SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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お待たせいたしました! 再開です!


第55話 「ずっとすぐ傍に」

「温泉に関連するクエストの情報があるんだけどナ?」

「貰った。買うわ。」

アルゴからの情報を即答で購入したオキはシリカと共にそのクエストを目指して温泉が沸くという78層を進んだ。

「いやー。敵が柔らかい。超楽だ。」

「本当ですね。この間までホロウエリアにいたからでしょうか。」

ホロウエリアがアインクラッドに比べて高レベルエネミーばかりだったので気が付けば、かなりレベルが上がっており、アインクラッドでは今のところ最前線でも通常攻撃を数回当てればエネミーが死んでしまう強さになっていた。

下手な雑魚エネミーであるならば、こちらのレベルが高すぎてそもそも襲ってこない時もあったりした。

おかげさまで、道中をピクニック気分で進むことが出来た。

「情報によるとこの辺のはずだが。」

今回のクエストは森の中にある小さな川とそのそばにある岩場から温泉が沸いているという話だ。

「先ほどのおじいさんはこの辺だといってましたね。」

「きゅるぅ。」

シリカとピナもキョロキョロと辺りを見回す。マップではセーフティエリアが岩場に半分ほど被っている。

「シリカ。あっち側がセーフティエリアだ。もしかしたらあっち側にある可能性が高い。」

「分かりました! ではあっち側を探しましょう!」

不安定な岩場をピョンピョンジャンプしながら移動するシリカ。その後を追うオキ。

「あまり無理するなよ! 足場、不安定だか…あらぁ?」

「はーいってオキさん!?」

オキがジャンプして降り立った岩の上がツルツルしており、足を滑らせてそのまま真横の川に転落した。

バシャン!

「ぶっは!?」

幸い川は深すぎず、浅すぎず。それでいて流れも穏やかであった為に怪我も無かった。

「大丈夫ですか!?」

「おーう。そんなに深くて助かった。」

ザバザバと川から上がりオキはすぐにアイテム欄からタオルを取り出した。

「へーっくしょい! さみぃ。」

「もう…。ビックリさせないでくださいよー。」

川の水が冷たく、それに追い討ちをかけるかのごとく風も冷たい。

「早く温泉探さないと…風邪引きそうだ。」

「ゲームの中でも病気ってあるんですかね…。あ、あそこ! 湯気出てます!」

シリカが岩と岩の間に出ている湯気を見つけた。二人で顔を見合わせ、その場へ急ぐと半径数メートル程の大きさの天然岩風呂が出来ていた。

「ほう・・・。温度も丁度よし。川の水が時々入って丁度いい温度になっているんだな。これなら入れそうだ。」

「そうですね。あ…えっと、その…。」

シリカが顔を赤らめてもじもじとしだした。オキがそれに気づき、温泉とシリカを見比べ感づいた。

「ああ。そういうことか。シリカ先に入ってな。俺が周囲の警戒してその岩の向こうにいるからさ。」

そういって大きな岩の陰に進もうとしたとき、シリカがオキの服の裾をつかんだ。

「あの! …いえ、一緒に…その・・・。大丈夫・・・ですから…。にごり湯ですし、中に入れば見えないでしょうから。それにオキさんぬれたままじゃ本当に風邪引いちゃいます…。」

「ん…。わかった。向こう向いてるから。入ってきな。」

オキはそういってシリカが自分と反対の方向を向いたのを確認し、素早く服を脱いで温泉へと入った。

「あー…。生き返る~。」

温度はぬるすぎず、少し熱い方。それでいて時々川の水が流れ込んできてひんやりとする感触がまた心地よい。

「入りますね。」

「ああ。」

シリカが小さな水音を立てて入ってきたようだ。反対側を見ているので今シリカがどのような状況なのか見えない。

今までは別々に入っていた。一緒に入るのは今回が初めてだ。

「…。」

「…ふむ。湯加減はどうかな?」

「は、はい! 大丈夫…です。」

「そうか。」

やさしく一声でおわり、オキは周囲の索敵をしつつ天然露天風呂を味わった。

ピタリ

「ん?」

「そそそ・・・そのままで、大丈夫です!」

何かが背中に当たった。振り返ろうとしたらシリカの声が先ほどよりも近く、すぐそばで聞こえた。

背中に当たったのはシリカの背中だ。

『ああ、遠くばかり気にしてて近くを気にしていなかったな。せっかくシリカといるんだ。一緒に、楽しまないと。とはいえコノ感触は・・・。』

背中越しから伝わるのは間違いなくシリカの肌だろう。タオルとか巻いてないのだろうか。つまり今のシリカは?

そう考えると自分の顔が熱くなるのを感じた。

『・・・ま、いっか。』

それと同時に安心感も感じた。暫くこのままでも良いだろう。そう思いシリカに軽く体重をかけてみた。

「・・・!」

ビクリと背中から震えた感触が伝わり、その後に同様に体重をのせてきた。

「なかなかええな。この温泉。」

「・・・はい。」

傍から見れば二人とも顔が真っ赤である。それは湯が熱いからという理由ではない。だが、それでも二人は笑顔だった。

*****

「・・・で? その川のせいでこうなったと?」

次の日の朝。オキの寝室にアークスメンバーが集まっていた。オキは頭に氷の入った袋を乗せてベッドに横たわっている。

「うー・・・しくったぁ・・・。まさかゲーム内でも風邪引くとか。茅場のばかやろぉ~。ここまで再現するなぁ~。」

オキは風邪を引いていた。

「あんたはなにやってんのさぁぁぁ・・・。」

ハヤマから大きなため息と同時に呆れられる。

「いやー。情報あまり無かったからありがたいネ。」

アルゴにも情報を求めてきてもらった。どうやらSAOにも『ウィルス』という風邪のようなバッドステータスがあるらしい。だがそれに発症したプレイヤーが極端に少なく情報があまりないらしい。

「かき集めた情報から、寝ていれば一日で治るらしいヨ。とはいえ・・・そんな状態じゃネ。」

体は重く、頭はぼんやりとする。このような状態では戦いどころか動くことすら厳しい。

「ま、ゆっくり寝ているんだな。」

「なのだなー。コマチに任せるのだー」

「おめーもやるんだよ。」

コマチとミケはそうやり取りしながら部屋を出て行った。

「俺達に任せて今日はゆっくり寝ていてよ。シリカちゃん。オキさんをお願いね。」

「はい。任せてください。」

「それじゃ、オレッチも戻るとするよ。情報ありがとネ。」

ハヤマとアルゴは細かい情報(川に転落して温泉に入った程度だが)を書いた羊皮紙をピラピラとさせながら部屋を出て行った。

部屋にはシリカのみベッドの横にある椅子に座っていた。

「まさか、本当に風邪引くなんてな。」

「そうですね。」

二人で苦笑した。

「オキさん。食事はいりますか?」

「ああ、貰おう。」

「では作ってきますね。ああ、寝ていてください。起き上がらなくて大丈夫ですから。」

起き上がろうとしたところ、シリカに肩をやさしく抑えられた。シリカはそのまま部屋を出て行った。

「ゲーム内でも病気なんてなるんだなぁ。あーでも毒とか麻痺とか考えれば、設定されていればあるのか。…っごほ。」

咳と鼻水も出てきた。

コンコン

扉が鳴る。シリカが食事を持ってきてくれたのだろう。起き上がりどうぞと答えた。

「・・・えっと。お食事を…おお、お持ち・・・。」

扉がゆっくりと開きつつ歯切れの悪い言葉が聞こえてくる。扉が完全に開いたときにシリカのその姿に目を見開いた。

「シリ・・・カ・・・?」

「---っ」

顔を真っ赤にしながらお盆に載せた作り立てのご飯をベッドの横にある机の上においた。

「あの・・・その。せっかくなのでと・・・。シンキさんから・・・メールが・・・。」

もじもじとする恥ずかしそうにフリフリのエプロンを握るシリカ。

「シンキ? あいつか・・・。メールで返事しとくか。」

「その・・・えっと・・・。」

シリカは何かを待っている。その答えは明白だ。あの『ルーサー』でなくても解は出る。

「かわいいよ。シリカ。ありがと。俺のために着てくれたんだろ? 風邪もぶっ飛びそうなくらい元気でそうだわ。」

「あ・・・ありがとう・・・ございm・・・ゴニョゴニョ。」

シリカは以前、シンキに巻き込まれ受けたクエストにて手に入ったメイド服を着ていた。白いフリルのエプロンに黒のベースの長いスカートのついた服。カチューシャもしっかりつけている。

「では・・・その。お食事をどうぞ。・・・ごごご、ご主人さ・・・ま。」

ベッドの横に座り、持ってきたおかゆをスプーンにのせ、こちらに出してきた。

『これは・・・俗に言う「あーん」と言う奴か!? しかも、ご主人様ときた。やばい。いろいろヤバイ。』

元々風邪のせいで頭が朦朧としているにもかかわらず更に追い討ちをかけられ何も考えられないオキ。

「えっと・・・いただきます・・・あむ。あっつ!?」

湯気の出ているお粥だ。そりゃ熱い。

「あわわ!? すみません! お水を・・・!」

受け取り素早く口に含んだ。冷たい水が舌を冷やす。

「いや、気づくべきだった。うん・・・。」

「・・・そうです。えっと・・・ふー。ふー。 はいどうぞ。」

今度はスプーンにのったお粥をシリカが息で冷やしてくれた。

「あ、う。えっと・・・あむ・・・。」

まさかのコンボにオキも一度止まるもそのまま食べる。

「お味は・・・どう、ですか?」

「・・・うまい。」

もくもくと食べるオキの言葉に顔を真っ赤にしたまま笑顔になるシリカ。二人はそのやり取りを続け、襲い朝食をとり終えた。

「ごちそうさま。うまかった。」

「はい。それではごゆっくりお休みください。ご主人様。」

慣れたのか、言葉もはっきりというようになり、楽しんでいるかのように笑顔でスカートを軽く持ち上げお辞儀したシリカは一度部屋を出て行った。

暫くしてアインスが様子を見に来てくれた。

「大丈夫かい? オキ君。ああ、これを。チームメンバーを代表して体によさそうなものを持ってきた。」

少し大きな袋に野菜などが入っている。それをシリカに受け取らせた。

「すまんね隊長。うーむ。問題というならばタバコがすえん位だ。」

先ほど食後の一服をと思い口にしたら、あまりのまずさに一口でやめた。

「ははは。せっかくの機会だ。一日横になってゆっくりしているといい。」

「すまんね。なにかあったら・・・。」

アインスが椅子から立ち上がり、ニコリと微笑んだ。

「なに、その時は我々に任せるといい。シリカ君・・・いや、メイドさんには主をしっかり見てもらおうかな。任せたよ。大事な仕事だ。」

「は、はい!」

アインスのまじめな目にシリカは敬礼で答える。

「アインス君から聞いて様子を見に来た。大丈夫か?」

心配したのか様子を見に来てくれたディアベル。

「問題ない。うちには頼もしくて可愛いメイドがいるからな。」

扉の近くにいるシリカが顔を真っ赤にしてうつむいている。それをみてディアベルは安心したのか苦笑気味だった。

「はは・・・。たしかにこれは可愛らしい。これなら心配いらないな。」

その言葉を聴いて更に顔を紅くして下を向いてしまうシリカ。

暫くして、昼を取った後に眠くなったオキはそのまま眠っていた。シリカは彼の傍を離れずにずっと傍でオキのことを見ていた。

「そういえば、アークスでも風邪とか病気とかにも掛かるものなんですかね。皆さんご存知だったみたいですし。後で聞いてみようかな。」

そんな独り言を呟いたときだった。

「うう・・・まて・・・やめろ・・・。」

オキが少し呻き声をあげだした。言葉は途切れ途切れだがとても苦しそうに見える。

「オキ・・・さん?」

「マ・・・やめるん・・・。うう・・・。」

次第にもがきだすオキをシリカは体をゆすって起こそうとした。

「オキさん! オキさん!! 起きてください!」

「・・・まて!! 行くな!! ・・・ここ・・・は。夢か。」

急に体を起こし、起き上がったオキは周囲を見渡し、我に帰る。顔や体から大量の汗が出ている。オキは顔の汗を手で拭い、汗ばんだ手のひらを見てからシリカをみた。

「大丈夫ですか? かなりうなされていましたが・・・え?」

オキは汗を軽くふき取り、シリカの手を握った。

「すまん・・・暫くこうしてくれ・・・震えが・・・止まらん。」

シリカはおきの目をみた。このような目は見たことが無い。怯え、そして怖がるオキを。

「大丈夫ですよ。私は・・・私はここにいます。ずっと、傍にいますよ。」

シリカはそっとオキを抱き、オキの顔を小さな胸にうずめさせた。少し驚いていたようだが、落ち着いたのか「すまない」と一言漏らしてシリカの腰に手をまわした。

何分足っただろうか。オキは落ち着きを取り戻し、シリカからはなれた。

「すまんかった。ありがとう。落ち着いたわ。」

「いえ・・・その、かなりうなされていたようですが。」

オキは目を瞑り、夢を思い返そうとした。だが、もやもやして思い出せない。

「う、む。わからん。わからんが・・・何か、なにか大事な。なんだろう。大事な何かが、何かに覆われるような・・・。ともかく俺の下からはなれようとした。ソレを俺は止めようとした・・・。多分そうだ。」

「大事な何か・・・。」

シリカがオキの言葉を呟く。

「うん。だけど、SAOじゃないな。少なくとも。夢の中では相棒を持っていた。・・・あー汗でベトベト。拭くものある?」

相棒。この言葉の意味はアークス時のオキのメイン武器を示す。つまりアークスの夢だとシリカは察した。

「タオルですね。はい。あの、背中お拭きいたします。」

「あ?ああ。すまんね。頼むわ。」

オキは上着を脱いで、背中をシリカに向け、シリカはオキの背中を小さな手で拭いた。

とても心地よい感触をオキは堪能した。

「ふっかつ!」

次の日、オキは完全復活を遂げた。ギルド拠点の大会議室に集まったオラクル騎士団の全員が、その生き生きとした顔につい拍手を送る。若干乾いた拍手だが。

「オキさんも復活したし、ようやく聞けるわね。ねぇキリト。」

リズベットが顔をニヤケながらキリトのほうを向いた。

「な、何で俺の方をむくんだよ。」

「何かしたのか?」

一日寝ており何の情報も入ってきてないオキはちんぷんかんぷんだ。

「実はね? 見ちゃったのよ。キリトが、すごい美人と一緒に歩いてるとこ! ねぇねぇどういうこと?」

「・・・な、そ・・・それは・・・。」

キリトが言いづらそうに目を背ける。それを聞いてアスナがキリトへと向いた。顔は笑っているが目が笑っていない。というかすごく怖い。

「へぇー・・・詳しく聞こうじゃない。ねぇキリト君?」

「いや、あのさ・・・。」

キリトが口を開いたときにオキが思い出したように手のひらに拳を打ちつけた。

「あ、忘れてた。そういや紹介してなかったな。ストレアのことを。」

オキの発言にその場にいた全員がオキのほうを向いた。

それはオキが温泉の情報をアルゴから手に入れるほんの少し前の話だった。




皆様ごきげんよう。
2週間のお休みを頂き大変お待たせいたしました。
まずは、お気に入り100人超え! 本当にありがとうございます!
更に気づけば一周年経ってました!
こうして続けられたのも、続けれるのも読んで頂いている皆様のおかげであります。
こうしてお読みになられているあなたに、感謝を。

GWは皆様いかがお過ごしだったでしょうか。お身体に問題はありませんでしたか?
ちなみに私は大丈夫でした。

今回は一周年というのもあり、軽くシリカにしてもらいたい内容をしてもらいました。
いや、本当に軽くね。欲求通りに書いちゃうと書き足りないから。
後半の夢の内容は・・・まぁEP3をラストまでやってる人なら大事な人が誰か分かりますよね。

さて、PSO2では大きく動きましたね。
アークスVS大和戦! ・・・難易度は予想以上に簡単でしたけどね。
まぁ設定からもあの男が作った大和だから…まぁ納得?
早速13ウ゛ィオラでたけど、雨風で拾ってるんだよなぁ・・・。セイガーの方が欲しいす。

では次回にまたお会いいたしましょう。
これからも『ソードアークス・オンライン』、宜しくお願いいたします!

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