよと苦笑を返した。

 

「後々の事を考えてね。かなり、効果的だと思うよ。少なくとも、これで追われることは無くなるはずだ」

 

「そーなのかー………あと、キューちゃん」

 

メンマはそこで九那実の方を見た。

 

「ん、なんじゃ?」

 

「戦いの後の話。生き残れたら、さ………何かしたい事とかある?」

 

じっと、見つめたまま聞くメンマ。キューちゃんは笑いながら―――眼を伏せる。

視線を交わさないまま、したいことを答えた。

 

「そうだな………自由に、旅がしたい。隠れることもなく、追われることなく………もう一度。美味しいものを食べながら、ゆっくりと色々な所を歩きまわりたいな」

 

懇願に似たもの。メンマは頷き、九那実に笑みを向けた。

 

「そっか――――分かった。うん、必ず連れていくよ。約束する」

 

「ああ………約束だ」

 

「………うん」

 

目を合わさない九那実。メンマはそれを見て、苦笑することしかできなかった。そのまま、黒い革の手袋をはめて、玄関を出ると気を落ち着かせるために深呼吸をした。

 

隠れ家の周囲に張られている結界を確認する。

 

「………装備オッケー。戸締りオッケー。準備万端―――覚悟、完了」

 

空を見上げる。晴れるかと思った空は、あいにくの曇り色だった。

 

―――まるで、これからの波乱を予期しているかのように。

 

メンマは一度だけ、隠れ家を方を振り返り、そして前を向いた。

 

 

「いってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、気をつけてな我愛羅」

 

「ああ、テマリもな」

 

鉄の国の国境付近にある、宿場町のひとつ。五影会談に向かう風影―――我愛羅一行は、いよいよ会談が行われる城へと向かおうとしていた。

 

「出来れば私もついていきたいんだけどな」

 

「急な特例だからな………仕方ない。まだ完治した訳でもないし、無理はしないでくれ」

「我愛羅………ああ、分かった」

 

いつの間にか成長したんだな。テマリは心の中で、人の体調を気遣えるようになった我愛羅の成長を喜ばしく思っていた。

 

「大丈夫じゃん、テマリ。我愛羅は俺とバキが守るから」

 

「……うむ。最善を尽くす」

 

真剣な顔で、でもちょっと軽い感じでカンクロウは言う。そしてバキはいつもの仏頂面だ。特に緊張した様子もなく、いつもの実力を発揮できそうな二人に対し、テマリは頼むぞ、と言った。

 

「テマリは心配性だな………アレを見たなら、気持ちも分かるが」

 

我愛羅は以前対峙した時の事を思い出し、身震いする。

 

「だが、全ての里が協力すればきっと………いや、今は先の会談に集中しなければな………もう、時間だ。行くぞ」

 

歩き始める我愛羅。その背後では、二人の従者が戸惑っていた。戸惑った理由は先の我愛羅の言葉。風影となった今の我愛羅にしては珍しく、希望的観測を思わせる言葉を発したからだ。バキは、あの我愛羅をしても恐怖を感じさせる、ペインという敵の脅威を改めて認識し。我愛羅と同じく実際に対峙したことのあるカンクロウは、苦笑いをしながら。

 

 

気を引き締めながら、件の城へと歩いていく我愛羅に追随していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カカシ、気づいたか?」

 

「城の入り口に張ってあった、あれのことですか。ま、一応は気づきましたよ」

 

「………えっ」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

話を振った綱手と応じたカカシが沈黙する。

 

「おいおいシズネ………年下の婿候補が確保できて有頂天になっているのは分かるが、ここは瀬戸際だから―――真面目にやれよ?」

 

「ほんと、正念場ですから……お願いです、気を引き締めて下さいね」

 

「うえええええ綱手様に言われた!? そしてあのカカシ上忍にも!?」

 

「………さて、シズネ。何故かここに赤い実があるんだ。つまり、ちょっと10個くらいかっくらってくれや」

 

「今はやめましょう火影様。戦闘が起こるかもしれないですし、それはちょっとキツすぎます――――やるなら後で。シズネさんのことです、手拍子やればきっと、ちょっといいとこ見せてくれますから」

 

「アヒィぃ!? って、止めないんですねカカシさんは!? あとそれ普通に死ねますから!?」

 

慌てるシズネ。笑う綱手に、カカシは苦笑を返した。そして前にいる侍に聞かれないよう、小声で二人に裏の話をした。

 

(ま、ここは気にしてもどうにもできないでしょ。他の人たちも気づいているようですし………)

 

笑いながら、綱手とシズネは案内の侍に聞こえないように、小声で会話をする。

 

(情報が少なすぎる、ここで迂闊に動くのはまずいな。会談も、まだ始まってさえいない。何もせんまま他里と揉めて解散するのは困る)

 

(はい。しかし………鉄の国って、侍しかいませんでしたよね。チャクラは使えるそうですけど…………封印系の術式を扱える使い手なんて、居ましたっけ?)

 

(………聞いてはいないが、確証もない。中立国だし親交と言えるほどの関係でもないから、正直分からん)

 

3人はそこから少し推論を重ねるが、情報があまりに少ないため結論に至ることはできなかった。

 

(………それは後回しで。そろそろですから準備はしておいて下さい。オレも念のため周囲を警戒しておきます。何が起きても………いつでも、対処できるように)

 

(分かった。だが、写輪眼はまだ使うなよ。まだ互いに黒か白かを疑っている状態だ。瞳術の行使は相手を刺激しすぎる、むやみに使うなよ)

 

(ええ、分かってます。しかし………)

 

と、カカシは目の前の侍を見ながら、訝しげな表情を浮かべた。

 

(侍の大将であるミフネと、案内をしてくれる侍はまだしも………)

 

それ以外で口を開いた者はいない。同時に結界札に感じたある違和感が何か意味のある

ことのようにも思える。

 

(どう転んでも、真っ当な会談になりそうじゃないか………やれやれ、用意だけはしておいた方がいいね)

 

カカシが方針を固めた後。

 

部屋の入り口の侍に促された3人は、その会談が行われる部屋の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、鉄の国周辺では、サスケは会談場の様子を離れた場所から監視していた。

 

同行しているのは勿論、隠れ家時代からの仲間であり、相棒でもある多由也。兄―――そして今では唯一の親類となる、うちはイタチ。メンマの事が気になる紫苑、護衛の菊夜、護衛のシン、サイ。見届けなければならないものを見ると言って、仕事を部下に任せて本部から出てきた、ザンゲツこと紅音。ペインと因縁を持つ、アジサイ。周囲の伏兵を探査する役として、香燐。計10人の大所帯であった。

 

「香燐、周辺の警戒は頼むぞ。周辺にも他里の忍者がいるだろう。そいつらに気取られて、邪魔されるのは面白くない」

 

ザンゲツが告げ、アジサイが頷く。

 

「なんでウチがこんなことを………」

 

「そうぶつくさ言いなさんなって。手当は出すし―――」

 

シンはそこで言葉を止めた。隣にいるサイは、木に登ろうとしているサスケに、視線で合図を送る。サスケはそれを見た後、木を登るのを中断し、前もってサイに教えられていた言葉を並べた。

 

「………えっと………『頼む、香燐。今回の遠征はお前が鍵となる………お前の生まれ持っての才能を、頼りにしてるからな』」

 

ポンと肩を叩いて言うサスケ。笑顔で割と棒読みだったが、至近距離でサスケの笑顔を直視した香燐は気づかず、むしろ顔を真っ赤にして元気よく叫んだ。

 

「―――任せてくれ、アリ一匹見逃さないからッッッッ!」

 

(………計画通り)

 

(なんで顔が赤くなるんだ………? まあやる気出してくれるって言ってるし………いいか、面倒くさい)

 

鈍感一途なサスケは、考えるのが面倒くさくなって結論を出す作業を中断する。ある意味魔窟であった隠れ家の中で彼なりに身につけた、処世術のひとつである。

 

(サスケ………と、恐らくはサイか。後でセッキョーな)

 

多由也は燃えている香燐の背中をにらみつつ、闘志を燃やしていた。

 

(どういうことなの………)

 

その横で若干一名―――というか唯一まともな感性を保持している菊夜が、複雑な人間関係から起こった寸劇を前にして、口を引きつらせていた。イタチも訳が分からないという顔をしていた。

 

「よっ、と」

 

妙な空気となった場を置き去りにして、サスケは目の前にある大樹に登っていく。高さは他の木々より少し低い程度。高い木に登る方が視界は確保できるので監視はしやすいのだが、逆を言えば相手からも見つけやすいということ。サスケは発見されるリスクを出来るだけ最小限に、と低い位置から木々の間をじっと見つめる。

 

そして、ようやくと視界を通せる木々の隙間を見つけた。そこからは、会談場となる城の、入り口が見える。

 

(まずは………我愛羅か)

 

砂隠れ一行が城の中へと入っていくのを確認。その後、しばらくして綱手達が城の中へ入っていくのを確認した。

 

(砂、木の葉、同盟国は揃い踏み………っと)

 

流石に大国の動きは早いと、サスケはそのまま監視を続けた。

 

(ていうか、カカシの野郎が遅刻してねえって………今日は嵐か?)

 

真っ当な感想を抱くサスケ。その十分程後、また新しい一行が現れた。

 

(あれは………再不斬か!)

 

あれだけの大剣を背負った忍者など、他には居ない。それに見れば見るほどに眉毛がない。見知った顔を見つけたサスケは、それが霧隠れの一行であることを知る。

 

(今代の水影は女だって聞いたが………あれがそうか。付き添いは再不斬と………もう一人は、片目を隠してるな)

 

隻眼か―――あるいは瞳術使い。水影の護衛となれば、後者の可能性が高いだろう。サスケはおおよその検討をつけながら、霧隠れの忍者で瞳術使いが居たかどうか、記憶の中を掘り返し思い出そうとする。

 

その時、下から小石が投げられた。

 

「ん、交代の時間か」

 

合図を受けたサスケは木から降りて皆が居る場所へと戻った。そして自分の見たものについて、皆に説明をする。

 

「砂、木の葉、霧の3里がそろったか………何かおかしな様子は?」

 

「カカシが遅刻してなかった。こいつは何か拙い事態の前触れかもしれない」

 

「………カカシさん。貴方、一体何を」

 

イタチはかつての先輩の動向に胸を痛めたが、真面目らしくサスケに問いなおした。サスケは口元に指をそえながら先の一行の様子を思い出しながら、観察の結果を答えた。

 

「そういえば、皆入り口で少し……あれは、戸惑っていたのか。一瞬だけど、城の上の方を見ていたような気がする」

 

「城、入り口、上か………分かった。交代して俺が監視しよう」

 

何が起きるか分からない以上、チャクラは温存しておいた方がいい。当初の予定通り、イタチはサスケと交代して木を登っていった。下に残ったサスケは、ザンゲツ達と話を続ける。

 

「定刻より一時間前か………かなり早いな」

 

「それはそうだろう。この緊張状態の中では、遅刻ひとつで何かしら不利な事態に陥れられかねん」

 

そもそもこんな状況で遅刻するような輩が、かの"影"に至れる訳がない。組織の首領でもあるザンゲツがそう告げると、皆はそれもそうかと頷いた。そうして、少し沈黙した瞬間。香燐が、はっと顔を上げた。

 

「っ! 誰かこっちに近づいてくるぞ、4時の方向、一人………遅いな、歩いて近づいてくる」

 

不審者が接近中。その報は、場に緊張感をもたらす。

 

「一人、かつ徒歩………周辺住民か?」

 

「分からん、が住民にしろ忍者にしろ、この場を見られると厄介だな」

 

どちらにせよ寝ていてもらおう。ザンゲツは即断すると、サイに命令をだそうとする。

 

 

―――その時だった。皆のもとへ、ゆらゆらと―――生物ではない、白い蝶が飛来してくる。

 

「これは、氷の蝶―――白か!」

 

見覚えのあるサスケは、近づいてくる者の正体に気づいた。

 

「ん、白って………眉毛無いおっさんと一緒に霧に戻った、あの美少女?」

 

「ああ、間違いない。氷遁を操れる者は他にいない。お前がナンパしようとした白だ」

 

「へえ………って、ぐほ!?」

 

シンは多由也から告げられた正体に頷いていると、不意に後頭部を殴られた。下手人に対し、振り返り怒る。

 

「ちょ、痛いんですけど!?」

 

「………知らん」

 

「あーあーもう修羅場ごちそうさまだけど今はよせお前ら。で、サスケと多由也、あの娘が近づいてくる理由は分かるか?」

 

「はっきりとは分からないが………手荒な対応はまずいと思う」

 

答えるサスケと多由也。ザンゲツは頷くと、少し間をおいて二人に質問した。

 

「その回答は………かつての仲間だからか?」

 

ザンゲツの、空気が変わった。それは人の上に立つ者がもつ、独特の雰囲気。サスケと多由也は動じず、淡々と答えていく。

 

「いいや、白は頭の切れる奴だ。だから、意味のないことはしない。と、いうことは………」

 

「なるほど。こちらに赴いたのも理由がある、か………ちなみに彼女の力量は?」

 

「上忍クラスだ。それより戦闘時の考察力が怖いな。頭の使いかたと状況の動かし方を知っているから………能力を知り尽くされている俺と多由也じゃ、正直補足するのは難しい。まあ、全力でやれば何とかなるが………」

 

「………派手な戦闘になる、か。周辺に配置されているだろう他里の者に見つかる可能性が高い………あとは、性格だな」

 

「いたって温厚。迂闊なことをするやつじゃないし、何より戦いを嫌っている。最も再不斬や里のため、退けない状況になれば躊躇わないだろうが――――」

 

組織の首領として問いかけるザンゲツに対し、サスケは誤魔化さずに手持ちの情報を話した。

 

―――今はそんな状況でもないし、ここで疑うような人物じゃない。ここで戦うのに意味はないし、逆効果になりかねない、とまっとうな根拠からくる結論を付け足して。

 

「そうだな………なら、呼んできてくれ。霧とは交流も浅いから、網が保持している情報も少ない」

 

「了解した」

 

頷いたサスケは、一応写輪眼で白の姿を確認する。そして間違いがないことが分かると、正面から近づいていった。サスケが見かけた白は、出会った頃と同じで、霧隠れの額当てをしていた。

 

「ん………サスケ君ですか。あ、多由也さんこんにちは」

 

「懐かしいな………面は、ないのか」

 

「久しぶり、という程でもないけど………また会えてよかったよ」

 

軽い挨拶を交わすと、白はサスケと多由也の「ついてきて欲しい」という要望に頷き、二人の後をついていった。3人は皆がいる場所までたどり着く。白はすっと、ザンゲツの前まで赴くと、こう尋ねた。

 

「失礼ですが………網の首領、ザンゲツ様」

 

「ふむ、何のようだ? まさか、私を殺しにきたとか」

 

「いや、何でそうなるんですか。僕は確認したい事があって、ここに来ただけですよ」

 

白は困ったように言うと、要件を告げた。

 

「例の会場ですが、どうやら何かしらの結界術が張られていましてね………」

 

そう言うと、白は事情を説明した。会場に入る前、傍付きとして鉄の国に入ることが許された護衛2人とは他に連れてきた、補助系の術を得意とする忍者。その忍者が会場の様子を探ろうと、"遠眼鏡の術"を使ったが、会場の中は見渡せなかったこと。そして、水影の護衛として追従した上忍、白眼を持っている青が会場を確認したが、同じく中までは見通せなかったこと。

 

「鉄の国の侍が結界術の類を操れるなんて、聞いたことがありません」

 

「ふむ、同じ中立の立場を維持し、鉄の国の侍衆と親交がある我らが何か知っているかもしれない、と?」

 

「その通りです。あるいは、メンマさんが紫苑さんと一緒に会場に入り込んで、結界術を使ったのかとも思いましたが………」

 

「ふむ、妾はここに居るから違うと判断したと」

 

「自分でも無理がある結論だと思っていたんですけどね」

 

「ああ。いくらあいつでも、五影と五里を敵に回すような愚は犯さないだろう。というか、そんな無茶無謀をする奴は馬鹿すぎる」

 

誰だってそーする、俺だってそーする。そう言って頷くサスケ。

 

――――だが、周囲の視線は何故だかどうしてか、冷たかった。

 

「なんだ、この、とてつもない"おまえが言うな"感は……」

 

「そうだよね兄さん、そんな無謀というか普通しないよね、自殺行為だもんね………でも説得力が感じられないのは、何故なんだろう」

 

「ごめんサスケ、何故かウチもそう感じた」

 

「えっと………すまない、ウチもだ」

 

裏切るシン、サイ、香燐、多由也。サスケは地面に座り込み、のの時を書き出す。そこに、監視を終えたイタチが飛び降りてきた。

 

「先程雲隠れの一行と、岩隠れの一行が城に入ったぞ…………って、サスケどうしたんだ」

 

イタチはサスケの様子を見るに、お前らが何か言ったのか、とそれとなく周囲を見渡した。別に敵意も何も含まれていない視線だったが、怒った時の怖さを知らないザンゲツとアジサイを覗く全員が、慌てて否定した。

 

「いや、何故そんなに焦る………別に俺は怒ってないぞ」

 

全くの他意なくたずねるイタチ。だが逆にそれが怖いと、先の戦闘で本気の殺気を見せられたシン、サイ、香燐、多由也は震えた。

 

「話が進まないですね………それで、こちらも得た情報を開示しますので」

 

「情報で取引か………構わんぞ、何から聞きたい?」

 

「それでは………」

 

ザンゲツの了承を得られた白は、色々と尋ね始めた。ザンゲツの方も、周囲に展開しているだろう隠れ里の忍びについて聞いていく。

 

「………では、あの結界術は侍のものではないと?」

 

「ああ。侍が使ったものではない。イタチが言うには、建物全体が結界で覆われているという話だしな。そんな術者など、こちらも聞いたことがない」

 

「鉄の国が特殊な術を使う人材を確保したという可能性は?」

 

「無い。それほどの術者なら、まず間違いなく噂がもれる。何よりあれだけの封印術だ。それならば血継限界か――――」

 

と、ザンゲツはそこで紫苑を横目でみる。

 

「忍者のような熟練のチャクラ使いが、しかるべき知識をもった師匠から教えを受けるしかない。そのような人物が、今の今まで誰にも見つからなかったなど………ありえん。

 そもそも鉄の国はよそ者に冷たい。この大事な時によそ者を引き入れ、その上で結界を展開するということの方がありえん」

 

「つまり、鉄の国の所業ではない………」

 

「その通りだ。そして、そこから出る結論はひとつだけだろう?」

 

ザンゲツの言葉に、白はため息をついて頭を抱えた。

 

「そうですね………五影が集まる会場、しかも場所は密閉空間の中。一網打尽にするのに好都合。加えて、十尾という存在もある」

 

「城の中に潜んで、待ち伏せか………各里が集まる時に、むやみに鉄の国と揉めるわけにもいかんだろうしな」

 

「………いや、先程見たのだが、察知した雷影は爆発寸前だったぞ。護衛の金髪の上忍がなんとか諌めていたが」

 

「噂通りだな………と、いうことは」

 

「五影会談の会場ですが空気が最悪です、という訳ですね分かります」

 

ペインと十尾の情報を持っている木の葉を除く他の里は、自分以外の者――――鉄の国を含む他の里を疑っていることだろう。

 

「恐らくはそうでしょうね。こちらとしては、残る尾獣を狙ってくると判断していましたが………ウタカタさんを霧隠れに残してきたのは、失敗でしたか」

 

「いや………木の葉も七尾を狙ってくるものだと判断しているだろうな。自来也様の姿がないのが証拠だ。三忍の一人が里に残った、ということは………里が襲撃されると判断したのだろう」

 

「その通りだと思います………情報、ありがとうございました」

 

「ふむ、ではこちらから聞いていいか?」

 

ザンゲツは白に、他里の忍者の動向について尋ねる。

 

「慣例に習い、鉄の国に各国の影と護衛の二人しか入っていません。道中の護衛を務めていた忍者達は、国境付近の宿場町に滞在しています」

 

「国境を超えた者はいないと?」

 

「ええ。こちらは網のみなさんとは違って、慣例を破ったのがばれると………致命的になりかねませんので」

 

「立場が悪くなる、か。お前はいいのか?」

 

「見つかりそうになったら消えますよ。この身体は影分身なので」

 

「氷の蝶での探索に加え、影分身か………チャクラをかなり消費しているようだが、よくこんな冒険に出たな」

 

「それだけ非常事態だということです。隠行は得意ですしね………まあ、昔取ったきねづかってところですか」

 

「………そういえば昔、短い間だが追い忍をしていた、って言ってたな」

 

多由也は隠れ家に居た頃、聞いた話を思い出した。

 

「ええ。それに………色々な人から頼まれたもので」

 

「ふむ、誰にだ?」

 

「結界が張られていると判明した後に、知り合いに会いましてね………具体的に言えば、風影殿の姉君と先代火影様のご息女です」

 

長十郎さんも慌てていましたし、と白はため息をついた。

 

「テマリとキリハも来ているか………やはりそちらは混乱状態なのか?」

 

「一触即発です。でも他里の皆さんもそれぞれの影から言い含められているのか、爆発はしていません。まあ、互いが互いを牽制していて、動くに動けない状態です」

 

「だが、各国の忍者が集まっているんだろう? 跳ねっ返りがいないとも限らない」

 

「まあ、血気盛んな雲隠れの少女………カルイ、って少女がなにやら鉄の国向けて突貫しようとしていましたが………同じ里の人でしょうか、胸の大きな人と波に乗りそうな頭皮ダメージ深刻な人に諌められていましたね」

 

「そ、そうか」

 

一部キーワードに発言に反応した者が居たが、速攻で黙らされた。長年の相方はツッコミどころを心得ているのであった。

 

「まあ後ろの馬鹿はおいといて………それでも、よく争いが起きなかったもんだな」

 

「ええ、実は………ひとりだけ。雲隠れの忍者で、とある爆弾を抱えた人がいましてね。迂闊に動くとそれこそ大惨事になりかねないので、皆自重せざるをえなかったんですよ」

誰だって第四忍界大戦の原因にはなりたくないですから、と白は遠い目をした。それを見た皆は、状況がかなり悪くなっていることを悟る。

 

「ふむ、だから情報を求めたのか」

 

「そのとおりです。それで、僕は早く戻らないといけません………なので、申しわけありませんがここで」

 

「ああ。何とか抑えていてくれ」

 

戦争はこちらも困る、とザンゲツは言う。

 

「そうですね…………っと、そういえばあの3人はここに居ないんですか?」

 

「目下絶賛暗躍中だ」

 

サスケと多由也は、白にこれまでの事情を説明する。それを聞いた白は、いつもの通りですね、と頷きながらきびすを返した。

 

「お、おい………あいつが心配じゃないのか?」

 

「そうは言いませんが………あの人はやる時は恐ろしく有能になる人ですからね。相手が相手ですが、あまり心配はしていません」

 

そうですよね、と白はサスケと多由也―――そして紫苑とシン、サイを見た。皆、メンマが今までどれだけの窮地を切り開いきたのかを、よく知っている人物。だが、白にとっては予想外なことに、返事をしたのはザンゲツだった。

 

「そうだな………必要であれば躊躇わない男だ。そしてここぞという時に、間違うような奴でもない」

 

ザンゲツは、自分がまだ紅音という名を名乗っていた頃――――後継者争いの時に起きた事件を思い出し、頷いた。

 

「一度決断したあいつを上回る自信は、私には無いな。皆も、同じことを思っているだろう?」

 

その問いかけに、まずサスケが頷いた。

 

「ああ。俺も、正面きって影と戦えと言われても何とかできる自信はあるが―――あいつと真剣勝負をしろ、と言われるのだけは御免だ」

 

「ふむ、お前はかの万華鏡写輪眼を使えるようになったのだろう。それなのに、御免だと?」

 

この場で唯一、メンマがどういった人物なのかを知らないアジサイが、サスケにたずねる。サスケは心底嫌な顔をして、その問いに答えた。

 

「ああ。戦いになる、ということは勝負に応じるってことだ。そして応じるということは、勝てると踏んだときだけ」

 

そうでなければ逃げるだけだろう、とサスケは言った。

 

「初戦で相手を分析し、次の戦闘では確実にこちらを打破できる戦術を使い挑んでくる。そして、それは恐らく実行されればこちらには避けられない類のものだ」

 

これほど嫌な相手がいるか、と。その問いかけに対し、皆は首を振った。

 

「そう、いない。そした戦いに応じるということは………あいつなりの、戦う理由があるということだ。そして勝つと決めた時のあいつの、踏み込みの速度は――――異常だ」

 

無意味な戦いはしない。だが、戦うと決め手、勝つ方法を考え、逃げる道を塞いだ後。

信念を自らの胸に立て、踏み出される馬鹿の一撃。

 

「だから、あいつは勝つさ。心配しているだろう木の葉の面々にはそう伝えてくれ」

「そうですね………普段はちょっとアレですけど、一尾と対峙した時の彼の姿は………正直、僕も危なかったですし」

 

「アレ?」

 

疑問符を浮かべたアジサイが、たずねる。

 

「ええ。ちょーっと、あの二人が出ていない時にね。じっと黙ったかと思うと、独り言を言う時がありまして」

 

「あれはちょっとな………脳内会話的なあれだし、仕方ないのかもしれんが。気い抜けて口に出しちまった時とか、誤魔化すために謎の言葉を発してるし」

 

口寄せしていない状態で、外出した時の事を思い出し、サスケと多由也、白は頷いた。

 

「そうですね………えっと“エル・プサイ・コンガリィ”でしたっけ?」

 

「いや、“エル・プサイ・コングルゥ”だ。特に意味はないらしいが」

 

白の間違いを訂正する多由也。不意にシンが、“こんな可愛い子が男の子のはずないじゃないか!”と叫びたくなったが、どう考えても氷漬けにされそうなので自重した。

 

「えっと、シンさん? ―――何やら邪悪な波動を感じたのですが」

 

「いつものことです」

 

「いつものことじゃの」

 

「ええ、本当に」

 

白が恫喝するが、サイ、紫苑、菊夜が何でもないと答えた。白はそうですか、と渋々ながらも頷く。

 

そして最後にお元気で、と皆に告げ――――黄昏るシンを無視し――情報を持ち帰るべく、宿場町がある方向へと去っていった。

 

 

――――そして。

 

 

城の中では五影と護衛の忍者、鉄の国の侍による合同会談が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 


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