小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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10話 : 五大国、隠れ里の動向

 

木の葉隠れの里から東の方向にある水の国、霧隠れの里の中央部。その水影の執務室には今、手練の忍び達が集まっていた。執務室の中央にある机。そこに座る五代目水影である照美メイは、正面に居る霧の忍刀七人衆の一員長十郎に対し、確認の言葉を投げかけた。

「それでは、四週間後に?」

 

「はい。そこで、ご、五影会談を行うとのことで……」

 

問われた長十郎は、少し言葉に詰まりながら答えた。気の弱い彼は、正面に座る水影は勿論のこと、その両端にいる里の相談役にも威圧感を感じているのであった。

 

「そう、分かったわ。それで………」

 

と、水影はそこで、斜め前に視線を向ける。そこには、七人衆の一人である霧隠れの鬼人、桃地再不斬の姿があった。水影は再不斬の方に視線を投げかけ、また言葉も投げかけた。

 

「再不斬。木の葉隠れから持ちかけられたこの件についてだけど、アナタはどう思う?」

「どう、と言われてもな。自分で判断すればいいだろ」

 

「私は今の火影を知らないし、外の忍び達も知らない。戦場でしか顔を合わせたことが無いから。だから、他の面……別の顔を知っているだろうアナタに聞いているのよ」

 

「と、言われてもな。俺も全てを知っている訳じゃない。それでよければ言うが?」

 

「……頼むわ」

 

「行くべきだろうよ。他の影の動向は知らないが、木の葉隠れの忍びだけは言い出した事を曲げない。それは分かっていると思うが」

 

「ええ。先代火影……三代目火影の人柄は知れ渡っているし、現火影もその弟子だと聞いた。罠が無いということは分かっている」

 

「だったら、行けばいい。むしろいい機会になるだろう――――かつての血霧の里のイメージを払拭するには」

 

「それはそうね………ずっと鎖国のような状態を続けていた訳だし。しかし、襲撃者に木の葉隠れの忍びが潜んでいたことが気に掛かる」

 

「どこかの誰かが仕掛けた罠に決まっているだろう。襲ってきたのは木の葉隠れだけじゃない、雲、砂、岩………狙ったように、大国の隠れ里だけだ。誰かが各隠れ里の忍びの死体を回収し、何らかの術を使って操っていたんだろうよ」

 

「誰か……それは、暁ではないと?」

 

「報告しただろうに。まあ、暁といえば暁だな。だが奴は、それを装っていただけだ。暁の一員といえばそうだが、下手人はそんな温いタマじゃないぜ」

 

「六道仙人か………俄には信じがたいが」

 

「俺もそうだ。この眼であの黒い化物を、化物と一緒に居た“アイツ”を見なけりゃ信じなかっただろうよ」

 

「そんなに、か?」

 

「ああ。ま、戻ってきてからそう時間も経っていないし、全てを把握していないが………この里の現戦力を叩き込んだとしても、勝てないだろうよ。五大国全ての戦力を注ぎこんでやっと、という所だな」

 

「……今のお前が、そこまで言う程なのか」

 

戦慄に、水影と相談役の言葉が僅かに震えた。戻ってきてから数度、再不斬の戦いぶりを見た彼女らは、彼の力量については把握していた。かつての鬼鮫に匹敵し、水影にも勝ろうかという程の鋭さを持っている事は周知の通りとなっているのだ。

 

「ああ。それに、奴は全部ひっくり返すつもりだぜ。他の里が襲撃された件についても聞いているんだろう」

 

「ああ。その中に、我が霧隠れの忍び――――行方不明になっていた者が混じっていたこともな」

 

「何処も似たような状況だ。なら、結論は一つだと思うぜ」

 

「………」

 

水影は沈黙した。他の誰も、言葉を発さない。事態の深刻さに頭を痛めているのだ。ただ一人、里の古株であり歴戦の勇でもある上忍、青は顔を上げていたが。彼はそのまま会議がお流れになるまで、じっと再不斬の方を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、再不斬」

 

「あ? なんだよおっさん」

 

「くっ、相変わらず口の聞き方を知らん………!」

 

横柄な再不斬のものいいに対し、青は渋面を作る。

 

「あー分かった分かった。すまんすまん。で、何の用があるんだ?」

 

それを見た再不斬は軽い謝罪を入れながら、青に話をすることを促す。青は、意外そうな表情を再不斬に向けた。

 

「なんだ、その抜けた顔は。俺の顔になんかついてんのか?」

 

「いや………随分と変わったと思ってな。昔のお前とのギャップに驚いているだけだ」

 

「あぁ?」

 

「いや、いい。それよりも先程の話だ。下手人とやらの力量は、本当にそれほどのものなのか?」

 

「はっ、相変わらず疑り深けえおっさんだな」

 

「慎重と言え。相手の力量を把握しておかねば危険だからな。それで、どうなんだ?」

 

「………一目“見た”だけでな。戦いたくないと。そう思ったのは始めてだったぜ」

 

鬼鮫ですらそうは思わなかった、と再不斬は言う。

 

「ありゃとびきりの災厄だ。しかも厄介なことに、相手が定まってやがる」

 

「相手だと?」

 

「俺達だよ。里の全部が襲われたんだ。察しがついてもおかしくなさそうなもんだがな――――はっ、霧も、悪い意味で平和ボケしたもんだぜ」

 

そう告げながら、再不斬は青に背を向けた。

 

「ウタカタの守りだけには気をつけろよ。アイツを奪われたら何もかもが終わっちまう」

そういい、去る再不斬。その背中に対し、青は何がしかの言葉をかけられない。ただ、黙って見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その時であった。執務室の窓から、湯のみが飛んできたのは。ガラスの割れる音に驚いた二人は、その場に硬直する。

 

その湯のみが飛んできた執務室、その中では二人の忍びが言い争っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、お嬢ちゃん? もう一度行ってくれないかしら?」

 

「え? いやだなあ、年を取ると耳まで遠くなるって本当だったんですね?」

 

執務室は一言で言えば地獄だった。中央には白と水影が対峙していた。そして互いに笑みでない笑みを浮かべながら、見つめ合っている。背後に、尋常でない殺気を浮かべながら。突然の修羅場に巻き込まれた長十郎は、ひとり部屋の隅でカタカタと震えていた。

 

里の上役は既にその場を逃げ出していた。彼らは経験故、危険をいち早く察していたのだ。君子危うきに近寄らず。彼らは危機を察した直後、即時の撤退を敢行。執務室の外へと逃れていたのだ。

 

一人逃げ遅れた若造のことなど、気に掛かるべくもなかった。むしろいい経験だと思っていたのであった。彼らは再不斬と青と同じで、部屋の中で展開していく事態を、外から見守っていた。

 

「も・う・い・ち・ど・い・え」

 

「はいはい。“活きの良い魚が手に入ったんですよ。それで、再不斬さんに伝えに来て……あと、夕食には遅れないようにとの言伝を”――――って、なんですかそんな怒りを顕にして」

 

怒ると皺が増えますよ? と行ってのける白。それに対し、水影は心の中で白から告げられた言葉を反芻していた。

 

(“イキ”のいい―――――夕食には、“遅れないように”!!?)

 

“嫁き遅れないように”。そう聞こえた水影は、白の顔に自分の顔を近づけ、言う。

 

「黙れ殺すぞ」

 

「はあ? ―――――ああ、“嫁き遅れ”とか聞こえたんですかまさか」

 

淡々と。白は、メイにとっての○禁ワードを口に出した。

 

「嫌だなあ、いってないですよ? ――――“嫁き遅れ”なんて」

 

(言ったァ~~~~~~~~?!)

 

窓の外の上役一同は心の中で叫んでいた。同時、悟った。今宵今晩この執務室で、世にも恐ろしい惨劇が繰り広げられるだろうと。血の雨が、降るだろうと。渦中の二人は更にヒートアップしていた。白熱ともいう。

 

「やだなあ、“嫁き遅れ”とか。そんな、だって“嫁き遅れ”ですよ? 水影様に対してそんな、“嫁き遅れ”だなんて言えるわけないじゃないですか」

 

「――――――」

 

禁句を連発する白。しかし、彼女の方も顔は笑っておらず、全身からほのかに殺気を発していた。

 

 

 

 

一方、部屋の外では再不斬と青を含めた霧隠れの手練達が、がくがくと恐怖に震えている。女二人の間から発せられる尾獣もかくや、という殺気に飲まれているのだ。青は、そうなった原因について、隣の再不斬に訊ねた。

 

「お、おい再不斬。白の奴はなんであんなに怒ってるんだ? 水影様が白に何か言ったのか?」

 

「い、いや……俺は知らないぞ。俺と白が戻ってきてからのはつい先日のことだぜ。あいつと会話を交わした覚えも……数える程しか無いしな。あと、白はずっと俺の傍にいたし、その時の会話も……いや、特別怒るようなことは………」

 

「いや、思い出せ。その時に何かあったのだ。俺は外に出ていてその場には居合わせてなかったが………いや、待てよ。お前が水影様に何か言われたのではないのか?」

 

「あん? アイツが俺に、か? いや、皮肉を言われただけだぜ。“里の隠れた英雄”だとか、“次代の水影”になれる可能性を持っている、とか」

 

譲る気もないくせに、と再不斬は鼻で笑った。

 

「……そうなのか。いや、他にあるはずだぞ。お前の事でなければ白はあんなに怒らんはずだ。何とかして思い出せ」

 

「………ああ、アイツと俺は同じような年、って話しになったな。そんで、近い年齢の奴はみな所帯を持っているとかなんとか。あと、俺の顔を間近で見ながら“顔、変わったわね”とも笑われたが――――」

 

つらつらと並べる再不斬。しかしその言葉は最後まで言い切ることができなかった。

 

「「「「 そ れ だ !」」」」

 

その場に居た霧隠れの忍び一同がハモり、大声を上げたからである。

 

「あん? ―――何がだよ」

 

だが再不斬はそこまで言われても気づかなった。それもムリがないことだと言えよう。霧隠れにいた頃も、再不斬はずっと一人だったのだ。彼の外見の怖さと忍刀七人衆という肩書は、女性を遠ざける原因となっていた。近くにいる女と言えば白しかいないし、任務で一緒になっても近寄られもしない。再不斬も、特にくのいちが自分を怖がっていることは知っていた。恐れられ、嫌われているだろうことも承知していた。だから、彼は水影の視線の意味を察することが出来なかったのである。乙女心が理解できない再不斬。そんな彼に青は青筋を浮かべながら、青が告げた。

 

「原因はお前だ! 二人を止めろ! あの地獄から長十郎を取り戻せ!」

 

見れば逃げ遅れた長十郎はひとり、神様に祈っていた。そのまま何処かに消えそうな勢いである。いつもは若造だということできつく当たる青でさえ哀れに思う程、末期的な状態になっていたのだ。

 

「訳が分からねえが……まあ、いいか」

 

どうせもう帰るし、と再不斬は頷き、白と水影の元へ歩いていく。

 

「おい、二人とも」

 

「何でしょう(かしら)?」

 

超至近距離でガンを飛ばし合っていた二人は再不斬の声に反応し、視線を向ける。互いに笑い顔。だがその眼は笑っていなかった。

 

部屋の隅でガタガタ震えながら神に祈っていた長十郎は、“すみません、命は、命だけは”とぶつぶつ繰り返し呟いていた。背中の大刀、忍刀七刀の一つヒラメカレイも恐怖に打ち震えていた。

 

「何って………家に帰るんだよ。昔の家はまだ残ってるんだろ? ほら、行くぞ白」

 

と言いながら、再不斬は白の頭をぽんぽんと叩いた。

 

「はい!」

 

元気よく返事をする白。だが、照美メイはそこに制止の言葉を挟み込もうとする。だが、時既に遅し。二人は瞬身の術を使い、部屋の外へと去っていったのであった。

 

 

「………あの、小娘が。いずれ、決着をつける必要がありそうね」

 

 

婚期を逃して、10年。五代目水影は、割と本気で焦っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「う………ここ、は」

 

背後、怯えて震えていた長次郎は殺気が消えた後回復し、何とか正気を取り戻していた。そのまま、部屋に佇んでいた水影に話しかける。

 

「あ、あの………水影様?」

 

「あら、何かしら長十郎」

 

「いえ、何でも無いです」

 

いつもの笑顔で言葉を返された長十郎は、先程まで繰り広げられていた修羅場を忘れた。きっと夢だ。長十郎は、そう思いたかったのである。部屋の外に居る上役と青達は、見た上で忘れた。長く生きれば忘れることも上手くなる。これも、年の功だと言えよう。

 

そんな周囲に見守られながら、水影は皆に命令を下した。

 

 

「さあ、長十郎。そこにいる青も……長老様方に報告をしてきて下さい。五影会談に向けて、色々と準備をしなければね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木の葉北東、雷の国。五大国の中でも随一の軍事力を誇る、雲隠れの里。その執務室中に、雷影を含む雲隠れの里の主要戦力、手練の忍び達が収集されていた。怪我をしている雷影の護衛含め、木の葉隠れから来た使者に対する返答を決めるためである。

 

雷影はその使者からの提案を聞くと、即座に答えを返した。

 

「五影会談か……分かった。木の葉隠れの使者には、その件について承知すること、会談に出席する旨を伝えておけ」

 

雷影の執務室。そのソファに座る雷影は、木の葉隠れの使者から言伝を預かったサムイに対し、雷影としての言葉を伝えた。

 

「承知致しました。それでは」

 

サムイが退室する。その後、雷影の側近であるシーが、雷影に確認を取る。

 

「先の襲撃。そして不審人物ですが……」

 

「うむ、裏はないだろう。ペインと名乗るあの忍び、まず真っ当な里の者ではない。使う術が異質に過ぎた」

 

答える雷影だが、倒された時の事を思い出し、忌々しげな顔になる。

 

「あの力量……どちらにせよ、尋常な輩でないのは確かだ。里を守り死んでいったユギトの為に、一刻も早く奴を殺さねばならん」

 

「はっ」

 

「ヨシ、そうと決まればこうしてはおれん! これから鍛錬をするぞ、付き合えお前たち!」

 

「あ、雷影様!?」

 

雷影はそのまま、執務室の窓を破る。ガラスの破片が当たりに散らばった。その破片に構わず、雷影は下へと降りていってしまう。焦り、止めようとしたシーは、止めようとした手が間に合わず、そのまま手を伸ばしたままの格好で硬直する。一拍置いて、溜息と共にその手をおろした。そこに、同じく雷影の側近である雲隠の上忍、ダルイが言葉を挟む。

「ボスなら大丈夫だぜ、シー。傷もここまで回復しているし。それに一度見た相手に二度負けるボスじゃあない。四週間後には全開になってるって」

 

「分かっているさ。だが、嫌な予感が止まらないんだよ」

 

「心配性だな」

 

「お前が考えなさすぎなんだ」

 

雷影とキラービーを除けば雲隠れでも随一の力量を誇るシー、ダルイの二人は、その場で口論を始めそうになる。

 

だが、その時。横から、八尾の人柱力キラービーの弟子。そして雲隠れのくのいち中でも有数の力量を持っている少女、カルイが言葉を挟んだ。

 

「えっと、大丈夫ですって! ほら、今度はキラービー様もついてるし」

 

活動的な少女であるカルイは、身振り手振りを混じえながらシーに大丈夫だということをアピールする。

 

「それに雷影様とキラービー様のコンビは、無敵! あんなへなちょこ野郎なんざ、一息でシオシオのパーですって!」

 

カルイは慣れない敬語を使いながら、上司でもあるシーに対し大声で告げた。それに対し、シーは呆れたような声で返す。

 

「見たこともないのに何故それが……というかカルイお前は前向きすぎだ。もっと考えてから………」

 

シーは溜息をつきながら、頭を抱える。雷影とキラービーの実力を知る彼も同じ事を考えてはいたが、今回の件は尋常ではない。慎重にあたるに越したことはないのだ。楽観的になるカルイに対し、何かを言おうとするシー。だが彼の言葉は途中で遮られる。再び横から言葉を挟まれたのだ。言葉を挟んだのはオモイ。カルイと同じく、キラービーを師に持つ、カルイとは違って後ろ向きが取り柄の少年である。

 

「シーさんの言うとおりだ、事態を軽く考えすぎるのはまずいぞ。相手は雷影様を倒しかけた程の手練……安易に考えては駄目だ。もしかしたら相手は伝説の怪獣かもしれない。常識外れの術を使う怪物かもしれない。人智を超えた化物である可能性も捨てきれない。もしそんな奴だったら、それで俺達がみんなやられてしまったら、雲隠れの里が壊滅させられるかも………」

 

どんどんと沈んで行くオモイ。そこに再び、シーの突っ込みが入った。

 

「おい、オモイ。お前は悲観的すぎるぞ」

 

今度は後ろ向きすぎるオモイの言葉に対し、苦言を定する。そしてそのまま、頭を抱えて一人思案にふける。

 

(はあ……火の国との国境付近、音隠れの里がある辺りで、黒い影が発見されたという報告も入っていることだし。どう考えてもすんなりと行きそうにないな)

 

頭痛がする、とシーはかぶりを振った。

 

「まあまあ。ほら、あそこ、キラービー様も演習に参加するようですし」

 

「そうだな………まあ、ここで考えていても同じか」

 

「そーそー。それに早く行かねーとぶん殴られそうだぜ」

 

「了解した……仕方ない、ダルイ。俺達もここから行くか」

 

シーは隣のダルイに飛び降りようと言う。ちなみにカルイとオモイはシーの説教が始まる前に、既に窓から飛び降りていた。

 

「いや、オレは普通に扉から降りて行くわ。追いついていくから、先に降りといて」

 

「………サボるなよ」

 

「今回は、流石にサボらねーよ。まあ、里の一大事だしな」

 

ダルイはシーにサムズアップを返し、扉から外に出て行く。彼は修行をサボリがちであった。だが、今回は違うこと、相手が手練であることを感じていたのだ。その背中はいつになく、やる気に道溢れていた。

 

シーは、ダルイの言葉に意表をつかれ、硬直したまま彼の背中を見送った。

 

そして扉が閉まったあと。シーはダルイの背中に一言、呟いた。

 

 

「………いや、普段から………サボってくれるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木の葉から北西にある土の国。人口、軍事力共に五大国の中で二位を誇る岩隠れの国では、土影と土影の側近である上忍、黒ツチと赤ツチが先の件について話しあっていた。議題は他国と同様、奪われた人柱力と里を襲った者について、そして五影会談についてのこと。

 

「五影会談か………ふむ、腰に爆弾抱えてるワシの気も知らんで」

 

無茶をさせよるわい、と岩隠れの土影、五影の中でも最高齢となる影が言った。

 

「ったってよおじじい。デイダラ兄をやったって奴、どう考えても尋常じゃあねえぜ。ウチの人柱力二人に雲の人柱力、あの雷影も死んじゃいねーが倒されたって話しだ」

 

土影の右にいるくのいち。雲隠れの中でも随一の実力を誇る、歴戦のくのいち黒ツチは肩をすくめながら軽口を叩く。

 

「暗部からの情報によると、あの砂隠れの風影でも適わなかったって話しだに。それに、里を襲ったやつらも結構強かったに」

 

左、岩山のような巨躯を誇る上忍、赤ツチは不安気な表情を浮かべながら相手の力量について分析をする。

 

「ふん、暁だけの仕業とも思えんしな………特にあの死体人形については、おかしいことが多すぎる。赤ツチ、里を襲ったやつらの死体は処置を施し、保管しているじゃろうな」

「勿論だに」

 

「そうか………人柱力が奪われたこと、他国に知られたら恥じゃ。秘密裏に回収するつもりじゃったが……どうもこの件、裏で繋がっていそうじゃな。それに」

 

「じじい、それじゃあ?」

 

「うむ。岩隠れも五影会談に出席する。裏で動いている者達の情報も必要じゃ。もしかしたら、他国の里が何かを掴んでいるやもしれん。互いの情報交換も必要じゃしな。他国が得た情報に頼るのは忍びとしての恥じゃが、このまま下手人が分からないままいがみ合い、戦争となるのも、まずい気がする」

 

「へっ、それで他国の里が仕掛けたことだって分かったらどうするつもりなんだよ」

 

「………然るべき処置を取らなきゃならんじゃろうな。場合によっては、五影会談で戦いになるやもしれん。このワシとしても、若造どもに舐められるのは我慢できん」

 

「おいおい、年寄りの冷や水はあぶねーぞ」

 

「バ、バカ者! このワシを誰じゃと思ッておる! 岩隠れ両天秤のオオノキと恐れられた土影じゃぜ!」

 

土影はそういうと立ち上がり、机を思いっきり叩いた。途端、鈍い音が執務室に響き渡る。

 

「おおおおぉォ………こ、腰が…………!」

 

「じじい………そろそろ引退するか? いつまでも栄光引きずってんじゃねーぞ」

 

「う、うるさいわい! こら、触るな赤ツチ! いらぬ世話じゃぜ!」

 

 

手を貸そうとする赤ツチに向け、土影は大声で怒鳴りつけた。

 

 

「まったく、頑固じじいが。それじゃあ、使者にゃあそう返事しとくぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土の国の南。木の葉からは西の方向にある、風の国が保持する里、砂隠れ。その中央、風影の執務室にはいつもの面子が揃っていた。

 

「テマリ、身体はもう大丈夫なのか?」

 

「心配ないよ我愛羅。それよりも五影会談の件だ。火影から話しが来てるそうだが、どうする?」

 

「出席しよう。ナルト達からも、連絡がない。それに暁の首領については、俺達もまだ多くは聞かされていないしな」

 

「暁か……残っているのは誰と誰だったじゃん?」

 

「首領のペインと、アロエっぽい何か。角都と飛段という奴は少し前に倒されたという話しだし……あとはうちはイタチがどうなったかが問題となるな」

 

「そうか……うちはサスケがどういう行動を取ったか、こちらも把握していないしな。あのサスケの力量を見るに、大丈夫そうだが」

 

「……風影様。テマリ、カンクロウ。それは例の九尾の人柱力からの?」

 

「ああ。信頼できる情報だ。最も、ナルトが全てを知っているとは限らないが」

 

「そこら辺はどうなんだろうね。あれから音沙汰無いし、会いにも来ないけど」

 

「テマリ、ひょっとして寂しいじゃん?」

 

「そこのバカンクロウ、後でセッキョーな。いや、ウチが言っているのはそういう話ではな………まあ、なくて」

 

テマリは何かを吹っ切るように、頭を横に振った。

 

「連絡が無いということが重要なんだ。協力して対処するなら、情報の共有は必須だ。だがその様子もないということは、何かしらの原因があるということだろう」

 

「ふむ………先週半ば頃、火の国北部で起きたことも気に掛かるしな」

 

「黒い影、か。火の国北部って確か音隠れの里が在るって場所だったよな?」

 

「そうじゃん。正確な位置は掴んでいないそうだけど、あの辺りに大蛇丸が潜伏してる、ってことは分かっていたじゃん」

 

「そうか………音隠れ、ということは尾獣が目的の襲撃という訳でもなさそうだな」

 

「情報が少なすぎるな。だからこそ、いい機会だ。この緊張状態では、迂闊に火影と接触する訳にもいかん」

 

「けど、尾獣と人柱力はもう数体捕獲されているじゃん。このままじゃあ暁の首領とやらが襲ってきた時、こちらも手が打てなくなりそうじゃん?」

 

「襲撃者の正体についても突き止める必要があるな………だからこその会談か、あるいは火影は何かを掴んでいるのかもしれん」

 

「ナルトもな」

 

「ああ。会談前に、接触してくる可能性もある。または他国から詳しい情報が得られれば、また襲撃者についての正体を突き止めれば、この緊張状態も解けるかもしれない」

 

「危険な賭けだがな………それで、護衛はどうする? 会談の場に連れていけるのは二人だけだと聞いたが」

 

「一人目はバキで………ふたりめは、カンクロウだ。テマリは会談が行われる会場近くで待機だ」

 

「な、我愛羅!?」

 

テマリが我愛羅に向かって叫ぶ。それもそうだろう、カンクロウよりテマリの方が単純な力量その他、色々な意味で上なのだから。しかし、我愛羅は首を横に振るだけだった。

 

「……先の戦闘の傷、まだ完治していなんだろう。それにカンクロウも上忍だ。先の戦闘で力量も上がったと聞くし、大丈夫だろう」

 

「テマリ………任しとけ、じゃん」

 

にかっと笑い親指を立てる歌舞伎役者。しかしテマリは、その親指を折にかかる。

 

「いてててて、いてーじゃん?! 何するじゃん!?」

 

「いや、なにかこう、言いようの無い怒りがこみ上げてきてな。許せ、愚弟」

 

「くっ………ったくナルトに会えないからって八つ当たりはないじゃん」

 

「――――聞こえてるぞカンザブロウ」

 

「カンクロウじゃん!? てか何故か光栄に思ってしまうじゃん?!」

 

ぎゃーぎゃーと言い争いを始めるテマリとカンクロウ。その二人をよそに、バキは我愛羅に問いかけた。

 

「九尾の人柱力………本当に大丈夫なのか? そいつと木の葉が結託している可能性は、あるいは敵に回る可能性も考えた方がいいのでは?」

 

「それは有り得ない。あいつは積極的に木の葉側に関わろうとしないし、何よりあいつは戦闘が嫌いなのでな。理由も野心も敵意も動機も無い相手を心配するより、暁の事を考えるべきだ。疑う必要があるならば、既に対処の策を練っている」

 

「………ふむ、即答可。それに、その眼。今のお前がそういうのならば、そうなのだろうな」

 

「ああ………お前も、随分とあっさり信じるのだな。少し意外だ」

 

「お前が変わったからだ―――皮肉が言えるほどに、お前が人間らしく、なったということだ」

 

「人間らしく、か」

 

反芻し、我愛羅は苦笑する。

 

「その仕草もそうだ。昔から色々と変わったということは分かっている。それは、里の皆も周知の通り………良い方に変わった、ということも。そんなお前の言葉、砂隠れの里を思って行動するお前の行動を、今更疑うつもりはない」

 

「そうか………すまない。お前には負担をかけると思うが」

 

「これでも里一番と言われている忍び頭だ。里の為ならば命もかけよう」

 

「頼もしいな。その頼もしさに頼ることになるが」

 

「構わない。あと、木の葉隠れの使者が待っている。出席とのことで、使者にはそう返答しておくが?」

 

「ああ、頼む」

 

バキが執務室から出て行く。その背中を見ながら、我愛羅は一つ溜息をつき風影の椅子から立ち上がり、窓へと向かう。

 

「何が起こっているか、か………鍵はおそらく、あいつらが握っているのだろう。だが、この不安はなんだ。何が起ころうとしている?」

 

 

我愛羅は窓の外から木の葉の方向を見て、呟く。

 

 

「お前は今何処にいるんだ、うずまきナルト――――小池メンマよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、木の葉隠れの里。空は曇り空で、夕方だというのにあたりは夜のように薄暗くなっていた。そんな中、戦死者達が眠るという石碑の前にひとり、石碑を見つめながら立っている者がいた。中肉中背、金の髪に青い瞳を持つ男。顔立ちはそれなりに整っていて、見た目活発そうな印象を受ける。しかしその顔は暗く、何かに迷っているかのように見えた。

 

その男の名前は、うずまきナルトという。そして、小池メンマとも言った。

 

「英雄、か………」

 

ぽつり呟き、メンマはその場に座り込む。彼は周囲から気配が途絶えた頃を見計らって、この石碑の前に来たのだ。変化の術を使うという選択肢もあったが、彼自身今回だけは素の姿のままでいたかった。元の姿のままで、この石碑の前に立ちたかったのであった。

 

「里を守り、死んでいったもの。木の葉隠れの里を守るため、誰かを殺し、そして死んでいったもの。自らの志の元に……」

 

一つ、言葉を並べ、その場面を想像する。今まで彼自身が見てきたものに符号させ、思い浮かべているのであった。

 

そのまま、時間が過ぎる。

 

やがて、雨が降り出した。

 

石碑が雨に濡れる。周囲の木々も雨水に打たれている。ぽつ、ぽつという音がメンマの耳に届く。何処の木が濡れて、何処の水が地面に落ちているのだろう。それを意識することなく、彼はじっと石碑を見つめていた。

 

その時、メンマの背後で音が鳴った。

 

ぐちゃり、という。泥になった地面を踏む音だ。

 

それを耳にした後、メンマはぽつり呟いた。

 

「やっと、来た」

 

小さい、だが確かな声でメンマは言う。その声は雨音に掻き消されてしまった。メンマの背後に現れた人物は、それが聞こえていたようだった。

 

声が聞こえた直後にその場で立ち止まり、そして立ちすくんでいた。見ずとも分かる。チャクラが萎え、生気も失ってそうな男に向けて、メンマは苦笑しながら話しかけた。

 

 

「………ほんと。待ちかねたよ、エロ仙人」

 

 

 

 


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