【ネタ】美少女を探せ!   作:ちーまる

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久しぶり過ぎる更新…いや、申し訳ないです。
感想もありがとうございます。返信はしていませんが、いつも励みになっています。

これからも不定期ですが、お付き合い頂けると幸いです。


全国巡りらしいin阿知賀

俺が清澄高校麻雀部に所属してから早いもので数か月が経ち、季節はもう夏。

 

全国各地で行われていた団体戦の県予選も終了し、インターハイに出場する学校も確定した。何処の学校も追い込みの合宿やら練習試合やらで忙しく、それは我が清澄高校麻雀部も例外ではない。残念ながら個人戦敗退の須賀と雑用係の俺は団体戦に出る皆のサポートに奔走していたはずなのだが……

 

「……暑い」

 

現在俺は常夏の奈良県へと来ていた。

 

若干長野と比べて気温は高く蒸し暑さがただよう。すれ違う人たちも薄手の格好が多く、女性の方など眼福状態である。タンクトップとかいいよね、流れる汗がどこかぐっとくる。それに汗でひっついたシャツがさらに目を惹くというか、冬も好きだが夏はもっと良い。

 

もはやトレードマークと言ってもいいパーカーの袖で汗をぬぐいながら今回の目的地へと歩き始める。

 

阿知賀女子学園、そこが今回の目的地だ。

そう、俺が「黒羽悠斗」という体に憑依して初めて麻雀を打った思い出の場所でもある。そこで麻雀教室を開いていた赤土さんはプロとして活躍していたが、チームの解散に伴って阿知賀麻雀部に顧問として再就職したのがこの前の冬。そこからがむしゃらにインハイ出場を目指し、この前の県予選を勝ち進みめでたく出場することとなった。

 

そして、全国に向けて調整中の彼女たちに練習相手として呼ばれたのが俺ということである。

いや……俺はただの高校生のはずなんですけど、いったい何に期待しているのやら。久しぶりにみんなと会えるのはうれしいけど、若干荷が重いような気がする。思わずもれたため息とともにさらに足取りが重くなる。

 

確かに、黒羽君(体)は麻雀めっちゃ強い。どれくらい強いかと言えば、どう考えてもプロレベルの人を三人まとめて飛ばすくらい強い。たぶんゲームで言ったらボスを倒した後に出てくる裏ボスくらい強い。「滅びこそわが喜び。死にゆくものこそ美しい。さあわが腕の中で息絶えるがよい!」とかいう台詞がぴったりなくらい強い。多分、俺の意識がない間は必殺技「いてつくはどう」とか使ってる。

 

が、しかし。いくら強くてもそれを調節できないのは練習相手として相応しくないと思う。いつでも全力全開、手加減?知らない子ですね状態で相手の心を蹂躙するのはこちらとしても心が痛いというか。全国に行く前にかえって調子が悪くなりそうなんだが……それを伝えたところで「むしろぼこぼこにしてやってくれ」と頼まれる始末。メンタルを鍛えるとか、化け物と相対してもめげない心構えを作るとか色々言われたけど、赤土さんの考えはぶっちゃけ分からん。

 

ならばと、インターハイ規定で戦うのはちょっとと断りを入れたが、それも駄目だった。インターハイの規定の中には「代表校同士でなければ練習試合を行なってもよい」という項目がある。昔は県代表は練習試合をしてはいけなかったらしいが、改定されて今の規定になったみたいだ。つまり何が言いたいかというと、出場する清澄高校女子麻雀部と対戦するのはマズイけれど、個人戦も団体戦も出場しない(そもそも性別が違う)清澄高校男子麻雀部所属である俺なら多分平気という理屈らしい。おまけに今回の訪問はあくまでも俺個人単位。限りなくグレーゾーンな気もしなくはないが、結局押し切られてしまった。

 

ある意味そんな屁理屈の結果が、休日を全て返上する勢いで埋まった過密スケジュールである。岩手、大阪、鹿児島その他、日本の北から南まで移動する羽目になったというわけだ。加えて我が麻雀部の活動もある。本当に俺を殺しにかかってきているとしか思えない。

 

春休みからだいぶお誘いが多くなってきていたが、この数か月は本当に地獄だった。特に関西勢からは近いからと言って、呼び出された回数が多い。学校をサボタージュしたこともしばしばあったが、まあそこは「病弱設定(笑)」で通っているので心配はない。なら、断れと思うかもしれないがそれは無理だ。だって「女子高」にお呼ばれだぞ!男ならこれを断れるか!いや断れない。それに中には本当に色々お世話になった方もいるので、易々と断れる立場にも無かった。

 

そんなこんなで、俺のライフワークである「全国美少女・美女巡り」はこの数か月全く出来ていなかった。精々全国の県予選大会の録画を見ただけで、後はいつものというか、普段から会っている面子としか麻雀を出来ていない。

 

(あー美少女探ししたいなぁ……)

 

決して、別に普段会っている人たちが美人ではないということではない。間違いなく、とびきりの美少女ぞろいだ。原作、と言ってしまえば身も蓋もないが、「咲-saki-」という美少女を売りにした漫画の主人公であるのだから可愛いのは当然だろう。

 

だからこそ余計に――美少女を自分の手で見つけたい。そして、この目で直接見て、記憶に刻むのが楽しいのだ。主人公の周りが美人だらけなのは、そんなものは最初から分かっている。紙面に描かれていなかったような美少女を見つけるのが醍醐味だというのに……さらにため息がもれたが、現実は変わらない。そんなことを考えながら歩くこと幾ばくか、待ち合わせ場所に着いた俺の目の前に一台の車が止まる。そこから現れた女性は、いつもと変わらない様子で快活な笑みを浮かべた。

 

「おー、久しぶり!元気だったか?」

「お久しぶりです赤土さん。今日は、よろしくお願いしますね」

 

◇◇◇

 

松実玄にとって彼、黒羽悠斗という少年との出会いはあまりいいものではなかった。

 

まだ阿知賀こども麻雀クラブを開いていたころ、講師である赤土晴絵が突然連れてきた少年。当時クラブでナンバーワンだった玄と少年と同い年の高鴨穏乃、そして晴絵の四人で麻雀を打つことになったのである。その日も、いつも通り三巡目までは手持ちにドラが集まっていた。少年以外は順調に上がれていたし、どこも不調はなかった。だが少年に親が周ってきた瞬間、空気が変わったのだ。どろりとした重い瘴気、自身が持つ牌にすらまとわりつくそれは場を山を支配し、さらには玄の「ドラを集める」能力すら封じる。有効牌すら引けないまま、少年の息をつかせぬ連続和了によって玄と穏乃の二人はまとめて飛ばされた。

 

その少年に対応できたのは赤土晴絵だけだったが、その彼女も結局はあと一歩といったところで負けてしまった。

 

そして今日もまた――

 

「ツモ。これで玄さんと宥さんが飛びなんで……俺の勝ちですね」

 

じゃらと倒された手牌と勝ちを宣言する声とともに、少年とこの雀卓を取り巻いていた重い何かは霧散していく。同じ卓を囲んでいた穏乃は背もたれに寄りかかると大きなため息をついた。

 

「っはー!またユウに勝てなかった、悔しいぃー!」

「いやいや、あの『魔王モード』なら仕方ないでしょ。というより、前よりもっと凄くなってるし」

 

そばで見学していた新子憧が呆れ顔で突っ込むものの、顔を伏せたまま唸っている穏乃の表情は変わらない。いつも通りなやり取りに玄もまた微苦笑を浮かべるが、内心は悔しさでいっぱいだった。結局また、前と同じ手も足も出ないで終わってしまった。能力を封じられて、そこから始まる怒涛の連続和了。あの宮永照を彷彿とさせる打ち方だが、かもし出される気迫と相まってこちらの方が余計に魔王っぽい。

 

(おかげでメンタルは強くなった気がするのです……)

 

周囲の喧騒を他所に黙々と牌譜を確認している少年に先ほどまでの魔王オーラは一切感じられない。同年代と比べても小柄な体のいったいどこにそんなパワーは秘められているのか、心底不思議だった。じっと見ていた視線に気づいたのだろう、少し困惑した表情で声をかけてくる。

 

「玄さん、俺の顔に何か付いてますか?」

「ううん、やっぱりユウくんは変わらないなって」

 

こちらの顔色を心配するように伺う少年は、玄がよく知っている少年のままだった。押しに弱くて、優しくて、ちょっぴり照れ屋で。えいやっと勢いよく腕に抱き着けば、挙動不審なまでに固まる。なんだ、昔と変わらない。何となく嬉しくなった玄は満面の笑みを浮かべ、初めて会った時と同じ言葉を告げた。

 

 

「さあ、もう一回です!勝ち逃げは許さないのですよ、ユウくん!」

 

◇◇◇

 

知り合いと麻雀を打ち続けて数時間、ようやく解放された俺は本日の宿泊場所である「松実館」の一室にて日課のサイト巡りに勤しんでいた。お気に入りグラビアアイドル雀士であるユキちゃんのブログを筆頭に、プロ雀士の皆々様のブログまで、くまなくチェックしていく。……お、今度ユキちゃんの写真集が出るのか。やばいな、今月の出費が半端ない。

 

「やっほー、ユウくん!遊びに来たのですよー」

「お、お邪魔します……」

 

パソコンの電源を落として持ってきた計算機で計算していくが、今月ははやりんの写真集も買わないといけないし、どう考えても欲しかったタブレットまで手が届かない。だが、かといって写真集を諦めることはできなかった。初回特典には限定カードが付いてくる。いちファンとして手に入れられない何て醜態は曝せなかった。

 

「あれ、これはもしかして気づかれていない?」

「そうだね玄ちゃん……」

 

それでなくとも、今月は旅費でほぼアルバイト代が消えているのに加えてこれ以上の出費は無理だ。ただでさえ購入予定のゲーム、漫画、及びそのほか諸々が家計の半分を占めているというのに。食事を塩パスタかもやしオンリーにすれば可能かもしれないが……いや、一日二食にすればいけるか?

 

「せーので行きますよ、おねーちゃん!」

「う、うん」

 

「「せーの!」」

 

睨めっこしていたはずの電卓が消え、ばっと目の前が暗くなる。背後から感じる温かさ、そして何より女子特有の柔らかい感触に体が一瞬で固まった。えへへと耳元で嬉しそうに笑う彼女たち――この旅館の娘でもある松実姉妹にかける言葉も見つからないままなすがままに遊ばれる。

 

「ど、どうしてここにいるんですか……玄さん、それに宥さんも」

「あれ、赤土さんから聞いてない?」

「私たち、今日はここでプチ合宿するって言ってたよ……?」

 

申し訳なさそうに宥さんが告げるのと同時に襖が開かれる。そこにいたのは当然、予想通りの面子で。

 

 

「お邪魔しまーす!」

「ちょっとシズ!他のお客さんがいるかもしれないんだから、もう少し静かにしなさいよね!」

「いや、二人ともうるさいから」

 

「おっ、みんなそろってるなー!よーし、思う存分麻雀するぞ!」

 

「……もう、勘弁してください」

 

 

おーと勢いよく響いた掛け声とは反対に、ぽつりともれた泣き言は当然ながら誰の耳に入ることはなく。結局泊まり込みで麻雀合宿を慣行するはめになった。




昔の出会いとか、宮守との絡みとか、姫松のツッコミとか書きたいところは多いけれど、今回はさらっと阿知賀でした。最初の導入で阿知賀こども麻雀クラブを使ったから、割とあっさりとした絡みでしたが、日常パートも書きたい。

ということで、インハイ前の様子を書きましたが、唐突に日常パートが入っても仕方ないと諦めてください。

時系列は死んだ、もういない!

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