SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

43 / 151
第42話 「裏の顔を持つ男」

「やっぱりな…。」

 

全員がその場で固まった。キリトがいきなりヒースクリフの顔面に剣を突き立てたのだ。

本来ならそのまま切られるはずなのだが、剣は顔面の手前で何かに阻まれているかのように止まっている。

 

「…いつから気づいていたのかな?」

 

涼しい顔でヒースクリフはキリトに質問した。

 

「気づいたのはここ最近だったが、そこからはずっと見ていて直ぐに気づいた。あんた…どんな時でもHPが半分以下になってなかったからな。」

 

「なるほど…。」

 

「おいおいおい! どういうことだキリト!」

 

クラインが叫ぶ。つかつかと近づきながらそれを説明してやった。なるほど。よく見ているな。キリト。

 

「クライン、おかしいと思わないか? どれだけ攻撃されようとも、HPが半減しかしない。それはこのゲームでのルールを無視している。それができるのはたった一人。…ようやく、会えたな。聞きたいことが山ほどあるぜ。茅場彰彦!」

 

ヒースクリフ、いや茅場に向かって叫ぶ。

 

「…まさかここでばれるとはね。予想より早かったな。」

 

「あんたが、このゲームを作った本人で…あってるよな?」

 

「ああ。私が作った。私が…茅場彰彦本人だ。何もかも予想を超えてくれるね。アークスの諸君。」

 

「ゲームを終わらせろ。それだけでいい。そしてこちらの質問にも答えてもらおうか。」

 

ふむ。と一言もらし、ヒースクリフは考え出した。

 

「…いいだろう。ならば、私との決闘を望む。誰でもいい。私を倒して見せよ。本来、90層突破時点で私が茅場彰彦だと名乗り、ラスボスとして君臨する予定だったのだがな。それが出来なくなった今、ここで決着をつけるのが早かろう。」

 

この余裕はなんだ? 何かを隠している? まさか、こいつが全員死亡の? いや、1層の時の事を思い出せ。こいつは何も知らない感じだった。顔は見えずとも、声でわかる。ならば別に原因がある可能性が高い。

 

「…いいだろう。」

 

「オキさん。俺にやらせてくれ。」

 

キリトが前に出てきた。

 

「何言ってんだ。負けたらお前、死ぬんだぞ!?」

 

「わかってる。だけど、この星の問題を…その原因であるこいつを止めるのは。この星の人間である俺たちだ。オキさん、ここまで連れてきてくれてありがとう。大丈夫。策はある!」

 

キリトがヒースクリフに向き直る。

 

「キリト君…。」

 

「アスナ、すまない。だけど、わかってくれ。」

 

アスナの頭を撫で、額にキスをして離れた。

 

「…うん。だけどこれだけは約束して。…絶対、負けないで。」

 

「ああ。アスナを置いて、ユイを置いて、死ぬわけにはいかない!」

 

「では…決闘モードを完全決着モードに。」

 

いままで誰も選択したことのないモード。どちらかのHPが0になるまで終わらない。つまりどちらかが死ぬまで終わらない本当の決闘。

 

「キリト…最後に一言だけ、アドバイスしといてやる。アークスからの最後の言葉だ。」

「ん。」

 

キリトの肩を彼の背中側から叩き、気合を入れてやる。

 

「最後まで…何があっても、諦めるな! 行って来い!」

 

「!」

 

モード選択が終わり、カウントダウンが始まる。

 

3…

2…

1…

0!

 

「オオオ!」

 

初手に動いたのはキリトだ。素早くヒースクリフへと走り込み、強烈な突きを放つ。

 

もちろんそれを予測していたかの様に、盾でガードしたヒースクリフは目の前にいるキリトに切りかかろうとした。

 

「甘い!」

 

「!?」

 

目の前にいるはずのキリトはすでに側面に回っており、両腕で振り上げた二本の剣を振り下げようとしていた。

 

ガキン!

 

盾に弾かれる二本の剣。だが、弾かれた動作を利用して横に振られた剣を避けるキリト。

 

「今のは…シュンカ?」

 

「ああ。間違いない。」

 

右手にシリカ。左側にアインスと並び、キリトの動きをみる。

 

キリトの動き一つ一つがアークスにかぶって見える。動き、スピードに翻弄されるヒースクリフ。いける。

 

「オキさん…。」

 

心配そうにこちらを見てくるシリカ。大丈夫だよと頭をひとなでして後ろに下げ、再びキリトの動きをじっと見る。

 

「ふむ。彼らの動きを取り入れているな。これは…私でも! 厳しいな。」

 

ガキン!

 

「しっかり盾で防御してんじゃねーか。相変わらず硬いぜ。」

 

キリトの攻撃は連撃型だが、ヒースクリフの神聖剣の前ではすべて初撃が弾かれ意味を無くす。だからスピードで翻弄し、隙をうかがっている。あのキリトがここまで成長した。これなら…!

 

「はぁ!」

 

「ふん!」

 

キリトが両手の剣を時間差で交差させる。それをヒースクリフは盾で防御。剣を振るも、キリトの前転により避けられ、そのまま横一閃で足をかすめ切られる。

 

「回転サクラまで…。」

 

「ハヤマ君の動きだね。」

 

彼の吸収能力は高いと思っていた。何を教えても少ない回数でその動きを習得して見せた。

どれだけの技を見せてきた。その数だけ、あいつは…。『黒の剣士』は強くなっている。

 

あれはコマチの大きく振りかぶる動き。

 

今のはミケの変幻自在な動き。

 

おっと、今度は隊長の動きか。

 

っと思ったら今度は俺か。傍から見ると不思議だが、自分だとすぐにわかる。

 

「おおお!」

 

「むぅ…。」

 

先程の余裕の顔が無くなってきているヒースクリフ。キリトがあそこまで動けるのは予想していなかったのだろう。そりゃそうだ。あそこまで動けるキリトを見たのはこちらも初めてだ。

 

「いけー! キリトー!」

 

気が付いたら声を張り上げ、キリトを応援していた。

 

「まけるんじゃねーぞー!」

 

「やったれー!」

 

ハヤマとコマチもそれを見て頷き合い、一緒に声を出した。

 

「がんばるのだぞー!」

 

あのミケも拳を握り、ぴょんぴょん跳ねながら応援しだした。

 

「行け! キリト君!」

 

隊長は組んでいる腕が震えている。自分も戦いたくて仕方がないんだ。俺だってそうだ。気持ちはわかる。

 

でも、これはキリトとヒースクリフの戦い。俺たちが出る幕じゃない。

 

「でやぁぁぁ!」

 

キリトの18番、『ナイトメア・レイン』。少ない隙で高速の斬撃を繰り出す大技の一つ。

 

それをしっかりと防御したヒースクリフは技がで終わったのを確認してソードエフェクトを光らせる。

 

「焦ったね。キリト君? …な!?」

 

「どっちがだ? ヒースクリフ!」

 

盾を除け、斬ろうとキリトを見たヒースクリフは驚きの顔を隠せなかった。

 

「仕掛けた!」

 

キリトが隠れて練習していた切り札。『ソードスキルキャンセル』。

 

別名『ジャストアタック』(アークス命名)。

 

本来ならSSを放った後は硬直が待っている。だが放った後、ほんの数百分の一秒の単位の間、動くことができる。その時間で体を無理やり動かしキャンセル、次のSSにつなげるコンボ技だ。これに気づいたキリトははじめはうまくいかなかったものの、ある程度低い熟練殿SSならつなげることができた。だが、ナイトメアレインから次のSSにつながったことは今まで一度もない。それをできるようにしてきたのか。

 

「ジ・イクリプス!」

 

二刀流最後のスキル、奥義『ジ・イクリプス』。

 

32連撃の超高速斬撃。ナイトメア・レインが16連撃だから合計で脅威の48連撃。

 

「やっぱ天才だわ…あいつは。」

 

「オオオ!」

 

「ぐぅぅ!?」

 

全ての攻撃がヒースクリフを襲う。HPはみるみる削れていく。間違いなくこの技が放ち終わったとき、ヒースクリフのHPは0になることを確信した。

 

「終わりだぁぁぁ!」

 

最後のシメ。二本同時に突き刺そうとしたときだ。

 

ゴゴゴ

 

「!?」

 

「なに!?」

 

「おおお…ゆれるゆれる。」

 

「地震か!?」

 

地面が急激に揺れ、キリトの技は不発に終わる。ヒースクリフのHPもぎりぎり残っていた。

 

「これは…まずい!」

 

ヒースクリフが宙を見て、何かに驚いている。そして、光となって消えていった。

 

「待て! 茅場! まだ、まだ終わってないぞ!」

 

キリトがそれに向かって走るが、それもかなわずヒースクリフは完全に消えた。

 

地面はまだ揺れている。

 

「一体…まさか、これが原因!?」

 

75層でのプレイヤー一斉死亡。その文字が頭をよぎった。

 

「シャオ! どうなってやがる!」

 

そうだ。とにかくシリカを守らないと。そう思い近づこうと走り出したときだ。

 

ゴゴゴゴ!

 

「何!?」

 

「オキさん!」

 

自分の体の真横から急激な吸引力を感じた。何かに吸われている。逃げれそうにない。これは・・・助からんな。

 

「はやまーーーん! たいちょおおお!」

 

ハヤマとアインスに向かって人指し指を向ける。

 

「頼んだ。」

 

二人が走ってくる。だが、間に合わない。シリカもその後ろからこちらに走ってきているのが見えたが、すぐに目の前は真っ暗になった。

「ん。」

 

目が覚めた。周囲は森。自分を確認。

 

「オキ。アークス。SAOに紛れ込んだイレギュラー。シリカ大好き。…よし。」

 

自分が誰なのかは把握できた。どうやら森のど真ん中で寝ていたらしい。

 

目の前にはHPバーとSPバー。メニュー画面とアイテム関連も確認してみた。

 

「全部ある。あの直後だと断定。・・・うん。ラストアタックボーナスの品みっけ。」

 

装備欄に入っていた、キリトがヒースクリフに剣を突き立てた為詳しくは見なかった一品。

「ふむ。かなりいいね。」

 

70層あたりで新調した『十文字朱槍』。それよりも赤く、なおかつ何も装飾のついていない槍らしい槍。紅く染まる魔槍。

 

「『ゲイ・ボルク』か。うん。使いやすい。軽すぎず、重すぎず。手になじむね。」

 

ステータスもさすが75層のラスアタ武器。見たこともないステータスの数値だ。これなら最後までいけるんじゃないかと思うくらいだ。装備した瞬間に青いタイツきたカッコいいおにーさんを思い浮かんだが気にしなかった。

 

装備を確認、整え、再び周囲を確認する。

 

「地図を見てもここがどこだかわからない。わかるのは『ホロウエリア』という場所か。」

 

マップを開くと、普段なら『アインクラッド○層 ××エリア』と書かれているのが、『ホロウエリア』と書かれていた。

 

「・・・メールは、飛ぶかな?」

 

念のため、生きていることと現在どこにいることを文章に書き、シリカをはじめ、ギルドのメンバーに送った。

 

たのむ! 送れてくれ!

 

「・・・お?」

 

返事はすぐに返ってきた。返ってきたのはシリカのメール。

 

『オキさん! 無事でよかったです…。ほんとに…心配したんですから…。ホロウエリアというのがどこにあるかは私たちもわかりません。今は76層のアクティベートが終わったところです。念のため、皆さんでまた75層のボス部屋に行って調査をする予定です。無理なさらず、必ず帰ってきてください。』

 

と、あっちの現状を教えてもらった。あっちでも観測できていないようだ。シャオならわかるだろうから任せるとした。

 

ガサガサ

 

「あ?」

 

近くの草むらが音を鳴らす。索敵スキルにも反応があった。

 

「プレイヤーか? おい、誰かいるのか?」

 

「!」

 

どうやらこちらが気づいた事に反応したらしく、音が静まる。そしてその直後。

 

「うあああああ!」

 

「なに!?」

 

ダガーを振り上げ、飛び掛ってきたのは一人のオレンジカーソルをつけた少女だった。




皆様ごきげんよう。
年末手前に知人に薦められた『ガルパン』にすっかりはまりました。
日曜日に立川の爆音上映見てきます。これで映画は通算4回目。何度見ても設定描写が細かすぎて見きれません。
(ガルパンはいいぞ。

さて、EP4ですよ! EP4!
サモナー超楽しい。いろいろ手間隙かかりそうですが、なかなか新鮮で今までにない遊び方でした。
東京も細かく、敵も多種多様なので、しばらく楽しめそうですね。


最後に、これからのストーリーは予定通り『ホロウフラグメント』編でお送りいたします。
75層での地震と飛ばされたオキ。そしてそこで襲ってきた一人の少女。
SAO ~ソードアークス・オンライン~ これからもよろしくお願いいたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。