小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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9話 : 人の輪、外れた者

 

サスケの断末魔が響いた朝は過ぎて、その日の昼のことである。音忍襲撃事件に関わっていた面々は昼食を済ませた後、療養地におけるザンゲツの執務室の中に集められていた

 

「ふむ………うちはサスケ。また顔に紅葉を張り付けているが………ひょっとしてそういうのが趣味なのか?」

 

「………」

 

サスケの額から青筋が浮かび、ピキピキという音が鳴る。

 

「いや、冗談だ。しかし満身創痍だな………余程激しかったと見える」

 

「あの、ザンゲツ様」

 

からかいの言を続けようとするザンゲツに対し、サイはそのぐらいで、と止める。ザンゲツはつまらなさそうに頷くと、やがて深くひとつ、息を吐いた。

 

「………聞きたいことは分かっている。居なくなったあいつの事だな?」

 

「そのとおりだ。あいつが何処に行ったのか、知っているのならば教えてもらいたい」

 

サスケは真剣な顔でザンゲツに問う。隣の多由也も、サスケと同じで真剣な表情を浮かべていた。

 

「………とはいってもなあ。私も、あいつの行き先に関しては知らされておらんのだよ

 

「は?」

 

「少し前にな。二人でとあることについて話しはしたし、私も色々な情報を提供してもらった。しかし肝心の行き先については教えてもらえなかったよ。あいつは、何がしかの目的があって行方をくらましたようだが………その目的に関しても、隠したがっているようでな」

 

「隠したがっている………何をだ?」

 

「詳しくは知らんよ。ただいつになく落ち着かん様子だったし、何やら迷っているようにも見えた」

 

「会話の内容については………教えてもらえないだろうな」

 

「ああ、その情報は極秘もいいところでな。誰にも、話すことはできん」

 

「………絶対に?」

 

「ああ。死んでも話さん。何ならお前が昨日開眼したという、万華鏡写輪眼による催眠でも試してみるか?」

 

冗談混じりのザンゲツの言葉に対し、サスケは首を横に振る。

 

「いや、しないさ。そんなことをしても何もならないし、そもそもそんな使い方をしたくない」

 

「冗談だ。しかし開眼した万華鏡写輪眼か………特別な瞳術を使えると聞くが、使ってはみたのか? 聞くところによると、カブトと対峙した時でも、その瞳術は使わなかったらしいが」

 

「使わなかったというか、使いたくなかった。月読で昏倒させるよりも、雷遁・神雷であの眼鏡の土手っ腹を思いっきり蹴飛ばしたかった。それにこの眼は色々な意味で、また俺自身にとっても危険すぎる」

 

「ふむ………ならばこれから先も、その眼を進んで使うつもりはないと?」

 

「ああ。それに、色々と思うところがあってな。瞳術に頼りきって鍛えた技を忘れる方が嫌なんだよ。それに、何より………………眼に悪いだろ?」

 

サスケは口の端だけを上げて、笑みを浮かべた。ザンゲツはその返答に対して苦笑を浮かべ、違いないと言う。

 

「それで、本当に行く先とか、居場所に心当たりはないのか? 花火職人の話しを聞いても、何処に行ったかは分からなかったんだが」

 

「あいつらは何と言っていた?」

 

「打ち上げ花火だったか。あれの簡易版、手持ちかつ高くまで飛ばせるような、そんな装置を作ってくれと言っていたが」

 

「ふむ………」

 

「軽い、筒のようなものを飛ばす装置らしいが………それだけではな」

 

「行先は分からんか………ああ、そうだ。あいつが寝泊りしていた部屋に何か残っているかもしれないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンゲツから鍵を渡されたサスケと多由也。二人はシンとサイ、ホタルと紫苑を伴ないながら、ナルトが寝泊りしていた部屋の前に居た。先頭は一応、この面子の中での最高責任者であるシンである。

 

「ふむ、ナルトの部屋とのう………一体何があるのやら」

 

「見てみないと分からないが………まあ、何かあるだろう」

 

「滞在時間は短かったが、何か残ってるかもしれない。手がかりが見つかればいいけど」

「大丈夫ですよ、きっと」

 

「そうだね…………兄さん」

 

「分かった。じゃあ、開けるぞ」

 

シンが部屋の入り口にある扉のドアノブに鍵を差し入れ、回す。ガチン、という音と共に、鍵が開いた。

 

「お邪魔しまーす、って誰もいな―――」

 

シンがノブを回し、一歩部屋の中へと入り込んだ――――その時であった。

 

「へぶっ」

 

シンの頭に、タライが落ちた。ガイン、という音が鳴る。

 

「「「「…………」」」」

 

背後の5人。サスケ、多由也、サイ、ホタルに紫苑は、無言で顔を逸らした。あまりにもナイスタイミングでタライが落ちてきたため、見事に全員の笑いのツボに入ったのだ。

 

「いっつ~~~~っ、なんだよこれ!」

 

「何って………タライだろ」

 

「タライじゃな」

 

「タライ以外の何ものでもないぞ」

 

「タライ、だね」

 

「タライです!」

 

「全員で言わなくても分かってるよ!」

 

タライコール×5をされたシンは頭をさすりつつ、大声を上げた。

 

「つーか何でいきなりこんなもんが落ちて………」

 

「いや、ナルトの部屋だし。罠のひとつやふたつあっても別におかしくはないだろ」

 

「いやいやいや、どういう認識だよ。むしろ普通なのかこれは」

 

「どうもこうも………アイツ、こういうトラップの類か。罠張って陥れるの滅茶苦茶上手いぞ。ちょっと前だけど、罠を避ける訓練を受けた時に嫌と言うほど思い知らされたからな………」

 

控えめにいって地獄だった、とサスケは遠い眼をしていた。

 

「いや人の家の中に罠を仕掛けるなよ。罪なき掃除人さんがタライをくらったらどうすんだ。如何に温厚な掃除人さんだって、こんなの頭にぶつけられたら怒るだろ」

 

「いいや、その心配はないだろう。さっきちらっと感じたんだがな………鍵を使った時、何やらお前のチャクラに反応したようだったよ。つまりそれは………」

 

「忍者専用のトラップか………いや、俺達に対してのトラップなのか、これは。というか感じたんだったら先に言ってくれよ」

 

「すまん、伝える暇がなかった」

 

「はあ………まあいいか。さあ、何か残ってないか、手分けして探そうぜ」

 

サスケの言葉に一同は散らばり、探索を続ける。多由也は怪我が酷いため、ベッドの上で座って待っているだけだ。多由也本人は手伝いたがっていたのだが、サスケに止められていた。

 

「あった! これ、あいつの荷物袋じゃないか?」

 

「ああ、確かにアイツのだな。早速開けてみるといい」

 

「よしきた………って、この荷物袋にも罠が仕掛けられてるんじゃないか?」

 

「ちょっとまて………写輪眼!」

 

サスケは写輪眼を使い、荷物袋の中を見る。

 

「いや、罠らしきものはないようだぞ」

 

頷き、サスケはシンに対して開けることを促す。

 

「そうか。じゃあ、早速―――――」

 

シンはそれを聞き、荷物袋に手をかける。そして開かれた、その時である。

突如、袋の中から矢が飛び出し。その矢は寸分違わず、シンの額へと突き刺さった。

 

「ぐわっ!?」

 

安心しきった所に一撃を受けたシンは、仰向けにすっ転んだ。

 

「兄さん!? ってああ………なんだ、おもちゃの矢か。吸盤付きだね」

 

シンの額に突き刺さっている矢を見たサイが、安堵の息をつく。

 

「っつ~~~………って、おいおいサスケ君? 罠は無いはずじゃあなかったのかな?

 

「アア、スマン。オレノカンチガイダッタヨウダ」

 

棒読みで答えるサスケ。ちなみにその口はアルェーになっていた。

いわゆるひとつの“3~♪”である。

 

「くっ、朝の恨みか………報復とはね。意外と小さい男だなあ、うちはサスケ君?」

 

「はっ、何のことだか。それより矢の横、なんかついてんぞ」

 

「あ、矢の横に垂れ幕のようなものが………ん、何か書いてありますね」

 

ホタルは矢の横についていた布を引きちぎり、手にとる。

 

「なになに、“ラーメン一筋三百年” ………え、どういう意味でしょうかこれは」

 

「書いてある内容は実にあいつらしいが………一体どういった意味でつけたんだろう」

 

「いや、分からねえし知らねえよ。それより、っと!」

 

シンは額にくっついた矢を握り、思いっきり引っ張る。きゅぽん、という音と共に矢が外れた。

 

「ん、吸盤が。跡になってないかな、兄さ………」

 

サイが、シンの顔を覗き込む。そして吸盤がついた後を見て――――爆笑した。

 

「へ? ………え、何だよサイ」

 

いつになく笑っている弟の姿を見たシンが、戸惑を見せる。

 

「一体何が、ってブっ!」

 

のぞき込んだサスケは、その額を見た直後、腹を抱えながら膝づいた。そしてサスケもまた、笑う。多由也も笑っていた。肋が骨が肋骨がっ、と腹を抱えながら身悶えている。面白いけど折れた肋が痛いそうだ。紫苑はベッドをばんばん叩きながら、爆笑していた。ホタルは声もでないようで、無言のままベッドの顔をうずめていた。

 

「一体なんなんだよ! ってこれは!?」

 

と、シンが部屋にある鏡に近寄る。そして、自らの額を見たシンが、叫び声を上げた。

 

「何じゃ、こりゃあ!?」

 

吸盤の跡。そこには大きく、“麺”という文字が書かれていたのだ。

 

「吸盤の裏に仕込みやがったな………手の凝った事を! って、お前らも笑うなよ!?」

シンが必死に叫び声を上げる。しかし、しばらく一同の笑い声は収まらなかった。

そして、数分後。

 

「いやー、笑った笑った。お前もやるな、シン」

 

「心底嬉しくないよ。それより、ほら」

 

シンが袋の中から、とあるものを取り出す。

 

「これは………手紙か」

 

袋の中には、数束分の手紙が入っていた。サスケはそれを受け取り、裏の部分を見る。

 

「俺の名前………ということは、俺宛の手紙か」

 

「こっちはウチの名前だ」

 

二人は受け取ると、そのまま開こうとする。だがそれをシンが止めた。

 

「ちょっと待って。君たちそれぞれ宛の手紙なら、もしかしたら僕たちが見たら不味いものなのかもしれない。だから、それは各自の部屋で読みなよ」

 

「そうか………いや、そうかもしれない」

 

「うん。で、僕たちが聞いてもいいような内容なら、後で説明してくれればいい」

 

無理強いはしないけど、とシンが提案する。

 

「いや、言うさ。お前たちも………特に紫苑かな。あいつの行先について、知りたいだろうし」

 

「うむ、できれば頼む」

 

「了解。あと、もう一つあるようだけど」

 

「“矢を受けた君へ”って書いてますね。これ、シンさんが読んだらどうですか?」

 

「………ああ。読ませてもらおうか」

 

シンは手紙の封を切り、その中から紙を取り出した。

 

「え~、どれどれ。“貴方の額に突き刺さった矢は某金髪が作成したものです。本当は我愛羅に使おうと思っていたのですが、犯人がばればれなのと後が怖いため、我愛羅に使うのはやめました。代わりにどうぞ。これで君も、今日からラーメンマンに!”って、うるせえよ。マジかあいつ。ていうか某金髪ってどう考えてもあいつしかいねーし」

 

「ちなみに我愛羅とは誰ですか?」

 

ホタルがサスケに訊ねる。

 

「現砂隠れの里のトップ。一尾の人柱力でもある。五代目風影とも言うな」

 

「ひぇっ!?」

 

サスケの口から出た思いもよらないビッグネームに、ホタルが恐慌の声を上げる。仮免忍びでしかないホタルが驚く。一般人かれすれば雲の上の存在だ、驚かない方がおかしいだろう。隣で聞いていたシンも、ひきつった笑みを見せる。

 

「ってまじかよあいつ……ん、まだ続きがあるな。えーとなになに? “そのインクをすぐに消せる方法がある。だがそれはとても複雑なもので、ここに書けば長くなる。裏へと続くのだが、そこは勘弁して欲しい”」

 

「裏、ですか」

 

「おう、よかったよかった。これじゃあ、ナンパにも行けねーからな」

 

「えー、似合っておるのに」

 

紫苑がぶーぶーとブーイングをする。

 

「そうですよ。そのままナンパに行けばいいじゃないですか」

 

善意100%のホタルの言葉。しかしシンは、耳を貸さない。彼は年上趣味なのだから仕方ないと言えよう。

 

「なんでだよ。断固消すよ。消しまくるよ。で、方法って何だろな――――」

 

手紙を読んでいたシンが硬直する。裏面に書かれていた内容が内容だったからだ。

 

 

 

 

裏には、こうあった。

 

 

 

 

 

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ある日、その時、とある部屋。そこに一柱の阿修羅が顕現したという。同時刻に網の療養地が半壊したというが、その原因について、関係者一同は固く口を閉ざしたのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カブト達が捕獲された頃、時を同くして大蛇丸のアジト。火の国北の外れにある、洞穴の通路で一人、出口に向かって走る影があった。

 

「くっ………何だっていうのよ」

 

その影は洞穴の主でもある大蛇丸であった。大蛇丸は足音を気にしながら、後方を警戒しつつ走る。逃げるために。

 

「カブト達が出払っている隙に………いや、いても同じね。アレは」

 

突如隠れ家を急襲してきた襲撃者、先程まで戦っていた相手の力量を思い出し、大蛇丸はかぶりを振った。悪夢のような光景を思い出しているのだ。

 

「禁術クラスの忍術でも弾かれた。骨を使った体術も通じない。幻術はあの眼に看破される………くそ、あのガキが。随分とやってくれるじゃない」

 

同盟を組んでいたはずなのに、と忌々しげに言う大蛇丸。何故今更自分を襲ってきたのか、と考えるが、すぐに考えるのを辞めた。それよりも考えなければならないことがあったからである。今、大蛇丸が確かに理解していることは一つだ。それは今自分が襲われているということ。殺意を持って、自分の敵が自分の命を奪おうとしていることだ。ならば返せる答えは一つだけで、他にはない。大蛇丸はそう考えていた。

 

いつも通りに、彼は声高々に叫ぶ。殺意には、殺意による返答を。殺される前に殺す。とはいっても、大蛇丸は敵ではない相手、一般人でも自分の研究のためならば容赦なく殺すのだが。

 

「でも、癪だけど………あのガキは私よりも強い」

 

大蛇丸は一人呟き、舌打ちをした。先の戦闘の内容についてを思い出しているのだ。部下から“侵入者あり”との報告を受けたのは、十分ほど前だった。つまりは、そこから部下が全滅するまで十分ほど。その侵入者は大蛇丸の執務室にたどり着くと、問答無用で部屋の主―――大蛇丸に襲いかかった。

 

数回の攻防の後、相手の力量を察した大蛇丸は自分の不利を感じ、撤退を決意。身代わりの術を囮に、逃げだしたのだ。彼自身、このままでは勝ち目はないと思ったが故の逃走。それもそのはず、大蛇丸の放った忍術は侵入者が発した不可視の衝撃によって弾かた。

 

血継限界である骨――――身体の持ち主、君麻呂の血継限界である―――――を使った体術も通じず、侵入者は雷光のよう体捌きで大蛇丸の攻撃を全て躱したのだ。最後に放った幻術も、特殊な瞳の前に脆くも崩れ去った。

 

そのどれもが大蛇丸の得意とする類の術で、並の上忍であれな一撃で戦闘不能に陥れることができる程の威力を持っている。

 

それが全く通じないのであれば、大蛇丸にしても逃げるしかない。場所も悪かった。大蛇丸にしても、まだ使える術はあったが、狭い洞穴の部屋というのが問題となったのだ。大蛇丸は長年の研究により、多くの切り札とも言える術を開発してきたが、どれも狭い洞穴で使うようにはできておらず、下手をすれば洞穴が崩落してしまう程の威力を持っている。

 

「外ならば、あるいは………いや、その前に追いつけないかもしれないし、ね」

 

アジトである洞穴は色々あるが、この洞穴は迷路のように入り組んでいるのだ。そしてこの迷宮の全容は、大蛇丸しかしらない。長くうねった通路と、あちこちにある十字路。どれもが目印となるような特徴を持っておらず、一度迷えば熟練の忍びをもってしても、離脱できなくなる可能性を持っている。

 

「迷ったまま死んでくれてもいいんだけど………いや、そんなに上手くはいかないか。それよりも、何か手を………」

 

大蛇丸は走りながらも、思考を回転させていた。相手が迷っている時間を使って策を巡らせ、罠を張るためである。思考は回転し、大蛇丸の脳内に策がいくつか浮き上がる。

 

――――だが、とある地点にたどり着いた時。

 

その思考は突如、止まることとなった。演習場にもなっている、出口傍の大広間。その出口横に、置き去りにした筈の人物の姿があったからである。大蛇丸は一瞬だけ驚愕を顕にしたがすぐに冷静さを取り戻す。そして確認するように、目の前の人物に声をかけた。

 

「………何故。どうしてアナタが、ここにいるのかしら?」

 

大蛇丸は平常心を保ちながら、言葉を紡いだ。熟練の忍びの成せる業、冷静さを失わず相手に動揺を悟らせないそれはいっそ、見事だと言えるほどだ。だが、忌々しいという思いは隠さない。大蛇丸は敵意を顕に、待ち構えていた人物――――ペインに言葉をかけた

 

対するペインは無表情を保ったまま壁から身を離した。無言のまま、出口を塞ぐように立った。

 

「何故私を襲うのか、聞いてもいいかしら」

 

大蛇丸の苛立の言葉。それに対し、ペインは重い口を開いた。

 

「言わないと分からないのか?」

 

簡潔。だがその言葉の端に殺気を感じた大蛇丸は、目的を理解する。

 

「ふん。何故、と聞いても無駄でしょうね」

 

「いや、簡単だよ………要らなくなったからさ。まあ、お前の他にもう一人、消すべき奴がいるが………ここで死ぬお前には関係が無い話だな」

 

「くっ………」

 

ペインの言葉に舌打ちをし、大蛇丸は会話を続ける。

 

会話の途中に隙を見出そうとしているのだ。

 

「この出口に居たアナタ………どうやって先回りできたのかしらねえ。最短のルートを通らなければ、先回りなどできないはず。それともアナタ、この洞穴を全て把握しているとでも?」

 

「とある、人物に道を教えてもらった。お前を追っていると説明をすればな………その人物は俺に対して快く、道を教えてくれたさ」

 

「道を………? 馬鹿な、有り得ないわ。この洞穴の全容を知っているのは私だけ。洞穴の地図を書いた技師は私が殺したし、ここに居た部下も………洞穴の通路の、その一部しか知らないはずよ」

 

洞穴の工事は大蛇丸配下の忍びが行った。しかし洞穴といっても、ただ掘ればいいというものではない。掘りすぎてしまえば、土の壁が崩れてしまう危険性がある。だから、簡易とはいえど強度設計などを行う人物が必要だ。だから大蛇丸は技師に依頼をして、図面を作らせた。その後には勿論、秘密を保持するために永遠の口封じを敢行したのだが。

 

そしてペインは、それを知っている。先程、知ったのである。

 

「そうらしいな。草薙の剣で背後から一突きだったそうじゃないか。彼はただ一生懸命仕事をしただけだというのに…………酷いことをする」

 

「………そう。でも何故それを知っているのか、聞いてもいいかしら?」

 

大蛇丸が問う。ペインは少し黙った後、その問いに対する答えを返した。

 

「ああ、本人に聞いたからだよ。もうひとつ………恨みを晴らしてくれとも言われたがな」

 

「本人? 恨みですって? …………アナタは死んだ人間と話ができるということかしら?」

 

「場合によるがな。概ねその通りだと言っておこうか」

 

「馬鹿な事を………! おちょくっているの!? この、私を!」

 

大蛇丸の身体から殺気が発せられる。だがペインはそれを鼻で嗤うだけだった。

 

「馬鹿はお前だよ…………ほら、見えるだろう? 俺の後ろにあるものが」

 

まさか見えないとは言わないよな、とペインは言う。

 

「………?」

 

そこで大蛇丸は気づく。ペインの背後に、何やら黒いもやのようなものが浮かんでいることに。

 

「これは、幻術………? いえ、騙されないわよ。一体何の術かしら」

 

「幻術じゃないさ、大蛇丸。今ここにあるものは、紛れも無い現実が生み出したもの」

 

直後、無音の爆発が広間に響き渡った。

 

「なっ――――!?」

 

ペインの背後に薄く広がっていた、黒いもや。それが形を成し、一斉に溢れ出る。それを見た大蛇丸は、驚愕に顔を染めた。

 

「近くに散らばっているアジトにも言った。そこで行っていた事を知ったよ。随分と恨まれているな。ここまで恨まれている者などお目にかかったことが無いぞ」

 

一歩、ペインは大蛇丸に歩み寄る。大蛇丸は一歩、後退る。

 

「あそこに“居た”人間も、“居る”人間もな。その誰も彼もがお前の死を望んでいる、望んでいた。恨みを知れと叫んでいる――――声なき声で、叫んでいたよ」

 

ペインは遠くを見ながら、言葉を続ける。

 

「ふん、それでなくてもお前は消えるべきだがな。かつての英雄の成れの果ての、生ける屍よ」

 

更に一歩、歩み寄る。一歩、遠ざかろうとする。

 

「………成れの果て。生ける、屍ですって? ふん、見れば分かるでしょうに。私はまだ死んではいない。そしてこれからも永遠に生き続ける。事実、転生の術は完成したのよ

 

「自覚が無いというのは哀れなものだな大蛇丸。お前は永遠の生を願ったその時に死んだんだよ。一時は木の葉隠れの里、その忍び達から尊敬を集めた一人。木の葉の三忍の一人であるお前は。大蛇丸という一人の男は、その時に死んだのさ」

 

「何を………」

 

「人の命は永遠を生きるようにはできていない。凝縮されたものが撹拌され、薄くなってしまった。限られた時間の中に生きるから、人の命は輝くのだというに。今のお前は薄い。あいつ風に言えば、味の無いラーメン、ただの腐れた水だ」

 

故に生ける屍だ、とペインは言う。

 

「己の欲のために、それまでに築き上げた全てを捨てた―――その目的も滑稽に過ぎるよ。永遠などこの世の何処にも存在しないというのに。そんなに長く生きてどうするつもりなんだ? 望む未来もあっただろうに。それを忘れて何を望む」

 

「忍術を、真理を探求するに決まっているじゃない。私は、全てを知るために………!」

「摩耗した魂を持つ愚者よ、大蛇丸よ。腐れ果てたお前に理解できるものなど一つも無い。それに、それは見も知らない誰かに理不尽を強いてまですることでもない。最早災厄を散蒔くことしかできない“何か”になったな。クズという言葉すら生温い」

 

故に成れの果てとしか言いようがない、とペインは吐き捨てる。

 

「人の範疇から逸脱した。最早忍びですらもない。ケダモノにも成り得ないだろう。長く生きるというが、そう遠くない将来にお前の魂は崩れるさ。目に映るもの全て、何もかも分からなくなる。永遠に憑かれた哀れな道化。お前はやがて生き続ける事だけが目的になるだろう。鼓動を永らえる、そのためだけに人を襲うただの化物になるだろう」

 

そうなる前に、と。ペインは手を上にかざし、告げた。

 

 

「切り捨て外れた人の輪の果てで、たった一人。かつての理なく。そして志なく、心なく。人命を弄んだ愚物よ――――相応しい、似合いの惨めさで死んでいけ」

 

 

言葉と同時、広間の壁という壁から、黒い塊がにじみ出てくる。

 

 

「最後に彼らが感じた痛みを知れ。抱いたまま………黄泉の底へと落ちるがいい」

 

 

そこから先は語るまでもない。洞穴に、聞くも無惨な断末魔が響き渡ったのは確かである。

 

 

 

「あと、一人」

 

 

 

 


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