Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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完結編です。
いつになく長い。
stay nightとzeroのキャラが大量に出てきます。


目覚

「私のこと知ってるの?」

 

 状況を確認したかった私は見送りを終えて立ち去ろうとするセイバーを呼び止めて立ち話をした。

 この世界で私とセイバーが知り合った理由を知りたかった。

 先ほどの奇行については「ごめんなさい。変な夢を見ちゃって」と言って誤魔化した。

 士郎とイリヤスフィールからは変な目で見られた。

 師匠の面目台無しね。

 

「何を言っているのですか?あなたとサクラ、シロウとイリヤスフィールは兄弟弟子の関係ではありませんか?」

「ごめんなさい、変なこと言って。寝ぼけてたみたい」

 

 あ、そういえばセイバーがいるっていうことはギルガメッシュの目的って……

 

「げ!あなたは……」

「フハハハハ!奇遇だな!セイバー!これもまた運命か?

ついに我のものになる日が来たようだな!」

 

 ああ……これが目的か。

 セイバーは深くため息をついた。

 

「英雄王。毎日同じ時間に鉢合わせることをあなたは奇遇と呼ぶのですか?

白々しい。どうやって私の行動パターンを調べているのですか?」

 

 ギルガメッシュは高笑いして誤魔化した。

 コイツ……絶対人には言えないようなことしてるな。

 

「え?ひょっとしてストーキング?金ぴかヘンタイ……」

「お前。セイバーに好かれたいんならそれ逆効果だぞ」

「はい。正直言って気持ち悪いです」

 

 士郎とイリヤスフィール、それに何よりセイバー本人から言われて――ギルガメッシュは真っ白になって崩れ落ちた。

 

「では。シロウ、イリヤスフィール。また夕方迎えに参ります」

「凛……我は帰る。達者でな……」

 

 セイバーはきびきびとした足取りで、ギルガメッシュは力なくうなだれて去って行った。

 

 学校の方は特に変わりはなかった。美綴さんは私の知っているそのままだったし慎二はかわらず嫌味で柳洞くんはやっぱり私のことを警戒していた。

 藤村先生は相変わらず元気印全開で、違うところと言えば葛木が謎の疾走を遂げていたことぐらい。第五次聖杯戦争自体は行われたようだ。

 

 学校が終わると士郎とイリヤスフィールと桜に呼び出され迎えに来たセイバーと合流して士郎の家に行くことになった。

 

 信じられないことだけど桜はイリヤスフィールのお母さま――つまりアインツベルンのホムンクルス――に錬金術を教わっているらしい。

 お父様と士郎のお父さんが話し合ってそう決まったそうだ。確か、士郎のお父さんは「魔術殺し」なんて呼ばれるお父様みたいな魔術師とはどうやっても

相容れないような存在だったはず。どうやったらこんな風な関係になるのか想像もつかない。

 この世界では私と士郎は幼馴染で、士郎は私のことを「凛」と呼んでいる。確かに。「遠坂」じゃ誰のことを指してるかわからないものね。

 

「士郎、イリヤ。お帰り。

やあ、よく来たね。凛ちゃん、桜ちゃん」

 

 迎え入れてくれたのは三十代の半ばぐらいでボサボサの髪の男性だった。

 

 警戒していたけど――拍子抜けしてしまった。

 

 「魔術師殺し」と呼ばれたその人は優しくて少し頼りない雰囲気の普通の人に見えた。

 桜もまったく警戒している様子がない。いつもの穏やかな口調で「今日もよろしくお願いします」と挨拶した。

 続いて二人の父親――魔術師殺しの衛宮切嗣は士郎とイリヤスフィールに言った。

 

「士郎、イリヤ。ただいまのハグをしてくれるかい?」

「何言ってるんだよ。親父。そんなことするわけないだろ……」

「キリツグ、キモーい。セクハラオヤジ」

 

 え……これが魔術師殺し。

 子供たちにすげなくあしらわれた彼はがっくり項垂れた。

 

「……ちょっと待っていてくれるかい?アイリを呼んでくる」

 

 そう言って彼は奥に引っ込んで行った。

 続いて黙ってやり取りを見ていたセイバーが口を開いた。

 

「ではバイトに行って来ます」

 

 セイバーがバイト?

 この世界では天変地異でも起きたの?

 

「キリツグに穀潰しと言われてしまいました……」

 

 私が理由を聞くといかにも悔しそうな様子でセイバーが理由を答えた。

 

「かつてランスロットがギャラハッドからそう言われたのを聞きましたが

まさか私がそのような不名誉な称号を頂いてしまうとは……

このアルトリア・ペンドラゴン一生の不覚です」

 

「では、行ってまいります」と言ってセイバーは去って言った。

 

 それと入れ違いで女性が奥から出てきた。

 銀髪で赤い目。明らかにホムンクルスの風貌で、イリヤスフィールが仮に大人の姿になったらこうなるだろうという風貌の人物だった。

 

「士郎、イリヤ、お帰りなさい。凛ちゃん、桜ちゃんいつもありがとうね」

 

 アンドリューから聞いた、この人が第四次聖杯戦争の時の聖杯の器。

 名前は確か……

 

「アイリスフィールさん?」

「もう。やあね、凛ちゃん。アイリでいいって言ったじゃない?」

「……そうでしたね。アイリさん」

 

 彼女は一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに笑顔になって言葉をかえした。

 

「じゃあ、桜ちゃん。行きましょうか」

「はい。よろしくお願いします。アイリさん」

「じゃあ、士郎。気を付けて行ってらっしゃい。

凛ちゃん。ウチの息子をよろしくね」

 

××××××××××××

 

 信じられない展開の連続だ。

 桜は衛宮家で教えを受けていて士郎は遠坂家でお父様から教えを受けているらしい。

 士郎の投影の才能はこの世界でも同じで、教えるのを渋る切嗣さんに代わって「力の使い方は知っておかない危険」という理由で

お父様が魔術を教えているらしい。セイバーの言っていた通り私たちはこの世界で兄弟弟子だった。

 

 これだけ色々違っていたら、きっと士郎も私の知っている士郎と相当違うんだろう。

 思い切って聞いてみることにした。

 

「ねえ、士郎。これから変なことを聞くけど――答えたくないなら答えなくていいけど、できれば答えて」

「何だお前。今日は変だぞ」

 

 私はよっぽど真剣な顔をしていたらしい。

 士郎は気圧されて「まあいいけどさ」と答えた。

 

「私の一家とあなたの一家が同じ船に乗ってて突然、事故が起きたとするわ。

それで、仮にあなたしか船を直す技術がなくてあなたしか対処できる人が居なかったとする。

でも、その時、すぐ隣にも船が航行しててその船も事故が起きたとする。でも、その船にはあなたみたいな技術を持ってる人が居なくて

あなたはどっちか片方の船の人しか助けられない。

――そうしたら、あなた、どうする?」

 

 士郎は「本当に変なこと聞くんだな」と言うと少し考えて答えた。

 

「全員が助かる方法をギリギリまで考えるだろうけど――やっぱり身近な人を優先するだろうな。

爺さん、アイリさん、イリヤは家族だから当然だしセイバー藤ねえも桜もお前も家族みたいなもんだから……」

 

 ……そうなのね。

 この世界の士郎はあの「アーチャー」とは根本的に違う存在なのね。

 私がどんな表情をしていたのかわからない。

 でもきっとこの世界の士郎からしたらすごく変な顔をしたんだと思う。

 

「うん。いいの。

――また変なこと言うけど……安心した」

 

 心からそう思った。

 

××××××××××××

 

「ふむ。やはり桜は錬金の方が適性があるようだな」

「ええ、お父様。アイリさんも良くしてくれます。私、今日も褒められましたよ。『天才ね』ですって」

「お前の才能を持ってすれば当然の評価だ」

 

 夜は一家揃って食卓を囲んでいた。

 桜は私が知っている桜よりずっと快活で饒舌だった。

 

「家督を継ぐのは……性格を考慮するとやはり凛だろうが

桜の才能は凡俗に返すにはあまりに惜しいものだ。

お前は自分の道を究めるというやり方もある。

ともかく優秀な娘を二人も持って私は誇らしい。

互いに切磋琢磨してよきライバルでいて欲しいものだ」

 

 お父様はとても満足そうに見えた。

 

 ――充実してる。

 

 私は心からそう感じていた。

 

 時間が過ぎていくのが惜しく感じるぐらい、本当に満ち足りている。

 食卓を囲んで談笑しながら明日が来るのが楽しみで仕方がない。

 

 さあ、明日は何をしようか。

 

 ――そういえば、何か大事なことを忘れかけている気がする。

 何だったっけ?

 

 ――まあ、いいや。

 本当はそんなに大事なことじゃないのかも。

 

「やあ。リン。ここが君の生家か?中々趣味のいい邸宅だ」

 

 いつの間にか私の背後に男性が立っていた。

 私より一回りぐらい年上で細身で栗色の髪をしたニヒルな雰囲気のする外国人だった。

 

 誰だったかしら?

 

 知っているような気がする。

 

 確か……

 

「……アンドリュー?」

「いいぞ。かろうじて名前は憶えていたようだな」

 

 世界がストップモーションのようになって灰色に色を変えた。

 私とその人だけが動きを止めなかった。

 その人――アンドリューは私のもとに歩み寄ってきた。

 

「リン。君は芯の強い女性だ。だがその根本の部分では優しくてナイーブな部分がある。

こんな優しい幻想を見せられては惹かれてしまうのも已むをえまい」

 

 思い出せるような思い出せないようなもどかしい気持ちになってきた。

 

「こうして見ると君とサクラはやはりよく似ているな」

「……そう思う?」

「そっくりだよ。

――似ていないのはバストサイズぐらいだ」

 

 その一言で目が覚めた。

 

 まったくこの人は……

 

「あなたってホント最低ね」

「おかげで目が覚めたか?」

「おかげで目が覚めたわ。とりあえずありがとう」

 

 ――ああ、思い出しちゃた。

 

 ここはグリニッジだ。

 私とアンドリューはあの砂の中に取り込まれたんだった。

 

「さて、この通り僕はどうにか誘惑に勝った。というわけでこの戦いは僕らの勝利なわけだが、この幻想が崩れるまでまだ時間がある。

この礼装のない内部では取り込まれた人間同士が魔術的なパスで繋がっているらしく、魔術の素養がある人間であれば行き来ができる。

うまい具合に君の世界を俯瞰することができたのでね。折角なのでこの世界がどんな経緯を辿った世界なのか説明しよう。君も気になるだろう?」

「気になるけど……説明してる時間あるの?」

「ウェイバーが教えてくれただろう?『時間の流れが違う』と。

こうして話している間も向こうでは一回の瞬きすら終わっていないだろう」

 

 アンドリューはその目で見てきたすべてを語ってくれた。

 

 この世界は「ボタンが掛け違わなかった世界」らしい。

 

 まず、桜は間桐の家に養子に出されなかった。私の世界よりも早くこの世界では間桐の家の衰退がはじまっていて、もう養子をとってもどうにもならない

ぐらいに魔術師として終わっていた。他に養子に出す適当な家系もなかったため、桜はいずれ私のサポートをする立場の存在として育てられた。

 

 そして第四次聖杯戦争が起きた。遠坂は触媒からギルガメッシュの召喚に成功し、言峰綺礼を味方につけて共同戦線を張った。

 ここだけは現実の世界と一緒。でもそれ以外が違っていた。

 

 ギルガメッシュとお父様の相性は最悪だけど、この世界のギルガメッシュは不死の霊薬を探す旅から戻ってきた成熟した姿らしい。

 だからお父様の言うことも尊重してくれた。言峰綺礼は不意打ちでお父様を亡き者にしようとしたけど綺礼の悪心を悟ったギルガメッシュに返り討ちにされていた。

 綺礼が倒されて言峰璃正はこの地を去った。魔術の世界と完全に無縁になった雁夜おじさんはジャーナリストになって世界中を飛び回っている。

 

 信頼していた弟子の綺礼に裏切られたことはお父様にとって相当なショックだったらしい。

 散々考えた末、お父様はアインツベルンと同盟を結ぶことにした。これが遠坂家と衛宮家が交流を持つきっかけになった。

 セイバーを抱えるアインツベルン陣営とギルガメッシュを擁する遠坂家は順当に勝ち上がり、残ったセイバーとギルガメッシュは聖杯を求めて戦った。

 戦いの最中、取り込まれた英霊たちの霊核により聖杯が起動し始めた。聖杯から漏れた泥に触れたセイバーとギルガメッシュは聖杯がすでに汚染されていることを知った。

 

 セイバーとギルガメッシュは切嗣さんとお父様を説得し、令呪を使わせて聖杯を破壊した。

 セイバーはそのまま消滅し、ギルガメッシュは強力な自我で聖杯の泥に勝って受肉した。

 

 聖杯から漏れた泥のせいで火災は起きたけど、私の世界で起きたものよりも被害はずっと小さかったらしい。

 火災で家族を失った士郎は衛宮家で養子として育てられ、受肉したギルガメッシュはそのまま遠坂家に留まった。

 聖杯の器だったアイリスフィールさんは命を失いかけたけど、封印指定の人形遣いに新しい体を作ってもらいどうにか生き延びた。

 (その人形遣いの名前は私も知っていたけど、実在するとは思わなかった。仲介したのはアンドリューの叔父さんらしい)

 

 切嗣さんとアイリスフィールさんはお父様とギルガメッシュの協力でアインツベルンの城に捕らえられていたイリヤスフィールを救出。

 一家はあの武家屋敷で暮らし始め、ともに聖杯戦争を戦った遠坂家と切嗣さんの一家は交流を持つようになった。

 

 その十年後、第五次聖杯戦争が起きた。

 体内に埋め込まれたアヴァロンを触媒に士郎はセイバーを召喚。

 聖遺物を手に入れ損ねた私はあの赤い外套のアーチャーを召喚。

 受肉したギルガメッシュも加えて三騎の英霊を擁する私たちの陣営は順当に勝ち進み、聖杯に辿り着いた。

 

 第五次聖杯戦争に備えていたお父様たちは第四次聖杯戦争で縁を得たロード・エルメロイ二世と協力して今度は完全に聖杯を解体した。

 

 アーチャーは士郎が英霊エミヤになる可能性が無いことを悟り、安心して英霊の座に帰った。

 

 セイバーは本人の意思で士郎たちのもとに残った。

 

「え……でもちょっと待って」

 

 驚きの連続だったアンドリューの話が終わり呆然として――ふと疑問が頭をよぎった。

 

「先生の話だとこの世界って私の願望が具現化したものなのよね?」

「ああ、そうだ」

「私、ギルガメッシュの成熟した姿も士郎のお父さんのことも知らないわよ?どうして知らないものが私の世界にあるの?」

「簡単だよ。この砂にはただの礼装を超えた能力があるのさ」

 

 訳が分からなかったけど――

とんでもない結論を私の直感が告げていた。

 

「……ひょっとしてこの砂、聖遺物を真似してつくった礼装じゃなくて聖遺物そのもの?」

「ならば説明がつくだろう?聖遺物がその大いなる力で無数に存在する平行世界から可能性を引き出したんだ。

――まったく、お互いにとんでもない経験をしてしまったな」

 

 ああ、もう。

 どうしてこんなに災難体質なの……

 

「時間らしいな」

 

 灰色でストップモーションになっていた世界が文字通りにボロボロと崩れだした。

 

「では。現実の世界でまた会おう」

 

 少し口惜しかったけど、でも夢はもうお終い。

 

「ええ、そうね。夢は現実の世界で叶えてこそ……だものね」

 

 アンドリューはいつものニヒルな微笑ではなくにっこりと笑顔になった。

 

「それでいい。やはり君は尊敬に値する人物だ」

 

××××××××××××

 

 悪魔の誘惑は打倒され、残念ながら全員ではなかったが取り込まれた被害者の相当数が命を拾った。

 警察関係者と救急隊が押し寄せて大騒ぎになったあと、駆け付けた化野菱理と時計塔の法政科の面々に人払いされた。

 きっと今頃血眼のなって関係者の記憶を操作していることだろう。

 

 クロウリーとホイルは最初の段階でこの砂が実は礼装ではなくその元になった聖遺物そのものであることに気付いていたようだ。

 私と凛が現実世界に戻ってきたのを確認すると聖遺物の一部をこっそり拝借してそのまま退散していた。

 

 私はエミリーに頼んで士郎と凛を彼らのフラットに送ってもらうとそのまま時計塔の事後処理の手伝いに回った。

 ウェイバーは弟子たちを呼び出すと彼らに指示をしながらいつも以上の不機嫌を顔面に張り付けて事後処理を手伝っていた。

 彼の内弟子で顔なじみのグレイは「いつもすいません、アンドリューさん……」と私に謝罪しつつ師匠の不機嫌を宥めていた。

 

 

 数日後。

 私はウェイバーに呼び出され今にも崩壊しそうな彼のフラットを訪れていた。

 彼は私を迎え入れるとガラクタの山からどうにか一脚の椅子をサルベージして私に勧めた。

 

「ワンズワースの一件を覚えているか?」

 

 私が持参したテイクアウェイのコーヒーを一口啜ると、彼は唐突に口火を切った。

 切り出し方はともかく事件の経緯を説明してくれるらしい。

 「ああ、覚えているとも」と私は答えた。

 

「おそらく砂を蒔いたのはあの術者だろう。単独で起動する術式はあの術者が最も得意とするものだったからな。

ユダヤの家系のあの術者がキリスト教の聖人に纏わる聖遺物をどうやって手に入れたのかはわからんが――

発覚が遅れたのは人目に付くレベルにまで砂漠が成長するのに時間がかかったからだろうな」

 

 「そうか」と私は答えた。

 迷惑な人物とは死んでからも迷惑をかけるものらしい。

 

 彼はそのまま時計塔の事後対応を説明した。

 生き残った被害者たちは記憶を操作され、不慮の事故で昏睡状態になって入院していたことにされていた。

 砂は誘惑を破られたことでほぼ無力化されていたがそれでも聖遺物に違いはないため時計塔が研究目的で回収していた。

 

 説明し終えると彼は一度黙り込んだ。

 そして 

 

「お前が答えたくないのならば答えなくていいが――」

 

 彼は重たく口を開いた。

 

「お前はどうやって誘惑に打ち克った?」

 

 彼なりに私を気遣ってくれたようだが、隠すようなことでもない。

 私は謹んで説明申し上げることにした。

 

「僕の前に現れたのは、香港で失った両親と生まれてくることのなかった弟と妹――それと君も知っているあのユアン叔父さんだった」

 

 彼はいつもの仏頂面を浮かべて聞いている。

 私は続けた。

 

「あの世界で僕ら一家は揃って香港で生活をしていて、僕は早いうちに魔術の才覚を見出されて叔父さんの助手をしていた。

もっとも現実と違って叔父さんの魔術使い稼業は荒事とは無縁の代物だった。

生まれてくることなく母の胎内で亡くなった弟と妹はマクナイト家の血を継いでるとは思えぐらい素直でいい子たちだった。

穏やかなものだったよ。このままこの幻想に溺れるのもいいなと正直思った。――だがね」

「だが?」

 

 ウェイバーは私の逆説の接続詞を反復した。

 この先が重要なところだ。

 

「僕はこの通り皮肉屋なのでね。完全に我を失う前に叔父さんに聞いてみたんだ。

『叔父さんにもしものことがあった場合、叔父さんは最後に僕になんて言う?』ってね。

叔父さんはあの毛むくじゃらなご面相を見たことが無いくらい真剣にして

『しっかり生きろ。何より自分を大事にしろ』と宣った。

――それで一気に覚めたよ」

 

 短い沈黙があって、ウェイバーは腹を抱えて笑った。

 彼がこんな笑い方をするのを初めて見た。

 

「――まったくだ。それはお前が覚めるのも仕方あるまい。

あの御仁がそんなマトモなことを言うはずがない。理想の具現化とはいえさすがに美化し過ぎたな」

 

 どうにか笑いの波が収まった彼は的確な感想を述べた。

 「ああ。全くだ」と私は同意した。

 

「――それで、これも答えたくないならば答えなくていいが

……あの御仁、本当は最後になんと言ったんだ?」

 

 彼は質問を重ねた。

 ここまでくればとことんだ。

 私は一切の美化も虚飾もない事実を伝えた。

 

「『ハギスはマズいから食うな。あれはゲロと一緒に下水に流すものだ』

――それが最後の言葉だ。全く、最後までとことん上品な人だったよ」




聖杯戦争の経緯は全部設定を考えた訳ではないので、「ランスロットはどうしたの?」
「ヘラクレスはどうしたの?」という部分は曖昧です。要望あればその辺の経緯も別途書いてもいいかも。主眼として「桜が不幸な道を辿らないルート」「士郎が絶対にエミヤにならないルート」「アイリさんとイリヤが生きられるルート」を考えました。舞弥はキリツグのもとを離れてどこか別の場所で娘と一緒に暮らしてます。ゾウケンは消滅。

最後までお読みいただきありがとうございます。
次回の構想としてはロード・エルメロイ二世との事件簿第二弾を考えてます。

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