SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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幕間
番外編 「観測者(ウォッチャー) アインスVSシンキ 原初の試練」


SAO事件が終わり、惑星ハルコタンでのマガツ再封印作戦が始動し、あれやこれやとやりつつ、惑星スレアとの友好を深めているある日の出来事。

「シンキ! シンキ! 応答しろ!」

「隊長!? 隊長? 返事して!?」

ブツ…

二人の声はむなしく、対峙する二人によって通信を切られた。

「もう…。心配性なんだから…。」

「ふ。まったくだ。」

刀を握る男性と、空中に浮く一人の女性が笑みを浮かべお互いを睨み付けていた。

「あんのバカ共!」

通信を切られ、悪態を取るオキ。それを横で落ち着かせるハヤマ。

「どうどう。にしても二人がねぇ。」

オキとハヤマが耳にしたのは知る限り最も力の持つ二人が廃墟となった市街地の一角で決闘するという話。

「何故止めなかった。」

オキが隣にいるアークスシップ管理者を睨み付けた。

「だって仕方ないじゃないか。彼女は観測者。わかるでしょ? 僕だってまだやることはあるんだ。ここで消えたくないよ。」

身震いするシャオ。それに関しては同感と言わざる得ない二人。彼女に微笑みながら武器を出されれば誰だってそうなる。

「ったく…。いくら廃墟になった一部を取り壊すのが楽になるからとはいえねぇ…。」

条件として廃墟となった市街地の一部より先に出ない事。できる限り更地にする事。船に支障を出さない事。これがシャオの出した最低限の条件だった。

「まぁ二人ならできそうだから困るけど。」

苦笑するハヤマ。オキは頭を抱え、何かを思いついた。

「しかたねぇ。コマチとクロ呼べ。行くぞ。リーダー権限だ。問答無用。」

「え?」

ハヤマの目が点になる。オキはすでに変な汗が出ていた。

「隊長が相手なんだ。抑えることもできなくなる可能性がある。そうなるとあいつを抑えるのが俺らの役目だ。行くぞ。覚悟しとけ。可能ならシャルちゃんに遺言残しとけよ。」

「なんでさ!」

そんなやり取りをしながら魔神の元へと向かっていく彼女のチームメンバーを見送るシャオは心の中で合掌した。

「まさか、模擬戦闘だけで市街地の一区画丸々くれるとはね、シャオ君も中々太っ腹な真似してくれる。」

市街地中心のアリーナ内で対峙する一人の男性と女性。アリーナの中はがれきで見る影もない。

先日、ダーカーの襲撃でこの周辺一角が廃墟と化した。元通りにするには一度更地にした方が早い。

「ま、妥当じゃない? 下手にVR空間だの使って機械壊れても困るでしょうし。」

女性は豊かな胸の下で腕を組んだまま、へらへら笑いながら答える。

「ははは、それもそうか、まあお手柔らかに頼むよ。」

男性がそう答えると、一瞬目を見開いて驚愕したような顔をした後、

女性は右手を顔に当てて声高々に笑い出した。

「む?何か可笑しなことを言ったかい?」

と、不思議そうな顔をする男性。笑いを堪えながらも女性は何とか声を出せる状態で男性を見た。

「ククク…いやぁ、冗談もここまで来ると滑稽だと思ってね…。そんなに殺気出してる男が言う言葉でも無いでしょう。殺気だけでかつての天女のダークファルスが見えそうなくらいよ、アハハハハハ。」

「そりゃあ、悠久の時を生きてきた魔神に挑むんだ、緊張して殺気くらい出るさ。」

高笑いを止め、しかし顔には笑みを浮かべたまま女性は答える。

「ええ、ええ、そうよね。私もやっと、本気を出せそうよ。貴方が相手なら私と共にあり続けた…私の財も満足するでしょう。」

と、右手をパチンッと鳴らす。女性の背後の空間が一瞬歪み、金色に輝いた波紋となってそこから武器が姿を現した。

それも1本や2本では無い。数十もの武器が姿を見せる。

「さあ、始めましょうか隊長ちゃん。」

腕組みを解かず、笑みが美しくも恐ろしい物へと変わる女性、シンキ。

「ああ、行くぞ魔神。武器の貯蔵は十分か!」

自身の相棒『オロチアギト』を両の手で握り締め構える男性、アインス。

 

 

――二人の戦いが今、幕を開ける。

 

 

 

幕間の物語

SAO ~ソードアークス・オンライン~ 

観測者(ウォッチャー) アインスVSシンキ 原初の試練』

 

 

 

アインスは握り締めた刀を大きく後ろへと振りかぶる。

「来たれ我が刃、我が四天の武、これこの通り……。」

アインスの周囲に3本の刀が現れ、アインスのオロチアギトと合わせて四天の刀が揃う。

「あらま、いきなりね♪ いいわぁ…。」

そのような事を言いながらシンキが手をかざすと、アインスの周囲に現れた四天の刀、サンゲ、ヤシャ、カムイそれぞれの刀の前へと

シンキの後ろの波紋と同じ歪みが現れた。

次の瞬間、アインスに衝撃が走った。

「!?」

 

ガキィッ

 

鈍い金属音が走り、アインスが驚愕する。

呼び出した四天の刀それぞれに全く同じ刀がぶつけられてその場に停止させられていたのだ。

「四天を持つ者、なら、まあその答えに行き着くわよね。四天を全て呼び出し…全ての力を自身の物として扱う。でもね…私も四天の所有者よ、所持してるだけで隊長ちゃんやハヤマちゃんみたいに極限まで使う事は出来ないけど。それでも同じ武器くらいなら止めれるのよ。ウフフ」

「くっ…!」

だが、それでもアインスは構えを解かない。

この構えに入った以上、技を途中で止める事は出来ない。

「そう来なくっちゃね…」

シンキは後ろの波紋から出た日本刀の柄に手を伸ばし、引き抜いた。

オロチアギトと同じ刃紋を持ち、オロチアギトの倍は長さのある刀。

構えたまま、取り出された長刀を見てアインスはまたも驚愕する。

「驚いたな、まったく…そんな物まで持ってるのか」

刀の名は、『ツミキリ』。

裏アギトとも呼ぶべき、四天の裏の刀。

「…塵芥になるがいい。」

アインスは構えた刀にフォトンを纏わせ、力を込める

「その首、何故ついている」

アインスの動きに合わせてシンキは右手に持ったツミキリを振り上げる。

 

「「四天(してん)」」

 

技の名を言おうとするアインスに被せてシンキが同時に語る。

 

招雷(しょうらい)!」「蹂躙(じゅうりん)!」

 

互いの刀がぶつかり合い、その場の空気が収束し

一気に解放され周囲にある物を吹き飛ばす…。

その暴風が収まった中心で二人は鍔迫り合いをしていた

 

ガキキキキキ…

 

「…ッ! 君はその細腕で、一体どんな筋力をしてるんだ! 私の全力を片手で受け止めるなんてなぁ!」

冷や汗を頬にかきながら笑みを浮かべ、アインスは嬉しそうに叫ぶ。

互いに一歩も譲らずその場で刀を相手に入れようと力を込めた。

先に動いたのはシンキだ。背後の武器の一本がシンキの空いた左手へと降りて来て、シンキはそれを掴む。

アインスはその武器、斧の形状をした武器を知っている。

「創世器…!?」

「潰えろ閻斧…ラビュリス。」

左手に収まった斧の名を呼び、その力を解放する。

周囲にフォトンで形成された重力場が発生し、アインスは体が地面に引っ張られる感覚を味わう。

「ぐううう・・・!」

その足元の地面は足がめり込み、ヒビが入っている。

「頭を垂れ、無念のままに地に堕ちろ…。」

「誰がッ!」

アインスが左手に持った鞘をラビュリスの側面に叩き付け、一瞬だが重力場を停止させた。

その一瞬を狙い鍔迫り合いをしていたオロチアギトを握る手を逆手に返し、シンキが振り下ろそうと力を込めるツミキリの軌道を逸らし、横へと流す。

腕力に任せて剣技のもどきをやっているシンキは刀を流された一瞬の隙で、アインスに距離を取られてしまった。

「むー…離れちゃうかー…もっと力くらべしたかったのになぁ。まぁ、隙は与えないけどね。」

 

タァンッ!

 

アインスの頬を何かが掠め、切り傷が付き血が流れる。

「あら、外しちゃった。やっぱ射撃得意じゃないからクソエイム気味ねぇ…。」

ツミキリを地面へと突きたて、次にシンキが手に握っていた武器は

『戒剣 ナナキ』

ラビュリスと並ぶ、創世器の一本。

「でも、まあ下手な鉄砲数うちゃ当たるし、もっと大雑把に行って見ようかしらぁッ!?」

シンキが叫ぶと同時に背後の黄金の波紋は一度閉じ、新たに違う配置にて現れた。

そこから見える数々の武器にアインスは目を見開く。

ヨノハテ、マイ、ワルフラーン、クラリッサ、フローレンベルク、創世(つくりよ)、アウロラ

創世器の数々が空間より顔を出した。

「まだまだよ!」

サイコウォンド、ヘヴンパニッシャー、ラヴィス=カノン

かつて三種の神器と呼ばれた究極の武装。

魔剣ダークフロウ、エルダーペイン、コートエッジD、アプレンティス・グラッジ、ダーフフェリタ

ダークファルス由来となる邪悪な武器。

アインスの見た事のある武器…。

更に、見た事の無い美しき剣、槍、斧、様々な武器が

それらの武器全てが、惜しげもなく雨のように

アインスへと振り注ぐ。

自分へと降り注ぐ絶望的な量の武器を見ながらアインスは

 

不思議と…笑っていた

 

「面白ェ…!」

 

 

ズズズン…

 

遠くからでも感じる地響き。彼彼女が戦っていると思われる方向から立ち上る土煙がそのすごさを物語っていた。

「っち…やっぱりもう始めてるか。」

「マスター。異常なまでの空間変化の力を感じる。かなり本気みたいだ。」

嫌そうな顔をしながらもオキの後ろを走るクロノス。

「ま、あの時よりも楽かと…。」

ボソリとつぶやくコマチ。

「何の話だこまっちー。…まぁいい。とにかく、うちらの仲間が船壊しましたごめーんちゃいですまねーだろう。少しおとなしくさせりゃええねん。終わったらラーメンおごるから。」

申し訳なさそうな顔をするオキもため息をついた。

「たまには醤油食いたい。」

「バカ野郎。ラーメンは豚骨以外認めん!」

コマチの言葉にすぐさま突っ込むオキ。わかって言ったとコマチは笑みを浮かべた。

『無事でいてくれればいいが。…この感じ、フルで使ってるだろ。シンキめ。』

少しだけ口元がゆがみ、嬉しそうに笑うオキの顔は後ろにいる3人には見えていなかった。

 

 

 

 

土煙が収まったアリーナだった場所はすでに天井が崩れ落ち、アインスの後方にあった壁はなくなり、その後ろの崩れかけたビルにすら傷が大きく残っている。

そして、彼の回りの地面に大量の武器という武器が突き刺さっていた。だが、シンキの目には予想していた以上の光景が広がっていた。

アインスの周辺はそこだけ武器の隙間が大きく開き円の様にひらけているのだ。

「まさかあの数の宝物を、オロチアギト一本だけであんなに弾くなんてね。流石だわ、どうやったのか教えてくれないかしら?」

電灯からストッと降りながらシンキは言った。

多量の武器で足の踏み場も無い中、アインスは傷だらけになりながらも立っていた。

「なぁに…致命傷以外は…覚悟を決めて全部受けただけさ…そうすれば、弾き落とす武器は少なくて済む…痛つつっ…」

アインスは肩や腿、腹部に剣が刺さり、腹部にえぐれ傷が出ているが命に別状はないだろう。

だが、オロチアギトを杖代わりに片膝を突いている現状では

戦えるのはあと数分と言ったところだろう…。

シンキは瞬時に彼の身体を観察した。

「傷だらけのイケメンってのも良いわねぇ…食べちゃおうかしら…。」

ボソッとシンキが言う

「ん…?何か言ったかい?」

『おっと、いけないいけない、私はあくまで、手を出しちゃいけないわよねぇ…でもおいしそうだなぁ…。』

シンキはアインスへと向き直り

「まあ、星の財宝(ゲート・オブ・アルゴル)をあそこまで攻略したご褒美をあげなきゃね。」

指をパチンと鳴らす。

すると、アインスの体に刺さっていた剣、地面へと落ちていた武器、それらの全てが光の粒子となり、シンキの背後の空間へと吸い込まれていった。

「剣が抜けたから立てるでしょう、ご褒美よ。私の至高にして最奥の一撃を見せてあげる。全力よ、隊長ちゃんも、全力で来てね♡」

オロチアギトを地面に突き刺したままフラフラの慢心創刊のアインスは軽く笑った。

「まだ、有るっていうのかハハハ、冗談キツいな…だが、全力で向かおう。」

だが、彼の目はまだ死んではいない。まだやれる。そう言っていた。

「ええ、それでこそ…いや…言葉は不要かしらね…。」

シンキが右手に持ったのは鍵のような剣だった。

それを空中で軽く捻ると天を埋め尽くすほどの枝分かれした赤い線が走る。

そこから一際輝いた光が一つシンキの手元へと降りてきた。

アインスは刀を構え、フォトンを練り刀へと集中させる。

いま放てるすべてを。これにかける。

「さあ、出番よエア、寝起き早々で悪いけれど。久方ぶりに貴方にふさわしい相手が現れたわッ…!」

取り出された物は、剣と呼ぶには似つかわしくない、白と黒で彩られた円筒のドリルの様な物だった…。

しかし、アインスは直感によって感じ取った、アレはマズイと。

全身に力を入れ、より一層自らの相棒に力を込める。

そして、本能にて感じ取った…。細胞に刻まれた原初の地獄を…

 

「いざ仰げ!『光闇乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を!!!』」

 

その日、ラグオルを救った勇気ある者は

原初を見た…。

 

ゴオオオオオオ…

光が目の前に広がった。それはなにものにもある細胞に刻まれた原初の光。

「おおおおおおおおおおおおお!!!」

彼は逃げたりしなかった。むしろ、立ち向かった。

自らが両手で握る相棒、長きにわたり共に歩んできた、オロチアギトを頭上へ大きく振りかぶり、ソレを振った。

「隊長!」

「シンキ!」

光が収まり、土煙が風に流された後。4人のアークスが更地となった場所へと走ってきた。

何か、巨大な何かが通り過ぎたように、先にいる彼女から何かが出てきたように地面には大きく弧を描き広がっているその場所。

その抉れた地面が、ある一点を境に2つに分かれている。その分かれている一点に一人の男性が血まみれとなって倒れていた。

「隊長!? 隊長! しっかりしろ!」

「…っぐ…。あ…ぐ…。や、やぁ。オキ…クン…か。げほっ!」

アインスの口から血が吐き出される。それでも彼は立ち上がろうと体を動かそうとした。

「無理すんな! ぼろぼろじゃねーか。まったく。あの光…乖離剣(エア)か。」

オキも一度だけ見たことがある。ただし彼みたいに実際に喰らったわけではない。見せてもらっただけだ。彼女の、夢というやつを。

そのなかにひときわ輝く光があった。誰もが恐怖し、誰もが崇める光。彼女はただそれを『乖離剣(エア)』と呼んだ。

原初の光。数度、彼女と酒を交わした時に聞いた言葉でもある。

そんな光を、ぼろぼろとなりながらも生きているその男は

「ぶった切ったわね…?」

ゆっくりと足音を立てながらシンキが近付いてきた。その顔は喜びに満ちていた。

「あ…ああ。逃げるわけ…にも…いかない。…かといって…防御…も…できない。…ならば…斬るのみだ。」

バタリ

そういってアインスは倒れた。

「隊長!?」

「心配すんなハヤマン。気絶しただけだ。…ったく、満足した顔だな。たいちょー。」

「ふふふ。私のアレを斬るだなんて…。あなたがはじめてよ。よくやったわね。褒めてあげる。…ああ、たのしかった…。」

魔神と勇ある者の対決。勝者、魔神(シンキ)にて幕を閉じた。

「まったく。シップ全体が揺れてるって苦情が来てるからなんだと思ったら…。」

プンスカと怒るウルクに隣でガタガタと震えているテオドール。モニターで彼女と彼の戦いの一部始終を見ていたのだ。

「やっぱり…怖い…。」

「あーもうテオはトラウマってるしー。」

あははと苦笑するシャオにウルクがきいた。

「…ほんっっっっっと不思議な人ね。あの人。シンキさんだっけ。変な力持ってるし、なんなのあの人。アークスの登録見てもなんかあいまいなのよね。」

「…。」

シャオが黙り込む。ウルクはそんなシャオの顔を真正面から覗き込んだ。

「ちょっとー。聞いてるの?」

「…これは、ある物語。こことは違う別の宇宙の物語。」

「シャオ?」

ウルクが何の話と聞いてもシャオは話の、物語の続きを語りだした。

遥か遠い昔。光と闇の精神生命体の戦いの残滓が残る宇宙

勝利した光の精神体は、闇の精神体を封じ込めるシステムをその宇宙に残し。

3つの惑星と公転周期千年の惑星を置き

それぞれの惑星に住む人々を護り人とした宇宙。

その太陽系では幾度も復活しようとする闇と、その護り人との激しい戦いが

幾星霜、幾度も千年の周期を経て繰り返されてきた

3惑星の統治者が闇に取り付かれ、暴君と化した事もあった

自分達の星を失い、闇を操る者達によって

コンピューターに支配される世界へと変貌させられた事もあった

しかし、そういった危機の度に、勇敢な者が現れ

闇の精神体の憎悪を押さえ込んできた

しかし、コンピューターによる事変の際、封印の一つ惑星が消滅し

状況は変わった

これ以上の封印は不可能だと言う事実

護り人の中でも、最初の英雄

闇の『憎悪』を打倒した4人の英雄の1人が設立したエスパー集団は

人々が護り人の使命を忘れる中

この事実にいち早く気づいた。

惑星を一つ失い、これ以上の封印が持たないと知った彼等は

今を戦う英雄達とは別に

1人の英雄を生み出す事を決意した。

大いなる光の残した遺産による必ず闇を封じるという強い意志

最初に闇を倒し、3惑星の王に即位した伝説の英雄の細胞を持つ『彼女』の体

エスパーの館を設立し、闇を打倒する為に戦い続けた英雄の残したテレパシーボールに残る『彼』の記憶の残滓

それぞれを持つ。新たな英雄を。

エスパーの館の研究室

様々な機材が並ぶその中心に一際大きなシリンダーが存在する

その中には膝を抱えるような姿勢で培養液の中に浮かぶ少女が居た

少女は、培養液の中でゆっくりと目を開ける

白銀の髪、整った容姿、そして

その背中に見える、強大なマジックの力が具現化した純白の6枚の翼…

こうして、エスパー達の手によって

『彼女』は誕生した…。

「まさか、その『彼女』って…。でも白の羽・・・?」

ウルクがみるモニターの先にいる『彼女』の羽は黒い。まるで吸い込まれそうなくらい黒い6枚羽。

「さぁてね。僕が知ってるのはここまで。しかも人づてに聞いた話。でも一言だけいえるのは…彼女は『観測者』。あくまで観測し、勇ある者の行く末を見守るの事が彼女の役目。さぁて、後始末するかぁ。ウルク、また走り回ってもらうよ。彼らが更地にしてくれたからね。」

シャオは背伸びをしてウルクにウィンクする。

「…ま、いっか。ほら、テオもいつまでも震えてないで! いくよ!」

「あ、ま…待ってよ。」

走っていくウルクの後を追うテオドールに手を振りながら見送ったシャオは、ゆっくりと再びモニターを見た。

「『観測者』…『アルゴルの大英雄』…。まったく、君はどれだけの人物とつながる気だい? オキ。」

微笑みを浮かべ、ゆっくりと消えていくシャオはオラクル、ラグオル、そしてアルゴルの英雄の3人の行く末を見守ることを改めて、決意した。

これは物語の続き。

誰も知らない、出生のお話。

そう、『彼女』の物語のほんの一部である。

エスパーの館が、英雄として用意した『彼女』は思いの他調整に時間がかかってしまっていた

現在の勇気ある者達、ルディ達が

深遠なる闇の討伐へと固定化されたモタビア上の空間へ向かって尚

『彼女』を培養液から出すことは出来なかった

具現化した6枚の翼が発揮するマジックの威力に

『彼女』本人の体が持たないと、目算されていたからだ

結果再調整を重ね、ルディ達が深遠なる闇に立ち向かうその時に間に合わせる事が

出来なかった。

培養液の中で、ルツの記憶の残滓を繰り返し、繰り返し自身の物にしていく『彼女』

彼の喜び、誇り、苦悩、怒り、悲しみ

培養液の中でも不満は無かった、自分の中にあるルツの記憶だけが

自分にある物だったから、大いなる光の意思から来る使命の自覚も悪いものとは思っていなかった

英雄達の手助けに間に合わないのは、少し悲しかったけれど

私の存在理由が、この培養液から出ることも無く、意味を成さない物だとしても

それもいいのかもしれない、等と考えはじめた頃

ふと――

『彼女』の耳に何かが聞こえた

何かが砕け散る音と、断末魔

それが聞こえた瞬間、『彼女』は『彼女』にしか分からない事象を理解した

目を強く見開き、6枚の羽を大きく広げ

その場で、炎系のマジック『ラフレエリ』を発生させ

自分の入ったシリンダーを破壊した

溢れ出る培養液の中、彼女は始めて触れる外気に少々、肌寒さを感じながらも

驚き、腰を抜かしているエスパー達を尻目に

マジック『リューカー』を発動させ。

その場から、まったく別の場所へと転移した

『彼女』が転移した場所は、暗闇の中だった

マイルの村の近くに空いた穴、黒い波動が漏れ出し、死の中心となっていた地点…

自身の姿がはっきりと見える不思議な暗闇

そしてそこには

砕け散った剣の破片、そして…

黒い、暗闇の漆黒より更に黒い

うごめく巨大な何か…

ああ、私の中の大いなる光が語りかけてくる

これは、深遠なる闇の欠片

数千年の時を経た憎悪は、最初の英雄アリサが授けた剣でも消滅させることは出来なかったのですね…

この欠片は、残しておけば再び憎悪を溜め、新たな深遠なる闇として生まれ変わる…

ならば、英雄達の力に慣れなかった私が、私の身で封じ込め共に消えましょう…

存在理由が無かった私の、たった一つ最初で最後の存在理由…

大いなる光を元にした彼女の意思は、ルツの記憶が出す結論とは違う結論を出した

『深遠なる闇はアルゴルにあってはならない』

では無く

異形である自らと深遠なる闇は、アルゴルにあってはならないと言う

結論を出したのだった…

『彼女』は、そのうごめく何かに手を伸ばし

抱きかかえるように1つとなる…

純白の翼は、バケモノと同じ漆黒に染まり

そして…

消滅を覚悟した彼女の中で

大いなる光の意思と深遠なる闇の欠片は

悠久の過去、かつてそうだったように1つの存在へと変化した…。

彼女の頭に巡る、1つの精神体、大いなる光と深遠なる闇への分裂…

そこから生じる世界の創造…。

消滅を望んだ少女の中に生まれたのは…それとは全く別の

開闢だった…。

『彼女』の中で1つの精神体に戻った大いなる光と深遠なる闇は、彼女に語る…

深遠なる闇の置き土産。

ダークファルスはかつてアルゴルから脱出した宇宙船に残っている、と

深遠なる闇その物は、もはやこのアルゴルに脅威をもたらすことは無くなり

アルゴルの人間は護り人としての使命からは解放された。

しかし、外宇宙に旅立ったダークファルスによって、巨大な宇宙船アリサⅢの中の人々は未だ

護り人の使命から解放されてはいない、と

『彼女』の中の精神体は更に続ける

大いなる光はそのダークファルスを追って行ってしまった

解放された人々に、真実を伝えるわけにはいかない

護り人によって生み出された貴女に原初の精神体の最後の力を授けるので。

そのダークファルスを追って欲しいと

『彼女』はその精神体、最後の願いを良しとした

作り物の『彼女』に、初めて生まれた使命だった…

消え行く精神体に

時空を操り、自身の周囲と繋がる無限に広がる空間を与えられ

そこに、精神体が欠片から修復したルディの剣、ファルディシオンをしまい

未だに使命を課せられている人々の住む宇宙船

アリサⅢへと、ダークファルスの残る世界へと…

平行移動「スライド」した

ここまで語られた内容も、ほんの断片的な内容でしかない

この後、彼女は統合して直ぐに使命を課し消滅した精神体の代わりとして

人の本能、種を残す本能、性に対しての欲求で自らの穴を埋めていき

1人の踊り子として、『シンキ』として

アリサⅢにおける勇気ある者達と出会う事になるのだが

それは、また、別のお話…




みなさまごきげんよう。
今回の番外編はアインスの強さ、シンキの隠された謎を描いたお話となりました。
隊長ことアインスは格の上も上の相手と戦う時にどうするか。
シンキはそんな勇ある者と戦う時、本気で戦う時はどうやって戦い、彼女の目的、使命とは何なのかの一面を見せました。

半数以上は彼女、本人の執筆を私が少しだけアレンジして今回公開といたしました。彼、彼女のファンもいらっしゃるようですし少しはお二人の事がわかったのではないでしょうか。

なお余談ですが、彼女シンキの力を安藤枠であるオキ、そしてマトイの共通であるダーカー因子吸収能力の容量で比較すると、彼女のもつ闇属性、こちら(アークス)でいうダーカー因子の吸収できる容量はオキ、マトイを合わせて、それの3倍だそうです。アホカ(

更に余談、ありえない話ではあるが、マトイが因子を全て持って消えた際に
オキが立ち上がれず、弱音を吐いてしまった場合、最早アークス所か人として駄目になるほど甘やかした後マトイから因子だけ奪い取り何処かの宇宙へ平行移動をしてオラクル世界から消え去る可能性もあるそうです。ホントいい性格してますね。私は大好きですよ。

では、本編でまたお会い致しましょう。

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