「ヒョオオオオオオオオ!」
【敗者】(ルーサー)となった須郷は甲高い鳴き声を発し、直後に周囲のフィールドが変わった。
オキにとって、そこは懐かしの場所であり、【敗者】を追って何度も決戦を挑んだ場所。そしてなにより、『あの人』の場所。
「っへ。懐かしい場所だなおい。」
「そうだね・・・。」
オキとハヤマは互いの相棒を【敗者】へと向け、構える。そして思い返すあの光景とその言葉。
『・・・最後は・・・寂しくなかったぞ。』
確かに聞こえた最後の言葉。『原初の星、シオン』。宇宙の全てを知る彼女の最後の言葉。
それを聞いたこの場所はオキにとっては忘れられない場所。そして、再び目の前に現れた『シオン』を取り込もうとした張本人。
「アイツじゃないにしても、その姿を見ちまったら倒すしかないべ。」
その場にいたアークス全員が頷いた。
原初の星『シオン』がいた旧マザーシップ最深部。オレンジ色に光り輝く周囲。うっすらと緑色に輝く地面と水。
対【敗者】戦が再び開始された。
『ッフ!』
【敗者】の持っている巨大な金色の大剣が振り下ろされる。アークス達はそれを軽々と避けた。
「にしてもどうやって倒すよ。ミラージュないべ。」
「…オキ君、よく見たまえ。」
アインスが顎で【敗者】の腹を示した。
本来ならば、【敗者】の腹部には巨大な時計のような装甲があり、時を刻んでいる。
その奥に【敗者】のコアが隠されているのだが、容易に破壊することはできない。
そのため、【敗者】に有効な属性、風の力を宿した『ミラージュ』と呼ばれる状態異常を【敗者】へとぶつける必要があった。
ミラージュにかかった【敗者】は腹部の時計を剥がし、一時的に行動不能となることがあった。そこへアークス達が攻撃をぶつけ、完全に装甲を壊し、弱点部位であるコアを露出させる。これが何度か奴と戦った時に導いた戦術であり、被害を最小限に抑える有効な戦い順序だった。
だが…その時計が、なかった。
「時計がない…だと?」
『イレギュラー風情が!』
こちらの驚きを気にせずに【敗者】はその巨大な嘴から大きな黒い弾を飛ばしてきた。
目を見開き、全員でそれを避けた後、皆はゆっくりと頷きにっこり笑った。
「獲物だヒャッホー!」
シュイン
アークスシップ、病室。オキが眠る病室にチーム『ペルソナ』のメンバーが揃っていた。最後の到着したのはクロだ。
「遅くなった。【敗者】だって?」
クライアントオーダー中に、クサクからの連絡。その内容は『SAO内に【敗者】が現れた』という内容だった。
クロは急遽引き返し、オキの病室へと集まったのだ。
「うん。しかもダーカー因子もったね。」
クサクが現状を説明してくれた。
「なるほど。そういうことか。とはいえ…。」
「問題ないかなー。いくら相手があの【敗者】とはいえ、何度か戦った相手な上に、最初からコアでっぱなしー。」
ニッコニコしながらユユキが答えた。そうなるとどうなるか。答えは決まっている。
「心配して損した。」
負けるはずがない。この人たちが、劣化版なんかに。更に自分の相棒を手にしてフォトンを使っている。心配しておおいそぎで帰ってきた自分がばかに思えてきたクロだった。
「でも、この人なら…リーダーならいうかな。万が一に備えておけ。って。」
クロの言葉に、チームメンバー達が頷きあった。もしオキ達に何かあった場合。万が一にも予想不可能な事が起きた場合、その意思を継ぐのは自分たちだと。彼女たちはすぐに動けるように、このあとの動きを頭の中で思い描いていた。
それと同時に、そんな事が起きないように願いながら。
『見苦しい!』
多数の小さな剣のようなものをオキたちに飛ばしてきた。
キキキキン
「よっほっ!」
アインスがそれを切り落とし、オキは空中で縦回転しながらワイヤーを振り回した。
「アダプトかーらーの! カレントォ!」
【敗者】の巨大なコアにエルデトロスが突き刺さり強力な電撃を与える。
「うふふふ。」
その後ろからシンキが脚につけた武器『ズィレンハイト』によって素早く近寄り、多数のケリを放つ。
「おらおらおら!」
「動きが止まってるぜ!」
ハヤマ、コマチもそれに続き、攻撃を仕掛ける。
コーン・・・
空間一体が赤い光に染まった。それと同時に【敗者】が遠くに逃げた、
『あまり煩わせるな、面倒だ。』
「加速か。」
オキがじっと相手の動きを見つめた。
『壊れた玩具には用はない!』
次の瞬間、オキたちの頭上に【敗者】が現れた。
「突きさしか!」
オキらがそれを察知し、横へと飛び退いた瞬間と、【敗者】が高速で上空から剣を突き刺してきたのはほぼ同時だった。
「…すげぇ。」
「あれが…アークスの動き。」
【敗者】の作った固有空間かの外側からオキたちの戦う姿を見ていたキリトらプレイヤーたち。本来の力を手にし、実際に敵対する強大な化物と戦うアークス達をみて呆然としていた。
「オキさん…。」
シリカも心配そうにそれを見つめる。すぐ近くにいるハシーシュやフィリアも一緒だ。
「心配しなくていいわよ。あなたたち。」
振り向くとその声の主がゆっくりと歩いて近づいてきた。サラだ。
「サラさん…。」
「あいつらがあんなのに負けるはずないわ。ましてや偽物なんかに。」
「偽物…。でも、あの【敗者】ってのと実際に戦ったんですよね? 生身で…。」
フィリアが心配そうな顔でオキ達を見た。
【敗者】が巨大な剣を斬り払い、それをオキたちがジャンプで避けたり、武器で受け止めているところだった。
「ええ。私も戦ったわ。今思い出すだけでも…あの時の震えは忘れない。」
サラの体は少し震えていた。
「サラ…さん?」
ハシーシュが近づく。サラの後ろからクラインがそっと肩をさすった。
「大丈夫…。もう2年以上も経つのに、思い出しただけでこのざまよ。でも…。あの人たちは笑いながら戦ってる。」
オキ達をみると、【敗者】は巨大な剣を振り下ろしていた。それを回避し、ガラ空きとなったコアへと攻撃を繰り出している。
「あの人たちは負けない。だって、あの【敗者】を…倒した人たちなんだから…。今回も絶対に負けない。大丈夫。」
サラの言葉は、まるで自分に言い聞かせているようにシリカ達には聞こえた。
みなさまごきげんよう。
いろいろ不幸事や事情により2週間と間を開けた挙句、この短さでごめんなさい。
とりあえず【敗者】戦の半分を描きました。
【敗者】と書くたびに【歯医者】となるのは困ったもんです。
そろそろSAO編もクライマックス。…がその前にいろいろやりたいことをやりたいと思います。SAO編が終わったあとのことも既に決まっております。
今後共よろしくお願いいたします。