「ん? メール。オキさんからだ。」
53層、浮遊に浮かぶ大陸の連なるこの階層でレベル上げをしている最中にその一報が届いた。
「ふむふむ…。」
その内容をざっと一読した後に空を見上げながら一言つぶやいた。
「あの人は…相変わらずだなぁ。」
そこには一人のプレイヤーを知り合い、ギルドに加入させるという話だった。
「ミナサン! ヨロシクオネガイシマス!」
金髪のロングウェーブ。青色の瞳。しゃべり方のおかしい言葉使い。かわいらしく美しい小さな美少女のプレイヤーが1人、アルゴに連れられてギルド拠点に元気にな声で挨拶を行った。
「よ、よろしく。」
新たなメンバーに加えるという事でギルドメンバー全員を拠点に集めさせたが、元気な笑顔と声に押され、その場にいた全員がタジタジになっている。
「アリスといいマス! オキサンにはイロイロたすけてもらったのデス!」
「リーダーから話はいっていると思うけド。聞いてル?」
その状況を楽しんでいるのかいつもより顔がにやけている。
「あの人が下の層で男性プレイヤーに襲われそうになっている所を救ったって聞いてるけど。」
メールの内容には簡易的にだがこう書かれていた。
『お疲れさん。攻略は順調? こっちはラフコフからの襲撃がちまちま続いてるくらい。いくつかの拠点っぽいのを見つけたんだが本拠点じゃなかった。(以下中略)
で、本題に入るんだけど、アリスというプレイヤーをアルゴに預けた。うちのギルドに加入させてほしい。彼女はある男からストーカーを受けていてね。あと少しで襲われるところを偶然俺が見つけたんだわ。男に逃げられちまった上にラフコフに関係ありそうな感じだったから、今あちこちの情報かき集めて見つけようとしてるんだが見つかんなくてね。また襲われたらたまらんし、匿うという理由にも丁度いいかなと思う。彼女の実力は俺が保障する。まだレベルは低いが呑み込みが早い。レベル上げを手伝ってあげればすぐにでも最前線クラスに匹敵するくらいにはなるだろう。ってわけでよろしくー。 オキ
追伸、彼女、結構コミュニケーションが激しいから男性諸君に気を付けるようにと言っといて。』
とこのような内容だった。
「ハヤマです。オキさんの代わりに今は代行リーダーとしてやってる。よろしくね。オキさんからは一応、話は聞いているよ。なんかいろいろ大変だったんだね。」
「そうデス。とてもコワカッタデス。でも、オキさんがタスケテくれマシタ! オキさんはワタシのコトをマモッテくれたプリンスデス!」
その言葉を聞いて一人の少女がビクリと体を震わせる。それと同時にその場にいた皆がその少女の方を向いた。シリカだ。
「え…え!?」
「アー。デモ、オキさんにはダイジなフィアンセがいるとキいてマス。もしかして、アナタがシリカデス!? オキはいいヒトデス! タイセツにするデスヨ!」
「フィフィフィ…フィアンセ!? あ、う…キュー。」
「ちょ! シリカちゃん!?」
顔を真っ赤にして大会議室の机の上に座ったままパタリと倒れてしまった。すぐ近くにいたアスナが体をゆするが目を回していて反応が無い。すぐに部屋へと搬送された。
「アレ? チガウデス?」
首をかしげながら状況が分かってないアリス。面白そうにメモを書いているアルゴ。苦笑するしかなかった。
そのあと、気が付いたシリカに全力で謝るアリスをみつつ、今後の話をした。
「オキさんからは俺とシャル、ツキミで一緒に組んで一気にレベルを上げるってオキさん依頼されてる。シャルもいい?」
「うむ! ハヤマ殿がいいならそれで構わんぞ。なぁツキミ!」
「はい。」
ふたりは快諾してくれた。ありがたい。
「シャル…サン? アナタがシャルサンデス!?」
シャルの名前を聞いて急に身を乗り出してきた。
「う、うむ。どうしたのじゃ?」
「オキサンからハナシをアズカッテマス! アト、ハヤマサンにもデンゴンデス!」
「ん?」
二人で顔を見合い、首をかしげる。なんか嫌な予感がする。
『46層の山岳部奥に鉱石があるんだが、カタナの改良に使えるという情報を手にした。隊長の武器は特殊な改良方法があると隊長から聞いているから、ハヤマんの武器にと思って。みんなのレベル上げにも丁度いいし、シャル、ツキミと一緒にアリスを連れて行ってくれ。本来この系統のアイテムを手に入れるにはメイサーが必要らしいが、アリスがメイサーだから問題は無いはずだ。じゃよろしくー。
追伸:両手に花どころかハーレムだな。よろこべ』
確認すると面白そうな内容だった。最後の1文を除いて。
「カタナの改良か。面白そうだな。」
オキさんから確認のメールを見ている最中、シャルとアリスは何やら別件の話をすると言って離れている。まぁ仲良くしてくれればそれでいいや。そんな事を想っている時だ。
「なんじゃと!? そのような事ができるのか!?」
シャルが目を丸くしながら叫んだ。
「どうしたの?」
いきなり大声を出されたので少し驚いた。なにか問題でもあったのだろうか。
「あ、いや。なんでもないぞ。すまぬ、少し驚いただけだ。特に問題は無い。心配するでないぞ。」
あたふたしながら否定するシャル。なんか怪しい。まぁ問題じゃなければそれでいいか。
しかし鉱石か。ここはリズベットにも聞いてみるかな。
「鉱石発掘? ああ、やったことがあるわ。へぇ、アリスって私と同じなんだ。私はリズベット。リズってよんで。ここのギルドの武器管理をやってるわ。よろしくね。」
「ヨロシクデス! リズ!」
リズの手を掴んでブンブン振るアリスにリズも少し苦笑気味。
「げ、元気な子ね。で、鉱石だったわね。まぁハヤマが行くなら大丈夫だと思うけど、鉱山系の場所って地盤がもろくて穴がたくさんあるから気を付けてね。私も何度か落ちてキリトやオキに助けられたことあるから…。ダメージとかその辺は大丈夫だったけど、落ちた先がモンスターハウスとか稀にあるみたいだから。」
たははと笑うリズベット。なるほど。罠のような類か。気を付けよう。
「あ、そうだ。もし余分に持って帰ってこれたら私に売ってくれない? 他の武器にも使えないか試してみたいの。」
目を輝かせているリズベット。お土産に丁度いいか。
「オキさんの情報だとここのはずだけど。」
情報にあった鉱山地帯。山の麓には村があり、そこのNPCから情報を貰えるという事だ。
さっそくそれぞれペアになり村の中で情報を収集する事に。
「じゃあ、オキさんから頼まれてるからアリスは俺と…。」
「なにをいっておる。我と一緒じゃ!」
一瞬でくっついてきた。何今の早さ。見えなかったんだけど。
「ワタシはダイジョウブデス。ツキミとイッショにウゴキマス!」
「はい。お任せください。では後程。」
アリスとツキミは急いで離れるようにその場を去って行った。シャルを見ると物凄く楽しそうで嬉しそうな顔をしてこちらを見つめてきている。
「う…。わかった。わかったよ! じゃあ行こうか。」
「うむ!」
こうなったシャルはてこでも動かない。諦めたほうが早いのだ。仕方ないなぁもう。
「あの鉱山は昔から多数の鉱石が取れたものじゃ。ただ、最近ではモンスターの住処になってしまってな。いまでは危険地帯として命知らずな奴らしか入っていかん。まぁ止めはせんが、命の保証はせんぞ?」
村の端、鉱山の入口にいちばん近い場所にいたNPCからは山の構造について情報を貰った。
「エネミーがいるなら倒せばいいだけの事。じいさんありがとな。」
「ありがとな! ご老体! 感謝するぞ。」
「気を付けてなぁ。」
手を振ってNPCの下を離れる。丁度そこにツキミとアリスが合流した。
「酒場の方からいくつか情報を頂きました。奥の方でここでしか手に入らない鉱石が見つかった事があると。」
「ビッグなコウセキがあるラシイデス。デモ、トチュウでタクサンのモンスターがマチウケテルカノウセイダイだとキキマシタ。」
なるほどね。モンスターを蹴散らして奥まで行けばその特殊な鉱石が手に入ると。
「ふーん。面白そうじゃん。ピッケルも買ったし、ボスクラスが出てもまぁ何とかすればいいか。じゃあ採掘に行こうか!」
「「「おおー!」」」
鉱山の中は薄暗く、所々にトロッコの後や折れたピッケルなどがあちこちに散乱していた。
「…くちゅん。」
「寒い?」
普段から付けているマフラーをシャルに巻く。アークス時でもつけていて、無いときは落ち着かなかったから最近裁縫スキルを上げているというサクラに作ってもらったのだ。
「ん、すまぬ。…ふふ。温かいぞ。」
ニコリとほほ笑むシャル。その笑顔を何故か直視できずに目をそらす。
「う、うん。」
「イヤーイイデスネー。」
「はい。」
後ろを見るとアリスとツキミがにやけているように見える。うーん…うす暗くてよく見えん。
手元にある松明しか明かりが無いのがきついな。こんな状態でモンスター出てきたら少しやばいかも。
「とか思ってると出てくるんだよな。」
索敵スキルに反応がでる。結構いるな。蛇系に、虫系に…わぉ。ゴースト系までいるね。
「なんでも一緒にすればいいってもんじゃないぞ。」
「同感です。」
「ダ、ダイジョウブデス?」
シャルに松明を持たせてカタナを抜く体制にはいる。
「大丈夫さ。ささっと蹴散らして奥に行っちゃおう。後ろ、お願いね。」
これ位なら特に問題は無い。レベルも低いしドロップアイテムだけもらっちゃおう。
そう思いながらエネミーの軍団に突っ込んだ。
洞窟は幅が狭く挟まれない限り囲まれることは無い。1体1体確実に仕留めきれば向こうから来るのを切り刻めばいいだけの事。
「はぁぁぁ!」
ならば普段通りに切ればいい。こういう狭い所ではPAのサクラエンドやシュンカシュンランが使いやすい。上下が必要なゲッカ等は前方に強くてもこの高さでは頭を打ちそうだ。やめておこう。
エネミーは攻撃してくるまもなく結晶化して砕け散っていく。
『シャルがエネミーに俺の影が重なら無いように微調整しているな。ありがたい事だよ。』
松明が後方にある為に前方に自分の影が出来ていてエネミーにかぶり見えなくなる時がある。だがシャルが絶妙なタイミングで左右に移動し、エネミーを照らしてくれる。おかげで見えなくなることが無く切り刻むことができた。
「これで、終わりかな?」
最後の一匹を切った。他のエネミーが出てくることはなさそうだ。何匹やったかな。15? 20くらいはいたかな?
「スゴイスゴイ! サスガオキさんがイッテイタ、セナカをアズケレルアイボウさん!」
「ふふん! ハヤマはすごいのだ!」
シャルなんでお前が威張るんだ。まぁいいや。とにかく後ろからも来るかと思ってたけどこなかったし、先に進むとするか。
「じゃ、ゆっくり進もう。また出てきてもおかしくないからね。」
洞窟内を再び進みだす。途中、何度かエネミーの群れに遭遇したが、全て切ってやった。かなり奥まで進んだ先にセーフティエリアが見つかりそこで休憩を取る事にした。奥に行く道から外れた行き止まりで、地下水がたまったせいか、小さな池のようなものが出来上がっていた。光に照らされて天井部から落ちる水滴が幻想のように光り輝いている。
「だいぶ奥まで来たのではないか?」
「うん。ここにセーフティエリアがあるってことはそろそろ最奥だと思うんだけど。」
「ウーン。アリス、ナニもデキテナイデス…。」
しょぼんとするアリスをツキミが宥めている。まぁ基本的に俺が全部切っちゃったからなぁ。だって狭いんだもん。こんな状態で乱戦状態にできるわけがない。危険すぎる。
それを説明するとまだ納得いってない顔だったが頷いてくれた。仕事はこれからだという事で。
「ほー…。」
「これは、すごいな。」
「キレイデース!」
最奥にたどり着くとそこは煌びやかな天井や壁で埋め尽くされる小さな宇宙のような光景が広がっていた。
「これが全部鉱石、ですか?」
煌びやかな正体はたくさんの鉱石。幻想的な天井を眺めながら足を進めた瞬間だった。
「うお! しまっ…!」
「ハヤマ殿! きゃあああ!」
暗くて誰も気づかなかったが空洞の広場の途中から強い傾斜のある崖となっており、それに気づくのが遅れバランスを崩しそのまま下へと落下してしまった。
助けようと手を出したシャルも一緒に落ちてしまったようで、何とか落ちている最中に抱きかかえ彼女を守った。
「主!」
「ハヤマサン!」
上から小さな光が見え、小さな声が聞こえる。ツキミとアリスがこちらの無事を確認しているようだ。
「大丈夫だー! 俺もシャルも無事だー!」
かなり落ちたな。なんでこんなところに崖なんかあるんだよ。くっそ。気づかなかった。
「ごめん。シャル。君まで巻き込んでしまって。」
「大丈夫じゃ。問題ない。ハヤマ殿が無事でよかった。我はそれだけで十分じゃ。」
にっこりとほほ笑む笑顔が普段より近い。暗くて近くに寄らないと彼女が見えない。だからいつもより寄り添っていた。
「そうだ。確かロープを持ってきていたはず。それを使えば!」
「すまぬハヤマ殿。我が持っておる…。」
ロープをアイテム欄から具現化するシャル。さってこれはどうするかな。
「今から私達が戻ってロープをお持ちいたします! それまでお待ちください!」
ツキミの声が上の方で響いて聞こえてくる。
「だめだ! ツキミ達だけでじゃ危険すぎる! 助けを呼ぶからそこで待機してて!」
「…了解しました!」
「シマシタ!」
運がいいのはこのエリアのボスがいない事だ。普段ならいるはずなのだが。まぁいいか。とりあえずオキさんは忙しいだろうからコマチか隊長あたりに助けを呼ぶか。
メールを起動し、両方に助けのメールを書き始める。全く恥ずかしかぎりだ。
シャルがその時とてもうれしそうにしているのに、この時は気づく余裕もなかった。
皆様ごきげんよう。
祝!PSO2 EP3終了!
最初は「え!? なんで!?」って内容だったけど、最後の最後までやるとすべてが一本になって、すごく納得できる内容でした。(若干涙腺ヤバかったです)
さて、トリトリ4もきましたし、新たな武器も追加され、武器掘りを再開する日々がまた続きそうです。
全アークスにいい武器が出ますように。
さて、2人きりになったハヤマはシャルと無事に鉱山を脱出できるのでしょうか。
書いている最中、ニヤニヤしながら書いてました。
次回もよろしくお願いいたします。