SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第92話 「久しぶり」

「ン…。」

気付くとオキはベッドに寝ていた。体を起こそうとするが力が入らない。腕に違和感がある。どうやら点滴の針が刺さっているようだ。

部屋には誰もいない。誰かを呼んで、気がついたことを教えないと。そう思った矢先、扉が全力で開いた。そこには息を切らしているマトイがいた。

「…オキ!」

「マトイ…。」

走って部屋へと入るなり、全力で抱き着いてきたマトイにオキは目を丸くした。

「おいおい。」

「よかった…。よかった…。もう二度と目が覚めないかと…。」

開いた扉からは看護師であるフィリアの姿も見えた。他の看護師もオキが、他の意識不明だった者たちの意識が戻ったと聞いてバタバタとあわただしくなっている。

「オキさん。力が入らないと思うけど、すぐによくなるから。ただ単に、2年以上も体がまともに動いていないから筋肉が衰えてるの。無理に動こうとしない事。いいわね。」

マトイにゆっくりと起き上がらせてもらうオキにフィリアの一言目である。オキが無理をして彼女に世話(入院)になっていたのは、いつもの事である。苦笑気味に笑うオキ。

「マスター…。」

ゆっくりと近づいてくる小さな少女が一人。オキはベッドの横まで歩いてきた彼女の頭をゆっくりと撫でてあげた。

「心配かけたな。アオイ。」

「いいえ。…おかえりなさいませ。マスター。」

ニコリとほほ笑むアオイと、相変わらず泣き続けオキの胸にうずまっているマトイ二人を抱きしめた。

オキらの意識が戻った事はオラクル船団中に駆け巡った。

多数のアークス達がオキ達のお見舞いに何度も現れ、2年の間の動きを教えてくれた。

オキ達が意識不明になってから1年ほどたってから、マトイが正式にアークスとして活動を行うようになったらしい。

そしてハルコタンという惑星の発見。

そこでダークファルス【双子】が頻繁に目撃されるようになり、【双子】の暗躍でその星に封印されていた邪神【マガツ】の力の一部が復活してしまった。その後ハルコタンのマガツ襲撃を何度か抑えた後、アークスの切り札【A.I.S】の投入まで行い、現状ではオキら無しでも皆の力を合わせて頑張っていたらしい。

「マガツは何とか抑えている。だけど、目撃されていたはずの【双子】が見つからなくなった。今度、抑えたマガツの力を再度封印すべく、灰の巫女が儀式を行うみたい。何人かには護衛を頼んである。【双子】はその儀式を邪魔しにくる可能性が予測される。」

シャオから現状の説明を粗方してもらった。

『人がいない間になに面白そうなことやってんだ。』

オキの言葉にその場にいた全員が笑った。いつも通りのオキでよかったとマトイをはじめ、クラリスクレイス達も笑顔になる。

『オキさん。面白そう、じゃない。楽しそうな事だ。』

コマチの言葉にオキも笑う。

オキはまだ体の調子が完全ではない。2年もの間寝たきりになっていた関係で、暫く戦闘には出撃できない。しかし退屈な毎日、とは思わなかった。

マトイがアークスとして活動をはじめてから、イオや他のアークス達と共に、オキが向かい、暴れまわり、そしてマトイに多くを語ったその場所に自分の足で向かった。自分でその場に立った。そのことをマトイは楽しそうにオキへと語っていた。

「でね? そのときに…。」

マトイは2年間、オキのいない間に起きたことをたくさん話してくれた。時々いろんな人が来て、寂しかったことを伝えたり、シリカと結婚した時にものすごいオーラを出しながら嫉妬していたりと、マトイの事も話してくれた。

それによりマトイが顔面瞬間沸騰したり、わたわたと恥ずかしがっている姿を見て、オキは退屈しない日々を過ごした。

「もー。その時の話はー…。」

「ははは。すまんすまん。おっと、エコーが呼んでる。それじゃあな!」

オキが一番お世話になった先輩アークス。ゼノは笑いながら部屋を出て行った。

「相変わらずな人だ。」

ふうとベッドの上に寝転がったオキはボソリとつぶやいた。

「…みんな、元気かなぁ。」

その言葉が聞こえたのかマトイがオキに優しく聞いた。

「会いたい?」

「…そうだなぁ。やっぱ、いくらゲームとはいえ、命を懸けて一緒に戦った仲間だからな。急に離れるのはさみしいもんだ。」

「わかるよ。私も…。だって、寂しかったもん。」

ふふっとほほ笑むマトイ。すまんかったと一言小さく謝ったオキは目の前に広がる青き星を眺めた。

「もう少しだ…。もう少し。」

SAO事件が終わり、未帰還者となっていたプレイヤー達は衰えた体を療養し始めて2か月がたった。

未帰還者だけを入院させた病院をスレア星、日本国内各地方に未帰還者専用の病院として扱い、寝たきりだったプレイヤー達の衰弱しきった体のリハビリをメインに2か月たった今、かなり落ち着いてきた。

キリトこと、和人をはじめとするプレイヤー達、オキらアークスとつながりのあった関係者は偶然か否か、都内の病院に集中的に集められ、攻略組メンバーがほぼほぼそろっていた。

そろっていなかったのはオールドやセンター、キバオウ等が和人達の病院にはいなかった。

だが、彼らは各地方の病院にいるという情報を和人達はセンターによって伝えられ、今ではメール、テレビ電話などで情報をやり取りしている。

和人達に最初にコンタクトを取ってきたセンターはSAO開発陣の元メンバーだったらしく初期開発に加わっていたそうだ。

その時に得た伝手を使って和人達を探しだし、コンタクトを取ってきたらしい。

あくまで初期開発時点のみだったらしく、まさか自分が一部とはいえ携わったモノによって命を抱えることになるとは思ってもいなかったらしい。

それにしては楽しんでいるようだったがとクラインが突っ込むと笑ってごまかしていた。

オールドは首都圏内にいるようだが、彼はある事情により別の病院にいるとセンターから伝えられた。

場所だけは教えらえれ、オールドは横須賀にいるらしい。彼と連絡を取り合った際にテレビ電話を使用したディアベルは『電話の後ろで女性の声が多く聞こえた。一瞬だけ聞こえた言葉に司令官とあったが…。一体何者なのだろうか。』と言っていた。彼の正体を知るのはまだ先であるのを誰も知らない。

キバオウは首都から離れ、大阪にいるらしい。ディアベルは予想通りと言っていた。

相変わらず元気らしく、ディアベルもうれしそうに彼と話していたのを和人が横で見ていた。

この2か月のリハビリで少しずつ体力が戻ってきたプレイヤーたち。外では『SAOサバイバー』と呼ばれている事を最近知った。

ある日の病院内の3階談話広場。プレイヤー達はここを中心に普段集まり、テレビを皆で見ている。

毎日のようにSAOの話題が広げられ、ある事無い事を考察されている番組を毎回のごとく皆で『あの時はこうだった』『この時はこうだったな』となんだかんだで良き思い出として語った後にオキらアークスメンバーの事の話になっていた。

そんな変わらなかった2か月と少し過ぎたある日。いつものように談話広場に集まっていたメンバーの中に和人、とアスナこと明日菜が合流した。

「みんな、おはよう。」

「おはよー。」

あいさつをすればいつもは元気な声で返事が返ってくる。だが今日は違った。

和人達の方を一斉に向いたメンバー。

「ど、どうしたんだ?」

「おにいちゃん! どうしたもこうしたもないよ! これみて!」

先に広場に来ていた和人の妹であるリーファこと直葉。和人をテレビの真正面にあるソファへと明日菜と共に座らせた。

「な、なんだよ。テレビになにか…え?」

「和人君、これ…!」

二人が目にしたのは今まさに巨大な飛行機のような流線型のモノの前で一人の少年、そしてその隣に女性とロボットのようなモノがしゃべっているところだった。

番組の右上にある見出しには『未知との遭遇! 政府からの重大発表! 宇宙人は存在した! オラクル船団代表からの挨拶』とあった。

「オラクル…船団…。」

和人がポソリと口につぶやいた。彼らの大元、彼らが所属していると言っていた船団の名前。そして今しゃべっており、友好の意を表明している少年と女性、そしてキャストと名乗る種族で組織を束ねている六坊均衡の1、レギアスが『アークスの存在』を説明していた。

「本当に…来たな。」

ディアベルが笑っていた。それをみて和人もクラインの肩をたたく。

「良かったな。」

「ああ。こんなに早く来るとは思わなかったぜ…。はは…ははは!」

すぐには会えないだろう。だが、それでも何年、何十年、下手すれば生きている間とも思っていた彼はまさか数ヶ月で会える希望が湧いたのを心の底から喜んだ。

「オキ…さん。」

その場に一人の少女の声が聞こえ、全員がシンと静かになった。聞こえるのはテレビから聞こえる音だけ。その声の持ち主は広場の入り口でテレビをじっと見ていた。

「圭子ちゃん…。」

明日菜が彼女の名前を呼ぶ。

「明日菜さん…。」

少しずつ笑顔になるシリカこと圭子。明日菜はうんうんとうなずいていた。彼女も、そしてその後ろにいるフィリア、ハシーシュも圭子と抱き合った。

「良かったね。圭子!」

「また、会えるよ。」

うんうんと小さく頷きながら涙を流す圭子。その時だ。

「こっち! こっちっす!」

「ちょっと孝也! そんなに急がせない!」

廊下がなにか騒がしい。タケヤこと孝也、そしてツバキこと乙姫が誰かを案内してきた。

「あ…。」

皆が目を丸くしてその案内されてきた者を見ている。圭子は廊下を背にしている為にそれが誰だかわからない。

「シリカ…じゃなかった圭子、圭子だったな。本名は。」

何度も聞いた声。少し低く、それでも男性にしては少し高い方。圭子がゆっくりと声の主の方に振り向いた。

「…。」

優しく微笑むその顔。SAOが終わった今でもその姿かたちは変わらない。服装まであまり変わっていない事には驚いた。

「あ…あ…。」

圭子の目からは涙が止まらない。本当に会いに来てくれて、うれしくて止まらないのだ。

「すまん。遅くなった。」

優しく頭を撫でる感触はSAO内でも味わっていたそれと同じ感触。SAOと違うのは彼の本当の暖かさを感じる事。

「はい…はい!」

撫でていた手が圭子の背中に回り、優しく抱きしめる。

「久しぶり。」

「久しぶりです。オキさん…。」

アークス、オキ。惑星スレアにて愛する女性と再会を果たした。

更に1か月後。オラクル船団、チームシップ『ペルソナ』。普段ならチームメンバーが時々訪れるくらいで集まるときも不定期なこの船が、今日は騒がしく数々の声で響き合っていた。惑星スレアのプレイヤーでオキ達と最も交流のあったメンバーを招き、『SAO完全攻略お疲れ様会』を開いていたのだ。

オキはチームシップを惑星ナベリウスに降ろし、碧あふれるその森林のど真ん中で宴会を開いていた。

「へい! 次の料理おまち!」

ヒューイやクラリスクレイスの六坊均衡メンバーをはじめ、その他アークスの面々、関係者が料理人フランカの作った料理を大皿に盛ってテーブルへと運んでいた。

「ありがと、リズ。」

「ふふん! まだまだあるぞ!」

オキが礼をいうと、自分は運んでいるだけなのになぜか得意顔になっているクラリスクレイスに苦笑した。

「ところで、貴様がオキの…そうなのか?」

「…え!? 私ですか!?」

クラリスクレイスが圭子を睨み付ける。いくら少女とはいえ、六坊均衡の5である彼女の目は一般人には怖いものがある。

「じーーーーーーー。」

「あ、えっと…。」

じーっと圭子の顔を見つめるクラリスクレイスは急に笑顔となった。

「ふふん! 負けないからな!」

そういって、再び厨房へと走って行った。

「あ、えっと。どうしましょう。」

「大変だな。オキも。このこの。」

困っている圭子を横目にヒューイがからかいに来た。

「うっせヒューイ。ビール、おかわりだ。」

「おう。まってろ。」

ステージを見ればクーナがアイドル姿で歌って踊っている。外を見れば、双子たちと共にミケがキマリ号に乗って飛び跳ねている。

キマリ号はミケがいない2年間、ナベリウスの頂点の代わりとして守っていたようだ。多くのアークスがキマリ号に助けられたという報告を受けている。さすがあのミケのおもちゃなだけ、その体力やらはバカみたいに高いらしい。

その他プレイヤー達も和気あいあいと飲み食いしている中、オキが手を挙げた。

「はーい。ちゅうもーく。楽しい所すまないんだが、ちょっとこれを見てほしいんだ。」

オキが中央スクリーンに出した一通のメール。

『SAO攻略おめでとう。ここにその記念を送る。  ヒースクリフ』

「これ! ワイのところにもきたで! へんなコードつきやった!」

「私のとこも。」

「俺の所も来たな。」

キバオウをはじめ、リズベットやリンドにも来ているらしい。この分ではプレイヤー全員に配られている可能性がある。

「これ、調べたんだけど私がやってたALO、アルヴヘイムオンラインのコードだったよ。」

リーファが手を挙げた。

「ALO…か。」

ヒースクリフ。萱場は事件直後に消息を絶っていた。そして事件解決後、彼の別荘で遺体として発見された。

ヘッドギアにて自分の脳を高出力でスキャンニングし脳を焼き切ったらしい。

気になるのは死亡推定時刻がSAOの完全攻略される数ヶ月前だったとか。

「ねぇねぇ。ALO、やってみない? 案内するよ!」

リーファの言葉にキリトも賛同し始めた。

「面白そうだな。こんどはアルヴヘイムか…。」

「キリト君が行くなら…私も行こうかな?」

「面白そうだ。私もノろう。」

「ワイも行けたら行くで!」

周囲のプレイヤー達が皆賛同し始めた。

「どうする?」

「うーん。私は…オキさんが行くなら…。」

「そうだなぁ…。」

考え、ハヤマヤコマチ、シンキ達を見て頷いた瞬間だった。

『緊急警報発令。惑星ハルコタンにて、巨大な反応を感知。『禍津』の出現が予想されます。アークス各員は…。』

禍津。今ハルコタンで暴れているという星の災厄の一部らしい。メインモニターにはハルコタンの図とその出現されると思われる場所が映し出され、チームシップの画面は真っ赤に光っていた。

「な、何がどうしたんだ!?」

クラインが慌てているため、サラが落ち着かせていた。

「落ち着きなさい。どうせ、あの人たちが倒しちゃうんだから。」

そう言ってサラが見た方向を見ると既にオキたちが準備を進めていた。

「禍津か…。おれレンジャー。WB貼るわ。貼るとこはデストロイヤーから聞いてるからだいたい知ってる。」

オキはアサルトライフル『リフォルス』を手にとった。

エルデトロスと同じエネミー『ガル・グリフォン』種から作られる武器だ。

「おれカタナ。ちょっと試したいことがある。」

「ミケはパルチー!」

「俺も槍だな。」

「ふふふ。邪神だかなんだか知らないけど、楽しそうねぇ。」

シンキも楽しそうに空間を弄っている。完全に宝具を使う気マンマンだ。

「シンキは一体任せるとして…。」

「えー。」

禍津は簡単に言えば巨人だ。そんなのが何体もハルコタンを動き回る。それをアークスの総力をかけて再度封印まで持っていくのだが、正直シンキならひとりで一体倒してしまいそうだ。

「なんだよ。それくらいの力はあるだろ。」

「足りないわ。もっとやっていい?」

すごくウキウキした顔を見せるシンキ。好きにしろと呆れ顔でオキは頭を下げた。

「じゃあ、すまん! 宴会中だがちょっといってくる!」

「ちょっといってくるって…まるでコンビニに行くみたいな感じで…。」

リズベットが呆れ顔で言った。

「仕方ありませんよ。リズベットさん。」

シリカが苦笑気味にオキの後ろ姿を見送った。

「リズ、ヒューイ。ここ任せた。」

「おう! 暴れてこい!」

「私も行きたいが、キサマの頼みなら仕方ない。守ってやるぞ!」

このふたりがいるならまちがいなく問題はないだろう。ミケはキマリ号に皆を守るように言い聞かせながら鬣を引っ張っていた。

「おら、いくぞおめーら! 出撃だ!」

アークスのなかのイレギュラー's チーム『ペルソナ』。その仲間たち。

完全に復活である。

 

第1部  -完-




みなさまごきげんよう。
祝! SAO ~はじめましてから始まるデスゲーム編~ 完結!
二年間という歳月をかけてようやく完結しました。(でもまだ1部
ここまで来れたのも、皆様のご声援のおかげであります。ほんとうにありがとうございました。
これからもソードアークス・オンラインをよろしくお願いいたします。

さて、次回からは次章へと移ります。
これからは惑星スレアを中心にオキを始めメンバーが暴れまわります。
また、EP3、そしてEP4と進めていこうと思っておりますので、どうかお楽しみに。

ではまた次回にお会い致しましょう。

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