「それそれ!」
シンキの曲剣がタケヤへ流れるように猛威を振るう。
まるで踊り子のように剣を振るうシンキの姿は妖艶という言葉が合うだろう。
「タケヤー! しっかりしなさい!」
「負けるなー!」
観客席からはツバキたちの声が響いていた。
「流石シンキさんだね。めを奪うような動きで、ソレでいて隙が全くない。」
「うん。同姓の私でも目を奪われちゃうなー。」
その姿は同姓異性関係無し。誰もが美しいと思っていた。
目の前で戦うタケヤはその場にいる誰よりもソレを目の前で体感していた。
揺れる美しい二つの胸。多く露出された白く綺麗な肌。キュっと絞られた括れに誰もが魅了される腰。
誰もかもが羨み見惚れる肢体を目の前に若い男性であるタケヤが見とれないわけがない。戦いの最中でも初めは頑張っていたが、やはり無理があったのだろう。相手が悪すぎたのだ。どうしても武器よりそっちに目が行ってしまった。
「よそ見してる暇、あるのかしら?」
ガキン!
シンキの曲剣が強く振り下ろされる。何とか我に帰り、ソレをバックラーで防御するが、あまりの力強さに後退してしまう。
「ぐぅっ! …え!?」
ドカ!
「ガッ!?」
バックラーで耐えたタケヤだったが、その直後に空中へジャンプしたシンキの回し蹴りが飛んできた。ソレによりバランスを崩し、大きな隙ができる。タケヤのHPも半分まであとわずかだ。
「さて、しめようかしら。」
シンキが片手で握っていた曲剣を、大きく振りあげた。その振り上げ方にオキはあるシンキの得意技を思い出す。
『まさか…。あいつ、アレやる気かよ。』
オキが冷や汗を一滴流しながら口を歪ませる。
顔を覆うように振り上げた右腕。その先に握る剣先を斜め下に、刃を上に向けた構え方。それを支えるもう一本の左腕。
『ん? 何かするつもりなんか?』
"工程模倣、開始――装填――"
シンキの様子が変わる。
"全工程模倣完了 再現"
ユラリとシンキが動き、すれ違い様に曲剣を振り下ろす。
「ナインライブズ
射 殺 す 百 頭」
同時にタケヤの体に衝撃が走った。受けた本人は何をされたのか分からないだろう。分かるのは『9回同時に切られたこと』。
『つ、つまりや。シンキはんは9回同時にきりおったんか!?』
『その通り。急所への9回同時攻撃。数多くの技と型を作っては磨いてきたシンキだからこそできる大技。その中の一つがアレだ。この世界でならただの通常攻撃9回分。攻撃力はそんな対したことないだろう。とはいえ、もし外で、リアルでアイツの持っている本物の武器で受けてみろ。その威力は・・・俺達でも受けきれないだろうな。』
満足気に背伸びをするシンキを微笑しながら見るオキ。
『あ、えっと…WIN! シンキ! 頑張ったタケヤはんにも拍手喝采を!』
「あーあ。まけちったか。」
その場に座り込んでいるタケヤにシンキが近づいた。
「まだまだだけど、まぁがんばったんじゃない?」
「シンキさんにはヤッパかなわないッス。でも、ありがとうございまッス! 勉強になりました!」
タハハと笑いながらタケヤは控え席へ。シンキもその後ろをゆっくりと歩いていった。
途中で、次の試合であるハヤマ、コマチとすれ違う。
「…どっちが勝っても、ジュルリ。楽しみね。」
シンキは二人に聞こえない小さな声で呟いた。ハヤマとコマチの背筋にゾクリとしたものが伝う。
「アイツ、ボソリと何言いやがった。」
「さぁ。何か言った様だけど…少なくともろくでもないのは確かだね。」
二人が中央で向かい合う。既に二人の手にはアークスの武器が握られていた。
『ああ、ここは俺が用意したコイツを読んでくれ。』
オキが羊皮紙に書いた煽り文句をキバオウに渡す。それをみたキバオウはニヤリと笑い、マイクに手をかけた。
『その幸運、AAA(トリプルA)。そろそろシャルとのレベルもテレッテッテー! カタナと聞けば即参上! 《錆びたツンデレヘタレ刀》 ハヤマァァァ!』
「なんだよその煽り文句はぁぁぁ!」
中央から大きなツッコミが入るがオキは気にせず大爆笑している。
『対する挑戦者は・・・。麻婆が似合いそうなエセ神父。うるさい叫びはいつも理不尽! 《凶化Cの人見知り戦教師》コマチィィ!』
「愉悦って言っとけばいいか?」
否定できないコマチはそのボケにのる。ハヤマは少し顔が赤い。
『へいへい。ハヤマん顔が真っ赤やで。さて、二人とも準備はええな? ゴングや!』
お互いに(ハヤマはぶつぶつと文句を言いながら)申請を出し、待ち時間が0になる。
「おらぁぁ!」
開始と同時に動いたのはコマチだった。だが、コマチがナックル《ゴッドハンド》で殴ったのはハヤマではなく、地面だった。
ズズ゛ン!
土煙が上がり、地面が少しだけ揺れ、亀裂が入る。様子を見ようと出遅れたハヤマはその場から動けなくなっていた。
「土煙が邪魔で・・・こまっちーが見えない。」
周囲を目で見渡し、いつどこから来てもいいようにアギトを構える。
「どぉりゃぁぁぁ! 喧嘩ってなぁ殴って蹴って吹っ飛ばした方が勝ちなんだよ! オラオラオラオラ!」
コマチが土煙の中から素早くハヤマへと突っ込んでいった。あまりの素早さに防御しかできないハヤマ。
右ストレートから、前足蹴り、そのまま地面とハヤマの脚を踏み固定。強力なラッシュをお見舞いした。
「…っ!」
ハヤマは何とかアギトでその猛攻を抑える。
「おらぁぁぁぁ!」
最後のおまけといわんばかりに振り下ろされた右手がハヤマへと貫く。その威力は防御したハヤマの体を後方へと吹き飛ばした。
ズシャァァァ
「ふん。そんなもんか? ハヤマん?」
中指を立ててコマチはハヤマを煽る。
「…っは! 面白いじゃない。いきなり飛ばしてくるねぇ! ならば迎え撃とうじゃない! アベレージスタンス…。」
ハヤマはアギトを強く握りなおした。その体からは赤い燃え盛る炎のようなオーラが一瞬見えた。
「…ブレイブスタンス。」
コマチもそれに続く。アークスの職がそれぞれ持つスタンス技。フォトンを活性化させ、職に合う動きをよりよくする為に使われる基本中の基本技。ハヤマのメイン職はブレイバー。コマチのメインはファイターだ。そして二人が共通してサブ職にしているハンターのスタンス技を同時に発動する。
「「フューリースタンス!」」
ドクン、ドクン!
ハヤマがゆっくりとコマチへと走り出す。コマチはそれに対応しようとハヤマをじっと見つめる。
そしてその動きは初めはゆっくりと、次第に速くなっていった。
「おおおおお!」
空中へジャンプし、高々と振り上げられたアギトを一気に振り下ろす。
「だああああ!」
コマチもゴッドハンドを力強く振り上げ、アギトへと拳をハヤマごと貫かんと力を入れる。
ガキィン!
コロシアムに衝撃波が走った。
「「「おおお!?」」」
観客席から声が上がる。
ギギギギギ・・・ガキン!
ハヤマは空中で、コマチは振り上げた状態で押し合いをしていたが、同時に武器を弾いた。
ハヤマはそのままバック転で地面へと降り立ち、コマチへと素早く近づく。
コマチはゆっくりと腰を低く取り、拳を構えた。
「おらぁ!」
ハヤマのアギトが横からコマチを襲う。
「無駄ぁ!」
だが、それを構えていたゴッドハンドで殴り返す。
「おらぁ!」
「むだぁ!」
二三度同じことをした後に二人はニヤァと笑いあった。そして
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
アギトの左右上下から来る斬撃をコマチは正確にゴッドハンドで殴り返す。
「オラぁ!」
「ムダぁ!」
ガキン!
お互いのラッシュの最後を力強く振り、叩き、距離をとった。
「「「ワァァァァァァ!」」」
その動きに観衆は大歓声を上げた。
その中の一人、深くローブをかぶった男性がボソリとつぶやいた。
「…頼むから、できるだけ壊さないでくれよ? データ修復大変なんだから…。」
待つだけでは暇なゲームマスターがコッソリ見に来ていたが、その姿に予想を超え、データが吹き飛びそうな戦場を見て冷や汗をかいていたのは誰も知らない。
みなさまごきげんよう。
情報収集を怠っていた結果、アリスモチーフスクが来ることを電撃プレで初めて知った情弱アークスですはい。
さて、初のアークス対アークス。お二人共ノリノリで戦いの描写を語ってくれました。
今回はその一部です。
そろそろ1巡目も終わり2巡目といきたいところですが、ですが!
ペルソナ5が面白くて手が止まりません(
しばらくは鈍行UPとなりそう。。。。
では次回にまたお会いしましょう。