トーナメント第2試合。
初戦はオキVSオールド。
序盤より共に戦った、同じ槍の使い手。
オキは言わずもがなアークスにて槍の使い手だが、オールドは現実の、外の世界での熟練者だ。
オールドのほうが長い年月をかけて自らの腕を磨いてきた。だが、それを命を懸けた戦いで得た経験で上回ったのはオキだった。
『勝者、オキ!』
ぐっと腕を上げ、槍を空へと掲げるオキの背中をオールドは見た。
「ふふ・・・。こんなに若いのに。私もまだまだ、修行が足りませんな。」
「何を言ってるんすか旦那。かなりきつかったっすわ。しかし、何度見ても旦那の戦い方は俺たちに良く似ています。こうして対峙して改めてそう思いますわ。」
「そうかね? なに、大事なものを守りたい。ただそれだけの思いで、得たに過ぎないよ。」
微笑みながら戦いの場を後にするオールド。オキは苦笑した。
「ははは。にしてもほんと、不思議だわ。ありゃ対人の戦い方じゃない。もっと何か・・・。うーん、スレアってそんな化け物いるのかなぁ。」
以前シリカに聞いた話では、少なくとも日本と呼ばれる国内ではいないと聞く。いるのかいないのか分からない伝説や噂話等の存在はいるそうだが。
「・・・まいっか。」
オキは気にするのをやめた。
トーナメント、2戦目。第2試合は本日二回目の夫婦対決。キリトVSアスナだ。
「パパもママも両方応援したい・・・。うー。どうすればいいのでしょうか。」
娘であるユイは困っていた。父であるキリトを応援したい。だが、母であるアスナにも応援を送りたい。
そんな困っている姉の横に来たストレアが笑顔で言った。
「だったら同時にまず、お姉ちゃんがパパ。私がお母さんを。そのまま私がお父さんを、お姉ちゃんがママを応援しましょう。」
「うん!」
「じゃあいくわよ? せーの!」
「「パパー!(お母さーん)お父さーん(ママー!) 頑張ってー!」」
二人の声援にキリトとアスナは、眩い笑顔で二人に手を振った。
「おいおい。戦いの最中、同時に立ち止まって笑顔で手を振ったぞ。あのバカ夫婦。」
『これには皆もホッコリ! せやけど二人とも? 今は戦いの最中やでぇ!』
流石のキバオウも突っ込みを入れざる得ない。
待機席に戻ったオキはみなの為に飲み物を渡しまわっていた。そんな中でふと思ったことをシリカについ口を開いて聞いてしまった。
「なぁシリカ。おれも子供持ったらああなるのかなぁ。」
「ふぇ!? こここ子供!? オキさんの・・・子供・・・。」
顔を真っ赤にして茹蛸のように頭からケムリをはき、完全に上の空となったシリカ。
「子供・・・オキとの・・・。」
ハシーシュも上の空だ。
「のう。オキ殿。アークスも、子供を作れるのか?」
横にいたシャルが聞こえたようで、質問を投げてきた。
「あ? そりゃあなぁ。体つきは人間とほぼ変わりないからなぁ。ヒューマンはもちろん、ニューマン、デューマンは人間と交わっても子供は出来るぞ? キャスト・・・ああ、ロボットのような奴だが、ソレであってもDNAだか遺伝子だか保存してあるらしいから手段はともかく子供は出来ると聞いたことがある・・・。」
「オキとの子供・・・えへへへ。」
その言葉を聞いて共にトリップ状態になるフィリア。
「こいつら・・・。おーい。もどってこーい。ったく。まぁいっか。おいハヤマン。さっき聞いたんだが。あ、これ飲み物。さっき買ってきたんだ。あげる。」
「お? おおサンキュ。 で、なに? どうした?」
オキがハヤマのほうへと歩き、先ほど聞いたある話をしようとした。
「ふむ・・・。」
少しだけ何かを考えたシャルがすぐ隣で次の試合の話をオキとしていたハヤマに声をかけた。
「なぁハヤマ殿! 我も子供欲しいぞ! ワシだけじゃかわいそうだから、ツキミにも頼む!」
「「ぶふぅぅぅ!」」
丁度飲んでいた飲み物を、オキは笑いが堪えきれず、ハヤマは驚きにて噴出した。
「ななななな・・・!」
「っ! っ! っ!!」
悲鳴のような声を上げるハヤマの背中を、おなかを抱えて声にならない笑いをしているオキがバシバシ叩いていた。
「?」
シャル、首をかしげて何かいけなかったのか分かってない様子。
そんなやり取りをしている最中、スピードに翻弄されながらも持ち前の感とセンスで切り抜けたキリトの勝利だった。
これにより準決勝はオキとキリトがぶつかることになる。
「楽しみだな。」
「お手柔らかに。」
ニヤリと笑うオキに対し、苦笑気味のキリトだった。
「全く・・・。さっきは驚かされた。」
「いいじゃない。ささっと食べちゃいなさいよ。」
「うっせ! さっさとはじめるぞ!」
戦場の中心にいるのはシンキとハヤマだ。シンキはクスクスとハヤマをからかうと空中に手をかざした。
「今回はハヤマちゃんだし? 少し、本気。出してもいいわよね?」
そういって手に握ったのは紫色の巨大な曲剣。
「げぇ! ペイン!?」
その光景を見ていたオキが観客席でボソリと呟いた。
「あ、そういえばさっき、シャオにシンキが武器交換を依頼していたって言うの忘れてた。まいっか。」
めんどくさがりが此処で発動するオキであった。
「大丈夫よ。流石に奪命剣の能力は出さないわ。だって可愛そうでしょう?」
ふふふと微笑むシンキ。
「当たり前だ!」
突っ込みを入れざる得ないハヤマ。奪命剣の名を持つ巨大な曲剣『エルダーペイン』。攻略組みのメンバーなら見たことのある巨大曲剣。
「あ、あれって・・・。」
「確か25層の!?」
オキの後方、観客席の最前列にいるリンドたちがざわつき始める。
「ああ。あの武器はアイツから落ちた破片を元に作られたアークス用の武器だ。しかし・・・シンキもまた粋な計らいを。」
オキの頬を冷や汗が一滴落ちる。
「以前に話したことあるだろう? シリカ。 シンキのはなし。ほら、旧マザーシップで起きた話。」(47話参照)
「覚えてます。確か、テオ・・・ドールさん? でしたっけ。と、戦ったときの話でしたね。」
「そう。アレ以来だな。アイツのアレ、見るの。」
シンキは普段は魔装脚での足技を主体に戦うテクニック使い。時にはフォースもやったりする。だが、たまに近接職に戻る。特にソードとナックルの使い方は下手な熟練者よりも腕が立つ。
「ハヤマン・・・覚悟した方がいいかもな。」
カウントダウンが0となり、直後にハヤマがシンキへと愛刀『アギト』を横一閃できりつける。
「だああああ!」
「・・・ふふふ。えい!」
重い見た目の曲剣。実際に重い。何せシンキの体の半分以上を覆い隠すほどの大きさだ。それを華奢な体である彼女が両手とはいえ、軽々と振り回す。一回転その場で周り、回転した勢いをそのままハヤマの攻撃にぶつけた。
「ぐ!?」
「そらそら!」
弾かれたハヤマは一度後方へジャンプ。着地後に素早くシンキへと近づいた。
「はあああぁぁぁ!」
アサギリレンダン。瞬発力の高いPAだ。素早い突進から瞬時に目標へ近づき、5回の斬り攻撃。
ギギギギギン!
全てをペインの側面で守りぬいたシンキは縦に一振り。
「えぇい!!」
ズズン!
地面に衝撃が走る。パワー、スピード共に劣らない。
「やりにくいだろうな。ハヤマン。曲剣は斬り易い。刃が曲がっているからな。だが、逆に斬りあいとなると相手にしたくない。曲がってるところに真正面から斬りつけなきゃならねーから流されやすい。」
「なるほど・・・。それにしても・・・。」
「豪快・・・。」
「うん。あんなシンキさんはじめてみた・・・。」
シリカ、ハシーシュ、フィリアがそれぞれの感想を言った。3人だけではない。シンキを知っているプレイヤー全員がそう思っているだろう。
『あのハヤマが近接でおされているやとぉ!? まさかの大番狂わせ! 此処に来て女神? 魔神? まぁどっちでもええか! シンキ! 大暴れや!』
ハヤマの腕はかなりのプレイヤーが知っているだろう。それが苦戦しているのだ。それを予想していたのはアークスのみだった。
「ま、そうなるだろうと思ったよ。全く・・・。勝たなくてよかったぜ。」
頭をかきながらタバコを吸うコマチ。その横でアインスがじっとシンキを見ている。
「何度見ても流石としか言いようが無いな。懐かしい気がする動きも混ざっている。ほんとに彼女は『どこで鍛えたのか』。」
アインスのいう『どこ』というのはラグオルだけではないだろう。アークス『シンキ』。イレギュラーの中でも異質を放つイレギュラー。
「ほれほれ。どうしたのハヤマちゃん。もっと、遊びましょう!」
「ちぃ! このバーサーカーが!」
上空から縦回転しながら切り刻もうとするシンキ。何とかそれを側転で回避。真横からアギトを付きたてようとするも突進業の一つ、ギルティブレイクでかわされそのまま後方へと移動される。
ガン! ガン!
「っぐ!」
ハヤマにダメージが入る。
「あぁ・・・もっと・・・。もっと楽しみましょう!」
いつもの細目で微笑むシンキではない。いつものシンキがいたずら好きの女神とたとえるなら、現段階でハヤマと戦っているこちらは戦の魔神。
「にしても、どこかエロい。」
「う、うむ。」
クラインの一言に、ディアベル以下男性陣が同感する。
「えろいかぁ?」
自分からすれば脅威にしかならないと思う一方で、自分も戦ってみたいと少しからだが疼くオキ。
「ま、シンキの本気はこんなもんじゃねーからな。あくまで、遊び程度の可能性があるが・・・。じゃなきゃわざわざハヤマのカタナにあわせて近接えらばねーだろうし。」
彼女の本気はこんなものではない。彼女の力はこんなものではない。なにせ一度アレを見たならば、一度あれを体験したならば。彼女の力がどこまで奥底まで深いものか。疑問に思うだろう。
「オキさん・・・顔色、悪いですよ? 大丈夫ですか?」
シリカが心配そうに顔を覗いてくる。
「あ? ああ。昔を思い出してな。一回だけ、シンキに稽古つけてもらったときがあってな。その時に受けたことがある。アイツの力をな。それを思い出しただけさ。」
かつて見たシンキの本当の力の一部。あれで一部というのだ。全て出したらどうなるのだろうか。そもそもアークスといっていいのだろうか。
そのモノ、金色に光る背中の空間から出ている数多の武器。その中は大小様々で種類もバラバラ。
「くくく。全く。何度も思うが、シンキの奴。ほんと、なにモノなのかねぇ。」
一息タバコをふかすオキは、ハヤマとシンキの決着を見守った。
「あああぁぁぁ!」
「それそれー!」
なんとか一進一退にもつれ込んだハヤマは力の限り戦った。なんだかんだでシンキも息が上がってきている。
ノヴァストライクで大きく回転するシンキが迫る。ハヤマは上空へと逃げるしかなかった。
「っち!」
「てぇい!」
その場から切り上げるシンキに対し、ハヤマは直下に落ちた。
「切り上げると・・・思ってたよ!」
「え!?」
逃げると見せかけてのPAによるブーストでスピードを上げる。
「ゲッカザクロ! と、みせかけーの!」
コン
アギトの持ち手、その端で軽くシンキのペインの持ち手の底を押し出す。
「あ・・・。」
切り上げた勢いでペインを防御へ持っていくことが出来ない。次の瞬間、ハヤマの周りに青く薄い靄が現れた。
それを見たシンキは微笑んだ。先ほどまでの魔神の笑みではなく。女神のような笑みを浮かべて。
「ああ。強くなったわね。」
「・・・カタナコンバット・・・これで、終わりだ!」
カタナコンバット。アークスの職の一つのブレイバーが持つ固有スキル。フォトンを開放し、普段の何倍もの素早さで動くことができ、さらに斬れば斬るほど、最後のフィニッシュの威力が増す。極めれば20秒間だけ、何物にも指一本触れることすら出来なくなる究極技。
キィィィン!
ハヤマのアギトが鞘に戻る。本来ならば何度も斬りつけ、力を貯めた後に一気にフォトンを斬撃として放つのが普通なのだが、今回は一瞬の隙すらも与えたくなかったハヤマがカタナコンバットを開始した直後にフィニッシュを放った。
その攻撃が決めてとなりシンキは負けた。
『WIN! ハヤマ!』
「勝った・・・。あぶなかったぁ・・・。」
「ほんと、強くなったわね。初めてであった時よりもずっと。これで安心したわ。シャルちゃん、守れるわね。」
ニコリと微笑むシンキ。
「は?」
「は? じゃないわよ。あなたが今の私にまけるようなら、シャルちゃんとツキミちゃんを誰が守るって言うのよ。」
プンスカという音が聞こえてきそうなくらいにシンキは怒っている。というかなぜ怒られているのかがハヤマには理解できない。
「そりゃ将来を一緒に歩むんでしょう? あなたが誰かに負けてちゃ、シャルちゃんやツキミちゃんが泣いちゃうでしょう? だから、私が試してあげたのよ。私に勝てるくらいなら、暫くは大丈夫でしょ。私が保証したげるわ。自信もって、食べちゃいなさい!」
にこやかに左手の指で輪を作り、その中に人差し指を入れる行為をするシンキ。
「うっせ! この下神がぁぁぁ!」
ハヤマの叫び声がコロシアム中に広がるが、歓声の音で悲しくもかき消された。
みなさまごきげんよう。
久々に時間が多く取れたのでEP4現在の最新まで進めました。
いやぁ、EP4改変したくなった。ここまで描きたいと思ったのは久々ですよ!
いつか書く(まずSAO終わらせろ
今回はアークス対決ということでささっと書き上げました。本当はシンキにもっとえぐい事してもらいたかったんですが、それやるとハヤマが勝てないのでやめました(
いつかやってもらおう。
ではまた次回お会い致しましょう。