SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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オキがラフコフとやり合うために暫くソロで活動すると連合のリーダーに連絡をいれたあと、リーダー達はオラクル騎士団のギルド拠点に集まり、ハヤマからその事実関係を説明してもらっていた。


第26話 「代行」

「…ってわけで、オキさんは暫くソロでラフコフとやりあうらしいから、その間俺が仕切る事になったっぽい。全くあの人は…。」

 

「おいおい、大丈夫かよ!」

 

クラインが心配そうにこちらを見てくる。それに対しては大丈夫だと宥めた。

 

「文面にもある様に、かなり本気みたいだね。こうなるとオキさんは止められない。」

 

「だーな。あの時もそうだったもんな。旧マザーシップに一人で乗り込んでって挙句、追いついた頃にはレギアス達と戦ってたもんな。あの人の自己犠牲精神はなんとかならん…か。」

 

「むりなのだー。」

 

コマチとミケも万歳してお手上げをする。自分も同意だ。アインスも隣で黙ってうなずいている。

 

オキさんはラフコフに対し、自分を狙い続ける限りそのほかのプレイヤーには手を出させない契約をした為、暫くソロで動き回るそうだ。俺たちに対してはその間に攻略を進めてほしいと依頼してきた。

 

「シリカはそれでいいのか?」

 

大会議室、各ギルドのマスターに加えイレギュラーズやキリト等の最上位メンバー。そして今回のオキさんの単独行動で一番の犠牲者と言えるであろうシリカが集まっていた。

 

「はい。最初は驚きましたが、オキさんから個別でメールが届いて…その…えっと…。大丈夫です。みなさんの危険が無くなるまで私も我慢できます。それに、初めて会ってからもう1年以上たちますが、そろそろ甘えてばかりもいれませんから。」

 

少し顔を赤らめながらシリカは笑顔で答えた。

 

「シリカちゃん! 成長したわね~!」

 

アスナがシリカに抱き着く。

 

「あわわわ!」

 

ジタバタしながらシリカはあわてている。

 

「あの…個別でメールをいただいて…。その、えっと…。」

 

顔を赤らめながらもじもじしている。あーわかった。そういう事か。

 

その場にいた全員がシリカの反応で察した。

 

「「「あの人一体なんて送ったんだろう…。でもどうせ、恥ずかしい内容なんだろうな。」」」

 

「はーっくしょい! ちきしょう。冷えるな。」

 

誰かが噂した為か、ある層の洞窟を探索中なので冷えた空気で体が冷えたからか。一人のアークスがくしゃみのを誰も知らない。

「ともかく、オキさんが暫く不在になるからって事でギルドは俺が代行する事になった。オキさんみたいにできるか分からないけど、全力は尽くす。なにかあったらフォローよろしく。」

 

「任せておけ。今迄通りやっていけばいい。」

 

アインスが頷きながらこちらを見ている。他のプレイヤーも同感のようだ。

 

「ありがとう。さって、オキさんからのメールだととりあえず今まで通り攻略は進めてくれって事と例の件、この間決めた内容もそのまま引き続き行ってほしいって事だから協力頼みます。」

 

「「「了解(なのだー)。」」」

「じゃあ、オキさんは一人で戦うって事!?」

 

タケヤが説明を聞いた直後に立ち上がって叫んだ。

 

「タケヤ、座りなさい。ハヤマさん達が大丈夫だと言っているのだから、大丈夫なんでしょ?」

 

ツバキがタケヤを宥めて座らせる。それでも心配そうな顔だ。

 

「でも、本当に大丈夫なんでしょうか。」

 

サクラも心配そうだ。

 

「大丈夫ですよ。」

 

シリカが力強く発言する。

 

「オキさんなら大丈夫です。だって、いつも話していましたから。もっとおっかない化け物と戦っているからって。今までもそうだったじゃないですか。いろんな強いエネミーとも鼻歌交じりに戦っていたんですから。」

 

「しかし、相手はプログラムじゃなく人間だぞ?」

 

「タケヤ、そこは違うと思う。」

 

「レン?」

 

レンがメガネをかけなおしながら言った。

 

「ハヤマさん、コマチさん。ミケさん。今まで戦ってきたダークファルスと呼ばれるエネミー。あれは本当にプログラムなんでしょうか。自分達も皆さんのおかげで強くなりましたが、25層、50層とあの2つの層だけはみなさん、イレギュラーズ、『アークス』のみなさんがいなければ簡単に突破は不可能だったと思っています。」

 

「そうだな。あの2つの層のエリアボスだけは普段のボスとはまるで違った。力が強い、スピードがある。防御が硬い。それだけではない。プログラムには無い、なにかを感じた。まるで…そうだな、本物のようななにかを。皆もディアベル達から聞いたであろう? 50層の最後のあの男の目から感じた…。あれは人の目ではない。この世のものとは思えぬ何かを感じたと。」

 

オールドがここまで長く語るのは珍しい。それだけ重要な点だとそこにいた皆が感じた。

 

「『巨躯』だね。うん。オキさんや、隊長とも話したんだけど間違いなくあれは本物の『ダークファルス』。力こそ殆ど感じなかったし、今俺たちはフォトンを使えない。だからダーカー因子を感じることは無いはずなんだけど…、何故かあれからは感じ取れた。ほんの少しだけどね。」

 

コマチ、ミケもうなずく。二人も感じ取ったと聞いている。

 

「つまり、そんな化け物と毎日戦っていたオキさんなら、人間相手に後れを取らないと、僕は思う。そうでしょ? シリカさん。」

 

レンは自身満々に答えた。シリカも力強くうなずく。

 

「はい。私もそう思います。毎日オキさんと一緒に冒険して、戦って…。思った事はやっぱりただの、私達とは違う人なんだなって。そう思いました。日常が戦い。私たちが日常で、学校で、生活でペンや箸を当たり前のように使っているように、オキさん達も武器を当たり前のように振っている。だから、ただの人間に遅れは取らない。そう思います。」

 

「シリカちゃん…。」

 

「シリカ…。」

 

どこかさみしく、悲しい感じにシリカはしゃべった。アスナとリズベットも同様にボソリと呟く。

 

『そりゃそうだろうな。オキさんとシリカちゃんはアークスと一般人。違いがありすぎる。それを感じているんだろうな。』

 

皆が重い雰囲気になり一瞬静かになる。だが一人の少女が発言した言葉でそれを吹き飛ばした。

 

「じゃが、それでもあの男を愛しておるのだろう?」

 

重そうな雰囲気を簡単にぶち壊し、物凄い発言を放ったのはシャルだった。

 

「ふぇ!?」

 

「なに、恥ずかしがることは無い。我だってハヤマの事を愛しておるし、アインス隊長の所のサラだって、クラインの事を愛しておる。我々スレアの人間だからといって、ただの人だからと言ってアークスである彼ら彼女らとの違いなんて出生の違いだけよ。我は思う。力や星々の違いはあれど、考え方は同じよ。恥ずべき事は何もない。なぁハヤマ殿!」

 

思いっきり腕を抱きしめてきた。いろいろヤバイからくっつかないで。お願いだから!

 

「ヒューヒュー! おあついねー。」

 

「いいぞー! もっとやれー!」

 

センターやコマチ達が煽ってくる。

 

「うっせー! シャルももういいだろう? と、に、か、く。オキさんはほっといても死なないだろうし、すぐに帰ってくると思う。代行としてどこまでやれるか分からないけど、協力よろしく。」

 

シャルを振りほどいて離れさせた。全員が頷いてくれた。ありがたい。

 

28層。転送門のある拠点から少し離れた小さな村でオキと落ち合った。

 

「そうか。みんなわかってくれたか。ありがたい。」

 

「うん。オキさんやる気でしょ? だったら邪魔しない方がいいかなって。あとこれ。必要でしょ?」

 

オキに渡すためギルド倉庫から大量の資材や道具などを持ってきてやった。

 

「ああ、心配しないで。使っても使っても誰かさんのせいで増える一方だから。」

 

苦笑気味に受け取るオキ。まぁいつものことだなと笑い合う。

 

「そうそう。一ついいことがあったよ。」

 

「ん?」

 

キリトが「月夜の黒猫団」という小規模ギルドを育成で手伝ったらしいが、あるダンジョンで高難易度の罠にかかったがキリトの奮闘とかなり育っていたメンバーにより助かったという。それによってかなり感謝されたという話だ。キリト曰く前線クラスでも問題が無いのでは、という話からギルド連合加入も皆で考えている事を伝えた。

 

「ほう。そいつは良い事をしたな。」

 

「でしょ? みんないい感じになってるよ。俺たちがいなくてもね。」

 

初めはアークスだけで突き進んでいた感があったが今ではプレイヤー達も1年以上戦っている。そりゃ育つよね。

 

「みなが協力してこの世界から脱出しようとしている。そんな状況をぶち壊す奴は許さない。」

 

「そうだね。オキさん。なんかあったらすぐに連絡ちょうだいよ? 無理したらシリカちゃん泣いちゃうからね? そんときはオキさんの事許さないからってアスナやリズベット達が言ってた。伝えておくよ。」

 

こいつは怖いな。気を引き締めねーとと呟くオキ。そんな話をしながら二人で笑いあった。

 

「おい、あんたら攻略組の人じゃないか?」

 

1人の男が話しかけてきた。

 

「ああ、そうだが? なにか?」

 

「いやー。もし時間があったら手伝ってほしい事があるんだ。俺たちじゃなかなかクリアできなくってよ。」

 

男の後ろを見るとテーブルに5人ほど他のプレイヤーが手を振っている。

 

「特にそのエンブレム。『オラクル騎士団』の人だろ? 情報屋から見かけたら気軽に声かけていいって聞いてるんだが。時間があれば手伝ってくれると。」

 

「ああ。そういう風に言ってあるからね。何をすればいいんだい?」

 

低レベル帯の人達でも気軽に声をかけてもいいとアルゴからいろんな情報屋に言い伝えてくれとオキは言っていた。だって声かけにくいだろ? 高レベルの人に手伝ってくれっていうのって。

 

「ここから少し離れた洞窟にいるモンスターが俺たちじゃ倒せないんだが、できればアドバイスか何かくれるとありがたい。もちろん手伝ってくれると楽なんだけどな。」

 

「ヤバくなったら手伝うよ。それまではしっかり自分の力を出し切るんだね。楽はさせないよ?」

 

「はっはっは。まぁそうだろうな。こっちだ。」

 

中年風の男性プレイヤー達は各自自己紹介や、上層での戦いについて質問をしてきてなかなか盛り上がった。

 

洞窟に入り、奥へと向かう途中広い空洞部にでた。その真ん中付近で男たちは立ち止まる。

 

「ん? どうした? 道を間違えたか?」

 

「いや、ここであっている。倒すのは…お前だからな!」

 

男たちが一斉に武器を取り出し、襲ってきた。

 

「…はぁ。」

 

「…全く。」

 

オキと二人でため息をつき、それぞれに対して襲ってきた者たちの武器を弾き飛ばした。

 

「な…!?」

 

「つ、つよい…。」

 

「おめーら誰から雇われた。どう考えても罠ってバレバレだったし、お前らじゃ戦うどころか問題外だ。弱すぎる。」

 

オキは槍を振り、リーダー格の男に突き立てる。こちらも他のメンバーにカタナを向けて手を上げさせる。

 

「おおお、俺たちはここにおびき寄せろと…いわれた…だけで…。」

 

「ああん!?」

 

「ひい! ごめんなさい! こ、こんなに強いなんて聞いてなくて…。」

 

オキが睨みつけるとすぐ弱音を吐いてペラペラとしゃべってきた。オキさんのこの状態ってこちらも怖いんだよね。しかしこの状況、なにか臭うな。

 

「はやまんこれは…。」

 

「うん。逃げた方がいいかもね。」

 

「同感。おい! 入口まで走れ! いいから走れ! おら!」

 

土下座まで決め込んでいるプレイヤーの尻をけたくり、走らせる。直後に奥から何やらこちらに向かって玉のようなものが飛んできた。

 

 

ボン!

 

 

空洞部に紫色の煙が広がる。色からしてヤバイのがわかる。

 

襲ってきた男たちとオキは間一髪で逃げることができた。

 

「やーっぱ襲ってきたか。ラフコフ。ほかのメンバーを犠牲にしてまで襲って来るとはな。」

 

「オキさん、こいつらどうする?」

 

地面にすわりこんだり、頭を抱えて震えている男たちの方を示す。大の大人がいい格好とは言えないね。

 

「どうせただの下っ端だろ? あいつら、平気で仲間を殺すからな。多少の犠牲くらいどうということはないんだろ。」

 

「お、俺らどうなるんだよ。このままじゃおれらまで 殺されちまう・・・。たたた、助けてくれぇ!」

 

オキにしがみついてきたリーダー格だが、それを振りほどいた。

 

「オラ、この回廊結晶やるから牢獄にでも入ってろ。それなら殺されることもないだろ。命あっての人生だ。死んだらそこまで。いきてりゃなんとかなるだろう?」

 

その場にいた全員が壊れたように首を縦に振って、「ありがとう、すまない、ありがとう、すまない」と何度も言いながら結晶であの黒い監獄へと送られていった。

 

「ハヤマん、ディアベルに雑魚数名送っといたから保護頼むって言っといて。」

 

「りょーかい。オキさんは今後どうするの?」

 

「しばらくテキトーに歩きまくるさ。そのうち向こうからやってくるだろ。」

 

背中越しに手を振って来た道を戻るオキ。そのとき、オキは手を何度か握っては開き、握っては開きと繰り返していることに気づく。これは自分の中で怒らせてはいけない人のトップが怒っているということを表していた。




皆様ごきげんよう。そろそろ日中の時間も短くなり、肌寒くなってきました。風邪とかひいてないですか?
今回は、「代行」ということで、ハヤマ視点になっております。
彼はPSO2の世界を1から教えてくれた師匠であり、同時に共に戦ってきた相棒でもあります。だからこそ、代行として任せきることができるのです。(これだけベタ褒めしとけば後で何かくれると思うの。ゲス顔)
さて、しばらくオキはソロ活動のため視点をかえて他のメンバーを主人公に書いていきたいと思います。
ではみなさん、また次回にお会いしましょう。

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