SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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75層へと足を進めた攻略組。
とうとう最後のクォータポイントのボスを目の前にする。


第41話 「ファルス・アンゲル」

74層のボスは強敵だった。

ザ・スカル・リーパー。名前すべてが大文字のアルファベットに加え、『The』が頭にくるという、エネミーの強さを表すすべての要素が、クォータポイント以外で初めて現れた。また、74層のエリアボスの大ボス部屋は一度入ると二度と出られない仕様となっていた為、後援部隊が参加できなくなった事も踏まえる。

更に、敵の素早さが異常に高く、また真正面の防御力も今まで以上に硬い。火力の最も高いコマチやアインスのスキルが思う以上に使えるタイミングが無く、長引いてしまったこともある。

骨だけの巨大な姿を持ち、体の半分はあるだろう巨大な鎌。尻尾には鋭い針のようなものを持ち、キリトら曰く

『カマキリと蠍を混ぜたような存在』

だと言っていた。

ともあれ、スピード勝負ならば負けないと一番頑張ったのはどこでも走り回れるユニークスキル『フリーダム』を持つミケと、直前の強敵『デスサイズ・ヘル』と対峙したアスナだった。

アスナはあの死神型エネミーとの対峙後、自分のスキル欄に新たなユニークスキルが発動している事に気づき、エリアボス討伐直前までにキリトに協力してもらい徹底的に実戦レベルまで鍛え上げた。

ユニークスキル『神速』。

一定時間、目にも止まらぬ速さを持つに加え、細剣による強力な突進力と合わさった突きのスキル。

これら二つの攻撃系ユニークスキルと、相変わらず絶対防御を誇る『神聖剣』の持ち主ヒースクリフの徹底的な防御術のおかげで時間はかかれど討伐する事に成功。またあれだけの猛攻を受けたにも拘らず一人も犠牲者を出さなかったのは皆の腕もかなり上がったからだと結論付けた。

そして、ユニークスキル保持者は自らのスキルを上達させ、その他プレイヤー達も足りないと感じた部分を徹底的に伸ばし、とうとうアインクラッド最後のクォータポイント75層のエリアボスへと到達した。

『第75層エリアボス討伐作戦会議』

そう書かれた『オラクル騎士団』ギルドホーム大会議室。

ユニークスキルを持ったメンバー及び、今回参加するメンバー全員を集め、情報共有を行った。

「みな集まってくれて感謝する。知っての通り75層のエリアボスの部屋が見つかった。オキ君。説明を」

ディアベルのいつも通りの挨拶は、普段よりも重々しい声となって部屋に響く。

「あいよ。75層の大ボスの情報をまとめたところ、25層、50層と同様。我々イレギュラーズこと、アークスの敵『ダークファルス』の可能性が高いと推測した。」

ダークファルスの名前が出てきて周囲がざわつき始める。ハヤマが手を挙げた。

「はいはーい。どっち?」

「まぁ、あわてなさんな。見つかってから情報収集に専念してもらったタケヤ達が持って帰ってきた情報で確信が出来た。黒と金色の巨大な6枚の翼。鳥人系エネミー。眷属を使役し、さらに自爆させる。氷の力を飛ばして来たり、そして止めの『闇の頂点に立つ存在』。アークス各位はここまで…こなくても最初で察しが付くか。」

アークス全員からため息が出てくる。

「やっぱあれなのかー。」

「めんどくせー…。」

ミケとコマチが唸り、ハヤマやアインスも苦い顔をしている。

「プレイヤー側にも分かる様に説明するね。俺たちが次に相手するのは、オラクル船団を乗っ取り、宇宙の全知であった原初の星であり、かつてアークスシップ全てを束ねていたマザーシップ内の中心に存在する『シオン』を取り込み、自ら全宇宙の全知となろうとしたバカな存在『ダークファルス【敗者】(ルーサー)』。それの人間大形態である『ファルス・アンゲル』。俺たちに最も因縁のあるダークファルスだと言ってもいいだろう。」

ルーサーのダークファルス形態での人型『ファルス・アンゲル』。オキも対峙するのはあの旧マザーシップでの決闘以来だ。それを思い出し、拳を握る。

「アンゲルの動きを徹底的に皆に覚えてもらう。【巨躯】の時を考えると、同様にほぼ同じ状況で来るだろう。そう考えると100層のラスボスもなんとなく察しが付くが、まずは目の前の敵を何とかしよう。」

「「「了解!」」」

プレイヤー達は強力な味方の声に応じた。

夜、自分の書斎の机で最後の確認のために対策と作戦を練っていた。

「基本前にはアークスで、後方に火力支援と…HPバーは多分5…あいつの動きからして2でこれ、3で…。」

羊皮紙にカリカリと相手の動きをかいていく。

コンコン

扉の音が鳴った。多分シリカだろう。

「オキさん、起きていますか?」

「うん。入っていいよ。」

やはりシリカだった。

「もう寝たのかと思ってた。」

「オキさんが来なかったので。明日の、ですか?」

「ああ。75層は、ただのクォータポイントじゃないからな。」

おいでおいでして、シリカを自分の膝の上に乗せる。

「えへへ~。」

シリカの頭を撫でてあげると顔がゆるみ、気持ちよさそうに笑顔になる。

「75層は、何が起きるか分からない。初めて出会った時…いや、2回目か。アークスの説明をした時に教えた通り、ルーサーの予測では75層到達時に全員が死ぬという答えしか出なかった。だが、今回は俺たちがいる。絶対に何があっても阻止してやる。」

ぎゅっと後ろからシリカを抱きしめる。シリカもこちらの手に自分の手を乗せた。

「オキさんと出会えて、みなさんと冒険して。本当によかったです。楽しくて、面白くて、恥ずかしくて、うれしくて…。」

「そうだな。いろいろあったもんな。この2年無いという短い期間だったが本当に濃い時間だった。これからも頼むぜ。大好きな小さき相棒さん。」

ぽんぽんと頭を軽くたたくとシリカはこちらを向いて笑顔でうなずいた。

「はい! これからもよろしくお願いします! 私も大好きです…。オキさん。」

じっと見つめ、ゆっくりと目を瞑るシリカ。俺はそれに答える様にそっと唇を重ねた。

75層、エリアボス部屋大扉前。

現在トップ戦力であるユニークスキル持ち及びアークス勢。そしてそれに次ぐレベルや腕を持つ各トップギルドの最高戦力がその場に集まった。

「ふぅ~…。」

喫煙者たちはその集まりから少し離れ、大仕事前の一服をしていた。

「とうとうきちまったか。」

「だな。ルーサーの置き土産。ここですべてが分かる。」

コマチと話をしている所にセンターが寄ってきた。

「例の全員が死ぬ結果の話ですよね?」

「ああ。あの結果は2年と半年近くかかっているが、今の所みんなのおかげで半年以上早まっている。これで時間のせいなのか、場所のせいなのか。何が起きていたのか。はっきりする。」

「万が一の場合は、シャオ殿の手を借りる。それでよかったな?」

オールドも近寄ってきた。それに頷く。

「うん。ここからは内部、外部。SAOにつながる全てをシャオが観測する。万が一何かあった場合すぐさま演算、対処するという話だ。今の所予測はいくつかできているらしく、100層クリアが目的だから何が何でも俺たちを守ってくれるとさ。」

シャオの言葉をつながって居るユイが代行で伝えてくれたのは何が何でもアークス含めプレイヤー全員を100層へ到達、クリアさせることを最優先に動いてくれるそうだ。アークスシップ全てを管理するシャオの演算能力が足りるかと聞いたが、シップ一つ管理し、動かす能力よりも少ない演算でいいらしい。流石シャオだ。

「あ、そうだ。はやまーん!」

攻略メンバーの最前列にいるハヤマに声をかけた。万が一が考えられる。必要な事はさせておかないと。

「なにー?」

「ここから先、何が起きるか分からねーから、今のうちにシャルとやることやっとけよー!」

「んな! なんでこんなところでやらなきゃならねーんだよ!」

その場の全員が大爆笑する。

「大丈夫! 時間は取らせるから! ねぇみんな?」

「「「イエー!」」」

「うっせ! ばか! そんなオキさんはちゃんとしたのかよ! そのやること!」

「やったよー? ぎゅっとして~、なでなでして~…。」

「わー! わー!」

そばにいたシリカが顔を真っ赤にして大声で俺の言葉を遮る。うん。和んだかな。

「よっし。冗談はそれくらいにして…。」

「本当に冗談か…?」

ハヤマがこちらをにらんでくるが気にしない。

「ディアベル任せた。」

「了解だ。では、諸君。とうとう最後のクォーターポイントだ。作戦は先日オキ君から伝えた通りで行う。また、74層のエリアボス時と同様、一度入ると終わるまで出れない可能性が高い。扉を開けたら速やかに各自持ち場に展開。その後各PTリーダーの指示に従う事。ここまで来れたのはイレギュラーズ…いや、アークスのメンバー諸君のおかげだ。本当に感謝する。」

ディアベルが頭を下げてくる。

「いいって。俺たちはやる事をしたまで。むしろ逆に感謝しなければならない。俺たちだけじゃここまで来れなかっただろう。皆の力と諦めない心があったからこそ、ここまで来れたというモノ。…この先何が起きるか分からない。なにが起きてもあわてず、HPが0にならないように気を付けるだけでいい。それ以外はイレギュラーズに任せろ。いいか!」

「「「おおー!」」」

士気は高まった。ディアベルに目で合図を送る。

「さぁ! いくぞ、諸君! 最後のクォータポイント! 必ず、勝って上を目指す! そして必ず一人も欠けずに生還するぞ!」

「「「おおおー!!!」」」

声を張り上げ、気合を入れる。その場にいた全員が心を一つにし、最上階クリアを目指して最後のクォータポイント、75層エリアボスへの大扉を開けた。

開いた後、各担当する場へそれぞれが移動。ボス部屋は今迄通りの迷宮区1層分丸々使われた広いなにも無い部屋。

全員が入ったのを確認し、扉が閉まる。

そしてあの声が部屋に響く。因縁のあるあの声、それでいて懐かしいあの声。それを聞いてアークスを始め前衛部隊が武器を構える。

『全事象演算終了…。』

赤黒い渦が広間中央の空中に渦巻き、そこから巨体が現れる。

背中に広がる巨大な6枚の黒翼、金色の甲冑のような甲殻。獣のような顔。自分たちの何倍も大きな人型の体。

ダークファルス【敗者】、人間大形態。

『解は、でた…。』

「アンゲル、やっぱりか。HPは5本! 長期戦になるぞ! 全員気合入れるぞ!」

「「「おおおお!」」」

75層、エリアボス『ザ・ファルス・アンゲル』戦、開始。

オラクル騎士団ギルド拠点の大会議室。そこに一人の少女が椅子に座って上を見ていた。

「エリアボス、『ザ・ファルス・アンゲル』出現。戦闘開始です。」

『こちらでも確認したよ。全く、ここまで一緒にしてくるなんて。』

頭に響くシャオの声。脳裏にSAO内ではない、本物の『ファルス・アンゲル』の情報も入ってくる。

「レベル、ステータス共に総合評価から見てパパ達の方が上です。これなら…。」

ユイは『ザ・ファルス・アンゲル』のデータの照合とキリト達のステータスを見比べる。総合的に見て間違いなく、ボスよりも皆の方が強いのは明らかだ。

『油断はできない。それに、一番の問題はこの後だ。』

「はいです。」

油断は禁物。シャオから入ってくるデータを一つ一つ確認し、彼らアークスの成し遂げようとしていることを願った。

『調和波動子、消失自壊』

アンゲルが突進してくる。そしてその衝撃波で前衛にいたプレイヤー達が吹き飛んだ。

「くっそ…。」

「はやい!?」

「怪我した奴らはすぐに後ろへ! HPの余裕があってもここがクォータポイントだという事を忘れるな! 最前のメンバーは下がる味方に攻撃がいかないようにヘイトを!」

ディアベルが中央で指揮をとる。それに従うようにハヤマの刀がアンゲルのスカート部に斬撃を入れる。

「やらせないよ!」

「WB(ウィークバレット)ほしい。」

「同感なのだー。」

「「ないもんは無い。」」

コマチとミケの欲求あるセリフに、アインスと同時にツッコミを入れる。

「んなこと言ったら、俺だってワイヤーほしいワイ。」

「5点。」

「0点。」

「5点。」

「厳しいな!おい!」

クライン、キリト、コマチから点数を貰いつつ

「いいから切れ!」

ハヤマから突っ込みを貰う。うん。いつも通りの戦い方。何も変わってないし、これで平常運転。

『僕は検算中だ、始末しろ。』

アンゲルの周囲に鳥系の雑魚がわらわらと沸く。

次の瞬間にはキリトの二刀流範囲攻撃型SSにて沸いた雑魚が一掃された。

「そぉれ!」

この間はアンゲルの動きが鈍くなる。チャンスだ。ここぞとばかりにSSをかまし5連撃の突きをお見舞いする。

それに続き、周囲のアークス、プレイヤー達も作戦通りの順にSSを入れていく。

『よくやった。用済みだ。』

「おめーが用済みなんだよ!」

ハヤマの『五月雨』、そしてアインスの溜めに溜めた一撃がアンゲルに降り注ぐ。

斬!

流石のアンゲルだろうとなんだろうと、ユニークスキル持ちのプレイヤーに囲まれ、さらにアークスに囲まれ隙を作ったならばそれはただの案山子。的にしかならない。今のおかげでHPバーが1本無くなった。

『式にごみが!? …イレギュラーめ!』 

「羽が二枚折れたぞ! この調子だ!」

「「「おおおお!!!」」」

ディアベルの掛け声と予想より早くHPが削れている事もあり皆やる気に満ち溢れている。

「イレギュラーね…。間違っちゃいないか。」

「確かに。」

アインスとうんうんと頷き合う

『試算完了、プレゼントだ。』

アンゲルが空高くに上がる。それを見て次のパターンに移行したことを確認した。

「氷塊くるぞ! 逃げろ逃げろ!」

アンゲルの頭上に巨大な氷柱が5本生成され、こちらに降り注いでくる。

「うわったー!」

「ちょっとクライン無茶しないで!」

危なくクラインが喰らいそうになるが何とか避けたらしい。サラが心配そうに後方から叫ぶ。

「シリカ、このままの勢いで削りきるぞ。」

「はい!」

アンゲルが下がってきたところを見計らってシリカと同時に怯み効果のあるSSを放つ。

「おおお!」

「はぁぁ!」

『ぐ…!?』

「怯んだのだ!」

真上からミケがアンゲルの顔に向かってダガーを突き立てる。天井を走っていたらしい。それによりクリティカル判定となり、アンゲルが地面に落ちた。

「囲んで全員攻撃! アインス!」

「わかっている。」

アインスはすでに溜めの構えになっている。

「あの戦いを思い出すねぇ。」

すれ違いざまにボソリと言った。あの戦い、アンゲルとの決戦。

「そうだな。しいて言うなら相棒が無い事が残念だ。」

相棒、アインスが長年連れ添い、命を任せてきた彼の愛刀『オロチアギト』。それの事を言っているのだろう。

「いまだ!」

「うむ。」

斬!

ディアベルの号令の元、再びアインスの特大火力がアンゲルに降り注ぐ。何度かこいつと『旧マザーシップ』で闘い、最後の決闘時も本来の姿と戦ったが、ここまで弱弱しいアンゲルも新鮮である。

「こちらが強すぎるのと、そもそも君たちの戦ったモノではないからじゃないかな?」

「ヒースクリフのとっつぁん。そうだね。あれとは違う。あれは…本物の恐怖があった。」

ヒースクリフが近寄ってきた。どうやらまた考えていた事をしゃべっていたらしい。

「それに、強いのはあんたもでしょ? 相変わらずHP減ってないこって。」

「君も同様だと思う…っよ!」

ガキン!

『調和波動子、消失自壊』

アンゲルの攻撃がこちらに飛んでくる。それをヒースクリフの盾が止めた。

「はぁぁ!」

弾き返し、怯んだアンゲルに横一閃を片手剣で入れる。神聖剣、相変わらず硬い。

『波動方程式、展開』

アンゲルは自分の手に持っている小さな扇のようなモノ『タリス』を4個上空へと投げる。

「範囲攻撃だ! 地面をよく見て円の外へ逃げるんだ!」

地面には攻撃の範囲が円状に記される。この範囲内に入らなければ攻撃が当たる事もない。

「今のうちに攻撃し放題ってなぁ! オオオオ!」

コマチのユニークスキル『バーサーカー』が発動する。身体からは湯気のようなものが立ち上り、少しだけ大きくなった気がする。

全力疾走でアンゲルへと近づいたコマチは何度もアンゲルの体を殴りつける。

「ウオオオォォォ!」

「相変わらずうるせぇ…。」

「耳が痛いのだー。」

「でも、私はいいと思うわ。騒がしくても、安心できる声。」

「「「え?」」」

苦笑するに耳をふさいでいるミケに対し、フィーアは微笑みながらコマチを見ていた。

それに対し全員が不思議な顔でフィーアを見る。

「?」

何か変なことでも言ったのかと首をかしげるフィーア。

『関数、置換』

アンゲルは空中を逃げながら、持っているタリスを4つ投げてくる。

それらは全てコマチを狙っている。それを見て俺は叫んだ。

「コマッチー!」

「ふん! 邪魔だ!」

コマチは全て拳で殴り落とした。

『お見事…。』

パチパチと手を叩きこちらを挑発してくるアンゲル。実際にやってくるが、ここまで再現してんのかよ。すげーな。

アンゲルに隙が出来た事を見抜いたキリトとアスナが詰め寄る。

「キリト君!」

「ああ! ナイトメア・レイン!」

「やぁぁ!」

アスナとキリトのSSが同時にアンゲルの側面両方から放たれる。これにより2本目のHPバーも一気に削り取られた。

『ぐぅ…!』

アンゲルの眼が光る。

「アスナ! キリト! 離れろ! 形態変化だ!」

二人のSSの火力が思った以上に高く、二人ともSS後の硬直で固まっている。

「シリカ! 体当たりでもいいから遠ざけろ!」

「はい! アスナさんは私が! ごめんなさい!」

シリカと二人で全力で走り出し、二人に体当たりで無理やり転ばせる。

「間に合え!」

「きゃ!」

「うあ!」

『人間風情が…抵抗するなぁ!』

こちらの体当たりと同時にアンゲルが切れた時に発する攻撃が放たれた。こちらを吸引しつつ次の攻撃につなげる。アークス時であれば体内に吸収したフォトンすらも吸収してしまう恐ろしい技だ。

「ぐぅぅ!」

「っ!」

吸収されまいとシリカと一緒に剣を地面に突き立ててその場にとどまる。

「オキさん!」

「大丈夫か!? シリカ!」

ハヤマとシャルが近づき、直ぐに立たせてくれた。キリト達は若干喰らったようでHPが少し減っている。

一旦離れ、アインス達がヘイトを取っている間に全員で回復をした。

「ありがとう。オキさん。」

「たすかったわ。」

「いいって。あいつの動きをわかっているからこそできた。普通ならできんかった。次は気をつけろ。多分やばい攻撃が残り二つ残ってる。」

こちらの戦力が思った以上に高い。その為にHPバーはみるみる溶けていく。

楽なのはいいが、ゲージ破壊時の直後に来る攻撃に対応が効かない者が多い。

今のところは大丈夫そうだが、地味に皆攻撃を喰らっている。適度な回復が必要だな。

次の攻撃タイミングを見計らっていると、アインスが近寄ってきた。

「オキ君。次の攻撃だが…。」

「ああ、間違いなく回転メギド。他のものは一度下がらせた方が…。 ばか! お前ら出過ぎだ! 下がれ!」

攻撃後の隙を突いて、勢いに乗った多数の人数が同時にSSを放った事によりHPバーが3本目に突入した。

『僕は原初、僕は終末、万事は此処より始まりて、是にて終わる』

アンゲルから複数のタリスが放たれ体の周囲を回転。そこから反時計回りで外側に広がっていく巨大なエネルギー弾が多数広範囲を攻撃しだした。

「離れろ! 離れろ!」 

「確か反時計回りだ!」

「みんな走れ!」

近くにいたプレイヤー達とハヤマ達は何とか、元情報をアークス陣から与えられていた為に逃げることができた。だが、それでも慣れない攻撃と不意をつかれたため、かなりの人数がその攻撃に対応できず、HPを減らしてしまった。

「ハヤマ君! 奴のヘイトを取って皆から離せ! 私とオキ君はそれの援護! コマチ君とミケ君は逃げている人たちに攻撃が回らないように立ち回ってくれ!」

アインスが素早く戦線を保持する為に指揮をする。アークス総出だ。

『収縮、擬似崩壊』

近づき、ヘイトを取ったハヤマへ攻撃が向く。自分の周囲に2回短い炎を巻き、もう一度前方に広く炎を巻く攻撃。

ハヤマは素早くそれを体を反らすだけで避け、攻撃後の隙をついてカタナを振う。

『波動方程式、展開』

「またそれか!」

「数が増えているぞ! 各自気をつけろ!」

コマチとハヤマが叫ぶ。

再び上空に複数のタリスが上がる。先ほどよりも個数が多くなっている。ここも予想通り再現されている。

あいつと全く同じ姿、声…。だが

「あいつの威圧感が全くない! 貴様は偽物にすぎん! 本物は…強かったぞ!」

攻撃の隙をついて腕に巻いたワイヤーをアンゲルの体に巻きつけ、一気に引っ張り近づく。

「オオオ!」

そのままの勢いで槍を胸のコア部に突き立てた。

『グッ!?』

胸を抑え、地面へと落ちるアンゲル。

「ナイスだ。オキ君。」

アインスの巨大な斬撃がアンゲルを真っ二つにぶった切る。

更にそれに対して追い打ちをかける様にディアベル達が攻撃を仕掛ける。

「オオオ!」

「ハァァ!」

『ビッグクランチ・プロジェクト!』

急にアンゲルがその場から消えた。最後の大技だ。HPバーもラストの一本となっている。

「各自落ち着いて行動しろ! 出てくる場所は色でわかる!」

「ビックリランチなのかー。」

「ビックリランチ…じゃない、ビックリ…あーもう! うつったじゃないか! ワープしてくるぞ!」

ミケの言葉についつられてしまった。もうそうにしか聞こえないんだけど…。

中央やや左後方よりに赤黒い渦が発生し、そこにアンゲルが姿を現した。

「レーザーだ! しっかり見て逃げろ! あたるなよ!」

ディアベルが自分も範囲外に逃げながらプレイヤー達の様子を確認する。

アンゲルの前に6つのタリス。そこから交差するように左右から細いレーザーが照射され、そのまま上へと薙ぎ払われる。

「消えた!?」

「二回目だ! くるぞ!」

再び別の場所から現れたアンゲル。プレイヤー達は少しずつ喰らいつつも何とか逃げのびる。

二つの交点からすると…。

「隊長だね。狙ってるの。」

「了解。誘導する。」

ヘイトはやはり高いダメージを与えたアインスに向いているようだ。

アインスはプレイヤーがいない壁際へと走って移動。それについていくようにアンゲルが中央に現れ、アインスを狙う。

『終わりは、斯く示された…。』

特大のレーザーがアインスに向かって放たれる。

ゴォ…!

「ふん…。」

ギリギリまでひきつけ、軽く避けたアインスを確認しつつ、一斉攻撃の合図を出す。

「いまだ! 一気に叩くぞ!」

「「「おおお!」」」

レーザーを撃った後の隙をついて各自が攻撃を仕掛ける。暫く動けないはずだ。

「俺も行きますかね。シリカ、合わせろ。」

「はい!」

同時に走り、アンゲルへと近づく。浮き上がろうとしたアンゲルのコアへシリカがダガーを突き立てる。

「やぁぁ!」

『ぐぅ!?』

怯んだ。このまま一気に叩き潰す!

「落ちろ! アンゲル!」

左右へ槍を振った後に正面へ二回突きを放つ。そして

「オオオ!」

ガン!

宙高く飛んだあとに槍ごと一気に落下。真上から突き立てた。

槍の最終スキル、6連撃SS『ディメンション・スタンピード』。

『これは…僕の臨んだ解ではない…。』

攻撃を喰らった後、少しだけゆっくりと浮き上がったアンゲルは一言もらし、赤黒い渦の中へと消えて行った。

「…終わりか。」

クエストクリアの文字が宙に浮かび上がる。どうやら倒したらしい。

「ふぃ…。やっぱアンゲル、めんどいわぁ…。」

「面倒な攻撃ばっかしてくるからね。」

コマチと二人でタバコに火を点ける。戦いの後の一服がうまい。

「でも楽しかった。」

「うむ。」

ハヤマとアインスは相変わらず戦いを楽しんでいた。

「ハヤマー、はやく帰ってご飯にするのだー。」

ミケはいつも通りである。アークス各位がワイワイとやってるなか、プレイヤー勢はポカンとしていた。

「どうした? 終わったぞ。オラ、締めろディアベル。」

小突いて意識を元に戻してやった。はっと我に返ったディアベルは腕を振り上げた。

「…勝ったぞ!」

その一言で、プレイヤー達も顔に笑顔が戻る。

「「「ぃやったあああ!!!」」」

75層という最難関クォータポイント。その攻略が完了したのだ。全員が腕を上げて喜んでいる。

「お、ラスアタは俺か。なに貰ったかなー。」

「おめでとうございます。オキさん。」

「きゅるぅ。」

シリカもピナも一緒に祝ってくれた。そしてアイテムの欄を確認している最中だった。

ガキン!

「…やっぱりな。」

デカい音がした。そしてキリトの声。全員がシンと静まる。キリトの方を見ると、ヒースクリフの顔面に剣を突き立てようと力を入れているが、何か見えないモノに拒まれている姿があった。




皆様ごきげんよう。
EP4までカウントダウンが入りました。すごく楽しみです。
アニメも好調らしく、新人アークスが増えているとか。もっとふえろー!

アンゲル戦、いかがだったでしょうか。
細かい動きを見るためにソロEXに何度潜ったことか・・・(尚、ステッカーは出なかった模様)
しかしコイツ、アークスとして戦ってもめんどいのに、書くと余計にめんどいですね。こまかすぎぃ! 
さて、運命の分岐点へと差し掛かりました。
一体なにが起きていたのか、これからが本番です。
次回をおたのしみに。

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