朝。雀の鳴く声で目が覚めたオキ。
「んー・・・。」
「おはようございます。」
頭の上から声が聞こえた。シリカだ。心地よい少し固く、それでいて柔らかく暖かい感触が頭に感じた。
「…おはよ。」
だが、オキの頭は相変わらずスリープ状態だ。
「相変わらず、寝起きが悪いですね。」
オキの寝起きはいつも悪い。だが、覚醒するのも早い。
「…!?」
ようやく自分がされている状況を確認できた。シリカに膝枕をされているのだ。
「…お、おはよう。」
「えと…その…こうやって起こされるのがなかなか…その…アスナさんが…されてるそうで…ごにょごにょ…。」
覚誠したことに気づいたのか、顔を次第に赤くし、言葉も小さくなっていくシリカ。目を丸くし見開くオキは頭の中で『アスナからこうされるのがいいと聞いた』と要約できた。
「…なかなかいい。目覚めのよさのようだ。」
「そうですか。」
ふふふと微笑むシリカが開けた窓の方をみて、それに釣られてオキも空を見上げる。晴天の空。青く輝く雲一つない眩しい空がオキの目に入った。
「ああ。すまないがもうしばらくいいか。」
「…はい。」
十分ほどその感触を感じ、オキはようやく体を起こした。
その後、1回へと降りた二人はシリカが用意した朝ごはんを二人で食べる中、オキは今日の動きを提案した。
「今日は今までお世話になった人たち、プレイヤーからNPCまでみんなに『お世話になりました』って 。」
それを聞いてシリカの顔が笑顔となる。
「いいですね! そうしましょう!」
シリカの合意も取れたことで、オキ達は身支度をして外へと出ようとした。だが、オキは自分のクローゼット、つまり倉庫をじっと見た。
「まてよ…? もう明日で終わるんだよな。」
仮に失敗したところでそこまでだったと諦めるしかない。あしたで必ず決着をつける意気込みで行かないと勝てるものも勝てん。そう考えた沖は倉庫の中身をかたっぱしからインベントリへと移動した。
「お待たせ。」
「いえ、大丈夫です。なにかありましたか?」
少しだけまたせたシリカがキビをかしげた。
「いや、なに。もう明日で終わりならアイテム全部放出しようと思ってよ。最低限の回復関係やテレポート、補助アイテム、予備の武器以外は全部持ってきた。」
「なるほど! 明日で終わり…ですものね。」
少しだけシリカの顔が寂しそうに曇った。それを見たオキは軽く頭を撫でる。
「なーに。明日で終わっても、また会えるさ。」
「…はい。」
シリカは返事共に笑顔となりオキとともに歩き出した。
第1層。2人はまずここに立った。
「はじめて…ここであの宣言をされたんですよね。」
大広場。今ではプレイヤー達がガヤガヤとお互いに喋ったり、歩いたりしている。
「ああ。あの時と違うこともある。」
皆が笑顔なのだ。
「あ! あの人!」
「そうだ間違いない!」
数名のプレイヤーがオキたちの存在にきづいた。直後に走って近づいてきた。
「ん? 何か用か?」
「あの! 明日決戦ですよね!」
「頑張ってください!」
「応援してるぜ! イレギュラーの旦那!」
いきなりの応援できょとんとしてしまったが、こちらを応援してくれている。皆のためにここまで来たのだ。シリカの顔をみて、二人で笑顔で答えた。
「ああ。」
「がんばります!」
何度か応援をもらい、ようやく目的地についた。アインクラッド解放軍本拠地がある、黒鉄球だ。
「やぁオキ君。今日はデートかい?」
中に入るとディアベルが部下へとあれこれ指示をしているところだった。
「デートついでに挨拶回りだ。今までせわになった人へのな。」
「なるほど。」
聞くとディアベルはなにか特別なことをやらず、いつもどおりの日常を過ごすことを選んだようだ。
「ディアベルには…1層から世話になりっぱなだったな。」
お茶を頂き、まったりしながらディアベルやシンカー、ユリエールと思い出話をした。
「あの時、オキ君たちが迷宮区までたどり着くという噂を聞いてからいてもたってもいられなくてな。懐かしい。もう2年か。」
「あの時はキバオウに突っかかられたんだったな。そういえばキバオウはどこいった。」
キョロキョロと周囲を確認したが、彼の騒がしい声が聞こえない。
「ああ、彼ならサーシャ君のところだ。今日は子供達と遊んできると。」
そうかと、オキはお茶を飲み干した。
「じゃあ、そっちにも行ってみるかな。ありがと。シンカー、ユリエール。お前らにもせわになった。ありがとう。」
「いえ、こちらこそ。」
「お世話になりました。」
「の、前にあっちにもいちおう言っておくか。」
オキは黒鉄球の奥をみて一歩踏み出した。
「まさか、あいつらにも…?」
ディアベルが少し目を細めた。オキが向かおうとした場所。それは黒鉄球の牢獄だ。
「当たり前だろ。いろんな意味でせわになったからな。」
「あ、えっと…わたしも行きます!」
シリカもオキの後ろをついてきた。オキは別に…と言いかけたが、シリカの顔をみて言うのをやめた。彼女がその先に進むことを決めたのだ。それを止めることはできない。そう思った。
牢獄エリア。陽の光が届かず、薄暗い。そこにいた看守担当のプレイヤーに挨拶をして目的の牢屋を覗く。
「ん? んー? おや、久しぶりじゃないか。あんたか。」
入口まで近づいてきた女性の名前をオキが言った。
「よう。ロザリア。久しぶりだな。ちょっと挨拶にね。」
「ああ、そういえば明日で最後になるかもって言ってたな。もう100層かい。あんたもがんばるねぇ。…ん? おや、あの時の子じゃないかい。覚えてるかい?」
シリカはロザリアの姿をみて少しだけオキの背中に隠れた。
「ありゃありゃ。嫌われたもんだねぇ。ま、それだけのことをしたんだけど。とりあえず、そのドラゴンから火を吹かせないでくれよ。」
はははと苦笑しながらロザリオは入口に座り込んだ。
「ま、ここまで来てくれただけでも…ね。」
「まぁな。こちらと幸せに暮らせてるよ。明日、終わらせる。お前らも、そのあとはプレイヤー達に任せてある。どうなるかは俺らは知らんが、まぁ償うものは償っておけ。」
「ああ。そうするよ。」
オキはさらに奥を見た。
「…あいつのところにも行く気かい?」
ロザリアも奥を見た。オキの行こうとしている場所、会おうとしている男を察したらしい。
「まぁな。シリカ。ここから先はこないほうがいい。待ってな。」
「…はい。」
「シリカを頼む。」
「了解であります。」
看守係のプレイヤーにシリカを託し、オキは最奥へと足を踏み入れた。
「よぉ旦那ぁ。元気かぁ?」
「あ~。久々じゃねぇか~。俺に会いに来るのはあんただけだ。HAHAHA。嬉しいねぇ。」
かつてSAOを最も恐怖に陥れた男にオキはあった。
みなさまごきげんよう。最後の日常回(前編)です。
今週も時間なくてあまりかけませんでしたごめんなさい…。
やはり年度末に向けて忙しくなってきてますね。
空気が乾燥してインフルエンザもまだまだ元気ですから皆さんもお体にお気をつけてお過ごし下さい。
では次回にまたお会いしましょう。
…来週は書き上げたいな…。