SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第62話 「アークス対プレイヤー」

「鬼ごっこぉ!?」

オラクル騎士団ギルド拠点大会議室にハヤマの声が響いた。アークスメンバーだけでアークスシップの現状を確認し終わったあとに雑談をしている最中にオキがなにかやりたいと発言したのがきっかけだった。

「うっせぇなぁ。耳がいてぇじゃねーか。」

タバコをふかしながら耳をふさぐオキ。

「ついこの間、ダーカー因子もって、誘拐して、人体実験やってたバカがどこかにいるのになんでいきなりそんなこと思ったわけさ!」

デコに怒りマークが見えるハヤマにオキは前かがみでタバコをもった手でハヤマを指さした。

「あのなぁ。俺も何も考えてないわけじゃねーんだよ。この間の件で皆がだいぶ暗くなっている。ここいらででかい祭りを開いて気分変えねーとやってられねーんだよ。なにより俺が面白くない。」

ハヤマは最後が本音だと思った。この人は面白くないと気が乗らない人だったのをあらためて思い出した。

「でもなんで鬼ごっこなんだ?」

アインスが首をかしげた。

「いや、なんかおもしろそーなことねーかなー? ってつぶやいたら、ミケっちが・・・。」

「鬼ごっこ!!!」

ミケが手をあげて叫んだ。

「って言ったもんだ。うんで思いついたのが、『アークスVSプレイヤー』。アークスメンバーがどっかのてきとーな層を会場にして、どこかに分かれて、12時間逃げ回る。時間は9時から21時まで。逃げ切ればこちらの勝ち。負けは全滅だ。」

「勝てばなにかあるのー?」

シンキが手を挙げて質問してきた。

「そうだなー。勝った方が負けた方を好きにできるってのはどうだ? アイテムなんかじゃ面白くないし。」

「じゃあわたしはプレイヤー側につく!」

シンキの目がキラリと光った。

「まてまて。おまえ、こっちを好きにするより、プレイヤー側の方が好きに出来るの多いだろ。」

シンキは、んーと考えて、手をポンと叩いた。

「ああ。たしかに。」

「それに俺たち好きにしても・・・。」

「え?」

シンキは手をワキワキさせている。

「おいその手をやめろ。」

ハヤマがジト目でツッコミを入れた。

攻略組ギルド連合のメンバーに相談すると全員が乗る気だった。特にキリトやディアベル、リンドなど普段一緒に戦いつつも自分たちがアークス相手にどこまで手が出せるかを試してみたかったらしい。賞品もオキの案と、アイテム関係も入れた。いかんせんギルド倉庫には多数のアイテムが眠っているので別に無償で渡してもいいくらいである。

 

 

イベントはアインクラッド中に広まり、当日は第1層に多数のプレイヤーが集まった。

司会はいつもどおりキバオウ。

『さぁさぁ本日は皆集まってくれてサンキューな! まさかこの広場にこれだけの人数が集まるとはワイも思わへんかったわ! あの日の宣告。今でも忘れへん。皆も忘れとらんやろ。絶望かとおもったそのときや! わいらに希望を与えたモノたちがいた! それがイレギュラーズ! 今回は皆を楽しむためにイレギュラーズのみなはんがイベントを考えてくれたで! その名も! [アークスVSプレイヤー! アインクラッド杯! 大集合! 鬼ごっこ対決!]』

「「「わぁぁぁぁ!!!」」」

「すげえなこんなに集まったのかよ。」

「これはさすがに驚きだな。」

オキとアインスはその熱気と勢いに少し押されている。

近くにいたリンドやディアベルがニコリと笑った。

「なに。これも君たちのおかげでもある。」

「そうだな。こうして死の・・・デスゲームと呼ばれたこの場所で、これだけの人数が楽しむために来てくれたのだから。」

『さて、ルールを説明させてもらうで!』

ルールはアークスサイドとプレイヤーサイドで分かれて、鬼はプレイヤー達。

時間は12時間。範囲は1層すべて。ただし黒鉄球の地下ダンジョンは危険があるので侵入禁止とする。開始30分前にアークス全員が逃げを開始。その後30分後に鬼ごっこが開始される。

捕まえた判定は動けなくすること。

タッチや触れただけでは判定外とする。

『勝ち負け判定はイレギュラーズが全員時間内にだれかひとりでも逃げ切るか、全員が捕まった時点で終了。その場合はプレイヤーの勝ちや。イレギュラーズのだれかでも捕まえた人たちには豪華賞品がまってるで! 協力して捕まえた場合はその協力した者、つまり押さえつけた全員が賞品をもらえることになる。せやから同じ仲間であるプレイヤー同士の妨害行為は禁止やで!』

時間は朝8:30。これからアークスたちが逃げる。

「それじゃあみんな。捕まらねーようにな。」

「ああ。皆せっかくだ。楽しもうぜ。」

「それじゃあな! 俺はこっちだ!」

「ワシはこっちに行くとしよう。」

「ミケはこっちなのだー!」

「わたしはこっちかなー。ふふふ。」

それぞれが四方八方に逃げる中、各プレイヤー達は、自分が追いかけるつもりのアークス達の後ろ姿を見つめていた。

ちなみにサラはプレイヤー側で参戦である。

 

「あんな化物ぞろいのメンバーと一緒にしないで欲しいわ。」

 

よってサラはオキたちを追うことに。

朝9:00ジャスト。イベント開始である。

『スタートや!!! 全員がんばるんやでぇ! ワイも出動や!』

「「「おおおお!!!!」」」

始まりの街の中央広場から多数のプレイヤーが各方面へと走っていった。

走っていったのは大体が外部のプレイヤーで広場には攻略組メンバーが残っていた。

「さぁ。今日は好きにしていいらしいからな。せっかくだから試させてもらうぜ。」

「そうね。キリト君。」

「みんなでがんばりましょー!」

「ふふふ。たのしみ。」

キリト家族はゆっくりとオキの逃げていった方向へと歩いて進んだ。

「キバオウくん。手はずは?」

「もちろん完璧や。すでに情報は回ってるで。」

ディアベル、キバオウ、リンドの目が光る。ディアベル達はすでにギルドメンバーを各地へと放っていた。

「・・・街の出入り口を固めたメンバーから連絡や。街の外に出たのはオキはんら4名。残っているのはミケはんにシンキはん。まだ街中に潜伏しとるみたいや。」

「よし。まずはミケくんとシンキくんを捕まえるとしよう。1層は解放軍の庭のようなものだ。皆! 心してかかるように!」

「「「おおおー!」」」

 

 

街中では解放軍、ドラゴンナイツのメンバーがミケ、シンキを探していた。

「いたか?」

「いや、東と南は探したがいなかったそうだ。」

「となるとこっちの西と北か。」

「おい! あっちでシンキさんが見つかったらしいぞ! 今カイト達が追っているそうだ!」

数名の男たちは顔を見合わせて軽く頷き合い、情報のあった方面へと駆け出した。

「ふふふ。さぁこちらへいらっしゃい。」

「まてー!」

「にがさねーぞ!」

舞うように走り抜けるシンキ。それを追いかける男達。今回の捕まえた判定は逃げれないようにすること。つまり押さえつけることだ。シンキのような女性に「偶然どこかに触れても」文句は言われない。つまり男たちは夢を追っているのだ。だが、相手が悪い。なにせ相手は、悪魔のような存在だ。

シンキが路地裏の曲がり角を曲がる。

「しめた! そっちは行き止まりだ!」

男たちがニヤリと笑い、角を曲がる。しかしそこにはシンキの姿がなかった。

「うふふふ。」

「なに!?」

シンキは壁をけって軽々と塀を越えていた。男たちもなんとか登ろうとするが、なかなかうまくいかない。

「くそ! あっちへ回り込むぞ!」

「おう!」

「さぁ皆がんばってね。」

悪魔のように微笑むシンキ。男たちは彼女の手の上で踊らされていた。

 

 

「見つけたぞ!」

「追いかけろ!」

「まてー!」

「つかまえるのだー!」

シンキの後を多数のプレイヤーが追っている。そんな事気にしないといわんばかりにシンキは逃げ回っていた。

「ふふふ。楽しいわねえ。さぁて次はどうやって遊ぼうかしら。」

楽しそうに走るシンキ。

「あら? ふふふ。もう一人いたわね。」

後ろをちらりと見たときに、シンキは追ってくるプレイヤー達の中に見知ったメンバーがいることに気づいた。どうやら追いかけている人たちはそれに気づいていないようだ。

「うらーなのだー。」

「ん?」

一人の男が聞きなれた声を聞いたので後ろを振り向いた。

「・・・あ。」

「みつかったのだ!」

そこにはイレギュラーズが一人、ミケがプレイヤー達の中に混じっているではないか。

「おおお、追いかけろ!」

「逃げるのだ!」

ミケは素早い動きで住宅街の壁を飛び越え、屋根伝いに逃げていった。

シンキもその騒動で見失ってしまい、せっかくのチャンスを不意にしてしまったプレイヤー達。

「くっそー! 思ったよりきちぃ!」

「はぁ・・・はぁ。速過ぎる。」

「壁上るの反則だろ・・・。」

まさに大暴れだった。そのせいで、大半のプレイヤー達がこの時点でフラフラだった。時刻は10:30を過ぎたところ。

まだまだ、日は昇っている最中だ。

そんなはじまりの街から西に進んだ草原の更に先、迷宮区を目指すプレイヤーが初めて到着する森ダンジョン。

そこにハヤマが潜んでいた。

「いたか?」

「いや、こっちにはいなさそうだ。」

「もっと先に行ったんじゃないか?」

数名のプレイヤーがそばを通り過ぎるのを確認したハヤマは体を低くして遠ざかるのを待った。

「この辺も増えてきたな。」

少しずつ遠回りに1層の奥へと向かおうと考えており、挟み撃ちを避け出来るだけ隠れるように森を進んでいたハヤマ。

戦いでは突撃を好むように見える彼だが、しっかりとした考えをもってから、行動に移る慎重派である。

「もう少し、奥に進もう。このまま少しずつ迷宮区までゆっくり進めば時間まで逃げ切れる・・・と思うんだけど。」

周囲にプレイヤーがいないことを確認し、少し歩みを進めた。

『まてよ? 念には念のためにこの隣にある森ダンジョンのほうに潜っておこうかな。この先の出口。迷宮区方面は検問状態になってる可能性がある。だったら、別方向の出口を通って遠回りに行けばもう少し楽に行けるのでは?』

ニヤリと笑い、考えをまとめたハヤマは早速進んでいた方向を一度Uターンし、手前の十字路を北へと進んだ。

『この先は確か荒野フィールド。岩場を抜ければ逃げ場もある。』

頭の中で地図を描きながら進んだハヤマは、北の出口へとたどり着いた。

「誰も・・・いないね。よし・・・!」

木々の陰から身を乗り出し、出口まであと少しというところだった。

「よし! そこまでじゃ!」

「!?」

出口の木々の陰。丁度森のフィールドの境目から小さな影が飛び出てきた。

「シャル・・・!」

ハヤマの頬を嫌な汗が一滴落ちる。

「ちい!」

ハヤマは素早くUターンし、後ろを振り向いた。その先から二人の影が左右の木々から飛び出てきた。

「どこへ向かうつもりですか?」

「サァ! オナワヲチョウダイするのデス!」

ツキミ、アリスが道を塞ぐ。ハヤマは完全に囲まれていた。

「森に入ろうなんぞ思わぬことじゃ。この周囲。死角無きように囲んでおる。諦めるのじゃ!」

「・・・よく、こっちだと分かったね。完全に待ち伏せるとは。」

1層とはいえ、一つの層全てが会場となっているこのイベント。一点集中で待ち伏せをするには少々デカイ賭けとなる。シャルは確実に此処を通ると読んでの作戦だった。

「我を誰だと思っておる。オキ殿やコマチ殿より短い期間とはいえ、ハヤマ殿を選んだのじゃ。愛する者の考えが分からなくてどうする!」

じりじりと近づくシャル。ハヤマは何とか逃げれないかと周囲を見渡し、逃げる算段を考えていた。

『考えろ。どうする。どこかに道は無いか。』

「そんなに・・・ハヤマ殿は、我に捕まるのは嫌か?」

「っぐ・・・。」

シャルの目にはうっすらと涙が浮かべられている。ハヤマはソレをみてその場で固まってしまった。

「いまデス!」

「失礼します。」

後ろからアリスとツキミがハヤマを押し倒し、うつぶせにハヤマを捕まえた。

「っが!? しまった!」

「ふっふっふ。ハヤマ殿! 捕まえたのじゃ!」

腕を後ろ手につかまれ、全く動けないハヤマに対し肩をつかんで高らかにシャルが叫んだ。

「・・・はめられた!」

ハヤマ。女の涙に負け、アークス勢最初の犠牲者となる。

アインスはオキと共に迷宮区のある反対側、東の最果てへと来ていた。

ここは1層の中でも最大のダンジョンであり、大きな山の中にある坑道が迷路となっている。

オキは坑道に入れば北側にある村へと繋がっている為、挟み撃ちにされる可能性が低いと考えた。

迷宮区側に行けば、上から来たプレイヤーに挟み撃ちにされる可能性が高いことから、逆へときたのだ。

「・・・とはいえ。」

「ふむ。思った程ではなかったな。」

アインスとオキは坑道内を歩いていた。だが予想以上にプレイヤーの追っ手が少ない。

ディアベルに確認したところ、かなりの参加者がいるというこのイベント。だがソレにしては追っ手が少なすぎる。

その原因は・・・。

「まぁ仕方ないっしょ。街でミケとシンキが大多数と遊んでるらしいし。」

そう。未だに半数以上のプレイヤー(主に男性)がシンキとミケを追っている。

シンキは捕まるか捕まらないかのギリギリのラインで男達を手の上で転がし、ミケは追っ手の中に一緒に混ざっていたり、煽ったり、果てには屋根の上で昼寝までしている姿が目撃された為、屋根に上ったは良いがソコには既に起き上がって待っているミケが。

という具合に二人して暴れまわっているおかげで街中は大混乱しているとか。

「ふむ・・・。」

アインスが小さく笑う。

「相変わらずというか、破天荒な奴らだと改めて思うわ。」

「いたぞ!」

「イレギュラーズだ!」

「たいちょーみっけ!」

「たいちょー!」

プレイヤー達がオキとアインスを見つけた。中にはソウジをはじめとする怪物兵団のメンバーもそろっていた。

「見つかってしまったね。」

「だーな。」

オキトアインスは顔を見合わせて、T字路を左右に分かれた。

コマチはフラフラとしながら南側にある村の中にある教会の鐘の真下で息を潜めていた。逃走経路も確認済みである。

街中を参加プレイヤー達が探し回っているが、この教会の鐘のある塔へと上るには中からではなく、外の別の扉から入る必要があるために、見つけづらいというのもある。

「ふぁーあ。なーんか暇だな。」

下をちらりと覗いた。プレイヤー達が街中を動き回っているのが見える。

「・・・ん?」

ふと目をずらした先に見えた一人の女性が目に入った。

「フィーアか?」

そしてキョロキョロと見渡した彼女がこちらをみた。

「・・・やば。」

「コマチ! 見つけたわ!」

にこやかな笑顔で叫んだ。その拍子に周囲のプレイヤー達がこちらを見て教会へと殺到してくる。

「フィーアめ・・・。」

苦笑いしながら、屋根の上を滑り落ちカランカランと音を立てながら瓦屋根の上を走った。

「くそ・・・。」

「どこいきやがった。」

はじまりの街内部。ミケとシンキにより大混乱となった街中だが、二人にいい様に遊ばれるプレイヤー達だが、それでも本気で怒る者はいなかった。むしろなんだかんだで楽しんでいるものが大半だった。

「だめね。ぜんぜんだめね!」

「ミケさんはそれじゃ捕まらないのです。」

双子の少女が肩を揺らし、休んでいるプレイヤー達に近づいてきた。

「譲ちゃん達はたしか・・・。」

「オラクル騎士団の双子姉妹?」

ハナとヒナは大きな袋を担いでいた。

「お嬢ちゃんたち、それは?」

「ミケはね、追いかけても逃げる上に足が速いわ。でも追いかけないと…。」

「自分で戻ってくるのです。」

その場に大量の食料を並べだした。

「まさかそれで釣る気か!?」

「まさかぁそんなもので釣れるとは…。」

「クンクン…いい匂いがするのだ!」

「「「!?」」」

フードをかぶった小さな姿が屋根の上から降ってきた。ミケがその場に現れたのだ。

「ミケ!」

「覚悟するので…え?」

ハナとヒナが左右から捕まえようとした瞬間、ミケの姿はいなくなっていた。

その上、一瞬のうちに大量の食料もなくなっていた。

「お、おい。ここにあった食料は?」

「あっちだ!」

一人の男が指さした方向をみるとミケがすでに屋根の上に上り、大量の食料を詰めた袋を担いで走り去っていた。

「あーもう! また失敗しちゃった!」

「おいかけるのです!」

双子姉妹は諦めずに追跡を再開。それをボーゼンと見ていたプレイヤーたちは顔を見合わせ頷き合い、少しだけ笑いながらミケの後を追いかけた。

ミケの暴れっぷりは本当にひどかった。ハナとヒナが用意した食料はすぐに食い尽くし、挙句の果てには休憩していたプレイヤーの手から食料を掻っ攫い、追いかけていたと思えば一緒に走っており、あちこちでミケの犠牲者の悲鳴が上がっていた。

シンキも同様に街中をうまく逃げ回っていた。壁を伝い、屋根へとのぼり、ミケにも勝らぬとも劣らぬすばしっこさを見せ付けた。

 

 

ハヤマ以外のイレギュラーズは夜まで逃げおおせた。暗くなればなるほど、余計にオキ達の場所は分からなくなっていった。

フィールドを探していたプレイヤー達はあちこちを探したが見つからない。

見つかるはずがない。オキとアインスは坑道を後にして再び街へと戻ってきた。理由は『追いかけてくるメンバーが思った以上に少なくて面白くない』ということだった。

「ではオキ君私はこちらから入り込む。最後まで捕まらないことを祈るよ。」

アインスと街の入口を様子みていたオキは頷き、アインスと反対方向へと向かおうとした時だった。

「あら? オキちゃんに隊長ちゃんじゃない。」

上から聴き慣れた声が聞こえ、二人は足を止めた。

「シンキ?」

「よっと…。ふぅ。二人共どこいってたの? 街中は私とミケちゃんしかいなくてみーんな追いかけてくるんだもん。」

シンキは呆れた顔で二人を見た。

「なはは。外に逃げたはいいけど…。」

「あまり追ってが少なくてね。予想以上にそちらに持って行かれたようで。」

「まぁねー。」

シンキは再び、街の外壁へと飛び移った。

「それじゃあ二人共。最後までがんばってね。」

シンキが外壁を伝って走り出した。塀の向こう側からは多数の声が聞こえてくる。シンキを見つけたからだろう。

オキとアインスはニヤリと笑い合い、拳同士を突きあって双方街中へと突撃した。

 

 

 

「おい! オキさんに、隊長さんも帰ってきたらしいぞ!」

「マジかよ! あの人ら、逃げたんじゃなくてかえってきちゃたの!?」

「完全になめられてるぜ。俺たち。」

「まぁ相手があいてだしねー。」

「でもなめられっぱなしってのもなんか癪だな。」

「おーい! コマチさんも街に帰ってきたってよ。これでイレギュラーズ全員そろったぜ。」

プレイヤー達は情報を伝え合い、ひとつのことを目的に一体となって動いていた。

『イレギュラーズを捕まえろ』

ただの鬼ごっこ。だが、されど鬼ごっこ。ここまで負けっぱなしなのも面白くないとプレイヤーたちは最後まで諦めなかった。

 

 

 

オキは街の入り口付近でミケが暴れまわっていることを外壁の上から降りてきたシンキから伝えられ三人は散開。

そこへコマチも合流し、街は今までで最もにぎわった。

ランプのついた街中はたくさんのプレイヤーの叫び声が響いていた。

「そっちいったぞ!」

「だー! 行き止まりだ!」

「おいかけろー!」

「俺の肉もってかれたー!」

「逃がさないわ!」

「まてー!」

数々の声と悲鳴歓声。アークス達の逃走劇も後少し。制限時間は1時間を切っていた。

路地裏を進んでいたオキはその先にある大通りをどうやって進もうかと悩んでいた。

「さーてどうすっかな。隠れそうな場所はあまり無いし・・・後ろからも来たか。」

今進んできた道の後方に人の気配がした。このままでは挟み撃ちだ。

「くそ・・・。此処まで来て捕まるとかごめんだな。」

後方の人物はまだ遠い。大通りは人が多い。ならば考えるは一つ。

「強行突破。」

オキは来た道を走った。

「見つけたぞ! オキさん!」

追ってきていたのはキリトとアスナ、そしてユイとストレアだった。

「やっべ。こいつら相手かよ!」

オキはブレーキをかけ、走ってきた道を戻る。

「追いかけるわよ!」

「ふふふ。楽しいですね!」

「そうね。捕まえるわ!」

家族総出の追いかけっこ。オキには勘弁願いたいメンツだった。

「勘弁してくれよ! さすがにプレイヤートップクラスのお前らと真正面きってやりあうつもりねーわ。」

大通りへと出たオキはポケットから出したあるアイテムを取り出す。

「いたぞ!」

「あ、リーダーさんだ!」

「つかまえろー!」

大通りにいたプレイヤー達はオキの存在に気づき、こちらへと迫ってくる。

「ごめんよ! キリトー! ユイちゃん目隠し!」

「!?」

オキがグラサンを取り出し素早くかけ、手を高らかに振り上げた。その手に持っているものと、叫んだ言葉を理解したキリトはすぐさまユイを覆った。

「え!?」

「どおりゃ!」

パン!

「きゃあ!」

「うおぉ!?」

暗い空まで一瞬で輝き、街の一角がまるで昼のように輝いた。

「閃光玉!?」

腕で顔を覆い、光が収まるのを待ったアスナ。キリトはユイをかばっている。

「おまけだ!」

ボン!

その場に今度は低い小さな爆発音と同時に大量の煙が立ち込めた。

「今度はケムリ玉か!」

「はっはっは! にげるんじゃよー!」

「オキさん! くっそ!」

目をまともに開けられるキリトはケムリを腕で払いながらオキを探したが既に遅し。オキは別の路地へと走って逃げていた。

ケムリが晴れるとその場にいたプレイヤー達やキリトたちが呆然と立っていた。

「してやられたわね。」

「さすがというか、なんというか。」

呆れるキリトとアスナ。だが、ユイは楽しそうだ。

「すごくワクワクしました! パパ、ママ。まだ、諦めませんよ!」

「そうね。おねえちゃんの言うとおり。私もまだ追いかけれるわ。どうする?」

娘達の言葉にキリトとアスナは笑顔になってうなずき合った。

路地を進むオキは何とか逃げ切れたことを確認し、一息つこうとその場に立ち止まった。

「ふう。危ない危ない。まさかこんなところでアルベリヒ対策のアイテムが役に立つとは思ってなかったぜ。」

今もどこかに潜んでいるだろうアルベリヒを見つけ次第捕まえる為に、数々のアイテムを常に用意していた。

閃光玉もケムリ玉も怯んだところを押さえ込む為のものだった。まさか自分が逃げる為に使うとは手に入れたときは思わなかった。

「まぁあと少しだし。これで何とか逃げ切れ・・・まじ?」

目の前に光る一個の印。それはある人物がどこにいるかを示す役割を持っている。

「こっちに近づいてる? まずいな。近づいていることに気づいたか?」

来た道を戻れば途中の分かれ道を使って別の道に行くことが出来る。

逃げることは可能だ。

『・・・だがなぜだ。朝から追ってくるそぶりすら見せなかった。このタイミングを見計らったような。』

オキが反対を振り向いて進もうとしたときだ。

「どこへ行くの?」

「そうあせらなくても良いんじゃない?」

目の前に紫色の大きな帽子、同じ色合いの服を着た少女と、蒼色の軽装、オレンジ色の髪を持った少女が現れた。

「…ハシーシュ。フィリア・・・。」

「そうですよオキさん。どこにいこうというのですか?」

「きゅる!」

後ろからは小さな竜使い。そして自分の大事な奥さん。シリカが現れた。

先ほどから見えていた印はシリカを示していた。

「・・・一つ聞いていいか?」

「なんですか?」

オキが一本のタバコに火をつけた。

「なぜ朝から追ってこなかった。シリカなら俺がどこにいるか一目瞭然だろ。俺も一緒だがな。」

シリカはニコリと微笑んだ。

「はい。知ってます。だから追いかけなかったんですよ。追いかけてもオキさんには追いつかないのは分かっていました。捕まえるにはオキさんですら思いつかない何かを考えなければと。」

「私も、考えた。オキは、戦うだけじゃなく、大多数から逃げることも、簡単にやってのけると。」

シリカ、ハシーシュ、フィリアは考えた。いくら場所が分かったって、捕まえれなければ意味が無い。がむしゃらに追いかけたところで時間いっぱいまで逃げられるのがおちだ。ならば裏をかくしかない。

「オキさんなら必ずここに戻ってくると思っていました。」

フィリア、ハシーシュが少しずつ距離を縮めてくる。じりじりと狭くなっていく。

「そして、必ず人が多い所に出てくると思った。」

アインスは囲まれれば真正面から突っ込むだろう。コマチはそもそも人の多いところを進まない。ミケとシンキは追いつかれそうで追いつかれない距離を保っていた。だから先ほどの閃光とけむりがオキだと分かった。

「一度一つのことに集中すると周りが見えなくなる癖があります。」

「それを狙ったの。」

「まーじか。」

名推理だ。確かにそのとおりだ。先ほどの大通りから逃げてくる最中、シリカの印を完全に見逃していた。だから気づかなかった。

チラリと側面を見る。場所も狙われたようだ。大きな建屋の壁があり、ジャンプしても届かない高さに建物の窓と飛び出た柱が見えるだけ。

「ここではミケさんやシンキさんのようには行きませんよ!」

「覚悟!」

シリカとハシーシュ、フィリアが素早く近寄ってくる。此処で捕まえるつもりだ。

だが、オキはニヤリと笑った。

「え?」

「ならば知ってるはずだ。俺が、負けず嫌いだっていう事も!」

オキは上へと両腕を伸ばした。ソコから伸びた二本のワイヤーは建物の飛び出た柱に巻きつき、ソレを手繰り空中へと飛んだ。

「っな!?」

「そんな!?」

オキが柱の上へと立ち、にやりと笑う。そして町の中央から花火が撃ちあがった。鬼ごっこ終了の合図だ。

「終わったか。いやー冷や汗かいたぜ。」

下を見ると座り込んでいる三人がいた。

「やっぱりダメでした・・・。」

「あと少しだったのに。」

「あー! くやしー!」

悔しそうな言葉を言っているが、それでも三人は笑顔だった。

「けっかはっぴょー!」

キバオウの大きな声が中央広場に響き渡り、暗い夜空に鳥の羽ばたく音が聞こえた。

広場では多くのプレイヤー達が疲れた顔をしつつも、楽しんだ感想を、追い詰めて逃げられた状況を、自分の昼ごはんが取られたことを楽しげに語っていた。

結局、イレギュラーズのメンバーで捕まったのはハヤマだけ。その結果、ハヤマはシャル、ツキミ、アリスの3人の命令を聞くことに。

逃げおおせた残りのメンバーはプレイヤー勢から好きなメンバーに好きな命令が出来るということでオキはシリカ、ハシーシュ、フィリアを選んだ。命令の内容については後日お願いすることに。

ミケはハナとヒナ。シンキはリーファとシノンを。コマチ、アインスは暫く考えるそうだ。

「だー。まさか捕まるなんてー。」

一人駄々をこねているハヤマ。

「それじゃあハヤマん。シャルとツキミとのデート、楽しんでね。二人の命令は絶対だからな」

ニヤケながらオキがハヤマへといった。

「わかってるよ! ソレくらい! ・・・で、なんでオキさんがデートって決めてんだよ。」

「既にシャルはそのつもりだぞ。いろいろ考えた結果そうなった。デートプランは俺監修だ。楽しみにしとけ。」

『なんだ? あまりにも手際がよすぎる。まるではじめからその予定だったかのような・・・。』

ハヤマはその時気づいた。

「まさかはじめからこのつもりで!?」

「その通り!」

「exactly。」

「ハヤマは鈍感なのだなー。」

「楽しんでくるといいハヤマ君。」

「なんでさーーーー!」

周りからにやけた顔を見せ付けられ、祭りの夜空へとハヤマは叫んだ。

 




皆様ごきげんよう。
先週も失礼しました。最近の忙しさは本当におかしいぞ?
そして同じ事を前回も言った気がするぞ!
今回の鬼ごっこネタはミケからいただきました。
丁度幕間が欲しくてネタを頂きました。尚、各位の動き方に関しては出来るだけ忠実に描きました。
彼らなら間違いなく今回のように動くことでしょう。
次回は久しぶりのアークスシップを描こうと思います。


さてPSO2ではオーディンに強化版ダブルと深遠の闇。
オーディンは予想より強くありませんでした。ソロでやるには楽しい相手ですね。
問題は道中がめんどくさい。硬い、痛いと下手なメンバーがノラでそろうとかなり時間かかりますね。
あまりプレイできてませんし、そろそろ落ち着きそうなのでアウラシリーズを取りに行かないとです。
では次回に又お会いいたしましょう。

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