遠くに見える崩れゆくアインクラッドを見ながらオキは後ろにいる気配を感じ取った。
「やぁ、久しぶりだね。いや、【僕】としては初めましてかな?」
オキが声の主の方を向く。声、その姿、容姿は因縁でもあり自らの手で倒したはずだった『ダークファルス【敗者】』、ルーサーそのものだった。
「ルーサー…なぜここにいる。お前は死んだはずだ。」
間違いなくあの時に倒した。いや、正確には力を奪い、六坊均衡の一、レギアスにぶった切られ真っ二つとなった。そんな死んだはずの男が目の前に立っている。
「あぁ。僕の本体は負けたんだね。どおりで君がこの時間、この場所にいるわけだ。ふむ。となると…。あぁそういう事か。僕の研究設備を使ったね? なるほど。それなら説明がつく。」
ルーサーは一人でぶつぶつ言いながらオキの横に立った。アインクラッドを見ているようだ。
彼は、『彼』ではないらしい。
「残留思念、とでも思ってくれればいい。」
オキの考えたことがわかっているとでも言いたげな顔だ。オキは最後の2本となったタバコの1本に火を付けた。
「お前…。もうシオンはいないぞ。」
「わかってるさ。君がここにいるという事は僕の目的は達成できなかったという事。つまり、シオンと融合できなかったという事だろう? 僕だってばかじゃない。それくらいわかるさ。」
それくらいの予想はしていたか。オキはボソリとつぶやきながら煙を吐いた。
「なるほど。で? なぜここにルーサー、お前がいる。」
「説明すると長くなるんだけどね。簡単に、君の頭にわかりやすく言うならば、僕は茅場、そして須郷にコンタクトを取って僕のごく少数の因子と、茅場には僕が持つ知識の一部を与えたんだ。まぁ、須郷はいいとしても、茅場の方はそれを利用してこのアインクラッドの中身を造ったみたいだけどね。」
決戦後、茅場が言っていた事は本当のようだ。
「だが、なぜおまえがこの惑星を…。」
「何故? こんな小さな惑星、僕は興味がなかった。でも、この世界は別だ。宇宙のように広く、無限に広がる世界。僕はそれに目を付けた。僕の演算に間違いはない。だが、それを確認するには答えが出ないと間違いかどうかも分からない。僕も科学者だ。A=Bが1=1だという方式を答えを解くには確実な結果が無いと100%だと言いきれなかった。だから僕はもし万が一、シオンが融合した際に僕を拒んだ時どうするか。考えた。考えたくなかったけどね。」
ルーサーにとってそれは自分の間違いを認める事。プライドが許さなかっただろう。だが、彼もまた科学者だった。ある結論に至った。
「仮説は無限に立つ。完璧な演算をするには完璧な仮説と方式が必要だ。そのなかに『シオンと僕が死んだ場合』も入れなければならない。僕は全知になる存在だ。だからこそ、死ぬわけにはいかない。だったら僕が世界になればいい。」
「なるほどようやく理解できたぜ。その時に調べていたこの世界になる事で全知になろうとしたな?」
「その通りだよ。この世界は完璧だ。僕が求めるモノ、求めたモノ、全てがあった。僕をベースに彼が作ったのが僕、カーディナルだ。」
そして彼は全知となった。
「だけど全知になった際、僕は思った。なんて退屈なんだろうと。」
「退屈? お前が? 大丈夫か?」
今迄のルーサーならそんなことは言わないだろう。あのルーサーなら。
「僕を見くびってもらっては困るよ。本体がどのような結果になったであろうとも、僕は僕だ。本体である僕が考える答えと、今ここにいる僕がどう考えるか、それはこの僕、ルーサーだけが許せることだ。間違った答えだよそれは。」
ほほ笑むルーサー。オキはかつて、研究に勤しみ難題を解いていた若きルーサーはこのような男だったのかと感じた。
「なんだか不思議だな。命すらやばかった。殺されかけたよ。あんた、いやあんたの本体にね。」
「でもそれは僕じゃない。本体である僕だ。それに本体は負けたんだろ? 名前の通り敗者となって。」
オキはアークスシップ乗っ取りの時に【敗者】に殺されかけた。しかし、仲間の手助けや自分のかけがえのない大切な物を守る為に全力を出し切り、倒した。
もちろん、シオンのおかげでもあるのだが。
「僕は僕であり、あの僕は僕じゃない。いいね?」
オキがルーサーを見ると、体が光となってうっすら消えかかっていた。
「お、おい!」
「僕は望み通り全知となった。だけど僕の演算は間違っていたようだ。全知になった僕は科学者として死ぬ事と同じ、考えることをやめてしまった。それは僕の求めた解ではない。だから僕は、カーディナルはここでお別れだ。君というイレギュラーな存在が僕の法則をことごとく崩してくれたおかげでね。」
「当たり前だ。てめーが全知になるのは勝手だが、犠牲がつきものなんて許せるか。だったら犠牲の無い全知になりやがれ。」
「ふふ…ははは。面白いこと言うね。やっぱり君とは相いれない存在のようだ。」
次第に消えていくルーサー。それでも彼は微笑んでいた。
「あぁ…シオン。一緒に、なりたかった…。」
ルーサーが粒子となって消えた場所に一人残されたオキは消えゆく粒子を見ながらボソリとつぶやいた。
「っち…。満足そうな顔して消えやがって。」
オキはルーサーの事を知らなかった。知っているのはアークスの敵としての彼の姿。科学者としての彼の姿を一瞬でも見れたオキは心なしか嬉しそうだった。
アインクラッドが崩れ行く中、名残惜しいアインクラッドの玉座をもう一度見てからログアウトをしようと玉座の方へオキは戻ってきた。
「たーしーかー。ここにあったよな?」
なにか異様に気になる場所があった。そこを調べなければならない。そんな使命感があった。自分でも分からない。とにかくそこに行かなければと、気がつけばその場へと歩き出していた。
「何だろう…。」
そこには光り輝くまぶしい物体が浮いていた。それを触ろうとすると。
「うぉ!?」
体が急に吸い込まれ、75層のボス部屋で体験した別エリアへの強制移動の感覚を再び味わった。
「…ここは?」
気がつくと周りには何もない真っ白な場所に立たされていた。まるでドームのような場所。円状の空間だというのが分かった。
「ねぇねぇ、こんなところでなにしてるの?」
後ろから女性の声が聞こえてきた。幼い感じの声。その声の持ち主の方向を向くと、藍色の長いストレートの髪。幼さの残る顔立ち。すらっとした体に同じく藍色を主体とした軽装防具。身長はシリカより若干上か。
腰に下げるは片手剣。そして彼女を見た瞬間に感じた。
『強い…。この子、いままで出会った中でもアークス並に強い。ハヤマん…いや、隊長クラスか!?』
「どうかした?」
じっと見つめていたオキに疑問を抱いた彼女は首をかしげていた。
「すまん。見知らぬ女性を見つめてしまうのは失礼だったな。いや、知人と似た感じたモノがあったからね。」
「ふーん…。それって強さ?」
「!?」
「やっぱりー! 僕も感じたんだー。君の強さ。とっても強いでしょ。」
この子、一体何者だ? これほどの子はSAOにいなかった。いればすぐに分かる。オキは2年という歳月の中でSAO内で出会ったもしくは話を聞いたプレイヤーを思い返す。少なくとも強いと言われたプレイヤー達はソロ、チームの違いはあれど、大半がオキ達の攻略組の傘下に入っていた。だが、この子は知らない。
「俺の名前はオキ。アークスの、オキ。君は?」
「あ、ごめんねー。名前言ってなかったね。僕の名前はユウキ。チームはスリーピングナイツ所属だよ。気がついたらここにいて、オキを見つけたんだ。」
彼女もここに飛ばされた感じらしい。スリーピングナイツ。チームの名前らしいが、やはり聞いたことがない。
「ユウキか。ユウキはSAOのどのあたりで過ごしていたんだ? 少なくとも最前線にはいなかったろ。」
「SAO? なんのこと?」
全く知らないそぶりを見せる。首もかしげ、一体何を言っているのだろうと思っているみたいだ。SAOを知らない?
プレイヤーじゃないのか。NPCでもない。カーソルは緑だ。それにNPCからはこんな強さを感じたりはしなかった。
どう考えても人だ。オキの頭の中は混乱する一方だ。
「じゃ、じゃあユウキはどこからか飛ばされてきたって事か?」
「んー。僕はALOにいて…。ううーん。モンスターを狩っていたはずなんだけど。」
ALO。リーファが言っていたSAOの後に作られた新しいVRMMOの名前。彼女もリーファやシノンと同じ類のようだ。偶然にも飛ばされてきた被害者。
『外にはもっと強いのがいるのか。』
オキはゾクゾクっと背筋を震わせ、気が付かないうちに口元をゆがませていた。
「笑ってるの?」
「おっと。すまん。つい口が…。ユウキ、強いんだろ。」
そういうとニコっと笑った。
「わかるー? 自慢じゃないけど、これでも結構やるって評判だよー。…オキも強いでしょ?」
「まぁな。そこそこには。」
口元を歪ませて笑う。ユウキもそれをきいて嬉しそうだ。
「ねぇ。せっかくだし、ここで戦ってみたいな。オキを見てると戦いたいって気持ちがすごく出てくるんだ。こんなの初めて! もしかしたらもう二度と会えないかもしれないし。」
どうやらユウキも俺や隊長らと同じ類らしい。無邪気に笑う彼女。
「いいぜ。せっかくだしな。」
武器を取り出せるだろうか。ためしにメニューを開いてみた。
そこには今ま使ってきた武器の数々が残っていた。最後の戦いで使用したロンゴミニアドだけは使用時に壊れてしまったのでなくなっている。
「いけるな。武器もある。よし。はじめようか。」
「いいよー。」
「あ、念のため半減モードでいいか? ちょっと厄介なものが絡んでるんでね。」
もう『アイツ』はいない。たぶん大丈夫だろうと思うが、万が一も考えれる。ここで彼女を『殺したくない』。
「んー…別に良いけど。それじゃあ最初から本気で行かないとねー。」
彼女は片手剣を出し、手に握る。クルクルと剣を回転させて準備運動のように振り回すその姿から感じる『強敵と出会ったとき』と同じ感覚。
「槍かー。へへへ。楽しめそう。」
「メインはこれじゃないけどな。ここで使えるか、分からないし。」
そういうと彼女は構えをといた。どうしたのだろうか。
「えー。本気のオキを見てみたいなー。ねぇねぇ。出せそうなら出しても良いよ。」
マジでいってんのかよ。しらないぞもう。しかし、オキも心の中では相棒で戦ってみたいと思った。本気の自分で彼女とぶつかってみたい。そう思っている。
「…わかった。」
そういって集中し、フォトンを自分の中に吸収する。幸いフォトンを感じることが出来た。あとは相棒が答えてくれれば具現化するはずだ。
『フォトンを感じる。いけるか!?』
「こい! 『エルデトロス』!」
ゴォォォォ!
稲妻の閃光と風を纏い現れるワイヤードランス。白銀の翼に碧の結晶。鋭く尖った先端の刃。オキの相棒、『エルデトロス』が目の前に現れた。
「おおおお!」
両手に装着される相棒『エルデトロス』。ユウキはそれをみて目を輝かせて嬉しがってる。
「ねぇねぇ! すごいね! それ! 僕感激しちゃった! そんな武器もあるんだね!」
「ありがとよ相棒。答えてくれて…。 さぁコイツをだしちまったら後には引けんぞ。やめるなら、今のうちだぜ。」
力を貯め、更に纏った風が強くなる。その姿をみて身震いをしたユウキ。
「ううん。余計に戦いたくなっちゃった。僕は…いけるよ。」
ほんわかとした笑顔が急に戦士としての笑顔に変わる。それをみてオキはゾクリと冷や汗をかいた。
こいつ、本当に俺らと似ているな。これは本当に本気で戦ってあげないと失礼だ。
「どうなっても知らんぞ。…アークス、オキ。」
構えたオキに続き、彼女もオキのセリフに続く。
「スリーピングナイツ、ユウキ。」
ひと時の間。カウントダウンが0になる。
「「だあああああ!」」
素早く前に飛び出し、ユウキへとエルデトロスを伸ばして振り下ろす。
「えい!」
ガキィン!
それを彼女は器用にはじき飛ばし、こちらへと素早い走りで懐へともぐりこんできた。
「はやい…だが!」
「おっと!」
体を回転させて、もう片方をユウキへと飛ばした。
「せい!」
それも防がれたがユウキは距離をとった。はじめに伸ばしたほうが帰ってきた直後にもう一度ユウキへと振る。
更にもうひとつもクロスするように。左右からの挟み撃ちだ。
「とっとと…。」
それを伏せで回避され、隙が出来たオキのほうへと走りこんでくる。
「させん!」
素早く戻し、振り下ろされたユウキの剣をクロスした状態で受け止めた。
ギギギ…
エルデトロスとユウキの剣から火花が散る。直後、両方同時に押し返した。
「うわっと…。」
「あぶな…。やるじゃねぇか。」
距離をとられた彼女へ向きなおした。ユウキも素早く体勢を立て直したらしい。
「すごいすごい! 面白い武器だね! 伸びる…鎌? 剣? そんなの見たことないや! えへへ、楽しいなー。」
本当に戦いが好きなんだな。だが、オキも同じ。この子…いやユウキは強い。
「ははは。こりゃ困ったチャンだ。次はどうかな!」
再びユウキへと走り、彼女もこちらへと向かってくる。
ガキィン!
キィィン!
硬い金属同士のぶつかり合う音が鳴り響く。すれ違い様に双方狙って自分の獲物を振りぬいた。
「まだまだー!」
再びユウキが近づいてくる。懐へと潜ろうと姿勢を低くしていた。
「ワイルドラウンド!」
「!?」
素早く両方を前後に振り、まるで本数が増えて、多数同時の攻撃が出ている様に錯覚するほどのスピードでエルデトロスの壁がユウキを襲う。
「あぶな!」
彼女は空中高くへと飛び上がった。瞬発力が高くないと出来ない行為だ。
「でーやー!」
そのままユウキは剣を振り下ろしてきた。
「ちぃ!」
オキは両腕のワイヤーをある程度伸ばし、振り下ろされるユウキの剣をユウキごとはじいた。
「おっと!?」
「まだまだよ!」
オキはそのままエルデトロスを槍を扱うように振り回し、回転力をそのままユウキへとぶつけた。
「おらおらおら!」
ギンギンギン!
「…っ!」
先ほどまで笑顔だった顔に、苦しみの色が見え始めた。
「でやぁぁ!」
ユウキも余裕が無くなってきたようだが、それにつれオキも余裕が無くなる。
『やはり強い。具現化し、SAOに合わせているとはいえここまでエルデトロスを持ったアークスである俺についてくるとは。』
プレイヤー最強であったキリトですらついてくることはできないだろう。それをこの子はやってのけている。
「ふふ…はははは!」
「へへ…。」
オキの笑い声に嬉しさを感じたのかユウキも笑いながら剣を振り続けた。
ガキン!
お互いに刃をぶつけ合い、距離を取った。数十分は切りあっただろうか。
「なかなか…やるじゃねぇか。」
「えへへ…。たーのしいなー。」
お互いに肩で息をしている。HPはそろそろ半分を斬るところだ。次の切りあいで決まるだろう。
「これなら…使ってもいいかな?」
ボソリとユウキがつぶやいた。なにかいたずらを思いついた子供のような顔をしている。
『仕掛けてくるか。』
オキはその顔が何かをしかけてくる前兆だと感じた。
下手をすると打ち負けてしまう可能性もある。そんな気がした。
オキは相手の出方次第では打ち負ける事すらも想定にいれ、3手以上先をイメージする。
「これで終わりだね。」
「ああ。短い時間だったが、楽しかった。」
「うん!」
愛くるしい笑顔のユウキにオキが微笑む。どこかで見たような感じ。以前も同じような体験をしたような。そんなデジャブを感じた。
「どうかした?」
「いや…なんでもない。さぁしめるか!」
「いくよ!」
ユウキが走ってくる。タイミングを見計らって攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。一度真正面から打ち合い、二三度側面へと回りこもうとお互いに走り回る。
「はぁぁ!」
「おおお!」
二人はお互いに距離を置いた状態から、同時に距離を詰めた。
ユウキのソードが一瞬で光り輝く。ソードエフェクト、つまりSSを放つつもりだ。
「『マザーズロザリオ!』」
「----っ!?」
ユウキの剣が一瞬でオキの視界から消える。
ギギギギギギギギギギギン!
「…っな!?」
11連撃。ユウキは自分のもっている全てをオキへと放った。彼女の『OSS(オリジナルソードスキル)』である『マザーズロザリオ』。
瞬速の剣戟、しかも11連撃の大技。ユウキは自信があった。今までにこの技を見切り、防ぎ切ったものはいない。
だからこそ、彼女はALO、アルヴヘイムオンライン内で『藍色の剣士』と呼ばれ、評価されている。
しかし目の前の男は、不思議な武器を持つ、不思議な感じのする男はそれを防ぎ切った。しかもまだその刃を振ろうとしている。
「『X(クロス)…』」
オキは11連撃を防いだ。ギリギリだった。アークスの瞬発力があったとはいえ、1年以上キリトやアスナ達と模擬戦を行い、対スピード戦に慣れていたとはいえ、彼女のソレはあまりにも速かった。瞬間的なモノならばアインスのスピードすらも超しているかもしれない。
そう思いながらオキは腕をクロスさせ、ワイヤーを伸ばし、ユウキへと迫った。
「『カリバァァァァァ!!』」
一気にワイヤーを引っ張り、クロス状にユウキを斬った。
ドサ
ユウキがその場に倒れる。オキは振り向きすぐさまユウキへと走り寄った。
「おい! 大丈夫か!?」
「いつつ…いやぁ~すごかったぁ。こんなの初めて! まさか僕が負けちゃうなんて。」
負けたにしては彼女の顔は満足げに笑っている。
「無事ならいいんだ。まったく。すごいってのはこっちのセリフだ。いやはや危なかった…。」
11連撃のマザーズロザリオはオキの腕を、まだ痺れさせている。
「でも負けは負け。うん! 楽しかった!」
身体に付いたほこりを落とすように下半身をはたく彼女ぴょんと立ち上がった。
「よっと…お?」
ユウキの身体が粒子となってゆっくりと昇っていく。
「帰れそう! それじゃあ、またね! オキ!」
本当に帰れるのだろうか。とはいえ、オキは現状では何もできない。それに彼女の笑顔を見てなんだか安心が出来た。そのため返した言葉はこうだった。
「ああ。また会ったとき。また、やろーぜ。つぎは余裕で勝つ!」
「あー! それ、僕のセリフー! 次は絶対負けないんだから!」
頬を膨らませるユウキの顔を見て、オキは噴出してしまった。
「っふ。ははは。」
「ふふふふ。」
身体の半分以上が粒子となったのか、ユウキの身体はほぼほぼ薄れていた。
「じゃあな。どこかで、また。」
「うん! じゃあね! オキ! 次は、絶対に負けないぞ!」
笑顔で消えていくユウキ。その笑顔とある少女が重なって見えた。
粒子すらも消え、オキは気づけばアインクラッド城の王座の広間に戻ってきていた。
キン…シュポ
「ふー…。そりゃそうだわな。似てるわ。あのバカに。」
オキの感じたデジャビュのような感覚。
彼女の事を見たことがあるような感じ。オキは一人の少女と重ねてみていたようだ。
声が大体一緒で、負けず嫌いで、それで強い、一人の少女。
「なぁ。リズ。おめーに、よーにてるわ。」
オキがその名で呼ぶのは一人しかいない。クラリスクレイス。六坊均衡が五。アークスの最大戦力が一人。あのおてんば娘によく似ている。そう思いながらタバコの煙を吐き、彼はゆっくりとアインクラッドを後にした。