SAO ~ソードアークス・オンライン~   作:沖田侑士

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49層に到達した攻略組。そこから始まった2層に渡る長期キャンペーンクエスト。
目の前にひろがるフィールドは今までに無い広さ。
オキ達、アークスのSAO攻略はようやく半分を迎える



第19話 「レティシア」

「1番のりー!」

 

「あー! 負けちゃいましたー…。」

 

48層のエリアボス討伐後、49層への階段を昇っている際にシリカと追いかけっこ。そのまま競争となった。

 

シリカを背に49層へと1番にたどり着いた俺の目の前に一人の女騎士が突如現れる。

 

「…そなたらは。」

 

NPCだろう。自分達が一番乗りだ。となると1番乗りでのクエストか? 以前にもあったな。

 

「地より現れし剣士…そなたらが光の剣士か!」

 

「…はい?」

 

いきなりの単語に目が点になる俺と続々昇ってくる攻略組メンバー。

 

「よくぞ参られた光の剣士たちよ。我が名はシャルス12世。この地を治める者だ。上から失礼するよ。」

 

ディアベル達にアクティベートを頼み、俺とシリカはNPCである女騎士『レティシア』に案内され城下町から見える城『シャルス城』で王を名乗る人物と謁見していた。

 

大きな椅子に座る若き王。初見で感じたのは優しき顔と共に、謁見の間に響く熱き声だった。

 

何やら長い話を老婆のNPCから聞かされたが要約すると

 

『25年前まではこのシャルス国は上層にあった。だが、25年前。突如としてやってきた闇の勢力に国は分断。前国王は戦ったがその時の大戦で戦死した。大戦後、下層であるこの場所に国を再建し何とかここまで立ち直らせたものの闇の力は増すばかり。だが古より伝わる伝承の通りに光の剣士が現れた。共に戦ってほしい。』

 

つまりこの人たちと共に上を目指せばいいだけのお話である。もちろん承諾。

 

俺は『光の剣士』として、シリカを含む攻略組メンバーは『光の剣士の仲間たち』として認識されているようだ。承諾直後に自動的にレティシアがPTに入ってきた。表示上はNPCとしてだがHPバーがあるという事は一緒に戦うのだろうか。

 

「よろしく頼むぞ。えーっと…。」

 

「オキと呼んでくれ。こっちはシリカ。んで、お供のピナ。」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

「きゅる!」

 

「うむ。こちらこそだ。そなたはドラゴン使いか? 頼もしいな。」

 

「あ、いえ、そんな…。」

 

あたふたしているシリカをニヤニヤしてみていたら背中を叩かれた。

 

「よろしく頼むぞ。小さなドラゴン。」

 

「きゅる!」

 

まるで任せろと言ってるようにレティシアの周囲をグルグルと飛び回るピナ。それをみて笑うレティシア。うん。いい感じだ。

 

城下町をでて目の前に広がり森林エリアを進む。

 

「ここから2日程進んだ先に渓谷がある。その谷の下にある洞窟の先に上層、聖域への扉がある。そこを目指すぞ。」

 

迷宮区への入り口はそこか。他のメンバーにも伝えておこう。

 

こちらが謁見している最中にすでに先発隊としてコマチを初めとする数名に道中の殲滅を依頼しておいた。

 

そうすればこちらの道中も楽になる上、道に迷うことなく進める。迷宮区の入口さえわかってしまえば後はなんとかなる。

 

夜、森林エリアの半分を過ぎたところだろうか。森の中にある小さな村で一晩過ごすことにした。

 

レティシア曰くかなり順調に進んでいるという。そりゃそうだ。雑魚のポップはどうにもならないにしろ、フィールドボスは先発隊が突っ走り倒している。メールではだれが一番大物を仕留めれるか競争をしているようだ。相変わらずだなぁもう。

 

地図のデータもそろってきた。先発隊はすでに渓谷エリアまで到達しているようだ。どうもこの49層。今までの中でもかなり広いらしい。そもそも端から端まで移動するのに5日もかかるという時点で察していたが…。

 

「オキさん? まだ起きていたのですか?」

 

「ん、シリカか。」

 

夜もおそいというのに一人ボソボソと独り言をつぶやきながら宿のロビーでタバコを吸っていたところにシリカがやってきた。

 

「気が付いたらお隣にいなかったので…考え事ですか?」

 

ポスッと隣に座るシリカ。俺は彼女の頭を撫でてやった。

 

「うん。今後の動きと現状をね。」

 

「そうですか。あまり遅くまで起きていると明日にきますよ?」

 

気持ちよさそうに目を瞑って甘えてくる。

 

「だーいじょうぶだ。アークスならこれくらいいつもやってるさ。夜中でも朝早くでもたたき起こされるからな。」

 

「そういえば私と初めて出会った時もコマチさんにしてましたね。」

 

緊急の放送が鳴ると条件反射で起きてしまう。だから夜遅くまで起きている場合も多い。

もちろん24時間張り付きという事も出来ない為交代で赴く。

 

「…オキさん。」

 

「んー?」

 

「アークスの時のオキさんも毎日、このように戦っては休んでと繰り返していたんですよね?」

 

「そうだよー? 毎日が戦場さ。時にはダーカーが各星々で大量発生したりしてそん時は総出で一日中ダーカーと戦ってたなぁ。落ち着いた頃にはもうみーんなひどい目しててさ。大変だったなぁ。」

 

この世界では考えられない戦闘の日常。昔話をシリカに話していたら二人仲良くロビーで寝ていたところを朝になってレティシアにたたき起こされた。起きた時に二人して酷い寝癖が付いててみんなで笑った。

「もう少しで渓谷だな。少し休もう。ここから先は休む場所が無いぞ。」

 

丁度セーフティエリアにもなっている小川の岸沿いを歩いているとレティシアが休憩を提案してきた。確かに地図ではここから少し歩けば渓谷エリアで谷に向かって降りていく急な坂道となっている。休む場所もないだろう。

 

「ふう。水が冷たくて気持ちいいな。」

 

ぱしゃりと小川の水を顔にかけると冷たくて気持ちよかった。そういえば昨日の宿、風呂が無くて入ってないな。

 

基本的に1日中動いた後はギルド拠点の温泉でその日の汚れと疲れを取るのが日課になっていたので少し違和感がある。

 

電子ネットワークの世界だというのにそこまで再現するというのは本当にすごい技術だと改めて実感した。

 

「んー…。この先に泉があるな。昨日風呂入ってないから違和感がやばい。ちょっと体拭いてくる。」

 

「え? あ、はい! じゃあここで待ってますね。」

 

シリカとレティシアをその場に残し、脇道に入るとすぐ目の前に泉があった。どうやら小川からの水が来ているのだろう。綺麗な水だ。一気に入り込めば冷たくて気持ちいだろうが、それをやると後で乾かすのが大変になりそうだ。

 

念のため後ろを見ると木々に隠れて小川の道からは見えない。そもそも脇道自体も目立たない道の為に気づきにくい。

 

「よいしょっと。」

 

コートを装備欄から外し、肌着とズボンのみになる。道具一覧からタオルを取り出し、泉の水につけて軽く絞った。

 

「冷たくて気持ち良いな。」

 

タオルを体に擦り付けると水が気持ちい感じに浸る。腕と脚を拭き、肌着を装備から解除しようとした。

 

「…まぁ念のため。」

 

レティシアはNPCだから流石にプレイヤーを覗くという行為はしないと思うが、シリカもいる。

 

「流石に無いよなぁ。」

 

後ろを見るが人の気配はない。索敵で少し離れたところに2人と1匹の反応。

 

「ま、覗きなんかシリカがするはずもないか。」

 

上半身裸になりズボンも取って、下着一枚になりタオルを体にこする。

 

「あー…。気持ちいいわー。」

 

水の冷たさに体を震わせる。やはり一日一回は風呂に入らないとダメだな。

 

体全体を拭いたのちに髪にもタオルで水を浸す。さっぱりした。

 

装備全てを装着し、二人の所に戻った。

 

「お待たせ。問題なかった?」

 

「お帰りなさいです。特にありませんでした。」

 

「シリカも少し水浴びてくるか? ここ一本道でここからしか入れないみたいだから俺が見張ってれば誰も近づけないよ。」

 

そもそもここから後ろの攻略組は昨晩過ごした村に待機しているし、先にはすでに迷宮区の洞窟を見つけたとか言っていたコマチ達が待機している。あいつらはえーよ。

 

「ふむ。私もいいかな? そうすれば何かあった時でも私が守れる。騎士としての務めだ。」

 

なんかかっこいい。ま、索敵には何も引っかからなかったし、ここセーフティエリアだからエネミーもいないしな。大丈夫だとは思うが。

 

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…。覗かないですよね?」

 

「覗かねーよ!」

 

脇道に入ろうとしたシリカが後ろを一度見てボソリと言ってきた。目がマジだ。あれ覗いたら殺されるだろうな。しないけど。

 

2人と1匹は脇道に入り泉の方へと向かった。俺は脇道の入口に座り込み他のアークス達に状況をメールを書き始めた。

 

 

そして半分くらい書いたところだ。

 

「きゃあ!」

 

「シリカの声!?」

 

今の叫び声は確かにシリカの声だ。馬鹿な。ここにエネミーはもちろんプレイヤーだって俺しかいねーんだぞ?

 

「大丈夫か!?」

 

脇道に走って入り、槍を構えた。そこには

 

「あ…。」

 

「む…?」

 

水の中に入り込んだシリカと全裸になっているレティシアの背中が目の前に広がってまぶしかった。

 

周囲を確認したが何もいない。

 

「え、えっと…。」

 

「ふむ…。」

 

静かに水の中に入り体を隠すレティシア。シリカは初めから水の中に入っていた為に肩から下は見えていない。

 

レティシアも背中は見えてしまったが完全に後ろを向いていた為に前は見えてない。

 

「あ、す…すまん! 悲鳴が聞こえたので…。見えてないから! みてないからー!」

 

その場で土下座して目を瞑って大急ぎで脇道を戻った。そのあと全力で俺の名前を叫ぶシリカの声が背中に刺さった。

 

どうやら水に入ろうとして戸惑ってるところにレティシアが背中を押して泉の中にダイブさせてしまい、驚いて声を上げてしまったらしい。

 

双方に悪気があったわけではないのでシリカも直ぐに許してくれたが、渓谷を降りる途中は居心地が悪かった。

 

道が狭く、険しい下り坂なのでシリカと何度かぶつかりながら下っていた。ぶつかった時は一言

 

「すまん…。」

 

「いえ…。」

 

のみの返答。ちなみに双方顔真っ赤である。戦闘時も最低限の声掛けしかできなかった。ちなみにレティシアはその状況を楽しむかのように終始、ニヤついていたように見えた。おめーのせいだぞ。まぁ綺麗な背中ごちそーさまだったが…。

 

「ようやく洞窟にたどり着いたな。ここは中の構造が迷路のようになっているが私が抜け道を知っている。ついてこい。」

 

洞窟に入ると中は薄暗く、エネミーも今迄虫系や動物系だったのが急にリザードマン系に変わった。

 

「むぅ…。こやつら闇の勢力の者達だな…。ここまで降りてきていたとは。やるぞ! 二人とも!」

 

なんだかむしゃくしゃしていたのでリザードマン達に対して全力でたたき切ってやった。

しかし女性とはいえ流石騎士と言うべきか。軽々と片手剣と盾を振り回し敵を一掃するその姿は、先ほど泉で見た華奢な体からは到底思いつかない。こりゃまけてられねーな。

 

「なかなかやるではないか! だが負けてられないな!」

 

「なんの。こちらと長年戦い続けてるもんでね。おりゃ!」

 

「う、うう! 私だってぇ!」

 

シリカもノッてきた。彼女も相当腕を上げたものだ。それに黙っていても俺の攻撃の隙をぬう様にフォローしてくる。二人して目で追い、頷き合った。

 

ある程度奥まで進んだ先に開けた場所にでた。目の前には何度も見た迷宮区の入口が広がっている。

 

「ようやくここまで来れたな。二人ともお疲れ様だ。なかなかの腕だな。そなたらの二人の動き。感服したぞ。」

 

「いやいや。シリカが腕を上げた。それだけだ。俺はなにも変わっちゃいない。レティシアもさすがの騎士だ。」

 

「わ、わたしは…強くなったのかなぁ。でもオキさんの言う通りレティシアさんもすごくお強いですよ。」

 

「ははは。ありがたい言葉だ。さて、これを昇るとしよう。中にも闇の勢力がうようよといるだろうからな。」

 

そういって中に入ろうとしたときだ。コマチからメールが飛んで来た。

 

「あ、まって。」

 

「ん? どうした。」

 

メールの文章を目でおう。

 

「あんの馬鹿野郎。待ってろって言ったのに。」

 

「どうしたんです?」

 

シリカが心配そうに顔を覗いてくる。先ほどまでの変な空気も戦いで吹っ飛んで行ったようだ。ありがたい。あの空気はもう勘弁だ。注意しよう…。

 

「俺の仲間からの情報が飛んで来た。実は先方隊として派遣していてな。もうこの先の敵は殲滅したそうだ。」

 

「なんだと!? この先の闇の勢力全部を!?」

 

レティシアが驚いている最中、噂の御一行が迷宮区から出てきた。

 

「うっす。エリアボス見つけたぜ。」

 

「はえーよ! コマッチー! たーいーちょー…?」 

 

隊長を睨み付ける。

 

「いや、すまない。オキ君を待っている間あまりにも暇だったものでつい。」

 

「つい、じゃねーよ! はやまん!」

 

「いやー、隊長とどっちが大物を狩るかで勝負しててここまで引き分けでー…。仕方ないからちょっとだけ先の奴を偵察に行ったついでに、とか思ってたら気づいたらエリアボスまで行っちゃった。テヘペロ。」

 

ため息しか出ない。あーあ。レティシア大爆笑してるよ。隣にいる目が点になっているシリカを見る。そして二人して一緒に笑った。

 

その後、先発隊であった隊長、コマチ、ハヤマ、ヒョウカ、シャル、フィーアの6名と迷宮区を進み、途中で中ボスクラスが「いた」話を聞いて、早々にエリアボスの階層に到着した。

 

ポップが少なすぎる。迷宮区はあまりに殲滅が早いと再ポップが遅くなる場合が多い傾向があった。つまりここもそうだ。

 

「あんたら、やりすぎぃ!」

 

「はっはっは。」

 

隊長、わらってごまかしてもだめだぞ。

 

「で? ここのボスは?」

 

「ここにいるはスケルトンジェネラルだ。盾と片手剣を持ったスケルトン達の親玉。何度戦った事か…。」

 

レティシアが扉を前に語りだす。ここで情報がもらえるのか。こりゃ楽だ。

 

戦った時の話を聞き、情報をまとめた。

 

「つまり、特殊攻撃無しのただのでかいスケルトンってことか。」

 

「今回は楽そうだな。」

 

笑いながらタバコに火をつけた。レティシアが更に続けた。

 

「しいて言うなら盾が鬱陶しいな。盾は攻撃を弾く。そこにカウンターを決められたら目も当てられないぞ。」

 

「そのときは弾かれた奴を蹴っ飛ばしてでも動かせばいいさ。」

 

「なるほど。」

 

レティシア、納得するのかい。ともかくこのメンバーだけでは少し足りない。

 

「しかしあいつを倒すとなるとこの人数で足りるのか?」

 

「安心しろ。もう呼んだ。すぐそこまで来ているはずだ。」

 

迷宮区到着した時点で攻略組のどのような状況でも対応できるメンバーを呼んでおいた。

 

「いたのだー! おーい!」

 

「たいちょー! お待たせしました!」

 

「オキ、お待たせ。」

 

ミケ率いる愉快な双子とソウジ率いる怪物兵団の精鋭、ソーマ、グレイの3名、そしてキリト、アスナペアだ。

 

「これだけいれば特に問題無かろう? ってかいくならさっさと行こう。隊長とハヤマンがうずうずしている。おめーらおちつけ!」

 

「無理だ。火が付いちまった。」

 

「うん。ぶった切りたいねぇ。」

 

レティシアはそれを聞いてまたもや大爆笑。その他全員呆れ顔でエリアボスの扉を開く。

 

こうなった二人を誰も止めることはできない。念のためで呼んでおいたミケ達だったがいらなかったか。

 

結果、エリアボス攻略に掛った時間は多分今迄で最速だと思う。完全に戦闘狂の二人の料理イベントだった。

 

交互に攻撃を仕掛け、盾に弾かれたら体当たりで軸をずらして回避。その後攻守交代するというやり方で【スケルトン・ザ・ジェネラル】がサンドバックだった。

 

合掌。




50層に続きます。
ってわけで皆様ごきげんよう
相変わらずのアークス無双。今回の49と50層はオリジナルで組んでみました。
ストーリー上だしたい敵もいますし。
では皆様、50層でお会いしましょう。

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