SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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ラフコフのアジトをみつけたオキはハヤマ達に援軍を要請し、その到着を待っていた。


第30話 「ラフィンコフィン【笑う棺桶】」

中層、荒野フィールドの岩場エリア。真夜中で満月が地面を照らす。

「…来たか。」

岩の影で身を隠していたが、後ろから多数の反応があった。前方には今のところは反応が無い事を確認し、後方の味方を自分の場所へと招いた。

「よお。早かったな。」

「とりあえず一言。ざっけんな。」

「あ? ごぉっは!」

思い切りハヤマに殴られた。

「あーすっきりした。次やったら承知しないよ。バカリーダー。」

「いってーな! 何しやがる!」

立ち上がり、ハヤマの胸ぐらをつかんだ。

「一人で先行した罰だよ。みんな心配したんだからね。」

「だから伝言頼んだじゃねーか。」

涼しい顔していながら睨み付けてくるハヤマ。だが、その内面は完全に怒りでいっぱいのようだ。

「まぁまぁ。二人とも落ち着いて。オキ君。いつも君が言っている言葉をそのまま返すよ。『自分の仲間を信じなくてどうする?』」

アインスが間に入り込む。

「わかってるよ。わかってっけどなぁ。」

「オキの悪い癖なのだー。」

「いつも言ってたよね? 何かあったら仲間に相談するのが先だって。」

先行したことは悪かったが、それでも殴る事はねーだろ。HPがわずかに減っている様な気がした。

「まぁこれでチャラだよ。さて、状況は?」

「すまんかったよ。あいつらは中にいると思う。結晶で逃げてなければ、だが。」

ずっとここを見張っていたが、今の所出てきた気配はない。こちらの状況を察知されているとも思えない。

「なるほどな。で? 捕まえるのか。殺すのか。」

アインスが刀を確認しながら聞いてくる。

「相手が本気で殺しに来たならばヤれ。こちらとてまだやる事があるからな。ご退場はごめんだ。相手もそうだ。殺される覚悟がないなら、教えてやれ。覚悟のない奴がどうなるか。」

「りょーかい。」

「だが、捕まえれる奴は捕まえていいんだろ?」

ディアベルが聞いてくる。

「そうだな。できることはならば、生かしたまま罪を償わせるのが一番だ。ただし、捕まえるときは注意しろよ? 押し倒しが2、周囲援護で2。必ず多人数で対応しろ。」

「了解した。わかったな? みんな。」

「「「おう。」」」

オラクル騎士団を始め、各ギルドから主力級の有志が集まっていた。

「オールドのとっつぁんとセンターまで。」

「若い者だけに、やらせるわけにはいかない。」

「タケヤ達も行きたがってたけど、邪魔になる事を懸念して俺たちが託されてきた。『ここのプレイヤー達を守ってくれ』だってさ。」

二人の口がニヤリと歪んでいる。だが、目は笑っていない。自分がやられるかもしれない。だが、ここでやらなければ被害は増える一方だ。二人はそう思ってここに来た。

「総勢25名。連合外からも有志で来てくれた者達だ。実力は主力メンバークラス。こちらから攻撃する為、グリーンカーソル持ちもいる可能性がある。念のためにカルマ復活クエストも後方で準備させておいた。オキ君。指揮を頼む。」

「わかった。」

ディアベルに指揮権を渡され、その場にいる全員を見渡す。

「いつもの連合諸君。連合外からの有志で集まった方々。初めに言っておく。死にたくない奴、殺したくない奴は帰れ。」

その第一声で周囲が若干ざわつく。

「いいか? 相手は本気で殺しにくる。それはディアベル達から嫌と言うほど聞いてるはずだ。だからここが最後のチャンスだ。守りたい仲間、大事な人。SAOの外にもいる奴はいると思う。だからこそここで守りたい。何とかしたいと正義の心をもってきてくれたんだと思う。だが、ここで死んではそれすらできない。だから相手を殺し、殺される覚悟のない奴は帰れ。」

シンと静まる。だれもその場を動こうとはしない。見渡す限り全員が覚悟している顔つきだ。

「…わかった。幹部は任せろ。イレギュラーズが責任を持ってつぶしにかかってやる。ハヤマ、アインス。」

「ん。」

「む?」

「袋のようなものをかぶった奴を見つけろ。ミケ、コマチ。どくろの仮面のようなものを付けた真っ赤な奴を見つけろ。いいか…可能な限り殺すな。捕まえろ。だが、こちらが殺されそうなら…殺せ。プーは俺がやる。」

「了解なのだ。」

「あいよ。」

「他のメンバーは残りの雑魚どもをつぶせ。徹底的にだ。ここでこいつらを止めるぞ。中の人数はかなりいるようだが、お前らは強い。必ず生きて帰るぞ。」

「「「おおお!」」」

SAO稼働時、最も死人の出た事件『ラフィンコフィン討伐』が今ここに幕を開ける。

***

 

洞窟は岩と岩の間にあり近距離まで近づかなければ全く気付かない入口だった。

中は普通の洞窟だが、エネミーが存在しない。

「なるほど。作ったはいいけど、使わずに岩で鬱いだがその隙間があったという事か。」

キリトが説明をしてくれた。なるほど。それならエネミーがいないはずだ。その上。

「隠れ家にはもってこいだな。さて、そろそろかな。」

洞窟内の広い場所にでた。

「相手もこちらに気づいている可能性が高い。ディアベル半分ほど入口付近に待機させて退路を確保しろ。逃げるラフコフをそこで捕らえるんだ。それと援軍も来る可能性がある。入口を鬱げ。」

「了解した。気を付けろよ。おい、いくぞ。」

後ろ半分のプレイヤー達を率いて下がっていく。

「キリトは残り半分のプレイヤーを率いて後方の洞窟内で待機。散開しておけ。もちろん3人一組で。ここは俺たちに任せろ。」

「いいのか? オキさん達だけで。」

「安心しろ。誰一人、逃がすつもりはない。 それに挟み撃ち対策にもなる。」

「了解した。」

キリト達も後方に下がっていく。その場に残ったのはアークス5人だけだった。

「まぁうまく後ろに分けたね。」

「後ろから援軍なんて呼ばれたらたまったもんじゃない。ここで一気につぶす。」

「それができるかなぁ!?」

洞窟の上から聞こえてくる聞きなれた声。

「ジョニー…ブラック。」

「お前たち、ここから、逃がさない。」

上にも通路があったのか何人ものオレンジカーソルのプレイヤーが降りてくる。

「おーお。いるね。いっぱい。」

「うんじゃぁ、一応念のため。死にたくない奴は投降しろ。ここは包囲されている。逃げ場はないぞ。こちらを殺しに来るのは勝手だが、殺されることも考えろよ? 俺たちは…本気で迎撃する。」

アークス全員が武器を構える。

「…くくく、ははははは!」

「ひゃははは!」

「ぎゃははは!」

ジョニーの笑い声と共に周囲のプレイヤー達も笑い出す。

「はぁ…仕方ない。コマチ、あのセリフ。ここでなら言えるんじゃない? 心の準備はOKの奴。」

「あ? ああ、あれか。じゃあお言葉に甘えて。おい貴様ら…小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 壁の隅でガタガタ震えながら命乞いする心の準備は、OK?」

コマチに進められた化け物と人間の戦いの物語の一セリフ。気に入っているセリフの一つだ。ここで使えるなんてね。

相手を煽るにはちょうどいいだろう。

「やろぉ…やっちまえ!」

ジョニーの掛け声で一斉にとびかかってくるオレンジプレイヤー達。

ギィィン!

キィン!

それに合わせて5人が一斉にとびかかってきたプレイヤー達に向かって迎撃する。

「ふむ…。狙いは首、心臓、頭。本当に殺す気だね。」

「手足を狙ってくるなら少しは手加減できるかと思ったけど…。」

「やるしかないねぇ。そぉら!」

的確に急所を狙ってきたオレンジプレイヤー達。それを確認してからこちらも反撃に入る。

「っが!?」

「ぐぁ!?」

アインス、ハヤマ、そして俺の武器が初めてオレンジプレイヤーの体を切り裂いた。

1人は首を、1人は頭を。それに続き、コマチ、ミケも反撃に移る。

「き、貴様らぁ!」

距離を置き、ラフコフのメンバーたちは睨み付けてくる。

「こちらが殺さないとおもったか?」

「残念なのだな。ミケはまだ死ぬわけにはいかないのだ。」

あちこちで乱戦状態になりながら、同時に結晶となって消えていくオレンジプレイヤー達。

それを見てからか少しは襲ってくる勢いが小さくなった。

「こ、こいつら…なんなんだよ!」

「なんで、平気な顔して殺せるんだ!」

何人かがこちらに叫んでくる。

「何言ってやがる。そちらから殺しに掛かってきたんだろ? だったら殺される覚悟は…あるよな? ないとは言わせないよ?」

「う、うおぉぉぉ!」

真正面から一人の男が大斧を振り下ろしてくる。それを横に避けた先に、別の男が槍で突こうとしてくる。

「あまい!」

体を低くし、足払いをかけて転ばせた。

「は、はやい!?」

「残念でした!」

「ぐぁあ!」

両膝を思いっきり切ってやった。暫くは立てないだろう。ちらりと周囲を見る。何人かは俺たちの猛攻を見て恐れをなしたのか後方の洞窟へ逃げていく。多分キリト達に捕まるだろう。それにあの人数なら数で押えられる。大丈夫だ。

周りのアークス達も全力で迎撃している。HPが減っている気配はない。

「おいおい。まだやる気か? もう降参したらどうだ?」

周囲のオレンジプレイヤーたちからの猛攻が無くなった。距離を取り、こちらに攻撃をしてくる隙をうかがっているが、どうしても踏み込めないらしい。そりゃそうだ。もう何人ものオレンジプレイヤが結晶となって『死んでいるのだから』。

「く、くっそー!」

ジョニーと、もう一人の幹部『赤目のザザ』が同時に広場へと降りてきた。

「死ねぇ!」

「ころす。」

ギィン!

キィン!

二人の武器はこちらに向かって攻撃されたが、その前に二人のアークスによって阻まれる。

「わるいね。君の相手はこちらだ。」

「コマチ君、そっちは任せた。オキ君! ここのリーダーを。ふざけたバカをぶちのめしてやれ。」

コクリとアインス、コマチに頷くと更に奥へと走る。この奥にいるはずだ。

 

***

 

 

「Wow。まさかあの人数を突破してくるとはね。」

広場の奥には更に広場があった。先ほどの場所よりか狭い。その奥にある岩の上に一人の男が座っていた。

「よ。また会ったな。ようやく見つけたぜ。えーっとたしかこういう時は…王手? チェック…なんだっけ。知ってる?」

「チェックメイトだ。HAHAHA。よくも仲間たちを殺してくれたな。貴様も同類だぜ?」

立ち上がり歪んだ口元を見せるPoh。

「何言ってやがる化け物。俺たちは怪物であっても、化け物じゃない。さて、最後の言葉だ。投降しろ。貴様らのやってきた事は償ってもらうぞ。これが最後だ。いきてりゃ何とかなるだろ。まだ間に合うぞ。命は助けてやる。」

全力で睨み付ける。ゲームを楽しむ一人としてではなく、化け物と対峙する一人として。

「ホウ…。こんな俺でも命は助けてくれると? 仲間を大勢殺しといて?」

「後ろのあいつらの事か? 馬鹿な奴らだ。殺す側は殺される覚悟がなきゃいけない。俺たちはいつもそうだ。いつ殺されるか分からない世界で生きてきた。だから常に覚悟している。いつ死んでもいいように。それが出来ないなら殺しなんかするんじゃねーよ。だから…。」

「だから殺した、か。ククク、助けたるだの殺すだの。おかしなやつだな。」

「何言ってやがる。俺たちは本能のままに生きているだけだ。貴様らみたいに喜びで同類を殺す馬鹿どもと一緒にしないでほしいね。まぁ強者との戦いは好きだがね。もちろん死ぬ覚悟も必要だけど。さって、どうする? やるか。投降するか。」

槍をPohに向ける。Pohは暫く考えた後、手を挙げた。

「やめだ。ここで死んでたんじゃ、楽しみもなくなる。貴様とやってもいいが…十中八九やられちまうだろう。それじゃ面白くない。俺はまだまだ楽しみたいんだ。」

「…そうかい。」

予想外の答えが返ってきたから少し驚いた。自分の楽しみのためにこちらを襲ってくると思ったが。

「ついてきてもらおうか。この戦いを止めなきゃいかん。」

そう告げて後ろの広場に戻ろうと振り向いた時だ。

グサッ…

「な…に!?」

「ククク…HAHAHA! あめぇ、甘すぎるぜおめぇはよぉ!」

Pohの獲物が左腕を切り落とした。握っていた槍も地面に落ちる。しまった。

「せいや!」

回し蹴りでPhoを蹴り飛ばそうとするが離れてしまう。

『やばい…。油断したか。HPは半分以上あるが、このままじゃ出血で削れていく一方だな。アイテムを…。』

再度こちらに飛び掛ってくPohから離れつつ、片腕でアイテム欄を開き止血結晶を取り出す。

「つかわせねぇよぉ!」

はやい。以前よりも早くなっている。こちらがアイテムを使う余裕がない。ちらりとHPバーを見ると半分を切り、黄色表示になっている。

「おらおらどーした! もっと楽しませろよ。 もっといい顔見せろよぉ! イッツ・ショウタ~イム!」

巨大な包丁型のダガーを細かく振ってくる。流石リーダーをするだけはあるか。動きに隙がなく戦い慣れている。ただ者じゃない事はわかっていたが。

「だが、これくらいでへたばるわけにはいかないんでね。」

洞窟の奥の壁に向かって走り出す俺をPohは追い駆ける。

「Hey! そっちは行き止まりだぜ! 逃げようったってそうはいかねーぞ!?」

「バカ。逃げるんじゃない。 こうすんだよ。」

走った勢いのまま壁に足をかけ、地面と水平になる。

「なに!?」

そのままであれば地面に落ちてしまうが、俺は壁をケリ、その勢いで追い駆けて来たPohの頭を掴み、地面に叩きつけた。

ゴス!

「がっは!?」

唐突な行動で対応できなかったPohは地面に叩きつけられた反動で動けなくなっている。

「今のうちにっと。」

結晶、そしてポーションを一気に使う。

「ちぃ!」

Pohが再び立ち上がりこちらを見た時にはすでにこちらはHPの減少は停止し、8割くらいに回復した。腕はまだ治らないが。

「どんな状況でも打破し生き残る。それがアークスだ。いままでこうやって生きてきた。さっきは油断しちまった。だが、次はそうはいかねーぜ。」

Phoを睨み付ける。迷いがあったんだろう。だがもう迷わない。

「何故だ。何故おまえはこの状況で余裕ある顔ができる。普通ならおびえるとかするだろ!」

はぁとため息をついた。そんなこと、でいいのかなぁ。この世界に長い事いるせいか、自分でも『普通』ってのがなんなのか分からなくなってきた。だがこれだけは言える。

「何故かって? 悪党なんかに負ける気がしないからさ。腕が一本無くなろうが、まだ戦える。流石に両腕両足無くなったら無理だろうけっど!」

地面に落ちている槍の先を踏みつけ、空中に飛ばし、残っている右腕で握る。

「狂ってるぜ…。ならばラウンド2と行こうか。ヒーロー?」

「ヒーローじゃない。アークスだ。」

片腕が無くなってしまっているが、負ける理由はどこにもない。こちらが自信満々な顔をしていて、相手は笑ってはいるが、焦りを隠しきれていない。反撃といきますかね。




皆様、ごきげんよう
プロローグ除いて30話目となりました。とうとうアークスとラフィンコフィンがぶつかります。まぁアークスなら大丈夫でしょ。たぶん。

さて、PSO2の新しい防衛戦の情報も生放送できましたね。
なんですかあれは!? いくらなんでも敵多すぎ・・・。
実装開始からしばらくは固定安定かなぁ。


では次回にまたお会いしましょう。

(全話見直したらあちこちに誤字脱字がgggg。できるだけ時間見つけて直します)

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