90層以降を問題なく進み、アークスのメンバー達はプレイヤーの面々との交流を深め最上層へと進んだ。
オキ達は98層も難なくエリアボスまで到達し、その攻略を行った。
「よっし。98層クリアっと!」
「お疲れ様。皆。」
「おつー。」
「おつかれー。」
各メンバーがボス攻略後の労をねぎらっていた。
「後二つだな。」
「ああ。」
オキがタバコを吸いながらキリトに近づいた。
「長かったSAOもこれで終わりか。」
「まだ、アイツが残ってる。油断は出来ないよ。」
キリトに突っ込まれつつも、嬉しそうに笑うオキ。周囲のメンバーも頷いていた。
「あ、そうだ。はやまーん。たいちょー。ちょっといい? あー。アークスメンバー集まってくれ。」
「ん? なーにー?」
「どうかしたかい? オキ君。」
「お? どうした?」
「何かあったのかー?」
「んー? どうしたのー?」
オキがアークスメンバーを集め、端へと移動した。
「さぁ、上に行こう。次を突破すれば…ラストだ! クリアは目前だぞ!」
それに気づかず、ディアベルが掛け声をかけたときだった。
「次? ラスト? いや、君たちはここで終わりだ。」
ボスエリアの入口から声が聞こえてきた。全員がそれに振り向くとそこには、あの『アルベリヒ』が拍手をしながら立っていた。
「アルベリヒ…!」
キリト、ディアベル達が武器を構えアルベリヒに向く。
「いやいや…。良くも僕の研究を邪魔してくれたね。本当にまいったよ…。」
プレイヤー達を微笑みながらも睨みつけるアルベリヒ。
「荒らしてくれたあの実験結果。君たちにはあの研究の偉大さがわかっているのかい?」
キリトがその言葉に対して反論した。
「プレイヤーをさらって…人体実験を繰り返すなんて。それのどこが偉大なんだ!」
「やれやれ…。僕の世界的快挙がこんな低脳に妨害されていたなんて、まったく腹立たしい限りだ。」
その時にプレイヤーの後ろ側から声が響いた。
「世界的快挙? 低脳に妨害? っは! 低脳はどっちだボンクラが。」
オキだ。タバコを加えながらアルベリヒへと近づいた。
「イレギュラーズ…オキ。君のおかげで僕は…。」
「あ? ああ、あの腐った研究のデータがそんなに大事だったのか?」
オキが睨みつける。アルベリヒはニヤリと笑い、手を広げた。
「ああ。僕の研究データがどれほどに偉大か…。君たちにもわかるように説明してあげよう。」
「…ご教授願おうか?」
アルベリヒは人差し指を立てながらその場をぐるぐると歩き回りながら説明しだした。
「人は楽しいと思ったり、辛いと思ったり、いろんな感情があるだろう?」
「おう。」
オキはその場に座り込みタバコを吹かした。
「例えば戦争…戦争は怖いよねえ。どんなに訓練した英紙も、死を前にすると恐怖で思考が鈍ったり、動けなくなってしまう。」
「そうだなぁ。」
うんうんと頷いているオキ。
「では? 恐怖で塗りつぶされた兵士の感情を喜びで満たしてやると、どうなると思う?」
うーんと考えた後にオキが手を挙げた。
「喜ぶ。」
後ろからクスリと吹き出す。それを見てアルベリヒは苦そうな顔をしてゴホンと咳払いをし、話を続けた。
「おっほん! あー・・・。飛び交う銃弾の中に身をおくことを何よりの喜びと感じ、進んで危険な任務を果たすようになる。軍にとって、これほど使える兵士はないだろう。」
オキは腕を組み、んーと唸った。
「ふむ。つまり、お前の言っている研究とは、人の感情を操る…と、いうことか?」
「そんな!」
「ふざけるな!」
周囲から罵倒が飛び交う。
「どうかな? 僕の研究の偉大さに気がついたかい? 実際にそういった実用に向けて接触してきている国が複数あるんだ。しかし…。」
アルベリヒは頭を抱える仕草をした。
「向こう側では人体実験なんてそうそう行えるはずもなくてねぇ。研究が思うように進まずヤキモキしている時にちょうどいい環境を見つけたんだよ。」
オキが手をポンを叩く。
「なるほど。ここ、SAOの世界か。」
「そのとおり!」
アルベリヒはニヤリと笑った。
「ここで起きている事は外にいる人間、警察や国の人間には知りえない! 知ったところで、この世界のなかで起きた不幸は、全て茅場晶彦の責任となる。」
オキがうんうんと頷いた。
「なるほどなぁ。その上全員が脳を操作するための電子パルスを発生させるナーブギアをかぶっているときた。つまりこの世界はあんたにとって最高の研究実験場ということだな。」
アルベリヒは正解と言わんばかりにオキを指さした。
「そのとおり! だが…実のところこの世界に来てしまたのは事故でね。」
「事故?」
オキが首をかしげる。
「このゲームをほかのシステムをネットワークで接続させるテストを行っていたら、急に知らない場所に転送されてねぇ。」
「!」
オキの顔が少しだけ変わる。
「そこがニュースで騒がれているSAOの中と知った時にはさすがに焦ったよ。事故でもなければ、こんなわけのわからんデスゲームにだれが好き好んで入ってくるものか!」
アルベリヒは少しだけ怒鳴り散らした。そこにオキが手をあげる。
「はいはーい。一つ質問いいか?」
「どうぞ?」
アルベリヒは手を前にだし、オキの質問を許可した。
「ネットワーク接続やら、感情の実験やら、明らかにただのプレイヤーじゃないよな。あんた一体、何もんなんだ?」
フンとにやけたアルベリヒは静かに言った。
「僕かい? 僕はこのSAOの統括者だよ。」
「何を言っている。それは茅場のことだろ。」
キリトの言葉にアルベリヒは笑いだした。
「んっふふふふ。茅場なんて、この事件が始まった時から失踪中だよ。そして開発した『アーガス』は、既に解散。」
オキの目が少しだけ細まる。
「アー…ガス?」
「そう。そして我々レクト社のフルダイブ技術部門がこの世界の維持を請け負っている。」
「レクト!?」
アスナが驚いた。その言葉につられ、オキはアスナをみる。
「知っているのか?」
「え、ええ。だってレクトは…。」
「そう。レクト。君のお父さんが経営している会社だよねぇ。…明日菜。」
アスナの目が見開いた。
「ひょっとして…あなたは…須郷、伸之!?」
「な、なんだってー!? って誰だ?」
オキが大げさに驚き、アルベリヒ、いや須郷を見た。
「ようやく気がついたのかい?」
「知ってる人か?」
オキの言葉に、アスナが頷いた。
「え、ええ。何回かあったことがある。フルダイブ技術の権威ある研究者のひとりで、茅場晶彦に次ぐ実力を持っているとか…。」
須郷はアスナの言葉に目を細めた。
「まったく…。茅場晶彦に次ぐ…か。」
須郷は少しだけため息を付いて言葉を続けた。
「たしかに今までに幾度も茅場と僕は、技術研究において比べられることがあった。その度に奴は、僕の一歩先を行っていた。だけど…それももう終わりだ。茅場は失踪。今も生きているかわからない。気づき上げた名誉も今回の事件で完全に失った。今や、フルダイブ技術者で僕の右に出るものはいないんだよ!」
「ほほう。それはすごい。」
オキはパチパチと手を鳴らした。
「さらに! 僕は茅場の作ったこの世界を支配し、名実ともにやつの上に立つんだ!」
「この世界を支配するって、一体どういうこと!?」
キリトがその答えを導き出した。
「…こいつが、開発側の人間であること。そして今まで起きた不可解な出来事、そられの事から考えられるのは、おそらく普通のプレイヤーでは持つことのできない特殊な権限を持っているんだ。」
「ふふふふふ。その通りだよ、キリト君。」
須郷は笑いながら、説明しだした。
「スーパーアカウントと呼ばれるものでね。開発者のみが使用できるアカウントなんだよ。事故でこの世界に引きずり込まれたものの、スーパーアカウントがそのまま継承されたのは幸運だった。」
「そうか。犯罪防止コードが発生しなかったことや、人を強制的に転移させるアイテムを持っていたのも…。」
「ああ。コイツのいうスーパーアカウントがあったからこそできた事だろう。」
アスナとキリトが須郷を睨んだ。
「なるほど。上級の装備、そして腕の割には妙に高いステータスもこれで納得がいった。」
オキがタバコを結晶化させ消した。
「これだけのステータスがあれば、このゲームを終わらせることも余裕だろ? この世界にいるプレイヤーたちで一通り実験を済ませたら、僕自身がこのゲームを終わらせる。自らデスゲームに飛び込み、人々を救った英雄として、さらに僕は注目されることとなるだろう。」
「なるほど。攻略組に近づいたのも、それが理由か?」
キリトが睨んだまま須郷に言った。
「そうとも。その中に明日菜がいたのを知ったのは驚いたけどね。」
「お前は英雄になることはない。向こうに戻ったら警察に全て話す。」
須郷はニヤリと笑った。
「それは無理な話だよ。なぜなら、君たちはここで死んでしまうのだからね。」
「ステータスが高いくらいで、俺たち攻略組に勝てると思っているのか?」
笑うのをこらえている須郷はキリトを見た。
「君も…つくづくバカだねぇ。出来ると思っているから、こうして君たちの前に現れたんじゃないか。さぁ、攻略組のみなさんにプレゼントだ。受け取ってくれたまえ!」
須郷が手元に出したコンソールを操作し始め、その直後に周囲のメンバーに異変が起きた。
「きゃあ!」
「う! っぐ!? こ、これは…!?」
キリトたち、プレイヤー全員の体が動かない。
「なんだ…これ…!」
「体が…動かない…!」
ざわつくプレイヤーたち。オキも固まって動かない。
「…。」
「あっはははははは! やぁ、スーパーアカウントを使って全員に麻痺属性を与えたんだ! しばらくの間、君たちはその場から動くことはできない! どうだい? これがこの世界の支配者のちからだよ。」
「くそ!」
「キリト…君!」
キリトはアスナを、アスナはキリトに手を伸ばし助け合おうとするも体が思うように動かない。
須郷はゆっくりとキリトとアスナへ近づいた。
「ああ、そうそう。…明日菜。君は殺したりしないから安心してくれ。まぁ実験が終わるまでは、どこかに閉じ込めておくことになるけどねぇ。現実の世界では、君が眠り続けている間に、僕ときみとが結婚するように話が進んでいる。結婚が成立すれば君のお父さんのレクト社は僕のものになる。」
「な…なにを言っているの…?」
アスナが睨みつけた。
「もちろん、そんなことになったら、君は拒絶するだろう。でも、僕の研究が完成して君の感情を操ることができれば、拒絶どころか喜んで僕を受け入れてくれるだろう。」
「…!?」
嬉しそうに須郷は笑った。
「ひっひっひ! 心も身体も僕のものというわけだよ。」
「き…さま…!」
キリトがもがく。
「さて、長話もここまでだ。君たちの最後の相手は、こいつらにやってもらうとしよう。」
須郷はコンソールを操作し、直後に指を鳴らした。
その場に入口から十数名の男たちが走って入ってきた。
「こ…いつらは…!」
「血盟…騎士団…!?」
「ん? こいつらはボクの事を英雄と証言してもらう大事なお客さんだ。たしか、元ラフコフといったか? 夢を摘み取られたから仕返しがしたいってねぇ。」
「ラフコフ…!?」
「ア、アルベリヒさん…本当に…いんですね?」
「や…やったぜ…ヤリ放題…だ。」
彼らはなにやら相当興奮している。様子がおかしい。
「まぁ、その代わりというか、報酬というか。せっかくだから、攻略組の女どもを好きにしたいって言うからね。僕は興味ないし? 好きにやらせるつもりだよ。そしてそのあとでゆっくりと男どもを殺すつもりらしい。」
「「「!?」」」
女性陣が怯える。『好きにさせる』その言葉通りなのだろう。
「くそ…!」
「ああ…キリト君。君だけはボクが殺してあげよう。君は明日菜と結婚しているってねぇ。それはだれが許したのかな? それはいけない。だから…罰を与えるとするよ。」
「な…! や、やめて…!」
アスナが叫ぶも須郷は見向きもせず、懐から短剣をだした。刃が電型に曲がった不思議な剣だ。
「こいつは、最奥の特殊クエストで手に入るという、このゲーム最強の武器だ。どんな相手でも、一刺しすればHPを0にするという。…だが、それは面白くない。キリトくんには少し、苦しんでもらわないとねぇ!」
そう言って腰についた片手剣をキリトの足に突き刺した。
「ぐぅぅ!」
「さぁ…カウント…ダウンだ。」
須郷がコンソールをいじりだす。するとキリトの足に激痛が走った。
「がぁぁぁぁ!」
「あはははは! どうだい! 今ここはペインアブソーバを7まで下げた! 普段感じることのない痛みを感じているだろう? 久しい感覚だろう? これでもリアルの半分以下だ。さぁ、少しずつ下げていくよ?」
ゆっくりと須郷がコンソールをいじる。それにつられ、キリトの痛みはましていった。
「ああああああ!」
そしてそれを見ていた元ラフコフメンバーもゆっくりと動いていった。
「ペインアブソーバ。普段感じることのない、痛みや感覚をリアルに近づけている。そんな状態で? もし彼らの言う『好きにされたら』どうなるか。楽しみだねぇ。あっひゃっひゃっひゃ!」
なんとか女性陣を守ろうと男たちはもがく。女性陣は逃げようともがく。だが、逃げられない。
「わかったかい? これが、このゲームの・・・この世界の支配者の力というものだ。君たちは長い時間をかけて必死にレベルを上げたんだろうけど、スーパーアカウントの前には無力だったねえ。どんなに作りこまれていても、所詮この世界は、ただのデータの集まりだ。どれだけ時間をかけようが、犠牲を払おうが、管理者…つまり神には、どうあがいても叶うはずがないんだよ! アハハハハハ!」
「イヒヒ・・・ヒヒヒ・・・。」
「ゆ、ゆめのようだぁ・・・。」
「お、おれ・・・おれ・・・。」
須郷はキリトの苦しむ姿をみて高笑いし、元ラフコフの男たちは血走った目で女性陣へと近づいていた。
「こ・・・こないで・・・!」
「く・・・くるなぁ・・・。」
麻痺した体は動かず、もがこうにも何も出来ない。ディアベル達も何とかしようとするが何も出来ない。
「さて・・・そろそろ仕上げと行こうか! 地獄に落ちろぉぉぉ!」
キリトは最後まであがこうとした。だが、相変わらず体の自由は利かない。振り下ろされる短剣を睨みつけるキリトは見た。
須郷の後ろに立つ男の姿を。
「おう。一人だけ楽しんでんじゃねーよ。おら。」
低く、ソレでいて響く声が須郷の背中側から聞こえたと思った瞬間、須郷は前のめりにこけた。
「うあぁ!? な、なんだ!?」
須郷が後ろを振り向くと、先ほどまで座り、麻痺属性を与えたはずの男が立っていたのだ。その男が足の裏で蹴ったのだ。
「ぐぁ!?」
「ぎゃ!?」
「な、なに!? っが!?」
周囲のラフコフメンバーも吹き飛んだ。背中から蹴られたり、殴られたりしたからだ。では、ソレをやった相手は?
「・・・また、また邪魔をするのか! 貴様ぁ!」
「邪魔? 邪魔をしているのは貴様だ。ばーたれが。こちらとさっさと攻略して帰りたいんだよ。まぁ、一応用事あったし? 手間ぁはぶけたと考えればいっか。いろいろ謎、解けたし。全く、無理やりこちらに干渉してきたのはアンタだったとは。おかげで全員死ぬところだったぞ。クソ。シャオ遅すぎんだよ。間に合ってよかったぜ。・・・あと、そこの長髪のおっさん!」
須郷が睨みつけている男。麻痺を付与されたはずの男、オキだ。周囲には今までいなかったアークスのメンバーがラフコフの残党を掃討していた。オキは、アインスに殴られ倒れているラフコフの残党の一人に近づいた。シリカやハシーシュに手をかけようとした男だ。
「ううう・・・な、何を・・・!?」
「てめぇ。誰に断って人のモンに手ぇ出そうとしてんだ。あぁ!?」
オキが男の横腹を思い切り蹴り上げた。
「がは!?」
「くそが。シリカ、ハシーシュ。フィリアも大丈夫か?」
倒れているシリカ達に近寄り、解除結晶で3人の状態異常を解除するオキ。
「なぜだ・・・なぜ動ける・・・。貴様は、何者だ!」
須郷がオキへと怒鳴りつける。そして、立ち上がり持っていた短剣をオキへと向け、振り上げたまま走って近づき、おもいきり振り下ろした。
「オキさん!」
「オキ・・・!」
「後ろ!」
シリカ達が走ってくる須郷の姿をみて叫んだ。オキはすぐさま槍を横向きにして、その短剣を防いだ。
ギィィン!
「ふふふ・・・ははは! この剣は特殊だといったはずだ! 一撃で倒せるだけではなく、武器も破壊するステータスがついている! 貴様の持っている武器も破壊され! その直後に貴様の体に・・・!」
「刺さるわけねーだろバーカ。」
オキの体に、短剣を防いでいる槍にノイズが走った。
「!?」
その場にいた全員が見た。オキ以外にも、アークスの面々にノイズが走るのを。
そして、服装が、武器が、変化するのを見た。
「な・・・なんだ・・・それは・・・!?」
オキの槍は二つに別れ、対となる二本の武器となった。巨大な羽を広げ、先端には光り輝き鋭く尖ったクリスタルの嘴。まるで鳥の姿をした武器がオキの手にあった。
「吹き荒れろ・・・エルデトロス。」
オキはニヤリと笑い、武器の名前を呟いた。その直後に風が須郷を吹き飛ばした。
「うあぁぁぁ!?」
ドサ!
煌びやかに光り輝くオキの2対の武器。ハヤマ、コマチを初めアークス全員が同じように普段とは違う武器を手にしていた。
「俺達が誰かって? ・・・俺達は、アークスだ!」
「がはっ! く・・・くそぉ・・・。何だよ・・・なんなんだよ! なぜだ! なぜ私の権限が効かない!」
コンソール画面を何度も何度も押している須郷。だが、オキ達には何も起きない。
「効くはずねーだろ。ボンクラが。今現時点で俺達アークスはシステムの干渉外となった。フォトンによってここに実現する『アークス』となった。ま、多少のズルはしてくるだろうなぁと思ってが、まさかゲームマスター権限を持ってくるとはね。そうなるとこちらもなりふり構っていられなくなるわ。さすがにこちらも出し惜しみ無しでいかせてもらうよ。とはいえ、少しだけ時間かかったみたいだな。さすがに全員をアークス限定解除させるには。そろそろ来るだろうなぁって予感したからうちのメンバーを柱の影に隠れさせておいた。元ラフコフメンバーも掃討できるとはな。思いもしなかったよ。」
オキは『エルデトロス』を須郷へと向けた。
オキを初め、アークスの面々はシャオにより短時間、フォトンの力を使用可能に。さらに、アークスとして活動しているときの相棒、自分の分身でもある愛武器をもそっくりそのままアインクラッドへ出現させた。
ワイヤードランス『エルデトロス』。オキやハヤマが初めてアインスに出会ったとき、一緒にニャウによって呼び出されてしまったガル・グリフォンの突然変異体『グリフォン・ゲルス』。その素材を使って作られ、更にオラクル船団の武器職人『ジグ』によってオキ専用に調整された一本だ。
「それとな・・・お前さんが持っているその懐の物。そいつを消す為に必要なんだよ。フォトンは。どこで手に入れたかも含め、それを渡せ!」
「・・・なんのことだ。」
須郷の顔がピクリと動く。
「嘘が下手だな。俺達がその存在に気づかないと思っているのか? 貴様のような一般人が扱える代物じゃない! 渡してもらおう。その『ダーカー因子』を!」
「私が・・・一般人だと? 私は! 神に選ばれた存在だぞ!」
須郷は怒鳴りつけ、懐から小さな小瓶を出した。ゲームデータによってアイテムのように見えるその小瓶と中身だが、オキ達はそれがダーカー因子であり、今まで戦ってきたただの侵食因子でないことを確信した。
「アレは・・・ハヤマ! コマチ! アレを奪え!」
「あいさー!」
「おうよ。」
2人が須郷へと走り、それぞれの相棒を手に走る。
「渡さない・・・私は・・・神となる存在だ!」
須郷が小瓶ごと自分の体に押し当て、『ソレ』を埋め込んだ。
「くそ・・・!」
「間に合うか!?」
ハヤマ、コマチが更に体を加速させ武器を須郷へと向けた。『ソレ』だけは外に出してはならない。だから2人は須郷の体ごと『ソレ』を消滅させる気でいた。だが・・・。
「本当はこんなことしたくないのだが・・・仕方が無い。」
須郷の体から赤黒いオーラが出だし、彼の体を同じく赤黒い渦が取り巻いた。
「・・・! 戻れ! ハヤマ、こまっちー!」
オキの言葉と同時に体をひねり、Uターンした2人。直後、2人が走りたどり着いたであろう場所に渦の中から金色の巨大な剣が振り下ろされた。
ガン!
「サラ・・・プレイヤー達を全員退避させろ。出来るだけ、遠くに。」
未だ黒い渦を纏っている須郷を見ながらオキはサラへと指示をした。サラはコクリと頷き、アインス、シンキ達から麻痺から解除されたプレイヤー達を率いて出来るだけボスエリアノ隅へと移動した。シリカ達が心配そうにこちらを見たが、平気だと見せる為に手を振ったオキ。
「さぁて。まぁコイツがいるだろうなと思ったけど、こういうシチュで対面するのは考えてなかったな。」
「なんにせよぶった切るだけだ。」
オキと隊長が横並びになり、その後ろに4人のアークスが並ぶ。
黒い渦が次第に無くなり、その中からオキ達には因縁深い相手の姿が現れた。
「本来ならラスボスとして登場する予定だったらしいが・・・君達にはこれが最後となるだろう。私は・・・我は・・・選ばれたものなり! 我は! 全知全能の神となる!」
巨大な姿で現れたソレは金色の煌びやかな羽と王冠。そして顔は鳥のように見える。
アークス達が倒したはずの『ダークファルス』。その名、【敗者】(ルーサー)。
SAO、アインクラッドにてオキ達の前に再び降臨した。
皆様ごきげんよう。
本来なら各アークスメンバーを主体にした番外編を先にやってから、本編へと移るつもりでしたが時間が無くて元々ある程度書いていた今回の話を先に書かせてもらいました。
前から出てきたアルベリヒ=妖精王オベイロン=須郷。彼ほど気持ち悪いといわれる人も少ないでしょう。
アークスの前に立ちはだかり、そしてどこから手に入れたのか分からない『ダーカー因子』。しかも『ダークファルス』に変貌するほどのモノを使用して【敗者】へとなる。
彼の言った『選ばれた』とは。そしてどこからダーカー因子を手に入れたのか。
クライマックスは近いです。(まだSAO編は続きますが)
さて、来週からまた忙しくなりそうです・・・。困ったなぁ。
なので来週もお休みするかも。もし書けていたら上げておきます。
では次回にまたお会いしましょう。