SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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中央管理区以外のホロウエリアをすべて攻略し終えたオキ達は、アインスのお願いによりシンキと合流。
中央間陸地下へと潜った。その先にいたのは、かつてアインス、シンキが激闘の末に倒した惑星ラグオルの『オルガ・フロウ』だった。



第52話 『英雄』

話には聞いていたある惑星への移住計画。

移住可能な星へ一隻の巨大な鉄の棺桶へ開拓民を乗せ、未開の惑星を開拓する。

自らが乗ってきた巨大な船を解体し、ヒトの住める環境を創り出す。

無謀ともいえる「パイオニア計画」はそうしてスタートした。

 

それは元々仕組まれていたのかもしれない。

『無人』で凶悪な生物など『いない』とされていた新天地には

しかし既に存在しているモノがあった。

生物ではない・・それはただただ闇としか言いようのない存在だった。

 

‐ダークファルス‐

 

深淵から這いずり出てきたようなその「闇」は、多大な犠牲を支払いながらも幾度かは軍により封じられた。

しかし、ヒトの想いなどあざ笑うかのように闇は何度でも蘇る。

まるで滅ぼすことなど出来ない悪夢のように。

陸軍副司令官だった『彼』はソレがヒトの手に余る存在だとすぐに理解したのかもしれない。

しかし『彼』は軍人だった。

命令と在れば何度でも戦ったのだろう。

母星で待つ民の為に・・・『英雄』のように。

 

終わりのない戦いの中で受けた無数の傷が異常な反応を示したことをきっかけに

『彼』は不運にも乗り合わせていた狂気の天才科学者の実験へ協力することとなる。

自らの部下と、母星で待つ民の為、この狂った移民計画を中止し、引き返すことを条件とし、

その身体を使った人体実験への協力を。

 

彼はただ、英雄であり過ぎたのかもしれない。

愚かで愚直過ぎたのかもしれない。

彼の意識が途切れるころ、一隻の宇宙船が惑星へやってきた。

「パイオニア2」アインスやシンキ、未だ実戦を知らない頃の若い彼らを乗せた船は

確かにその時は希望に満ちて惑星へ向かったのだ。

 

『彼』の名はパイオニア1陸軍副司令官『ヒースクリフ・フロウウェン』

その名は奪われ、実験体と成り果て、その身にD因子を埋め込まれながらも彼はただ、待ち続けた。

己を解放できる『英雄』を。

 

無限とも一瞬とも思えるような降下し続けるエレベーター

降りてくる災厄、両断される仲間たち

そして地下、既に海水が注ぎ込む崩落した廃棄場・・・

記憶に残るは断片的なキーワードになっている。覚えておくにはあまりにも強過ぎた。

だが腕が、足が、肌が、そして刀がソレを覚えている。

ダークファルスは憑依する存在によってそのありようを変える。

ならば当代の大英雄を基にしたソレは、確かに最強の一体だったのかも知れない。

『オルガ・フロウ』

強大な力を持つ『D因子』に侵食された『彼』は歪となったその姿を現し

そして…倒された。

 

アインスから聞いたパイオニア計画の全貌は耳を疑うような内容だったのを覚えている。

そして死闘により撃破された男、英雄『ヒースクリフ・フロウウェン』…いや『オルガ・フロウ』。

その強さを聞いたとき、体が震えた。

宇宙には【巨躯】等のダークファルスと同等の力を持ったものがいたことの事実を知った。

自分が強くなるにつれ、『強いものと戦っていたい』と思うようになったのも、その時くらいからだろうか。

持っている相棒が震えている。『戦いたい』そう願っていることが伝わってくる。

だが、そんな裏腹に、自分は不安になる。

『本当に戦えるのか。あの隊長と、あのシンキが、死闘にてようやく倒したと言ったコイツを。』

「ふふふ。懐かしいわね。隊長ちゃん。まさか、ここまで再現してくれるなんてね。」

「そうだな。オキ君。君なら大丈夫だ。そんな心配そうな顔をしなくても、君は強い。俺が保障する。」

「そうね。私も保証するわ。だから、いっぱい…暴れなさい!」

惑星スレアの電子世界。『ソードアート・オンライン』。

だれが予想したか。誰がこのような運命を予見したか。

かつての決戦が再び再現されようとしていた。

『オオオォォォ…。』

降り続けるエレベーターの周囲を一緒に浮遊しながら降りてくるオルガ・フロウ。

ひっくり返ったその姿でなにより目を引くのは右腕に引っ付いた巨大な大剣。左腕は歪に曲がっている。

そして4本の足。胸部に牙のようなものがついておりとじているように見える。

その手にある巨大な剣をなぎ払ってきた。

「よけろ!」

「ふふ…。」

「おわ!?」

アインスの号令で瞬時にその大剣を伏せてかわした。

「奴は攻撃後に隙が出来る。そこを狙う。オキ君、シリカ君は俺達に合わせて攻撃を。」

アインスがオルガ・フロウへと突っ込む。それにシンキも合わせ攻撃を開始した。

「了解。シリカ、無理に突っ込まずに出来るだけ隊長達の援護をする感じで。攻撃パターンを読むぞ。」

「はい!」

分かっているのはアインスとシンキだけ。二人が突っ込み攻撃をしたときのみ、こちらも動く。

オルガ・フロウの動きはそれほど速くなく、見てからの行動でも充分間に合う。

「む! 二人とも! 中央へ! レーザーを撃ってくるぞ!」

オルガ・フロウの中央部からまっすぐ平たいレーザーが放たれ、エレベーターの周りを回りだした。

「なるほど。【敗者】の回転攻撃みたいなものか。シリカ、こっちだ。」

「は、はい!」

シリカの手を引いて抱きつく形で彼女と共にうまくレーザーを回避した。

「こんなふうに回避するんだ。」

「わ、わかりました!」

「ふふふ。ああ、懐かしいわ。この感じ、この感覚。」

シンキのスイッチは完全に入っている。ああなっては誰も止められない。彼女の戦闘時に本気モードのスイッチが入るのはめったにない。

ここに来て彼女は相手を倒すことだけを考える、本気状態となっていた。それだけの相手。それほどまでの敵なのだ。

オルガ・フロウはエレベーターの下へともぐりこんだ。

「下から来るぞ。しっかりみて避けろ。」

エレベーターの中央をすり抜けるように突き上げてきた。アインスのおかげでそれも難なく避けることが出来た。

「このままいくぞ!」

「あいよぉ!」

「了解です!」

アインスの気合の入った声でこちらも構えに入る。

再び巨大な大剣が左右に振るわれる。

「ほっと。一度見てしまえば何とかなるな。」

避けて、近づいているところに攻撃を放つ。

「うむ。その調子だ。」

アインス達と、オキ達の連携はうまくいっている。異様なまでに順調に。

 

右腕に引っ付いた弓から光弾が多数放たれる。オキはそれを全て切り壊し、アインスへと攻撃を繋げる。

「隊長!」

『オオオォォォ…。』

「落ちろ。」

アインスの巨大な刃がオルガ・フロウを叩ききる。

『オオオ!?』

オルガ・フロウは一瞬上へと上がろうと飛び上がったが、そのまま下へとまっさかさまに落ちていった。

「勝った…?」

「いや、まだだ。」

「アイツはまだ生きてるわ。このまま下へ降りましょう。」

まだ生きているというのか。アインス、シンキは頷きあう。オキとシリカは少しだけ息が上がっていた。

『今までの奴とは桁が違う…。まだゲーム内だからなのか、それとも本来の力じゃないからか。少なくとも隊長たちが戦ったというそのモノではない。それでいてこの強さ。こりゃぁ本物がどれだけの強さを持っているか…。考えたくないねぇ。』

近寄ってきたシリカの頭を撫でながら、エレベーターはオルガ・フロウが落ちていった最下層へと降りていった。

「ここが最下層か。」

「そのようね。アイツは…いたわ。」

アインスとシンキは武器を構えた。その後ろでオキ、シリカも同様に構える。

あの高さから落下して、それでもソレは立ち上がった。

「第二形態…。ここからが本番だ。いくぞ。」

「ええ。任せてちょうだい。」

オキとシリカはアインス、シンキの後方から攻撃の隙をうかがいつつ、二人を援護する形で攻撃に加わった。

『コォォォ!』

4足歩行だったオルガ・フロウは2足歩行へと形態変化し、その巨体を見せ付けた。

胸部にあった牙は口のように開き吠えた。

「…なんてでかさだよ。おい。」

オキが見る限りではアークスの決戦兵器である『A.I.S』よりもでかい。『ビブラス・ユガ』クラスだろうか。

オルガ・フロウは腕に付いた巨大な大剣を振り下ろしてきた。

ズズン…!

「こちらも、動きは変わらず…。」

「これくらいなら避けれるわね。」

足元でうまく避けながらアインスとシンキは攻撃を加える。

『オオオォォォ!』

それでもものともせずに怯まず攻撃を続けるオルガ・フロウ。

「大体分かってきた。シリカ、援護。」

「了解です!」

攻撃範囲、スピード、パワー。全てを把握したオキはアインスたちと共に攻撃を開始する。

「俺も混ぜてくれよ。隊長。」

「ああ。任せたよ!」

ズズン…!

再び巨大な大剣が地面を揺るがす。だが、誰一人としてその大剣の餌食となるものはいなかった。

その隙を4人が攻撃する。

『オオオオオ!』

オルガ・フロウが一層強く吼えた。体が光っている。

「む。上から来るぞ。しっかり見て避けろ。」

「え? うわぁ!?」

上から光があちこちに落ちてくる。幸い足元に予兆が見えるため、避けれないことはないがその範囲と攻撃頻度は今までにない。

「わ! っひゃぁ!?」

危なっかしい動きをしながらも、シリカはしっかり避けている。アインス、シンキは軽く体を動かすだけで避け続け、しっかりとオルガ・フロウの様子を見ていた。

攻撃が収まると再び大剣を振り回してきた。

「…ふむ。厄介な攻撃は無し…か?」

「分からないわね。でも、体力は削っているわ。このまま行くわよ! 隊長ちゃん!」

アインスとシンキが素早くオルガ・フロウへと近づき、左右からクロスするように斬撃を入れる。それに遅れてオキ、シリカ二人も続いた。

一度分かってしまえばここまで戦い抜いてきた4人ならば何も問題はなかった。今までは。

『オオオォォォ!?』

「む!?」

「隊長? うがぁ!?」

「きゃぁ!」

「…とと。あらあら。まさかソレまでやってくるなんて。」

アインスがピタリと止まった瞬間、オキとシリカがオルガ・フロウに攻撃を加えた直後に吹き飛ばされ、シンキはソレを見て攻撃をやめた。

『オオオ…。』

「オキちゃん、シリカちゃん。大丈夫?」

シンキが素早く2人を攻撃範囲外へと移動してくれた。

「サンキュ。シンキ。一体何が・・・。隊長!?」

「隊長…さん…?」

オキ、シリカがアインスを見ると、オルガ・フロウとにらみ合っている、はずだった。だが、見たことも無い男がその場に立っていた。

「あれは間違いなく隊長ちゃんよ。安心して。『憑依攻撃』と…私達は言ってたわね。アイツの体力が少なくなったときに発動した特殊な攻撃。」

『まさか、ここに来てこの姿を見るとは。』

クリスタル状の床面にうっすらと反射して見えるその姿。自分が移っているはずなのに見えているのは別人の外見。

『武器は…さすがに変わらんか。』

手に持つ刀を握りなおす。中年風の顔だが、引き締まっており誰が見ても歴戦の兵と分かるその姿。

ヒースクリフ・フロウウェン。【英雄】だった男がその場に顕現した。

『オオオォォォ…。』

オルガ・フロウの大検が振り上げられ、一気に振り下ろされる。

ズズン…!

「ふん。」

ソレを横に避け、近づこうと走る。だが、オルガ・フロウは足でアインスを拒む。

踏みつけようとしたオルガ・フロウだが、アインスは地面を蹴って距離をとり、それを避けた。

『この状態の間は俺しか攻撃が出来ん。出来ればこのまま止めといきたいが…。』

その巨体を再びにらみつけるアインス。

『ふむ。一人ではやはり…。む!?』

飛びのいた先を予想していたのか、オルガ・フロウの右腕を歪に曲げ、取り付いた『弓』がこちらを既に狙っていた。

『まずい…。』

防御姿勢? 回避か? 一瞬の油断を突いたオルガ・フロウはその光を放った。

ゴウゥ…!

「…!」

避けれないと判断したアインスは防御の構えを取ったが、何も反応がない。刀を下ろすと目の前には…。

「以前の借りを少しでも返せたかな…?」

「無茶しちゃダメよ。隊長ちゃん。」

「私達も…いますから。」

オキ、シンキ、シリカが3人でアインスをかばったのだ。

『コォォォ!』

大剣を振り下ろそうとしてくるオルガ・フロウ。その大検をシンキとシリカが受け止めた。

「任せて…ください!」

「いいところ、もって…いきなさい!」

『コォォォ!?』

今度は反対側の腕をこちらに向けている。再び弓を撃つつもりだったが。

「貫きやがれ! ゲイ・ボルグ!」

ゴゥン!

『コォァァァア!?』

オルガ・フロウの右腕が爆発した。オキが槍を投げ、ソレが光弾の発射に合わさったため、目の前で爆発したのだ。

「隊長! いまだ!」

アインスはシリカ、シンキが守ってくれたときから既に攻撃の態勢に入っている。オキが光弾を爆発させ隙が出来ている。今しかない。

斬!

貯めた力を一気に解放したアインスの巨大な刃はオルガ・フロウを真っ二つに切り裂いた。

『オオオォォォ…。』

光り輝くオルガ・フロウ。そして光が消えたと思った矢先に空中から一本の大剣が落ちてきた。

キィン!

地面に突き刺さった大検は光の粒子となり、消えていった。一瞬だけ、男性の姿をオキ達は見た。

「眠れ。ヒースクリフ・フロウウェン。」

「起こして悪かったわ…。この代償。高くつくわね。」

アインスとシンキは粒子の消えていく上を見ていた。

話には聞いていたその強さ。

まさか、ここまでとは思ってもいなかった。

「さすがとしか言いようが無い。」

「そうね。本当に懐かしい、そして奮い立たせるこの思いをよくぞここまで。」

満足した顔をした二人。そしてやりきったと思うと、どっと出てきた疲れを一服で紛らわせるオキ。それに寄り付く形で背中合わせに座り込むシリカ。

「二人には頭が上がらないね。こんなのと戦ってきたなんて。」

全力を出した。自分が出せる本気をすべて。

「彼を起こした、この代償を払わせる為に。」

「再び戦わせた、この償いをさせる為に。」

「「上へ!」」

アインス、シンキは完全にやる気モードになっていた。かつて眠らせた男をよみがえらせた、そして再び懐かしの戦いをさせてくれた、同じ名を持つ男の下へ行くために。

『ホロウ・ミッションクリア。【管理者最終テスト】を開始する準備が出来ました。』

アナウンスが鳴り響き、オルガ・フロウが倒れた広間の中心に転送門が現れたのはその直後だった。




皆様ごきげんよう。
PSOファンの皆様ごめんなさい。ワタシにはこれが限界でした。
やはり実際に戦いながら見て、感じて、体感しないとうまく表現できませんね。
オルガ・フロウ戦、いかがでしたでしょうか。ファンタシースターシリーズの中でも歴代でもトップクラスの知名度を誇るダーク・ファルス『オルガ・フロウ』。
今回は裏の大ボスということで出ていただきました。
書いている途中、最も難航したと思われます。悩みに悩んで結果がこれ。うーん。もっかいインフィやろうかなぁ…。
序盤の回想部はアインス隊長にベースとなる文章を見ていただいたあとに編集していただきました。ありがとうございます。
ともあれ、ホロウエリアの管理区地下エリアボスを討伐完了しました。ホロウエリア編も次回で最後かな?
それとも一回番外編をはさむか…。
では次回、またお会いしましょう。

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