Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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別の原稿書いてたら間開いちゃいました。
全二回の予定だったのですが思った以上に長くなってしまったので全三回にします。
今回は連載依頼初めて凛視点になります。
アンドリューたちオリキャラはお休み。原作キャラしか出てきません。



夢幻

「姉さん」

 

 誰かの呼ぶ声で目が覚めた。

 

「おはようございます。姉さん」

 

 その人物は私のよく知っている人だった。

 

「……桜?」

「はい。私ですよ。姉さん」

 

 彼女、間桐桜は私の実の妹だ。

 よく知っている。本当によく知っているはずの人物だけど彼女の顔を見た瞬間に違和感を感じた。

 寝ぼけた頭のせいで違和感の正体がわからなかったが気づいた。

 彼女はもともと黒髪だったがマキリの術のせいで紫色に変色していた。

 でも、目の前にいる妹は私と同じ黒髪のままだった。

 

「私の顔に何かついていますか?」

「桜、その髪……」

「髪?私の髪がどうかしたんですか?」

 

 ようやく理解が追い付いてきた。

 そうか、この世界は……

 

 桜は不思議そうに私を見ている。 

 

「ううん。何でもないわ」

 

 ようやくそう言って誤魔化した。

 (いもうと)はにっこり笑って

 

「ふふふ。今日は一段とお寝坊さんですね。朝ごはんの準備が出来ています。

お父さまとお母さまがお待ちですよ」

 

 眠い目を擦りながら朝の支度を進める。

 さっきまで意識に靄がかかったような状態だったが今ははっきりわかる。

 ここはあの砂に捕らわれた世界の中だ。

 

 情報量が少なすぎてはっきりしないけど、どうやら桜はマキリの家に養子に出されなかったらしい。

 そして桜の言葉から推測すると……あの人たちも健在なのだろう。

 私はごくりと唾を飲み込んだ。 

 

 先生の話だとあの砂は捉えた人間にありとあらゆる誘惑を見せ、誘惑に屈した人間を取り込むらしい。

 「桜がマキリの家に養子に出せらなかったら」

 これは私が今までに何度も考えてきたことだ。

 幻とわかっていはいるけど変わらない姿の桜とまた会えて嬉しかった。

 

 支度を済ませて歩きなれた洋館の階段を降りる。

 階下からは誰かが談笑している声が聞こえる。

 

 リビングの扉を開けると……

 

 そこには二人の姿があった。

 

 若くして亡くなった私の父と母。

 遠坂時臣と遠坂葵が生前そのままの姿で居た。

 

 二人は交互に「おはよう」と私に挨拶をした。

 

 いったい私はどんな顔をしていたのだろう?

 こんなに優しくて残酷な世界。

 どんな顔をして応えればいいのかわからない。

 

 だがとにかく普通の表情ではなかったらしい。

 

「どうしたの?凛」

 

 と母に不思議そうに尋ねられた。

 

 私が「何でもありませんわ。お母さま」とどうにか答えると

 

「凛。今日はちゃんと起きたようだな」

 

 と紅茶を含みながら父が言った。

 やっぱりこの世界の私も朝には弱いらしい。

 

「当然です。お父様『常に余裕をもって優雅たれ』学校に遅刻ギリギリで駆け込むなんて恥ですから」

 

 朝食を済ませて家を出る。

 朝食は食べない主義だが、桜が毎日私のために用意してくれるためこの世界の私は毎日朝食を食べているらしい。

 

 朝練のために一足早く出た桜を見送る。

 

 私はゆっくりと朝食を済ませた。

 桜の料理は私の好みそのものだった。

 うん、そうよね。この世界は私の望みが具現化した世界なんだから……

 私は今、試されているのね。溺死しそうになるぐらいの幸福を見せて、それでも現実の世界に戻ろうと思えるかどうかを。

 やってやろうじゃないの。

 

 すると次の舞台は学校か。

 よし。

 

「行ってきます」

 

 両親に声をかけ、玄関を出ようとする。

 

「待て。凛」

 

 と予想もしない声が変えられた。

 この声……まさか。

 

 そこにはまさかの人物がいた。

 

「ギルガメッシュ……」

 

 顔が緊張で強張る。

 英雄王ギルガメッシュ。古代ウルクの王で数多存在する英霊のなかでもトップクラスの存在。

 聖杯戦争ではあのヘラクレス一方的に蹂躙した。

 性格は傲岸不遜で意に沿わなければどんな残虐行為も顔色一つ変えずにやって見せる。

 私の知っている第四次聖杯戦争では父さんは弟子の言峰綺礼に裏切られて命を奪われた。

 想像に過ぎないけど綺礼の裏切りにはコイツが噛んでいたのかも。

 

「どうした、凛。そのように怖れを含んで我を見るとは。ついに我の玉体にひれ伏したか?」

 

 コイツは言わせておけば……

 

「……一体何の用!?」

 

 語気を強めて精一杯強がって見せる。

 ギルガメッシュは冷たく笑って予想外の言葉を発した。

 

「貴様、何を言っている。我の見送りは貴様が幼少の頃からの習慣だろう。行くぞ。今日もこの我がついてやるのだ。

ひれ伏して感謝するがいい」

 

×××××××××××××

 

 ……信じられない。

 あのギルガメッシュと並んで歩いている。

 ギルガメッシュは上から目線ではあるけど私の話も聞いてくれる。

 私の知っているギルガメッシュよりずっと落ち着いて見える。

 そういえば第五次聖杯戦争のときより少し年長に見える。

 サーヴァントが年を取ることはありえないからこの英雄王は私が知っている英雄王より少し後の年代の姿なのだろう。

 雑談が続いたところ思い切って聞いてみる。

 

「ギルガメッシュ。あなたサーヴァントよね?」

「そうだが。それがどうした?」

「クラスは何だっけ?」

「貴様、その年で呆けたか?何なら我の若返りに霊薬をわけてやるぞ。

おっと済まんがその貧相な胸を巨大化させるのは我が至高の財を以っても不可能だ。神代の魔術すら超えている」

「殴るわよ?」

 

 私が語気を強めるとギルガメッシュは肩をすくめた。

 

「キャスターだ。有り得んことにな」

 

 聞いたことがある。サーヴァントは基本的に全盛期の姿で召喚されるけどその別側面が呼び出されることがあるって。

 このギルガメッシュはきっと賢王ギルガメッシュの側面が呼び出されたものなのだろう。

 

 話の端々からいくつかの推測ができた。

 このギルガメッシュが召喚されたのは第四次聖杯戦争の時らしい。これは私の知っている世界と一緒だ。

 そのあと、ギルガメッシュは英霊の座に返らず自分の意志で現世に留まったらしい。

 はっきりとは口にしていないけど、信じられないことにこの英霊は私と桜のことが気にいっているらしい。

 それが残った理由なのだろう。

 「ところで、桜の見送りはしなくていいの?」と聞いてみた。

 

「桜の見送りならすでに済ませてきたわ。痴れ者どもが。わざわざ別の時間に登校するとは。我が二度も見送りをする羽目になったではないか。

本来なら刎頸に値する行為だぞ」

 

 思わず笑ってしまった。

 そんなことを言ってはいるが彼の発言からは思いやりしか感じなかった。

 どうも英雄王は子供好きらしい。

 ギルガメッシュは「貴様、何がおかしい」と当然のように不快感を露にした。

 

「ギルガメッシュ。いつもありがとう」

 

 私がそう言うと「フン」と言ってそっぽをむいてしまった。

 そうしているうちに学校が見えてきて。

 今度は一体何が来るのだろう。

 そう思っていると正門の前に見慣れた人物たちがいた。

 

「だからセイバー。もう見送りはいいって……」

「ねえセイバー。気持ちは嬉しいんだけど高校生にもなって見送りなんてさすがに恥ずかしいんだけど……」

「駄目です。外の世界は危険がいっぱいなのです。

通学路までの間にあなたたちに何かあったら私はキリツグとアイリスフィールに顔向けできません!

あなたたちの守護は騎士の誓約です!」

 

 絶句してしまった。

 制服姿の二人――私のパートナーの衛宮士郎、聖杯戦争で戦ったイリヤスフィール・フォン・アインツベルン――に語気を強めて主張している人物。

 金砂を散らしたような髪、翡翠色の瞳、華奢な体。

 もう二度と会うことはできないであろう人……

 

 彼女は私に気づいたらしい。こちらを振り返った。

 

「おはようございます。リン」

 

 私の一時の大事な相棒、聖杯戦争を共に戦った英霊――セイバーのサーヴァント、アルトリア・ペンドラゴンは凛とした鈴を鳴らすような

声で私の名前を呼んだ。

 

 私は思わず彼女のことを抱きしめていた。

 

「え?凛!?」

「ちょっとどうしちゃったの?リン!?」

 

 士郎とイリヤスフィールの声が交錯していた。

 こんなニセモノの世界になんか屈しない。そう思ってはいるけど。

 衝動は止められなかった。




最後までお読みいただきありがとうございます。
次回、決着編です。

ちなみに↓の記事を寄稿してました。
https://oriver.style/cinema/ghost-in-the-shell-review/


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