SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第87話 「頂上に佇む狂壊の悪魔」

99層ボスエリア。すでに先日倒されている為、ボスはいない。ガランと広がったボス部屋の広間に数十名のプレイヤー達が集まっていた。

集合しているプレイヤー達は今まで数々の強敵を倒してきた猛者たち。その中でも選抜された更なる歴戦の者達。

目の前に広がるは100層への扉。今までに何度も開けてきた下層の扉と姿かたちは一緒だが、重々しく、それでいて異様な雰囲気を出している。

プレイヤー達には一日の猶予を与え、最後の決戦に挑むために一日の自由を与えた。それでも緊張感は消しきれない。

今までにない、激戦が予想された。

午前10時。予め通達していた集合時間となった。

オキがディアベルに目で合図し、お互いに頷きあった。

「ここまで…長かった。長い2年間。思えば、スタートを切った君たちに続いたのがきっかけだった。」

プレイヤー達の中で最も扉に近い場所にいるディアベルが扉を睨み付けながら語り始めた。

「1層攻略。それは絶望を感じながらの攻略開始だった。本当に攻略できるのか。この先に進むプレイヤーに任せた方がいいのではないだろうか。はっきり言って逃げたかった。命を懸けることはない。他人に任せればいい。1層で、安全な場所で、誰かが攻略し、私を助けてくれる者に託せばいい。…だが、私は進んだ。共に有志として駆けつけてくれたキバオウ君をはじめ、少人数でのPT。レベルの低い私たちは苦戦しながらも進んだ。知っている者もいるだろうが、中にはあのヒースクリフも交じっていた。1層の迷宮区入り口の村にいたのは女性に囲まれた不思議な人たち。

まさかSAOスタート開始宣言時にイレギュラーな存在である事、ゲームマスターに大立ち回りを行った本人だとは思わなかった。

最初はね。オキ君。実は疑っていたんだよ。本当にそうなのか。ただの茶番ではないのかって。だが、彼は本当にそうだった。素人の私が見てもわかる動き、戦い方、そして、その覚悟。すべてが常人ではありえない。そういう者達だった。上れば上るほどそれがわかる。

彼らには本当に助けてもらった。…だが! 我々も負けてはいられない! 彼らがどんどん進んでいく中、ハイそうですかと、指をくわえておこぼれをもらっていいのか! いいやそうじゃない! 我々も強くなれるはずだ! そう信じてここまで上ってきた! オキ君、アインス君。我々は、このまま上る。この扉を開け、頂上を目指す。本当は我らスレアの人間だけで解決すべきことだ。だが、もし君たちがいいというならば…!」

「ディアベル。」

オキが手を前にだし、ディアベルの言葉を止めた。ゆっくりと吸っていたタバコの火を消した。

「いまさら水臭いこと言うなよ。2年も一緒に闘ってきたんだ。それにな? もう後戻り出来ねぇんだよ。」

「そうだったな。そうだな。うむ。すまな・・・。」

「いや、なんというか。綺麗事のように聞こえるんだが、あのな。」

うしろをチラリと見るオキ。後ろにはアインスとハヤマがなんのことだと言わんばかりにオキの方をみた。

「ほら、うちら強者との戦いに命はるからさ。興味もあるんだ。上に何がいるか。」

それを聞いてディアベルは笑いだした。

「ははは。たしかにそのとおりだったな。いや、失礼した。」

そういって改めて皆の方を向いたディアベルは剣を上に掲げた。

「では諸君! 決戦だ! 生きて、帰るぞ!」

「「「おおおおーーー!!!」」」

 

ゴゴゴゴ

 

大きな音を立てて扉を開けたディアベルを始め、一行はゆっくりと階段を上った。

「お前ら。聞いとけ。」

「ん? どったのリーダー。」

オキの後ろに並ぶアークスメンバーにオキが上りながら言った。

「この先の敵は何がいるかわからんが、SAO仕様で来るならSAOのやり方で、もし相手が『俺たちの敵』として出てきたなら躊躇なく力を使え。いいな?」

「あーよ。」

「なのだなー。」

「いいのね? 使って。」

シンキが再度確認をしてくる。彼女の力は特殊すぎるからだ。

「ああ。だが、シンキのちからはできるだけ抑えて使用してくれ。さすがにサーバー吹っ飛んだら話にならんからな。」

「はーい。」

「そろそろ出るぞ!」

ディアベルが階段の頂上に光をみた。それぞれに緊張が走る。

「これが…頂上。」

皆が階段を登りきるとそこには一本の道とアインクラッドの頂上に建つ真紅の城が見えた。

「あそこに茅場がいるんだな。」

ボソリとキリトが呟いた。

「ああ。根源だ。」

クラインも一緒に城を睨んだ。

「行くぞ。注意しろ。何が出てくるかわからん。」

ディアベルを先頭に進み出す攻略メンバーたち。後方にいた念のための支援グループもゆっくりと後を進んだ。

「ハヤマンと隊長は左右を。こまっちーとシンキは後方を頼む。」

「了解。」

「わかった。いってくる。」

プレイヤーたちに何かがあってもいいように囲むように陣取りながら城への道を進んだ。

「何も、起きないな。」

「ああ。」

先頭を進むディアベル、キリトが城の扉までたどり着いた。続々と扉前にたどり着き、最後のひとり、コマチも列に並んだ。

「後ろは最後だ。」

「あーよ。ディアベル。」

ディアベルに合図を出し、扉を開くようにさせたオキはそれに続く。

城の中は広く大きな柱が何本も立ち、屋根を支えていた。そしておくの玉座にはひとりの男が座っていた。

白と赤の鎧の騎士、ヒースクリフ。茅場晶彦だ。

「よくぞ、よくぞここまでたどり着いた。予想以上の成果だ。それを私は称えよう。」

パチパチとゆっくりと拍手をするヒースクリフ。

「旦那、約束通りここで終わらせたらゲームセット、皆をログアウトできるようにしてもらおう。そして俺からの質問に答えてもらう。いいな?」

コクリと縦に首を振ったヒースクリフを笑顔だった。

「ああ。いいとも。それが約束だ。だが…。」

ゆっくりと立ち上がったヒースクリフは困った顔をした。

「実は、既に君たちはここのラストボスと戦っていてね。イレギュラーな存在として融合してしまったようだが、ネタがバレてしまっている。確実に君たちは攻略できるだろう。そうおもわないかね?」

「なにがいいたい。」

ディアベルが噛み付いた。

「ここで私からの提案だ。君たちが既に戦った、ネタバレしたボスと戦うか。それとも新たに私が作り出したボスと戦うか。ああもちろん攻略できない仕様にはしていない。これはゲームだ。確実に攻略できるようにしていある。だが、全てが初見だといっても過言ではない。見たこともない敵。そうもしかしたら君たちでも苦戦するかも…しれないね。」

ニヤリと笑うヒースクリフはオキ達をみた。

「ほう。それは強いのか?」

アインスもニヤリと笑う。相手から挑発を受けている。これは挑戦状だ。受けない訳にもいかない。

「もちろん。アインクラッドでも一番強いだろう。そう自負している。そのために準備したのだからな。」

面白そう。アークス達の顔からそう聞こえそうになっていた。

「ディアベル。」

「ああ。問題ない。私たちもその挑戦受けようではないか。」

「っへ。なんでも来やがれってんだ。なぁキリト!」

「ああ。攻略してやる。」

さすがはゲーマー。やる気になっている。その他のメンバーもやる気のようだ。

隣にいるシリカも楽しそうに震えている。

「オキさん! やりましょう!」

「ああ。ヒースクリフ。それを受けよう。」

「了解した。」

そう言って、ヒースクリフは立ち上がった。

「プログラム開放。認証システム、認証確認。オーダー、ファンタズマを起動。」

 

ゴゴゴゴゴ

 

ヒースクリフの体がすこしずつ浮いていく。それに対し、皆が武器を構えた。

「いつもどおりだ! 相手の動きをまず観察しろ! 必ず隙はある!」

「せや! オキはん! たのんだでぇ!」

「いくぜ…。アスナ!」

「うん! いこう!」

プレイヤーたちが散開する。そしてヒースクリフが光り、光が収まったあとに姿を現した最後のボス。

 

『戦闘モード起動…。ザ・アンガ・ファンタズマ。戦闘、開始。』

 

「いくぞぉぉぉ!」

「「「おおおお!」」」

ディアベルの掛け声とともに声を張り上げるプレイヤーたち。

「あーりゃりゃ。こっちがきちゃったか。」

「ダークファルスがいたからどこかしらにいるかもと思ったが…。まさかねぇ。本当にいるなんてねぇ。」

オキは確信した。ヒースクリフが、茅場がアークスと戦った敵の事を知っていることを。そうでなければこの姿を作ることはできないだろう。

白銀の色に所々に紫色の模様。丸い玉をコアに持ち、周囲にはおなじく丸いビットを浮かせたオキ達にとっても記憶に新しい『悪魔』のようなエネミー。

「アンガ・ファンタージ…。こいつまででてくるとはなぁ!!!」

プレイヤー達に続き、アークスたちも各々の武器を携え、ザ・アンガ・ファンタズマへと駆け出した。




みなさまごきげんよう。
始まりました第100層の決闘。
ようやくクライマックスを迎えます。
謎が一気に解消されるので、お楽しみにお待ちください。
それでは次回、アンガ戦となります。久々にアルチでも潜ろうかな…。
ではまた次回にお会い致しましょう。

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