Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

8 / 144
度々見ている方はすいません。
原稿締切で遅くなってしまいました。
今回はオリジナル要素かなり強めです。
調査不足なところがあり、変な部分もあると思いますが
どうか寛大な心でお読みください。
全2回でエピソード完結予定です。


London magus hunt
喰種


 ロンドンは珍しく晴れていた。

 こんな日は、ケンジントン・ガーデンズあたりで日光浴と洒落込みたい。

 私は、エミールのホテルを出ると、実際にそれを実行しようとした。

 

 エミールのホテルがある、パディントンからケンジントン・ゲーデンズは

 十分に歩ける範囲内にある。

 

 しばし日光浴を楽しんだら、ロイヤル・アルバート・ホールで適当なコンサートでも聴くか。

 

 楽しい1日のプランに思いを巡らせていると、私のモバイルフォンが鳴った。

 ディスプレイには、我が友であり、首都警察の刑事として日夜、犯罪と闘う

エミリー・オースティンの番号が表示されていた。

 

「Oh dear<全く>」

 

 そうつぶやくと私は通話ボタンをプッシュし、電話に出た。

 

「ハイ、こちらはアンドリュー・マクナイト。

ロンドン1ハンサムな万屋の魔術使いだ。

ご用件は何かな?」

 

×××××

 

 1時間後。

 私は薄暗くて寒い遺体安置所に通されていた。

 私の眼前では、ローストビーフにされた男性のものと思われる遺体が静かに横たわっていた。

 

 隣のエミリーが、淡々と事情を説明する。

 

「ガイシャの名前は、スコット・ウィギンズ。

ブリクストンの路地裏で通行人が発見して通報。

違法薬物所持の前科有りで、身元はHolmesでDNAがヒットし判明」

 

 男は実によく焼けていた。

 私は、遺体を検めると、一言つぶやく。

 

「よく焼けている。

ウェルダンってところだな」

 

 エミリーは私の発言を無視して続けた。

 

「同様のケースはもう今月だけで5件目よ」

「同様のケース?」

 

 エミリーは手帳を手に続けた。

 

「ガイシャの眼と口の中。

よく見てみてくれる?」

 

「気は進まんが。レディの要望なら仕方ない。

失礼するよ」

 

 そう言うと私は、再び遺体を検めた。

 

 瞼を押し開け、口を開け、確認すると、

 眼は赤く変色し、口にはキバのようなものが生えていた。

 

 ――やれやれだ

 

「この遺体だが、生前、人を襲撃していないか?」

「ええ、そうよ。

死亡推定時刻に発見場所場所付近で人を襲ってる」

「人に噛みついた?」

「ええ。

危険ドラッグの使用が疑われたけど、検出されず。

ねえ、どう考えても、異常だと思わない?

それであなたを呼んだの」

 

 私は大きく溜息すると言った。

 

「こいつはグール、正確にはそのなり損ないだ」

――大体見当がついたよ」

 

×××××

 

「グールは死徒、本物の吸血鬼のなり損ないだ。

あのガイシャが生前使ったのはドラッグじゃない。

魔術的な工程を経て作られた薬だ。

遺体から微かだが魔力の残滓を感じた。

恐らくだがこの事件のホシは魔術的な工程を施したドラッグを通常のドラッグに混ぜて流通させ、

ドラッグのヘビーユーザーで実験をしてるんだ」

 

 ニュースコットランドヤードのエミリーのデスクに通された私は、

出涸らしのような薄いコーヒーを口にしながら言った。

 

「実験?」

「吸血鬼化だよ。こいつが怪しい」

 

 私は愛用のPDAに1枚の写真を写し、彼女に見せた。

 

「アーベル・ミケルセン。コペンハーゲンで大々的に吸血鬼化の実験をやらかして、姿をくらませた。

そっちも何か分かっていることはないか?」

「最近、この男が出所してる」

 

 彼女はラップトップのディスプレイをこちらに向け、

そこに映る男の写真を指さした。

 

「レナード・グールド。違法薬物製造、売買の前科あり。

大学時代は化学専攻。その知識を基に高純度のメタンフェタミンを作ってた」

「なぜその男だと思う?それだけでは根拠に乏しいように思うが」

「あなたに声をかける前にこっちでも調べたの」

 

 そう言って彼女は手帳を取り出した。

 

「グールドは出所して間もなく、カナリーワーフのオフィスビルのテナントになってる。

名目は薬品製造会社。

それからほどなくして、出所不明の高純度なメタンフェタミンが流通。

しかも、メタンフェタミン流通の時期と、グール化した遺体の発見時期が重なってる。

これが偶然だと思う?」

「そのオフィスビルは調べたか?」

「ええ、任意で話を聞きに行った」

「結果は?」

「普通のオフィスワークだった。

グールドは3フロアを借りているけど、3フロア全部ね。

その代わり、あなたにもらったフーチに反応があったわ」

「強力な認識阻害魔術に

幻影を見せる結界を併用しているのだろうな」

「それと、オフィスの規模の割に電力消費量が多いことも分かってる」

「ということは、そこでドラッグも精製しているのか。

ドラッグを生成すれば強烈な匂いが発生するはずだが、

認識阻害魔術を使っているならその問題も解決だ。

中々賢いな。

誰もオフィス街のど真ん中でヤクを作っているなどとは

夢に思わない。

念のため、聞くが、近代的なオフィスビルなら、オフィス内に監視カメラがあるはずだ。

その映像は?」

「見たけど、これもただのオフィスワーク。

変に思って良く調べてみたらループ映像だったわ。

システムをハックされたのね」

「システム担当者は何て?」

「そこまで調べる給料はもらってないって」

「一理ある」

 

 私はエミリーの情報を頭の中で整理し始め、案を練った。

 今の状況では、どう考えても令状を取るに足る根拠がない。

 そうすると、取れる方法は限られている。

 

「つまり、君は僕にこのオフィスに不法侵入して、

結界を解いて欲しいと言っている訳だな?」

「そんなことは言ってないわ。

非公式なコンサルタントとして首都警察に協力して欲しいと言ってるの」

 

 彼女はにっこりとほほ笑むと、そう言った。

 女は魔性だ。

 

「で、もちろん協力してくれるんでしょ?」

「仕方がない。

まずは偵察だな。

すぐに始めよう」

 

 そう言って私が立ち上がるとモバイルフォンが鳴った。

 

「Andrew McKnight<アンドリュー・マクナイトだ>」

「……あ、えっと、アンドリュー?

私、遠坂凛よ」

「やあ、リン。

また君の可憐な声が聞けて嬉しいよ」

 

彼女、遠坂凛は私のウィットを無視すると、続けた。

 

「……ちょっと困ったことになって。

それで、あなたのことを思い出したの」

 

 彼女は婉曲的な表現を使いながら、彼女の問題

――要約すると、金に困っているという話をした。

 

 なるほど、彼女の得意とする宝石魔術は金がかかる。

 モゴモゴと口ごもり、尚も婉曲的表現を続ける彼女の話しぶりは中々に面白かったが

 年若いレディにこれ以上のことを言わせるのは無礼というものだろう。

 

 この国にはレディーファーストの習慣がある。

 英国紳士としてその誇るべき伝統は守りたい。

 

 私は尚もモゴモゴと婉曲的表現を続ける彼女の話を打ち切り、言った。

 

「ちょうど良い。パートタイムジョブをしないか?

何、簡単な仕事さ。

少しゴミ掃除の手伝いをしてもらうだけだ」




次でこのエピソード完了予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。