Fate/in UK   作:ニコ・トスカーニ

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今回もオリジナル要素満載でお送りします。
ちなみに、いつも以上に下ネタがひどいのでお気を付けください。
苦手な方はそっとブラウザを閉じてください。


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 マンチェスターと並ぶ英国第2の都市、バーミンガム。

その市街にたち並ぶ無個性な近代的集合住宅の1室の前に我々はいた。

 

 私は分厚いドアをノックして言った。

 

「ホイル、開けてくれ。アンドリューだ」

「マスカキ中だ!後にしやがれ」

 

 と、品の欠片もない返事が品の欠片もない声で返って来た。

 私は毅然として言った。

 

「いいから開けろ」

「冗談だよ」

 

ドスンドスンといういかにも重たそうな足音が近づき、

目的の人物、アラン・ホイルはドアを開けた。

 

 彼いつものように目ヤニだらけの目を見開き、周囲1フィートに唾をまきちらしながら言った。 

 

「よう。元気か、アンディ?

ダチ公よ!」

「僕の名前はアンドリューだ。

親しい者の中にはアンディと呼ぶのもいるが、

君と友達になった憶えはない」

「つれねえな、親友。

秘密を共有する仲だろうよ」

「秘密の共有などしていない。

僕が君の秘密を一方的に守っているだけだ」

「あ?そうだったけか?」

 

 ホイルはそう言うと、体重250ポンドはあろうその巨体の肩を震わせておどけ、

私と凛を部屋の中に招き入れた。

 部屋の中はおよそ半分が情報機器で占められており、残り半分をポルノ雑誌が占めていた。

 部屋の主がどんな人物なのか容易に想像のつく生活空間だ。

 

「ホイル、紹介しよう。

彼女はトオサカリン。

リン、彼はアラン・ホイル。

この地上でもっとも下品な生き物だ」

 

 凛はいかにも不快さを我慢しているといった風情の作り笑顔で「初めまして」と言ってホイルの手を取った。

 

「よろしく、嬢ちゃん。

……いい足してるな」

 

 凛の英語力はかなりのレベルになっている。

 意味が分かったらしく、彼女の顔が不快感で引き攣るのが分かった。

 

 私はまたしても毅然として言った。

 

「……バーミンガム市警に通報するぞ」

「分かった分かった。

冗談だって」

 

 私はそう言うホイルが手の中の小型モニターをチラチラ見ていることに気づいた。

 

「いいや、分かってない。

床に仕掛けたCCDカメラでリアルタイムピーピングするのを今すぐ止めろ」

「ッチ!バレたか。

味気ないパンティー履いてんな、嬢ちゃん!」

 

 小さく声を上げると、凛は羞恥で顔を赤くした。

 凛の表情を見たホイルは「下品な」以外の形容詞を当てはめようのない下品な満面の笑顔を浮かべ、彼女の表情を嘗め回すように観察していた。

 

 やがて満足したらしく、今度はごく実務的に言った。

 

「ちょっと待て。飯の途中だ」

「ああ、待つよ。

話している君は醜悪だが、食べながら話している姿はもっと醜悪だからな」

「ハハハ!違えねえや!」

 

 そう言うとホイルは、特大サイズのケバブサンドとポテトクリスプを貪り、

ボトルのコーラで流し込み始めた。

 

「……私、帰っていいかしら」

 

 と凛がつぶやいた。

 私は彼女を連れてきてしまったことに後悔を感じつつも言った。

 

「駄目だ。

奴と同じ部屋の空気を吸うと、肺が汚染される。

僕1人では御免だ。

君も一緒に肺を汚せ」

 

 アラン・ホイルは封印指定を受けた魔術師だが、その経歴は魔術師としては異色だ。

 魔術界最高の学び舎である時計塔に入学する前に、飛び級の末18歳で

ケンブリッジ大学から情報工学の学位を受けており、ホイルは魔術師でありながら科学に明るい。

 

 そのため、ホイルが最も歴史の浅い現代魔術論に進んだのは当然の流れだった。

 

 既に独学で魔術を学び、全体基礎を免除されたホイルは入学早々から革新的な研究成果を発表し続けた。

 現代魔術論は古典的な魔術師たちからは軽んじられているが、

ホイルの成果発表は常に革新的であり、古典的な魔術師たちですら一目おいていた程だった。

 

 しかし神は長所だけの人間を創ったりしない。

 彼は桁の違う天才として名を馳せたが、それ以上に次元の違う変態として有名だった。

 

 世の中には、女性を性行の対象としか思っていない男がいるが、

 ホイルはそんなありきたりなゲス野郎の次元を超えている。

 

 彼にとって世の中のすべての女性はズリネタだ。

 

 日ごろからこう豪語していた。

 

「マーガレット・サッチャーでもズリネタにできるぜ!」

 

 その度、私はこう言ったものだ。

 

「いいから黙れ」

 

 私が彼と知己を得た理由は簡単だ。

 ホイルは病的な変態であると同時に度を越えておしゃべりだったからだ。

 

 私はホイルと同じ現代魔術論に籍を置いていたが、時計塔での彼は

耳と口のある人間を見れば片端から話しかけ、講義中でも構わず卑猥なジョークを飛ばしていた。

 

 相手が自分の話を聞いているかどうかは関係ない。

 自分の卑猥な言葉で相手の鼓膜が震えればそれで十分だった。

 

 その結果彼は、魔術師としてはあまりにもふさわしくない

「ヨークシャーのマスカキ男」

 の2つ名を頂戴していた。

 

私は一度、戯れにこう聞いたことがある。

 

「君の頭は何で構成されているんだ?」

 

 ホイルはこともなげに言った。

 

「まず1パーセントは魔術だな」

「君が1パーセントも魔術のことを考えていたとは意外だ。

残りは?」

「95パーセントはパイオツ……」

「答えなくてもいいが、一応、聞こう。

残り4パーセントは何だ?」

 

 それから数秒間、彼は真剣な表情で考え込んだ。

 その4パーセントはホイルにとって悩みに悩む価値のある重要事らしい。

 散々考えた末に、彼はいつになく真剣な表情で言った。

 

「……エロいケツだ」

 

 しかし、彼は病的な変態であると同時に天才でもあった。

 封印指定を受けたことに特に驚きはしなかった。

 

 驚いたのは封印指定をうけた彼から私に連絡が来たことだった。

 

 驚きと共に電話に出た私に彼は、「お前、あの件誰にも言うんじゃねえぞ」という念押しと共に

困ったら時々は協力してやるとありがたい言葉をくれた。

 『あの件』という言葉で、彼がわざわざ連絡をよこしたことに合点がいった私は言った。

 

「封印指定はある意味名誉なことだ。大人しく捕まってやる気はないか?」

「冗談じゃねえ。ネットでポルノも漁れない生活なんて死んだも同然だぜ」 

 

 そして、彼は姿をくらまし、魔術の表舞台から消えた。

 

 余談だが、これは周囲1フィートに唾をまきちらしながらホイルに何度も聞かされた話だ。

 ロンドン中の監視カメラを掌握し、封印指定執行者の動きを察知していたホイルは、

余裕を持ってその手から逃れたが、逃げる前に自分のフラットにメッセージを残していた。

 

 協会の執行者バゼット・フラガ・マクレミッツが彼のフラットにたどり着いたとき、当然、既にそこはもぬけの殻だったが、

残されたPCのディスプレイには満面の笑顔で大胆に下半身を露出したホイルの写真が表示されており、その、この上なく上品な画像にはこうメッセージが合成されていたそうだ。

 

「Suck my dick!<俺のナニでもしゃぶってな!>」

 

 ホイルは部屋に残したウェブカメラでバゼットが自分のナニを見て不快感を露わにする姿を見て興奮し、彼女をズリネタにした。

 自分を捕まえに来た封印指定執行者をズリネタにした封印指定魔術師は後にも先にもホイルだけだろう。

 

「んで、何を探せば良い?」

 

 口の周りに食べかすをつけたまま食事を終えたホイルは言った。

 

「魔術を使える殺し屋だ。

少なくとも暗示の魔術が使え、

恐らく特殊工作員としての経験があり、英国に在住。

その条件でデータベースを片っ端から横断検索してくれ。

あと、ヘイト・クライムではないと思うが、被害者は2人とも有色人種だった。

被害者選びにも何か意味があるのかもしれない」

 

 ホイルはコーラの炭酸が残っていたのか、出荷直前のブタのようなゲップをすると言った。

 

「パリス・ヒルトンの流出動画を探すより簡単だぜ!

見てろよ、クソッタレ!」

 

 そう言うとホイルは魔術回路を開き、彼特製のサーバーマシンに繋がるキーボードもマウスもついていないUSBケーブルを握った。

 ディスプレイに次から次へとウィンドウが飛び出し、コマンドが入力されては消えていく。

 

「……一体何をしてるの?」

 

 凛は当然の疑問を口にした。

 

「コンピュータの演算能力と脳の演算能力の直結だ」

 

 凛はさっぱり分かっていないようだった。

 

「……済まない。

君が機械に疎いのを忘れていた」

「……ええ、ごめんなさい」

「説明しよう。

……チェスを思い浮かべてみてくれ」

「……ええ」

「人間とコンピュータソフトがチェスをして勝負を争ったことは何度となくあるが、

両者は考え方が全く違う。

人間は経験から無駄な手を捨て、有効な手から最優の手を選び出す。

コンピュータは無駄な手を含めてすべての手を洗い出し、その中から最優の手を選び出す。

経験による効率は人間だが、単純な計算能力はコンピュータの方が遙かに優秀だ。

――ホイルの魔術回路は特殊でね。

魔力と電気信号を相互変換できるんだ。

奴は自分の脳の演算能力とCPUの演算能力を直結できる」

 

 凛は私の説明を咀嚼し――ようやくホイルの能力の大枠を理解したらしい。

 ただひたすらポカンとしていた姿から、いつもの利発で活動的な顔に戻ると

驚きと共に言った。

 

「……はぁ!

何よ、その出鱈目な魔術!」

「そう出鱈目だ。

だから封印指定を受けた」

 

 彼女が驚くのも無理はない。

 魔術と科学は相容れない。

 

 魔術が時代と共に廃れているのは、科学で叶えることが出来る分野が増えたことで、

それまで魔術が担っていた領域を侵食されたからだ。

 

 だが、ホイルは科学と魔術を互いの代替行為ではなく協力者として扱うことが出来る。

 科学を積極的に取り入れているアトラス院ですら、ホイルの域に到達している者は1人もいない。

 

「この魔術を実現させたことで、奴はその規格外の演算能力を利用し、

リーマン予想が正しいことを証明した」

 

 凛はまたしても明らかに分かっていない顔に戻っていた。

 

「結果だけかいつまんで言うと、奴に破れないコンピュータセキュリティは存在しない」

 

 ポカンとしている凛と彼女の理解度に合わせて必死に説明する私を尻目に、

ホイルの作業はヒートアップしていた。

 

 ホイル特製のサーバーにはマウスとキーボードがない。

 魔術回路を通して脳とCPUを直結でき、すべてのコンピュータ言語を解釈できる彼にはただ邪魔なだけだからだ。

 UNIXをベースにホイルが組み上げた特製OSには次から次へとコマンドが表示され、

ウィンドウが立ち上がってはまたコマンドが打ち込まれる作業が続いていた。

 

 その間、ホイルは

「ションベンみてえなファイアウォール組みやがって!

これでも喰らいな!この、玉無しのフニャチン野郎!」

「中々おもしれえじゃねえか!

その可愛いケツの穴に指突っ込んでヒイヒイ言わせてやる!」

 

 と創意工夫に満ちた卑猥な発言をただひたすらに繰り返していた。

 

「リン。聴覚を遮断した方が良い。

耳が腐るぞ」

 

 彼女からは何の反応も返ってこなかった。

 凛は私が忠告する前にすでにそれを実行していた。




思ったより長くなっちゃいました。
あと1回で完結させたいですが、2回になるかもしれません。

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