初見の方は出来れば本編をご覧になってから、お読みください。
「キーリートー!」
オラクル騎士団ギルド拠点内部の大会議室にてクラインの悲鳴が大音量で流れた。
「どうしたクライン・・・。いいから離れろ。」
泣きながらキリトにクラインが抱きつき、それを嫌そうに離れるキリト。この場いるのは自分とアークスメンバー男性。
それからオラクル騎士団の男性、それから怪物兵団男性が大会議室にて今後の作戦を練っていた最中だった。
「俺、サラになにか悪い事しただろうか・・・。サラの所に行ったら追い出されたんだ・・・。今日は会えないって・・・。」
それくらいで泣くか? 自分がクラインの立場になっているところを想像してみた。そんな事シリカに言われたら・・・結構くるな。心臓に悪い。
とはいえ、今日は仕方がない。だって今日は・・・。
「クライン、カレンダーを見ろ。今日は何の日?」
「子(ね)のh。」
「ミケっちは黙ってろ。」
絶対言うだろうなと予測していたのかハヤマが速攻で突っ込む。
「・・・あ。」
それに気づいたのかカレンダーで今日の日付を確認したクラインはようやく落ち着いた。
「そうか・・・。今日は・・・。」
「その通り。だから俺達もこうして追い出されたんだ。」
男性メンバーが全員頷いた。
「全く、そんなに困るもんじゃないだろ。別にいたってさぁ。」
「まぁ仕方ないよ。この日ばかりは女性に譲ろう。タケヤ。」
「とはいうけどよー。」
納得がいかないのかタケヤは反論するも、レンが宥める。
「まさか、私まで追い出されるとはな。私はすでに枯れているというのに。」
「そりゃ、オールドの旦那。あんただって男だと見られてる証拠だぜ。まだまだいけるだろ。こういうときだけ老人になりなさんな。」
オールドの肩をポンと叩いたセンター。
「私のところでも同じような状況だったからな。仕方がないのでこっちに来たのだ。」
手を広げて困った顔をしている隊長アインス。
「女性陣、張り切ってたよね。」
「だね。」
ソウジ、レンも同じ顔をしている。その隣でケイがソワソワしていた。
「でもこれって俺も貰えるって事だよな!? くー・・・! 外だともらえない俺がまともに女の子にもらえるなんて! よかったなGT! 俺達ももらえるぞ!」
「そうあせっちゃダメだ。ゆっくり待ってあげよう。」
やさしい笑顔でケイを落ち着かせるGT。
まぁケイの言うことはわかる。なんだかんだで皆ソワソワしているのだから。アークスを除いて。
「この時期だと、そろそろ火山地帯で緊急任務が発生してるんだろうな。」
「だねー。でも良いことあったっけ?」
「ラブラッピー狩り・・・。いいことねーな。」
ハヤマとコマチも一緒に去年の火山地帯でのイベントを思い出す。
「ラッピーはいいもの落とさないのだー。だから焼き鳥にしてしまうのだー! ・・・とかいってたらおなかすいたのだ! ハヤマ! 何かつくれ!」
「うっせぇ! 自分で何とかしろ!」
それでもなんだかんだでその場で作れそうなお菓子を出してあげる所を見るとハヤマんらしい。ツンデレが。
ふと何かを思い出したのか急に隊長がこちらを見てきた。
「そういえば、オキ君はチョコレートが苦手だったろ? シリカ君は知っているのか?」
「あ? ああ。もちろん言ってるさ。まぁ仮に忘れててチョコレート貰っても頑張って食うけどね。食えないわけじゃないから。」
「ええ!? オキさんチョコダメなんですか!?」
「珍しいですね。アレルギー・・・じゃないんですね? 食べれるって事は。」
「そそ。昔っからチョコ食べると気持ち悪くなってさ。ほんのちょっとでもね。頑張って食べると、腹痛くなってきて・・・。だからこの時期になる前に、女性陣にはチョコダメって言いまくったよ。クッキーのほうなら問題ないってね。」
そう。今日はバレンタイン。この時期になるとオラクル船団は惑星アムドゥスキアのとある場所を龍族達から借りて巨大なイベントを開催する。そのイベントで多数のアークスが集い、フォトンの影響か、それともダークファルスたちもそれに寄って来るからか、ほかの惑星からも訪問者(エネミー)が現れる。それを討伐しながら、宇宙を旅する三姉妹の幻のケーキ屋『ナウラ』が、その時期になるとその周辺に現れるらしくそのケーキ屋を探してアムドゥスキアの火山地帯を走り回る女性陣を守るという、よく分からんイベントだ。ちなみにその混沌とした状況下でドサクサにまぎれてチョコレートを配っている女性達もいるとか。直接渡すと恥ずかしいからと聞いたことがある。
さらに、その時期はラブ・ラッピーと呼ばれるピンク色に毛が生え変わったラッピーも出現し、ラッピーから落とした武器防具にはラヴ・フィーバーと呼ばれる武具改造に必要不可欠な特殊な力が付いているときがある。それを狙って大量発生したラッピーを捕獲するアークスも少なくない。
そんな昔話を隊長や、アークスみんなで笑いながら話していた。
「こんな感じ・・・ですかね?」
「そうそう。後は、それをこーして・・・。」
男性陣が騒いでいる中、同建屋のキッチンでは女性陣がみんなでアスナに教わりながらチョコレートやクッキーなどを作っていた。怪物兵団の女性陣もこちらに来ておりサラ達も混ざって一緒に作成している。
こちらでもオキの苦手な食べ物がチョコという話題で盛り上がっていた。
「でも珍しいわね。チョコがダメなんて。でも食べれないわけじゃないんでしょ?」
「仕方ないですよ。体質なのか良く分からないって言ってましたが、食べれないモノを渡すより、おいしく頂いて貰えるのを渡したいですから。」
オキさんは以前からチョコレートが苦手だとお茶会の時に言っていた。まぁ元々嫌いなものが殆どないオキさんの『進んで食べたくないモノ』の2個うち1個だから覚えていたのもある。
「もう一個って何なの?」
リズベットが聞いてきた。他のメンバーも気になるらしい。
「嫌いなものがない人だと聞いてたけど、以外のものが嫌いだったとは思わなかったわ。」
「もうひとつも聞けたら聞いてみたいです。」
ハナとヒナもミケ用の大量のチョコを作りながらこちらを見ている。ツバキやサクラも興味があるようでこちらを見ていた。
「えっと・・・。」
「オキちゃんはね、ラッピーラーメンっていうオラクル船団の中で食べられる・・・そうねぇ。お湯を入れればすぐに食べられる奴なんだけど、それがダメなんだって。」
綺麗にデコレーションされたチョコレートケーキの仕上げをしながらシンキが笑顔で言った。
「ラッピーラーメン・・・? チキ○ラーメンみたいなものかな?」
「ええ!? あれ、すっごくおいしいのに・・・。」
グレイやシィ達も驚いていた。
「オキは、『トンコツ以外はラーメンといわん!』なーんてよく言ってたわね。口に合わないんだって。」
呆れながらサラも補足する。
「あー・・・だからラーメンを作るときは必ずトンコツって言うのね・・・。納得が言ったわ。 あ、ユイちゃんそこはね・・・こうするの。」
「わー! すごく綺麗にできてます! すごいです! ママ!」
ユイと一緒に愛するキリトへのチョコを作るアスナ。さすが調理スキルS級獲得者である。この中でも一番おいしそうに見える。
「シリカちゃんはクッキーとは別でもうひとつ作るんだったわね?」
「はい。お手伝いお願いできますか?」
アスナは任せてと張り切ってシリカにもうひとつの依頼の作成を手伝った。
「懐かしいな。そんなのもあったあった。」
昔話で盛り上がる大会議室。そこへ勢いよく扉を開けてツバキやサクラ達をはじめ女性陣が入ってきた。
「さぁ男共! 今日はバレンタインなのは知ってるわね! 感謝しなさいよ! この美しくかわいい女性陣があんた達にチョコレートを渡してあげるわ!」
リズベットが先陣を切って大会議室のテーブル上にたくさんの綺麗に包まれたチョコレートを置いていった。
ツバキやサクラもカップケーキを作ったらしく皆に配っていた。
「ほら、感謝しなさい。いい? 義理だからね!?」
「ありがとおおお! おっしゃー!」
「そ、そんなに喜ばなくても・・・嬉しいけど。」
ツバキがタケヤにチョコを渡すとタケヤは大声を上げて喜んでいた。それを目の前で見たツバキは渡したときから赤かった顔が余計に赤くなっている。
「はい、レン君。私からのチョコ。おいしく出来たと思うけど・・・。」
「ありがとう。すごく嬉しいよ。」
すでにいい雰囲気になっているサクラとレン。
「パパー! いつもの感謝をこめて頑張ってママと作りました!」
「おー! えらいぞー!」
愛娘からチョコを渡されて笑顔でユイの頭をなでているキリト。
「キリト君・・・その、はい! うまく出来たと思うけど・・・。」
「ありがとう。アスナ。」
3人で笑いあいながらチョコを作った感想を父親に教える娘。そしてそれを見守る母親。そんな顔をしていた。
「ミケー! はいこれ!」
「チョコなのです!」
たぶんこの中で一番多きな袋を抱えたハナとヒナがミケにチョコを渡していた。
「いっぱいあるから。」
「たっぷり食べてください。なのです。」
「おおー! ありがとーなのだー! いっぱいあってミケは満足なのだ! 一緒に食べるのだー!」
ミケが一緒に食べようと言ってきたので、二人は目を丸くして顔を見合わせて笑顔でミケに頷いた。
「みんないっぱい貰ってるね。」
「そうだな。」
ハヤマと隊長は一緒に騒がしくなった会議室の端で皆を見ていた。
「たいちょー。」
「チョコ・・・。」
「もってきました!」
「む。俺にか。」
グレイたち筆頭に怪物兵団の女性陣が隊長を訪れてきたのだ。ハヤマはこっそりとその場を離れようとしたら。
「ハヤマ殿―!」
シャルがこちらを見つけてきたようだ。ツキミも一緒らしい。
「持ってきたぞ! 愛する人へのプレゼントじゃ!」
「私は普段の感謝をこめて・・・。」
受け取らないわけには行かないが、なんだろう。くすぐったい。
「あ、ありがとう。うれしいよ。」
なんだかんだで嬉しそうな顔をしている。まぁそりゃもらえれば誰だって嬉しいか。
「ほら。チョコレート。せっかく作ったんだから、大事に食べなさいよ。」
「サ、サラー!」
涙を流すクライン。相当嬉しかったと見える。
「な、泣くことないじゃないの。ほら・・・。全くもう。」
呆れながらも嬉しそうに口元だけ微笑んでいるサラ。その後一緒に食べたらしい。
「コマチ。はい。感謝をこめて。」
フィーアが微笑みながらチョコの入った包みをコマチに渡していた。少しだけ他の人よりも大きい気がする。
「ん? 俺か。」
「あら。意外な顔してるわね。それとも貰えない、とでも思ったのかしら?」
「ああ。俺なんかに渡してくれる人がいるなんて思ってなかったからな。」
「なにを言ってるの。いつも感謝してるんだから。渡さないほうがおかしいわ。私は、あなたに感謝してるんだから。」
「そうよー? コマチちゃん? 貰わないと、あとで私が怒るから。」
シンキも一緒にやってきた。どうやらハヤマ達にも配ってきたらしい。
「はいこれ。皆に配ってるものだけど。おいしく食べてね。じゃあ後は二人の邪魔になっちゃうから私は次に行くわねー。ごゆっくり。今夜はお楽しみかしら?」
シンキはぱっと渡して次へといっていた。それを聞いて顔を赤くしているフィーアからのチョコを受け取る。
「ありがとう。こうしてチョコを貰ったのは初めてだな。」
「あら。あなたなら貰ってもおかしくないと思ったのだけれど。それこそ意外ね。」
「まぁ昔からこんな性格だからな。」
そう言いつつも二人で笑いあいながら先ほど話題に出た昔話で盛り上がった。
そんな周囲の状況を微笑みながら(ニヤケながら)見ていたら、シリカが目の前に顔を赤くしてよってきた。
「あの・・・オキさん。これ・・・。クッキーです!」
「おおー。ありがとな。シリカ。」
「えへへー。」
小さな可愛らしい包装で中にクッキーが入っている。よく見ると星の形をしていた。たぶんアークスのマークをイメージしたのだろう。
「キュルゥ・・・。」
「ピナもほしそうに見てるぞ。」
「もちろんピナの分もありますよ。はい!」
「キュル!」
差し出されたクッキーをおいしそうに食べるピナを見て二人で笑顔になった。
その後、いろんな拠点を女性陣らと一緒に皆で回り、お世話になっている人たちへの感謝の意をこめてチョコを配った。
「はい。ディアベルさんにも。」
「おお。ありがたい!」
「ワ、ワイらにも・・・!? 感謝感激雨あられや!」
ディアベルやキバオウにも配っている。皆喜んでいた。
他にもキリトと仲のいい『黒猫団』のメンバーや、その他お世話になったギルドへもあいさつ回りをした。
「おれっちにも!?」
シリカと一緒にアルゴの元を訪れると、渡されたことに驚いていた。どうやらアルゴも準備をしていたらしいが逆に渡されたので不意を付かれたのだ。あの顔は珍しい。覚えておこう。
次の日の夜。
俺は攻略を終えて、自分の書斎でシリカのくれたクッキーを少しずつ食べながら次の攻略の作戦を練っていた。
コンコン
「どうぞ。」
「失礼します。」
シリカが部屋へと入ってきた。手を背中に回し、何かを隠しているのがバレバレである。
「どうした?」
「オキさん。今日が何の日か・・・覚えてますか?」
「今日?」
手に持っているクッキーをふと見る。昨日がバレンタインだ。今日はその次の日・・・いや、16日か。すでに0時を回っている。気づかなかった。しかし、今日はなにかあったっけ?
「ふふふ。その分じゃ何も覚えてないようですね。・・・はい。」
そう言ってシリカは机の上に小さなケーキをおいた。チョコレートで出来たプレートを見て思い出した。
「ハッピーバースディ・・・。」
そうだ。今日は自分の誕生日じゃないか。すっかり忘れていた。
「オキさん。お誕生日おめでとうございます。」
「きゅるぅ!」
シリカの肩に乗っているピナもおめでとうといっているようだ。それを聞いて何かがこみ上げてくる。
「・・・ありがとう。」
シリカとピナを一緒に抱きしめ、感謝の言葉を伝えた。
外はとても寒いが、とても暖かな夜を2人と1匹で過ごした、ある冬の日のお話。
皆様、ハッピーバレンタイン!(二日遅れ)
女性の方は渡せましたか? 男性は貰いましたか?
他の方々も多数バレンタインネタを投稿されており、私も我慢できなくて書いていたら・・・日にちを過ぎてました。
まぁその2日後が私の誕生日だというのもあり、書きたいことを書かせていただきました。(かなり無理やり感あるけどこれが精一杯。ああ、文才がほしい。)
では本編でまたお会いしましょう。