犯罪ギルド『ラフィンコフィン』、通称ラフコフからの話が出てから数日後、最前線を駆ける攻略組の各ギルドの長は話し合いから小中ギルドの護衛及び育成計画を練る事にした。
アルゴからの情報により、ここ最近オレンジプレイヤーに襲われた者達の傾向から中層で活動するギルドが多い事が分かった。
中層以下で活動しているギルドにはできるだけ1層を中心に活動してもらい、事が収まるまではギルド連合が全面的に支援する事に。
一番被害の出ている中層で活動するギルドに関しては最前線組を割り、各ギルドに最前線の中でも主力クラスのメンバーを1名支援者としてつかせることに。レベル上げやレア堀などが容易にできる環境を整えると共に、いつでも被害が押えれるように目を光らせた。
更に俺やディアベルの案でラフィンコフィンの情報をアルゴに徹底的に調べてもらい、元凶である『Poh』を捕らえる事を優先で動く部隊を編成。これらから51層以降、動く部隊を3つに分けた。
一つはメインである攻略。これを進めなければ話にならない。できるだけ主力メンバーをいれつつ、イレギュラーズであるアークスメンバーがいなくても攻略できるようにレベリングもかねてコマチ、ミケを中心に各ギルドから主力となってもらいたいメンバーを選出。
二つ目はその他ギルドの支援部隊。これは面倒見のいいメンバーを選出しつつ、いつオレンジプレイヤーが彼らを襲ってきてもいいように攻略メンバーよりも多めに主力メンバーを割いた。ここにはキリト、アスナ、クライン等が含まれる。面倒見のいい事と親しみやすい事から下層で人気の高いキバオウもここに入っている。
三つ目は危険度が高いために主力クラスのみで構成する。それが『警備部隊』。アルゴの情報を元にできるだけ多くのオレンジプレイヤーを探しだし捕獲する。ただし、相手の動き次第では自らの命すら危うくなる可能性がある為に覚悟のあるモノだけを選抜した。それのメンバーはアインスを隊長とし、ハヤマ、ディアベルが副隊長として、少数精鋭部隊を作成した。
先の大会議で小中ギルドの把握をした結果、思ったより数が少ない。まぁ今このアインクラッドで生活するプレイヤーの殆どが1層で生活しているのだから当たり前か。
その後動きを開始してもらい、様子をうかがった。
ちなみに俺は一人である事を行う事にした。それが何かと言うと…。
「やあ。」
「…。」
29層の街から北西に向かった先の村である男と出会っていた。
「『今夜は半月かな?』」
「『満月か新月だろう?』あんたが依頼人か?」
「仲介人さんだね。よろしく頼む。」
村の居酒屋で出会った男に合言葉で会いたかった相手だと双方確認する。普段の格好から中層のプレイヤーに合う格好に変え、マント系からフード系の格好へと変えた俺はある男に出会えると聞いたためにここへとやってきた。
この計画がうまくいけば相手側より先制を取る事が出来る。フードを深くかぶり、できるだけ顔が見えないように再度フードを弄った。
2日前、オラクル騎士団ギルド拠点、大会議室にて。
「オトリになるぅ!?」
クラインの声が会議室に響いた。
「クライン…あまり耳元で叫ばないでくれ。耳が痛い。言った事はそのままだ。つい先ほど、アルゴからある情報が入った。中層で殺しの依頼ができるという噂だ。」
「なんだと…!?」
その場にいた連合のメンバーがざわつく。
「あー…そういう事か。わかった。オキさんのやろうとしている事。」
ハヤマがいち早く感づいたようだ。流石長年一緒に肩並べてる相棒だ。
「どういう事か説明してもらえるかい?」
ディアベルが怖い顔してこちらを見ている。
「まぁ殺しの依頼っていうのが誰でもできるのか知らないけど、俺自身をターゲットにしたらどうなると思う?」
「…なるほど。」
アインスも言っている意味が分かったようだ。ディアベルも少し考えた後にその意味を理解する。
「あーだめだ。ぜんっぜんわかんねぇ。どういう意味だよ。」
「わかってないのはクラインだけか。一応答え合わせもかねて言っていい?」
キリトが手を上げたので答えあわせをさせてみた。
「たぶんオキさんが言っているのは、その殺人の依頼をオキさんか誰かがしに行って、オキさんをターゲットにして狙わせておとりにし、尻尾を捕まえる。これでいい?」
「合ってる。正解。先に先手を打っておけばどこからか煙が上がると予想している。完璧な奴なんざこの宇宙どこ探してもいない。シオンだって…完全じゃなかったんだ…。」
アークス全員が黙る。知らないプレイヤー側のメンバーは顔を見合わせて首をかしげるだけだった。
「一ついいか?」
クラインが手を上げる。
「一人で行くのか? 本当に?」
「俺だけの方が暴れやすいだろう? それとも誰かと行ってどっちかが捕まり、その命を犠牲にしてまで止めることができるのか? 今この現状下で自由に動けるようにしたのはこれが理由だ。それ以外のアークスメンバーは現在動けない。それでいてその他の奴が俺と一緒に行って足手まといにならない自信のある奴はいるのか?」
睨みを付けてプレイヤー側に低い声で伝える。
「悪いな。言い方が悪いけど、はっきり言って一緒に来られても邪魔なだけだ。今回ばかりは遊んでられないんでね。今までは本気で遊んでいた。人生は一度きり。その一瞬一瞬を楽しんで後悔しないように本気を出して生きる。だが、今回は違う。本気で化け物と戦う。」
「化け物…か。」
リンドがボソリと呟く。
「そう。化け物だ。同類である人の命をもてあそび、殺す。それが楽しみだと言って喜んで命を奪う。それが俺らから見て化け物じゃなかったらなんだ?ダーカーよりも性質が悪い。奴らは何も考えずに、只々闇に落とす。喰らう。だがこいつらはそれを喜びだ楽しみだといって自分の欲にしている。まだタダークファルスの方が分かりやすいぜ。というわけで早速行ってくるわ。片っ端からそういう所を当っていけばどこかでビンゴになるだろ。外れたら捕まえてちょっと苛めて、脅して牢獄にポイだ。」
「本当に殺しを依頼できるんだろうな?」
「安心しろ…。望みどおりにしてやるさ。」
仲介人の髭面の中年の男はニヤリとし、村を出た。
犯罪の依頼を受け取る裏の取引はここ最近増えている。そのなかでも殺しを受けるオレンジギルドがいくつか存在する事が判明した。今回のは最初に目を付けた噂で、どんな殺しも受けるという。はなっから殺しを目的としたギルド。だから目についた。
少し歩いた先に森があり、その中を更に歩く。エネミー自体は下層に近い関係でそこまで強くない。俺からすれば雑魚も雑魚だ。
ある程度歩いた先に岩が所々で露出している草原に出た。ここまで奥に来るプレイヤーはそうそうそういないだろう。ましてやこんな夜中に。
『草原の岩の陰、あちこちにいるな。』
大小の岩の陰に隠れているプレイヤーの反応が索敵スキルで感知される。ほぼ振り終わっている為に隠密スキルが同格クラスであっても索敵スキルが優先されるために見つからない相手はいない。
「ボス! つれてきやした!」
仲介人の男が草原のど真ん中で叫ぶ。すると前方の岩に二人のプレイヤーが昇り姿を現す。
「きたきたー。」
「えもの、今回は、たのしむ。」
『なんだこいつら。気色悪いなぁ。一人は紙袋かぶってるし、一人は子供っぽい姿だけど…。うーん。やっぱ犯罪者の考えは分からん。』
そんなことを考えている時だ。一人の男がゆっくりと岩の陰から姿を現す。
『…!? なんだこいつ。他の奴とは違う。なんだろう。この感覚。』
「ヨウヨウ。よく来てくれたな。あんたが今回のクライアントかい?」
草原に声が響く。何やら惹かれる声だ。なるほど、面白い。
「殺しの依頼ができると聞いてやってきた。」
低い声で叫ぶ。雰囲気も大事だ。かなりの恨みを込めているように『魅せる』。
「ワオ…。こりゃ今回のお客さんは相当ため込んでいるようだな。安心しろ。望みどおりにしてやるぜ。」
自分と同じように顔を見せない為か、フードをすっぽりと覆った顔だがニヤリと歪んだ口元が月の光に照らされる。
「あんたら本当に殺せるんだろうな。嘘じゃねーよな?」
「心配するんじゃねぇ。俺たちはその辺の奴らとは違う。」
「ほんとか? 信じていいんだろうな?」
出来るだけ疑心暗鬼になっている事を魅せる。信じているのか少し考える男たち。役者になれるんじゃね? 俺。
「心配性な客だ。おい。」
フードの男が顎で左右の二人に合図を送る。
「ヘヘヘ。待ってました!」
「やって、いいんだ、な?」
岩から降りつつ武器を握る二人は俺と仲介人を囲む。
「…どういうつもりだ? 俺は客だぞ?」
「どけ。邪魔だ。」
子供のような男が俺の腕を握ってどかす。これにより仲介人の男が囲まれた。
「ど、どういうことです…。ボス…?」
ボスと呼ばれるフードの男は相変わらずニヤニヤとしている。周囲の男たちはグルグルと走りまわりだした。少しずつ知事待っていく円の大きさはやがて男のすぐ近くまで縮まる。そしてボスのフード男が手を広げて笑いながら叫ぶ。
「イッツ、ショウタ~イム!」
『!』
「や、やめろ…。俺はお前らの…!」
「「ひゃははは!」」
笑い声が聞こえたと思った瞬間に、仲介人の男が逃げようとしたが二人が一瞬で交差する。
ゴト…パキィン
地面に丸いモノが落ち、結晶となって消えていく。
『こいつら…まじで化け物かよ。』
笑いながら、楽しみながら、簡単に仲介人であった男の首を刈り取ったのだ。
「…まじか。」
「Hey。これでわかったろ? 俺たちが『殺し』ができるってなぁ。」
再び岩の上に上る二人。笑ってやがる。まるで楽しい祭りを味わっているかの如く。
『まさか一発目で大当たりとはねぇ。』
『イッツショウタイム』。この言葉はあの文章のラストにあった言葉だ。
「なるほど。こりゃほんとに大物だわ。あんたら。」
フードを取り、装備をささっと取り出す。行く前にリズベットの所で整備しといてよかったぜ。今回この人数なら武器が壊れる前に何とかできそうだ。そして顔を見たとたん、俺の事をようやく把握したのか驚きを隠せない3人。
「お前は…!」
「ドーモ、初めましてプーさん。」
「イレギュラーズ…。あんたらなら、自分で相手を殺せるだろ。俺たちの所に何の用だ?」
ニヤリと歪んだ口元を見せるPoh。
「まぁ確かにそうだな。あぁ、そうそう今日はちょっとお願い事があってきたんだが、その前に少し話でもどーよ。」
近くにある岩の上に座り、指で座るように指示をしてみる。素直に聞くかどうか自信なかったが、素直に聞いてくれたようで3人共岩の上に座ってくれた。
「願い事だと?」
子供っぽい奴が聞いてくる。
「そそ。しっかしおめーらもあれだねぇ。容赦ないね。仲間を殺すとは。」
「なかま、なんの、こと?」
首をかしげながら紙袋をかぶった奴がこちらを見てくる。
「さっき殺した奴だよ。まぁ、同種を殺す依頼の仲介人やってる時点で俺としてはどーでもいいんだけど。」
「ほう…。人を助けるとか言っておきながら、どーでもいいやつもいるんだな。」
プーは相変わらずニタリと笑っている。
「当たり前だろ? 助け合っていくならまだしも同種を殺すとか馬鹿じゃねーの? 事が終わったら牢獄にでもぶち込むつもりだったが、まぁお前らが殺しちまったしな。」
タバコに火を付けながら3人を睨み付ける。
「さて、本題に移ろうか。お前らに願う事は一つだ。」
立ち上がり、普段の装備に切り替え槍を取り出す。この人数なら攻撃範囲の広いこいつが適している。
「死ね。化け物。」
全力で飛び上がり、岩の上にいるPohに向かって槍を振り下ろした。
「っち。」
流石に簡単にはやられないか。槍を肩にのせ、逃げられた方を向く。
「Hey、Hey、Hey。いきなり刃を向けてくるとは、穏やかじゃねーな。」
Pohは片手に巨大な包丁のようなものを握っている。あれが奴の獲物だろう。他の2人も獲物を持ってこちらをにらんでいる。
「他にもいるだろう? そことそこと…あとそっちとそっち。人数的に15人か? あってる?」
「索敵スキルか…。地味なものを持ってるな。しかも相当高いとみた。」
ニタリと笑い、Pohが指を鳴らすとこちらが示した場所から数十人のプレイヤーが現れる。
「そりゃあなぁ。敵が見えていた方がこちらもやりやすいだろ? まぁ隠れていてこちらに奇襲してきても、慣れてるから直ぐに反応できるんだけど。」
槍を振りおろし、構える。
「…おめえ、同類だな?」
「っは。同類? なーにいってんだ。化け物。おめーらと同じにされちゃアークスの名が泣くぜ。『同種』、とさっき言ったが、俺からすればお前らはこの星の『知的生物』。それが味方殺しをやろうってんだ。生き残る為に、相手を蹴落としてまで生きていかないと自分が死んでしまうなら、そりゃ俺も口出ししないさ。だがな、お前らは自らの欲の為に。ただ楽しみしかも殺した後には何も残らない。そんな奴はただの化け物だ。化け物は退治するのが当たり前だろう? なぁ、化け物。」
再度飛び上がりPohに向かってもう一度槍を振り下ろす。Pohは後ろに向かって地面を蹴り、槍を回避する。それと同時に2人の取り巻きがそれぞれの武器で応戦してくる。
「貴様!」
「狂って、いる。」
左右からくる刃を槍で同時に抑えて、一気に弾いた。
「っが!?」
「っ!?」
「狂ってる? てめーらに言われたくないわ。俺は偽善でも、正義の味方でもない。ただ単純に、『化け物退治をしに来ただけだ。』」
槍を地面に突き刺し、たばこに火をつけた。
「フー…。さてプーさんとやら。あんた、殺し、楽しむのが特権だ、とかなんとかほざいてたよな?」
「…ああ。」
唸るように答えるPoh。
「さて、ここまで大口を叩いた俺を殺したいだろう。膝まつかせて、命乞いさせて、泣きじゃくる歪んだ顔にその巨大な包丁を突き立てたいだろう? さぞ見ものだぜ?」
「そうだな。ここまでコケにされたんじゃ…。腹の虫も収まらねぇ。」
きたな。相手さんも殺したがってるときた、ニタリと笑い、考えていた取引を持ちかける。
「取引だ。あんたは俺を狙え。殺しにかかるがいい。奇襲、不意打ち、待ち伏せ、罠。好きに料理してみろ。但し、他のプレイヤーを殺すのは俺を殺してからにしてもらおうか? どんな手段でもお前らがその他のプレイヤーを殺した場合…皆殺しだ…。」
ギロリと睨み低い声で殺気立たせる。それを見た周囲のプレイヤー達は一瞬うしろに下がる。
「Ho…。良い殺気出すじゃねぇか。」
「てめーらみたいに快楽殺人じゃなく、こちらと毎日本気の殺し合い、化け物共とやってるんでね。ゲームとかじゃなく、現実にいる化け物とな。」
「Wow。その目…嘘じゃなさそうだ。じゃなきゃそんな泥井戸の底のような目は一般人はしない。」
ニタリと笑うPoh。こちらも一緒に口元を歪める。
「OK! その話乗ったぜ。だが今日はやめにしておこう。準備が必要だ。」
そう言うとPohは懐から何かを取り出し、地面に叩きつける。
ボン
小さな爆発音を立てて、周囲には煙が一気に広がる。
「けむり玉か。」
「楽しみにしているがいい。イッツ、ショウタ~イム。」
煙の向こうで一瞬だけ光がみえる。光方からしてどうやら逃げたらしい。
煙が夜風に吹かれて煙がなくなる頃には周囲の反応は全くなくなっていた。
「さって、こっから大変だぜ。」
タバコに火をつけて煙を風に流す。これから先暫く他のメンバーと一緒には入れないな。
「はぁ~…。シリカ、泣くかなぁ。」
離れないとか言いながらすぐさまこれだもんなぁ。全くもって自分の自己犠牲精神には困ったもんだ。
「とりあえずしばらく拠点には戻れないだろうからハヤマんに代行頼んで…ギルドメンバーには説明文飛ばして…。アルゴねぇに状況説明と…。」
忙しくなりそうだ。できるだけ早よおわらせてやらねぇとな。
皆様ごきげんよう。
本格的にSAOのキーキャラクターである『Poh』の登場です。
彼の扱いを今後どうしようかと2パターン考えてはいるのですが、なかなか定まらず…。
まぁそこまで行くにはまだまだ先なんですが。
では、また次回お会いしましょう。