SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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遺跡の最深部かと思っていた場所は単なるリリーパ族の集落だった。
リリーパ族のお願いから更に奥へと向かったオキとハシーシュ。


第58話 「煌き貫く神の槍」

「天然の洞窟に・・・変わった。」

「ああ。さっきみたいな作られた場所じゃない。」

周囲の壁を松明で照らす。遺跡の壁はなくなり、ごつごつした岩肌が広がっていた。

「・・・何かいるなぁ。」

オキが奥を睨む。その言葉にハシーシュが足を止めた。

「奥? この先?」

オキの目の前に赤いアイコンが点滅している。索敵スキルのアイコンだ。危険度合いが大きいほど、白から赤へと変わっていく。今は真っ赤だ。

「何かいる。ハシーシュ。すまん。ダガーを教えるといったが、あれは嘘になりそうだ。本気で戦わないといけない相手かもしれん。」

オキは索敵スキルが強敵を示していることを、そしてその敵と戦うにはダガーでは戦えないことを話した。

「問題ない。それだけ相手が強いという事なら。」

ハシーシュもソレを了解してくれた。オキは少しずつ、奥へと進む。エネミーの姿は見えない。雑魚すらも。

「広い場所に出るな…。」

「うん。…オキ! あれ!」

洞窟の狭い通路から広い場所へと出た。その先は光が地表から降り注ぎ、周囲が明るく照らされている。そしてその広場の真ん中にいる巨大な影がゆっくりとこちらへと向いた。

『『オオオオォォォォン!』』

巨大な咆哮がオキ達の体をビリビリと響かせる。

「なるほど。こりゃやばそうだ。ハシーシュじゃちときついかもな。」

巨大な体躯。白い毛の大人狼。異様なのは首が二つ、腕も4本もあること。ボスクラスエネミー、二面四腕の大人狼『シルバー・ファング・ウルフ』はオキ達を睨みつけもう一度吼えた。

『『オオオオオオオオ!!』』

「っく。」

ハシーシュはその咆哮にたじろぐ。その隣では口元を歪ませ笑っているオキがいた。

「面白そうなのがいるじゃん。少しは…楽しませてくれ…っよ!」

オキは槍を担ぎ上げ、素早くボスに近寄って飛び上がりから真下へと槍を突いた。

ズン!

「…へぇ。これはいい反応だ。」

『『グルルル・・・。』』

オキの槍を避けたボスは、飛び退いた場所から勢いをそのまま反転させ、オキへと腕を振り下ろした。

ガキン!

「くぅ・・・!? 2本同時の攻撃と・・・!」

ズン!

「更に往復かい! おらぁ!」

ボスはオキの見立てでファルス・ヒューナルぐらいの大きさだと見込んだ。その巨体から、しかも二本同時の腕がオキへと振り下ろされた。何とかそれを防御したが反対側から、もう2本の腕が振られてくる。それを後ろに下がりこみ、地面へ腕を突っ込んだボスへ槍を突き刺した。

『『グゥゥゥ!?』』

3発の突き。その攻撃はボスをオキから離れさせた。小さな3発だが、オキにとってはソレが攻撃の通る相手だと結論付けさせる大きな3発だった。

「攻撃は通ったな。小さいながらもダメも入った。なら・・・倒せる!!」

ヒュンヒュンと槍を振り回し、再度ボスへと向けた。

「オキ。」

ハシーシュが心配そうにこちらへと近寄ってきた。

「ヘイトは俺が取り続ける。あいつが怯んだところを横っ腹からダガーで切り刻んでやれ。無理な突撃だけは絶対するな。あの素早さ。俺でもきつい。」

「わかった。」

ハシーシュも自らの持つダガーをゆっくりと構え、オキの後方へと下がった。

『『グルルル・・・。』』

少し離れた場所でゆっくりと歩きながらこちらの様子を見ているボス。

先ほどの攻撃だけで削れたHPの量を確認した。ゲージバーは2本。それでいてたった3発で削れた部分。防御力は思った以上にないだろう。逆にスピードとパワーを備えている。充分に注意する必要がある。

「…。」

槍を前に構え、いつ相手が動いてもいいように待つオキ。

『『グゥゥゥア!!』』

低い体勢から右腕二本を振り上げ、こちらへと突進してきた。それを横に避けて側面から槍を突き刺す。

「ほいさっさっと!」

『『グァァァァ!?』』

脇腹、太もも、足と3箇所を一気に攻撃した。その為怯んだボスは膝から崩れる。

「今だ! ハシーシュ!」

「了解!」

ハシーシュの5連撃SSがボスの側面に喰らいつく。

『『オオオオォォォ!!!』』

ボスが雄叫びを上げる。ハシーシュの攻撃に反応したのだ。

「バカわんこめ。こっちだアホ!」

オキがウォークライを発動する。ハシーシュを見ていたボスがオキに向きなおした。

オキは槍を高く上へと投げる。それと同時にオキはボスへと走り出した。

大きく振り上げた二本腕を思い切り振り下げるが、振り下げた場所にはすでにオキはいない。

『『グゥゥゥ?』』

「どこ見てる。うすのろ!」

オキがいたのはボスの左後ろ。そこで上に投げた槍にワイヤーを絡めて真下へと思い切り引っ張った。

『『グゥ!?』』

それを払い除けたボスだが、オキから目を一瞬だけ離す。それだけでオキは十分だった。払いのけられた槍をワイヤーで素早く回収。そして至近距離まで近づいたオキはボスの腹めがけて槍を、体を回転させながら舞うように攻撃した。

「おらおらおらおら!」

『『グゥゥアアアア!?』』

腹の思いきり切られ、突かれボスのHPゲージはみるみる減ってった。

挙句、滅多切りされたボスはその場に倒れてしまった。

「チャーンス。おらよ!」

槍の奥義『ディメンション・スタンピード』が放たれた。

「ハシーシュ!」

「了解。」

後方で構えていたハシーシュも自分のもつ最大火力のSS『アクセル・レイド』を直後に放った。

『『グアァァァァ!?』』

2つのSSが連撃となり更に弱点部位に放たれたためHPは一気になくなった。

 

パキィィン

 

怯んだ姿のまま結晶化し、砕け散っていったボス。

「ふう・・・。」

強敵を難なく倒せたことに安堵するハシーシュ。オキも一服しようとタバコを出した時だった。

「索敵スキルがまだ反応している? ハシーシュ! 上だ!」

「え?」

 

ズズン!

 

『グォォォォォ!!!』

毛むくじゃらの大きな体。背中にしょった巨大な機械の筒。その中に入った金属のパーツ類。

「バルバ…リリーパ。」

『ゴォォォォ!!!』

「キャァ!?」

「ハシーシュ!」

ハシーシュの真後ろに降り立ったバルバ・リリーパは逃げそこねたハシーシュを掴み、太い両腕で小さな彼女の体を締め付け始めた。

「ああ…ああ…。」

苦しそうにもがくハシーシュ。オキがそれをみてバルバ・リリーパへ走ろうとした時だった。

 

ズズン…ズズン!

 

『ゴォォォォ!』

『グォォォォ!』

「更に増えただと!? クソ! こんな時に…。聞いてねーぞ!」

更に上から二匹のバルバ・リリーパが降りてきた。ハシーシュのHPはまだあるが、このままではなくなってしまう。

「ちぃ…仕方ない。熟練度まだ低いけど、一気に片すにはこいつしか…!?」

『グォォォ!』

後から降りてきたバルバ・リリーパの一匹がこちらへと攻撃を仕掛けてきた。

 

ズズン!

 

「おいおい。さっきのワンコより音がでかいんじゃないのか…? ハシーシュ! もう少し待ってくれ!」

「う…ん…。」

小さく頷いたハシーシュはなんとか逃れようともがいているが、強力な握力で掴まれているためそれができそうにない。

「もう少し…まだまだ。」

オキはバルバ・リリーパ2匹の動きを槍を構えたまま左右に移動していた。

後から降りてきた2匹がオキの目線上で直線に重なる。そしてその直線の先にいるのはハシーシュを掴んでいるバルバ・リリーパ。

「ここだぁぁぁぁ! 貫けやぁぁぁ!」

オキの槍『神槍グングニル』が強く光りだす。

 

ギシリ…

 

中腰で強く構えた槍が一気に前へと突き出された。

 

ゴォォォォ!!

 

『『『!?』』』

バルバ・リリーパの体を貫き、その後ろにいたバルバ・リリーパさえも貫いたオキの放った槍の衝撃波はハシーシュを掴んだバルバ・リリーパまで貫いた。

 

ズズズン

 

同時に3体のバルバ・リリーパが地面に突っ伏した。

「っきゃ!? ケホッケホ…。」

「大丈夫か!? ハシーシュ! ほれ、ポーションだ。飲め。」

「あり・・・がと。」

咳き込みながらなんとかポーションを飲んだハシーシュをみてホッとするオキ。周囲をみると小さくなりキョロキョロと見渡すリリーパ族の姿が見れた。

「HPが少なくてよかったぜ。なんとか一撃で吹き飛ばせたか。」

「さっきの…は。槍のスキル…じゃない?」

「ん? ああ。これか。」

オキは槍をハシーシュに見せた。今までにないソードスキル。誰だって驚くだろう。

周囲の状況を確認し、先ほどの『シルバー・ファング・ウルフ』から『白狼の魂』という宝玉を手に入れたハシーシュと共に、洞窟の先に新たな神殿を見つけた。そこまで向かったオキはゆっくりと歩く途中でそのスキルの説明をハシーシュに行った。

「うちのメンバーがユニークスキル持ち多いのは結構有名だから知ってるよね。」

コクリと頷くハシーシュ。

「10あるうちの半数以上。『二刀流』から『フリーダム』、『バーサーカー』に『抜刀術』。『月光剣』に『神速』。ああ、月光剣は隊長が持ってるからウチのじゃねーな。そして俺たちが目指している先にいる茅場…いや、ヒースクリフが持っている『神聖剣』。わかっているユニークスキルは7個。そして初お見え、8個目のユニークスキルが俺の持つ『神槍』だ。」

その名の通り槍に関するユニークスキル。本来SAOの武器は武器の刀身の距離、つまり至近距離でしか攻撃ができない。だが、このユニークスキルは突いた衝撃を遠くへ飛ばすことができる。

「とはいえ、せいぜい数メートル位が限度だけど、それでも相手を貫き、貫通してその後ろにいる相手まで攻撃ができるのはユニークスキルらしいね。」

「そんなものを持ってたんだ。」

神殿は小さく部屋が少し、エネミーもいない事を確認したオキはその中に宝玉を設置する場を見つけた。

「このユニークスキルはただの槍では使えない。いまのところ確認できているのはこのグングニルと、もうひとつの魔槍『ゲイボルグ』だけ。熟練度もまだ低いからあまり実戦では使いたくなかったんだけど、とはいえ威力はかなりのものだ。先ほど放ったのはそのスキルの一つ『煌』…っと。これで終わりかな?」

「うん。クエスト、クリアできた。」

小さく微笑むハシーシュ。それをみてオキも安心し、ようやく一服ができた。

「ふぅ…。おつかれさん。少し休んだら帰るか。面白そうなアイテムもなさそうだし。報酬は、経験値か?」

「うん…。その代わり、コルで…。」

「いらん。こっちは懐かしいもん見ること出来たし、なにより面白かった。」

リリーパ族がちょこちょこと歩いていく姿をみて、煙を吐いた。

「でも…。それに、『また』助けられた。」

「また…?」

話を聞くと、序盤の層。通りすがりのオキがハシーシュを助けたらしい。しかもその時の状況がHPを殆ど削られ危険な状態だったという。

「何層だ?」

「7層。迷宮区の3階。周囲のエネミーは…。」

「あー! 思い出した! たしかあの時、ハヤマン、こまっちーと狩り競争やってた時だ。たしか、負けるとメンドくさい罰ゲームを自分で言っといて自分が受けそうだったから焦っていたんだっけか。そういや助けたな。」

その言葉に目をぱちくりと見開くハシーシュ。

「いやー。結局負けちまってさぁー。はずかしかったわー。」

結局勝負に負けたオキは当時、クラインに教えてもらったとある地域の伝統ある踊り、名を『あんこう踊り』。それを祝勝会で踊る羽目になった。

なかなかネタになる内容だったので面白がって罰ゲームにしたら自分で踊る羽目になったのだ。

「ピンクタイツで踊れとかまじでネタになるわ。二度とやらんぞ。」

「ふふ…ふふふふ。」

「笑うなよハシーシュ。」

 

 

ギルド拠点へ帰還したオキ達。そしてその数日後にギルドへと加入することとなったハシーシュを迎えた。

シリカを紹介した際に、何かを二人は察した。それにオキは気づくのはずっと後のお話。

 




皆様ごきげんよう。
いやー今週も時間ギリギリ。仕事の忙しさが厳しいー!
体を分けたいです。
今回からハシーシュがギルドに参加です。可愛らしいシリカと反面、落ち着き静かな彼女。私のホロウフラグメントでは1,2を争うレベル帯でした。
そしてさらりとガルパンネタ。ガルパン劇場版の円盤発売と興行収入21億超え!
円盤は速攻で手に入れました。毎日パンツァー・フォーです。
PSO2では大和戦が相変わらず人気を誇ってますね。☆13も着々と手に入っておいしい緊急です。なにより固定でPTメンバーのバランス考えなくて済むのが一番いいですね!
終焉だとバランスの分け方を間違えるとちょっと面倒なことになったり。
ではこの辺で、また次回お会いしましょう。

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