Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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スイマセン。
終電帰りの日が続いて書けませんでした。
ようやく更新です。
今回は短いです。


決意

 30分後、我々4人は10番目の犠牲者の

「犯行現場」に来ていた。

 

 現場は郊外にある公園だった。

 事件の影響か人影はまばらで空模様が怪しいことを除けば

緑に溢れ、静かな心安らぐ場所と言えなくもなかった。

 

 感覚を研ぎ澄ませ、魔力の解析を始める。

 わずかだが魔力の残滓が感じられた。

 「リン、君の方はどうだ?」と有能なる我が相棒に聞くと、彼女もやはり魔術の痕跡を発見していた。

 「痕跡が隠しきれてない。はっきりいって2流の術者ね」というのが彼女の評だった。

 さらに凛によると魔術使用の痕跡だけでなく、人ならざる何かの魔力痕もあるとのことだった。

 

 おめでとう少年。

 魔術も妖怪も実在することが証明できた。

 

 その後、今後の計画を議論した結果、我々はショーン少年を小さなワトソンとして従えることになった。

 いや、それは正確ではないな。私がワトソンで凛がホームズ。少年はベイカー街遊撃隊というところか。

 

「ヒノサキ、君は同行しないのか?」

 

 私は当然の疑問を投げかけた。

 日御碕は言った。

 

「私は他にも仕事があるから。

ごめんね。貧乏暇なしなんだ。

あ、報告はちょうだいね」

 

 結果、私と凛はショーン少年を探査機として従え、毎日学校の放課後三人でパトロールに出ることになった。

 

 日御碕は別の金稼ぎに精を出す前に我々に置き土産を残して行った。

 

 今まで起きた15件の事件の発生場所についての情報のまとめだった。

 

 新聞やテレビやネットからも入手可能な情報ではあったがニュースソースとして扱いが小さいこれらの事件の断片を

つなげ合わせるのはかなりの骨であったろう。

 

 その点は素直に感謝することにした。

 

 また日御碕は事件の起きた場所を線で結ぶと円形になるというごく簡単だが

非常に興味深い事実を導きだしていた。

 

 実にわかりやすい。

 相手は凛によると大した術師ではないらしいが犯罪者としてもパッとしないらしい。

 

 この円の範囲内を探索すればその内、感動の初対面を果たせる可能性が高いわけだ。

 

 我々はショーンに翌日学校の放課後に迎えに行くことを約束し、宿泊しているシティホテルに戻った。

 

 ホテルの建物は最新とはいえないがよく手入れが行き届いており

香港流の強烈によく効いた冷房を除けばなかなか快適だった。

 

 私は一度部屋に戻ると凛と合流し食事をとった。

 デパートのフードコートで手早く済ませたがかなり美味だった。

 又焼飯と菜心のオイスターソース掛けのセットが一人50HK$。ロンドンなら倍は取られているだろう。

 凛は品質の高い料理が安価な値段で出てくることに感動していた。

 

 食事がてら私は凛といくばくかの雑談に興じた。

 主に初めて訪れた香港に対する感想だ。

 彼女は「ここに来ることになった理由を考えると不謹慎だけど」と前置きしたうえで

「正直楽しいわ」と一言感想を述べた。

 

 彼女によると幼いころからあまり旅行をした経験がないらしい。

 そう考えてみれば当然だ。

 彼女は冬木という重要な霊地の管理者(セカンドオーナー)であり気安く土地を離れられない。

 それこそ時計塔留学という重要な理由でもなければ。

 

「初めて会ったときに言ったと思うけど……私、基本的に快楽主義者なの。

あなたの仕事を手伝うのは魔術の本流からは離れているのかもしれないけど、士郎との生活は楽しいし

あなたと色々なところに行って仕事をするのも好きだわ。

あの子の……桜の事を思うと心苦しいけどね」

 

 やはり魔術師らしくない思考だ。

 だからこそ私は色々と彼女におせっかいを焼いているわけだが。

 

 私はその素直な感想に対して言った。

 

「人生を楽しむのは大事なことだ。確かにサクラは今苦しんでいるがそれと君が今楽しいかどうかは別問題だ。

それに、この仕事を完遂すればサクラを解放してあげることが出来る。

その時は君がサクラに人生の楽しみ方を教えてあげればいい。君ならできるよ」

 

 凛はただ「そうね」とだけ答えた。

 

 食事を終えると尖沙咀東部海濱公園に向かった。

 観光が目的でこの街に来たわけではないが初めてこの街を訪れる訪問者が一緒だ。

 100万ドルの夜景を見逃すのはもったいなすぎる。

 

 尖沙咀東部海濱公園はオフシーズンにも関わらず多くの観光客でごった返していた。

 途中、我々が日本語で会話していることに気付いた学生と思しき日本人の5人組がら

写真を頼まれた。

 凛は快くそれに対応していた。

 

 時間になりアナウンスとともにショーが始まる。

 

 ウォーターフロントの向こう側で高層ビル群に光のシャワーが浴びせられる。

 

 香港は移り変わりの激しい街だ。

 その光景は来るたびに記憶にあるものと少しづつ違っている。

 だが、夜景の美しさだけはいつも同じだ。

 

 凛はその光景に見入っていた。

 「今度はシロウと一緒に来るといい」

 

 私がそう言うと凛はほんのり頬を赤らめて「そうね」と笑顔で答えた。

 

 素朴ないい笑顔だった。

 私は改めて彼女に好感を持った。

 

 ショーが終わるとまっすぐホテルに帰った。

 凛は「お休み」とだけ言って自分の部屋に消えて行った。

 

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 

 翌日、14時50分きっかりに私はショーンの通う小学校の正門前で待っていた。

 小学校は閑静な住宅街の1角にあった。

 

 チャイムが鳴り児童たちが校舎を出てくる。

 

 10分ほど待っているとショーンが出てきた。

 彼は2人の少年――おそらく友達なのだろう――と連れだって出てきた。

 そして我々の姿に気がつくと2人の友達から離れ小走りで我々のもとにやってきた。

 

「やあ。ショーン。良い子にしてたかい?」

少年は「はい」と返事を返したうえさらに続けた。

 

「マクナイトさん、トオサカさん。お待たせしました。よろしくお願いします」

 

 礼儀正しい少年だ。

 私は言った。

 

「敬称付きで呼んでもらえるのは嬉しいが、それ疲れないか?

気安く呼んでもらって構わないよ。いいだろ?リン」

 

 凛は私の提案に小さく頷いて答えた。

 

 ショーンは少し困った顔していたがやがて再び口を開いた。

 

「じゃあ……よろしくお願いします。アンドリュー、リン」




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