Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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すいません。体調崩してました。
もう大丈夫です。

新エピソード一発目はやはりセルフリメイクです。
すいません。しばらくこの方向性で行きます。
あと原作キャラがほとんど出てきません。
よろしければどうぞ。


Oxford Ghost Story
亡霊


 年が明けたある日。

 私は衛宮士郎と遠坂凛に彼らのフラットでのささやかな新年会に呼ばれていた。

 

 新年は日本に里帰りした2人だったが独り身で身内も居ない私のことを気にかけてくれていたらしい。

 やはり気持ちの良い若者たちだ。

 

 私は心ばかりの手土産を片手に彼らのフラットを訪れた。

 往訪した私をいつものように士郎が温顔で私を迎えてくれた。

 

「やあ、シロウ。こういう時日本語では何という言うんだったか……ああ、そうだ。

明けましておめでとう」

「ああ、おめでとう。アンドリュー」

 

 私たちのやり取りを聞いていたのか奥にいる凛も「おめでとう」の一言で迎えてくれた。

 

「これは手土産だ」

 

 フラットに招き入れられた私は我ながら気の利いた手土産を真なる部屋の主である凛に渡した。

 

「森伊蔵?よく手に入ったわね」

「気前のいい友人が譲ってくれてね」

 

 実際、譲ってくれた風宮和人は友人ではないが気前のいいのは事実だ。

 風宮は資産家で唸るほどの金を持っている。

 魔術師は資産の運用には気を使うがあの男は金儲けも得意だ。

 お抱えの術者たちによる治癒魔術と祈祷はよく効くと評判で客足が耐えない。

 祈祷の結果、客の身に訪れた幸運や奇跡的な病気の治癒は偶然の範囲内ですむように調整しているので

 魔術協会の掲げる神秘の秘匿にも抵触しない。

 

 風宮は「恵まれない知人に施しをするのは高貴な者の務めだ」と宣い毎年新年に高価な何かを送ってくれる。

 純粋な厚意なのか純粋な嫌味なのか、それとも毎年の贈り物に500年分の呪いでも詰まっているのか解らないが厚意でも嫌味でも商品の価値は変わらないし、仮に500年分の呪いが詰まっていたとしてもどうせ500年後には私はとっくに死んでいる。

 

 とにかくそのありがたい贈り物を士郎手製の正月料理と共に我々は楽しんだ。

 

 私が桜や大河と対面したこともあり我々の間には共通の話題も増えて会話は弾んだ。

 

 だいぶ迷ったが私は間桐桜の問題の事を凛と士郎に話していた。

 凛と桜は姉妹だがその間には魔術師の世界特有の深くて重い問題が横たわっていた。

 凛は私からその事実を聞くと激しく狼狽し憔悴するほど悩んだ。

 そして何日も迷った挙句、ある結論に達し以前よりも快活になっていた。

 話して良かったと思った。  

 

 風宮から譲ってもらった森伊蔵が空になり。

 サマセット・クロウリーから貰った30年物のマッカランが空になり。

 藤村大河が日本から送ってくれた安酒に手を付け始めるころ。

 なぜか怪談話をする流れになっていた。

 

 日頃から神秘に嫌と言うほど接している我々魔術師が怪談話とは妙だが、

特に凛が乗り気だった。

 

 日頃から饒舌で聡明な彼女は色々な話を仕込んでおり、酔いも手伝ってかいつも以上に饒舌だった。

 

「アンドリュー。あなたは何かないの?

イギリスの人ってそういう話、好きなんでしょ?」

 

 午前2時ごろ凛が私にそう水を向けた。

 

 ふむ。さすがいいところをついてくる。

 私は何秒か思考を巡らせこの場に取って置きの話があることを思い出した。

 

「2年ほど前のことだ」

 

 

×××××

 

 どんよりした曇り空が広がる冬のある日。

 そう、確か年があけてそろそろ1ヶ月という頃だった。

 いつものようにエミールの小汚いホテルで惰眠を貪っていた私のモバイルフォンが鳴った。

 ディスプレイに表示されたのはよく知っている番号だった。

 私は電話を取ると言った。

 

「やあ、ソフィー。クリスマスはどうだった?」

「最悪。クロウリーの気まぐれに強引につき合わさせられて、ボクシングデーまで台無しにされた」

「災難だったな」

 

 電話の相手、首都警察の女刑事、ソフィー・エヴァンズはいつもの愛好を崩してそう言った。

 勘違いのないように言っておくが、ソフィーはさっぱりとした好人物だ。

 彼女が誰かの悪口を言うのを聞いたことがない。

 サマセット・クロウリーは唯一の例外だ。

 

「ところで、仕事しない?」

「ものによるが、一応聞こう」

「場所がオックスフォードなんだけど、アンドリュー、あなた今、暇でしょ?」

「どうして暇だと思う?」

「『ヘルズ・キッチン~地獄の厨房』の再放送を見てるでしょ?音でわかる。

暇なときに真っ先にやることだって前に言ってたよね?」

 

 まことに遺憾ながらそのとおりだった。

 しかしそのような習慣を口走ってしまうとは。

 まったく私のお喋りも度し難い。

 

 ベルリンで過酷な仕事を終えたばかりの私はサボタージュを決め込みたかったが、

暇なことを見破られている上に、最近、荒事続きで消耗した装備を一新したため、

懐具合が少々さびしかった。

 そしてソフィーは友人だ。無碍に断れない。

 私は電話の相手に聞こえないよう小さくため息をつくと言った。

 

「現場を見せてもらうよ。手回しを頼む」

「オーケー。ありがとう。私は同行できないけどよろしくね」 

 

 私はことのあらましをソフィーから聞くと、荷物をまとめ、ヴィクトリアコーチステーション発の

オックスフォード行き長距離バス(コーチ)に乗り込んだ。

 

 事件のあらましはこうだ。

 

  その日、大学一年生のアレクサンドラ・ジェイムズは

寮の自室で浅い午睡を取っていた。

 時間のある時の彼女の習慣だ。

 アレクサンドラは仲の良かった姉、シャーロットを一ヶ月前に事故で亡くしていた。

 

 外はイングランド特有の小雨が降り屋根に跳ね返った雨粒が心地よいプレリュードを奏でていた。

 

 うとうとし始めていた彼女だったが不穏な気配に気が付き、目を覚ますと

窓の外に誰か立っていた。

 

 アレクサンドラの部屋は5階にある。

 ベランダに誰かが立っているとすれば、それはルームメイトのジェシカか

あるいは5階に住んでいる悪党を成敗しに来たロールシャッハの他にはあり得ないはずだった。

 

 陽は落ちかけ、空は薄暗闇に覆われていた。

 そして薄暗闇の中には、その人物の着ていた

 目の覚めるような鮮やかなイエローのスプリングコートがくっきりと浮かび上がっていた。

 

 奇妙なことにそのコートは他ならぬ亡くなったシャーロットが好んで着ていたものだった。

 なによりもそんな悪趣味なコートをエレガントに着こなせるのは

亡き姉以外には存在しない。

 少なくともアレクサンドラはそう確信していた。

 

 どの程度の時間が経っただろうか。

 アレクサンドラは絞り出すように一言口にした。

 

「…シェリー?」

 

 いつもの呼びなれた愛称でアレクサンドラは姉の名を呼んだ。

 

 するとその人物は部屋の中を振り返るようなそぶりを見せ――

カーテンの陰に隠れてしまった。

 

 しばし、呆然としていたアレクサンドラだが

 やがて立ちあがりまだ覚醒しきっていない頭のまま窓際まで歩いて行った。

 しかし、そこには誰も立っていなかった。

 

 そして、彼女はベランダの外壁に奇妙な物があることに気が付いた。

 

 それは、いくつかの人間の手形と

「Adieu Alex(さようなら、アレックス)」

というメッセージだった。

 

 彼女は気が動転し、とにかく誰かを呼ぼうと部屋を駆け出して行った。

 そして、ちょうど部屋に戻ってくるところだった。

 ルームメイトのジェシカを廊下で捕まえ再び自室のベランダに出た時には

手形もメッセージもまるで魔法使いのバア様が放った屁のように跡形もなく消えていた。

 

 アレクサンドラは姉をなくしたことでやや精神的に不安定になっていた。

 その事件以来気持ちが落ち着かなくなった彼女は遠縁の親戚であるソフィーが刑事をしていることを

思い出し、かくして私は夢見る尖塔の街を訪れることになった。

 

 確かにただ事ではない。

 幽霊とは死後もこの世に姿を残す卓越した能力者の残留思念あるいはその空間の記憶のことだ。

 亡くなったシャーロット・ジェイムズは前者の例に当てはまらない。

 彼女の家系は魔術とはまったく無縁だ。彼女は魔術使いであるソフィーの親戚にあたるが

そもそもソフィーの魔術回路はサマセット・クロウリーによって後天的に埋め込まれたものであり

彼女も彼女の親戚も魔術とはまったく縁がない。

 

 後者は純粋な記録で、魔眼憑きか血縁関係などの近しい者にしか視ることはできない。

 条件さえそろえば近親者の彼女が姉の霊を見ても不思議ではないが、彼女が

霊を見たと主張している場所はオックスフォード、シャーロットが事故で亡くなったのは海の向こうのロサンゼルスだ。

 

 正直皆目検討のつかない事態だった。ソフィーは私に頼む前に自分でも解析をしたが理由がわからず。

 次にクロウリーに協力を依頼したがすげなく断られ、かくしてロンドン1男前な魔術使いの私の出番となったわけだ。

 

 バスは空いていた。当然だ。月曜日の朝にロンドン発オックスフォード行のコーチに乗るのは暇人かオックスフォードに向かうゴーストバスターぐらいだろう。

 

 乗客は私を含め6人だった。

 

 そのうち2人はフランス人のカップルで私の左後方の席で愛を囁きあっていた。

 そのうち2人はイタリア人のカップルで私の右後方の席で愛を囁きあっていた。

 のこる私を除いた1人はアフリカ系の男性で一番後ろの席で居心地悪そうに車内トイレの扉を眺めていた。

 

 私はその男性にいくばくかのシンパシーを感じた。

 

 バスは2時間ほど走るとイングランドの田園光景を抜け(実際のところこの国は一部を除いて田園風景ばかりだ)

古めかしい尖塔が立ち並ぶ景色が見えてきた。

 

 さて、仕事だ。




全2回のつもりでしたが思ったより長かったので3回にしました。

気が付けばこの連載飛び飛びになりながら1年です。
おめでとう?ございます(ありがとうございます)

Fate/Grand Orderですがドレイク姉さんがようやくレベル80まで到達しました。
こういうところ非課金は辛いですね。(課金する気はないですけど)
最終再臨まであと竜の逆鱗3つ。
がんばってイベントで稼ぎます。

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