SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

71 / 151
1戦目を終え、トーナメントは2戦目に入った。会場内は大盛況の闘技大会が進んでいた。


第69話 「理解不能、予測不可」

『オオ!?』

会場内がざわついている。

オキとシリカの対決が終わり、オキの第二試合進出が決定した後、ディアベルとオールドの戦いが始まった。

双方とも下層から共に戦ってきた身であり、腕は互角に等しい。譲らない戦いだった。

お互いに体力を削りあい、どちらが勝っても負けてもおかしくない状態だった。

「おおおお!」

「なに!?」

だが、勝ったのはオールドだった。ディアベルの片手剣よりもリーチが長い分、振りの遅い槍を使うオールドだったが、前方への強力ななぎ払いから素早い連続の突きを放ちディアベルの片手剣を弾き、そこへSSを放ちディアベルのHPを削り取った。

「・・・大丈夫か?」

吹き飛ばされて地面に寝転がるディアベルにオールドが手を差し伸べた。

「さすがだな。いやきいたよ。」

オールドの手を取り起き上がるディアベル。その二人の握手する姿にコロシアムは大歓声を上げた。

『うーん! 惜しい! ディアベルはんまさかの初戦リタイア! そしてディアベルはんを押し倒し、突破したんはオールドはん! 鋭い槍使いやった! そこんとこどうや? オキはん。』

何故か捕まってそのまま解説にまわされたオキだったが、こういうのが好きな部類だ。ノリノリで答えた。

『はいどうも解説のオキです。最後の一手は流石というべきだろうか。横の大薙ぎから防御ごと弾き、隙を与えたところで一気に決める。一種の賭けではあっただろう。大薙ぎで弾き飛ばせなければ逆にオールドの旦那に隙ができる。ソレを成功させる何かが旦那の中にあった。それが勝利への道に繋がったのだろう。』

『なるほどなぁ。お互いに力を出し合った二人に大きな拍手や!』

コロシアムは大盛況だった。多くのプレイヤー達がここぞと集まり下層、上層各地から攻略組メンバーの最後の催しを楽しみに集まった。

また、コロシアムの中だけでなく外までもそのお祭り騒ぎは続いており、各地で活躍する商人達がかってにフリーマーケットまでやり出す始末。まぁ最後のお祭りだからこそとやりたい放題やっているのだろう。

跡でシリカ達と回ってみるのも面白いかもとオキは思っていた。

『続いての試合や! 今や最強のプレイヤーの一角。素早い動きはまさに神速! 最強のプレイヤーの妻にして、アインクラッド一の料理人でもある超美人剣士! アスナはんや!』

大歓声の一言だ。人気のあるアスナはファンが多い。コロシアム全体から発せられる歓声も先ほどより何割増しにも大きくなっていた。

だが、彼女は少し微笑んでいるだけでただ一人を見る。自分の前を歩く、対戦者。

『対するは・・・その者、正体不明。フードの中には何がある!? 誰も知らない自由奔放の野良猫! 神出鬼没のイレギュラーの中のイレギュラー! ミケはん!』

楽しそうに歩くミケ。その後ろを緊張しながら歩くアスナ。

その二人が競技場の真ん中で向き合った。戦いの申請をアスナが出し、ミケがソレを了承する。

「よ、よろしくおねがいします。」

「よろしくなのだー。本当は寝ていたかったのにオキが本気出さないと後で罰ゲームって言うから、少し本気出すのだ。アスナもがんばれよー。」

フードの中に隠れた顔。唯一見える口元は三日月形に曲がって笑っている。

『両者・・・ファイ!』

「先手・・・必勝!」

アスナはミケが力を出す前に攻め込んだ。いくら縦横無尽に駆け回る戦い方をするミケでも防御に徹すればその素早さも意味を成さなくなる。

『・・・と考えたんだろうが甘いな。アスナは。』

『どういう事や? オキはん。』

アスナは『神速』の力でミケへと一瞬で近づく。その姿を見てオキはアスナの考えが甘いと一言漏らした。

『ミケはアレくらいなら防御せずに避ける。』

オキの言った通りになった。アスナが細剣をミケへと向け突進力を勢いに素早い突きを放った場所には既にミケはいなかった。

「いない!?」

ゾクリ

アスナは頭上に気配を感じた。

すぐさま上を見るとミケが短剣を振り下ろそうとしていた瞬間だった。

ギィン!

アスナは素早く細剣を上へと向け防御し、受け流した。

地面に着地したミケは、その場で足に力をいれ、横回転しながらアスナへとジャンプした。

「っく!?」

なんとか防御するも、ミケの猛攻に自分の武器である速度が出しきれていない。

『素早い猛攻! ミケはんの攻撃が止まらない! 今回はミケはんのフリーダム、アスナはんの神速の二つのユニークスキル対決でもあるわけやけど…オキはんどないみる?』

『アスナはともかく、ミケにはこのだだっ広いフィールドはフリーダムを使うことはほぼ不可能だろう。狭く、天井のある場所で初めて効果を発揮するスキルだ。だが、ミケには本気出せ。さもなくば飯抜きと言ってある。あいつが本気で攻撃しだすと俺らイレギュラーズでも厳しい。かつて、ナベリウスの元締めと言われてたのも本能のままに、猛獣をも上回るその身体能力を持っていたからだと思っている。神速のアスナがどこまでついていけるか。楽しみだ。』

防御に徹するアスナ。素早い二連のクロス攻撃がアスナを襲う。

「そこ!」

 

ギャリン!

 

「・・・!」

ミケの攻撃がはじかれ、勢いを殺しながら後方へとジャンプし、ミケはくるくると縦回転しながら地面へと着地した。

「っふ!」

「ふにゃ!」

神速のスキルでミケの後方へと移動したアスナは中段の突きを放つ。だが、それを後ろ向きにジャンプしたミケは逆にアスナの後ろを取る。

「はぁ!」

 

ギン!

 

二つの武器が交差し、火花が散る。

『うーむ。』

解説席でオキが唸る。

『どうしたんや? オキはん。』

キバオウが不思議な顔でオキをみた。

『いやな? たしかに本気出せといったが、ここまで素直にいうことを聞くとは思ってなかったからなぁ。とはいえ、そろそろ我慢の限界があるはずだが…。』

打ち合う二人をじっと見るオキ。首を居かしげるキバオウだった。

その時だった。

「待った!」

「え!?」

ミケが急に手を前にだし、アスナを止めた。

「…お腹減ったのだ。ご飯を食べるのだー!」

その言葉に会場は騒然とした。大会のさなかに相手を止めてご飯を取り出し食べだすあいてがどこにいる。

『オ、オキはん…?』

キバオウがオキをみると頭を抱えていた。

『やっぱりかー…。まぁそうなるよなぁ。せっかく用意してくれた闘技大会。ハナとヒナもミケの活躍をみたいって言ったから無理やり出場させたんだが…。』

ミケはごそごそとフードの中を漁り出す。そこから出てきたのはホットドックだった。それを二つ。

「ハナとヒナが作ってくれたホットドックなのだ! イタダキマー…アム。」

ミケがほおばって一つを口に含んだ。

「…。」

「ミ、ミケ?」

その場で固まるミケにおそるおそる近づくアスナ。様子がおかしい。

「…かーらーいーのーだー!! 激辛だったのだー!!!!」

その場で飛び跳ね出すミケ。オキが双子をみるとニッコニコで笑顔である。悪気は無いような天使のような笑顔だった。

「アスナも味わうのだー!」

「えぇ!? アグ…。ーーーーっ!?」

あまりの辛さにアスナもその場でうずくまる。相当辛いらしい。

涙を流しながらアスナがミケをみた。

いつの間にかミケの片手にペンが握られている。

「!? ーっ!?」

「ジャスト1分! いい夢見れたか? ミケは疲れたのだー。ミケはお昼寝する!」

声にならないアスナを横に、ミケはそうそうに立ち去る。アスナの頭上にはWINの文字。そしてアスナの剣には『ミケ』と書かれたサインが残っていた。

ざわつく会場。オキがマイクをもって笑いをこらえながら説明した。

『すまん…やっぱ…ミケには真面目な…戦いは…無理だったか…。いや、あいつらしいわ。あっはっはっはっはっは。だめだ! 我慢できねぇ! 勝者アスナ! いや、アスナには悪いけど、まぁ真面目に戦わない相手に真面目に戦うとどうなるかってのは…勉強になったか? はっはっはっは。だめだこりゃ。』

すぐ近くにいるコマチとハヤマも呆れ顔で頷いてた。

「いやー…あれだから俺たちも苦労するんだよな。」

「制御不能。予想不可。ミケ、ここにあり。」

納得の行かないアスナだったが、少しだけ口元は笑っていた。

ミケらしさ100%。プレイヤーたちが野良猫の本気の理解不能な行動を目に焼き付けた瞬間だった。

 

 




みなさまごきげんよう。
ミケ戦、本当に理解不能な終わり方ですが、実際本人に「どうやって戦う?」と聞いていろいろネタを提供してもらいました。その中でも面白かった二つを採用。
初めはそもそも出場すらしないだろうミケがどうやって戦い終わらせるか。ある程度は予想していましたが、その全てが予想外の言葉連発でした。さすがミケ。
さて、次回はキリト、リーファとの兄妹対決に初のアークス同士の対決です。
お楽しみに。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。