沖田総司(そうし)。これが彼の外での名だ。正確には受け継いた称号。本当の名は沖田悠司。
かつて、幕末の時代に存在した新選組一番隊隊長沖田総司(そうじ)の血縁でもある。
若くして天然リシン流の後継者。それが彼の現実の姿だった。
物心ついた頃から竹刀を握り、今では真剣すら容易に扱う。天才童子。沖田総司(そうじ)の生まれ変わりとも言われた。
そんな彼は強かった。天然リシン流は表舞台にはでない古き武術であったため、同年代の出る試合には出なかったものの、自分より何倍もの年月を修行した屈強の剣士とやり合い、打ち倒してきた。
そんな彼は顔には出さないものの、心の底では飢えていた。
『強き者と戦いたい。』
彼には目標が無かった。小さき頃にはあった目標も既に通り越し、目の前が見えなくなっていた。
そんなある日、師匠であり現師範であり、良き理解者である父からある物を受け取った。それが『SAO』。
見聞を広め、経験を積むにはいいものだった。数々武器があり、現実にはいない化物がいた。見つけるにはいい場所だったと思った。
そんな彼はそのままデスゲームに参加してしまう。先代であり、命のやり取りをした幕末の時代に行きた同じ名を受け継いた、最強といわれた剣士と同じように1歩間違えれば命を落とす世界に足を踏み入れてしまった。一瞬は心落としてしまう場面もあったが、すぐに自分の腕を使い、上を目指そうとした。
巨大な浮遊城『アインクラッド』。
そこで彼が目にしたのはより巨大な背中を持った、宇宙(そら)からの剣士だった。
「いい腕だ。」
横薙に振るうアインスが言う。
一振り一振りが重い。ステータスは若干アインスの方が上だが、そこまで変わらない。武器は同じものを使っている。つまり腕だけがものをいう試合。だが、それでも重く速く感じる。
気持ちの問題だ。
「そんなことは…ありません。」
彼の目には相手の動きが見えていた。こう打てばこうかえしてくるだろう。多数ある可能性を的確に打ち返す天性の感というものがずば抜けていた。だが目の前で、両手で刀をがっしり握り力強く、それでいて素早く振るう男にはそれが通用しない。だからその背中を追うことを決心した。
「ああああ!」
ソウジのカタナが空を切る。それをアインスが弾いた。
「ふふ…。」
アインスが笑っている。おかしな所でもあるのだろうか。いや違う。この人は人の違いで笑う事をしない。2年近くも一緒に過ごしてきた。嫌でもこの人の事がわかる。なにせ、同じ『想い』を持っている人なのだから。
「楽しそう…ですね!」
お互いにカタナを振り、カタナを避けながらも話をする。
「あぁ。期待…以上だ!」
アインスは本気でそういっている。本気で戦ってくれている。それに少しでも抗う事が出来ているだけでも自分は満足だった。
それだけ、自分が強い相手とやりあえている。心が満たされていた。
ガンガン!ギン!
2人の素早く、一手一手が強力な振りが左右上下に相手へと襲いかかる。
カタナたけでなく、身体までも使う。
「ふぅ…!」
ソウジの回し蹴り。スキをついた。
ガッ!
アインスはそれをカタナの鍔で受け止め、後ろへと飛び勢いを殺した。直後に地面を蹴って、ソウジへと近づく。
「くっ!」
速すぎる。切り返しが追いつかない。
「どうした。君の力はまだ出せるはずだ。自信をもて。まっすぐみろ。見上げるな。全て同格だと思え。君にならできる!」
アインスの重い攻撃がソウジを襲う。
言葉も重い。だが、それを受け止める。
「ありがとうございます…。おおおお!」
ソウジは1度後ろへと下がり、再び地面を蹴る。
「一歩音超え…」
1歩踏み出し、地面を蹴る。
「二歩無間…。」
ソウジが多くの相手を屠り去った最大の技。それを放とうとしていた。
「受けてたとう…これは全てをぶった斬るフォトンの剣…。」
アインスをカタナを構える。
もうすぐおわろうとしている。もうすぐ勝負が終わろうとしていた。
「三歩絶刀! 我が秘剣の煌めき、受けるがよい!」
三歩から放たれるほぼ同時の突き。
ハヤマがもつユニークスキルの三段目『三段突き』のモデルにもなった沖田総司(そうじ)の必殺剣。
「無明…三段突…!」
放たれる筈だった。だが、それをアインスは弾いたのだ。たった一発の打上げ。
『見切られた!?』
ソウジのカタナが上へと弾かれ、体が無防備になる。
「…しま!」
中腰に体を落とし、地面と水平にカタナの構えから同じく突きを放つ。だが、こちらは一発。すべてを解き放つアインスの本気の本気。
斬!
地面を蹴ったアインスは一瞬にしてソウジの後方へと貫く。
「フォトン・レイ。」
強力な一点集中突きの突進攻撃。それが決め手となった。
『勝者! アインス!』
地面に座り込むソウジにアインスが近づいた。
「やっぱり隊長には、かないませんね。あんな攻撃を残していたなんて。」
「なに。同じく突きで返した迄のこと。共に修行していけば君の技も伸びるだろう。これからも最後まで頼むぞ。」
アインスとソウジが握手をする。それに観衆達は拍手喝采をあげた。
『さぁ!ようやく第一戦目が終了や! 休憩を少しとったら、二戦目いくでぇ!』
「まさかあの技使うなんてね。教えた側からすれば嬉しい限りだわ。」
「ん? あぁ、フォトン・レイか。なかなか気に入っている。」
帰ってきたアインスがシンキにニコリと微笑みを受けた。
フォトン・レイはアインスの強力な突きを更にフォトンでブーストをかけた技。シンキが伝授した技の1つだ。今回はスキルバフのブーストを乗せただけのただの鋭く重い突きとなっただけだが、本来のフォトンを乗せればその攻撃は相手を微塵にするだろう。
「それにしてもアッチは使わなかったのね。」
「ああ。突きできた彼には突きで返したかった。だからアレは使わなかっただけの事。なに、君か、ハヤマ君か。それとも…。少なくとも誰かが上がってきた時にでもお披露目とするさ。」
シンキがニヤリと笑う。
「ええ。楽しみにしてるわ。あなたが、登ってきたらね。ふふふ。」
ひらひらと手を後ろ手に振りながら背中を向けるシンキ。
「楽しみだ…。こんなに楽しいのは久々だ。楽しませてもらおう。」
強者との戦いを待ち望んでいたのはソウジだけではない。彼もまた、飢える者である。
アインスは自分と同じ想いをした友と戦った戦場を静かに見つめていた。
皆さまごきげんよう。
ようやく一巡終わりました…。自分でやり始めておきながらなげぇと思います。
でもやりたかったんじゃ…
そんな事より流石隊長。ノリノリで書かせて貰いました。楽しかった!
次は二巡目。お楽しみに。
では次回またお会いしましょう。