夜遅く、50層での【巨躯】討伐の打ち上げ祭が終わり、シャルス城の部屋をレティシアから借り寝ていたが目が覚めてしまった。
「ん…。」
ベッドから起き上がり自分の横を見ると、シリカのかわいい寝顔がある。その頭を撫でてやり部屋から出た。
「タバコでも吸うか。」
今借りている部屋は特殊な部屋で他のメンバーが寝る為に借りている場所とは違う、城内から離れた塔の上にある部屋だ。多分レティシアとPTを組んでいたからだと思われる。
みんなの様子を見る為、一度城内に戻った。寝る前まで騒いでいた場所ではまだ起きている奴らがいたのであまり遅くならないようにと注意を一応しておいた。聞かないだろうな。あの様子じゃ。
バルコニーに移動したが先客がいた。
「ん? キリトか?」
「オキさん?」
バルコニーではキリトが1人夜風にあたっていた。
「お疲れ様。どうした? こんな時間に。」
「オキさんこそ。」
タバコに火をつけてキリトの方に煙がいかないように吐出す。
「フー。いや、目が覚めてね。どうだった? 初めてのダークファルスの本体戦は。」
「あんなにデカい奴らと戦っているオキさん達を改めてすごいと思ったよ。それに…本当の怖さを感じた。」
「あれか…。」
『また…会おう…ぞ。アー…クス…よ。』
【巨躯】のニヤリと笑いながら消えていく瞬間を思い出す。確かにあの時感じたのは奴の、『ダークファルス【巨躯】』の力。
何故この惑星にダーカーの力が、ダークファルスがいるのか。外はどうなっているのだろう。実はすでに惑星スレアはダーカーに浸食されているのではないだろうか。
「いや、それはあり得ないと思うよ。」
どうやら無意識に思っていた事を口にしていたらしい。
「あ、口に出しちゃってた? しかし何故そう思う。」
「今まで聞いてきた話だとダーカーって奴はどんどん浸食していく上に、倒せるのはアークスだけなんだろ? もし外の世界が浸食されていったのであれば俺たちの本体、体も危ないはずだ。本体が身体的に死に至った場合、このSAOから強制的にログアウトされる仕組みになっていると思う。」
「つまり、強制ログアウトが起きていないから外の世界は問題ない?」
キリトは黙ってうなずく。
「確かに今の所、HPが0になった者以外がログアウトしたという話は聞かないな。」
常にアルゴから情報を貰っているが犠牲者で不可解な消え方をしたという話は今の所無い。
つまりこのSAO内で何かが起きているとしか考えられないという事か。
「結局、茅場彰彦に直接聞くしかないって事か。フー。」
「そうだな。」
広場の方ではまだ騒がしい声が聞こえる。夜通しやるつもりだろうか。
「ところで、キリト。」
「ん?」
ある事を思い出したのでついでに聞いておこう。
「エルダーを倒した時、ラストアタックボーナスお前が持っていったろ? なんだったんだ?」
「あー…あれか。うん…やっぱりばれてたか。」
キリトの様子がおかしい。なにか変な物でももらったのだろうか。
「どうした。なんかあったか?」
「いや…。」
周囲をキョロキョロと見回す。この感じは他の人に聞かれたくない事だろうか。
「場所を変えよう。」
「そうしてくれるとありがたい。」
タバコの火を消して結晶化で壊し、場所を移動する事にした。誰の邪魔も入らない場所へ。
「シリカが寝ているから静かにな…。」
「りょーかい。」
この辺で一番他人の邪魔が入らない場所。レティシアから借りた塔の部屋だ。寝室ではシリカが寝ているので、別の部屋で話をする。
「ここなら人の邪魔も入らないだろう。で? なにか様子がおかしかったが?」
「50層のエリアボス討伐でのラストアタックボーナス。この剣なんだけど。」
机の上にその剣を置くキリト。黒い片手剣だ。
「エリュシデータ…か。お前にはちょうどいい剣じゃないか。色も形もシンプルだしなかなかいいんじゃねーか?」
しかしこれのどこが問題なのだろうか。特に変な感じはしないが。
「この剣、装備できない。」
「は?」
装備が出来ない? どういう事だ? 特殊な条件でもあるのだろうか。
「装備できない? どういうこった。」
「あまりにも必要ステ値が高すぎる。」
つまり今のキリトではレベルが足りなくて装備が出来ないという事だ。今まで見てきた武器は性能が良ければ必要なステータス値も高くなるのが基本だ。つまりこの剣はかなりの高性能という事になる。
「魔剣クラス。多分、このゲーム、SAOの中でも唯一の一本だと思う。」
「超が付くほどのレア、のレベルじゃないな。確かにこれはヤバイものだ。」
キリトのレベルは決して低くない。むしろ現状プレイヤー最高のレベルクラスだ。アークスを除いて。
そのキリトが現状で装備できない代物。確かにこれはあまり外で話していい物ではないだろう。
「なるほどな。だから隠していたのか。」
「ああ。この剣の情報が外に漏れたなら、間違いなく欲しがる奴、妬む奴、いろんな奴が押し寄せてくると思う。そうなるとオキさんや、ハヤマさん達にも…アスナにも…迷惑がかかる。俺はだから暫くソロで活動しようかなと…あいたっ!」
申し訳なさそうにしゃべるキリトを黙って見ていたが思い切り頭を叩いた。
「バーカ。何言ってんだ。そんなことさせねーぞ。おめーがいなくなったら誰がアスナを安心させることができる。誰も変わりなんかいない。それこそ逆に迷惑だ。まぁすでに俺たちアークスが迷惑かけてるのも事実だしな。」
笑う俺をキョトンとした顔で見るキリト。
「まぁその剣は暫く封印だな。キリト、お前が持ってろ。この情報は聞かなかったことにするし、うまくごまかすさ。今の所知っているのは俺だけか?」
「ああ。アスナにも言ってない。」
「そうか。煙どころか塵を出さなきゃ噂も立たない。ラスアタを取ったことを知っているのは俺含めて12人。全員がアーク‘sの面子だ。情報操作も何とかできるだろう。うまいこと別の武器を用意しないとな。」
自分の家にある倉庫の中にいくつか候補として挙げられそうな武器がある。それをキリトに渡せばいいだろう。
なにせ今迄のクエストやボスの討伐品は俺たちアークスがごっそりかっさらっている。特にコマチ。あいつ収集するだけで使いやしねぇ。中にはかなりのレア品も混ざっているというのに。普段は連合メンバーに配布して戦力増強として使用してもらっているが中には使い手がいなくて倉庫で眠る、と言うのモノも少なくない。ある程度時間が経って使わないと判断されたものはエギルの店で格安で売り、その他のプレイヤーにも分配している。
「51層についたら俺の家に集合な。」
「わかった。ありがとう…。」
「いいって。いいって。」
次の日の朝。広場に行くと夜通し騒いでいたであろうクラインやキバオウ達が寝転がっていたのでたたき起こしてやった。少しは考えろ。まったく。
「もう、いくのか?」
「ああ。俺たちは先に進まなければならないからな。」
レティシアとの別れが訪れた。あーあ、もうシリカ泣いてるよ。
「レティシア…えっぐ…さん…ひっく…ありがとう…ひっく…ございました…。」
「泣くな…。私まで泣きたくなるだろう。」
そういいながらレティシアの目には光り輝く涙が浮かべられている。そんなの見せられると俺も出てきそうだ。
「レティシア。元気でな。これからもこの国を守ってやれ。」
「ああ。お主らも…ありがとう。」
レティシアは俺とシリカを抱きしめた。短い間だったがさみしくなるな。こりゃ。
既に他のプレイヤー達やアークスの面々は上に進んでいる。俺たちも上に進まなければならない。
こうして、49層から50層までの長い長いキャンペーンクエストは完了した。こっから折り返しだ。待っていろ。茅場彰彦!
51層の街の中をあらかた見終わった後に約束通りギルド拠点の俺の家でキリトに50層のラストアタックで手に入った代わりの武器を選んでいる最中。事件は起きる。
「これなんかいいんじゃね? ステータスもかなり…。」
「そうだな。レア度もかなり…。」
ピンポーン!
家の中でチャイムが響いた。
「はーい!」
1階にいるシリカが出てくれたようだ。気になったので下に降りた。
「オキさんいる? ああ、いたいた!」
ハヤマがあわてているようだ。何かあったかな?
「どうした?」
「どうもこうも大変だよ! すぐに会議室に来て!」
シリカ、キリト3人で顔を合わせる。
大会議室に移動した俺とキリトはすでに集まっているギルドマスター達と顔を合わせた。知らない顔ぶれもいる。
「すまない。勝手に招集させてもらった。少し急ぎでね。」
ディアベルが頭を下げる。
「いや、問題があったなら仕方がない。で? 何があった。こっちの人たちは?」
「それは俺っちから話させてもらうヨ。」
アルゴが手を挙げた。
「面白い話と悪い話があるヨ。どちらからいク?」
「面白い話から。」
「オーケー。ギルド、血盟騎士団団長『ヒースクリフ氏』がユニークスキル『神聖剣』と呼ばれるスキルを手に入れたという報告があったヨ。実際に話を聞きに行ったけド、確かに今までに無いスキルだったネ。」
ユニークスキル? なんだその面白そうな名前は。
「何やら分からない顔をしているね。私も確認してきたので説明しておこう。」
ディアベルがユニークスキルについて教えてくれた。簡単に話せばゲーム内10人にしか会得できないスキルで、10種類あるらしい。特殊なスキルであり、ゲームバランスをひっくり返すようなモノだらけでそのうちの一つが『神聖剣』だとか。
「つまりヒースクリフの旦那がその、面白おかしいスキルを持っている唯一のプレイヤーって事か。」
「スキルの事を確認させてもらった時…一番手っ取り早く教えれる方法としてデュエルを行ったのだが…あれはたしかに強い。」
ティアベルが悔しそうな顔をして説明を続ける。
「何より防御が硬い。更に片手剣での素早いカウンター。あれはすごかった…。」
「ほう。」
「ほほう?」
「ふむ。」
俺、ハヤマ、アインスの戦闘バカが反応する。
「ハイハイ。戦闘狂は落ち着いテ。」
「ヒースクリフからは『50層突破おめでとう。本来なら個人のスキル等は余り公開する物ではないが、皆が頑張っている。私も戦線に参加させてほしい。このスキル。有用に使ってくれ。』だと。」
なるほど。実は持ってましたと来たか。防御型でありながら攻撃も可能か。面白くなりそうだ。
「で? 悪い方は?」
「こちらは私から説明しよう。オキ君。『笑う棺桶(ラフィンコフィン)』を知ってるか?」
「ラフィン、コフィン?」
アフィンという同じ時期にアークスとなった仲のいい相棒と、コフィーというアークスシップのアークスカウンターの女性なら知っていると言ったらハヤマにどつかれた。
「『笑う棺桶(ラフィンコフィン)』。今最も犯罪の多いオレンジギルド。リーダーは『Poh(プー)』。」
プーさんねぇ。なんか気の抜けた名前だな。ちなみに後で知ったが惑星スレアには蜂蜜が大好きなクマにも同じ名前がついているとかなんとか…。
「で? そのプーさんがどうしたんだ?」
「私たちが50層を越えた事が情報として流れた後、奴らからこのようなメッセージが飛ばされた。」
その中身はとんでもない内容だった。
「50層を越えたプレイヤー諸君…フムフム? …は? ああ!? デスゲームならば殺しを愉しむのもプレイヤーの特権…。ふざけんな! なんだよこれ!」
要約すると『殺しを行う。だがそれはデスゲームを愉しむ為である。今後は小中ギルドをメインに狙う』というモノだ。
「オキ君落ち着きたまえ。私だって同じ気持ちだ。アルゴ君に小中ギルドのマスターをできる限り集めてもらった。これからの動きをお互い確認し合いたいと思ってね。」
ディアベルは落ち着いているように見えるが目がかなり怒っている。
「わかった。できる限り手助けしよう。こんなことが許されてたまるか。ラフィンコフィンのプー。絶対にそんなことさせねーかんな。」
ある層の森エリア奥深く。
「ヘッド、なにか楽しそうだな。」
「どっちかと、いうと、うれし、そう?」
2人のプレイヤーが岩の上に座り鼻歌を歌う男を見ている。
「♪~。♪~。」
大きなポンチョを着て顔は見えない。手には巨大な肉切包丁。小さなナイフを扱うかのように投げては取り、投げては取りと遊んでいる。そして口元を歪ませながら笑った。
「ハハハ。 楽しませてもらうぜ。 イッツ、ショウタイム!」
皆様ごきげんよう。
ようやく出てきました。キーマンであるもうひとり。
ここからアークスVSラフコフの場面が多くなっていきます。
もちろん変哲もない日常パートも増えます。
これからの展開をおたのしみに!