SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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49層のエリアボスをサンドバックにし、とうとうアインクラッドの半分、50層への第一歩を踏み出したオキ。そこは闇の勢力により荒れ果てたフィールドだった。


第20話 「要塞ガルグ」

50層に到着したオキ達は50層のフィールドを見渡した。

 

「ここまで…ひどくなっているとは…。」

 

膝を落とすレティシア。49層の緑の木々がある綺麗なフィールドと違い、ごつごつした岩や砂だけの荒野が広がっていた。

 

エネミーも蠍や虫等を始め、デーモン系、ゴースト系もちらほら見える。

 

「25年前の大戦争の話は我が父から聞いていた。だが、聖域は綺麗な水と草木がある草原だったと聞く。それがここまで…。」

 

目を強く瞑り悔しがる。気持ちは分からなくもない。

 

「ほお。まるでリリーパだな。」

 

階段を昇ってきた隊長達もその光景を見る。たしかに惑星リリーパの砂漠地帯に近い雰囲気だ。

 

「まさかと思うけどリリーパ族いないよね?」

 

「いてたまるか。」

 

ボケてタバコに火をつけるコマチに対し、ツッコミを入れるハヤマ。

 

「リーじゃないのだー! ふっとばすのかー!」

 

「おめーら静かにしてろ! レティシア。悔やむのはまだ早いぞ。俺たちが闇の勢力とかいうふざけたアホをぶったおしてしまえば、また綺麗な自然を作れるさ。」

 

「…そうだな。そなたの言う通りだ。」

 

レティシアは立ち上がり、前へと進んだ。それに続く攻略メンバーたち。

 

「しっかし荒れ果てた街だな。」

 

「ひでえ…。」

 

50層の最初の拠点はNPCが今までにない程少ない。街として機能しているのかも怪しい。

 

一応転送門はあったのでアクティベートはしておいた。これで行き来しやすくなるだろう。

 

「闇の勢力により衰退したのだろう。だが、聖域への扉を守る魔物を倒してくれた。光の門も復活した為、すぐにでも王国に伝達がいきここの復興に全力を注ぐおつもりだ。我々はこの先にある我が王国の元聖地へと向かい、闇の勢力の親玉を倒す。」

 

光の門、転送門の事だな。ボスはこの先か。ここから先は皆同時に移動だ。

 

その他のチームメンバーにはクリアとなった49層のその他の場所を探索してもらい、王国内で起きていると思われる同階層のクエストでレベル上げを行ってもらっている。

 

暇な時こそ、レベル上げやレア堀等をやって戦力の増強を行っておくべきだ。まぁ休む時は休ませるけど。

 

「そんじゃ早速、雑魚処理といきますか!」

 

装備やアイテム補充を最低限行い、最初の街『ベーン』を出てフィールドへと向かう。道中の雑魚はできるだけ殲滅してこちらも少しでもレベルを上げなければならない。

まぁうちのメンバーなら言わなくても殲滅しちゃうけど。

「今日はここで休もう。」

フィールドは49層と同等の広さを持っているのか、1日では迷宮区の塔がかすんで見える程度しか進まない。幸い、道中ゆっくり歩いても夕方前にはオアシスにある小さな村には到着できる距離になっているようで野宿はしなくてよさそうだ。

 

村の中にある一番大きな宿を借りて、ロビーで夕食とした。

 

「ここまで大人数で移動するのも久しぶりだな。ミケっちー。そっちの双子ちゃんは疲れ大丈夫?」

 

一番年齢が低く、体の大きさも一番小さい双子は俺たちよりも歩幅が短い。よって歩く歩数は一番多くなる。疲れが心配だ。

 

「大丈夫なのです。お気遣い、ありがとうなのです。」

 

「そうよ。私達なら心配はいらないわ! でもありがとう!」

 

にっこり笑ってミケをサンドイッチにしてソファーに座っている。

 

「ミケについてこれる体力があるから大丈夫なのだー。」

 

「こちらのメンバーも特に心配はないようだ。オキ君の方は大丈夫かな?」

 

隊長はすでに自分のチームメンバーの確認を終わらせていた。さすがや。

 

「私も大丈夫です。」

 

ほほ笑むシリカ。顔色も特に問題は無い。うん、大丈夫かな。コマチ、ハヤマもこちらをみて頷く。皆大丈夫そうだ。

 

「そういえばレティシアさんは?」

 

「ああ、レティシアなら外で王国軍の兵士としゃべってるよ。なんでも伝達の人が来たとか。」

 

宿に着いた瞬間にレティシアは一人の王国の紋章を付けた兵に声をかけられ外で話をしている。と思ったら戻ってきた。

 

「レティシア、どうした? 難しい顔して。」

 

「うむ。いい知らせと悪い知らせがある。」

 

これは嫌な予感しかしない。一応両方聞くとして。

 

「じゃあいい知らせから。」

 

「了解した。今ベーンから伝達兵が早馬で駆けてきてくれて王が復興の為に多数の兵士から商人等をベーンまで早急に送ってくれるそうだ。これであそこも復興できるだろう。」

 

ふむ。そうなれば店等も使用しやすくなるだろうな。

 

「いい知らせだな。できるだけ早く住人もいい生活に戻れるよう期待してるしできるだけ我々もそれができるように頑張る。」

 

「伝えておこう。そして悪い知らせだ。こちらはここから少し進んだ先の要塞『ガルグ』からの伝達だった。我々がここに到着したことをしってこちらも早馬で来たらしい。」

 

「つまり、まだそこは生きているという事か。」

 

隊長の言う通りだ。兵がいるという事はまだそこの拠点は生きている。だが悪い知らせか?

「ここまではうれしい話だ。問題はここから先にある。どうやらその拠点の方角に大量の闇の勢力の軍が集結しつつあるらしい。」

 

「なんだと!?」

 

「まじっすか…。」

 

グレイとソウジを始め周囲のメンバーがざわつく。

 

「偵察した様子では2,3日で攻めてくる可能性があるという。すまない、皆、私に守る力を貸してほしい。」

 

なるほどそういう事か。

 

「わかった。力を貸そう。レティシア。その拠点、明日向かうぞ。」

 

「いいのか!? ありがたい。」

 

要塞の防衛か。ん? どこかで聞いたことがあるような。

「いやーすまないね。急な依頼しちゃって。」

 

「いいって事だ。それよりもエリアボスを最短で倒したんだって? 見てみたかったな。」

 

ディアベル達、以下ギルド連合の追加メンバーを早急に要塞『ガルグ』まで呼び寄せた。ディアベル達はそもそもエリアボス攻略に備えていたらしいが、俺たちアークス(一部)メンバーがフルボッコにした事を知って待機していてくれたそうだ。

 

おかげでたった1日で準備が完了した。

 

ディアベル達が来るまでの間に、アークスメンバーは要塞の施設、状態を確認した。

 

かつては闇の勢力をここで押しとどめる為に作られた巨大な城壁のある要塞。今迄はちまちまとした小競り合いが続いていたらしく、今回のように大規模な軍勢が攻めてくることは25年前にあったきりだとか。

 

まっすぐに伸びた城壁には門が3つあり東門、西門、そして中央の正門がある。城壁の上にはバリスタが4つずつ設置されており、現在でも使用が可能。だが資源の関係で撃てる矢が限られているそうだ。確認すると各バリスタで2回ずつ。つまり12発が限界だそうだ。

 

1発の威力がどれくらいか調べたいところだが数も無い。ぶっつけ本番と言うところか。

 

一応、重い矢を持って移動し、素早く取り付けるという練習だけはやっておいた方がいいだろうな。まさか自分一人で持てるか持てないかの重さだとは思っていなかった。

 

レティシアからは闇の勢力とやらの情報を教えてもらった。どうやら真正面から突っ込んできそうな感じらしい。

 

それら情報をすべてまとめ防衛戦に向けての作戦会議を行った。

 

「と言うわけで、PT分けは以上。続いて各PTの配置を発表する。異論があったら言ってくれ。正門、前線ハヤマ&シャルとキリト&アスナペア。」

 

「あいよ。」

 

「了解。」

 

「西門前線、ミケとゆかいな仲間たちとディアベルPT。東門前線、コマッチー&フィアっちとクライン&サラ。」

 

「りょうかいなのだー。」

 

「任された。」

 

「あーよ。」

 

「任しとけって」

 

今回の防衛戦はとにかく門を守る事にある。そこを突破されればクエストは失敗だ。レティシア曰くここの司令官は失敗した場合はベーンまで撤退する事も考えているという。

 

門を守ればいいのだから前線でアークスメンバーとそれに匹敵するプレイヤー達が全力で殲滅する。だがそれでも抜ける場合があるので後ろの門手前の選抜部隊が後処理という作戦だ。

 

「続いて門を守るメンバー。正門、オラクル騎士団。西門、怪物兵団。東門、アインクラッド解放軍。そして今回最重要と思っているバリスタ担当はドラゴンナイツ・ブリゲードからリンド部隊。よろしく頼むね。」

 

「任せておけ。あんなクソ重い矢を容易に持って移動できるプレイヤーはうちの脳筋どもだけだ。すでに装填までの流れと練習はさせている。今までは盾として守ってきたが、今回は矛として戦おう。」

 

にやりと笑いながら親指を立てるリンド。すっげぇ頼もしい。

 

最後にもう一つ。前線は一番混戦するだろう。そうすると後ろに抜けるエネミーが増え、処理が大変になる事が予想される。そこで中間地点に1つの遊撃部隊を作り前線指揮と支援する事にした。

 

「前線遊撃部隊は俺とシリカとレティシア、そして総指揮官兼遊撃リーダー、隊長だ。異論は?」

 

周りがシーンとする。これでほぼ布陣が出来た。あとはなる様になれだ。

 

「おぬしらには本当に感謝するほかない。そうだ、ここの司令官からこれをと渡された。」

レティシアは小さな小袋を渡してきた。中には結晶が入っていた。アイテム表記は『通信結晶』となっている。

 

「これを所持しておくと任意の者と交信ができる。ただし気を付けてほしいのは交信できる距離は短い。後でどこまでの距離かを確認しておくといい。」

 

「こいつは便利なものを。ありがたい。よし、各PTのリーダーに渡しておこう。」

 

個数は足りそうだ。準備はできた。いつでもこい!

 

対策会議後の次の日の朝。兵士たちが慌しく動き始めていた。どうやら始まるらしい。

それに伴い全員の体調が万全であることを確認した。

 

城門、正門前に集合した全員は上を見上げた。総指揮官である隊長は城門上に陣取ってもらっている。

 

「全員問題はないな? 体調はOK? よし。いいか諸君。今までにない大規模な戦闘が予想される。無理せず、HPが半分になりそうだったら直ぐに後ろに下がり回復しろ。その他メンバーはそれをフォローしろ。いいな?」

 

隊長、アインスからの最後の注意事項だ。全員がそれに答える。

 

「「「おおー!」」」

 

レティシアも要塞の兵士たちに活を入れていた。

 

「いいかお前たち! 恐れるものなどない! 我々には光の剣士達がついている! だが、ここは我らの地。光の剣士達に頼り我らが力を出さずしてどうするというのだ! 大事なものを守れ! だが無理だけはするな! お前たち一人ひとりに帰るべき場所があるのだから!」

 

「「「おおおお!」」」

 

要塞内から兵士たちの声が響く。今回、兵士たちには後衛の支援をレティシアから頼んでもらった。数がいるとはいえ、もし万が一にも突破された場合誰が要塞内で食い止めるのか。そこで考えたのが外をアークス、プレイヤー達が、要塞内に入り込まれた場合、兵士たちが食い止める作戦を立てたのだ。これならいけるだろう。万が一突破されても、すぐに後退しつつ攻撃もできる。

 

「いいかおめーら。準備はいいな? 攻略組ギルド連合『アーク’s』出陣!」

 

俺の掛け声とともにそれぞれが持ち場に走る。フィールドは見渡す限りの平坦な地が続き、ある一定以上進むと進めなくなっている。ディアベル達が来る前にこの戦場のフィールドを下見していた時にシリカが先に進めない事に気づいた。つまり防衛が成功しなければ先に進む事は出来ないという事だ。

 

更に言えば、そこから敵が出てくる最前線と言うわけだ。つまりその場所に部隊を配置すればエネミーが出た瞬間に倒すことができる。何故そのような予想をしたのか。それはどう考えてもここが『採掘基地防衛戦』の状況に酷似しすぎているからだ。

 

惑星リリーパの砂漠地帯。そこに先住民が建て利用していたと思われる採掘基地。それがあちこちに存在した。

 

あるとき、そこに『ダークファルス【若人】(アプレンティス)』の本体が封印されているという話が持ち上がった。

それと同時に【若人】による採掘基地へのダーカー大襲撃が始まった。

特に襲撃が多かったのは第1採掘基地から第3採掘基地までの3箇所。本体が奪われれば【若人】は本当の力を発揮しオラクル船団を狙いに来るだろう。それは阻止しなければならない。

アークス達は採掘基地を防衛する為に様々な兵器を準備し何度も襲ってくるダーカー達を追っ払ってきた。

『採掘基地防衛戦』。今でも襲撃を行っているだろう。皆は大丈夫だろうか…。

 

「こちらハヤマ。ほんと、採掘基地防衛戦だな。」

 

通信結晶からハヤマの声が聞こえる。結晶の範囲はこのフィールド内なら端から端まで通信できた事が確認されている。

 

「こちらミケなのだ。つまりアイス乗ればいいのかー?」

 

ミケ、そんなものはない。

 

「コマチ、アイス乗ります。」

 

「「乗れたら苦労しねーよ!」」

 

俺とハヤマが同時にツッコミを入れる。

 

「あー、こちらクライン。アイスってなんだ? 食べるアイスじゃないよな?」

 

「こちらディアベル。私も興味がある。が、今はそれどころではなさそうだな。」

 

『A.I.S』、通称アイス。『Arks Interception Silhouette』の略で、簡単に言えばフォトンで操れる巨大なロボット。基本攻撃としてマシンガンで攻撃しフォトンを回収。フォトンセイバーやフォトングレネードを搭載し、ブースターによるブースト移動や対空も可能。

極めつけは一定時間内に一回撃てるフォトンブラスター。簡単に言えばレーザー砲。撃てば並みのダーカーは一撃で蒸発する。

 

A.I.Sはアークスの切り札。安易に使う事は出来ず、一度使用してしまえば暫く使えなくなる。

 

今の所使用されたのは一番やばかった第3採掘基地の防衛戦のときのみ。それだけあそこはやばかった。

 

皆には後で説明してやるか。

 

「こちらアインス。そろそろ来るぞ。各前線担当部隊へ伝達。まずは真正面からだ。ハヤマ君、頼んだよ。」

 

「任せとけ!」

 

隊長はここの司令官から渡された地図を持っている。どうやら出現しそうな場所を示してくれるらしい。簡単だな。そう思った。だがキリトは言う。

 

『それを示してるってことは簡単なように見えるだろうが、それをしないとクリアできないほど難易度がある可能性が高い。気を引き締めた方がいいだろう。』

 

確かに、ヒントがあればあるほど簡単だろうが、それと同等に難易度も上がる。SAOではその傾向があった。

 

「後ろは任せたよ。オキさん。」

 

「任せろ。あの時の防衛戦と同じで負けは死だ。各員、気ぃ引き締めていくぞ!」

 

「「「おおおー!」」」

 

正門真正面。ハヤマの前に大小問わず多数のゴブリンがポップした。さぁて、懐かしの防衛戦といきますかね!




皆様、ごきげんよう。
PSO2での緊急クエスト『採掘基地防衛戦』をモデルに物語に入れてみようとこの物語の流れを考えている時から思ってようやく書き始めることができました。
今回の話で防衛戦を終わらせるはずが準備で終わってしまい次の話になってしまいました。
次回、『ガルグ要塞防衛戦』。
さて、なにがでることやら。

PSO2では新しいチャレンジクエストが追加されました。なかなか面白い内容で難易度もさがりやり方をしっかりわかっていれば楽にクリアできますね。
アークスの皆様はどうですか?
では次回にまたお会いしましょう。

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