それを守るべく、プレイヤー達「攻略組」は防衛戦を開始する。
『ケタケタケタ』
「フシャー!」
西門側前線、10体程同時に沸いたスケルトンの兵達が目の前にいたミケを威嚇する。ミケはそれに対し、同じく威嚇する。
「骨対猫…。ミケはんが犬やったら、面白かったやろうなぁ。」
「ほら、面白い事言ってないで倒す倒す。」
「へいへーい!」
ミケが5体程まとめて切りかかり、素早い動きで倒している横でディアベルとキバオウらが残ったエネミーをSSで殲滅した。
「おおおお!」
反対側の東側前線。同様にリザードマンが10体ポップ。直後に10体の塊の中に大剣のSSが放たれる。
周辺の地面を揺るがすほどの威力がある大剣のSSは一撃でエネミーを吹き飛ばし倒した。
「や、やることねー…。」
それを目の前で見ていたクラインは圧倒され目が点になっている。サラはため息をつくが少しだけ口元が笑っていた。
「こちらオキ、西、東クリア。前線は殲滅。後ろは?」
「こちらアインス。君たちのおかげで第一波は後ろに来させずに乗り越えた。次、来るぞ。前方全エリアにエネミー反応あり。構え。」
アインスが持っている地図にエネミーが出てくる反応が示される。
第一波は前線それぞれに10体程のエネミーが同時沸きし、その半分以上をアークスメンバーが殲滅した。
第二波が休み無しでポップする。東のクライン、西のディアベルがそれぞれの状況を説明。アークスはそれの間にヘイトを取りに突っ込んだ。
「こちらクライン。今度はゴースト系か…。また10体程ポップ! あーあ。コマッチーがまたもってった。」
「こちらディアベル。こちらもゴースト系。だがミケ君と共にキバオウ君達と殲滅している。」
東西は問題なさそうだな。中央…は。東西の殲滅が終わると同時に中央にエネミーがポップする。そのエネミーは大きく、そして硬そうな岩の体を持っている。
「ゴーレム…。こいつは固そうだな。」
キリトがボソリと呟く。
今迄に無い巨大なエネミー。大きさはプレイヤー達の2~3倍程の大きさだろうか。それが6体現れる。
「こちらオキ。ゴーレムとかいう奴出て来たぞ。クッソ硬そう。」
「こちらアインス。ああ、見える。ハヤマ君、キリト君はゴーレムのヘイトを取れ。その他メンバーは援護しつつ確実に排除しろ。無理はするな。」
ハヤマがポップし終わったエネミー群に突っ込んでいき、横なぎにカタナを振う。
「はあああ!」
カタナによる範囲SSでゴーレムのヘイトを取ったハヤマがゴーレム達に囲まれる。動きは遅いが、巨大な腕から振り下ろされる攻撃はHPがどれだけ持って行かれるか想像もつかない。それを見てシャルが援護に回る。
「やぁぁ! 無茶をするな! ハヤマ殿!」
「すまね。つい熱くなっちゃって。」
シャルは背中越しに喋るハヤマの向こう側をチラリとみる。ハヤマの前にいるゴーレム2体のHPゲージはもう殆ど残っていない。今の一撃で削ったというのか!?
「うんじゃ、同時にいくよ。」
「うむ!」
楽しそうに目の前にいる1体のゴーレムに飛びつくシャル。それにツキミも続いた。
「ハヤマーん。後ろに来てるぜー。」
ゆっくり歩いて進むゴーレム達は3体がハヤマ、シャル、ツキミの3人がヘイトをとり、キリト、アスナが1体ずつヘイトを取っていた。残り1体は前線メンバーをすり抜け、こちらへ向かってきている。
「すまねー! それよろしくー!」
「あーよ。」
結晶での通信を聞き終わった直後に前に出る。後ろにはシリカとレティシアも続いた。
東西のメンバーは隊長の指示により、アークスのみその場に残し、中央前線の援護に回っている。
「だぁりゃ!」
槍をゴーレムのひざ部分に切りつける。そのままSSを放ち2連撃を当てる。
「シリカ! レティシア!」
「はい!」
「任せろ!」
SS後の硬直に入る。ゴーレムは今のSSで怯んだ。その間、シリカとレティシアが攻撃に回る。
ゴーレムのHPゲージを見ると2連撃のSSにより半分以上が削れている。当てた反応からかなりの防御力がありそうだが、その状態で半分以上削れたのだ。
「新しく作ったかいがあったぜ。」
『蜈蚣丸』。42層の巨大蜈蚣からとれた素材を使用し、リズベットに作ってもらった最新作の槍。
禍々しく黒光りする3又の先は光に当てるとうっすらと紫色に光る。中々の性能だ。
「行かせるか!」
レティシアの片手剣が光り、ゴーレムに攻撃を当てる。直後に結晶化し消え去った。
「なかなかいい槍のようだな。オキ君。それは例の大蜈蚣からの奴かな?」
「いいでしょこれ。リズベットの最新作だ。」
遠目で目てくれていたのか、隊長に槍を褒められる。
「こちらハヤマ。前線のゴーレム及び、その他エネミー殲滅完了。オキさん、それ壊したら今度はオキさんがリズにハンマーで叩かれるんじゃない?」
「こわいのだー。こわいのかー。」
「くわばらくわばら。」
アークス達から笑いが出る。以前シャルを助けたときに何本も武器を壊した事で、ギルドメンバーの武具を管理しているリズにものすごい雷を落とされた。怖いってもんじゃない。
「怒られねーよーに、今回もしっかり戦わねーとな。おら、次来る準備しとけ。」
全員に喝を入れ、次の団体様のご到着の準備をする。HPの確認や武器の状態等。
「お主達はすごいな。このような戦いでも笑いを呼び、士気を高めている。なかなかできる事ではないぞ。」
レティシアにも褒められた。
「まぁ普段からこんな感じだからねぇ。それに、肩の力入れっぱなしで戦っても、いい事なんか一つもないからな。さって次だ。隊長!」
「ああ。東西にエネミー反応。先ほどと違うな。反応がデカい。中央にもデカい反応。出てくるぞ! オキ君! 気を付けろ!」
東に現れたのは巨大なスケルトンの甲冑姿のエネミーとそのお供に弓スケルトン兵が数匹。西には長い手足と大きな羽を背中に付けたデーモン系。こちらも中ボスクラスとお供が現れる。
「上に反応!?」
東西のエネミー達がメンバーと対峙した直後に索敵が上に反応した。見上げると同時に上から巨体が降ってきた。
「ド、ドラゴン!?」
「くそ、ドラゴンすらも操るか! 闇の勢力め!」
ドラゴンの姿は本来煌びやかな鱗がギッシリとあり、高貴な雰囲気を出している。今までに数匹ほどフィールドボスやエリアボスで遣り合ったことがあるがこいつは全く別物だった。
「エネミー名【ドラゴンゾンビ】か…。肉が朽ちて骨まで見えてやがる。」
『オオオオォォォ…。』
そのドラゴンからの叫びは朽ちる体に痛みで悲鳴を上げているかのような音だった。
「っく…。闇の勢力、酷い事を。」
向かってくるドラゴンゾンビにレティシアとシリカが武器を構える。
「はああ!」
飛び掛り、ドラゴンゾンビの顔面に槍を刺す。これでヘイトは俺を向いただろう。
『オオオォォォ!』
もう一度吠えたドラゴンゾンビは口から紫色の火が漏れ出す。真正面にいるとヤバイな。後ろをチラリとみるとシリカとレティシアがこちらに向かって走ってきている。このままでは巻き込まれるか。
「シリカ! レティシア! 掴まれ!」
「え!?」
「っな!」
クルリとUターンをして走り、二人を抱きかかえ地面を横にけって飛ぶ。地面に倒れ込んだ直後にドラゴンゾンビの口から紫色の黒い炎が自分たちのいた場所を焦がした。
「あっぶねー…。大丈夫か? 二人とも。」
「あ、ああ。」
「大丈夫です…。」
二人とも俺の行動に驚いたのか胸に手を当て目を丸くしている。こいつはめんどいな。
「オキ君、その場に居たまえ。西門バリスタ。構え。」
隊長から声が聞こえる。バリスタって言ったな。撃つ気か!
「放て。」
隊長の号令と共に4基のバリスタから一斉に巨大な矢がドラゴンゾンビめがけて放たれる。
ドドドド!
全ての矢がドラゴンゾンビに命中し、HPバーは一瞬で真っ黒に。
「全矢命中確認。敵、消滅。次弾装填。すぐに取り掛かれ。オキ君、大丈夫か?」
「サンキュー隊長。あのまま戦ってたら時間かかってたぜ。他の所も終わったみたいだな。」
周囲の状況を確認すると東西両方とも雑魚エネミー1,2匹ほど門前まで走りぬいたようだが、門前に構えていたメンバーによってフルボッコにされたところだった。
「なるほど。中々の威力だ。面白い。」
城壁の上にいる隊長は小さくてよく見えないが多分にやりと笑っているだろう。それにつられて口元が緩む。
「へへへ。隊長、今の見て戦いたくなった?」
「何を言う。元から戦いたいよ。でもここを任された身だ。離れるわけにもいかないだろう? さぁ次くるぞ。」
隊長の号令により次のエネミー群が現れる。それをアークス、プレイヤー達が殲滅にかかる。
東西両方に中ボス系エネミー、東に三股の頭を持った蛇のようなエネミー『ヒュドラ』、西に蠍型エネミー『バジリスククイーン』。共にコマチ、ミケによって倒されその他雑魚もプレイヤー達によって殲滅された。
そしてまた数十秒程準備が出来る時間があって直ぐに隊長から反応ありの連絡。
『ワイバーン』が西と東に2匹ずつ。正門大型ゴーレム種2体『グリーンゴーレム』が現れる。それもアークスとプレイヤー達の息のあった攻撃により速攻で殲滅された。
『門のダメージ無し。いい感じだな。しかしこの流れ。やはり見たことがあるな。第一波で雑魚が出てきて、次に中ボスクラス。第三波で大型系も出てきた。第四波も今も中ボス系が出て来たし。次に大型出てきたら大当たりかな?』
「隊長、こちらオキ。」
「ん? なんだい?」
「次の出てくる場所。ド真ん中にデカい反応だったりするかな。」
「…。」
隊長が黙り込む。そして結晶から声が聞こえた。
「俺が考えていた事と、オキ君の考えは一緒ってことか。」
「やっぱり? 似てるよね。これ。」
「何のことだー?」
「何々? どうしたの?」
「…防衛戦か。」
コマチがボソリと呟く。それと同時にミケとハヤマが息をのむ音が聞こえた。
「久々すぎて忘れてたよ。」
「なるほどなのかー。確かに似てるのだー。」
「反応あり。ボス反応は無いが、正門前線に大量の反応。東西にも反応はあるが数は少ない。殲滅し終わり次第アークスは正門前へフォロー。中央、オキ君のよみ通りだね。ボス反応あり。デカいぞ。」
前線に大量の雑魚がわくのを見る。数は20や30程一気に沸いた。ハヤマんとキリトがまるで競うかのように武器を振り、ヘイトを稼いでいる。
東西はそこまでいない。これなら直ぐにフォローが回るな。問題はこっちだ。
『シャアァァァァ!』
「こいつはまた…。」
「デカいなぁ。」
またドラゴン系のエネミーだが、先ほどのよりもでかい。翡翠色の流れるような鱗を持ち、翼や尻尾には多数の棘が突き出している。
「テンペストドラゴンか。隊長、やる?」
「いや、こちらで排除しよう。東門バリスタ、目標ドラゴン。よーい。撃て。」
東門側から4本の巨大な矢がドラゴン目掛けて飛んでくる。
ドドドド!
『キシャァァァ…。』
一瞬にしてご退場だ。しかしほんとにいい威力だな。あの兵器。結晶となり砕け散った『テンペストドラゴン』を背に前線へと駆ける。
「おらおら! どんどん後ろ来てるぜ!」
「無理いうな! これでも頑張ってヘイト取ってんだよ!」
笑いながらハヤマに文句をいい、前線部隊をすり抜けてきたエネミーのヘイトを取る。だが、それでも多い。
シリカやレティシアも何とか攻撃を当て、ヘイトは取っているが無理に多数のエネミーのヘイトを取れば囲まれて一瞬で死んでしまう。それだけは避けなければならない。
「後ろいきました! お願いします!」
シリカが正門真正面に陣取るメンバーに大声で伝える。メンバー全員が待ってましたと言わんばかりに抜けて行った数体のエネミーを袋叩きにしていた。血気盛んでよろしい事。
おかげさまで特に問題もなく落ち着くことができた。
「さって、問題はこれから先だ。ここで終わるか、それとも…。」
「各位、戦闘準備。まだ来るぞ。前線すべてに反応。東、西。強力な反応あり。コマチ君、ミケ君。頼んだよ。」
「あいあいさー!」
「りょーかい。」
7回目の攻撃。この状態は間違いなく『第三採掘基地防衛戦』に似ている。敵の出方、中身に関しては違いはあれど大型モンスターの出方が似ている。となると次で終わりか?
そんなことを思いながら出てきたエネミーに対処するべく少しだけ前に出た。そして東と西に出たエネミーにアークス勢は目を見開く。
「おいおい、こいつまで出てくるのかよ…。」
「これは決まりだね。」
「めんどくさいのだー…。」
「50層のボスって、やっぱりあれか?」
今迄に見たことが無い程の巨大な腕だけが宙に出てきた。黒く、赤い巨大なコアを付けた腕。アークスなら何度も見て、戦ってきた。
『ダークファルス【巨躯】』の眷属にして本体の形を作り出す『ファルス・アーム』。つまり闇の勢力とは…。
「ほう。ファルス・アームか。アークスは真正面でヘイトを取れ。指が壊れるなら破壊しろ。プレイヤー各位は後ろに回り赤いコアを攻撃。門前部隊。雑魚処理を頼むぞ。」
隊長が指示を出す。前線担当はアームを止めろってか。ならばこちらは雑魚を処理しますかね。
「シリカは西! レティシアは東の雑魚を門前の連中が少しでも楽できるように処理!」
「了解です!」
「承った!」
それぞれが三方向に別れ、向かってくる雑魚の処理を行う。途中、チラリとアーム戦を行っているメンバーの方を見たが特に問題はなさそうだ。シリカ、レティシアも奮闘しHPも殆ど減っていない。
「へへへ、こんなもんや! アームかレッグか知らへんが、ワイらに掛かれば楽勝やで!」
「キバオウ君、油断するんじゃないぞ。こいつらもアークスの皆がいうダーカーというモノか。君たちアークスに感謝するよ。君らがいなければここまですんなりといけるではなかっただろう。」
ディアベルが結晶でアークスに感謝の言葉を投げる。なんだかくすぐったいなぁ。
「いや、当たり前の事をしているまでだ。さて、ほぼ殲滅し終わったな。」
周囲を確認し、エネミーが一体もいない事を確認する。
「この感覚…。くるか。」
レティシアが何かを感じ取っている。この展開読めた。
「皆の者! 闇の勢力の親玉だ! 全力を尽くせ! 皆の力を私は信じているぞ! これが最後だ! 迎え撃て!」
レティシアがそう叫ぶと同時に前線全てにゴーレム系とデーモン系がポップ。東西にゴーレムのボスクラス。正面にゴースト系のボスクラスが現れる。そして予想通りのお出まし。
『さぁ始めるぞ! 猛き闘争を!』
「ファルス・ヒューナル。やっぱりお前か!」
待ってましたと言わんばかりに槍をヒューナルに突く。それと同時にシリカ、レティシアも加わる。
「貴様の行ったこれまでの数々、ここで償ってもらおう!」
「私も…頑張ります!」
ヒューナルは3人の攻撃を真正面からまともに喰らう。
『グゥ…! ククク。ハハハ!』
怯むが、それを喰らって尚笑いながら拳を振ってくる。
「まったく、こんなところまで追ってきやがって!」
左右から飛んでくる拳をステップで回避しながら距離を詰め、3連撃の突きを行う。
「お、いいところにいいもん…が!」
真正面からすり抜けてきたスケルトンの一体がヒューナルの真横をすり抜けようとしてきた。そのスケルトンに槍を突き、肋骨に引っ掛けそのまま大振りに上からヒューナルに叩きつけてやった。
「ほう。この世界でピークアップ・スローを再現するとは。さすがだな。」
横から急に声が聞こえ、ヒューナルに向かって攻撃を繰り出す影がすり抜けて行った。
「隊長…。やっぱ、耐えられなかった?」
「うむ無理だな。やはり俺も前線で戦いたいのだよ。それに、戦いながらでも指示はできるだろう?」
二撃攻撃を加えた後に直ぐに下がり、ニヤリと笑う隊長。
「やっぱこうなるよねー。予想通りっちゃ予想通りだけど。」
むしろもった方か? 隊長の事だから戦いたくて前線に出てくるとにらんでいたけどここまで我慢できていたなら予想以上か。これで戦力も一気に上がる。『蜈蚣丸』を構えてヒューナルに向かいなおす。
『グウ…オオオ!』
「やべ、インパクトだ。」
「シリカ君、レティシア君。離れるぞ。」
4人は四方に散らばる。
『応えよ深遠! 我が力に!』
ドォン!
黒いオーラと共に地面を揺るがす両腕。そして時計回りに広がりながら追ってくる衝撃波を避ける。
「行くよ隊長!」
「ああ。」
避けながら近づき、背中に背負っていた大剣を抜き出すヒューナルに攻撃を当てる。
『遊びの由は幾百も…。』
振り下ろしてくる大剣を刀で押えるアインス。
「いまだ。オキ君。」
「あいよぉ!」
高くジャンプし、落下の勢いをつけてヒューナルの体に槍を刺す。怯んだ隙をついてアインスが剣を攻撃する。
更に後ろからシリカ、レティシアが続いて攻撃。
『グウゥ!』
ヒューナルが持っていた大剣は一瞬で壊れ、膝を付いた。
「いまだ。畳み掛けるぞ。」
「OK。隊長。」
「了解した。」
「いきます!」
4人全方位からの火力SSをヒューナルに喰らわせる。
『グゥゥ…。良き闘争であったぞ…。』
黒い渦の中に逃げていくヒューナル。次会う時は『あの本体』の姿だろうな。間違いなく。
「逃げるな!」
レティシアが追おうとするが肩を掴みそれを止めた。
「深追いは禁物だ。さって、ヒューナルもいなくなって、残りの雑魚もほぼ殲滅終わったな。」
「ああ。だが、まだ来るだろう。全バリスタ部隊に通達。中央に標準。出てきたボスエネミーに一斉射しろ。」
アインスが結晶に向かって指示を出す。これがあの『第三採掘基地防衛戦』を真似て作られたとしたならば最後にデカイのが出てくるはずだ。
「前線部隊。こちらで大型エネミーを補足次第倒す。そちらは前線を守れ。」
「こちらクライン。りょーかい! だが何も出てこないぞ…?」
「まて、クライン! 何か出てくるぞ!」
キリトがそれに気づく。上空に浮かぶ黒い渦。先ほどヒューナルが逃げて行ったものではない。何よりそのデカさが違う。こちらはデカすぎる。
「隊長。」
「なんだい?」
「これは確かにA.I.S乗りたいね。」
「気持ちは分からんでもないかな。」
姿が出てきた『ソレ』を見て二人は身構える。
『ギャオオォォォ!』
上から降ってきた巨体が吠える。それはアークス達がリリーパ星の採掘基地防衛戦で何度も戦ってきた巨大ダーカー種。
名を『ダーク・ビブラス』。巨体と共に体の半分以上はあるかと思われる爪と腕が肩部から2本突き出し、黒い甲殻は相変わらずの硬さを見せている。
「こいつもいるのかよ! ダーク・ビブラス!」
ダーク・ビブラスは『ダークファルス【若人】(アプレンティス)』の眷属。彼女の眷属は皆虫系となっており、眷属の中でも巨体を誇る。彼女の眷属が出てきたという事は? 上の層のボスが気になってしょうがないが、今は目の前のこいつを倒すことが先だな。
「バリスタ! 撃て! すべての矢をこいつにぶつけろ!」
アインスの合図と共に城壁から大量の矢が飛んでくる。
『オオオォォォ…。』
第一射で12本の矢が。続いて残していた中央のバリスタ部隊が残った4本を更にダーク・ビブラスへ向けて放つ。
ズウゥン
地響きとともにその巨体は出現と同時に巨大な矢を受け、消滅していった。
「残りは出てきた雑魚だけだな。全部隊! 残りのエネミーを片づけろ。」
走って正面の前線へ走っていくアインス。
「こりゃさっさとしないと獲物を取られそうだ。」
こちらも西へ走り出す。シリカとレティシアには東へ向かうように指示をした。
出てきた雑魚はかなりの量で今迄出てきたエネミーのオンパレードだった。
だが所詮は雑魚。アークスだけでなく、今迄最前線を攻略してきたプレイヤー達にとっては何の障害でもなかった。
「闇の勢力が、撤退していきます!」
城壁の上からガルグの兵が叫ぶ。それと同時に空中に『防衛成功』の文字が浮かび上がる。
「ふぅ…お疲れ様。」
その場に槍を突き刺し、アイテム欄からタバコを一本取り出す。仕事後の一本はやはり格別だ。
「やったでー! ワイらの勝ちや!」
「うっし! 乗り切った!」
キバオウやクラインもガッツポーズで共に戦ったメンバーと称えあう。
「お疲れ様です。オキさん。」
シリカもトコトコと近寄ってきた。さすがに少し息が上がっている。
「お疲れ様だ。お主達にはなんと感謝を述べればいいか…。守ってくれて、共に戦ってくれてありがとう。」
頭を下げるレティシア。それを直ぐに上げさせる。
「レティシア。その言葉はまだ早いぜ。あのバカ、親玉を倒してからいうモノだ。」
目を見開き笑顔になる。
「ああ! そうだな!」
皆様ごきげんよう。
今回かなりの長さとなりました。防衛戦いかがだったでしょうか。
出てくるエネミーをどうするかに一番悩みました。対処方法は元からバリスタで溶かす事が一番楽と考えていたので(
もしアークスがおらず、対処方法も分からないプレイヤー達だけだったらかなりの苦戦があったでしょう。
まぁ高難易度すぎるような気もしますが、アークスがいるからいいよね!
さて、出しちゃいました。ダーク・ビブラス。こいつは説明にもあったとおりアプレンティスの眷属。
という事は? そして50層のエリアボス、つまり親玉とは?
次回『闇の巨体』。あ、もう題名でバレバレですな。