森林エリアから浮遊遺跡エリアまで、かなり長い坂を登った。
とはいえ、キマリ号のおかげで時間はそこまでかかっていない。そろそろエリアの境目だ。
『!?』
「うわっと!?」
「ふにゃ!?」
キマリ号がエリアの境目を目の前に急停止した。どうしたのだろう。
「ミケっち。どうした?」
「わからないのだー! どうしたのだー! 早く進むのだー!」
『キュゥゥン・・・。』
エリアの境目をキマリ号の足が越えようとする。だが、何かに阻まれそれ以上進むことが出来ないようだ。
「まさか、進めないのか?」
『キュウウゥゥン・・・。』
申し訳なさそうな声をだし、その場に伏せてしまった。仕方がないので全員降りて女性陣はキマリ号にお礼を言った。
「キマリ号! ありがとね!」
「キマリ号さん。ありがとうなのです。」
双子に顔を抱かれるキマリ号は嬉しそうにしている。
「ふーむ・・・。」
その光景を見た後に浮遊遺跡を改めて確認した。そのときだ。
『ウウウウウウ・・・。』
キマリ号がうなりだした。空を見ている。
「あれは・・・。」
コォォォォォ・・・
空を切るように飛び、空気を裂く音を立てながら素早く飛行している一匹の巨大なエネミーが自分達の目の前を通り過ぎた。
青く輝く、尖った鉱石を鎧の様に纏った龍族。
「クォーツ・ドラゴン!」
「キマリ号の次はヲー(クォーツの略称)さんなのかー?」
本当にアークスが見てきた化け物共が勢ぞろいだな。とはいえ、このまま進むのはちとつらいか。
言葉には出していないが、少しだけ疲れたように見えるシリカやフィリア、双子を見た。ずっと森を移動してきたもんな。ゆっくり進もう。
「よし、一度戻ろう。」
「もどるの?」
フィリアが近寄ってきた。
「ああ。このまま進んでも良いけど、無理に進むこともないだろう。・・・確認することもある。」
最後の言葉だけボソリとつぶやいた。
「え? 最後の言葉が聞こえなかったけど。何かいった?」
聞こえないようにしたはずだが、フィリアには聞こえたらしい。誤魔化すか。
「なんでもないさ。」
近くに転移門もある。一度戻ろう。
「いいかー? ミケだけじゃなく、オキのいうことも聞くのだぞー? じゃないと、おーしーおーきーなーのーだー・・・。」
『キャウゥゥゥ・・・。』
うわ。ミケから黒いオーラが出てる。キマリ号恐れてるじゃねーか。
「それじゃぁ戻ろう。」
転移門から転移する直前に、キマリ号の遠吠えが聞こえた。
『ァオォォォォン!』
まるで主に『武運を』といっているように聞こえた。
アインクラッドに戻ってきた後はミケたちを一度休ませて、シリカには手に入れた武器武具をギルド倉庫に入れてもらいエギルに格安で商店に出してもらうことに。俺はある場所へと向かった。お土産も持って。
「オキはん? どないしたん?」
「ちょっと奥に用事があってね。 ・・・最奥のアイツに会いに来た。鍵を借りたい。」
最奥。その言葉を聴いてキバオウは一度ためらったが、それでも鍵を渡してくれた。
「何かあったら、すぐワイらを呼ぶんやで。」
「ああ。」
第1層黒鉄球内。ギルド『アインクラッド解放軍』拠点最奥。監獄エリア。薄暗く、日の光があまり差し込まない場所。アインクラッドで最も寂しい場所とも言われている。ここに来た理由は2つある。そのひとつのために彼女の元をたずねた。
「よぉ。元気かー?」
「あんた・・・久しぶりじゃないか。」
牢獄の女王こと『ロザリア』だ。
「以前、お礼をするといってこれるタイミングをつかめなくてね。」
「何言ってんだい。どうせ忘れてたんだろ?」
鋭い。俺は黙ってアイテムからお土産をロザリアのいる牢屋内へと入れる。
「49層名物。ヒカリマンジュウだ。うまいぞ。」
「おお! いいのかい!?」
「あんたには以前、世話になったからな。その礼だ。あんたらのおかげでこの奥の馬鹿捕まえることが出来たんだから。」
奥のほうを牢屋にいる奴らも含め、皆で見る。暗く、薄気味悪い雰囲気を出していた。
「・・・元気かい? あの子は。」
静かに彼女は目を瞑り、聴いてきた。シリカのことだろう。
「ああ。元気だよ。・・・結婚もした。」
ニカっと左手薬指に付けている指輪を見せた。それを見て目を点にして驚くロザリア。
「あ、あんた・・・なんとまあ。幸せそうで何よりだ。」
「さってっと。俺は奥に用事がある。それじゃあな。」
「ああ。おらあんた達! あんたらも食いな!」
ロザリアは部下達にマンジュウを配り始めた。一応沢山買ってきたが、足りるかな。
そんな事を思いながら更に奥へと向かう。このあたりになれば日の光どころか、明りさえなくなってくる。
「・・・ホウ。これは珍しい。客人か。」
暗闇の牢屋の中で一人の男が壁に取り付けられた金具に手枷を付けられ入れられている。ロザリアたちは自分達の罪を理解している為に多人数での広い牢屋に入れられ、日の光も少しだけ入る場所にいる。だが、コイツはそうもいかない。最もアインクラッドで人を殺し、ただ自分の欲、快楽のためだけに命を奪っていった男だ。
ガチャ・・・キィィ・・・
扉を開けて中へと入る。
「よぅ。元気かー? 旦那ぁ。」
「HAHAHA。こいつはたまげた。アークス様のご面会とは。」
今回この場所に来た最大の目的。『Poh』、この男に会いに来たのだ。
「その様子だとだいぶやつれてるようだな。」
常備しているランタンに火をともし、彼を照らした。フードを取られており、今は素顔をさらしている。ここにぶち込んだときに見た顔色が見受けられない。
「っハ。」
苦し紛れの笑いだと認識した。
とにかくコイツがここから出ることは絶対にありえない。だが、確認しておく必要がある。
「今一度確認しておきたいことが出来たんでな。お前の殺し。特に好んで使っていたやり方。『出血』と『麻痺』の付与をしてモンスターに襲わせる。」
「Ah~。今じゃ懐かしい。間違いなく、俺の殺し方だ。・・・なんだ? 似たヤり方を使ってきた奴でもいたか?」
ニヤニヤとこちらを見てくる。
「・・・まぁさすがって所か。その通り。おみゃーさんと全く同じ手口の殺しを目の前で見た。」
タバコに火をつけながら、状況の説明をした。
「間違いなく俺の手口だな。真似する奴もいるとは思うぜ。何人それで殺したと思っている。」
「っち。いけすかねぇ奴だ・・・。それが誇りみたいな言い方しやがって。」
ヘヘヘと笑いながら俺にニヤケ顔を見せてくる。相変わらず嫌な奴だ。
「・・・But。」
口を歪ませこちらを見るPoh。
「・・・本当にそれが俺の真似ならば、どこかで見ていたはずだ。」
「見ていた?」
「・・・俺ならそうした。ゆっくり、苦しんで、そして最後の絶望をするあの顔を…。放置したり、一気に殺したりはしない。面白くないだろう?」
余計に口を歪ませている。やっぱりコイツの話は胸糞悪い。だが、冷静になる必要がある。
「つまり、近くにいたということか。」
「答えはYESだ。気をつけろ? 貴様らを殺すのは難しくないが、近くに誰かいたならば・・・。」
その言葉を聴いて俺は目を見開く。フィリア!
彼女は一人、中央管理室にいる。もし彼女といるところを見られていたならば。もし彼女が言っていた『あいつら』というのがそれならば。まずいことになる。
「くそ・・・。」
俺が出口に向かい始めたところをPohが止めた。
「HEY!」
「なんだよ! まだ何かあるのか!?」
「武器だ。ヒントはそこまでだ。後は自分で考えるんだな。」
「武器? ・・・そうか!」
きぃぃ・・・ガチャン!
扉を思い切り閉め、鍵をかけた後しっかり掛かっているのを確認し、奴のそばを離れた。
アイツの言っていた『武器』という単語。よくよく考えればその通りだ。
『麻痺』と『出血』これを同時に付けれる技と武器はめったにない。となると複数犯の可能性もあるが、そもそもその付属効果を持つ武器もかなり少ない。かなりのレア武器じゃないと付く代物じゃない。
SSには付く奴もあるが、高威力な上、確立は低い。並のHPを持つプレイヤーならば1回なら耐えうるだろうが、両方付与する為に2回、3回と喰らい続ければどうなるだろう。間違いなくHPが減りすぎて放置する前に死ぬ。
あの状況を思い返せば『プレイヤーの反応は俺達以外になかった』。つまり、かなり放置された可能性が高い。
あの両方を高確率で付けるには今のところ確認されている方法ではひとつだけ。
「おお! オキはん! どうやった・・・?」
解放軍の拠点と監獄の境目で待っていてくれたキバオウはほっとした顔をしていた。
俺はそんな事かまわずキバオウに詰め寄った。
「あいつの持っていた武器はどこだ。」
「ぶ、武器!? そ、それならこっちや・・・。なんかあったんか?」
周囲に緊迫した空気が流れる。俺が説明しながら歩くからというと、すぐに対応してくれた。
「なるほどな。せやからこれを確認しに。」
「ふむ・・・。これは問題だな。」
結論から言うと武器はあった。『友切包丁』。奴の持っていたSAO内で一本のみ確認されたレア武器のひとつ。
厳重な倉庫に保管されたその武器を俺は手に取った。
「『麻痺』と、『出血』の付与。」
ステータスにはその二つが同時に、しかも高確率で付くと書かれていた。
「あいつの獲物や。誰にも渡らんように厳重に保管しとる。」
「ここにこれる人間は?」
「私とキバオウ君だけ。二人の持つ鍵でないと、ここには入れない。」
ディアベルにも来てもらった。というかこないと開かないという事だったので来てもらった。
倉庫は二つの分厚い扉が2つ重なった構造となっており、二人の持つ鍵を同時に使用しないと開かない構造だ。
「誰かが開けた、持ってったはありえない。つまり、別の武器があるということか。」
再び倉庫の中へ包丁を戻した。二度と日の元にあたらないように。
「うむ。絶対にありえん。仮に私があけようとしても。」
「ワイの持つ鍵がないとあかへんし、ワイの場合もその逆や。同時なら分からんけどな。」
少なくとも二人がそんな事をするとは思えない。疑うことすら無いのは事実だ。
「あんたらがそんな事するのは絶対にありえないのは分かってる。ありがとう。ふーむ・・・。」
「フィリア・・・と、言ったか。その少女は。」
ディアベルが険しい顔をしてこちらを見ている。
「彼女は一人であそこにいるのだろう? 大丈夫なのか? 私はその場に行ったことがないから分からないのだが・・・。」
「!!」
その通りだ。あそこはフィールド。アインクラッドからは今のところ俺しか移動できないのは確認しているが、もし誰かが既にホロウエリアにいたならば・・・」
俺はすぐに走り出した。
「念のため、隊長とハヤマん達に連絡を!」
「了解した!」
ディアベルに伝達を頼み、すぐにホロウエリアへと向かった。彼女の無事を祈りながら。
「無事でいてくれよ。」
「あら。今日は来ないんじゃなかったの? それに・・・隊長さんと・・・?」
無事だった。コンソールの前に座り込み、休んでいるフィリアを見て安心した。すぐさま来てくれた隊長とハヤマん、そしてシリカにも連絡をいれ合流。ホロウエリアへと移動した。
「ふぅ~・・・無事だったか~・・・。」
俺はゆっくりとその場に腰を下ろし、タバコに火をつけた。
「どうしたの? そんなにあわてて。」
あわててきて自分を見て安堵した俺を見て驚いているフィリア。
「いや、実は・・・。」
「・・・。」
「ってわけで、ここにきたってわけ。変なのこなかった?」
あの男に会ったこと。その真似をしている者がいる可能性があること。心配したからここに急いできたこと。そして
「以前俺に会ったときに『あいつら』って言ってたよね。もしよければその話、聞かせてくれるか?」
「・・・アイツは。あいつらは・・・。」
フィリアが話し出した内容は驚くべき内容だった。
「・・・そしてあなたに出会った。」
馬鹿なことがあるか。アイツは監獄だ。この目で確認したのだから。武器も厳重に保管してある。
「オキ君。これは調べる必要がありそうだな。」
隊長もそれを聞いて険しい顔をしている。ハヤマも一緒だ。
「なぜここにいる。Poh・・・。」
フィリアが人を殺したという話の続き。気がつけば殺していた。それは以前にも聞いた話だ。
詳しい状況を確認できないが、彼女が人を殺す事を喜ぶ人間ではないのは確かだ。それは目を見れば分かる。伊達に長いこといろんな人、化け物と対峙してきていない。それはアインスもハヤマも一緒だ。
そんなところをある人物に見つかった。それがなんとあの『Poh』だという。
小汚いフードを深くかぶり、ポンチョのようなモノを羽織り、そして彼の分身とも言える存在の武器『巨大な包丁』。
「間違いないわ。あれは・・・アイツだった。噂通りの男だったわ・・・。」
フィリアの震える体をシリカが摩ってあげる。
「アイツは今1層の監獄の一番奥に入れられている。あそこから出ることは出来ん。」
「じゃああそこにいたのは誰!? 私が見た男は・・・!?」
「間違いなく偽者。本物は1層の黒鉄球の中だ。さっき俺はアイツにあってきたからな。」
これではっきりした。ここ、ホロウエリアに偽者がいる。出入りしている痕跡はここにフィリアがいる為無いだろうと予測する。アインクラッドとホロウエリアの出入り口がここだけならば。
「解決するまでフィリアを一人にできんな。隊長。交代で見張りたいんだけど。」
「ああ。任せろ。」
「ハヤマん。」
「わかってる。一度向こうで説明してくるよ。」
「シリカ、今回は一緒にいてくれるか?」
「はい! もちろんです!」
もう離れない。そう誓ったのだ。
「あなた達、どうして・・・。」
納得できていないフィリア。
「そりゃ困ってる人が目の前にいるならば助けるのが道理だろ?」
当たり前のことを何いっていると言うと諦めたのか呆れたのか一呼吸はいて少し、笑顔になっていた。
「ほんと・・・不思議な人たちね。」
それでもはじめに見せていた不安の顔はなくなっていた。
同時刻ホロウエリア、とある洞窟内。
「ボス、獲物ですぜ。」
「う・・・ぁ・・・。」
朦朧としている一人の男を二人の顔をニヤケさせた男達が抱えていた。そして岩の上に座る一人のフードをかぶった男が巨大な包丁を男に近づける。
「イッツ、ショウタ~イム・・・。」
皆様ごきげんよう。
再び出てきたプーさん。原作よりも丸くなってます。
ホロウエリアのフード男はあのセリフを言ってますから誰だかバレバレですな。
じゃあどうしてホロウエリアに? そもそもホロウエリアとは?
謎が深まるばかり。後半戦は始まったばかりです。これからもよろしくお願いいたします。