「やっぱりな…。」
全員がその場で固まった。キリトがいきなりヒースクリフの顔面に剣を突き立てたのだ。
本来ならそのまま切られるはずなのだが、剣は顔面の手前で何かに阻まれているかのように止まっている。
「…いつから気づいていたのかな?」
涼しい顔でヒースクリフはキリトに質問した。
「気づいたのはここ最近だったが、そこからはずっと見ていて直ぐに気づいた。あんた…どんな時でもHPが半分以下になってなかったからな。」
「なるほど…。」
「おいおいおい! どういうことだキリト!」
クラインが叫ぶ。つかつかと近づきながらそれを説明してやった。なるほど。よく見ているな。キリト。
「クライン、おかしいと思わないか? どれだけ攻撃されようとも、HPが半減しかしない。それはこのゲームでのルールを無視している。それができるのはたった一人。…ようやく、会えたな。聞きたいことが山ほどあるぜ。茅場彰彦!」
ヒースクリフ、いや茅場に向かって叫ぶ。
「…まさかここでばれるとはね。予想より早かったな。」
「あんたが、このゲームを作った本人で…あってるよな?」
「ああ。私が作った。私が…茅場彰彦本人だ。何もかも予想を超えてくれるね。アークスの諸君。」
「ゲームを終わらせろ。それだけでいい。そしてこちらの質問にも答えてもらおうか。」
ふむ。と一言もらし、ヒースクリフは考え出した。
「…いいだろう。ならば、私との決闘を望む。誰でもいい。私を倒して見せよ。本来、90層突破時点で私が茅場彰彦だと名乗り、ラスボスとして君臨する予定だったのだがな。それが出来なくなった今、ここで決着をつけるのが早かろう。」
この余裕はなんだ? 何かを隠している? まさか、こいつが全員死亡の? いや、1層の時の事を思い出せ。こいつは何も知らない感じだった。顔は見えずとも、声でわかる。ならば別に原因がある可能性が高い。
「…いいだろう。」
「オキさん。俺にやらせてくれ。」
キリトが前に出てきた。
「何言ってんだ。負けたらお前、死ぬんだぞ!?」
「わかってる。だけど、この星の問題を…その原因であるこいつを止めるのは。この星の人間である俺たちだ。オキさん、ここまで連れてきてくれてありがとう。大丈夫。策はある!」
キリトがヒースクリフに向き直る。
「キリト君…。」
「アスナ、すまない。だけど、わかってくれ。」
アスナの頭を撫で、額にキスをして離れた。
「…うん。だけどこれだけは約束して。…絶対、負けないで。」
「ああ。アスナを置いて、ユイを置いて、死ぬわけにはいかない!」
「では…決闘モードを完全決着モードに。」
いままで誰も選択したことのないモード。どちらかのHPが0になるまで終わらない。つまりどちらかが死ぬまで終わらない本当の決闘。
「キリト…最後に一言だけ、アドバイスしといてやる。アークスからの最後の言葉だ。」
「ん。」
キリトの肩を彼の背中側から叩き、気合を入れてやる。
「最後まで…何があっても、諦めるな! 行って来い!」
「!」
モード選択が終わり、カウントダウンが始まる。
3…
2…
1…
0!
「オオオ!」
初手に動いたのはキリトだ。素早くヒースクリフへと走り込み、強烈な突きを放つ。
もちろんそれを予測していたかの様に、盾でガードしたヒースクリフは目の前にいるキリトに切りかかろうとした。
「甘い!」
「!?」
目の前にいるはずのキリトはすでに側面に回っており、両腕で振り上げた二本の剣を振り下げようとしていた。
ガキン!
盾に弾かれる二本の剣。だが、弾かれた動作を利用して横に振られた剣を避けるキリト。
「今のは…シュンカ?」
「ああ。間違いない。」
右手にシリカ。左側にアインスと並び、キリトの動きをみる。
キリトの動き一つ一つがアークスにかぶって見える。動き、スピードに翻弄されるヒースクリフ。いける。
「オキさん…。」
心配そうにこちらを見てくるシリカ。大丈夫だよと頭をひとなでして後ろに下げ、再びキリトの動きをじっと見る。
「ふむ。彼らの動きを取り入れているな。これは…私でも! 厳しいな。」
ガキン!
「しっかり盾で防御してんじゃねーか。相変わらず硬いぜ。」
キリトの攻撃は連撃型だが、ヒースクリフの神聖剣の前ではすべて初撃が弾かれ意味を無くす。だからスピードで翻弄し、隙をうかがっている。あのキリトがここまで成長した。これなら…!
「はぁ!」
「ふん!」
キリトが両手の剣を時間差で交差させる。それをヒースクリフは盾で防御。剣を振るも、キリトの前転により避けられ、そのまま横一閃で足をかすめ切られる。
「回転サクラまで…。」
「ハヤマ君の動きだね。」
彼の吸収能力は高いと思っていた。何を教えても少ない回数でその動きを習得して見せた。
どれだけの技を見せてきた。その数だけ、あいつは…。『黒の剣士』は強くなっている。
あれはコマチの大きく振りかぶる動き。
今のはミケの変幻自在な動き。
おっと、今度は隊長の動きか。
っと思ったら今度は俺か。傍から見ると不思議だが、自分だとすぐにわかる。
「おおお!」
「むぅ…。」
先程の余裕の顔が無くなってきているヒースクリフ。キリトがあそこまで動けるのは予想していなかったのだろう。そりゃそうだ。あそこまで動けるキリトを見たのはこちらも初めてだ。
「いけー! キリトー!」
気が付いたら声を張り上げ、キリトを応援していた。
「まけるんじゃねーぞー!」
「やったれー!」
ハヤマとコマチもそれを見て頷き合い、一緒に声を出した。
「がんばるのだぞー!」
あのミケも拳を握り、ぴょんぴょん跳ねながら応援しだした。
「行け! キリト君!」
隊長は組んでいる腕が震えている。自分も戦いたくて仕方がないんだ。俺だってそうだ。気持ちはわかる。
でも、これはキリトとヒースクリフの戦い。俺たちが出る幕じゃない。
「でやぁぁぁ!」
キリトの18番、『ナイトメア・レイン』。少ない隙で高速の斬撃を繰り出す大技の一つ。
それをしっかりと防御したヒースクリフは技がで終わったのを確認してソードエフェクトを光らせる。
「焦ったね。キリト君? …な!?」
「どっちがだ? ヒースクリフ!」
盾を除け、斬ろうとキリトを見たヒースクリフは驚きの顔を隠せなかった。
「仕掛けた!」
キリトが隠れて練習していた切り札。『ソードスキルキャンセル』。
別名『ジャストアタック』(アークス命名)。
本来ならSSを放った後は硬直が待っている。だが放った後、ほんの数百分の一秒の単位の間、動くことができる。その時間で体を無理やり動かしキャンセル、次のSSにつなげるコンボ技だ。これに気づいたキリトははじめはうまくいかなかったものの、ある程度低い熟練殿SSならつなげることができた。だが、ナイトメアレインから次のSSにつながったことは今まで一度もない。それをできるようにしてきたのか。
「ジ・イクリプス!」
二刀流最後のスキル、奥義『ジ・イクリプス』。
32連撃の超高速斬撃。ナイトメア・レインが16連撃だから合計で脅威の48連撃。
「やっぱ天才だわ…あいつは。」
「オオオ!」
「ぐぅぅ!?」
全ての攻撃がヒースクリフを襲う。HPはみるみる削れていく。間違いなくこの技が放ち終わったとき、ヒースクリフのHPは0になることを確信した。
「終わりだぁぁぁ!」
最後のシメ。二本同時に突き刺そうとしたときだ。
ゴゴゴ
「!?」
「なに!?」
「おおお…ゆれるゆれる。」
「地震か!?」
地面が急激に揺れ、キリトの技は不発に終わる。ヒースクリフのHPもぎりぎり残っていた。
「これは…まずい!」
ヒースクリフが宙を見て、何かに驚いている。そして、光となって消えていった。
「待て! 茅場! まだ、まだ終わってないぞ!」
キリトがそれに向かって走るが、それもかなわずヒースクリフは完全に消えた。
地面はまだ揺れている。
「一体…まさか、これが原因!?」
75層でのプレイヤー一斉死亡。その文字が頭をよぎった。
「シャオ! どうなってやがる!」
そうだ。とにかくシリカを守らないと。そう思い近づこうと走り出したときだ。
ゴゴゴゴ!
「何!?」
「オキさん!」
自分の体の真横から急激な吸引力を感じた。何かに吸われている。逃げれそうにない。これは・・・助からんな。
「はやまーーーん! たいちょおおお!」
ハヤマとアインスに向かって人指し指を向ける。
「頼んだ。」
二人が走ってくる。だが、間に合わない。シリカもその後ろからこちらに走ってきているのが見えたが、すぐに目の前は真っ暗になった。
「ん。」
目が覚めた。周囲は森。自分を確認。
「オキ。アークス。SAOに紛れ込んだイレギュラー。シリカ大好き。…よし。」
自分が誰なのかは把握できた。どうやら森のど真ん中で寝ていたらしい。
目の前にはHPバーとSPバー。メニュー画面とアイテム関連も確認してみた。
「全部ある。あの直後だと断定。・・・うん。ラストアタックボーナスの品みっけ。」
装備欄に入っていた、キリトがヒースクリフに剣を突き立てた為詳しくは見なかった一品。
「ふむ。かなりいいね。」
70層あたりで新調した『十文字朱槍』。それよりも赤く、なおかつ何も装飾のついていない槍らしい槍。紅く染まる魔槍。
「『ゲイ・ボルク』か。うん。使いやすい。軽すぎず、重すぎず。手になじむね。」
ステータスもさすが75層のラスアタ武器。見たこともないステータスの数値だ。これなら最後までいけるんじゃないかと思うくらいだ。装備した瞬間に青いタイツきたカッコいいおにーさんを思い浮かんだが気にしなかった。
装備を確認、整え、再び周囲を確認する。
「地図を見てもここがどこだかわからない。わかるのは『ホロウエリア』という場所か。」
マップを開くと、普段なら『アインクラッド○層 ××エリア』と書かれているのが、『ホロウエリア』と書かれていた。
「・・・メールは、飛ぶかな?」
念のため、生きていることと現在どこにいることを文章に書き、シリカをはじめ、ギルドのメンバーに送った。
たのむ! 送れてくれ!
「・・・お?」
返事はすぐに返ってきた。返ってきたのはシリカのメール。
『オキさん! 無事でよかったです…。ほんとに…心配したんですから…。ホロウエリアというのがどこにあるかは私たちもわかりません。今は76層のアクティベートが終わったところです。念のため、皆さんでまた75層のボス部屋に行って調査をする予定です。無理なさらず、必ず帰ってきてください。』
と、あっちの現状を教えてもらった。あっちでも観測できていないようだ。シャオならわかるだろうから任せるとした。
ガサガサ
「あ?」
近くの草むらが音を鳴らす。索敵スキルにも反応があった。
「プレイヤーか? おい、誰かいるのか?」
「!」
どうやらこちらが気づいた事に反応したらしく、音が静まる。そしてその直後。
「うあああああ!」
「なに!?」
ダガーを振り上げ、飛び掛ってきたのは一人のオレンジカーソルをつけた少女だった。
皆様ごきげんよう。
年末手前に知人に薦められた『ガルパン』にすっかりはまりました。
日曜日に立川の爆音上映見てきます。これで映画は通算4回目。何度見ても設定描写が細かすぎて見きれません。
(ガルパンはいいぞ。
さて、EP4ですよ! EP4!
サモナー超楽しい。いろいろ手間隙かかりそうですが、なかなか新鮮で今までにない遊び方でした。
東京も細かく、敵も多種多様なので、しばらく楽しめそうですね。
最後に、これからのストーリーは予定通り『ホロウフラグメント』編でお送りいたします。
75層での地震と飛ばされたオキ。そしてそこで襲ってきた一人の少女。
SAO ~ソードアークス・オンライン~ これからもよろしくお願いいたします。