「すぐに隊長達が来てくれるって。周囲はどうだった?」
「うむ。完全に壁に挟まれておる。抜け道なぞ見つからなかった。」
つまり、ここを昇るしかないという事か。さっき試してみたけど傾斜が強くてロープ無しで上るのは不可能。
ロープはシャルが持ってるし、上にいるツキミ、アリスに戻らせることは帰路を二人きりで行かせることになる。
ツキミはシャル同様かなり高レベルになってきているし腕もあるが、アリスはまだまだレベルが低い。
あの数をまともに殲滅できるとは思えないし、万が一の事も考えるとリスクが高すぎる。ここは素直に助けを待った方がいいだろう。そう判断して落ちてきた場所に座り込み助けをまって暫くが経った。
「ツキミさーん。アリスさーん。上は問題ない―?」
崖の上に大声で叫んでみる。定期的に確認しておかないと、何があるか分からないからな。
「大丈夫です! 特に問題はありません!」
「ナイデス!」
崖もかなりの高さがあった。この広間もかなり大きい為声があちこちから反響して聞こえる。
「エネミーもいない。後は助けを待つばかりじゃな。」
「そうだね。ごめんね。もう少し気を付けていればこんな事には。」
オキさんから頭を叩かれそうだ。普段ならこんなヘマしないのにな。
「何を言っておる。それでもしっかり我を助けてくれたではないか。誰にでも失敗はある。気にする出ないぞ。」
シャルが頭を撫でてくる。くすぐったい。いつもオキさんがシリカに頭撫でているけど、撫でられるってこんな感触なんだな。
コマチとかに見られたら弄られそうだ。言いたくないな。
「うん…ごめん。」
「すぐに謝るのはハヤマの悪い癖じゃ。我が大丈夫だと言っておる。気にするな。」
そっとこちらの肩にシャルは頭を乗せてきた。うん、やっぱり恥ずかしい。
「…冷えるな。シャルは大丈夫?」
体温が上がったからか、顔が熱いからか。よけいに体が冷える感覚がある。
「うむ。ハヤマ殿のマフラーのおかげで我は温かいぞ。そういえば、ハヤマ殿がこれでは冷えてしまうな。うむ。ではこれでどうじゃ。」
シャルはマフラーを外しこちらにかけて自分にもまいた。そしてシャルはぴったりと自分の横にくっついて先ほどよりも体を密着させてくる。
「いや…そこまでしなくても…。」
あたふたする俺を横目にシャルは落ち着いている。
「何を言っておる。ハヤマ殿が私にマフラーを渡してハヤマ殿が冷えては何の意味もないじゃろ。大人しく我とくっついておれ!」
「う…。」
彼女も体は小さく、まだ未成熟な部分も多い。だがそれでも女性だと思ってしまう程柔らかく温かい。
「う…ん…。」
暴れると変なところを触ってしまいそうで、大人しくせざる得なかった。
『こういう時ってどうすればいいんだろ。オキさんにでも聞いておけばよかったかなぁ。』
何をしていいのかわからない。どうしていいのか分からない。アークスとして一流の腕をもつハヤマもこのような状況は全くどうしていいのか分からない。
『オキさんならわかるかな。普段からシリカちゃんとこんなふうにしてるし。あぁ、最近だとキリトもアスナといい感じだったな。ミケは…どうだろ。わかんね。コマチは…うーん。最近フィーアさんと仲がいいみたいだけど。』
隊長? なんかあまり興味なさそう。そんな事を考えていたからか顔に出ていたらしい。
「どうした? 難しい顔をして。あ、きつく巻きすぎたか?」
シャルの顔が目の前にある。近いってば。
「いや、くだらない事だよ。気にしないで。あと、近い。」
シャルの顔を少し遠ざける。危ない危ない。いろいろ危ない。
「うぬ。仕方なかろう。松明はツキミに渡してしまっている。ここには光がほとんどないのじゃ。ハヤマ殿の…顔が見えないと…不安、なのじゃ。」
少し震えてる? 寒いからか? いや怖いんだ。
「はぁ…これはオキさんに怒鳴られるだけじゃなくてひっぱたかれるな。」
確かオキさんはこういう時は
『いいか? 自分と一緒にいる女の子が怖がってたりしたら、安心させろ。抱きしめてもいいし頭撫でるだけでも構わん。とにかく安心させてやれ。安心させるには人の温かさが伝わればいい。』
「あ…。」
そっとシャルを抱きかかえ、自分の脚の間に入れて座らせる。
「俺にはこれが限界。これ位しか、できない。」
「…うむ。問題ないぞ。我は安心じゃ。…温かいのう。」
ふんわりとした彼女の髪の毛が顔にあたる。あ、いい匂い。ここまで再現するのかこのゲーム。ほんと、現実と何も変わらないな。いや、変わるのは痛覚系くらい?
『こんな姿オキさんやコマチ達には見せれないな。まったく、恥ずかしい。』
薄暗くてよかったと思う。なぜなら顔が真っ赤だから。
「なぁハヤマ殿。」
「え、あ、なに!?」
シャルが首をこちらに向けてくる。流石に完全にこちら側には向けれないからか体ごとだ。
「一つ、質問いいじゃろうか。」
「なに?」
「なぜ、今迄、我と少し間を開けてたんじゃ?」
ここで聞いてきますかそれ。
「やっぱ気づいてた?」
「当たり前じゃ。何をしてもお主は必ず我と一歩離れる。今回初めて自ら近づいてきてくれた。何故じゃ?」
「それこそ当たり前。初めて会った時いきなり『我を貰ってくれ。』なんて言われたって『はい、分かりました。』なんて言えると思う? それに俺はアークス。知ってるとおり宇宙で生きている。オキさんはシリカと一緒になって、これが終わったらどう考えてるのか知らないけど、俺にはまだ実感がわかない。あの人を信用してないわけじゃないんだけど、規模が大きすぎてね。どうしても、君を幸せにできるか自信が無いんだ。」
「んん…。」
シャルの頭をなでる。こういう感じなんだ。なでる側って。
「あの人みたいに、オキさんみたいに俺はできないんだ。ごめんね。慣れてなくてさ。だからうまく接する事が出来なかった。」
今迄アークスとして戦いだけだった。特に【巨躯】が復活して、【敗者】と戦って。だからそうやって接すればいいか、分からなかった。それに仮に彼女と一緒になったとしても、このSAOがクリアされまたアークスとスレア星と別れてしまえば会えることもできなくなる。そうなると彼女を苦しめてしまうだけだ。ならばいっそ最初からそのような考えに至らなければいい。そう思っていた。
「そう、思ってた。今までは…。」
「ハヤマ…殿。」
顔が近い。これあれだよね。雰囲気的にアレだよね。なんかシャルもそのつもりっぽく目閉じちゃったし。なんか近づいてくるし。どうしよ。これやらなきゃだめかな。あー、もうどうにでもなれ。
カラン…
「カラン?」
上から小石が落ちてきた。って事は何かが崖の部分にいるって事だ。あれ、この反応。プレイヤー? え?
「…オ~キ~さ~ん~?」
暗くて見えない。でもそこにいる反応は間違いない。
「…にゃ~。」
猫の声がしてくる。
「バレバレだよ! なにやってんのあんたはぁぁぁ!」
シャルから離れて立ち上がり、オキさんのいる方を睨み付ける。
「たははは…。ばれちった。くっそー。いいとこだったのに! しくったぜ。テヘペロ。」
ロープを下げてこちらまで降りてくる。
「何やってんの!? なんでここにいるの!?」
「まぁまぁ落ち着けハ・ヤ・マ・ど・の!」
ニヤニヤしているのが丸わかりである。オキさんの声が震えているから。
「つまり…最初から、いたの!?」
上にあがり、ツキミやアリス、シャル。全員がグルだというのを、オキさんが仕組んだ罠?だというのをはじめて知る事になる。
「そ、いうこと。いやーアリスの話はほんとだよ? 実はさ、アリスが襲われてたのってここなんだよ。で、偶然おれがここにラフコフの拠点があるかもって情報掴んだんだけど、偽物でさ。で、帰ろうとしたところにアリスが追い駆けられてて。追い駆けて来た変態をさらっと追い返した時になんかすっごい感謝されちゃってさ。なんでもお礼しますって来たから丁度気にかけてたハヤマとシャルをふと思い返しちゃったわけ。」
なーんでそこで思い返すかな。だからこうなったのか。
「で?」
「んで、アリスに相談したら『だったらフタリキリにシチャエバいいのデス!』なーんて言うからさ。初めはアリスとシャルがうまく話をしてこの鉱山の中で迷子になるはずだったんだけど思ったよりすんなり行っちゃうし、ハヤマン下に落ちちゃうしでねぇ。まぁ運よく? 悪く? 怪我もなく二人きりになったから上でずっと見張ってたんだわ。」
「ずっと…?」
「ずっと鉱山入って初めから。落ちて行ったときは焦ったけど、そのあとの流れもばっちり! 録画したかったなぁ…。」
どうやら初めから仕組まれてたらしい。鉱山に入った時にはすでに後方にいたらしく、自分の索敵範囲外ギリギリを保ってつけていたとか。
「あ、だから後ろからエネミー来ないし、ここにボスもいないのか。」
「その通り。ボスは初めて来たときに排除しちゃったし、鉱山の鉱石アイテム取得はメイサーいないと手に入らないからね。アリスにお願いしてもっかいきてもらったんだ。いやーここまで面白いとはねー。あの堅物のハヤマんが。いやー堪能しましたご馳走様。とはいえ、シャルには惜しいことしちゃったね。すまん。」
シャルに頭を下げるオキさん。
「よい。これで我も安心した。次は自力で奪ってみせるわい。」
なんか変な自信付いちゃってますけど!? 唐突に起きた出来事に頭の中が混乱してうまく判断が出来ない。
「はっはっは。いや、いいもん見れたわ。これはSAO終わったらアークスシップ中に知らせないとな。アザナミさんでしょ? イオちゃんに、あぁマトイちゃんにも話そう。そうだなオーザとマールにも話をして今度こそくっつけてやる。そうだマリアさんとかに話したら大爆笑しそうだな。うんうん。」
「うんうん、じゃねーだろぉぉぉ!」
カタナを取り出しオキさんに振り下ろす。
「やっべハヤマンが怒った。」
しっかりと槍で防ぐ。もちろんここでオキさんを傷つけてしまうとカーソルがオレンジになってしまうので本気ではないが。これはねーよ。
はははと笑いながら逃げるオキを追い駆ける。
「はぁ…はぁ…。ところで、そこでアリスが踏んでる男はだれ?」
アリスが先ほどから大きな男の上に立っている。小さいからか特に痛そうな顔はしていないが、なんか一緒にツキミも踏んでるし。ってかいつからいたの?
「ふむ。さっきから気にはなっておったが。なんじゃこの男は。」
「踏んであげると喜ぶそうです。」
「ほう…。どれ。」
シャルも悪乗りしてゆっくり踏み出す。
「ああ…。ありがとうございます。ありがとうございます!」
なにこの変態。すっごい喜んでるけど。
「あー…。そいつがアリスを襲おうとした男。なんか極度のドMでさ。さっき後ろで捕まえたんだ。そしたら何もかも白状してさ。」
「ぼ、僕はアリスたんに踏んでほしかっただけなんだ。だから、お願いしようとしたんだけど…そ、その緊張しちゃって…。こわがらせちゃって…。ごめんなさい。そしてありがとうございます!」
踏まれながら謝ってお礼言って。なんだこいつ。
聞くところによると、アリスがその男の大好きな童話のキャラクターによく似ていたとか。
「不思議の国のアリス?」
「ああ、我もよく小さき頃読んでいたぞ。アリスという少女がウサギを追って不思議な国へと冒険にでるお話じゃな。」
へぇそんなお話があるんだ。一回読んでみたいな。
「ワタシのナマエのユライがソノアリスナンデス!」
アリス本人も好きらしい。どうやら街で見かけた際に一目ぼれして何とか声をかけようとしたが、殆ど女性と話したことのなかった彼は、アリスの後ろを追い駆ける事しかできなかったそうだ。ある時決心して声をかけようとしたが逆に怖がらせてしまい、その時にオキさんに見つかったらしい。だがその願いが『踏んでほしい』はないわ。
「ごめんなさい…反省してます。」
「傍から見ると反省してるようには見えねぇな。まぁほんとに反省してんだろうけど。アリスが許すなら俺は何もしない。」
流石のオキさんも苦笑気味である。どうやら悪い奴ではないらしい。不器用なだけだった。
「デス。ハンセイしてるミタイデスし、ワタシハモウダイジョウブデス。」
アリスは男の上から降り、彼の顔を覗く。シャルやツキミの彼の上から優しく降りた。
「オウフ…。なんという天使! …スマンデス。」
「まぁわかればいいさ。これからは二度とするんじゃねーぞ。次やったら流石にこいつで監獄送りだからな。覚悟しとけよ。」
そういってオキさんは回廊結晶を取り出す。
「ヒェェ。ご勘弁を~。」
何度も土下座で謝る大男をみて笑うオキさん達。
アリスはシャル達と更に仲良くなり今では共に攻略へと向かう事が多い。大男は何度も謝り二度とこのような騒動を起こさない事を約束をしていった。
再びオキさんが次のラフコフの拠点探しをする為別れる際。
「そういえばはやまん。」
「ん?」
「なんであそこで結晶使わなかったんだよ。みんなに常時持つように指示してたろ? アリスの分も用意してたはずだ。」
そういえばそんなのあったな。
「おい…。ガチで遭難しても俺は知らんぞ。」
「テレポータって普段持たないからつい忘れてた。今度から気を付ける…。」
うん、気を付けよう。
「…シャル泣かせたら俺がぶった切るからな。ちなみに今回の件はみんなに話してるから。」
「わかったと…って、なんでや!」
全力で追い駆ける俺。全力で逃げるオキさん。
本当に皆に話したらしく、それからかってくるコマチとミケがうざい。隊長までネタにしてくる。
「シャル君を悲しませたら…切るからな? 女性を泣かせるものではないぞ。ハヤマ君。」
いや隊長はガチだこれ。どうしてこうなった。
ごきげんよう。
最近のPSO2はシステムがいろいろ新規に追加され試しながら腕を磨く毎日。
ただ、月末からゴッドイーターに浮気するかも・・・。
さて、今回はあまり動きのなかったハヤマとシャルが急接近するお話でした。
書いてる最中、超楽しかった。(本人からは相当怒られました
そろそろラフコフ戦にうつるかなぁ。
では次回まで・・・。