時間は、オキが温泉の情報を得る前、キリトと一人の女性が一緒に歩いている所を目撃したときに遡る。
「あいつ、何やってんだろ。つか、アレ誰だ。」
キリトは顔も性格もいいため、女性に人気が高い。特に中層で主に活動する小中規模のギルドには『ラフコフ騒動』のときに活躍してもらった関係でファンが多い。
その代表例として罠にかかっていたところを助け、今では中層のギルドをまとめて世話してもらっている『闇夜の黒猫団』や、最近上層部にも顔を出してきた女性のみのギルド『ホワイトラビット』。他にもソロで活動している女性プレイヤーはクエスト攻略のヘルプを依頼してくる際にまずキリトを指名してくるのが大半だ。
たまにオキをはじめとするイレギュラーズことアークスメンバーにも声が掛かるが、それの総数を比較してもキリトのほうが多い。
「ファンか何かだろうか。にしてはかなりスキンシップが激しい子だな。キリトも嫌がってそうで嫌がってないし。」
建物の角から覗き、その様子を探るオキ。
「もう少し近くで見たいネ。」
「そうだな・・・。アルゴ姉?」
気が付くとすぐ近くで同じようにキリトを見ているアルゴがいた。
「ふふん。面白いモノを見つけたネ。どうすル? リーダーさん?」
「どんな話をしているか近くで見たい。気配遮断スキル全開で近寄るぞ。」
「アイアイサー。」
オキとアルゴは大きなフードを被り、普段の格好から地味なマントを羽織ってキリト達へ徐々に徐々にと近づいていった。
「ねぇキリトー! 楽しみだねー! 私辛い料理大好きなんだー!」
「おい、ストレア、あまり引っ張るなよ。」
ストレア。確かにそう聞こえた。オキとアルゴは更に距離を縮める。二人が向かった先はテラスがあるレストラン。二人が座った席の少し離れてかつ、会話の聞こえる場所を選んだ。出来るだけ二人の視線に入らない場所だ。気配遮断スキルも使っている。気づかれる心配は無いだろう。
「しかし、二人きりで飯とは。デートか?」
「フム。これは面白い情報だネ。」
こちらも何かを頼んでいないと怪しまれる。念のために適当な料理を頼んでおいた。キリト、そしてストレアと呼ばれる女性はどうやらここの料理が目的で来たらしい。
「お待たせしました。」
「はぁー! キター!」
「おお。これは・・・。」
キリトにストレアは目を輝かせている。
「一体どんな料理を・・・? アルゴ姉、見える?」
「ドレドレ…。ゲ・・・。」
遠見のスキルを持っているアルゴはソレを見た瞬間固まった。オキは何を見たのかと首をかしげる。
「いいかイ? 真っ赤に煮え立った…スープダ。あんな色、見たことナイ。」
「まじかい・・・。そういやキリトは辛いの大好きだったな。」
なるほど。確かにそれなら食べれる人と一緒に出かけるなら分かる。会話を聞いていてもただの仲良しにしか見えない。
「フム・・・。これ以上は面白そうなモノはなさそうネ。」
期待はずれのようにため息をつくアルゴ。
「面白い展開でもあるかと思ったが、こりゃただの飯食い仲間だな。」
オキは立ち上がり、キリトのほうを向いた。
「種明かシ、スル?」
「ああ。」
オキはフードをとり、キリトへと近づいた。
*****
その後、オキはキリトからストレアが、キリトの索敵に引っかからずに後をつけられたこと。
彼女が何度か会ってきたこと。特に何かあるわけではないことを話し、オキもストレアと話をして問題が無いことを確認した。
その話をした次の日。
「ってわけで、彼女がストレア。」
「こんにちは!」
実際に全員に会わせた。にこやかに挨拶するストレア。話をしていくうちにストレアが特に問題ないプレイヤーだと皆が思ったときだった。
アスナも警戒を解いて、娘であるユイを紹介していたときだ。
「この子がユイちゃん。私と、キリト君の娘だよ。」
「ほら、ユイ挨拶して。」
アスナとキリトがにこやかにユイをストレアの前に出した。
「ユイって言いま・・・。」
途中でユイが固まってしまった。ストレアの目をじっと見ている。
「どうしたの? ユイちゃん?」
「ユイ? ストレアも?」
ストレアもユイの目をじっと見ている。
「ユ・・・イ・・・。」
ストレアがゆっくりとユイの名前を呼ぶ。そして。
「お・・・ね・・・え・・・ちゃん・・・。」
そう呟くとパタリと倒れてしまった。
「ストレア!?」
一番近くにいたキリトが彼女の体を支えるが、意識がなくなっているようだ。
「下手に動かすな! ハヤマン! 救護室から布団! 水も用意しとけ!」
オキは指示を行い、ハヤマがすぐさま持ってきた布団に倒れたストレアをゆっくりと寝かせた。
「なにがどうなってやがる。」
ため息をつくオキ。
「ユイ・・・。パパとママ達に、説明できる?」
「はいです。」
ユイは力強く頷いた。どうやら何かを知っているらしい。
「僕もその説明、させてもらうよ。」
「うわぁ!? シャオ? いきなり出てくるなよ。」
光る体がオキの目の前にあらわれた。シャオだ。どうやら彼もストレアの事をなにかつかんでいるらしい。
「ストレアさんは・・・私の、妹に当たる存在です。」
「「「!?」」」
その場にいた者たちが驚いた。
「つまり、MH・・・なんちゃらってやつか?」
オキの言葉にユイが頷いた。
「MHCP。メンタルヘルスカウセリングプログラム。ユイはその中でも一番最初に作られた。そして彼女と同じ存在はSAO内に何人も存在する。ストレアは、彼女もまたユイと同じMHCPだ。」
シャオがストレアの正体を話す。ソレを聞いてオキは話の全てが頭の中でつながった。
「そうか・・・なるほど。それなら話が全てつながる。」
「オキさん、どういうことですか?」
隣にいたシリカが心配そうにオキの顔を覗いてきた。
「ストレアがMHCPだというのであれば、彼女が出てきた理由も、憶測ではあるがユイちゃんと同じくエラーの蓄積。そしてキリトに会ったのも同じ理由だろう。」
ユイはアインクラッドで最も幸せを感じていたキリト、アスナの前に現れた。今回も同じ理由でエラーを吐き出していたならば、ストレアも同じ現象が起きていたと推測される。
「ユイを通して彼女を感じとった。間違いない。」
「ん・・・。」
暫くして目を覚ましたストレア。
「ストレア。大丈夫か?」
キリトが心配そうな顔でストレアを見る。
「うん・・・。ごめんね。心配かけちゃった?」
「ストレア、自分のことが分かるか?」
オキがキリトの後ろからしゃべった。周囲のメンバーも心配そうに見ている顔をストレアは見渡してコクリとうなずいた。
「・・・あはは。どうやら私の事、分かってるみたいだね。」
「ああ。隠さなくていい。話してくれ。」
ストレアは自分がMHCP-002という存在であること。そして予想通りエラー蓄積で自我が崩壊しかけていたところ、外に出られたこと。運よく空いていたプレイヤーIDを使用し、プレイヤーになりきって姉であるユイの父となったキリトに近づいたことを話した。
「なるほどな。やっぱりそうか。」
オキの予想は正しかった。
「ばれちゃったし・・・。もういいかな。キリトといろんなところ行って楽しかったし。私は戻るとするわ。」
ストレアが立ち上がろうとしたときにキリトがソレをとめた。
「どこに行くんだ?」
「え?」
ストレアが驚いた顔でキリトを見る。
「その通りだ。別にどこかに行かなくてもいいだろ。ここにいればいい。確か、ユイの妹なんだろ? だったらキリト、アスナ。お前らに頼めるか?」
オキの言いたいことはキリト、アスナは分かっているようだ。力強く頷いた。
「シャオ。ストレアのデータ引継ぎ。可能なコンソールはあるか?」
オキは天井を向いてしゃべる。直後に光り輝くシャオが現れた。
「今、確認してる。・・・ユイにデータを転送した。」
「・・・確認しました。一番安全なコンソールはホロウエリア、中央管理室です。」
「あそこか。」
ホロウエリアの管理室なら問題ないだろう。
「ストレア、といったね。はじめまして。僕はシャオ。」
「ユイの兄貴分だってさ。」
オキがニヤニヤとしながらシャオを見ていると小突かれた。
「シャオさんはアークスの管理者さんなんです。情報をお送りしますね。」
ユイがストレアの手を握る。目を瞑ったストレアは全てを理解したようだ。
「そう・・・そう。そういう事。ユイおねえちゃんのお兄さん・・・なら私のお兄さんでもあるのかしら。」
「んー。そういうことに、なるのかな?」
「妹が二人・・・ねぇ。」
「なに?」
相変わらずにやけているオキに対し、表情は見えないが間違いなくジト目をしているシャオをオキは思い浮かべた。
「いんやぁ。キリト。後は任せた。」
「ああ。人工知能だろうがなんだろうが、意志を持ち、感情を持っているストレアはれっきとした人なんだ。そしてユイの妹であるのであれば、自分の娘同然だ。よろしく頼むよ。ストレア。」
それにアスナも頷く。
「ありがとう・・・。」
涙するストレア。新たな家族が増えました。
*****
ストレアが新たな家族として、新たなるギルドメンバーとしてなってから数日後。
買い物から帰ってきたオキはギルドホームロビーにてタケヤから呼び止められた。
「あ、オキさーん。ちょっといいっすかー?」
「んー? どうしたー? おろ? 客かい?」
タケヤのそばには濃い紫色と黒色を主体とした服に同じ色系の大きな帽子を深く被った少女がいた。
「ヘルプの依頼らしいっすけど、シリカさんって今大丈夫っすか?」
「シリカ? あー。今アイツはリズとクエスト行って夜まで帰って来ないぞ。」
「・・・他の人は、いる?」
ボソリと小さな声で聞いてきた少女。タケヤに説明を求めると、ダガーを扱える人で一番の人をお願いしたいようだ。
彼女の名はハシーシュ。ギルドに入らずソロで活動しているダガー使いらしい。
「どうしましょう。今のところ確認できるメンバーだとダガー使いはいないっす。あー。そうなると今すぐ動けるのはオキさんだけっすね。」
「まじかい。今すぐじゃなけりゃ予定調整できるが? 今すぐだと俺になる。どうする?」
じっと見つめられ、その後コクリと頷いたハシーシュは手を出した。握手のようだ。
「ん。あなたで、問題ない。」
「そうかい。ならよろしくだ。オキ、オラクル騎士団のリーダーだ。」
シリカに近い小さな手を握り、握手をした。
「今回の目的は?」
「クエスト。高難易度で、一人じゃきつい。」
79層の拠点。その一角にある喫茶店で今回のクエストの情報をハシーシュから聞いた。
中身はエネミーを倒し、そいつからドロップする宝玉を神殿に収めること。クエストはかなり長く続いており、いくつものクエストをクリアすると開放されていく仕様のものだ。ハシーシュは中層から始まったこのクエストをずっと攻略しているらしく、一つ下の階層で攻略した前クエではギリギリ攻略できたらしい。
この手のクエストは次のクエストの難易度が上がっているパターンが殆どだ。その為今の自分では攻略が不可能だと思ったハシーシュは、よく共にPTを組む別のソロプレイヤーから
「攻略組のギルド連合アーク’sに相談してみては? オススメはオラクル騎士団。もしくは怪物兵団かな?」
と薦められ、ギルドへときたという。
「ダガー使いを選んだ理由は?」
「今後の為、動きを参考にする。」
なるほどとオキは言葉を漏らした。トップクラスのプレイヤーがどのような動きで攻略を行っているのか。その動きをみて参考にしようとした。効率的である。
「しかしそうなるとダガー使いの部分か。シリカかミケでもいれば・・・いや、ミケはダメだ。アイツの動きは独特すぎる。そうなるとやはりシリカのほうが・・・。」
ぶつぶつとオキが一人で考えているとハシーシュはオキの顔を覗いてきた。
「大丈夫。あなたでいい。」
殆ど顔の表情を変えない子だというのが第一印象だったが、その時の顔は少し微笑んでいるように見えた。
79層を突き進むオキとハシーシュ。
「よっ! ほっ!」
普段は使わないダガーを握り、かつての感覚を取り戻そうとするオキ。
「本当に・・・久しぶり、なの?」
エネミーを撃破し、道中を進む中で休憩中に、ハシーシュはオキに質問をしてきた。
「ん? あぁ、ダガーの事か。たまーに使うんだけどね。今じゃ槍ばかり使ってる。」
「それでも・・・わかる。あなた・・・すごい。」
「ははは。ありがとよ。ハシーシュもよく動けてるじゃねーか。それなら参考もいらねーだろ。」
武器自体はギルドの倉庫に放り込まれていたものを使用している。性能的にホロウエリアで拾われたものだろう。ブランクのあるオキには丁度いい強さだ。
「まだ。私は、弱い・・・。」
ハシーシュは大きな帽子に顔をうずめて言った。だが、オキの見立てではかなりの腕を持っている。ソロで高層まで来るだけはあると。
皆様ごきげんよう。
大和戦が始まって1週間ですが、13武器は出ましたか?
コレクトファイルもお忘れなく。
今回は『ホロウフラグメント』のもう一人のキーキャラクターであるストレアの登場とその正体。
そして『ホロウフラグメント』のバージョンアップ時に追加された特殊NPCである一人の『ハシーシュ』登場を描かせてもらいました。
ストレアは本来最上層付近まで上らなければ正体を明かされることはありませんでしたが、ここで明かしておけば以降のストーリーが書きやすくなるのでここで書かせてもらいました。以降はユイと一緒にシャオから教育を受けつつ活躍してもらいます。
ハシーシュはゲーム内でもキリトと同等クラスもしくは上回るステを一部持った最強クラスのフレンドパートナーと呼ばれています。
彼女の雰囲気や容姿がかなり好みであり、私もゲームではずっとPTに入れていました。
さて、次回はハシーシュとの共闘とそろそろストーリーを進めたいと思います。
では次回にまたお会いいたしましょう。