SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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50層のボスとして現れた「ダークファルス・エルダー」人数制限の中、オキ達はそれに立ち向かう。


第23話 「折り返し地点」

『これならどうだ!』

「腕伸ばしてくるぞ! 構えろ!」

盾役が固まりがっしりと構える。そこにエルダーの腕が伸びてきた。

ガキィン!

「ぐぅ…! 重いな…!」

「しっかり守れ! 俺たちの仕事だ!」

「今だ!」

リンド率いる盾部隊が伸ばしてきた腕を受け止め、攻撃部隊が伸びて露出した赤いコア部を攻撃する。

「あー…ヘブンリーフォールしたい。」

「この世界にワイヤーあったらいいのにね。」

俺の言葉に苦笑いするハヤマ。そんなハヤマもPA打ちたいだろう。

「まさかこいつとも戦うとはね。」

引いていく腕にお土産の如くもう一撃いれるアインス。

「ウィクバがほしい。」

「ない物ねだっても仕方ない。さっさと倒すぞ。」

コマチが欲を言ってくるがそれはアークスの誰もが思っている。前に走りながらすれ違いざまにボソリと言ってやった。

「面倒くさいのだー…。ハヤマー。がんばるのだー。」

再び来る腕伸ばし攻撃を回避しながらつぶやくミケ。

「うっせ! おめーもやれ!」

こんな時でもツッコミは欠かさないハヤマ。相変わらずうるさい連中だ。まぁそれがいいんだけど。

『はっはっは!』

「腕振り回してくるぞ! 回避! クライン! そこ危ないぞ!」

「うわったー!」

床を掬うように振り回してくるエルダー。クラインは走ってその場から何とか逃げれた。

「大丈夫か? クライン。」

「ふぅ…あぶねぇとこだったー。こうもデカいと攻撃範囲も広いな。」

「アークスの人達は毎日こんなのと戦ってるのね…。」

次に来る攻撃を予測しながらキリト、アスナ、クラインは構えに入る。

エルダーの真正面ではオキ、ハヤマを初めとするアークス全員が隙をついて攻撃している。プレイヤー達は攻撃の情報をオキ達からもらっているとはいえ、初見だ。安全に戦う為に中央付近で盾役が攻撃をしのぎ、伸ばしてきた腕を攻撃することになっている。

今のところは、だが。慣れてきたら前で戦ってもらうつもりだ。

「腕、まだ壊れない?」

「うーん…分からないなぁ。」

「しっかし動き遅いなこいつ。」

コマチの言う通りだ。今戦っている『ザ・ダークファルス・エルダー』の動きとスピードは、このSAOに入ってくる前までに戦っていた『ダークファルス【巨躯】』の動きとスピードに差がある。

入る前までに戦っていた【巨躯】は復活した直後の時よりも力を発揮するようになり、動きは速く、攻撃の種類も増えている。

だが、今目の前にいる『エルダー』は攻撃の重さがSAO仕様になっているからいいとしてもスピードが遅すぎる。その為見慣れたスピードではない事から回避や攻撃のタイミングをずらされる時がある。

「この動きとスピード…復活した直後の時と同じだな…。」

ボソリとアインスが呟く。その通りだ。復活した直後の【巨躯】と全く同じなのである。

「これなら上空からのレーザーも無いかな?」

「どうだろうね。構えておいて損は無いと思うが…。」

HPバーは1本目を削り切ろうとしている。ハヤマと二人で伸ばしてきた腕をギリギリでかわし、側面から思い切り切り付けてやった。

「オキやハヤマに続け!」

ディアベル達も回避行動から攻撃に転じる。伸ばし切った腕の赤いコア部に次々とSSが放たれた。

バーン…!

次の瞬間一斉にエルダーの下側4本の腕が破壊される。

「一斉に壊れるのかよ!」

「破壊判定じゃなくてHP判定だったのか…。」

自分たちが死闘してきた奴との差に若干の違和感を感じる。ハヤマも同感しているようだ。

「形態変化! 来るぞ!」

キリトの叫びと同時にエルダーは形態変化した。背中に紫の羽が生え、破壊した腕は再生し更に2本追加され8本の巨大な腕がエルダーから生えている状態になる。

『面白い…。面白いぞ…烏合!』

そういって後方へと下がっていくエルダー。

「まて! 逃げる気か!」

「レティシア! 下がれ! 玉ぁ飛んでくるぞ! 全員後退&散らばれ! 自分の所に来たらどこでもいい動き回って避けろ! アークスは最前で別れていつも通りで。」

レティシアの腕をつかんで後方へと下げる。アークス勢はエリアの最前に距離を置いて並ぶ。

かなり小さく見えるようになったエルダーは一番上にある腕2本を伸ばし、こちらに『紅色の玉』を飛ばしてきた。狙いはアインスのようだ。

「げ、梅干しじゃん。」

「氷じゃないのかよ…お前一体いつの【巨躯】だよ。」

「楽でいいのだー。」

ハヤマ、コマチ、ミケが苦笑しながら飛んでくる玉を見る。玉は全部で4つ飛んでくるはずだ。

「なんだか懐かしい物を見た気がするね。ハヤマ君、君に飛んできているよ。」

「あーよ。」

軽く避けるハヤマ。後ろではプレイヤー達が苦笑いをしている。

「梅…干し…。いや確かにそうだが…。タケノコの件もそうだが…。」

「ここまで似てるのも…なんだか不思議ね。」

「キバオウ君がいなくてよかったと思う。多分だが十中八九、笑い転げていると思う。」

ディアベルの言葉にその場にいた全プレイヤー達が頷いた。

「へーっくしょい! ちきしょい!」

「キバオウさん、風邪っすか?」

外で待っている待機組。キバオウが大きなくしゃみをしたのでタケヤが心配そうに近づいた。

「あー…大丈夫や。そもそもこんなかじゃ風邪なんかないやろ。大方どっかの誰かがワイの事を噂したんやろ。有名人やからな!」

ドヤ顔で言うキバオウに対し、その場にいた者達は苦笑気味だ。

「全員回復しとけよ。ここからだ。」

第二形態。今まで自分の腕を組んで隠していた中央のコア部を露出させ守りから攻撃の方に移行させている。コア部が露出しているのでそこを狙うのが一番手っ取り早く、且つ攻撃の半分以上が真正面でよけきれるのが多い。

「だいぶ慣れてきた。ここからは前でも防御できるぜ。」

リンド、ウェインとジュラが前に出てくる。

「行けるか?」

「おう。任せとけ。あいつの攻撃の重さは慣れた。」

「それにここからは前で戦った方が早いのだろう?」

ウェインとジュラもやる気のようだ。怪我ぁするなよ。

『これならどうだ…!』

今迄片側3本だった腕が、形態変化で片側4本に増えている。うち1本は常に頭上に上げている為こちらからの攻撃は届かないが、向こうからの攻撃もほとんどない。増えた関係で攻撃範囲が広がっているが、その正面に立つのはリンド達。

「おりゃああ!」

「ふん!」

「はぁ!」

ガン! ギシ…!

3本の腕が盾によって抑えられる。

「いまだ!」

レティシアの合図で一斉に攻撃をするプレイヤー達。

「えい!」

「だぁりゃ!」

一斉に攻撃に入るプレイヤー達は回避行動から攻撃態勢に移る為1回が限度であるが、一人だけ2回SSを撃っている奴がいた。

「これも喰らえ!」

キリトだ。回避行動を可能な限り少なくし、エルダーからの攻撃が発せられた時にはどこに何が来るのを予想しているかのように、すでに攻撃態勢に入っている。

「成長したなぁ…うんうん。」

「なーに一人で感動してるの。ほら、攻撃する!」

ハヤマに突っ込まれた。

腹のコアにも集中攻撃されている為か、2本目のゲージは1本目よりも早く削れている。

『いいぞ、いいぞ!』

振り上げられた3本の巨大な腕が上空高くに振り上げられる。

「真正面! コア前!」

合図を送り、13人がコア前に集合する。

ドォン!

「事前に教えてもらったとおりだな。ここ安地だ。」

クラインが振り下ろされた腕を見て驚いている。

「今まで何度も戦ってきたからね。こいつのパターンは把握済み。しかもご丁寧に全く同じ様に組み込まれてちゃ…。」

「俺たちの敵ではない。」

アインスがコアに向かって武器を振り下ろす。

バーン…!

腕が2本程吹き飛んだ。それと同時にエルダーの様子がおかしくなる。

『オオオォォォ…!』

「ショック!? まぁいいや、攻撃! チャンスを逃すな!」

号令をだし、各々が赤いコア部にSSを放つ。エルダーが急に力が抜けたように腕を垂らした状態。これは『ショック状態』にある。アークスが使う技の中でテクニックである『ゾンデ系』の持つ状態異常攻撃でしびれさせることを『ショック』という。【巨躯】は『ショック』に対する耐性が高いとはいえず、しびれて動けなくなることが偶にある。だが今回はSAOの中にショックは無い。ならば麻痺属性の武器か技? いや、違うな。

「HPバーが3本目に入った。なるほどそういう事か。」

どうやらHPバーの2本目が削れたようだ。削れる毎に腕が吹き飛び、ショック状態になったようだ。

「おらおらおら!」

「クライン! そろそろ起きるぞ! 気を付けろ!」

「あーよ!」

皆がいい感じに攻撃している。まだ出していない攻撃がいくつかあるが、これなら気にしなくてもいいだろう。

今のショック状態での隙でかなり攻撃できたようだ。

「そろそろあれ、来るかな?」

「そうだな。よし。真正面で攻撃!直ぐに正面中央に来れるようにしておけ!」

アインスが指示を出す。ある攻撃がまだ来ていない。いくつかそのようなものはあるが、ここまで再現しているのであればHPバー4本目でしか来ないだろう。

『耐えてみせよ…。破滅の一撃!』

エルダーの額部分が光り輝きだす。思った通りだ。

「来たぞ! 中央に寄れ! いいからもっとだ!」

ギュウギュウと押し込む。

「いてて! おいオキ! 本当にこれでいいのか!?」

クラインが文句を言ってくるが構わずに押し込む。エルダーの額が白く光る。

「攻撃来るぞ!」

額の小さなコア部からレーザーが放たれた。

「うおぉ…。」

「きゃっ!」

頭上スレスレをエリア全体に向けてビームが流れていく。ここが一番の安全地帯なのだ。

「な? 攻撃当らないだろ? ぼーっとしてないで、おら攻撃する!」

目を見開いて止まるプレイヤー達。真っ先に動いたのはキリトだ。

「いいねぇ。その調子だ。」

「へへ…。」

これは俺の技量も超えたか? もし彼がアークスならば間違いなくトップクラスになれるだろう。

50層までの彼の成長度を考えるとのび方が半端ない。ついニヤリと笑ってしまう。

「おら! 残りも少ない! 油断せずに確実に仕留めるぞ!」

「「「おおおー!」」」

士気もいい感じだ。このまま一気にカタをつけてやる。

「…。」

転移ポータルの前にずっと立って待つシリカ。

「気になる?」

「サラさん。はい、オキさんは大丈夫だと言っていましたが…。」

隣に並ぶサラはシリカの肩をさすってあげた。

「大丈夫よ。あいつ、今迄に何度も私だったら死んでるような戦いを切り抜けてきてるの。アークスの中でも異常なまでの戦闘能力。そして同等もしくはそれ以上を持つ仲間。心配ないわ。大丈夫。」

力の入っていた肩が次第にリラックスしたのか柔らかくなる。

「ありがとうございます。」

「オキなら心配ないわ。心配なのはこっちなんだから。あのバカ。足手まといになってなければいいのだけど。」

クラインの事を言っている。シリカにはすぐにわかった。

「無事に帰ってくることを祈りましょう…。」

「そうね。」

戦闘が開始してすでに数十分以上。今までは十分程度で終わる事が多かった。それでもかなり早い方だと聞いている。

だが、ここまで長引くのはやはり50層という折り返し地点だからと言うのもあるだろう。

二人は元気な笑顔を見せてくれる大事な人がポータルから出てくることを祈った。

「っしゃぁ! 4ゲージ目!」

残り片側3本のうちの一気に片側2本が吹き飛んだ。先ほどと同じくショック状態になるエルダーに対し、全員が全力攻撃に入る。

「今のうちに削れ!」

ディアベルが叫ぶ。プレイヤー達が一斉にSSを繰り出す。

「キリト君!」

「まだ、まだいける!」

攻撃が終わり、回避行動に移らないと立ち直って攻撃が再開されてしまうが、キリトはまだいけると更なる攻撃を加える。

「おおお!」

「その心意気、乗った。」

アインスもSSではないにしろPA「ツキミサザンカ」のように半円状に何度も切り上げる。

『グウウゥゥ…』

「立ち直ったぞ!」

エルダーがショック状態から立ち直る。腕の数は全部で残り4本。頭上にあるあれと、いつも壊れない一番下の腕。

『括目せよ…!』

エルダーが床の4隅に手をかけ、頭上に上がいく。エルダー最大の攻撃『体落とし』の合図だ。

「走れ! 4隅どこでもいい! 走れ!」

「か、体が重い…!」

「なんだ、これは…!」

全員の足が重くなっている。ここまで再現するか!

だが中央にさえいなければいい。

「レティシア!」

「うむ!」

レティシアの手を掴み、自分はエルダーの指に手を駆けてレティシアの体を引っ張り寄せる。

『我こそは、ダークファルス…エルダーなり!』

ズズーン…!!

床全体が地響きで揺れる。

「きゃ!」

「おっと、大丈夫か?」

アスナがバランスを崩して転倒しそうになったところをキリトが支える。

「ありがとう。キリト君。」

「ああ。」

見つめる二人の頭を叩く。

「あいた!」

「いて!」

「おら、いちゃつくのは後にしろ。俺だってシリカに…。」

ブツブツと呟く俺を見て二人はクスリと笑った。

残りのHPゲージも多くない。

「一気に畳み掛けるぞ!」

「だぁー!」

ディアベルの掛け声に合わせて守り側だったリンド達も攻撃に入る。

腕が無くなったことで攻撃の範囲が激変したためなのと、全員がエルダーの攻撃に慣れたからだ。

当ればかなりのダメージを喰らう。範囲も広い。だが、スピードが無い分避けることは可能。そしてなにより、彼らプレイヤー達の戦闘技量が下層時よりも格段にアップしているのが今回の決め手だった。

戦闘バカしかいないアークス達からのレクチャー。ともに戦い競い合う事で経験を積んでいった。

だからこそ…勝てる。

「落ちろぉぉぉ!」

キリトのSSが中央コアに炸裂する。その次の瞬間。

『グ…グォォォォ!』

体全体で唸り声をあげ、崩れていくエルダー。

「っしゃぁ! 勝った!」

「ふぃ…やっぱ時間かかるなぁ。」

アークス達がそれをみて勝ちだ終わりだと拳を打ち合ったりしている。

「まて! 様子がおかしい!」

おかしな部分に気づいたのはディアベルだ。全員がそれを見る。崩れゆく巨大な身体から自分より少し大きい位の黒い姿をした人。何度も見たその姿。今でも覚えているその依り代の顔。

『グウゥゥ…よくぞ。よくぞ我を倒した…。誉めてやる…。』

「ゲッテムハルト…いや、【巨躯】!?」

ゲッテムハルト。狂った思考から封印されていた【巨躯】を復活させ戦おうとした。だが、それは失敗に終わり逆に自分が取り込まれ闇に飲まれた姿。今では『ダークファルス【巨躯】』としてなる。

『くっくっく。人の子らよ。我を倒しても…油断する出ない。光あるところに闇は…ある。』

「たわけ! 再び現れようとしても必ず我々人が光り輝き、貴様らを照らして消し去ってくれよう!」

レティシアが前に出る。ああ、イベントか。念のためレティシアを下げる。

「お主…。」

「下がってな。まだ生きている以上何をしでかすか分からない。」

『ふっふっふ。光の…剣士か。良き闘争…だったぞ…。』

「うっせ。てめーとはこれからも戦わなきゃならねぇ。だがここで戦うのは違うだろう? あるべき場所。最高の場所とタイミングってのがあるんだろう? 待っていろ。必ず貴様を倒してやる。」

エルダーは膝を付き、体からは黒い煙のような渦が立ち上っている。体も少しずつ消えている。終わりだ。

エルダーは最後にこちらを見上げ、ニヤリと笑った。

『グフフフ…。また、会おう…ぞ…。アー…ク…ス…ょ。』

ゾクリ…

背筋が凍るような感覚。上から力いっぱい押さえつけられる威圧感。あの目の光。そして…感じるあの力。

消えていくたった一瞬。その一瞬だけアークス全員が感じた『ソレ』に対して一斉に武器を構えた。

「っな…。今…の。」

「間違い…ない…。」

俺やハヤマだけではない。

「コマチは、わかったか?」

「ミケも…か?」

「間違いない。【巨躯】だ。」

その場にいた5人のアークス全員が体をこわばらせ、そこにいた【巨躯】に向かって武器を構えている状態で固まっている。

消えて行った【巨躯】は最後に確かに「アークス」と言った。そして感じた。

「ダーカー因子。ここでも…感じた。」

「お、おい。大丈夫か?」

クラインが心配そうに肩を叩く。

「あ?」

「おいおいおいおい! まったまった。俺だよ!」

ギロリと睨まれたからかクラインがすぐに離れる。皆が、プレイヤー全員がこちらを見ている。

「はは…ひどい顔だ。ふぅ…。」

「少し、落ち着くか。ああ、すまない。俺にもくれないか?」

アークス全員が酷い顔をしている。あの第三基地防衛戦の直後のような。落ち着くためにタバコを出した後、珍しくアインスが要求してきた。

「珍しいね。隊長がタバコだなんて。めったに吸わないじゃん。」

「偶にはいいだろ。あと、皆には後で説明する…。すまない。」

アインスが頭を下げ、俺も下げる。

「いや、俺たちにもあの目を見たときに感じた。感じ方は君たちよりも軽い、と言っていいのだろうか。だが…二度と見たくないな。」

ディアベルも自分の手を見る。汗でベタベタのようだ。戦闘でついた汗ではなさそうだ。

「…帰ろう。」

「ああ。」

レティシアに向かって手を出す。それを握り、出てきたポータルに共に入った。

「オキさん!」

ポータルから出た瞬間にシリカから熱い抱擁を受けた。先ほどの事もあり、ぎゅっと抱きしめる。

「すまん…遅くなった。」

「いいんです…いいんです!」

胸に顔をうずめて泣くシリカ。

「あーあー…ゴホン。」

レティシアが咳払いをしてきた為、素早く手を離した。

「すまないな。皆には本当に苦労を掛けた。これで…これで闇の勢力から国を守る事が出来た。礼をいう。」

レティシアが頭を下げてくる。俺は無言でそれを戻した。

「いいって。俺もあいつには用があったし、何より…あれをああしてしまったのは…俺たちにも問題がある。」

アークス全員が黙り込む。

「そうだな。闇とは人の心の底にもある。我々も気を付けねばなるまい。二度とで無いように…。これから国に討伐が終わり平和が訪れたことを報告しに戻るが、そなたたちにも礼がしたい。そなたたちも先があると思うが、もしよかったら受けてくれぬか。王も喜ぶ事だろう。」

全員が顔を見合わせ、頷く。

「レティシア。戻るって言ったがどうやって?」

「安心しろ。これがある。」

そういって取り出したのが大きな結晶だった。今まで見たことがない蒼色をしている。

「これは代々我が家に伝わる魔石でどこに居ようとも持ち主と持ち主が指定した者を国の我が家に移動させるという代物だ。」

転移結晶? いや回廊系か。

「うんじゃ俺は先に行ってアクティベートしておくわ。」

コマチが1人先に進もうとする。それについて行こうとしたのが人いた。

「私もついて行っていいかしら? 一人じゃさみしいでしょ?」

フィーアだ。たしかにまたここまで戻ってくるのは大変だ。先にアクティベートしておいてくれると転移門を使って51層に行けるのが楽になる。

「49層で待ってるぜ。」

「ああ。先に行って待ってろ。」

コマチは2人を連れて奥の扉へと向かった。

「それじゃあ行くぞ。」

結晶が光り輝き、転移される。

その後にあったことは王様に報告して国中で祭りとなったこと。

闇の勢力を倒したという事で、一緒に戦ったオキとシリカを英雄として称えられた。

お礼としてお城の中でダンスパーティが開かれた。そこに現れたのは騎士の姿ではなく、ドレスに着替え後ろで束ねていた髪をほどき、輝く金髪を下げて現れたレティシア。そして共に着替えて着たシリカやアスナ等共に戦った女性プレイヤー達。

どうやら無償で貸し出しをしてくれたらしく、特に一緒にPTを組んでいたシリカは問答無用で着替えさせられた。

ちなみに俺はその姿に見とれ、飲んでいた飲み物をこぼした位。

その後、王様から何やら褒美として褒賞金と武器防具一式。武器は種類を選べたのでシリカ要にダガーを選んだ。俺には蜈蚣丸があるしな。性能はかなり高い。下手すれば蜈蚣丸よりダメージソースになりかねないぞこれ。流石褒美。

ちなみにシリカにプレゼントする事は内緒で表向きは俺が他の武器をもっと扱えるようにすることで選んだ事にした。

サプライズってええやん?

ダンスの方はレティシアから誘われたが、からっきしダメだった。ついていくのがやっとで周りからは囃されるし、シリカからも「がんばれー」と声が上がるくらい。これ、スキル制にしてレベル上げてからもっかい挑戦していい?

お祭り騒ぎの静まった夜、レティシアからシリカと共にバルコニーへ呼ばれた。

「ふー…風が気持ちいいな。」

「だーな。しっかしあの騎士様がお姫様になるとはねぇ。」

「ほんとです。びっくりしました。」

レティシアの姿を褒める。月明かりにドレスと金髪の長い髪が光り輝きキラキラと夜風になびいている。

「そういってくれるとうれしい。実は…あまり自信が無かったのでな。」

苦笑気味に顔を赤くするレティシア。それをみて3人で笑う。

「さて、お主らには本当に感謝している。オキ、シリカ国を守ってくれて、共に戦ってくれてありがとう。改めて礼を言わせてくれ。」

「ん、当たり前の事をしたまで…と言いたいけどここは素直に受け取るよ。」

「ですね。こちらもいろんなものを貰いましたし。」

褒美の金額はまた連合内で分けることにした。今回は特に頑張ったリンドのギルドに大目に渡してやった。彼らがいなければいくらアークスがいたところで犠牲無しにすることはできなかっただろう。

「あれは国からだが…私からも、受け取ってほしい。」

そういってレティシアは小さな箱を渡してきた。

「これは…?」

箱の中は光り輝く宝石が付いた首飾りだ。それが2個入っていた。

「我が家に代々伝わる守りの首飾りだ。受け取ってほしい。」

「いいのか!? 大事な物なんだろ?」

「そなたたちにはそれ以上のモノを貰った。平和と言う名の大事なものを。」

こりゃすごいな。いろいろ貰ってるぞ今回。流石50層。折り返し地点。

「わかった。貰い受ける。ありがとう。」

「こちらこそ。シリカ殿も。」

「いえ、こちらこそ。」

3人で手を握り合う。そして頷き合った。

「俺たちの後、しっかり受け継げよ。守れ。この国を。大事な人たちを。」

「ああ! 任せておけ!」

月夜に輝く騎士の笑顔はとてもまぶしく綺麗だった。




皆様ごきげんよう。
ようやく50層のボスも討伐し、折り返し地点となりました。
ここから先は75層まで一気に駆け上りたいところですが、それまでの日常風景や今後いろいろ新しい戦闘スキル等を増やそうと思います。
50層での話はすこしだけ続きます。
では次回もおたのしみに。

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