そこで待ち受けていたのは誰もが予想していなかったモノだった。
「最終試験…ですか?」
シリカが不安そうにオキの顔を覗く。オキはじっと現れた転送門を見つめた。
そして、シリカの頭にポンとやさしく手を置いた。
「大丈夫さ。何があっても、何がいても叩ききる。そうだろ? 隊長。」
「ああ。その通りだ。」
アインス、シンキはオキを見て頷いた。
オキ達は何が来てもいいように一度現状を確認。アイテムや武具の状態を各自点検した後に転送門へと入った。
「さて、これ以上何が出ると思う?」
オキがアインス、シンキに聞いた。
「そうだな…。ここまでくると数限られるだろうな。」
「可能性として一番なのはSAOのオリジナルエネミーね。」
アインス、シンキはそれぞれいろいろ予想を立てているらしい。オキも先ほどの『アレ』を超えるモノを予想したが、ダーク・ファルスクラス以外考えられない。そうなると最後に出てくるであろうアイツを思い返したが、その全ての予想をそこにいた『モノ』は覆した。
『…。』
「は…ハハハ。アッハッハッハ! コイツはたまげた!」
「なるほど。確かに納得いく相手だな。」
「そうきたのねー。となると、オキちゃんだけになるわね。ちょっと残念。ほら、邪魔しないようにするわよシリカちゃん。」
「え? え??」
オキは高笑いしてタバコに火をつけ、アインスはうんうんと頷き納得。シンキはああ、と把握して少し残念そうにエリアの隅にシリカを引きずり移動した。
その場にいたのは『オキ』本人だった。
『…。』
声を発せず、腕を組み構える姿はオキそのもの。持っている武器だけが違った。白く、煌びやかに黒く光る外観、鋭く尖った先端。中心には白いクリスタルが輝いている槍。
「ふーん。なかなかいい武器もってんじゃん。おう、よこせ。」
朱槍を片手に持ち、先端を相手に向けるオキ。だが、相手は微動だにしない。
「ここはオキ君一人に任せる。どうせ、一人でやるのだろう? 頑張ってきたまえ。『アレ』は、出さなくても良いかな?」
「さすが隊長、わかってるぅ。そうだね。ダーカー因子は感じられないし、槍でいい。さって…。」
首や腕を回し、準備体操を始めるオキ。アインスはシンキたちのいるエリアの端へと移動した。
周囲を見渡したオキ。
全く障害物のない円形の大広間。地形は完全に平坦。天井の高さは見えず、かなり高いと見た。これなら暴れまわっても問題なさそうだ。
「自分と戦うなんて思いもしなかったよ。なぁ俺。」
広間の中心に立つ自分に近づくオキ。じっとこちらを見つめるコピーされた自分を睨み、吸っていたタバコを結晶化させ握り砕いた。
『…。』
近づいた為に反応したのか、構えるもう一人のオキ、『ホロウ・オキ』。
『最終試験を始めますか? YES/NO』
目の前に出てきた文字を、『YES』を押す。
『ホロウミッション、管理者最終試験 【ホロウ・オキ】討伐 開始』
『…!』
「先手必勝!」
アナウンスが流れ、相手のHPバーが見えた瞬間にオキは大きく飛び上がり、ホロウ・オキへと槍を振り下ろした。
ガキン!
「!」
『…。』
ホロウ・オキは上からの奇襲を持っていた槍で受け止めた。その時にオキが見たのは口元を歪ませニヤケている自分だった。
ブン!
「ちぃ!」
大きく横に振りかぶったホロウ・オキの攻撃を後ろに飛び退き避けたオキは、足に力を加え反動を利用して地面を蹴りホロウ・オキへと突進した。
「だぁりゃ!」
『…。』
それを受け流し、静かにオキのほうを向いたホロウ・オキは腰を低く下ろし、顔と同じ位置に構え、黒槍を紅く光らせた。
「ソード・エフェクト…!?」
SSを撃つつもりだ。だが、あの位置から放つ槍のSSは見たことがない。とにかくその場から離れなければ攻撃がくる。突進後の勢いを殺し、素早く横へ転がった。
その直後に体のそばを衝撃波が通った。
ゴォォ!
「…ディアーズ・グリッドのラスアタのような攻撃しやがって。当たったらあぶねーじゃねぇか!」
冷や汗を流すオキは、一瞬だけ見た。素早い速度、目にも止まらぬ速さで突き、攻撃後の衝撃波を飛ばした姿を。その技はPA『ディアーズ・グリッド』と呼ばれるパリチザンのPAに近しいものを感じたが、たった一発に威力を乗せたその技は別物だ。
「つまり、新しい技を持ってるってか。こいつは手強いねぇ。」
オキは素早く横に移動しながら様子をみつつ近づいた。
『…!』
こちらを攻撃範囲内に収めたからかこちらに向きなおし、素早く近づき左右に振り回してきた。
「おっとと…。」
スピードは目に見える、反応できるスピードだ。すぐさま回避行動に移り、隙を狙って突きを三連続。
ガガガ!
『…!?』
「むやみやたらに突っ込むんじゃねぇよ。がら空きだぜ!」
怯んだところに更に上から振り下ろし脳天から叩いてやろうとしたが、それは後ろに逃げられ避けられた。
下がったところから中腰になり、ソードエフェクトを光らせるホロウ・オキ。
「むぅ。」
『…!』
上に飛び上がりながら空中から素早い突きを5回放ってきた。素早い突きは1度の振りに見えたオキだが、すぐさま後方に下がり、回避する。
「そんなもの避け…!?」
『…!』
飛び上がった場所から槍を引き、突き出しながら急降下してきた。突き出した勢いもあって予想以上にスピードが速いため避けることが出来ない。
「後ろは…無理か。ならば!」
ガキン!
下から槍の先端を蹴り上げ、相手の槍を切り上げるように振り上げはじき返した。
「おりゃぁ!」
蹴り上げた勢いでもう一度槍を蹴り、空中に飛ばしそれをジャンプで手にとってこちらも下にいるホロウ・オキへと振り下ろした。
『!?』
相手の左肩にガッツリと攻撃が入る。
「ふう…。」
怯んだ間にオキは距離をとり、相手のHPバーを確認した。
『普通のボスエネミーに比べてHPやステータスが低い。このまま行けば快勝といけそうだが、これが最後? 嫌に順調だが。』
元々ホロウ・オキのHPバーは2本だった。今までのホロウエリアのエネミーのHPバーは4本から5本。
少なくても3本だった。あまりにも相手のHPが少なすぎる。既にホロウ・オキのHPは1/4減っている。
『警戒はしといたほうがいいな。』
形態変化後が気になる。予想ではラストゲージでの形態変化で何かしらをやってくる。警戒を怠らずにホロウ・オキの攻撃を見切って弾き体をがら空きにした。
大きく振りかぶり、腹部へとフルスイングした。
『・・・!』
芯で捉えたオキの攻撃はホロウ・オキを大きく吹き飛ばした。それに追いかけるように走って近づき、そのままの勢いで地面へと叩きつけられたホロウ・オキの胸部に槍を突き刺した。
「その心臓…貰い受ける!」
呪いの朱槍『ゲイ・ボルグ』がホロウ・オキの胸を貫いた。クリティカル判定となったその攻撃により、ホロウ・オキのHPバーは半分を切り、ラストゲージに突入する。
『・・・。』
「!?」
貫かれたホロウ・オキと目が合ったその瞬間、オキはゾクリと背筋が凍る感覚を感じた。
素早く距離をとり、様子を伺った。
『何だ? 今の感覚…。』
危険なものを感じた。そう思った。ゆっくりと立ち上がったホロウ・オキはオキの視界から、消えた。
『…。』
「オキさん!」
シリカが叫ぶ。オキはその声と同時に後ろへ振り向きざまに槍を突く。
ガキン!
「っつぅ。いってぇな。」
あまりの強さにこちらの槍が折れそうだ。ホロウ・オキは今までとは桁違いのスピードでオキの後ろを捉え、後方から強力な突きを放とうとしたのだ。
だが、オキはそれに反応し後ろを振り向いて真正面からやりあったのだ。
『・・・。』
「はぇぇ…な!」
素早い動きでオキへと近づいたホロウ・オキは何度もオキへと左右から槍を振り、攻撃の隙を与えない。アスナの素早さよりも遅い方だが、それでも普通の人なら反応できないだろう。アークスのだからこそ半分勘も交えて反応できる。
「ちいぃ。」
だが何とか防御するも、その猛攻を抑えることが出来ない。
『…。』
ガキン!
オキの槍が弾かれ体が無防備になる。
「しま・・・!?」
『・・・。』
ガガガ!
三連突きがオキの体に喰らい突いた。
「オキさん!?」
シリカが心配そうに声を上げ、アインスやシンキも息を飲んだ。
「つぅぅぅ。いってぇな! この野郎!」
攻撃を喰らっていてもにらめつけるオキの元気な姿に3人は安心した。
『とはいえ、素早い動きに、攻めを許さない猛攻。そこに強力な突きときた。さて、オキ君どうする?』
アインスは壁に寄りかかったり、少し前に出たりと落ち着かない行動をしていた。
「隊長ちゃん。気持ちは分かるけど、少し落ち着いたらどう?」
「シンキ君だって、同じじゃないか。」
シンキは震える腕を反対の手で押さえている状態だった。彼女もまた同じく、オキの戦いに疼きが止まらないのだろう。
二人は何とか耐え忍んでいた。オキの姿をした相手ならば、オキは一人でやりたがる。だからこそ一人に任せた。
任せたならば最後まで待つ必要がある。どれだけ自分も混ざりたくとも。
『・・・。』
「くぅぅ!?」
戦いの状況はホロウ・オキが素早さと猛攻の連続で一歩リードしている。隙を殆ど与えないホロウ・オキ。だが、それでもオキ自身も負けてはいられない。
ホロウ・オキのHPをあと少しというところまで削ったのだ。
『近づけば猛攻、遠ざかればスピードで裏を取られてアホみたいに強い突きを放ってくる。その直後に近づかれて猛攻。さてどうする。』
ただ単に近づけば猛攻によって攻撃は全て弾かれる。逆に遠ざかれば目にも止まらない反応できるギリギリのスピードで裏をかいて死角から鋭い強力な突きを放ってくる。あの攻撃をモロに受ければHP半減ではすまないだろう。
『ならば・・・。』
オキはどうやって止めを刺すか。イメージを一瞬で思い浮かべた。
「あ、オキさんの勝ちです。」
シリカがアインスたちへと呟いた。
「そうだな。勝ったな。」
「相変わらず、あの癖は変わってないのね。あの子。」
シリカが見たのは先ほどまで苦戦していたオキの口が笑っていたこと。
この劣勢の中、彼が笑う行動をした時は必ず勝つ道が見えたときだ。シリカやアインス、シンキはソレを知っていた。
オキは距離をとった。当然、今の攻撃パターンでは死角へと移動され直後に飛んでくるのは超高速、超威力の突き。
今まではソレを横に避けていたが、オキは真正面に突っ込んだ。
ズァアア!
オキのハット帽がホロウ・オキの攻撃の衝撃波で飛んでいく。
だが、その持ち主はホロウ・オキの懐へともぐりこんでいた。
「おおおおお!」
ホロウ・オキは槍を突き出しているので胴体が無防備である。そこへ懐にもぐりこんだオキが胴体のど真ん中に下から斜め上へと全力で貫いた。
『!?』
クリティカル判定となったオキの攻撃はホロウ・オキのHPを完全に削りきった。
「ホロウだろうが、なんだろうがしらねーけど、そんな機械じみた攻撃の仕方してきたんじゃ負ける気しねーわ。俺の姿使うならもう少し読めねぇ行動しやがれ。」
結晶と化し砕けたホロウ・オキ。その場には彼が持っていた槍が一本地面に突き刺さっていた。
「これ、貰っていいのかな。・・・へぇ。ゲイ・ボルグより攻撃力高いじゃん。いいもんもーらい。」
ゲイ・ボルグは普段使いで、この新たな槍『神槍グングニル』はここぞというときに使用するとしよう。そう思ってアイテム欄へと入れた。
「オキさーん!」
「おっと…。」
シリカが背中から抱きついて顔を背中にうずめていた。少しだけ震えている。
「心配したんですからね! もう。」
どうやら怒っているらしい。無理しすぎたか。
「すまんな。シリカ。」
「オキ君。お疲れ様。」
「お疲れ。はい、帽子。」
シンキが飛んでいったハット帽を持ってきてくれた。
「ありがとさん。これでホロウエリアも終わりか。」
「かなり厳しい戦いだったな。」
「隊長にはばれるか。ワイヤー…投げれなかったもん。」
余裕そうに見える戦いだったが、今回サブウェポンであるワイヤーを投げる隙がなかった。かなり厳しい戦いだったとアインスは見破ったのだ。
『適正最終テスト完了。プレイヤー・オキ。管理権限を全て移行します。』
「管理権限全て移行? ふーん。何が出来るようになったのか調べて帰るとしますか。」
アナウンスの通り、ホロウエリアでの全ての権限をオキが受け継いでいた。とはいえホロウエリアで実績を解除して、新スキル、新アイテムをアインクラッドへアップデートしたり位がSAO自体に影響するものは無かった。
他にはホロウエリアは管理者である自分以外にオキが選んだメンバーであれば自由に移動が出来るようになったのでギルド連合の高レベルメンバーを選び、アインクラッドホロウエリア間の行き来を一部メンバーだけ自由にした。
また、ホロウエリアの一部制限エリアがあったらしくそのエリアの開放も管理権限で開放できた。
そちらはキリトが興味深々だったので彼とアスナ、フィリアやリーファ達で攻略をさせることにした。ダーカー因子も確認できなかったし問題は無いだろう。
「オキがホロウエリアを攻略している間にアインクラッドは80層を超えた。レベルはもちろん、武具もホロウエリアの強力なものがオキのおかげでプレイヤーの手に渡ったのでより安全でスピーディに攻略できている。」
キリトから現状の報告を受けた。アインクラッド攻略も問題なく進んでいる。しいて言うなら彼の元に一人の少女の知り合いが増えていたことくらいだ。
名前を『ストレア』というらしい。今度あってみることになった。
アインクラッドも終盤となった。ホロウエリアも攻略し終わり問題は無くなった。ラストスパートをかけよう。
皆様ごきげんよう。
ホロウエリア編終了! いやー今週仕事の方で朝が早く夜が遅かったので
書ききれるか不安でした。まぁ何とかなってよかったです。
ホロウエリア攻略も終わり、次回からアインクラッドへと戻ります。
ホロウフラグメントをプレイされたことのある方々はこの後何が起きるか、誰が出てくるかは予想がつくのではないでしょうか。
では次回にまたお会いしましょう。