SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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第36話 「コマチの声」

「あつい…。」

66層の火山エリアをコマチとフィーアは移動していた。

攻略組は67層を攻略している。今の所問題は無いとオキから聞いている。

次のクォータポイントである75層のボスに対しての戦力強化という事でフィーアの武器を強化する為に付き合っているのだ。

「汗、すごいわね。大丈夫?」

フィーアが心配そうにこちらの顔を覗いてくる。こちらを心配するのは良いが、そっちもかなりきつそうな顔をしているぞ。

「…問題ない。そっちも無理な時は手を上げてくれ。」

「わかったわ。」

周囲には真っ赤に燃える溶岩が流れている。その熱が自分たちの体に襲い掛かる。

「ここまでリアルに再現しなくていいのにな。」

「全くね…。」

目の前に蜂型のエネミーが飛び回っている。余りの暑さにイライラしていたところだ。鬱憤を晴らさせてもらおう。

「おおお!」

両手に付けた鉄甲を振り上げ、高々とジャンプし一匹の真上から振り下ろす。ヘイトがこちらに向いたためかその場にいた5匹が全てこちらに向かってくる。

「あちぃんだよ!」

そのままアッパーを繰り出し一番近かった一匹を吹き飛ばし、周囲にまとわり飛び回る蜂のエネミーを腕を振り回し浦拳で仕留めた。

「くそ…。余計に暑くなった。」

惑星アムドゥスキアの火山エリアではフォトンで体の周囲を守り、溶岩に入っても多少熱い位でここまでの暑さは無い。

「周囲に敵の反応は無いわ。先に進みましょう。」

「だな。」

この奥に隠された神殿があるらしい。そこで彼女の使用する細剣が手に入るという。更にちょうどいいことに自分が使う鉄甲も手に入ると聞いた。

アークスの使うナックルのような感覚で使えるこの武器は腕にはめて相手を殴りつけるという武器だ。スキルも専用スキルでPAと似たような動きが多い。ナックルメインで使っていた自分としては大剣よりもこっちの方が性に合っている事からここ最近実戦で使用できるまでスキルレベルが上がったのでこちらをメインに使うようにした。

この武器は火力が高く素早く動ける反面、攻撃範囲が極端に狭いためにあまり使用している人が少ない。その為武器収集のクエスト等の情報が手に入りにくいのが難点だがそもそも動き回っている自分からすればなんてことは無い。

更にアインクラッド内最も情報が集まるアルゴがいれば更に集まりやすい。

「洞窟があるわ。道は一本道だからここから先に行けば目的地かもしれないわね。」

溶岩もその先にはなさそうだ。洞窟に入れば少しは暑さも軽減するか。

「進もう。」

洞窟に入るとエリアが変わったためか少しひんやりしている。

「ふう。涼しいわね。」

パタパタと胸元を動かし涼むフィア。いくら俺と長くいるからとはいえ無防備だ。自分も男だからつい目が行ってしまう。

「あまりそういう行動は男の前ではしない方がいいぞ。目のやり場に困る。」

「あら、あなたの前だから気にしてないわ。」

どういう意味だ。それは男として見てないという事なのか。いや、そんなこともどうでもいい。目の前にエネミーがわんさと出てきたからだ。

「やるぞ。」

「ええ。」

蛇のようなエネミーが壁から這い出てくる。周囲を見渡すと小さな穴だらけだ。

「こいつらの巣か!」

地面を這い、素早くこちらに迫ってくる。

「っは!」

鋭い突きでエネミーを撃破するフィーアに続き、自分も拳を振る。

「はああ! 進みながらここを突破するぞ!」

「ええ!」

何匹も出てくるエネミーを近づく奴から片っ端に地面に叩き潰す。中にはジャンプしてこちらに噛みつこうとするやつもいたが、裏拳で叩き落してやった。

暫く進むと蛇も出てこなくなり、暑さも殆ど感じなくなった。

「だいぶ進んだか?」

「そうね。あら、分かれ道?」

目の前に分かれ道が現れた。どちらに進むか。

「風は…こっちに進んでいるな。反対側は空気の動きが無い。多分行き止まりだろう。」

「そうね。じゃあ右に進みましょう。」

右に進むと下へと進む坂道となっていた。傾斜はそこまできつくないが嫌に真っ直ぐだ。

ゴゴゴ…

上から地響きのような音が聞こえる。聞こえた頃に気づいたが既に遅かった。

「しまった! 罠か! 走れ!」

「!?」

後ろを振り向くと巨大な岩が転がってくる。走れば追いつかれないスピードだが、あんなのにつぶされれば簡単にぺちゃんこだ。

「くっそったれが! こんなトラップまでしかけやがって! ふざけんな!」

「速く! 先に進んで!」

全速力で走る。次第に傾斜が強くなっている事に気づいた。このままでは後ろの岩もスピードが上がる。間に合わない!

「行き止まり!? いえ、横穴があるわ!」

フィアが見る方向に小さな横穴がある。岩は先ほどよりも速くなりすぐ後ろに迫っている。

「くっそっがぁぁぁ!」

「きゃあ!」

フィアを抱きかかえ、横穴へ飛び込んだ。

ゴゴゴゴ…ズズゥゥン

すぐそばを巨大な岩が転がり、地響きとともに音は消えた。岩によって出口をふさがれた。

「はぁはぁ…大丈夫か?」

「え、ええ…ありがとう。」

抱きかかえたまま彼女の顔を覗きこんだために顔が近い。

「だ、大丈夫よ。ええ。」

フィーアは自分から立ち上がり周囲を確認する。大丈夫そうだな。

「ここは…。」

暗くて何も見えないが何かの空洞のようだ。

「コマチ!」

「!?」

フィーアが武器を構えてこちらを呼ぶ。空洞の先に光る赤い点がいくつも動き回っていた。

「ちぃ…モンスターハウスかよ!」

素早くフィーアが松明を取り出し照らすと猿のようなエネミーが棍棒をもってこちらを見ていた。

「そのまま照らして動くなよ! おおお!」

拳を振り上げ敵の軍勢に飛び込み、一体目の顔面を思い切り殴りつけてやった。

「コマチ!」

「オオオオ!」

スキル『ウォークライ』を発動しヘイトを全てこちらに向ける様に仕向ける。それと同時にコマチに向かって猿たちが棍棒を振り上げこちらに迫ってきた。

「邪魔なんだよ!!」

アッパーから横に振り回しなぎ倒す。更にストレートにつないでフック。

「何十体いるの・・・!?」

フィアが照らしているからこそエネミーの位置も把握しやすい。幸いにもウォークライのおかげで彼女にはどいつもこいつも振り向かない。

「いってえなぁちくしょう!」

一匹の棍棒が背中を叩く。振り向きざまにそいつの顔面を殴り吹き飛ばした。

「おおおお!」

腕を振り回し、範囲攻撃をしつつ一匹一匹を的確に倒していく。

『キシャァァ!』

「まだ出てくんのかよ!!」

奥から何匹も追加で出てくる。こちらも奥へと少しずつ移動する。ちらりと後ろを見ると言いつけどおりにその場から動かないフィーアが見えた。しいて言うならすこしずつこちらとの距離を一定に保って明かりをともしてくれている。それだけでも充分だ。

「おおおお!」

暫く戦っていたが最後の一匹となったエネミーを上からぶん殴って倒した。

「はぁはぁ…うっし、終わりぃ。」

周囲にエネミーがいない事を確認してタバコに火をつける。

「お疲れ様、コマチ。大丈夫?」

「ああ。何度か殴られたがこんなもん減った内に入らん。」

「でも、ちゃんと回復してね。はい。」

フィーアがポーションを取り出しこちらに渡してきた。それを受け取りこくりと飲み干す。

「サンキュ。さって、出口を探さないと。」

「そうね。まだ奥がありそうね。」

光を向ける方向に通路へつながる穴が見えた。どうやらこっちになにかあるらしい。

「進もう。」

「ええ。」

洞窟は今度は上へと延びていた。暫くエネミーもちまちまと見つけたが脅威にもならない。

ゴン!

殴られて壁に激突するエネミーは結晶となって散っていく。

「なにかあるわ。」

「ん?」

フィーアが洞窟の先に何かを見つけた。出口のようだ。抜けるとそこには大きな遺跡があった。

「ここが目的地かしら。」

「可能性大だな。少なくとも何かありそうだ。」

自分の勘が言っている。ここには何かあると。遺跡の中へは階段を昇り、上にあるようだ。

「なげぇ階段だな。」

「そうね。いい運動になりそう。」

俺からすれば面倒なだけなんだが、何故か隣にいるフィーアは楽しそうだ。よくわからん。

「…ん?」

索敵スキルに何かが引っかかる。上か。

「鳥か。」

「え?」

フィーアが上を見ると同時に上から多数の蝙蝠が飛んでくる。

「邪魔なんだよ! こっちに来るな!」

空を飛ぶエネミーは行動範囲が広い。だが集団で行動するパターンがほとんどだ。こいつらならこっちの方がいい。

「おおおりゃあああ!」

素早く大剣に切り替え、剣を振り回す。PA『ノヴァストライク』。大剣を振り回し広範囲に攻撃をするソードのPA。

向こうから攻撃範囲に勝手に入ってきて勝手に倒れていく様は爽快だった。

「ふん。勝手に突っ込んでくるからだ。」

「相変わらず、私がなにもできないわね。」

落ち込んでいるのか悔しがっているのか。フィーアはその一言をボソリといって更に上へと昇って行った。

「入口か?」

「…いえ、ここが目的の場所ね。」

遺跡の頂上は広く平らな場所となっていた。周囲には巨大な騎士の像が立ち並んでいる。奥に宝箱が並んでいた。ひぃふぅみぃ…。6個か。これはかなり期待できそうだが。広場の中央に近づくと、像の内2個が音を立てて動き出した。

ゴゴゴゴ…

『まて。』

『兄者、客人だ。』

『そうだな。客人だな。』

巨大な騎士の像2体が何やらしゃべり始めた。

『客人はもてなす必要がある。』

『もてなすとは?』

『もてなすとは…。』

「はぁ…。」

なにこの面倒なの。はやく進みたいんだが。

『兄者、客人がため息をついている。』

『ため息とは…?』

『ため息とは…。』

「だぁあもう! めんどいな! いいか!? ここから先に進みたい奴がいる! さぁどうする! 俺は面倒なのがきらいなんだ!」

ゴゴゴゴゴ…

先程よりも巨大な音を立てて、巨像が動き出した。

『これより先は我ら門番を倒していけ。』

『我ら騎士の兄弟。尋常に勝負!』

「コマチ!」

「片方を頼む! おめーはこっちだ!」

左側にいた騎士型のエネミー『キング・アグ・ナイト』に殴りかかった。

「ボス型のエネミー…。気を付けてコマチ!」

人の気遣いをする余裕があるなら目の前にいる敵を倒してからにしろ。そう思いつつもあの人の事を思い浮かべる。

『コマチ! 背中を頼んだ!』

「…あんたに似てこっちもやりやすいぜ! オオオ!」 

空洞内にある遺跡全体にコマチの声が響き渡る。

ブン!

自分よりも3倍ほど巨大な騎士はその巨大な身丈と同等の長さを持つ剣を振り回す。だが、あまりスピードはない。これ位なら簡単に避けることは可能だ。

ガン! ゴン!

巨像の脚部に金属を打つ音が響く。

『ぐぅぅ…。』

HPのゲージは2本。特に問題はなさそうだが、2本という事は形態変化の可能性もある。

「ゲージに気をつけろフィア! 何してくるか分からんぞ!」

「ええ! わかってるわ!」

彼女のスピードは現状最速と言われるキリトやアスナ程ではないにしろ、それと同等の敏捷を持つ。

これ位なら問題ないと見せるがごとく、相手のHPを少しずつ削っている。

「ウオオオ!」

『オオオオ!』

ゴォオン!

巨大な剣が地面を叩く。足元が若干揺れるが気にしないで殴り続ける。

「硬い…。だが、問題は…無い!」

騎士型のエネミーは総じて防御力が硬い。だが、今の自分には問題が無いほどの火力を持っている。

ガキン!

『なんだと!?』

ずっと攻撃していた右脚の甲冑を壊してやった。その為騎士はバランスを崩し転倒する。

「やりぃ…。」

届かなかった顔面を全力で殴る。その間にチラリとフィーアを見る。

「やぁぁぁ!」

スピードを活かし、相手から攻撃を喰らうことなく一方的に攻撃をしているように見えた。問題があるとするなら…。

「この、あとか!」

ガン!

右ストレートで甲冑の上から騎士を殴る。その一撃でゲージが一本無くなった。

『オオオオ!』

『グウウウ!』

二体とも同時に煙となり重なり合う。

「フィーア! こっちこい! 様子がおかしい!」

「わかったわ!」

『『オオオオ!』』

騎士の腕が4本に増え、頭も二個になる。

「合体!?」

『『オオオオ!』』

両腕に持った二本の巨大な大剣が二人の頭上から降りてくる。先ほどよりも速い。

「間に合わない!?」

「ちぃ!」

ドカッ

「きゃあ!?」

フィーアを押し、攻撃の範囲からのけ、自分は二本同時に武器で受け止める。

「グウウ…。ちっきしょう…。」

「コマチ!? なんで…。」

「わからん! 自分でも…だがな、何故かこうしなきゃと! じゃないとどっかのバカリーダーに殴られそうだしな! こんのぉ…おもったいんだよ! クソがあああ!」

思いっ切り腕に力を加え、二本の大剣を押し返す。

『『ウウウウ!?』』

「このくらい…エルダーの腕に比べれば…まだまだぁぁぁ!」

ガキン!

両腕で両面騎士の武器を弾き振り下ろされた腕に向かって走る。

「うおおお!」

そのままの勢いで顔面を右腕でアッパーを。上がったところから両腕でハンマーを。左右交互に殴り続けた。

「オオオオ!」

『『グウウウ!?』』

顔面に張り付かれ、何とか振り下ろそうとする両面騎士だが、器用に肩の上を動き回り、エネミーの共通の弱点である顔面を何度も殴られ、HPは一気に削られた。

『『じゃまだ!』』

ブン!

頭を思い切りふり、振り下ろされた。

「もう少しだ。いくぞ。」

「ええ!」

武器を双方で構え、振り下ろされる二本の大剣をすり抜け、真正面から二人同時に相手の体を突いた。

「オオオ!」

「はぁぁ!」

次の瞬間、両面の騎士は結晶となって固まり、砕け散った。

「はぁはぁ…うっしゃあ!」

「なかなか…強かったわね。ふぅ…。」

二人で息を整える。

「あ、今のでレベル上がってるな。」

「あなたもね。ふふ、おめでとう。」

「ん。そっちもおめでとう。」

フィーアは微笑み、レベルが上がったことで振れるようになったスキルを確認しだした。

『俺も確認しておくか。…ん? なんだこれ。』

今のレベルアップの為か、それとも別の条件がそろったためか。今までに見たことが無いスキルの名前が欄にあった。

『こんな名前は見たことが無いな。まさか、ミケやキリトが手に入れたというユニークスキルって奴か?』

「コマチ? どうしたの?」

固まっている俺を心配したのか、こちらの顔を覗いてくる。

「心配ない。どれを取るかを悩んでいたところだ。あとでゆっくり考えることにしたよ。」

「わかるわ。一杯あるものね。さぁ進みましょう。」

「だな。」

スキルに関してはオキに確認した方がいいかもしれん。そう思いながら宝箱が並ぶ場所へと向かった。

ユニークスキル『バーサーカー』。4つ目のユニークスキルがここに出現した。




みなさまごきげんよう。
寒さが続き、周囲で変えやらが流行っています。みなさまもお気をつけて。
今回出てきたエネミーボスはDMC3のアグ、ドラをモデルに使ってみました。
まぁ、倒しても武器が手に入るとかないので(
さて、ユニークスキルが少しずつ出てきましたね。今回のバーサーカーもオリジナルの一つです。
バーサーカー:意識が朦朧とし、エネミーに対して攻撃しかできなくなる。作用としてスキルを発動後、火力、防御力がアップし、こちら側が防御、回避ができなくなる代わりに攻撃を受けてもひるまなくなります。ただし、スキル発動後はしばらくSSが放つことができなくなる。
攻撃SSも専用となり攻撃を受けながらのSSもあったり。
コマチにピッタリですね。(そもそもがバーサーカーである

さて、次回はみなさまお待ちかね(?)ハヤマがアタフタするシーンをご覧下さい。

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