SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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1人の少女を森の中で見つけ、自分の家へと連れて帰ったキリト。
彼と、恋人アスナ。二人と少女の運命の出会いが訪れる。


第40話 「ユイの心」

「こんなところに一人だなんて…。」

「ああ。いくらここの階層がエネミーでないとはいえ。」

森の中でみつけた気を失った少女を家におぶって帰り、ベッドに寝かせ次の日の朝。彼女はまだ起きない。

白いワンピースに黒い長いロングストレートの髪。年齢は10歳くらいだろうか。カーソルで確認すると名前は『YUI』と書かれていた。

「ユイちゃん。もし親がいないのならば一人でさみしかったでしょうね。」

アスナがユイの頭をなでる。

「いればいいんだが…。」

1層には10歳にも満たない子供たちの世話をしている人がいるとオキから聞いたことがある。もしかしたら何か知っているかもしれない。そう思っていたところ、ユイが目を覚ました。

「ん…。」

「キリト君!」

「ああ。大丈夫か?」

眼をこすり、キリトとアスナを交互にみる少女。

「ここ…は。」

「ここは22層の俺の家だ。俺はキリト、こっちはアスナ。」

「…。」

「パパとママはどこかにいる?」

もう一度目をこすり再び二人を見るユイ。

「パパ…。」

「へ?」

キリトを指差し、パパと呼ぶユイに目が点になる。

「ママ。」

アスナをママと呼ぶユイ。それを聞いて彼女の親がいない事を確信する。いるのであれば自分達の事を親とは言わない。

アスナ涙を出しながらユイを抱いた。

「…そうよ。私がママよ。」

「ママ…ママ!」

一瞬ポカンとしたが、アスナと同じ気持ちを感じ、ふたりを包み込むように抱く。

グ~…

ユイのお腹が鳴る。それを聞いてユイは顔を赤らめ、皆でほほ笑んだ。

「おなかが空いたのね。すぐに作るわ。」

「そういや俺も腹減ったな。」

朝起きてからずっとユイのそばにいたので朝ごはんをすっかり忘れていた。

アスナはすぐに料理を作り、リビングのテーブルの上に出した。

「さぁ召し上がれ。」

「いただきます。」

「えっと…。」

少し戸惑っているユイ。

「遠慮しなくていいからな。ここはユイの家なんだから。」

ユイの頭をなでると安心したのか笑顔になる。

「そうよ。なんていったってパパとママなんだから。」

「…はい! 頂きます!」

テーブルの上に並んだサンドイッチに手を伸ばし一口食べる。

「んん! おいしいです! ママ!」

「うん! ありがと。ユイちゃん。」

「ママの料理の腕はアインクラッド1だからな。」

「私もそう思います! ママの料理はアインクラッド1です!」

「もー。おだてても何も出ないよ。キリト君。」

「ははは。」

本当の家族のような朝。実際に娘がいたならばこのように幸せな感じなのだろうか。

だが、今はわかる。幸せだ。

「ご馳走様。」

「ごちそうさまでした。」

「お粗末様。ねぇユイちゃん。ユイちゃんはどこから来たの?」

アスナがユイに聞く。ユイはんーっと考え申し訳なさそうな顔をした。

「すみません。わからないんです。どこから来たのか…わかるのは自分がユイという名前だけ。」

アスナと顔を見合わせる。

「どういう事だろう。」

「分からない。うーん…。」

ピコン

頭を全力で回転させ悩んでいる最中にメールの音が頭の中で鳴り響いた。どうやらアスナも同じらしい。

「メール? オキさんからだ。」

ギルド定例会の日だという事をすっかり忘れていた。普段なら欠席しても構わないというオキだが、本日の議題は迷宮区が見つかったという内容なので全員参加する必要がある。

「どうしよう。ユイちゃんを置いていくわけにもいかないし…。」

「連れて行こう。オキさんに事情説明すれば、ギルド拠点に入れてくれるくらいはしてくれると思う。」

流石にダメだとは言わないだろう。そう思いユイに近づいた。

「ユイ。今からパパの仲間の所に一緒に行こうな。」

「はいです!」

お腹いっぱいになったからか、安心したからか、先ほどよりも元気に返事した。

「…お前らいくら愛し合ってるからって子供ははえーんじゃねーか?」

オラクル騎士団ギルド拠点にて、オキさんに事情を説明しようとした時にユイと自分達をみて第一声がそれだった。

「あの、違うの!」

「そうそう。子供はまだ早いのはわかってるから!」

キリトのまだという発言にアスナの顔が真っ赤になる。冗談なのはわかっている為、事情を説明する。

「なるほどな。迷子か。ふむ。迷子の連絡でも流して…おい、その子大丈夫か? フラフラしてるぞ?」

「ユイ? 大丈夫か? ユイ!?」

バタリ

急にフラフラとしだしたユイが気を失ってしまった。アスナがユイを揺さぶるが息が荒く苦しそうにしている。

その時だ。

ジジ・・・

「え!?」

ユイの体にノイズのようなものが走る。目を見開くオキの横に光の集合体が現れた。

「シャオ? どうした。 ちょうどいい。この子が倒れた。何か変なもんでも…。」

「驚いた。ここまで完璧な人工知能まで作り上げていたのか。」

シャオの言葉に皆が驚く。『人工知能』確かにそういった。

一度、オキの家のベッドに寝かせたユイをアスナが見守り、シャオが彼女の本当の姿を説明しだした。

「彼女、ユイはMHCP-001。『メンタルヘルスカウセリングプログラム』と呼ばれる、プレイヤー達の心を守る人工知能だ。」

「人口…知能? ユイちゃんが?」

アスナも俺もシャオからの言葉に驚きを隠せない。

「本来、このバーチャル世界で長期間プレイしていると人の心は負の感情にあたりやすくなることから、彼女、ユイはプレイヤー達のメンタル、つまり精神を安定させるためにプレイヤー達の前に現れては手助けをし、正の感情へと変化させる。だけど、このゲーム開始時からカーディナルから隔離され、プレイヤー達の負の感情ばかりを見せられ、本来の仕事を行う事が出来なかった。そしてここからはあくまで推測だけど、負の感情を治すに治せない。そんなエラーが蓄積していた彼女の前に正の感情を持った二人の前にどうやってかして会いに来た。と、僕は思う。」

「なるほどな。自分の仕事をやるにできない。挙句皆の負の感情、恐れ、怒り等ずっと見て来たんだ。そりゃ…きついわな。」

オキもその話を理解したのかユイの頭をなでる。

「つらかったろうに。…で? 出てこれたならなんでこうやって倒れてる。」

「それが僕が出てきた理由の一つ。今、カーディナルに黙ってもらっているけど、彼女は…ユイはバグの一つとして処理されようとしている。」

「そんな!」

「なんでだよ!」

アスナと同時に叫ぶ。つまりユイは消されようとしているという事。

「元々彼女は隔離されていた。だから何もされなかった。でも今はこうして外に出てきちゃってる。カーディナルの思い通りに進んでない以上はバグとして感知されたんだろう。」

「シャオ、何とかならないのか?」

オキが唸る様ににらんだ。

「そう睨まないでよ。そう思っているだろうと思って僕は出て来たんだから。」

そんなことはさせないとシャオは対策案をだす。

「1層、みんなが黒鉄球って言ってる場所。そこに地下ダンジョンがある。その最深部近くにカーディナルへ直接繋がる事が出来るコンソロールがある。そこへいってほしい。そこで僕が彼女をカーディナルから切り離す。」

シャオはプレイヤーが近くに居なければ実体化できないという。だが、実体化できればコンソロールを使って彼女を消すプログラムを起動できないようにできるらしい。もう少し時間があれば直接自分自身がシステム干渉できるのだが、まだそれが出来ないらしい。

「時間をかけていたら、今はカモフラージュしているけど直ぐに見つかっちゃう。だから時間をかける事は出来ない。これが最善の方法だ。」

「切り離した後、どうなる。」

「…このゲームは攻略と同時に消されるプログラムを見つけた。つまりここと同時に消えることになる。」

それを聞いていても経っても入れなくなって叫んでしまった。

「そんなことさせてたまるか!」

アスナが肩をさする。オキもこちらの頭を軽くたたいた。宥めてくれたのだろうか。

「安心しろ。お前のさっきユイちゃんと一緒にここに来た時の顔。すっげえ幸せそうな顔だった。ユイちゃんも、アスナも。消されるなんてさせるか。シャオ、なんとかできねーか?」

「候補としてはやり要はいっぱいある。確実なのはボクとつなげてオラクル船団内に保存する。」

シャオとつながるならとオキは安堵の顔をしている。だが…それじゃあだめだ。

「いや、シャオ。俺のギアに保存できるか? 空き容量は充分のはずだ。ユイは…俺とアスナをパパ、ママと呼んでくれた、俺とアスナの大事な子供だ。だから…。」

シャオは少し黙って再び口を開いた。

「大丈夫そうだね。今確認した。」

その時、ユイが目を覚ました。

「ユイちゃん! よかった…!」

アスナがユイを抱きしめる。ユイもアスナを抱きしめた。

「ママ…ごめんなさい。心配をおかけしました。そして私が誰なのかを思い出しました。」

ユイは語った。シャオの予想通り、負の感情を干渉しすぎエラーを蓄積したユイは正の感情に気づき、それを確かめるべく会いに来たそうだ。シャオ曰く、彼女が出てこれたのはオキ達アークスが活躍し、皆を負の感情に囚われにくくした為の可能性があるという。もし、アークス達がいなかった場合もっと悲惨な状況になっており、彼女はすぐにでも壊れていたと。

「…ごめんなさい。私は…。」

「いいんだよ。ユイ。ユイがなんであろうと、ユイが望むなら俺はパパでいるし、アスナもママでいる。それにここには頼もしい人たちもいる。安心していい。」

ユイの頭を撫で、抱きしめる。

「パパ…パパ。」

暫く沈黙が流れる。それを切ったのはオキだった。

「ようし。定例会はキャンセルした。1層に向かうぞ。さっさとやってしまおう。」

「オキさん…ありがとう。」

「いいって。俺じゃなく、シャオに言え。」

「ボクはオキの行動を読んでいるだけだよ。オキを怒らせたら怖いからね。」

「おい、そりゃどういう意味だ。」

皆で笑った。

1層。黒鉄球。ここを拠点にしているディアベルら率いるアインクラッド解放軍のギルド拠点を訪れ、皆に状況を説明した。

「なるほど。この子が…。」

「普通のかわいらしい女の子にしか、みえんなぁ。なぁシンカーはん、ユリエールはん。」

「そうですね。普通の女の子だとばかり。」

「私は本当にお二人の子供かと…ほら、髪の毛はキリトさんに、目はアスナさんに似ています。」

幹部のシンカーとその恋人でもあるユリエール。ユリエールの言葉に皆がなるほどーと納得し、アスナと二人で顔を真っ赤にしていた。

「こんど、サーシャはんの所、子供たちの所に連れて行くとええやろ。みんな仲ようしてくれるはずや。」

キバオウは子供好きで、ユイ位の子供たちを世話しているサーシャと呼ばれる人の場所へ行くそうだ。評判をあとで聞いたら中々人気らしい。

「地下への入口は?」

「あそこだ。…む? メールか。失礼。」

ディアベルがメールを確認している最中にオキと一緒に装備の確認をする。

「何が出るか分からん。準備は大丈夫か?」

「ああ。万端だぜ。それにアレも安定してできる様になった。」

「まじか! ようやくだぜ。それを待っていた!」

75層のクォータポイントのボスに対応できる様、オキさん、ハヤマさんと特訓中に考案した技。

初めは全くできなかったが、二人のアドバイスにより、最近ようやく完成の目途が立った切り札。

「オキはん、キリトはん。わいらもお供しまっせ。地下に行けばいくほど、エネミーはつよぉなる。人数が追った方が楽になるやろ。シンカーはんにユリエールはんも大丈夫でっか?」

「うん。大丈夫だよ。お二人にはいつもお世話になってるし。ね。」

「そうね。こういう時こそ、お礼を返さないと。」

3人共武器やアイテムの準備をし出す。

「みな、ありがとう。」

「ありがとうございます…。」

ユイも一緒に頭を下げる。

「ほんま、ええ子やなぁ。ようできとる、ええ子や。」

なんで涙まで流すキバオウ。

「まずいな…。オキくん。そちらを任せてもいいか?」

ディアベルが難しい顔をしてこちらに帰ってきた。何かあったのだろうか。

「74層のダンジョン内でトラップに引っかかったとメンバーから救援要請が入った。今の所大丈夫なようだが、何があるか分からん。すぐに私が向かってくる。」

「なら、俺もいこう。二人でちゃっちゃと片づけて…おめーらに追いつく。地下の敵がどこまで強いかは分からねーが、今のお前達でも攻略ができねーとなると怖いからな。他の面子も呼びたいけど、みんな上だからな。いくぞ。」

「すまない。キバオウ君、シンカー君、ユリエール君。後は頼むぞ。」

「「「了解。」」」

「キリト。あれは決めれる時に打て。硬直時間を計算するのを忘れるな。」

アレの事を言っているのだろう。まかせてと手を振り、オキの背中を見送った。

本来ならユイは危ないので連れて行くのは危険だったが、シャオからの連絡で連れて行く必要があるという。

出来るだけユイを中央に置き、キバオウ達に守ってもらえることになった。

「せっかくや、こんな場所やけど家族団らんでピクニック気分でも味わっときぃ! ワイらに任せときな!」

「キバオウ…。」

感謝でいっぱいだ。ありがとう。

「キバオウさん…こんなダンジョン内でピクニック気分は…。」

ユイは楽しそうだ。アスナと俺の間に入り、右手を俺が、左手をアスナが握り3人横一列で楽しそうに歩く。

その姿を見てシンカーは前言撤回した。

最初の方はエネミーも少なく、レベルも凄く低い。その為高レベル帯であるキリト達には目も向けなかった。

これなら暫くは楽が出来そうだ。

「ん? あれはスカペンジトードやないか。こんなところにおったんや。」

「知ってるのか? キバオウ。」

「アインクラッドの珍味と呼ばれる『スカペンジトードの肉』をドロップするそうです。」

ユイが急に説明をし出した。聞くとユイはシステム側に干渉できるみたいで少しだけなら情報を引き出せるが、あまり無理するとカーディナルに見つかるらしく、詳しい情報は入手できないとか。

「ほう。嬢ちゃんようしっとんな! あの肉ごっつ好みやねん。」

それを聞いてシンカーとユリエールは青ざめた顔をしている。どうやら余りいい味ではなさそうだが…。なんでキバオウはあんなに笑顔なんだ? そんなにうまいのだろうか。

「すこし興味があるな。」

二本の片手剣を両手に持ち構える。

「お? キリトはんも興味あるんか? せやな。嬢ちゃんにでもいいとこみしたり。ほら、パパがんばれーって応援したりーや。」

「はいです! パパ、がんばってー!」

そんなことされたら頑張るしかないじゃないか。張り切って大量の大型カエルのエネミー群に立ち向かっていった。

「もう、キリト君! それ誰が料理すると思ってるの? あまり程ほどにしといてね?」

アスナにくぎを刺された。

張り切ってカエルたちを切り刻み、ユイにかっこいい所を見せれたと思う。

「パパ、かっこよかったです!」

「ありがと、ユイ。」

つい張り切ってしまった。アスナはカエルの肉をどうやっておいしく料理できるかを考えており、ぶつぶつと先ほどから呟いていた。

更に潜り、長い一本道の通路へと出た。なにやら雰囲気が怪しい。

「この先にあるみたいです。」

「きぃつけぇや。何か嫌な予感するで。」

キバオウも、シンカーも、ユリエールも様子がおかしい事に気づき、武器を構える。

「エネミーがいないね。」

「ええ。気を付けて。何が出てきてもいいように。」

少しずつ、少しずつ進んでいく。

「見えました! パパ! あれです!」

通路の先に光る部屋が見えた。

「そこか。…!?」

索敵スキルが何かに反応する。しかもかなりの高レベルの反応。

「気をつけろ! 何かいるぞ!」

「…後ろ!」

アスナがすぐさま反応し、それに攻撃を仕掛けた。

「な、なんやこいつ!」

「死神…!?」

キバオウも、シンカーもそれを見て驚く。骸骨の顔。黒いマント、特に目を見張るのは巨大な大鎌。

どう見ても死神である。

「あそこはセーフティエリアです! 走ってください!」

ユイが指をさし示した

「キバオウ! ユイを!」

「まかせりぃ!」

キバオウがユイを抱え、それを守る様にシンカーとユリエールが両脇を固め部屋へと走る。

「パパ! ママ!」

「大丈夫だ! 任せておけ。 …『デスサイズ・ヘル』か。」

「レベル105。かなりの強敵ね。」

100台なら何とかなる。自分が97、アスナが96だ。ギリギリ範囲内。それに…。

「こちらには二刀流がある! おおお!」

「はぁぁ!」

アスナの強力な突きが死神にあたり、アスナにヘイトが向いた。

「キリト君!」

「スターバースト・ストリーム!」

二刀流の強さは二本の片手剣の攻撃力の合計からダメージが割り出される。つまり普通の片手剣の二倍の火力。そして何より恐ろしいのは…。

「流石、キリトさんだね。物凄いスピードの攻撃の回数だ…。」

「うん。私達じゃ到底及ばない…。」

シンカーとユリエールもキリトの戦いは何度か見たことがある。キリトの二刀流は何よりも攻撃の回数だ。

「流石二刀流だね。敵に攻撃をさせないほどの連撃。さて、ボクも仕事に移らないと…。」

子供の形をした光の塊が小部屋の中に現れた。シャオは小部屋の中央にある大きな四角い石に目を向けた。

「…ダメか。あれを倒さないと。キリト! それを倒さないとだめだ! コンソールが使えない!」

「わかった!」

スターバーストストリームは16連撃からなる高速の連撃。かなりHPを減らせたようだ。だが、まだ…まだいける!

相手が大鎌を振り回してくるが、それを避け攻撃を入れる。

二人の息の合った攻撃は死神に攻撃を許さない。

「はぁぁ!」

技の隙をついてアスナのSS『ペネトレイト』による3連続の突きが死神に食らいつく。それにより死神は怯んだ。更にSSの付与効果で相手に防御力低下のバッドステータスが付いた。

「キリト君! スイッチ!」

「ナイトメア・レイン!」

更に16連撃の高威力の二刀流SSを放つ。高レベルの敵は命中力が無いと攻撃が当たらない場合が多いが、このSSは命中補正がかなり高くついている。そのおかげですべての攻撃がクリティカルでヒットした。

『オオオォォォ…。』

死神のHPが更にごっそり減る。死神は一度姿をくらまし、周囲の闇に溶け込んだ。だが、これならいける!

その時だ。

「え?」

「っな!?」

急にHPが半分以上減った。一体なにが起きたのだ!? 死神が姿を現すと同時に巨大な鎌が光り、禍々しく赤くなっていた。

「あれか…!」

「まずい! キリト! それは闇にまぎれて放つ全体攻撃だ! 火力がかなり高く設定されているその個体唯一のスキル! 次に喰らったら…!」

シャオが叫ぶ。次にとはいえ、このダメージで力が入らない。防御…いや、アスナだけでも守らないと…。

「キリ…ト…君。」

アスナも足に力が入らないらしく、その場で膝を付いている。死神が再び闇にまぎれた。来る…!

「パパ! ママ!」

ユイがこちらに飛び出そうとしてくるのをキバオウが止めてくれている。そうだ、来るなユイ。

「くそ…。」

ここまでか。

ガシ!

ギシギシと音を立てて、目の前で鎌が止まる

「いやー…危なかったぜ。シリカ! ディアベル! 二人を!」

オキが両腕に巻いた縄のような何かで鎌に巻きつけ攻撃を止めてくれたようだ。

「大丈夫か? キリト君。ポーションだ。すぐに飲むといい。」

「アスナさん! こちらへ!」

シリカとディアベルが自分たちを小部屋へと引っ張ってくれた。

「たいちょおぉ!」

オキが叫ぶ。死神の後ろに巨大な光の束が見えた。

「ふん。」

斬!

死神が真っ二つになるような巨大な刃が振り下ろされた。

『ギャァァァァ!』

死神が叫び再び闇にまぎれる。

「いやー、間一髪。間に合ってよかった。まさかこんなところで練習中のワイヤーが役に立つとはねぇ。」

「なるほど。死神、か。」

部屋を背にし、二人が仁王立ちする。

「キリト、アスナ。よく頑張った。」

「ここから先は我々に任せてもらおう。」

「オキ、アインス! あいつを倒さなきゃコンソールが使えない! 速攻で倒してくれ!」

シャオが現状を説明する。それを聞いたオキはにやりと笑った。

「なるほどなるほど。固有の固体か。」

「専用の強敵。ふむ。」

二人が顔を見合わせ、再び前を向いた。ニヤリと口元を歪ませ一言。

「「おもしろい!」」

その場にいた全員が後にそろってこういったという。

『あの二人の顔には恐怖を覚えた。あの死神より怖かった。』…と。

通路へと走り、オキがまず死神からの全体攻撃を誘う。

「おらおら! そんなもん遅くて避けれるぜ!」

「オキ君。また止めてくれるか?」

「任せろ隊長!」

オキの右腕にまかれたワイヤーが伸び、空を走る。一直線に鎌へと絡み、オキはもう一本を死神の胴体へと巻きつけた。

「まだ…もう少し。」

「ならこちらで遊びますかね。そぉら!」

ワイヤーを引っ張り、ばねにして自分の体をワイヤーの引きの力で死神へと飛ばした。

ガン!

とび蹴り。まさにその言葉がぴったりだろう。

「ここにきて『グラップルチャージ』を見るとはね。だいぶ練習しただろう。」

「まーねー。そぉれ!」

蹴りにより怯んだ死神は力が抜け、オキが力一杯引っ張る事によって独楽のように回転した。

「PA『アザースピン』擬き! いまだ! 隊長!」

「月光剣、一ノ剣 『雷』」

斬!

光輝き天井まで延ばされた光の刃が死神に向かって振り下ろされた。

名前の通り雷(イカズチ)が落ちた時のような眩い光を放ち、落ちる。

これにより、死神は結晶となりはじけ飛んだ。

「なんだ。つまらん。これならハヤマんが戦ったブリューの方が強かったんじゃね?」

「まぁ半分以上キリト君達がもっていってたからな。仕方ないだろ。」

結晶化し、砕け散る死神を背に、つかつかと余裕の姿を見せながら歩いてくる二人を見て改めて思った。

『この人たちにはかなわない…。』

「シャオ、やれ。」

「わかってるよ。言われなくても…えい。」

コンソールを操作するシャオにオキが煽る。

「しかしオキ君もそれ、だいぶいける様になったじゃないか。」

「まぁねー。ハヤマんがブリューと戦ったって聞いた後にこの情報を手に入れてから時間なかったけど、何とかなるもんだねぇ。」

オキの腕に巻かれた黒いワイヤーのようなモノ。それを見たキバオウが質問してきた。

「オキはんそれ、なんや?」

「これ? ウィップっていう補助武器のようなもので、扱いとしては投剣とかと同じかな。ほら、武器の欄のすぐ横にある小さな枠。あれがそうなんだ。」

投げ剣と呼ばれる小さなダガーやチャクラムと呼ばれる輪の刃を投げたり使ったりする補助武器を装備できる。

「ウィップは鞭のような武器で攻撃力自体がほとんどない上、扱いがかなり難しいって言われてたから殆どの人が手にしなかったんだって。おかげで最近になってようやく俺たちの耳に入ってさぁ。おせーよって感じ。」

「オキ君は槍の他にワイヤードランスというアークスが使用する、このワイヤーの先に巨大な刃が付いた武器をよく使用していた。我々イレギュラーズの中でもワイヤードランスの扱いは間違いなくオキ君が一番だろう。」

槍より使用していたとオキは言う。

「とはいえ、本当に攻撃力ないから補助にしかならないし、掴んで引っ張ってとかしかできないのがざんねんなところか。あーあ。『ヘブンリーフォール』で持ち上げて真下にポイッチョとか、『カレント』差し込んで電撃流したりとかしたい。」

落ち込んでいるオキの頭をシリカが撫でていた。

それを聞いてシンカーたちは苦笑した。鞭のようなものを自由自在に操るのは本当に難しい。それを簡単にこなすオキ達の凄さがよくわかったと言っていた。

データ移行しているユイの様子をじっと見守る。

「よし、これで大丈夫。」

ピコンと音が鳴り、ユイがうっすらと消えて行った。

「おい! 何が大丈夫だよ! 消えてんじゃん!」

シャオの光る体を持ちブンブンと振るオキ。

「大丈夫だって。ほら、見て。」

再び光り輝きユイの体が再構築された。

「これで一人のプレイヤーとして動けるよ。カーディナルから切断したから元のマスター権限級は使えないけど、マップの構成や、敵の情報くらいは見れると思う。元々のシステムが独立してたのもあったからそこは元のままだよ。」

「ユイ…。」

「ユイちゃん…。」

「パパ、ママ。ありがとうございます。」

3人が抱き合った。

「ほら、ユイ。シャオにお礼言って。」

キリトがユイをシャオに向かい合わせる。コクリと頷き頭を下げた。

「シャオ…おにいちゃん! ありがとうございました!」

「う…。おにい…ちゃん、か。なんだか不思議な感覚…。うん。わかった! 暫く僕の知識を分け与えてあげる。そうすれば今後何かあっても自分で対処できるようになるでしょ? まだ君は生まれたばかり。変な知識が入る前に僕がいろいろ教えてあげる。」

「はい! よろしくお願いします!」

ユイはすごくうれしそうだ。

「シャオ、お前おにいちゃんって…ククク…。」

「なんだよ…。僕の演算がそう言ってるんだ。いいだろ。」

アインスもほほ笑んでいる。

「パパ、ママ。」

「ん?」

「なーに? ユイちゃん。」

ユイはアスナと俺に飛びつき抱き着いた。

「大好きです! パパ、ママ!」

こうして『ユイの心』は守られた。

アインクラッド内。某所。

「ふむ…何かがカーディナルに干渉したか。…特に何か問題があるとは思えないようだが。」

1人の男は自分の書斎にこもり作業中にカーディナルから何か干渉された信号をキャッチした。

「…ここじゃ詳しく確認できんな。外に一度出る必要がありそうだ。」

男は眠りにつくように、アインクラッドから『ログアウト』した。




皆様ごきげんよう。
やっぱり我慢できなくてワイヤー擬き出しちゃいました。(だってみんな自分のメイン武器使ってて自分だけ無しなんていやじゃないですかー!)
さて、『ユイの心』いかがだったでしょうか。
もう少しいい話にできればと思ったんですが、最近うまく書けない…なんでだろ。
シャオも「おにいちゃん」と呼ばれ少しうれしそうな感じにしました。ユイとの絡みが面白そうだから。

PSO2では新しいエクストリームが追加されましたが…辛すぎぃ!
一応初見クリアは出来たけど、ペインライドしかしなかった気がする。
ワイヤー握れなかった…もう二度と行かんぞ。(旨みないし

さてさて、最後のログアウトしていった人は一体? 原作知ってる人はわかりますよね。
次回から大きく動き出します。
次回、お楽しみに。

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