SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第66話 「間違えた道」

あちこちから心配な目で見られつつ【敗者】(偽)と戦うオキ達。

「だあぁりゃ!」

コマチのゴッドハンドから強烈なバックハンドスマッシュが放たれた。

それを受けた【敗者】(偽)はその場から転移し、フィールド遠くへと離れた。

 

コーン…

 

何か鐘を鳴らしたような音が同時に響く。

『深淵と崩壊の先に、全知へ至る道がある!』

「時止めか!」

オキ達は次に来る攻撃を受ける体勢に入る。更に、その後に攻撃を集中させる間合いも計算した。

【敗者】はオキたちがいる円状のフィールド上に4本の巨大な剣を出現させる。

『我が名は【敗者】。全知そのものだ。』

 

ゴーン…!

 

先程の鐘の音より低く大きな音が鳴る。同時に【敗者】を基軸として周囲一帯の『時』が止まった。

 

…はずだった。

 

「そんなもん喰らうかよ。」

「隊長、そっちお願い。」

「任されよう。」

オキ達は【敗者】の『時を止める力』を以前に何度か受けている。そのため、その力すらも受け流し時が止まっている概念に抗う術を会得済みである。

 

 

フィールド外から見ていたプレイヤー達は皆、目を見開いた。

「いま・・・何が起きた・・・?」

「キリトも気づいたか?」

「ああ・・・。オキ達の動きが一瞬おかしかった。」

キリトやディアベル達はその不思議な動きを確認し合った。

タケヤやレンたちも一緒だった。

「いま、一瞬で別の場所に移動したよな?」

「うん。一体何が・・・。」

皆が見たのはオキ達が一瞬で別の場所へと移動していた現象。

それもその筈。【敗者】の放った『時を止める力』。オキたちがその力を受け流し、動き回っている間はキリト達は見えていないのだ。

 

 

【敗者】が時を止めた直後にだした巨大な剣をオキ達は2本壊した。後方にまだ2本残っているが、問題にならないのでそのまま放置である。

【敗者】の言葉の直後に巨大な剣から力が解き放たれ、周囲に強力な攻撃が放たれる。

更に巨大な剣も細分化し、フィールドへと降り注いだ。

だが、オキたちのいるところには剣はなく、降り注ぐものは無い。迎えるはオキたちへと向かってくる【敗者】。

「さぁて…一丁やりますか。」

「いくぜフルボッコ!」

オキとハヤマの合図と同時にオキたちの前に現れた【敗者】のコアを全力で攻撃するアークス。

『さて…片付けの時間だな。』

フィールドが青色に染まる。先程までは加速する時間だった。こんどは遅延する。

【敗者】の動きが極端に遅くなる。遅くなる代わりに振り下ろされる力は倍増する。

『解は無駄に収束しているぞ。』

【敗者】は巨大な剣を両腕で振り下ろし、振り下ろされた場所、【敗者】に近いところの地面から衝撃波が飛び出してくる。

だが、オキ達はギリギリまで【敗者】に近づき、その攻撃を避けコアへの攻撃を止めない。

「ふん。」

アインスのカザンナデシコがコアへと振り下ろされる。その直後だ。

『今こそ! 全知を掴むとき!』

再度、時をとめてくるつもりだ。

「もうかよ!」

「やわいのだー。よわいのだー!」

予想以上にダメージが入っていると見るオキ達は再び来る時止めを受け流す。

「消化不良ねぇ。最後の【敗者】の時みたいに何本もほしいわ。」

空中を自由自在に飛び回り、ジェットブーツで巨大な剣を蹴り壊すシンキ。

オキが戦った【敗者】の最終決戦時、【敗者】は最後の力を振り絞り、普段出している何倍もの力をだし、オキ達を苦しめた。

だがこの偽物は今まで何度か戦った【敗者】よりも弱い。

消化不良というのも頷ける。

『我が名は【敗者】。全知そのものだ。』

巨大な剣から降り注ぐ様子を後ろ目でみて、近づいてくる【敗者】に向かってエルデトロスを構え直す。

「さぁ、片付けようぜ。」

「だーな。」

「うむ。久々に…使わせてもらう。」

「にゃにゃにゃー!」

「テクニックが使えないのが残念だけど…蹴り倒してあげる。」

「だぁりゃ!」

後ろへとアダプトスピンで回転しながら下がり、カレントを差し込むオキ。

カタバコンバットを起動し、おもいおもいのPAを放ち、力を蓄えるハヤマ、アインス。

近づいてくる【敗者】へ距離を計算し、誰よりも早くブラッディサラバンドを放ち、オウルケストラーで追撃を行うミケ。

力を貯めた後におもいきり拳を振り上げ、スライドアッパーからサプライズナックル、そしてトドメのバックハンドスマッシュを決めるコマチ。

おなじく空中で力を貯めていたシンキはその力を一蹴りに乗せ限界を超えた蹴撃ヴィントジーカーを放った。

全てのPAが放たれた後、しめるようにハヤマ、アインスのコンバットフィニッシュが【敗者】へと襲いかかる。そして、それが止めとなった。

 

『ばかな…どこだ。どこで間違えた…。』

 

空洞となっているフィールド下へと落ち、光輝きその力を発散させる【敗者】。

「ばーか。どこで間違えた? 俺たちと対峙した時点で、負け確定なんだよ。」

偽の【敗者】戦。全く問題なくアークス達によって終了する。

 

 

フィールドがゆっくり戻っていき、元の状態であった98層のボス部屋へと姿を戻した。

「がはっ!? ばかな…なぜだ。この力があれば…全てを手に入れることが…できるんじゃないのか!?」

床へと這いつくばり、弱々しくなっている須郷。

「どっかの誰かさんにそそのかされたのか…何を言われたのかしらんが。俺たちに力で勝とうなんざ、何万年もはえーよ。」

オキがつかつかと近づいていく。

「この…イレギュラーが…。」

体全体に力が入らないらしく、立ち上がるどころか体を起こすことすらできない須郷。そのすぐ真横にオキは立った。

「まだダーカー因子が体に残っている。いくらゲーム内とはいえ、その影響は計り知れない。こちらで消滅させてもらうよ。」

オキがワイヤーを構える。それを須郷は見た。

 

ゾクリ

 

「なにを…。」

須郷の背筋に悪寒が走る。その目、その表情。オキから放たれるその力を全身で感じたのだ。

「本来ならフォトンで吸い出すのだが、この世界だとうまくいかん。強硬手段でイカせてもらうよ。それに…あんたはそれ相応の事をしたんだ。報いは受けてもらう。」

オキのエルデトロスから放たれる風が強くなる。

「吹き荒れろ。【雷獣爪(ライジュウソウ)】エルデトロス!」

オキ専用に調整された特別なエルデトロスの一本。オキの身体に合わせたエルデトロスは彼にしか扱えない。アークスのトップであり、最大戦力である六芒均衡の扱う『創世器』よりも断然劣るが、それでも一般アークスが扱う武器よりも上である。そんな彼らの武器にはその武器に似合った「名」が一つ追加されている。それがオキの【雷獣爪】である。

エルデトロスで須郷を掴み、引っ張ると同時に蹴りを須郷へと放つ。直後、須郷の体を掴み、空中へ飛び上がったあと、地面へと叩きつけた。

グラップルチャージからヘブンリーフォールをかましたのだ。

「…っ!?!?」

あまりの衝撃と激痛に声もでない須郷。そう。須郷はペインアブソーバを戻していない。自分で落として、そのまま【敗者】へとなってしまったので戻し忘れているのだ。

そのままHPが0になってしまえばまだ彼は幸せだったのかもしれない。だがそれも虚しく、彼が持っている『スーパーアカウント』のせいでHPは0にならない。なる前に自動回復してしまうのだ。そのためにオキからの攻撃は、そしてそのあとに喰らうアークスからのPA、『フォトンアーツ』のダメージを受け続けなければならない。

「ほい。ハヤマん。よろしくぅ!」

「あいよ!」

アザースピンで飛ばされた須郷をグレンテッセンで追いかける。追い越した直後に横一閃を須郷へと放つ。

「朽ち果てろ…【四天偽刀(シテンギトウ)】アギト!」

四天と呼ばれる伝説のカタナ。その中のオロチアギトを元に作られたレプリカであるうちの一本。それがハヤマのアギトだ。錆びている刀身にも関わらずそこから放たれる剣戟は鋭い。

「ーーーっ!」

一閃直後にカンランキキョウで空中に浮かし、ジャンプ。振り下ろしから一気に振り上げるゲッカザクロ。

「ミケっちー!」

ゲッカで打ち上げられた須郷は空中に待機していたミケによって更にうかされる。

「【奇術双剣(キジュツソウケン)】トリックスター!」

ミケのツインダガーはミケオリジナルの武器だ。どこから持ってきたのか、いつから持っていたのかは本人ぞ知る。不思議なことにミケの短剣はミケが着るフード付きのマントから何本も出てくる時もある。

「にゃーにゃ!」

レイジングワルツから打ち上げられ、ダークスケルツォで引き寄せられ、ファセットフォリアで目にもとどまらぬ速さで切り刻まれる。

「…!」

もはや意識があるのかどうかも怪しい須郷。だが、悲しきかな。スーパーアカウントはHPを0にしない。強烈な痛みだけがかれを襲い続けていた。

「こまちー!」

シンフィニックドライブで蹴り落とされた須郷を待ち構えていたのは力を貯めた拳。

「うきあがれぇぇぇ!」

コマチの構えるナックルから力を溜め込んだスライドアッパーが放たれた。

落下スピードと打ち上げられる力が反発し、須郷の体は変に曲がる。

「だぁぁぁ!」

さらに拳を振り上げ、打ち上げられた須郷の上空から巨大な拳が落とされる。

「メテオフィスト。…しかも大当たりってなぁ。」

落ちてきた須郷は地面へと落下、バウンドしコマチの目の高さまで浮き上がる。

「打ぅぅちぃぃ砕けぇぇぇ!【金剛神拳(コンゴウシンケン)】ゴッドハンドォォ!!」

全身の力を込め、一撃必倒の裏拳を対象に叩き込む。ナックル最大のPA、バックハンドスマッシュが放たれた先にあった須郷の顔面へと打ち放たれる。

まさにその名を表すとおり神の拳から放たれた力は須郷を地面と平行に吹き飛ばした。

「はいはい。こっちでまってるわ。」

吹き飛ばされる須郷を待ち構えていたのはシンキだ。

鋭利に光り輝くジェットブーツを、その足技で何度もける。

「ふふふ。さぁ舞踊りなさい。【創世舞(ソウセイブ)】ズィレンハイト!」

グランウェイヴからモーメントゲイルで踊るように舞い、蹴り放つ。

創世器『透刃(トウジン)マイ』。六芒均衡の「零」クーナが持つ武器を元に作られた魔装脚。名のとおり彼女の動きはまるで舞を踊っているかのように見えるという。

「さぁ、仕上げよ。隊長ちゃん!」

「…ああ。」

既に構えていたアインス。空中へと蹴り上げられた須郷の体へと強力な突きをお見舞いする。

シュンカシュンランで間合いを詰めた後、空中に留めんと、フドウクチナシを放つ。

「貴様は…やりすぎた。…切り刻め。【四天頂刀(シテンチョウトウ)】オロチアギト!」

アギトのオリジナル。四天の名をもち、世にその名ありと知らしめたる4本の一本『オロチアギト』。その一振りが…いままでに無い巨大な力を持つ斬撃が須郷へと降り注いだ。

 

斬!

 

「…カザン…ナデシコ。」

静かにアインスの言葉が広く、高い部屋にコダマし、シンと静まる床に須郷の体はバタリと落ち下ろされた。




決着!!
ごきげんようみなさま。ソードアークス・オンライン、SAO編。最もやりたかったこと。
『須郷にみんなでPAをぶちかます』事。
SAOで最も気持ち悪い男No.1に輝く彼をどうやっていじめるか。それがこの結果でした。いやすっきりした。

さてさて、ながいながいアインクラッドも残すところあとわずか。
しかし、まだまだ続きますSAO。
これからもよろしくお願いいたします。

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