SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第97話  「バレットオブバレッツ」

中央区総統府の地下。この日の為に力をつけてきたガンナー達が『最強と賞金』を目当てに集まっていた。

壁につけられた多くのモニターはまだ暗く、光はついていない。大会開始まであと2時間も前だが、周囲にいるプレイヤー達は大いに盛り上がっていた。

「今年こそは勝ちに行く。」

「へへへ。負けられねーぜ。」

「はーい! 今の所のオッズはこちらぁ! さぁはったはった!」

周囲全員がライバル。ピリピリとした空気が広がっていた。

「ついたついた。どっかあいてる席ねーかなぁ。」

「人、多すぎ。落ち着くところがいい。」

「相変わらずの人の多さね。私もクロに賛成。奥の方見てくるわ。」

「俺達も見てくる。」

目立つ白のコートに白のスーツ。ハット帽まで白と誰もが目を引く男を筆頭にエレベーターから降りてきた。

「ド…ドン・ペルソナだ!」

「ドン・ペルソナがきたぞ!」

「東のマフィアだ! まさか参戦する気か!?」

「おいおい。今年のBoBやばいぞ! あの東のマフィアが参戦だってよ!」

声が声をつなぎ、オキ達がその場に現れたのが一瞬で広まった。

「マスター…人気。」

「いうな。もう何回目だそれ。」

あきれた顔をするクロに対し、これまた呆れた顔で返すオキ。

エレベーターの出口から反対側の遠くにナビが手を振る姿を見たオキは中央を突破して進もうとした。

その中央にテンガロンハットの男が同じような服装の男たちに囲まれ座っており、オキが来たことに気づいた。

「んん? おお! ペルソナの旦那じゃないか! なんだい、あんたも参加かぁ~?」

声をかけられたオキは誰だとばかりに睨み付けたが、すぐに笑顔になった。

「あ? おお! ギャレットの旦那! 元気かー?」

「誰? このおっさん。」

クロがギャレットを睨み付けると同時にその言葉に怒ったのか周囲のプレイヤー達が立ち上がり、クロを睨み付けた。

しかし、ギャレットはそれを手で止め、すぐさま座らせた。

「うちのモンが、すまないねぇ嬢ちゃん。ペルソナの旦那。勘弁してくれ。今日はさすがに皆虫の居所が悪いようだ。」

「別にかまわんさ。うちのも口が悪くてすまんね。」

ふーむとクロの顔を覗くギャレット。クロはオキの後ろに隠れた。

「おまえさんの…これか?」

にやりと笑ったギャレットは小指を立ててオキに見せる。だが、オキは首を横に振った。

「いんや。こいつはそんなんじゃねーよ。そうだな。家族みてーなもんだ。大事な仲間だ。それに恋人は別にいるしな!」

はっはっはと笑うオキに対し、周囲からは爆発しろだの死ねだの言葉が飛び交っている。しかしそれを言っている本人たちは先ほどの緊張した感じではなく笑顔で冗談半分で言っているようだ。

「そうかい。嬢ちゃん、大事にされてるようだなぁ。よかったじゃねーか。」

「ふん…。」

顔を赤くするクロに微笑むギャレット。

「そういやおまえさん…。前に会ったとき、今回の大会は興味ないと言ってたじゃないか。どうした。」

「いや…ここじゃちょっとな。実は…。」

顔を近づけて耳打ちしようとするオキの後ろから女性の大きな声が響いた。

「おやおや、ペルソナの坊やじゃないか! あん? なんだい、ギャレットもいっしょかい。」

「おら道をあけんか! 姐さんのお通りだぞ!」

オキが声をした方を振り向くと、顔に大きな傷のついた、貫録あるオーラを見せる(一部が)大きな女性がこちらへと向かってきていた。

「み、南の海賊…ドレイクだ!」

「西と東のマフィアがそろってるのに…南の海賊まで…!」

「姐さん。お久しぶりです。」

オキが深々と頭を下げた。クロはそれをみて目を見開いている。オキがここまで頭を下げる人もなかなかいない。

「おやまぁ。これはかわいらしい子を連れてるじゃないか。気まぐれに来てみるもんだねぇ。」

コートを肩で羽織り、スーツの大きくはだけた胸元がセクシーな女性。ドレイク。

「姐さん、紹介します。俺の仲間で家族のクロノス。クロ、こちらは俺がGGOプレイしている初期時代にお世話になった姐さん、ドレイクの姐さんだ。このGGOの南の港を拠点に活動している。別名南の海賊。あとこっちのおっさんはギャレットの旦那。俺とは反対の西側でマフィアスタイルを貫いてるから西のマフィア。」

よろしくと二人がそれぞれの挨拶をすませる。

「ん。ってことは北もいるの? マスター。」

クロの質問にオキが答える前に、会場の中心にいるこの異様な空間へとさらにもう一つの集団が集まってきた。

「Exactlyだよ君ィ。いい感をしてるね。さすがオキ君の仲間だ。」

クロが後ろから聞こえた声に振り向くと、ダンディな白い髭の男性が立っていた。その男の目をみたクロはゾクリと背筋を凍らせる。

この男はいままで見たきた中でも異常なまでに自分の中で警鐘が鳴り響いている。クロはすかさずマスターの後ろへと隠れてしまった。

「おやおや。教授。あんた、極端に嫌われたねぇ。」

「やっぱ怪しいんだよ。あんたのその笑みは。」

大笑いするドレイクとギャレットに対し、少しさみしそうな顔をする中年の男性。

「おいおい。とうとう北の商人まで現れたぞ。」

「いったい何が始まるんだ!?」

「第三次大戦だ!」

がやがやと騒ぎ出す周囲の無関係なプレイヤーに対し、オキが切れた。

 

ガンガンガン!

 

M29の銃口から巨大な銃声が鳴り響いた。その音に反応し、周囲のプレイヤーの声がピタリと止まった。

「うっせぇぞおめーら。静かにしやがれ。…ギャレットの旦那、姉さん、教授。すまないがこっちにきてくれるか?」

オキが遠くから様子を見ているナビに案内するように目で合図した。

 

 

 

「ほう。これはいい場所だね。」

「なかなかいいじゃないか。失礼するよ?」

「おう。入り口塞いでろ。だれも近づけさせんなよ。」

教授と呼ばれる男にドレイク、ギャレットが案内された広めの部屋へと入り、それぞれの部下たちが出入り口をふさぎ、誰も近づかないようにした。

「おや! シノンじゃないか! 元気だったかい!」

「ドレイクさん。お久しぶりです。そちらもお元気そうで。」

先に来ていたシノン、そして見た事のない男性プレイヤーが座っていた。ザ・ファントムのメンバーは隣の部屋に陣取った。

「さて、お話とはどういった話かね?」

教授が早速話を聞こうとした際に、オキが待ったをかけた。

「すまん教授。話の前に…あんた誰だ?」

いきなり多くの人数が入ってきた関係で目を丸めている男が一人。

「あ…えっと…ぼ、僕は、シュピーデルと言います…。」

「私の友人なの。ごめんなさい。近くにいたみたいで、声をかけられたから。」

どうやらシノンの友人らしい。そうなるとあまり関係を持たせないほうがいいだろうとオキは思った。

今後デスガンとやりあうことになる。そうなるとあまり力のない一般人を巻き込むわけにはいかない。

「すまんな。これから大事な話をしなくちゃならん。席を外してくれるとありがたい。」

シュピーゲルという一人の男はすこしおどおどしながらもオキをはじめ、東西南北の主となるプレイヤーの面々を見渡す。そして今一度シノンの顔を見て何かを決心したようにオキを睨み付けた。

「シ、シノンさんに何かしたら…僕がゆ、許さないからな!」

シュピーゲルの精一杯の叫びの後の一瞬間が空き、ギャレットとドレイクは大声で笑った。シュピーゲルはなぜ笑われているかが分かっておらず、更に困惑し、シノンは頭を抱えている。

「おーお。こりゃなにか盛大に勘違いされてるなぁ。ま、安心しろ。シノンに傷つける気なんざさらさらねーよ。どちらかというとお前さんの心配だ。」

「ぼ、僕の…!?」

「ごめんねシュピーゲル。オキさんの言うこと聞いてくれる?」

シノンは彼の肩を持ってじっと彼を見た。その顔に観念したのかゆっくりと頷いた。

「わ、わかったよ。」

そういってゆっくりと立ち上がった彼は出入り口にいる怖いお兄さんやお姉さんたちに驚きながらその場を去って行った。

「さて、改めてだ。このハット帽かぶったおっさんが西のマフィア。西の方で拠点はって活動している。こっちのセクシーなお姉さんは南の海賊、ドレイクの姐さん。南の港拠点を中心に活動している。俺とギャレットの旦那と違うのは海の上での戦いがうまい事から海賊の名を持っている。」

「よろしくな。」

さっぱりとした笑顔でクロに微笑むドレイクに軽く手を挙げて頭を動かすギャレット。そしてもう一人。白いダンディなお髭を付けたメガネの怪しい老人。

「そして最後はこのジジイ。北の商人、名前は…。」

「新宿のアーチャーとでも呼んでくれたまえ。名前では呼ばれたくないのでな。」

口元をゆがませ笑みを浮かべる老人。オキはそれをみて舌打ちをした。

「何言ってんだ教授。あんたそれただのロールだろうが。あーめんどくせえから教授でいいや。」

「新茶でもいいぞ?」

はっはっはと笑う教授だが、そのほほえみの裏には何かがあると見たクロは相変わらず警戒を解かない。

「教授は普通のプレイとは違って、北の方を拠点に幅広いネットワークでつながりを持った所謂商人。ドロップ品の武器をはじめとした装備、その他いやらしい手口で手に入れた物品を横流しする。とはいえこのジジイ戦うとくっそ強い。」

「何を言うかね。私は一度君に負けている。私は弱い方さね。」

ニタリと笑う笑みは相変わらずその怪しさをかきたてた。

「ま、怪しいジジイは置いといて、なんだかんだ言いながらも俺はこの人たちの事は信用している。この辺の中央にいるメンバーよりはな。」

その言葉を聞いてそれぞれがまんざらでもない顔で微笑む。そしてオキは顔を普段のおどけた顔から一転し、厳しい顔つきを見せた。

「では、本題に入ろう。」

「何かあったのか? あんたがここにいること自体が珍しい。」

「力になるよ。アタシはあんたに借りがあるからねぇ。」

「いままで大会に興味なかった君がここにいるのだ。面白そうな話なら私も乗ろう。」

それぞれのトップが顔色を変えた。トップクラスのプレイヤーのその顔はさすがと思える。リーダーを務めるオキに勝らぬも劣らないその顔つきにクロは納得した。

「実はな…。あんたらを信用しての話だ。口外はしないでくれ。」

オキは彼彼女らを大いに信用している。そんなに長いプレイ時間ではないとはいえ、この3人の性格から3人が人を本当に殺すとは思えない。しかも姿を見せず、卑怯な手で。

そのデスガンの情報と、わかっている事、そして狙いがこの大会の出場者の殺害が考えられることから出場を決意した事。今の所予想される殺害方法を早口でおおざっぱに説明した。

「…そんなことが。」

「っち。デスガンめ。嫌な奴だ。」

「ふむ。つまり、君はそれを捕まえる事を目的に出場するのかね?」

それぞれが感想を述べ、教授がオキへと質問した。

「ああ。別に大会にはさらさら興味はねぇ。強いやつと戦いたいと思ってはいるが、あんたら以上はめったにいない。とはいえ俺達アークスが依頼された以上は捕まえなければ…。」

「マスター。言葉。」

クロが口をはさんだが、すでに遅し。3人の目が見開いていた。

「今…おい。旦那、なんていった?」

「なんかものすごい言葉を聞いた気がするねぇ。」

「アークス。確かにそういったね。」

教授が口にしたその言葉はこのスレアに住む誰もが真新しく興味のある単語の一つ。それを彼はサラリと言ってしまったのだ。

「あちゃー…。どうすんべこれ。」

「まったく。何やってるの…。」

黙っていたシノンはテヘペロするオキを見て頭を抱えた。

「だだ…旦那。今言ったことは本当か? 冗談じゃねーよな。」

「もし坊やがそうだというのであれば…。説明がつく。異様なまでに戦い慣れている戦闘スタイル。」

「そして、何ものにも恐れぬ心。これはまた面白い話を持ってきてくれたねぇ。興味深い。」

驚いているギャレットに納得しているドレイク。そして教授は相変わらずニヤニヤしている。

はぁとため息をつくシノンは手を軽く上げた。

「一応言っておくけど、私は違うからね。アークスは、こっちの二人。」

「ま、別に隠すつもりはなかったんだがな、隠し通せとも言われてねーし。この機会だ。せっかくだから改めて自己紹介と行こうか。…ワレワレハウチュウジンダ。ギャレット、マイフレンド…ゴハァ!」

オキがふざけた姿をしたのでシノンが横腹を肘で打ち抜いた。

「ふざけない。まったく。」

あやまるオキの姿をみて目の前に座る3人は大きく笑い声をあげた。

「いやぁ…すまんすまん。相変わらず旦那は変わらないねぇ。ん? そんなに目を見開いて、クロちゃんはなぜ驚いているのかな?」

「…クロノス。」

唸るようにクロは自分の名前を訂正するように要求した。

「ま、この人との付き合いはあんたの方が長いかもしれんが、なんだかんだでこの坊やには助けられた。別にアークスだろうが宇宙人だろうがその事実は変わらない。」

「ドレイクの言うとおり。彼にはあれやこれやと何かと縁があった。私を本気にさせたのも彼だけ。そしてその後に共に食べたラーメンはとても美味しかった。私は彼の為人を評価している。誰であろうと、私の評価は覆らない。」

3人は同時にオキへと笑みを見せた。

「「「その話、乗った!」」」

クロは同じく笑みを浮かべるオキの顔をのぞいた。

「な? 面白い連中だろ? だから俺は好きなのさ。この人たちが。すまん、手を貸してくれ。」

オキが3人に頭を下げた。BoB予選開始まであと1時間を切ったところだった。




皆様ごきげんよう。
東西南北のオキを含めた主要プレイヤーの存在の設定はちょっとやってみたかった(だけ)

さて、PSO2の方はいろんな意味で盛り上がってますね。
新ボスであるエスカ。戦っててとても楽しいと思える相手でした。最近のボスはFiでは(私の腕では)戦いにくい敵が多かったですから素直に嬉しい限りです。ただ、弱体化にはちょっと賛同しかねますね。私の二世代前位の装備(未だにゲイルヴィスナーですみません防具はイザネですが。)でもリミブレ切った状態で事故らない限り二、三発は耐える事が出来ますが…最近のプレイヤーはよく床舐めますねぇ。HP盛れHPと言いたいです。死なやす。
では次回またお会いしましょう
※GWは帰省の関係で来週分はおやすみします

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